説明

コイル部品の製造方法及びコイル部品

【課題】コアにおけるクラックの発生を抑制でき、かつ粘着性に起因する問題を回避できるコイル部品、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】このコイル部品の製造方法では、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を被覆材料に含有させることにより、被覆部4とコア2との間の熱膨張係数差が小さくなり、熱衝撃が加わったときにコア2の鍔部8,9にクラックが発生することを抑制できる。また、被覆部4が粘着性を呈しない程度の硬さを持つため、粘着性に起因する付着等の問題を回避できる。さらに、固形の樹脂粉末を溶剤で溶かして無機粉末と混合することで、被覆材料の滑らかさが確保され、塗布時の作業性を十分に確保できる。さらに、被覆部4が多孔質体となることで、巻線3の周辺の空気が逃げ易く、ピンホールの発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品の製造方法及びコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線型のコイル部品として、巻芯部と当該巻芯部の両端に配置された一対の鍔部とを有するコア(いわゆる、ドラム型コア)と、巻芯部に巻回された巻線と、巻線を覆いつつ一対の鍔部の間の空間に充填された被覆部とを備えたものが知られている。従来、被覆部を形成する被覆材料には、比較的高いガラス転移点(80℃〜120℃)を持つ硬い樹脂が用いられていたが、被覆部とコアとの間の熱膨張係数の差異により、熱衝撃が加わったときにコアの鍔部にクラックが発生し易いという問題があった。
【0003】
そこで、上述の樹脂に比べて低いガラス転移点(例えば−20℃)を持つ柔らかい樹脂を被覆材料に用いたコイル部品として、例えば特許文献1に記載の面実装コイル部品がある。このコイル部品では、ガラス転移点が−20℃以下の磁性粉含有外装樹脂を被覆材料として用いることにより、コアの鍔部におけるクラックの発生を抑制している。
【特許文献1】特開2005−210055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したようなガラス転位点の低い被覆材料を用いた場合であっても、クラック抑制効果が得られるのは鍔部間の距離が1mm以下程度のコイル部品に限られ、鍔部間の距離が数mm以上のコイル部品では、クラック抑制効果が十分でないことがわかってきた。
【0005】
これに加え、ガラス転位点の低い被覆材料を用いた被覆部では、その柔らかさに起因して粘着性を呈するため、壁面へのキャリアテープ・ゴミ等の付着、コイル部品同士の付着、傷や変形が生じやすいといった問題があった。また、巻線の周辺に閉じ込められた空気が逃げにくく、被覆材料を乾燥・硬化させる際、まとまった体積の空気が外部に逃げる際の通り道がピンホールとなって被覆部に残ってしまうという問題があった。これらの問題は鍔部間の距離が大きくなるほど顕著に発生するため、解決すべき技術的課題となっていた。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、コアにおけるクラックの発生を抑制でき、かつ粘着性に起因する問題を回避できるコイル部品、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、本発明に係るコイル部品の製造方法は、巻芯部及び巻芯部の両端に配置された一対の鍔部を有するコアと、巻芯部に巻き回された巻線と、巻線を覆うように鍔部に挟まれた領域に設けられた被覆部と、を備えたコイル部品の製造方法であって、樹脂粉末と無機粉末と溶剤とを混合し、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を含有する被膜材料を準備する工程と、巻線を覆うように鍔部に挟まれた領域に被膜材料を塗布し、これを乾燥及び硬化させて被覆部を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0008】
このコイル部品の製造方法では、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を被覆材料に含有させることにより、被覆部とコアとの間の熱膨張係数差が十分に小さくなり、熱衝撃が加わったときにコアの鍔部にクラックが発生することを抑制できる。被覆材料に無機粉末を十分に含有させることで、被覆部が粘着性を呈しない程度の硬さを持つため、粘着性に起因する付着等の問題を回避できる。また、固形の樹脂粉末を溶剤で溶かして無機粉末と混合することで被覆材料の滑らかさが確保され、塗布時の作業性を十分に確保できる。さらに、このコイル部品の製造方法では、被覆材料を乾燥させる際、被覆材料に豊富に含まれる無機粉末同士が樹脂で覆われて互いに結合することにより、多孔質体が形成される。このため、巻線の周辺に閉じ込められていた空気が逃げ易くなっており、ピンホールの発生を防止できる。
