説明

コイル、モータ、及びコア用絶縁材

【課題】表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能なコイルを得る。
【解決手段】コイル4は、ティース部11を有するコア10と、コア10を被覆するインシュレータ12と、インシュレータ12を介してティース部11の外周上に整列して巻回され、導体20、導体20を被覆する絶縁層21、及び絶縁層21を被覆する半導電層22を有する巻線13と、を備え、ティース部11を被覆している部分のインシュレータ12の表面には、巻線13を配置するための、巻線13の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部31〜36が形成されており、複数の凹部31〜36には、第1凹部33と、第1凹部33に隣接し、第1凹部33との中心間隔が巻線13の直径未満である第2凹部34と、が含まれ、第1凹部33に配置された巻線13と第2凹部34に配置された巻線13とが互いに接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル、モータ、及びコア用絶縁材に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、導体と、導体を被覆する絶縁層と、絶縁層を被覆する半導電層とを有する構造の巻線を用いたコイルが開示されている。このように表面に半導電層を有する巻線を用いることにより、半導電層を有しない通常の巻線を用いたコイルと比較して巻線間の部分放電が抑制されるため、高電圧機器用途に適したコイルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3077982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12は、表面に半導電層を有する巻線に関して、隣接する巻線同士の隙間寸法(巻線間隔)と、当該巻線間の電界強度との関係を解析した結果を示すグラフである。図12から明らかなように、巻線間隔が0.002mm付近の領域において、電界強度が他の領域よりも極端に大きくなっていることが分かる。従って、表面に半導電層を有する巻線を用いたコイルにおいて、隣接する巻線同士の間に0.002mm程度の隙間が生じると、その箇所の電界強度が高くなって巻線間の部分放電が発生しやすくなる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みて成されたものであり、表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能な、コイル、モータ、及びコイル用絶縁材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係るコイルは、ティース部を有するコアと、前記コアを被覆する絶縁材と、前記絶縁材を介して前記ティース部の外周上に整列して巻回され、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有する巻線と、を備え、前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記巻線を配置するための、前記巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、前記複数の凹部には、第1凹部と、前記第1凹部に隣接し、前記第1凹部との中心間隔が前記巻線の直径未満である第2凹部と、が含まれ、前記第1凹部に配置された前記巻線と前記第2凹部に配置された前記巻線とが互いに接触することを特徴とするものである。
【0007】
第1の態様に係るコイルによれば、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、巻線を配置するための、巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、複数の凹部には、第1凹部と、第1凹部に隣接し、第1凹部との中心間隔が巻線の直径未満である第2凹部と、が含まれる。そして、第1凹部に配置された巻線と第2凹部に配置された巻線とが互いに接触するため、互いに接触する巻線の半導電層同士を等電位に設定することができる。その結果、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0008】
本発明の第2の態様に係るコイルは、第1の態様に係るコイルにおいて特に、前記複数の凹部には、前記第2凹部とは反対側で前記第1凹部に隣接し、前記第1凹部との中心間隔が前記巻線の直径より大きい第3凹部と、前記第1凹部とは反対側で前記第2凹部に隣接し、前記第2凹部との中心間隔が前記巻線の直径より大きい第4凹部と、がさらに含まれ、前記第1凹部に配置された前記巻線と前記第3凹部に配置された前記巻線との間、及び前記第2凹部に配置された前記巻線と前記第4凹部に配置された前記巻線との間には、それぞれ所定の隙間が形成されることを特徴とするものである。
