説明

コネクタ

【課題】ハウジングとフロントリテーナの相対変位に起因する不具合を防止する。
【解決手段】コネクタ10F,10Mは、ハウジング11F,11Mの前面と対向するように配置される前面壁26F,26Mと、組付け状態で撓み空間14F,14Mに嵌入される検知部27F,27Mとを有するフロントリテーナ25F,25Mと、ハウジング11F,11Mとフロントリテーナ25F,25Mに形成され、互いに当接することで、ハウジング11F,11Mとフロントリテーナ25F,25Mの組付け方向と交差する方向への相対変位を規制する規制部41F,42F,43F,44F,41M,42M,43M,44Mとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハウジングに対し前方からフロントリテーナを組み付けて構成されるコネクタが開示されている。ハウジングには、端子金具が挿入されるキャビティと、端子金具の挿入過程で端子金具の挿入経路外へ退避するように弾性撓みし、端子金具がキャビティに正規挿入されると弾性復帰して端子金具を抜止めするランスと、ハウジングの前面に開口して形態であってランスを弾性撓みさせるための撓み空間とが形成されている。フロントリテーナには、組付け状態でハウジングの前面を覆う前面壁と、組付け状態で撓み空間に嵌入される検知部とが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−73936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このコネクタでは、ハウジングがフロントリテーナに対して組付け方向と交差する方向に相対変位した場合、次のような不具合を生じる。フロントリテーナががたつくことによって異音が発生する。また、フロントリテーナの前面壁が変位すると、前面壁を貫通している雄端子金具のタブが追従変位し、このタブと雌端子金具との間の接触圧が不安定となる虞もある。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ハウジングとフロントリテーナの相対変位に起因する不具合を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、内部にキャビティが形成されたハウジングと、後方から前記キャビティ内に挿入される端子金具と、前記ハウジングに形成され、前記端子金具の挿入過程では前記端子金具の挿入経路外へ退避するように弾性撓みし、前記端子金具が前記キャビティに正規挿入されると弾性復帰して前記端子金具を抜止めするランスと、前記ハウジングの前面に開口するように形成され、前記ランスを弾性撓みさせるための撓み空間と、前記ハウジングに対して前方から組み付けられ、組付け状態で前記ハウジングの前面と対向するように配置される前面壁と、組付け状態で前記撓み空間に嵌入される検知部とを有するフロントリテーナと、前記ハウジングと前記フロントリテーナに形成され、互いに当接することで、前記ハウジングと前記フロントリテーナの組付け方向と交差する方向への相対変位を規制する規制部とを備えているところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記端子金具が、相手側端子のタブを収容する角筒部を有する雌形のものであり、前記ハウジングには、前記キャビティが開口する前面から前方へ突出した形態であって、突出端面が前記ハウジングの寸法設定時の基準面となっている突出部が形成され、前記規制部が、前記突出部の内面と、前記前面壁の外面とに形成されているところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記端子金具が、前端にタブを有する雄形のものであり、前記ハウジングには、前記タブを包囲するフード部が形成されており、前記規制部が、前記フード部の内面と、前記前面壁の外面に形成されているところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記規制部が、前記撓み空間における前記ランスとの対向面と、前記検知部における前記ランスとは反対側の外面に形成されているところに特徴を有する。
【0009】
