説明

コイル温度測定方法

【課題】 リニアモータの内部に設置されたコイルの温度を、リニアモータの外部から測定することができるコイル温度測定方法を提供する。
【解決手段】 強磁性体からなるヨーク311とこのヨークの内側に所定方向に配列された複数の永久磁石312を有し、正弦波状の磁束密度が現出する磁気空隙を有する固定子31と、磁気空隙内に位置する有効導体部を有する複数の空心コイルを有しかつ各空心コイルの周囲が熱硬化性樹脂でモールドされた可動コイル部材32とを備えたリニアモータ3a(3b)の一方の端部側に、可動コイル部材32の表面温度を測定する放射温度計100を設置し、ヨーク311に設けた複数の貫通孔30から可動コイル部材32表面の熱放射を放射温度計に入射させることにより、可動コイル部材32の表面温度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動コイル形リニアモータのコイルの温度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPやLCD等のディスプレイ製造装置においては、例えばガラス基板を搭載したステージを駆動するために、多相コイル(例えば3相コイル)を有する可動子を備えたブラシレス同期リニアモータ(以下単にリニアモータという)が使用されている。基板の大型化、スループットの向上を達成するために、リニアモータには、高速化及び大推力化が必要とされるので、コイルに供給される駆動電流が増大する。駆動電流の増大に伴いコイルの発熱量が増大して、コイルが破損しないようにするために、コイルの温度を測定することが必要となる。しかしながら、可動コイル形リニアモータは、可動子は固定子の内部に設置されているので、通常は、退避位置でコイルを取り外し、熱電対などの熱伝導を利用した温度計により、コイルの表面温度を測定している。しかしこの方法は、コイルの着脱に手間が掛り、効率的ではない。
【0003】
そこで、コイルの温度を直接的に測定することが提案されている。例えば、特許文献1には、N、Sの磁極を交互に長手方向に有する界磁マグネットに、駆動用コイルを相対向して配置し(マグネット又はコイルの一方が移動子)、コイルに流れている駆動電流を電流モニタ回路で監視し、この駆動電流からコイルの温度を求めることが提案されている。
【0004】
また特許文献2に記載されているように、移動又は回転している部材の温度を測定するために、放射温度計により、非測定部材と非接触でその表面温度を測定することが行われている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−67764号公報(第3−4頁、図1、図4)
【特許文献2】特開平8−29260号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法によれば、コイルに流れる駆動電流は負荷の状態により変動するので、信頼性が不足するという問題がある。
【0007】
特許文献2には、ロータリーキルンの内部の温度を測定することは記載されているが、リニアモータの内部に配置された可動コイルの温度を測定するための構成は記載されていない。
【0008】
従って本発明の目的は、リニアモータの内部に配置されたコイルの温度を、リニアモータの外部から測定することができるコイル温度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のコイル温度測定方法は、強磁性体からなるヨークとこのヨークの内側に所定方向に配列された複数の永久磁石を有し、正弦波状の磁束密度が現出する磁気空隙を有する固定子と、前記磁気空隙内に位置する有効導体部を有する複数のコイルを有する可動コイル部材とを備えたリニアモータの一方の端部側に、前記可動子の表面温度を測定する放射温度計を設置し、前記ヨークに前記可動子の移動方向に沿ってコイルに臨むように設けた貫通孔から前記可動コイル表面からの熱放射を取り出して、前記放射温度計に入射させることを特徴とするものである。
【0010】
本発明において、前記放射温度計は、可動コイル部材の熱放射を捕捉する集光部と、前記熱放射を電気信号に変換する焦電検出素子を有する光電変換部と、前記電気信号を増幅して温度として出力する出力部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヨークに可動コイル部材に臨む貫通孔を設け、そこからコイルの熱放射を取り出して、ヨークの一方の端部側に設置された放射温度計に入射させるようにしたので、リニアモータの外部から、モータ内部に配置された可動コイルの温度を速やかに測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を、添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明のコイル温度測定方法が適用されるリニアモータを示す平面図、図2は図1をA方向から見た矢視図、図3は図1のB−B線断面図、図4は図1をC方向から見た矢視図、図5は可動コイル部材の斜視図、図6は放射温度計の構成を示すブロック図、図7は図6の信号処理部の機能を示すブロック図である。