【0009】
また、樹脂粉末のガラス転移点は、80℃以上であることが好ましい。この場合、被覆部の粘着性がより確実に抑えられる。
【0010】
また、溶剤の沸点は、100℃〜160℃であることが好ましい。沸点が100℃未満の溶剤を用いると、巻線のワイヤ被膜を侵食してしまうおそれがある。また、沸点が160℃を超える溶剤を用いると、被覆材料が乾燥しにくくなるおそれがある。したがって、上記範囲の沸点を有する溶剤を用いることにより、ワイヤ被膜の侵食を抑え、かつ乾燥性に優れた被膜材料を形成できる。
【0011】
また、無機粉末は、水酸化アルミニウムを含むことが好ましい。こうすると、被覆材料中での無機粉末の沈降を防止できる。また、被覆材料の難燃性を高めることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係るコイル部品は、巻芯部及び巻芯部の両端に配置された一対の鍔部を有するコアと、巻芯部に巻き回された巻線と、巻線を覆うように鍔部に挟まれた領域に設けられた被覆部と、を備えたコイル部品であって、被覆部は、樹脂粉末と無機粉末と溶剤とを混合し、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を含有する被膜材料を、巻線を覆うように鍔部に挟まれた領域に被膜材料を塗布し、これを乾燥及び硬化させることにより多孔質体となっていることを特徴としている。
【0013】
このコイル部品では、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を被覆材料に含有させることにより、被覆部とコアとの間の熱膨張係数差が十分に小さくなり、熱衝撃が加わったときにコアの鍔部にクラックが発生することを抑制できる。被覆材料に無機粉末を十分に含有させることで、被覆部が粘着性を呈しない程度の硬さを持つため、粘着性に起因する付着等の問題を回避できる。また、固形の樹脂粉末を溶剤で溶かして無機粉末と混合することで被覆材料の滑らかさが確保され、塗布時の作業性を十分に確保できる。さらに、このコイル部品では、被覆材料を乾燥させる際、被覆材料に豊富に含まれる無機粉末同士が樹脂で覆われて互いに結合することにより、被覆部が多孔質体となっている。このため、巻線の周辺に閉じ込められていた空気が逃げ易くなっており、ピンホールの発生を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コアにおけるクラックの発生を抑制でき、かつ粘着性に起因する問題を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るコイル部品及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係るコイル部品の製造方法を用いて製造されたコイル部品の一例を示す斜視図である。また、図2は、図1に示すコイル部品を反対側から示す斜視図であり、図3は、図1におけるIII−III線断面図である。図1及び図2に示すように、コイル部品1は、ドラム型のコア2と、巻線3と、被覆部4と、一対の端子電極5,6とを備えている。
【0017】
コア2は、例えばフェライト等の磁性材料によって形成され、図3に示すように、柱状の巻芯部7と、巻芯部7の両端に形成された一対の鍔部8,9とを有している。一対の鍔部8,9は、平面視において例えば正八角形状をなしており、略平行の状態で巻芯部7の周方向に張り出している。鍔部8,9間の間隔Lは、例えば2.6mmとなっている。
【0018】
巻線3は、例えば直径0.1mm程度のワイヤである。巻線3の金属導体には例えば銅が用いられ、被覆には例えばウレタンが用いられる。巻線3は、巻芯部7の外周部分に巻き回され、コア2における一対の鍔部8,9に挟まれた領域内に収容されている。巻線3とコア2とは、コイル部品1のコイル部10を構成している(図3参照)。
【0019】
被覆部4は、巻芯部7に巻き回されている巻線3を覆うように、一対の鍔部8,9に挟まれた領域に配置されている。被覆部4の外周面は、鍔部8,9の周面と同位置、或いはこれよりも内側(巻芯部7側)に位置している。被覆部4は、樹脂粉末と無機粉末と溶剤とが混合されて無機粉末を85wt%〜95wt%の範囲で含有する被膜材料を乾燥及び硬化させることにより形成され、多孔質体となっている。被覆部4の形成の詳細は後述する。