請求項5の発明は、請求項4に記載のものにおいて、前記検知部が前記撓み空間に嵌入する過程で、前記規制部同士の当接により、前記ランスが前記端子金具との係止代を増大させる方向へ変位させられる構成としたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
<請求項1の発明>
ハウジングにフロントリテーナを組み付けると、規制部同士の当接により、ハウジングとフロントリテーナが組付け方向と交差する方向へ相対変位するのが規制される。これにより、ハウジングとフロントリテーナの相対変位に起因する不具合を防止することができる。
【0011】
<請求項2の発明>
既存の突出部を利用してハウジング側の規制部を形成したので、突出部とは別の専用部位に規制部を形成する場合に比べると、ハウジングの形状の簡素化を図ることができる。
【0012】
<請求項3の発明>
既存のフード部を利用してハウジング側の規制部を形成したので、フード部とは別の専用部位に規制部を形成する場合に比べると、ハウジングの形状の簡素化を図ることができる。
【0013】
<請求項4の発明>
ランスを弾性撓みさせるための撓み空間に検知部が嵌入する構造を利用し、この既存の撓み空間と検知部に規制部を形成した。本発明によれば、撓み空間及び検知部とは別の専用部位に規制部を形成する場合に比べると、ハウジング及びフロントリテーナの形状の簡素化を図ることができる。
【0014】
<請求項5の発明>
検知部が撓み空間に嵌入すると、規制部同士が当接することにより、ランスと端子金具との係止代が大きくなるので、ランスによる端子金具の抜止め機能の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の雌側コネクタの正面図
【図2】雌側フロントリテーナを雌側ハウジングに本係止した状態をあらわす図1のA−A線断面図
【図3】雌側フロントリテーナを雌側ハウジングに仮係止した状態をあらわす図1のA−A線断面図
【図4】雌側ハウジングの正面図
【図5】雌側フロントリテーナの正面図
【図6】雌側フロントリテーナの平面図
【図7】図5のB−B線断面図
【図8】雄側コネクタの正面図
【図9】雄側フロントリテーナを雄側ハウジングに本係止した状態をあらわす図8のC−C線断面図
【図10】雄側フロントリテーナを雄側ハウジングに仮係止した状態をあらわす図8のC−C線断面図
【図11】雄側ハウジングの正面図
【図12】雄側フロントリテーナの正面図
【図13】雄側フロントリテーナの平面図
【図14】図12のD−D線断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1〜図14を参照して説明する。本実施形態のコネクタは、互いに嵌合可能な雌側コネクタ10Fと雄側コネクタ10Mとから構成されている。
【0017】
<雌側コネクタ10F>
図2,3に示すように、雌側コネクタ10Fは、合成樹脂製の雌側ハウジング11F(本発明の構成要件であるハウジング)と、複数の雌端子金具20F(本発明の構成要件である端子金具)と、合成樹脂製の雌側フロントリテーナ25F(本発明の構成要件であるフロントリテーナ)を組み付けて構成されている。
【0018】
<雌側ハウジング11F>
雌側ハウジング11Fは全体としてブロック状をなす。図2,3に示すように、雌側ハウジング11F内には、雌側ハウジング11Fを前後方向に貫通する複数のキャビティ12Fが、上下2段に分かれて整列して形成されている。上段のキャビティ12F内には、その上面壁に沿って前方へ片持ち状に突出した形態のランス13Fが形成されている。雌側ハウジング11F内における上段側のランス13Fより上方の空間は、ランス13Fが上方(キャビティ12Fに対する雌端子金具20Fの挿入経路外へ退避する方向)へ弾性撓みさせるための撓み空間14Fとなっている。一方、下段のキャビティ12F内には、その下面壁に沿って前方へ片持ち状に突出した形態のランス13Fが形成されている。雌側ハウジング11F内における下段側のランス13Fより下方の空間は、ランス13Fが下方(キャビティ12Fに対する雌端子金具20Fの挿入経路外へ退避する方向)へ弾性撓みさせるための撓み空間14Fとなっている。これらの撓み空間14Fは、雌側ハウジング11Fの前面に開口している。
【0019】