【0014】
[XYステージ]
図1及び図2に示すXYステージ1は、矩形状(長方形状)のベース2のX軸方向の両端部に設置されたリニアモータ3a、3bと、Y軸方向に移動するテーブル4と、その上に搭載されたXステージ5(破線で示す)と、基板浮上手段10(一点鎖線で示す)を備えている。リニアモータ3a(3b)は、ベース2上に固設された略コ字形状のフレーム20a(20b)の内側に設置されるとともに、テーブル4はフレーム20a(20b)の一方の上端部に固設された案内レール21a(21b)に支持されている(図2参照)。ベース2の一端側(Y軸方向の端部)には、放射温度計100が設置されている。
【0015】
このXYステージ1によれば、基板浮上手段10に支持された基板(不図示)に対してXステージ10に搭載された検査手段(不図示)をY軸方向及びX軸方向に走査することにより、基板表面の全体にわたって所定の検査項目を実施することができる。
【0016】
[リニアモータ]
リニアモータ3aの構造を図3及び図4により説明する。固定子31は、強磁性体からなるコ字形断面を有するヨーク311と、相対する2辺の内側に固着された複数の永久磁石312を有する。これらの永久磁石312は、厚さ方向(X軸及びY軸と直交する方向:Z軸方向)に磁化されたブロック状磁石であり、磁気空隙(対向する永久磁石間の間隙)にY軸方向に沿って正弦波状の磁束密度分布が現出するようにするために、異極性の磁極が隣接しかつ異極性の磁極が対向するようにヨーク311に所定間隔をおいて固着される。また図示を省略するが、磁気空隙に正弦波状の磁束密度分布がより確実に現出するような磁気回路を形成するために、隣接する永久磁石間にY軸方向に磁化されたブロック状の補助磁石を、同極性の磁極が永久磁石312の磁極(磁気空隙側の磁極)と隣接するように配置することができる。
【0017】
ヨーク311の上辺部で永久磁石が固着されない部分には、Y軸方向に沿って所定間隔P1、P2、P3…をおいて可動コイル部材32に臨む複数の貫通孔30が設けられている。またテーブル4の裏面(可動子が支持される側の面)には、貫通孔30に対向する位置に、Y軸方向に沿ってガイド溝41が形成されるとともに、コイルから放出された光を放射温度計110に到達させる(光路を変更する)ために、レンズやミラーなどの光学部材11が設置されている。
【0018】
可動コイル部材32は、コイルユニット321の外周を樹脂320でモールドして形成した断面H字形状部材であり、モールドされた部分の端部は連結部322を介してテーブル4の裏面に接続されている。図5を参照すると、コイルユニット321は、帯状のコイル基板322と、その両面に偏平な複数の空心コイル323を固着して形成されている。このコイルユニット321は、例えば4組の3相コイル(U1〜U4、V1〜V4、W1〜W4)とするために、これらの空心コイル323を同相となるコイルの巻始めどうし又は巻終りどうしを結線しかつ各相のコイル列を例えばY形結線することにより、作成することができる。各空心コイル323の寸法は、推力に寄与する有効導体部の幅W1が永久磁石312の幅W1(図3参照)と略一致し、無効導体部が磁気空隙外に位置するように設定される。なお、図5において、矢印は巻線の進行方向を示す。
【0019】
モールド用樹脂としては、電気的に絶縁性(例えば1012Ω・cm以上の体積抵抗を有する)を示しかつ耐熱性が大なる材料を使用することが必要であり、例えばエポキシ樹脂(耐熱温度(長期)95〜100℃)、メラミン樹脂(耐熱温度:150〜200℃)あるいはシリコーン樹脂(シリコーンワニスの最高使用温度:200℃)等の熱硬化性樹脂が好ましい。またこれらの樹脂にガラス繊維(例えば短繊維)などの充填材を添加することにより、耐熱性を高めることができ、例えばエポキシ樹脂にガラス繊維を充填した場合の連続使用温度は、120℃程度に向上する。
【0020】
上記の構成を有するリニアモータの動作は次の通りである。コイルユニット321の各相に正弦波電流を流すことにより、電流の値に応じた推力で可動コイル部材32を移動することができ、またコイルユニット321に供給する電流の向きを変えることにより、可動コイル部材32の移動方向を切り替えることができる。
【0021】
[放射温度計]
