説明

コイルおよび励磁用コイル

【課題】特性のバラツキが少なく、磁気探傷の励磁用に用いることのできる筒状のコイルを提供すること
【解決手段】可撓性の矩形の第1の絶縁基板31の表面に複数の第1の薄膜導体32がその全長にわたって互いに平行に設けられて第1の配線基板11が形成されており、第2の絶縁基板41の表面に複数の第2の薄膜導体42が第1の薄膜導体32と同じピッチで且つその両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられて第2の配線基板12が形成されており、第1の薄膜導体32と第2の薄膜導体42とが、それぞれの両端部が半田付けまたは溶接によって接続されて1つの環状のコイルに形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば磁気探傷における励磁のためなどに用いられるコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電流によって磁界を発生させるため、またはこれとは逆に磁界や電流を検出するために、種々のコイルが用いられている。例えば、磁気探傷においては、励磁用のコイルに交流電流を流して交播磁界を発生させ、金属構造物の内部に傷が存在した場合に生じる交播磁界の乱れをサーチ用のコイルによって検知する。
【0003】
従来より、そのような励磁用のコイルとして、絶縁材料からなる円筒状のボビンに被覆電線を手巻き(機械巻き)で巻いたものが一般に用いられている。
【0004】
また、手巻きではその作業が大変でありバラツキも大きいことから、プリント配線板にコイルを形成したものが種々提案されている。例えば、絶縁基材の両面にプリントコイルを形成して互いに接続したコイル(特許文献1)、プリント基板に2列の穴を設け、2つの穴を繋ぐ導電パターンを表面と裏面でジグザグになるように形成したコイル(特許文献2)などがある。
【特許文献1】特開平11−307366
【特許文献2】特開平11−340040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上に述べた特許文献1のコイルでは、励磁用のコイルのための多数の巻き数を得ることが困難である。また、特許文献2のコイルでは、ジグザグの回数を多くすることによってインダクタンスを大きくすることが可能であるが、その基板の厚さに相当する部分がコイルのコアとなるので、励磁用のコイルとしては不向きである。
【0006】
磁気探傷の励磁用のコイルはその形状が筒状であることが望ましいので、この点では手巻きのコイルがそれに向いているが、手巻きのコイルはやはり特性のバラツキが生じやすいという欠点がある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、特性のバラツキが少なく、磁気探傷の励磁用に用いることのできる筒状のコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコイルは、可撓性の矩形の第1の絶縁基板の表面に複数の第1の薄膜導体がその全長にわたって互いに平行に設けられて第1の配線基板が形成されており、可撓性の矩形の第2の絶縁基板の表面に複数の第2の薄膜導体がその全長にわたって前記第1の薄膜導体と同じピッチで且つその両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられて第2の配線基板が形成されており、前記第1の薄膜導体と前記第2の薄膜導体とが、それぞれの両端部が半田付けまたは溶接によって接続されて1つの環状のコイルに形成される。
【0009】
好ましくは、第2の薄膜導体は、その長さ方向の中間に1ピッチ分の段差を有することによって両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられてなる。
【0010】
また、前記第1の薄膜導体および前記第2の薄膜導体は、前記第1の配線基板または前記第2の配線基板に形成されたプリントコイルであり、
前記第1の薄膜導体の最も外側の1つの端部および前記第2の薄膜導体の最も外側の1つの端部にそれぞれスルーホ−ルが形成され、前記各スルーホ−ルが外部への接続端子となっている。
【0011】
また、前記第1の配線基板および前記第2の配線基板は全体として4つの面からなる4角筒状に形成され、前記第2の配線基板は、そのうちの1つの面において前記第1の配線基板と接続されてなる。
【0012】