【0009】
第2の態様に係るコイルによれば、第1凹部に配置された巻線と第3凹部に配置された巻線との間、及び第2凹部に配置された巻線と第4凹部に配置された巻線との間には、それぞれ所定の隙間が形成される。従って、巻線の積層構造の下層から上層に亘って、確実な整列巻きを実現することが可能となる。
【0010】
本発明の第3の態様に係るコイルは、第2の態様に係るコイルにおいて特に、前記絶縁材の表面には、前記第1乃至第4凹部を有する構造が、前記ティース部の長さ方向に沿って繰り返し形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
第3の態様に係るコイルによれば、第1乃至第4凹部を有する構造が、ティース部の長さ方向に沿って繰り返し形成されている。従って、巻線の積層構造の各層において、確実な整列巻きを実現することが可能となる。
【0012】
本発明の第4の態様に係るコイルは、第1〜第3のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線は、単線の巻線であることを特徴とするものである。
【0013】
第4の態様に係るコイルによれば、単線の巻線を用いたコイルにおいて、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の第5の態様に係るコイルは、第1〜第3のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線は、等電位で対を成す第1巻線及び第2巻線を含み、前記第1凹部には前記第1巻線が配置され、前記第2凹部には前記第2巻線が配置されることを特徴とするものである。
【0015】
第5の態様に係るコイルによれば、等電位で対を成す第1巻線及び第2巻線を含む巻線を用いたコイルにおいて、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の第6の態様に係るコイルは、第1〜第5のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記巻線は、その端部において、前記導体と前記半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されていることを特徴とするものである。
【0017】
第6の態様に係るコイルによれば、巻線は、その端部において、導体と半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている。従って、巻線の端部において導体と半導電層との間で部分放電が発生することを、予め回避することが可能となる。
【0018】
本発明の第7の態様に係るコイルは、第1〜第6のいずれか一つの態様に係るコイルにおいて特に、前記コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルであることを特徴とするものである。
【0019】
第7の態様に係るコイルによれば、コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルである。入力側に最も近いコイルは入力電圧の影響を受けやすいため、高電圧が入力された場合に、当該コイルの両端電圧も高くなって巻線間の部分放電が生じやすい。従って、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルに対して、本発明を適用して部分放電が生じにくい構造を採用することにより、巻線間の部分放電を予め抑制することが可能となる。
【0020】
本発明の第8の態様に係るコイルは、第7の態様に係るコイルにおいて特に、相が異なる複数のコイル同士の間を電気的に絶縁するための絶縁部材をさらに備えることを特徴とするものである。
【0021】
第8の態様に係るコイルによれば、相が異なる複数のコイル同士の間は、絶縁部材によって電気的に絶縁される。従って、相内よりも高電圧となる相間を、絶縁部材によって適切に絶縁することが可能となる。
【0022】
本発明の第9の態様に係るモータは、第1の態様に係るコイルを有するステータと、ロータと、を備えることを特徴とするものである。
【0023】
第9の態様に係るモータによれば、ステータが第1の態様に係るコイルを有することにより、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、巻線を配置するための、巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、複数の凹部には、第1凹部と、第1凹部に隣接し、第1凹部との中心間隔が巻線の直径未満である第2凹部と、が含まれる。そして、第1凹部に配置された巻線と第2凹部に配置された巻線とが互いに接触するため、互いに接触する巻線の半導電層同士を等電位に設定することができる。その結果、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0024】