図2,3に示すように、雌側ハウジング11Fには、その上面を凹ませるとともに雌側ハウジング11Fの前後両面に解放された形態の収容凹部15Fが形成されている。図4に示すように、上下方向における収容凹部15Fの形成範囲は、上段のキャビティ12Fと対応する領域であり、左右方向における収容凹部15Fの形成範囲は、雌側ハウジング11Fの中央部に近い位置である。この収容凹部15F内には、雌側ハウジング11Fと雄側ハウジング11Mを嵌合状態にロックするためのロックアーム16Fが設けられている。図4に示すように、ロックアーム16Fは、前後方向に長く延びていて、その前端部の左右一対の連結部17Fを介して収容凹部15Fの左右両内側壁に連なっている。ロックアーム16Fは、常には連結部17Fの剛性によってロック位置に保持されているが、連結部17Fを支点として下方のロック解除位置へ弾性撓みし得るようになっている。また、収容凹部15F,15Mにおけるロックアーム16Fよりも下方の領域には、雌側フロントリテーナ25Fを仮係止位置と本係止位置に保持するための係止部18Fが形成されている。
【0020】
<雌端子金具20F>
図2,3に示すように、雌端子金具20Fは、全体として前後方向に細長い形状である。雌端子金具20Fの前端部には、後述する雄端子金具20Mの先端のタブ22Mを収容するための角筒部21Fが形成されている。角筒部21F内には、上下方向に弾性撓み可能な周知形態の弾性接触片(図示省略)が収容されている。角筒部21Fの後端縁は、ランス13Fを係止させるための抜止部23Fとなっている。雌端子金具20Fの後端部には電線24Fが接続されている。雌端子金具20Fは、後方からキャビティ12F内に挿入される。雌端子金具20Fの挿入過程では、ランス13Fが、角筒部21Fに押されて撓み空間14F側へ弾性撓みする。そして、雌端子金具20Fが正規の挿入位置に到達すると、ランス13Fが弾性復帰して抜止部23Fに係止し、この係止作用によって雌端子金具20Fが抜止め状態に保持される。
【0021】
<雌側フロントリテーナ25F>
図5〜7に示すように、雌側フロントリテーナ25Fは、前面壁26Fと、前面壁26Fから後方へ片持ち状に突出する複数の検知部27Fと、前面壁26Fから後方へ片持ち状に突出する係止アーム28Fとを一体に形成して構成されている。前面壁26Fには、各キャビティ12Fと対応する複数の受入孔29Fが貫通して形成されている。雌側フロントリテーナ25Fは、雌側ハウジング11Fに対し前方から組み付けられる。組み付けられた雌側フロントリテーナ25Fは、係止アーム28Fと係止部18Fとの係止(係止状態の図示は省略する)により、組付けの浅い仮係止位置(図3を参照)と、仮係止位置よりも深く組み付けられた本係止位置(図2を参照)とのいずれかの位置に保持される。
【0022】
雌側フロントリテーナ25Fが仮係止位置に保持されている状態(雌側フロントリテーナ25Fの組付けが不完全な状態)では、前面壁26Fが、雌側ハウジング11Fの前面に対し間隔を空けて対向する。また、検知部27Fは、ランス13F及び撓み空間14Fに対して前方へ外れた位置にあり、ランス13Fが撓み空間14F側へ弾性撓みすることができるため、キャビティ12Fに対する雌端子金具20Fの挿入を行うことができる。雌側フロントリテーナ25Fが本係止位置に保持されている状態(雌側フロントリテーナ25Fが完全に組み付けられた状態)では、前面壁26Fが、雌側ハウジング11Fの前面に対し接近して対向した状態又は当接した状態となる。また、検知部27Fが撓み空間14F内に進入するので、ランス13Fは撓み空間14F側へ弾性撓みすることができなくなる。これにより、ランス13Fは雌端子金具20Fに係止した状態にロックされ、雌端子金具20Fは確実に抜止めされる。
【0023】
また、いずれかのキャビティ12Fにおいて雌端子金具20Fが正規の挿入位置に到達せずに半挿入位置に留まっている場合は、その半挿入状態の雌端子金具20Fに押されたランス13Fが弾性撓みして撓み空間14F内に進入した状態となる。したがって、半挿入状態の雌端子金具20Fが存在している状態で、雌側フロントリテーナ25Fを仮係止位置から本係止位置へ押し込もうとした場合には、組付けの途中で、撓み空間14F内に進入しているランス13Fに検知部27Fが突き当たり、それ以上の組付け動作が規制される。このように組付け動作が規制されることにより、半挿入状態の雌端子金具20Fが存在することを検知できる。
【0024】
<規制部41F,42F,43F,44F>