【0020】
一対の端子電極5,6は、一方の鍔部9に対して配置されている。端子電極5は、鍔部9の主面の一方側の領域と、これに繋がる周面とにわたって形成されており、端子電極6は、端子電極5と離間した状態で鍔部9の主面の他方側の領域と、これに繋がる周面とにわたって形成されている。そして、端子電極5,6は、接着又はカシメなどによって鍔部9に強固に固定されている。
【0021】
端子電極5には、巻線3の一方端が接続されており、端子電極6には、巻線3の他方端が接続されている。巻線3の各端部は、対応する端子電極5,6の継線部11,12に絡げられた状態でレーザ溶接又はアーク溶接などによって固定されている。コイル部品1では、端子電極5,6が設けられた鍔部9の主面が、外部基板などの実装面に対向する面となる。なお、コア2に銀を直接焼き付けたものにニッケルとスズのメッキを施すことによって端子電極5,6を形成し、熱圧着によって巻線3の各端部を継線部11,12に固定してもよい。
【0022】
続いて、上述したコイル部品1の製造方法について説明する。
【0023】
まず、上述したドラム型のコア2を成型又は機械加工により形成する。次に、コア2の巻芯部7の周面に巻線3を巻き回し、コイル部10を形成する。なお、巻線3は、一方向に巻き回してもよく、巻線3を複数本用いる場合には、交差する方向に巻き回してもよい。巻線3を巻き回した後、コア2の一方の鍔部9に端子電極5,6を取り付け、巻線3の両端部を端子電極5,6の継線部11,12にそれぞれ溶接する。
【0024】
次に、被覆部4を形成するための被覆材料として、樹脂粉末、無機粉末、及び溶剤を混合し、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を含有する被膜材料を準備する。樹脂粉末としては、例えばエポキシ樹脂(主剤)とフェノール樹脂(硬化剤)を含み、ガラス転移点が例えば80℃〜120℃のものを用いることができる。また、樹脂粉末は、フェノール樹脂のみからなるものであってもよい。
【0025】
無機粉末としては、例えばフェライト粉末、シリカ粉末、アルミナ粉末などを用いる。また、これらの粉末とは別に水酸化アルミニウム粉末を用いる。各無機粉末の粒径は、平均粒径10μm〜20μm程度であることが好ましく、粒径が100μmを超える粉末がふくまれていないことが好ましい。
【0026】
また、溶剤としては、沸点が100℃〜160℃であり、巻線の被覆であるウレタンを侵食しないものを用いる。好適な溶剤としては、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点149℃)があるが、その他のフェノール、クレゾール、多価アルコールを用いることもできる。
【0027】
樹脂粉末と無機粉末との含有量は、溶剤を除いた被覆材料の合計質量に対して、例えばエポキシ樹脂7wt%、フェノール樹脂3wt%、フェライト粉末50wt%、シリカ粉末26wt%、水酸化アルミニウム14wt%とする。この場合、10wt%の樹脂粉末に対して90wt%無機粉末が含まれることとなる。溶剤の含有量は、被覆材料全体の合計質量に対して、例えば樹脂粉末及び無機粉末83wt%、溶剤17wt%とする。なお、樹脂粉末には、微量の硬化促進剤を添加してもよい。
【0028】
次に、準備した被覆材料を一対の鍔部8,9に挟まれた領域内に供給し、巻線3を覆うように被覆材料を塗布する。その後、コイル部10を所定の装置に投入し、被覆材料を乾燥・硬化させる。乾燥工程は、例えば80℃の温度で30分間実施する。これにより、被覆材料中の溶剤が揮発すると共に、樹脂成分で覆われた無機粉末同士が互いに結合し、多孔質体が形成される。また、硬化工程は、例えば150℃の温度で30分間実施する。これにより、被覆材料が硬化して被覆部4が形成され、図1〜図3に示したコイル部品1が完成する。
【0029】
以上説明したように、このコイル部品の製造方法では、5wt%〜15wt%の樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の無機粉末を被覆材料に含有させることにより、被覆部4とコア2との間の熱膨張係数差が十分に小さくなり、熱衝撃が加わったときにコア2の鍔部8,9にクラックが発生することを抑制できる。被覆材料に無機粉末を十分に含有させることで、被覆部4が粘着性を呈しない程度の硬さを持つため、壁面へのキャリアテープ・ゴミ等の付着、コイル部品同士の付着、傷や変形が生じやすいといった粘着性に起因する問題を回避できる。また、固形の樹脂粉末を溶剤で溶かして無機粉末と混合することで、被覆材料の滑らかさが確保され、塗布時の作業性を十分に確保できる。
【0030】