本発明に係る励磁用コイルは、1つの前記コイルが他の1つの前記コイルの中に嵌め込まれ、これによって前記コイルのそれぞれの2つの面が互いに重なり、重なった面においてそれぞれの前記第1の薄膜導体同士が直交してなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、特性のバラツキが少なく、磁気探傷の励磁用に用いることのできる筒状のコイルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一実施形態に係るコイル2の斜視図、図2は図1のコイル2の一部を拡大して示す図、図3はコイル2の一部を拡大して示す断面図、図4は第1の配線基板11の正面図、図5は第2の配線基板12の正面図、図6は他の実施形態の第2の配線基板12Bの正面図である。
【0015】
図1において、コイル2は、全体として4つの面21a〜dからなる4角筒状に形成されている。各面21a〜dは、それらの辺の長さが全て等しく、つまり同じ大きさの正方形である。これら4つの面21a〜dは、第1の配線基板11と第2の配線基板12とが環状に接続され、且つ第1の配線基板11の適当な箇所が直角に折り曲げられて形成されている。
【0016】
図4に示すように、第1の配線基板11は、可撓性の矩形の第1の絶縁基板31の表面に、複数の第1の薄膜導体32,32,32…が、その全長にわたって互いに平行に設けられて形成されている。
【0017】
第1の絶縁基板31は、プラスチック製の薄いフィルムからなる。その材料として、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、テフロン(登録商標)、ポリエステル、マイラーなど、絶縁性の良好なもの、またできるだけ耐熱性の良好なものが用いられる。第1の絶縁基板31の寸法の例をあげると、縦が5〜10mm程度、横が20〜40mm程度、厚さが例えば20〜100μm程度、具体的には例えば20μmまたは50μm程度のものが用いられる。
【0018】
第1の薄膜導体32は、それぞれ第1の絶縁基板31の表面に接着した高純度の銅薄膜をエッチングなどによって所定の形状に形成したものである。つまり、本実施形態において、第1の薄膜導体32は、プリント線であり、これによってコイルが形成されるので、プリントコイルということもできる。後に述べる第2の薄膜導体42についても同様である。
【0019】
第1の薄膜導体32は、例えば100μm程度のピッチで形成される。その場合に、線幅が40〜60μm程度、間隔が60〜40μm程度で、厚さは5〜20μm程度である。第1の絶縁基板31の縦が5mm程度である場合に、ピッチが100μmであれば、約50(=5÷0.1)本の第1の薄膜導体32が形成される。
【0020】
図5に示すように、第2の配線基板12には、可撓性の矩形の第2の絶縁基板41の表面に複数の第2の薄膜導体42,42,42…が、その全長にわたって第1の薄膜導体32と同じピッチで、且つその中間にそれぞれ1ピッチ分の段差43を有することによって、両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられている。
【0021】
すなわち、第2の薄膜導体42は、それぞれ、図5の左端から右方に延び、途中の段差43の部分で、図5の右端から左方に延びてきた1本下の第2の薄膜導体につながっている。上側の最も外側、つまり最上端にある第2の薄膜導体42の左端には、スルーホ−ル44が設けられ、これが外部への接続端子となっている。また、下側の最も外側、つまり最下端の左端にもスルーホ−ル45が設けられ、このスルーホ−ル45が第1の配線基板11の最下端の第1の薄膜導体32の右端と接続され、これが外部への接続端子となっている。
【0022】
第2の絶縁基板41の材質、縦および厚さ寸法は、第1の絶縁基板31と同じである。また、第2の薄膜導体42の材質、線幅、間隔、および厚さ寸法も、第1の薄膜導体32と同じである。但し、図1および図2の正面視において、第1の薄膜導体32は第1の絶縁基板31の表面に形成されているのに対し、第2の薄膜導体42は第2の絶縁基板41の裏面に形成されている。つまり、これらの図において、第2の薄膜導体42は第2の絶縁基板41の向こう側にあって隠れているので破線で示すべきであるが、図が見にくくなるので便宜上実線で示してある。
【0023】
第1の配線基板11および第2の配線基板12の製作プロセスの例について簡単に説明する。
【0024】
第1の絶縁基板31および第1の薄膜導体32の材料として、可撓性を有する薄いプラスチックフィルムを準備する。プラスチックフィルムの両面に銅薄膜を設ける。その際に、銅薄膜を接着してもよいし、電気化学的に形成してもよい。このような基板に対して、第1の薄膜導体32または第2の薄膜導体42となるべき所定の形状、線間隔、および線幅のパターンを銅薄膜の上に多数描き、その部分をマスキングする。そして、基板をエッチング液中に浸漬し、攪拌しながら所定の時間エッチングする。その後、スルーホールの穴をあけ、メッキなどによってスルーホールに導体を充填する。必要に応じて、表面に保護層を形成しておく。
【0025】