この雌側コネクタ10Fには、雌側フロントリテーナ25Fが雌側ハウジング11Fに対して組付け方向と交差する上下方向へ相対変位するのを規制するための規制部41F,42F,43F,44Fが形成されている。この規制部41F,42F,43F,44Fによる変位規制の方向は、雌端子金具20Fの弾性接触片の弾性撓み方向と同じ方向であり、弾性接触片とタブ22Mが接触圧を生じさせるために弾性的に当接する方向と平行な方向である。
【0025】
規制部41F,42F,43F,44Fは、雌側ハウジング11Fと雌側フロントリテーナ25Fの双方に形成されている。ロックアーム16Fの前端部は、ハウジングの前面よりも前方へ突出した突出部30となっている。この突出部30の前端面(突出端面)は、雌側ハウジング11Fの各部位の寸法を設定する際の基準面31となっている。そして、突出部30の下面が、雌側ハウジング11F側の上方変位規制部41Fとなっている。一方、雌側フロントリテーナ25Fの前面壁26Fには、その上端縁におけるロックアーム16F(突出部30)との対応部分を除去した形態の切欠部32が形成されている。そして、この切欠部32の上面が、雌側フロントリテーナ25F側の上方変位規制部42Fとなっている。
【0026】
雌側フロントリテーナ25Fが仮係止位置にある状態では、前面壁26Fが突出部30よりも前方に位置するので、雌側フロントリテーナ25Fの上方変位規制部41Fと雌側ハウジング11Fの上方変位規制部42Fとは前後方向(雌側フロントリテーナ25Fの組付け方向と平行な方向)において非対応の位置関係となっている。雌側フロントリテーナ25Fが本係止位置へ移動すると、前面壁26Fの前面が基準面31と面一の位置関係となり、切欠部32内に突出部30が嵌合し、突出部30の上方変位規制部41Fの下面と、前面壁26Fの上方変位規制部42Fの上面とが上下方向に当接する。この規制部421F,42F同士の当接により、雌側フロントリテーナ25Fは雌側ハウジング11Fに対して上方へ相対変位することを規制される。
【0027】
また、下段側の撓み空間14Fの下面、即ちランス13Fの下面と対応する面は、雌側ハウジング11F側の下方変位規制部43Fとなっている。この撓み空間14Fの下方変位規制部43Fは、撓み空間14Fよりも前方の空間の下面に対して僅かに高くなっている。一方、下段側の検知部27Fの後端部の下面、即ちランス13Fとは反対側の面は、雌側フロントリテーナ25F側の下方変位規制部44Fとなっている。この検知部27Fの下方変位規制部44Fは、下方変位規制部44Fより前方の領域の下面に対して僅かに低くなっている。
【0028】
雌側フロントリテーナ25Fが仮係止位置にある状態では、検知部27Fが撓み空間14Fよりも前方に位置するので、雌側フロントリテーナ25Fの下方変位規制部44Fと雌側ハウジング11Fの下方変位規制部43Fとは前後方向(雌側フロントリテーナ25Fの組付け方向と平行な方向)において非対応の位置関係となっている。雌側フロントリテーナ25Fが本係止位置へ移動すると、検知部27Fが撓み空間14F内に進入し、検知部27Fの下方変位規制部44Fと、撓み空間14Fの下方変位規制部43Fとが上下方向に当接する。この規制部43F,44F同士の当接により、雌側フロントリテーナ25Fは雌側ハウジング11Fに対して下方へ相対変位することを規制される。
【0029】
尚、図3に示すように、突出部30の上方変位規制部41Fの前端部と、前面壁26Fの上方変位規制部42Fの後端部には、夫々、雌側フロントリテーナ25Fの組付け方向に対して斜め方向の誘導面45Fが形成されている。また、撓み空間14Fの下方変位規制部43Fの前端部と、検知部27Fの下方変位規制部44Fの後端部にも、夫々、雌側フロントリテーナ25Fの組付け方向に対して斜め方向の誘導面(図示省略)が形成されている。したがって、雌側フロントリテーナ25Fの組付け過程では、誘導面45F同士の傾斜により、雌側フロントリテーナ25Fが仮係止位置から本係止位置へ円滑に移動できるとともに、双方の規制部41Fと42F,43Fと44Fが当接状態へ円滑に移行することができる。
【0030】
<雄側コネクタ10M>
図9,10に示すように、雄側コネクタ10Mは、合成樹脂製の雄側ハウジング11M(本発明の構成要件であるハウジング)と、複数の雄端子金具20M(本発明の構成要件である端子金具)と、合成樹脂製の雄側フロントリテーナ25M(本発明の構成要件であるフロントリテーナ)とを組み付けて構成されている。