本発明の第10の態様に係るコア用絶縁材は、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有する巻線を、コアのティース部の外周上に整列して巻回するために、前記コアを被覆するコア用絶縁材であって、前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記巻線を配置するための、前記巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、前記複数の凹部には、第1凹部と、前記第1凹部に隣接し、前記第1凹部との中心間隔が前記巻線の直径未満である第2凹部と、が含まれることを特徴とするものである。
【0025】
第9の態様に係るコア用絶縁材によれば、ティース部を被覆している部分の絶縁材の表面には、巻線を配置するための、巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、複数の凹部には、第1凹部と、第1凹部に隣接し、第1凹部との中心間隔が巻線の直径未満である第2凹部と、が含まれる。従って、第1凹部に配置された巻線と、第2凹部に配置された巻線とを互いに接触させることができる。その結果、互いに接触する巻線の半導電層同士を等電位に設定することができるため、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、表面に半導電層を有する巻線を用いつつ、巻線間の部分放電を効果的に抑制することが可能な、コイル、モータ、及びコア用絶縁材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータの全体構成を模式的に示す図である。
【図2】一つのコイルの構造を模式的に示す図である。
【図3】巻線の構造を示す断面図である。
【図4】インシュレータの構造の一部を示す図である。
【図5】インシュレータ上に巻線を巻回する工程の第1の例を示す図である。
【図6】インシュレータ上に巻線を巻回する工程の第1の例を示す図である。
【図7】インシュレータ上に巻線を巻回する工程の第2の例を示す図である。
【図8】巻線の積層構造の他の例を示す図である。
【図9】巻線の端部に施されている端部処理の第1の例を示す図である。
【図10】巻線の端部に施されている端部処理の第2の例を示す図である。
【図11】モータの使用例を示す図である。
【図12】表面に半導電層を有する巻線に関して、隣接する巻線同士の隙間寸法と、当該巻線間の電界強度との関係を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係るモータ1の全体構成を模式的に示す図である。図1に示すようにモータ1は、円環状のステータ3と、ステータ3の円環内に配置されたロータ2とを備えて構成されている。ステータ3は、分割された複数のコイル4が円環に沿って並設された構造(いわゆる分割ステータ)を有している。
【0030】
図2は、一つのコイル4の構造を模式的に示す図である。図2に示すようにコイル4は、四角柱状のティース部11を有するコア10と、ティース部11を含むコア10の一部表面上に配置されることにより、コア10を部分的に被覆する絶縁性のインシュレータ(絶縁材)12と、インシュレータ12を介してティース部11の外周上に整列して巻回された巻線13とを備えて構成されている。
【0031】
図3は、巻線13の構造を示す断面図である。図3に示すように巻線13は、円形の断面構造を有しており、中心の導体20と、導体20を被覆する絶縁層21と、絶縁層21を被覆する半導電層22とを含む構造を成している。導体20の材質は、例えば銅である。絶縁層21の材質は、例えばポリアミドイミドである。半導電層22の材質は、例えば、カーボンブラック粉末等の導電性物質が混練されたポリアミドイミドである。但し、各層の材質はこの例に限定されるものではない。また、導体20の直径は例えば0.8mmであり、絶縁層21の厚みは例えば0.044mmであり、半導電層22の厚みは例えば0.005mmである。但し、各層の寸法はこの例に限定されるものではない。半導電層22の表面抵抗率は10Ω/□未満(望ましくは10Ω/□未満)に設定されており、これにより、高い部分放電開始電圧(10Ω/□未満で3800Vp以上)が実現される。
【0032】
図4は、インシュレータ12の構造の一部を示す図である。図4に示すようにインシュレータ12の表面には、巻線13を整列して配置するための複数の凹部31〜36が形成されている。凹部31〜36の曲率半径は、巻線13の半径に等しく設定されている。なお、凹部31〜36は、四角柱状のティース部11の必ずしも外周全域に対応して形成されている必要はなく、少なくとも四角柱の4カ所の角部に対応して形成されていればよい。
【0033】