さて、第2の配線基板12は、1つの面21aにおいて、第1の配線基板11と接続されている。つまり、第1の配線基板11の両端部と、第2の配線基板12の両端部とは、重なり部分KBで互いに重なっており、重なり部分KBにおいて、第1の薄膜導体32の端部と第2の薄膜導体42の端部とがクリーム半田CHによって接続されている。
【0026】
つまり、第1の配線基板11と第2の配線基板12との接続に当たって、まず、重なり部分KBの第1の薄膜導体32と第2の薄膜導体42との部分に、クリーム半田CHがのるようにクリーム半田CHの印刷を行う。そして、顕微鏡や拡大表示装置などを用い、重なり部分KBを重ねて位置合わせを行う。その状態で、こてで押さえて加熱する。なお、半田付けに代えて溶接を行ってもよい。
【0027】
なお、第1の配線基板11と第2の配線基板12とを接続するのに、第1の薄膜導体32と第2の薄膜導体42とが対向する必要がある。つまり、第1の配線基板11において第1の薄膜導体32が外方に露出している場合には、第2の配線基板12においては第2の薄膜導体42は内方に露出するようにし、第2の薄膜導体42を第1の薄膜導体32の外側から貼り合わせる。これとは逆に、第1の薄膜導体32が内方に露出している場合には、第2の薄膜導体42は外方に露出するようにし、第2の薄膜導体42を第1の薄膜導体32の内側から貼り合わせる。
【0028】
なお、第1の薄膜導体32と第2の薄膜導体42との貼り合わせには、上に述べたようにクリーム半田CHを用いた加熱接続で行えるが、これに加えて、第1の配線基板11と第2の配線基板12とを適当な接着剤で接着したり、加熱による熱融着などを行ってもよい。
【0029】
上に述べたコイル2は、プリント配線板にプリントコイルが形成されているので、製品ごとの特性のバラツキが少なく、寸法、形状、特性について均一性が得られ、また磁場の平行性が得られる。つまり、設計通りの特性が得られるので、コイル2を組み込んだ装置について仕様通りの性能を得やすい。また、コイル2は4角筒状であり、第1の薄膜導体32および第2の薄膜導体42には励磁のために必要十分な大きさの電流を流すことができるので、磁気探傷の励磁用として好適に用いることができる。
【0030】
なお、上に述べた第2の配線基板12は、第2の薄膜導体42が第2の配線基板12の上辺および下辺と平行に設けられ、途中の段差43によって両端部が互いに1ピッチづつずれているが、図6に示す第2の配線基板12Bのように、段差43を設けることなく、第2の薄膜導体42Bを両端部間で1ピッチづつずれるように斜めに形成してもよい。
【0031】
次に、上に述べたコイル2を2つ組み合わせた励磁用コイル4について説明する。
【0032】
図7は2つのコイル2の組み合わせ方を説明する図、図8は励磁用コイル4の1つの面のコイルの巻き方向を示す図、図9は励磁用コイル4の励振方法の例を示す図である。
【0033】
図7に示すように、一方のコイル2Aの空芯部に、他方のコイル2Bの面21bが先に入っていくように嵌め込む。その結果、コイル2Aの面21cとコイル2の面21cとが互いに重なり、重なった面21cにおいて、それぞれの第1の薄膜導体32同士が直交する。なお、この場合に、一方のコイル2Aを他方のコイル2Bよりも僅かに大きくしておけばよい。
【0034】
図9に示すように、一方のコイル2Aの第1の薄膜導体32にCosine波(余弦波)を加え、他方のコイル2Bの第1の薄膜導体32にSine波(正弦波)を加える。そうすると、図8に示す面21cには回転磁界が生じる。2つのコイル2A,2Bの形状および第1の薄膜導体32の巻き方などのバランスが良好であるので、歪みのないきれいな回転磁界が得られる。なお、数値例をあげると、Cosine波およびSine波の周波数は、例えば数KHz〜数百KHzであり、電流は例えば20〜50mAである。
【0035】
上に述べた実施形態においては、第1の配線基板11と第2の配線基板12との2つの基板を接続してコイル2を構成したが、1つの配線基板のみでコイルをコイルすることも可能である。すなわち、可撓性の矩形の絶縁基板の表面に複数の薄膜導体をその全長にわたって互いに平行に且つその両端部が互いに1ピッチづつずれるようにして設け、これによって1つの配線基板を形成する。その配線基板の両端を重ねて筒状に形成し、且つ薄膜導体の両端部を半田付けまたは溶接によって接続し、1つの環状のコイルに形成する。その他の構成は上に述べたコイル2,2A,2Bと同様とする。したがって、これを図で示した場合には、図1において第1の配線基板11と第2の配線基板12とがいずれか一方の端部で当初から繋がって連続したものを配線基板とし、他方の端部を図1に示すように後で貼り合わせたものとなる。このようにすれば、コイルの構成がより簡単になる。この場合においても、コイルによって発生する磁場の平行性、均一性を格段に向上させることが可能である。
【0036】