【0031】
<雄側ハウジング11M>
雄側ハウジング11M内には、雄側ハウジング11Mを前後方向に貫通する複数のキャビティ12Mが、上下2段に分かれて整列して形成されている。上段のキャビティ12M内には、その上面壁に沿って前方へ片持ち状に突出した形態のランス13M(図示省略)が形成されている。雄側ハウジング11M内における上段側のランス13Mより上方の空間は、ランス13Mが上方(キャビティ12Mに対する雄端子金具20Mの挿入経路外へ退避する方向)へ弾性撓みさせるための撓み空間14M(図示省略)となっている。一方、下段のキャビティ12M内には、その下面壁に沿って前方へ片持ち状に突出した形態のランス13Mが形成されている。雄側ハウジング11M内における下段側のランス13Mより下方の空間は、ランス13Mが下方(キャビティ12Mに対する雄端子金具20Mの挿入経路外へ退避する方向)へ弾性撓みさせるための撓み空間14Mとなっている。これらの撓み空間14Mは、雄側ハウジング11Mの前面に開口している。
【0032】
雄側ハウジング11Mには、その前端部外周縁から前方へ角筒状に突出した形態のフード部15Mが形成されている。フード部15Mを構成する上壁部には、前後方向に延びる左右一対のリブ34と、両リブ34の前端部同士を連結した形態のロック突起16Mとが形成されている。ロック突起16Mは、上下方向及び左右方向においてロックアーム16Fと対応する位置に配置されている。また、図11に示すように、雄側ハウジング11Mにおけるロック突起16Mよりも下方の位置には、雄側フロントリテーナ25Mを仮係止位置と本係止位置に保持するための係止部18Mが形成されている。
【0033】
<雄端子金具20M>
図9,10に示すように、雄端子金具20Mは、全体として前後方向に細長い形状である。雄端子金具20Mの前端部には、角筒状の本体部21Mから前方へ突出する細長いタブ22Mが形成されている。本体部21Mの後端縁は、ランス13Mを係止させるための抜止部23Mとなっている。雄端子金具20Mの後端部には電線24Mが接続されている。雄端子金具20Mは、後方からキャビティ12M内に挿入される。雄端子金具20Mの挿入過程では、ランス13Mが、本体部21Mに押されて撓み空間14M側へ弾性撓みする。そして、雄端子金具20Mが正規の挿入位置に到達すると、ランス13Mが弾性復帰して抜止部23Mに係止し、この係止作用により雄端子金具20Mが抜止め状態に保持される。
【0034】
<雄側フロントリテーナ25M>
図12〜14に示すように、雄側フロントリテーナ25Mは、前面壁26Mと、前面壁26Mから後方へ片持ち状に突出する複数の検知部27Mと、前面壁26Mから後方へ片持ち状に突出する係止アーム28Mとを一体に形成して構成されている。前面壁26Mには、各キャビティ12Mと対応する複数の挿通孔29Mが貫通して形成されている。雄側フロントリテーナ25Mは、雄側ハウジング11Mに対し前方から組み付けられる。組み付けられた雄側フロントリテーナ25Mは、係止アーム28Mと係止部18Mとの係止により、組付けの浅い仮係止位置(図10を参照)と、仮係止位置よりも深く組み付けられた本係止位置(図9を参照)とのいずれかの位置に保持される。いずれの位置においても、タブ22Mは、挿通孔29Mを貫通することによって位置決めされる。
【0035】
雄側フロントリテーナ25Mが仮係止位置に保持されている状態(雄側フロントリテーナ25Mの組付けが不完全な状態)では、前面壁26Mが、雄側ハウジング11Mの前面に対し間隔を空けて対向する。また、検知部27Mが、ランス13M及び撓み空間14Mに対して前方へ外れた位置にあり、ランス13Mが撓み空間14M側へ弾性撓みすることができるため、キャビティ12Mに対する雄端子金具20Mの挿入を行うことができる。雄側フロントリテーナ25Mが本係止位置に保持されている状態(雄側フロントリテーナ25Mが完全に組み付けられた状態)では、前面壁26Mが、雄側ハウジング11Mの前面に対し接近して対向した状態又は当接した状態となる。また、検知部27Mが撓み空間14M内に進入するので、ランス13Mは撓み空間14M側へ弾性撓みすることができなくなる。これにより、ランス13Mは雄端子金具20Mに係止した状態にロックされ、雄端子金具20Mは確実に抜止めされる。
【0036】