また、図4を参照して、凹部31と凹部32との中心間隔L1、凹部33と凹部34との中心間隔L1、及び凹部35と凹部36との中心間隔L1は、巻線13の直径未満の値(例えば直径の99%)に設定されている。また、凹部32と凹部33との中心間隔L2、及び凹部34と凹部35との中心間隔L2は、巻線13の直径より大きい値(例えば直径の105%)に設定されている。また、凹部31,34,35の深さは、凹部32,33,36の深さよりも浅く設定されている。インシュレータ12には、凹部32〜35を構成単位として、ティース部12の長さ方向に沿って当該構成単位が繰り返し形成されている。
【0034】
図5及び図6は、インシュレータ12上に巻線13を巻回する工程の第1の例を示す図である。図5,6に示した例において、巻線13は、1本の巻線によって構成されている。
【0035】
図5を参照して、巻線の積層構造の最も内側の層となる第1層L1において、凹部31〜36に従って巻線13が順に巻回される。具体的に、巻線13の第1ターンA1が凹部31に従って巻回され、次に第2ターンA2が凹部32に従って巻回され、第3〜第5ターンA3〜A5に関しても同様の動作が繰り返された後、第6ターンA6が凹部36に従って巻回される。図5に示すように、第1ターンA1と第2ターンA2とは互いに接触し、第3ターンA3と第4ターンA4とは互いに接触し、第5ターンA5と第6ターンA6とは互いに接触している。また、第2ターンA2と第3ターンA3との間、及び第4ターンA4と第5ターンA5との間には、それぞれ所定の隙間が形成されている。
【0036】
次に図6を参照して、第1層L1の外側の層となる第2層L2において、すでに第1層L1に巻回された巻線13に従って巻線13が順に巻回される。具体的に、第7ターンA7が第5ターンA5及び第6ターンA6に従って巻回され、次に第8ターンA8が第4ターンA4及び第5ターンA5に従って巻回され、第9及び第10ターンA9,A10に関しても同様の動作が繰り返された後、第11ターンA11が第1ターンA1及び第2ターンA2に従って巻回される。なお、図示は省略するが、第3層以降においても同様に、下層ですでに巻回されている巻線13に従って、巻線13が順に巻回される。
【0037】
また、図6に示すように、第2層L2内の巻線13は、第1層L1内の巻線13に接触している。例えば、第8ターンA8は第4ターンA4及び第5ターンA5に接触しており、第10ターンA10は第2ターンA2及び第3ターンA3に接触している。
【0038】
図7は、インシュレータ12上に巻線13を巻回する工程の第2の例を示す図である。図7に示した例において、巻線13は、等電位で対を成す2本の巻線(第1巻線A及び第2巻線B)を含んで構成されている。
【0039】
図7を参照して、巻線の積層構造の最も内側の層となる第1層L1において、凹部31〜36に従って第1巻線A及び第2巻線Bが順に巻回される。具体的に、第2巻線Bの第1ターンB1が凹部31に従って巻回され、次に第1巻線Aの第2ターンA2が凹部32に従って巻回され、次に第2巻線Bの第2ターンB2が凹部33に従って巻回され、次に第1巻線Aの第3ターンA3が凹部34に従って巻回され、次に第2巻線Bの第3ターンB3が凹部35に従って巻回され、次に第1巻線Aの第4ターンA4が凹部36に従って巻回される。図7に示すように、第2巻線Bの第1ターンB1と第1巻線Aの第2ターンA2とは互いに接触し、第2巻線Bの第2ターンB2と第1巻線Aの第3ターンA3とは互いに接触し、第2巻線Bの第3ターンB3と第1巻線Aの第4ターンA4とは互いに接触している。また、第1巻線Aの第2ターンA2と第2巻線Bの第2ターンB2との間、及び第1巻線Aの第3ターンA3と第2巻線Bの第3ターンB3との間には、それぞれ所定の隙間が形成されている。なお、図示は省略するが、第2層L2以降においても同様に、下層ですでに巻回されている巻線13に従って、第1巻線A及び第2巻線Bが順に巻回される。
【0040】
図8は、巻線13の積層構造の他の例を示す図である。図8に示すようにインシュレータ12の表面には、巻線13を整列して配置するための複数の凹部40が形成されている。なお、凹部40は、四角柱状のティース部11の必ずしも外周全域に対応して形成されている必要はなく、少なくとも四角柱の4カ所の角部に対応して形成されていればよい。互いに隣接する凹部40間の中心間隔は、巻線13の直径より大きい値(例えば直径の103%)に設定されている。図8において巻線13の図形内に数字を付して示したように、巻線13は、斜め上方に向かって順に巻回される(いわゆる斜め巻き)。これにより、例えば、巻線13の第2ターン(数字「2」を付した巻線13)は、第1ターン(数字「1」を付した巻線13)に接触し、巻線13の第4ターン(数字「4」を付した巻線13)は、第3ターン(数字「3」を付した巻線13)に接触する。また、第4ターンは、第1ターン、第5ターン(数字「5」を付した巻線13)、及び第9ターン(数字「9」を付した巻線13)にも接触する。なお、積層構造の同一層に属する巻線13同士(例えば第1ターンと第3ターン)は、互いに接触しない。