上に実施形態においては、コイル2の形状が4角筒状であるが、6角筒状、8角筒状、または円筒状などとしてもよい。また、コイル2のリード線を一体に設けることも可能である。すなわち、例えば、第1の絶縁基板31または第2の絶縁基板41に、スルーホ−ル44,45などの接続端子から延びる線を薄膜導体32,42と同じようにして形成しておけばよい。その際に、2本のリード線をツイスト線として構成するには、絶縁基板の表裏に対向して交差するようにパターンを交互に形成しておき、スルーホールによって表裏のパターンを接続することによってツイスト線とすることができる。このようにして配線用のリード線を引き出すことにより、外部から加わる力がコイル2に大きく作用することなく、強度的に丈夫なコイル2とすることができる。
【0037】
その他、コイル2または励磁用コイル4の全体または各部の構成、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、磁気探傷用の励磁用のコイル、インダクタンス、その他の種々のコイルとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係るコイルの斜視図である。
【図2】図1のコイルの一部を拡大して示す図である。
【図3】コイルの一部を拡大して示す断面図である。
【図4】第1の配線基板の正面図である。
【図5】第2の配線基板の正面図である。
【図6】他の実施形態の第2の配線基板の正面図である。
【図7】2つのコイル2の組み合わせ方を説明する図である。
【図8】励磁用コイルの1つの面のコイルの巻き方向を示す図である。
【図9】励磁用コイルの励振方法の例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
2,2A,2B コイル
4 励磁用コイル
11 第1の配線基板
12 第2の配線基板
21a〜d 面
31 第1の絶縁基板
32 第1の薄膜導体
41 第2の絶縁基板
42 第2の薄膜導体
43 段差
44,45 スルーホ−ル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の矩形の第1の絶縁基板の表面に複数の第1の薄膜導体がその全長にわたって互いに平行に設けられて第1の配線基板が形成されており、
可撓性の矩形の第2の絶縁基板の表面に複数の第2の薄膜導体がその全長にわたって前記第1の薄膜導体と同じピッチで且つその両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられて第2の配線基板が形成されており、
前記第1の薄膜導体と前記第2の薄膜導体とが、それぞれの両端部が半田付けまたは溶接によって接続されて1つの環状のコイルに形成されてなる、
ことを特徴とするコイル。
【請求項2】
第2の薄膜導体は、その長さ方向の中間に1ピッチ分の段差を有することによって両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられてなる、
請求項1記載のコイル。
【請求項3】
前記第1の薄膜導体および前記第2の薄膜導体は、前記第1の配線基板または前記第2の配線基板に形成されたプリントコイルであり、
前記第1の薄膜導体の最も外側の1つの端部および前記第2の薄膜導体の最も外側の1つの端部にそれぞれスルーホ−ルが形成され、前記各スルーホ−ルが外部への接続端子となっている、
請求項1または2記載のコイル。
【請求項4】
前記第1の配線基板および前記第2の配線基板は全体として4つの面からなる4角筒状に形成され、
前記第2の配線基板は、そのうちの1つの面において前記第1の配線基板と接続されてなる、
請求項1ないし3のいずれかに記載のコイル。
【請求項5】
請求項4記載のコイルが2つ組み合わされており、
1つの前記コイルが他の1つの前記コイルの中に嵌め込まれ、これによって前記コイルのそれぞれの2つの面が互いに重なり、重なった面においてそれぞれの前記第1の薄膜導体同士が直交してなる、
ことを特徴とする励磁用コイル。
【請求項6】
可撓性の矩形の絶縁基板の表面に複数の薄膜導体がその全長にわたって互いに平行に且つその両端部が互いに1ピッチづつずれて設けられて配線基板が形成されており、
前記配線基板の両端が重ねられて筒状に形成され、且つ前記薄膜導体の両端部が半田付けまたは溶接によって接続されて1つの環状のコイルに形成されてなる、
ことを特徴とするコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−100390(P2006−100390A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282067(P2004−282067)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(591142138)北斗電子工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】