また、いずれかのキャビティ12Mにおいて雄端子金具20Mが正規の挿入位置に到達せずに半挿入位置に留まっている場合は、その半挿入状態の雄端子金具20Mに押されたランス13M弾性撓みして撓み空間14M内に進入した状態となる。したがって、半挿入状態の雄端子金具20Mが存在している状態で、雄側フロントリテーナ25Mを仮係止位置から本係止位置へ押し込もうとした場合には、組付けの途中で、撓み空間14M内に進入しているランス13Mに検知部27Mが突き当たり、それ以上の組付け動作が規制される。このように組付け動作が規制されることにより、半挿入状態の雄端子金具20Mが存在することを検知できる。
【0037】
<規制部41M,42M,43M,44M>
この雄側コネクタ10Mには、雄側フロントリテーナ25Mが雄側ハウジング11Mに対して組付け方向と交差する上下方向へ相対変位するのを規制するための規制部41M,42M,43M,44Mが形成されている。この規制部41M,42M,43M,44Mによる変位規制の方向は、雌端子金具20Fの弾性接触片と雄端子金具20Mのタブ22Mが接触圧を生じさせるために弾性的に当接する方向と平行な方向である。
【0038】
規制部41M,42M,43M,44Mは、雄側ハウジング11Mと雄側フロントリテーナ25Mの双方に形成されている。リブ34の下面における後端部は、雄側ハウジング11M側の上方変位規制部41Mとなっている。一方、雄側フロントリテーナ25Mの前面壁26Mには、その上端縁におけるリブ34及びロック突起16Mとの対応部分を除去した形態の切欠部35が形成されている。そして、この切欠部35の上面が、雄側フロントリテーナ25M側の上方変位規制部42Mとなっている。
【0039】
雄側フロントリテーナ25Mが仮係止位置にある状態では、前面壁26Mが、リブ34の前後方向における略中央部と対応する位置にあり、雄側フロントリテーナ25Mの上方変位規制部42Mと雄側ハウジング11Mの上方変位規制部41Mとは前後方向(雄側フロントリテーナ25Mの組付け方向と平行な方向)において非対応の位置関係となっている。雄側フロントリテーナ25Mが本係止位置へ移動すると、前面壁26Mの前面が雄側ハウジング11Mの前面に接近し、リブ34の上方変位規制部41Mの下面と、前面壁26Mの上方変位規制部42Mの上面とが上下方向に当接する。この規制部41M,42M同士の当接により、雄側フロントリテーナ25Mは雄側ハウジング11Mに対して上方へ相対変位することを規制される。
【0040】
また、下段側の撓み空間14Mの下面、即ちランス13Mの下面と対応する面は、雄側ハウジング11M側の下方変位規制部43Mとなっている。この撓み空間14Mの下方変位規制部43Mは、撓み空間14Mよりも前方の空間の下面に対して僅かに高くなっている。一方、下段側の検知部27Mの後端部の下面、即ちランス13Mと反対側の面は、雄側フロントリテーナ25M側の下方変位規制部44Mとなっている。この検知部27Mの下方変位規制部44Mは、下方変位規制部44Mより前方の領域の下面に対して僅かに低くなっている。
【0041】
雄側フロントリテーナ25Mが仮係止位置にある状態では、検知部27Mが撓み空間14Mよりも前方に位置するので、雄側フロントリテーナ25Mの下方変位規制部44Mと雄側ハウジング11Mの下方変位規制部43Mとは前後方向(雄側フロントリテーナ25Mの組付け方向と平行な方向)において非対応の位置関係となっている。雄側フロントリテーナ25Mが本係止位置へ移動すると、検知部27Mが撓み空間14M内に進入し、検知部27Mの下方変位規制部44Mと、撓み空間14Mの下方変位規制部43Mとが上下方向に当接する。この規制部43M,44M同士の当接により、雄側フロントリテーナ25Mは雄側ハウジング11Mに対して下方へ相対変位することを規制される。
【0042】
尚、前面壁26Mの上方変位規制部42Mの後端部には、雄側フロントリテーナ25Mの組付け方向に対して斜め方向の誘導面45Mが形成されている。また、撓み空間14Mの下方変位規制部43Mの前端部と、検知部27Mの下方変位規制部44Mの後端部にも、夫々、雄側フロントリテーナ25Mの組付け方向に対して斜め方向の誘導面(図示省略)が形成されている。したがって、雄側フロントリテーナ25Mの組付け過程では、誘導面45Mの傾斜により、雄側フロントリテーナ25Mが仮係止位置から本係止位置へ円滑に移動できるとともに、双方の規制部41Mと42M,43Mと44Mが当接状態へ円滑に移行することができる。