【0041】
図9は、巻線13の端部に施されている端部処理の第1の例を示す図である。巻線13の端部においては、半導電層22及び絶縁層21を剥離することによって導体20が露出されるが、その際、半導電層22のみを剥離することによって絶縁層21が露出した領域を、導体20と半導電層22との間に所定の距離だけ残す。これにより、当該領域を間に挟むことによって、導体20と半導電層22とが互いに電気的に分離される。
【0042】
図10は、巻線13の端部に施されている端部処理の第2の例を示す図である。巻線13の端部においては、半導電層22及び絶縁層21を剥離することによって導体20が露出されるが、その際、半導電層22の先端及び導体20の一部を含む所定の領域を、絶縁性樹脂等の封止材50によって封止する。これにより、封止材50を間に挟むことによって、導体20と半導電層22とが電気的に分離される。
【0043】
図11は、モータ1の使用例を示す図である。複数のコイルU1〜U4から成る直列接続体、複数のコイルV1〜V4から成る直列接続体、及び複数のコイルW1〜W4から成る直列接続体が、インバータ60のU相、V相、及びW相にそれぞれ接続されている。コイルU1,V1,W1は、それぞれの直列接続体のうち、入力側であるインバータ60に最も近いコイルである。上述したコイル4の構造を、少なくともコイルU1,V1,W1に対して適用する。但し、各直列接続体の全てのコイルに対して適用してもよい。
【0044】
また、U相のコイルU1〜U4とV相のコイルV1〜V4との間、V相のコイルV1〜V4とW相のコイルW1〜W4との間、及びW相のコイルW1〜W4とU相のコイルU1〜U4との間は、相間絶縁紙とエナメル等の絶縁材とを含む所定の絶縁部材(図示しない)によって、互いに電気的に絶縁されている。当該絶縁部材の厚みは、想定される相間電圧に応じて設定される。これにより、相内よりも高電圧となる相間を、当該絶縁部材によって適切に絶縁することができる。また、図2に示したように巻線13と接地電位(コア10)との間は、インシュレータ12によって互いに電気的に絶縁されている。インシュレータ12の厚みは、想定される対地電圧に応じて設定される。これにより、相内よりも高電圧となる対地間を、インシュレータ12によって適切に絶縁することができる。
【0045】
図5に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、ティース部11を被覆している部分のインシュレータ12の表面には、巻線13を配置するための、巻線13の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部31〜36が形成されており、複数の凹部31〜36には、第1凹部33と、第1凹部33に隣接し、第1凹部33との中心間隔が巻線13の直径未満である第2凹部34と、が含まれる。そして、第1凹部33に配置された巻線13と第2凹部34に配置された巻線13とが互いに接触するため、互いに接触する巻線13の半導電層22同士を等電位に設定することができる。その結果、巻線13間の部分放電を効果的に抑制することが可能となるため、電気自動車用モータやハイブリッド自動車用モータ等の高電圧機器用途に適したコイルを得ることができる。
【0046】
また、図5に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、第1凹部33に配置された巻線13と第3凹部32に配置された巻線13との間、及び第2凹部34に配置された巻線13と第4凹部35に配置された巻線13との間には、それぞれ所定の隙間が形成される。従って、巻線13の積層構造の下層から上層に亘って、確実な整列巻きを実現することが可能となる。
【0047】
また、図5に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、第1乃至第4凹部32〜35を有する構造が、ティース部11の長さ方向に沿って繰り返し形成されている。従って、巻線13の積層構造の各層において、確実な整列巻きを実現することが可能となる。
【0048】
また、図5に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、単線の巻線13を用いたコイルにおいて、巻線13間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0049】
また、図7に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、等電位で対を成す第1巻線A及び第2巻線Bを含む巻線13を用いたコイルにおいて、巻線13間の部分放電を効果的に抑制することが可能となる。
【0050】
また、図9,10に示したように、本実施の形態に係るコイル4によれば、巻線13は、その端部において、導体20と半導電層22とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている。従って、巻線13の端部において導体20と半導電層22との間で部分放電が発生することを、予め回避することが可能となる。