従来のように、例えば−20℃程度の低いガラス転移点を持つ柔らかい樹脂を被覆材料に用いると、粘着性を呈する樹脂で巻線が密封された状態となる。このため、巻線の周辺に閉じ込められた空気が逃げにくく、図4に示すように、被覆材料を乾燥・硬化させる際、まとまった体積の空気が突沸して外部に逃げる際の通り道がそのまま硬化し、ピンホールPとなって被覆部に残ってしまうという問題があった。
【0031】
これに対し、このコイル部品の製造方法では、被覆材料中に無機粉末を豊富に含ませることに加え、固形の樹脂粉末と溶剤とを含有させることにより、被覆材料を乾燥させる際、被覆材料に豊富に含まれる無機粉末同士が樹脂で覆われて互いに結合し、図5に示すように、多孔質体Sが形成される。このため、巻線3の周辺に閉じ込められていた空気が逃げ易くなっており、ピンホールの発生を防止できる。
【0032】
また、本実施形態では、樹脂粉末のガラス転移点が80℃〜120℃であることにより、被覆部4の粘着性がより確実に抑えられるほか、無機粉末として水酸化アルミニウムを含むことにより、被覆材料中での無機粉末の沈降を防止、及び被覆材料の難燃性の向上が図られている。
【0033】
また、本実施形態では、沸点が149℃のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを溶剤として用いている。沸点が100℃未満の溶剤を用いると、巻線3のワイヤ被膜であるウレタンを侵食してしまうおそれがある。また、沸点が160℃を超える溶剤を用いると、被覆材料が乾燥しにくくなるおそれがある。したがって、上記の溶剤を用いることにより、ワイヤ被膜の侵食を抑え、かつ被覆材料の乾燥性を担保できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るコイル部品の製造方法を適用して製造されるコイル部品の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示したコイル部品を反対側から示す斜視図である。
【図3】図1におけるIII−III線断面図である。
【図4】従来の被覆材料を用いた場合の被覆部の様子を示した概念図である。
【図5】本実施形態の被覆材料を用いた場合の被覆部の様子を示した概念図である。
【符号の説明】
【0035】
1…コイル部品、2…コア、3…巻線、4…被覆部、7…巻芯部、8,9…鍔部、S…多孔質体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部及び前記巻芯部の両端に配置された一対の鍔部を有するコアと、
前記巻芯部に巻き回された巻線と、
前記巻線を覆うように前記鍔部に挟まれた領域に設けられた被覆部と、
を備えたコイル部品の製造方法であって、
樹脂粉末と無機粉末と溶剤とを混合し、5wt%〜15wt%の前記樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の前記無機粉末を含有する被膜材料を準備する工程と、
前記巻線を覆うように前記鍔部に挟まれた領域に前記被膜材料を塗布し、これを乾燥及び硬化させて前記被覆部を形成する工程と、を含むことを特徴とするコイル部品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂粉末のガラス転移点は、80℃以上であることを特徴とする請求項1記載のコイル部品の製造方法。
【請求項3】
前記溶剤の沸点は、100℃〜160℃であることを特徴とする請求項1又は2記載のコイル部品の製造方法。
【請求項4】
前記無機粉末は、水酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のコイル部品の製造方法。
【請求項5】
巻芯部及び前記巻芯部の両端に配置された一対の鍔部を有するコアと、
前記巻芯部に巻き回された巻線と、
前記巻線を覆うように前記鍔部に挟まれた領域に設けられた被覆部と、
を備えたコイル部品であって、
前記被覆部は、
樹脂粉末と無機粉末と溶剤とを混合し、5wt%〜15wt%の前記樹脂粉末に対して85wt%〜95wt%の前記無機粉末を含有する被膜材料を、前記巻線を覆うように前記鍔部に挟まれた領域に前記被膜材料を塗布し、これを乾燥及び硬化させることにより多孔質体となっていることを特徴とするコイル部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−98182(P2010−98182A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268972(P2008−268972)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】