【0043】
<本実施形態の作用及び効果>
雌側ハウジング11Fに対し雌側フロントリテーナ25Fが本係止され、雄側ハウジング11Mに雄側フロントリテーナ25Mが本係止されると、雌側コネクタ10Fと雄側コネクタ10Mが嵌合される。嵌合過程では、タブ22Mが、雌側フロントリテーナ25Fの受入孔29Fを通って雌端子金具20Fの角筒部21F内に挿入され、ロックアーム16Fがロック突起16Mと干渉してロック解除位置へ弾性撓みする。そして、両コネクタ10F,10Mが正規の嵌合状態に至ると、タブ22Mと弾性接触片とが弾性的に接触し、ロックアーム16Fが弾性復帰してロック突起16Mと係止する。ロックアーム16Fとロック突起16Mの係止により、両コネクタ10F,10Mが正規嵌合状態にロックされる。
【0044】
本実施形態では、雌側ハウジング11Fに雌側フロントリテーナ25Fを組み付けると、規制部41Fと42F,43Fと44Fの当接により、雌側ハウジング11Fと雌側フロントリテーナ25Fが組付け方向と交差する上下方向へ相対変位するのが規制される。これにより、雌側ハウジング11Fと雌側フロントリテーナ25Fの相対変位に起因する不具合が防止される。同じく、雄側ハウジング11Mに雄側フロントリテーナ25Mを組み付けると、規制部41Mと42M,43Mと44Mの当接により、雄側ハウジング11Mと雄側フロントリテーナ25Mが組付け方向と交差する上下方向へ相対変位するのが規制される。これにより、雄側ハウジング11Mと雄側フロントリテーナ25Mの相対変位に起因する不具合が防止される。
【0045】
また、雌側ハウジング11Fには、キャビティ12Fが開口する前面から前方へ突出した形態であって、突出端面が雌側ハウジング11Fの寸法設定時の基準面31となっている突出部30が形成されている。この点に着目し、本実施形態では、上方変位規制部41Fを、突出部30の内面とに形成した。このように、既存の突出部30を利用して雌側ハウジング11F側の上方変位規制部41Fを形成したので、突出部30とは別の専用部位に規制部を形成する場合に比べると、雌側ハウジング11Fの形状の簡素化を図ることができる。
【0046】
また、雄側ハウジング11Mにはタブ22Mを包囲するフード部15Mが形成されている。この点に着目し、本実施形態では、上方変位規制部41Mを、フード部15Mの内面とに形成した。このように、既存のフード部15Mを利用して雄側ハウジング11M側の上方変位規制部41Mを形成したので、フード部15Mとは別の専用部位に規制部を形成する場合に比べると、雄側ハウジング11Mの形状の簡素化を図ることができる。
【0047】
本実施形態では、ランス13F,13Mを弾性撓みさせるための撓み空間14F,14Mに検知部27F,27Mが嵌入するのであるが、この点に着目し、本実施形態では、この既存の撓み空間14F,14Mにおけるランス13F,13Mとの対向面と、既存の検知部27F,27Mにおけるランス13F,13Mとは反対側の外面とに下方変位規制部43F,44F,43M,44Mを形成した。本実施形態によれば、撓み空間14F,14M及び検知部27F,27Mとは別の専用部位に規制部を形成する場合に比べると、ハウジング11F,11M及びフロントリテーナ25F,25Mの形状の簡素化を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態では、検知部27F,27Mが撓み空間14F,14Mに嵌入する過程で、下方変位規制部43Fと44F,43Mと44Mの当接により、ランス13F,13Mが端子金具20F,20Mとの係止代を増大させる方向へ変位させられるようになっている。このように、検知部27F,27Mが撓み空間14F,14Mに嵌入すると、ランス13F,13Mと端子金具20F,20Mとの係止代が大きくなるので、ランス13F,13Mによる端子金具20F,20Mの抜止め機能の信頼性が向上する。つまり、ハウジング11F,11Mに対するフロントリテーナ25F,25Mの相対変位を規制する手段である規制部43F,44F,43M,44Mが、端子金具20F,20Mの抜止め機能の信頼性を向上させる手段を兼ねている。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、雌側ハウジングの規制部を既存の突出部や撓み空間に形成したが、雌側ハウジングの規制部は、突出部や撓み空間とは別の専用部位に形成してもよい。