【0051】
また、図11に示したように、本実施の形態に係るコイル4は、同一相内で直列接続された複数のコイルU1〜U4,V1〜V4,W1〜W4のうち、少なくとも入力側に最も近いコイルU1,V1,W1に対して適用される。入力側に最も近いコイルU1,V1,W1は入力電圧の影響を受けやすいため、高電圧が入力された場合に、当該コイルU1,V1,W1の両端電圧も高くなって巻線13間の部分放電が生じやすい。従って、同一相内で直列接続された複数のコイルU1〜U4,V1〜V4,W1〜W4のうち、少なくとも入力側に最も近いコイルU1,V1,W1に対して、コイル4を適用して部分放電が生じにくい構造を採用することにより、巻線13間の部分放電を予め抑制することが可能となる。
【0052】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 モータ
2 ロータ
3 ステータ
4 コイル
10 コア
11 ティース部
12 インシュレータ
13 巻線
20 導体
21 絶縁層
22 半導電層
31〜36 凹部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティース部を有するコアと、
前記コアを被覆する絶縁材と、
前記絶縁材を介して前記ティース部の外周上に整列して巻回され、導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有する巻線と、
を備え、
前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記巻線を配置するための、前記巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、
前記複数の凹部には、
第1凹部と、
前記第1凹部に隣接し、前記第1凹部との中心間隔が前記巻線の直径未満である第2凹部と、
が含まれ、
前記第1凹部に配置された前記巻線と前記第2凹部に配置された前記巻線とが互いに接触する、コイル。
【請求項2】
前記複数の凹部には、
前記第2凹部とは反対側で前記第1凹部に隣接し、前記第1凹部との中心間隔が前記巻線の直径より大きい第3凹部と、
前記第1凹部とは反対側で前記第2凹部に隣接し、前記第2凹部との中心間隔が前記巻線の直径より大きい第4凹部と、
がさらに含まれ、
前記第1凹部に配置された前記巻線と前記第3凹部に配置された前記巻線との間、及び前記第2凹部に配置された前記巻線と前記第4凹部に配置された前記巻線との間には、それぞれ所定の隙間が形成される、請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記絶縁材の表面には、前記第1乃至第4凹部を有する構造が、前記ティース部の長さ方向に沿って繰り返し形成されている、請求項2に記載のコイル。
【請求項4】
前記巻線は、単線の巻線である、請求項1〜3のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項5】
前記巻線は、等電位で対を成す第1巻線及び第2巻線を含み、
前記第1凹部には前記第1巻線が配置され、前記第2凹部には前記第2巻線が配置される、請求項1〜3のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項6】
前記巻線は、その端部において、前記導体と前記半導電層とを互いに電気的に絶縁するための絶縁処理が施されている、請求項1〜5のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項7】
前記コイルは、同一相内で直列接続された複数のコイルのうち、少なくとも入力側に最も近いコイルである、請求項1〜6のいずれか一つに記載のコイル。
【請求項8】
相が異なる複数のコイル同士の間を電気的に絶縁するための絶縁部材をさらに備える、請求項7に記載のコイル。
【請求項9】
請求項1に記載のコイルを有するステータと、
ロータと、
を備えるモータ。
【請求項10】
導体、前記導体を被覆する絶縁層、及び前記絶縁層を被覆する半導電層を有する巻線を、コアのティース部の外周上に整列して巻回するために、前記コアを被覆するコア用絶縁材であって、
前記ティース部を被覆している部分の前記絶縁材の表面には、前記巻線を配置するための、前記巻線の半径に等しい曲率半径を有する複数の凹部が形成されており、
前記複数の凹部には、
第1凹部と、
前記第1凹部に隣接し、前記第1凹部との中心間隔が前記巻線の直径未満である第2凹部と、
が含まれる、コア用絶縁材。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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