放射温度計100は、コイルの表面から発生する熱放射(物体の熱的な状態に応じて放射される電磁波で、紫外線〜遠赤外線の領域)を利用して(温度が高くなると放射エネルギーが強くなる)コイルの温度を求める温度計である。この放射温度計としては、放射エネルギー強度の全波長領域での積分値から温度を算出する(シュテファン−ボルツマンの法則に従う)全放射温度計を使用することが好ましい。特に、コイルの表面温度は、通常100℃以下(温度測定の分野では低温域)であることを考慮して、測定波長を8〜13μmに限定して大気中の気体(酸素や二酸化酸素等)による吸収によって放射エネルギーが減衰するのを防止するようにした広帯域放射温度計が好適である。
【0022】
放射温度計100は、図6に示すように、熱放射(放射束)を捕捉する集光部110と、検出された放射束を電気信号に変換して外部に取り出す光電変換部120と、その電気信号を増幅し、温度に変換して出力する信号処理部130を備えている。
【0023】
集光部110は、凸レンズ、ミラー(凹凸面鏡)、光ファイバーあるいはレンズと光ファイバーとの組合わせた光学部品で形成することができる。
【0024】
光電変換部120は、集光部110で捕捉された光信号を電気信号に変換する検出素子を有する。測定温度が100℃以下であることを考慮すると、光電型検出素子よりも応答性は遅いが、平坦な波長特性をもつ熱電型検出素子(焦電素子又はサーモパイル)を使用することが好ましく、赤外域に高い感度をもつ焦電検出素子{TGS(硫酸グリシン)又はPbTiO(チタン酸鉛)などの強誘電体}使用することがより好ましい。
【0025】
信号処理部130は、例えば、焦電検出素子の検出信号を増幅する(直流増幅又は交流増幅)プリアンプ131と、コイルの放射率は1以下なので、入射エネルギーが黒体に比べて減少するのを電気的に補正する放射率補正部132と、検出素子の温度に対する出力の非直線性を補正するリニアライザ133と、コイル温度の微細な変動をとらえて見掛け上温度指示が変化することを防止するモジュレータ(信号変調部)134と、測定された温度を出力するために、液晶やLEDなどの出力・表示部135を有する(図7参照)。
【0026】
[温度測定]
上記の構成によれば、次の手順でコイルの表面温度を測定することができる。まず、コイルの駆動電流を供給して、可動子を定速で走行させた後、可動子が例えば固定子の端部で停止した時に、可動子の表面に発生した熱エネルギーは貫通孔30から光学系を経て放射温度計に入射するので、コイルの温度を測定することができる。また可動子が固定子の中央寄りで(図4の一点鎖線で示す位置で)停止した時にも、可動子の表面に発生した熱エネルギーは貫通孔30から光学系11を経て放射温度計に入射するので、コイルの温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のコイル温度測定方法が適用されるリニアモータを示す平面図である。
【図2】図1をA方向から見た矢視図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図1をC方向から見た矢視図である。
【図5】コイル部材の斜視図である。
【図6】放射温度計の構成を示すブロック図である。
【図7】図6の信号処理部の機能を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0028】
1:XYステージ、2:ベース、3a、3b:リニアモータ、30:貫通孔、31:固定子、311:ヨーク、312:永久磁石、32:可動コイル部材、320:モールド樹脂、321:コイルユニット、4:テーブル、5:Xステージ、
100:放射温度計、110:集光部、120:光電変換部、130:信号処理部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体からなるヨークとこのヨークの内側に所定方向に配列された複数の永久磁石を有し、正弦波状の磁束密度が現出する磁気空隙を有する固定子と、前記磁気空隙内に位置する有効導体部を有する複数のコイルを有する可動コイル部材とを備えたリニアモータの一方の端部側に、前記可動コイル部材の表面温度を測定する放射温度計を設置し、前記ヨークに設けた貫通孔から前記可動コイル部材表面の熱放射を取り出して、前記放射温度計に入射させることを特徴とするコイル温度測定方法。
【請求項2】
前記放射温度計は、可動コイル部材の熱放射を捕捉する集光部と、前記熱放射を電気信号に変換する焦電検出素子を有する光電変換部と、前記電気信号を増幅して温度として出力する出力部を有することを特徴とする請求項1に記載のコイル温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−244148(P2009−244148A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92069(P2008−92069)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(393027383)NEOMAX機工株式会社 (46)
【Fターム(参考)】