(2)上記実施形態では、雄側ハウジングの規制部を既存のフード部の内面に形成したが、雄側ハウジングの規制部は、フード部とは別の専用の部位に形成してもよい。
(3)上記実施形態では、検知部が撓み空間に嵌入する過程で、規制部同士の当接により、ランスが端子金具との係止代を増大させる方向へ変位させられる構成としたが、これに替えて、検知部が撓み空間に嵌入する過程で規制部同士が当接しても、ランスが端子金具との係止代を増大させる方向へ変位しない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10F…雌側コネクタ
11F…雌側ハウジング(ハウジング)
12F…キャビティ
13F…ランス
14F…撓み空間
20F…雌端子金具(端子金具)
21F…角筒部
25F…雌側フロントリテーナ(フロントリテーナ)
26F…前面壁
27F…検知部
30…突出部
31…基準面
41F…上方変位規制部(規制部)
42F…上方変位規制部(規制部)
43F…下方変位規制部(規制部)
44F…下方変位規制部(規制部)
10M…雄側コネクタ
11M…雄側ハウジング(ハウジング)
12M…キャビティ
13M…ランス
14M…撓み空間
15M…フード部
20M…雄端子金具(端子金具、相手側端子)
22M…タブ
25M…雄側フロントリテーナ(フロントリテーナ)
26M…前面壁
27M…検知部
41M…上方変位規制部(規制部)
42M…上方変位規制部(規制部)
43M…下方変位規制部(規制部)
44M…下方変位規制部(規制部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にキャビティが形成されたハウジングと、
後方から前記キャビティ内に挿入される端子金具と、
前記ハウジングに形成され、前記端子金具の挿入過程では前記端子金具の挿入経路外へ退避するように弾性撓みし、前記端子金具が前記キャビティに正規挿入されると弾性復帰して前記端子金具を抜止めするランスと、
前記ハウジングの前面に開口するように形成され、前記ランスを弾性撓みさせるための撓み空間と、
前記ハウジングに対して前方から組み付けられ、組付け状態で前記ハウジングの前面と対向するように配置される前面壁と、組付け状態で前記撓み空間に嵌入される検知部とを有するフロントリテーナと、
前記ハウジングと前記フロントリテーナに形成され、互いに当接することで、前記ハウジングと前記フロントリテーナの組付け方向と交差する方向への相対変位を規制する規制部とを備えていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記端子金具が、相手側端子のタブを収容する角筒部を有する雌形のものであり、
前記ハウジングには、前記キャビティが開口する前面から前方へ突出した形態であって、突出端面が前記ハウジングの寸法設定時の基準面となっている突出部が形成され、
前記規制部が、前記突出部の内面と、前記前面壁の外面とに形成されていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
前記端子金具が、前端にタブを有する雄形のものであり、
前記ハウジングには、前記タブを包囲するフード部が形成されており、
前記規制部が、前記フード部の内面と、前記前面壁の外面に形成されていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項4】
前記規制部が、
前記撓み空間における前記ランスとの対向面と、
前記検知部における前記ランスとは反対側の外面に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記検知部が前記撓み空間に嵌入する過程で、前記規制部同士の当接により、前記ランスが前記端子金具との係止代を増大させる方向へ変位させられる構成としたことを特徴とする請求項4記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−16402(P2013−16402A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149625(P2011−149625)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】