説明

コネクタ

【課題】最大設定可能な端子数より少ない数しか使用しない場合にあって、別部品を用いることなく、使用しない端子収容室からのコンミタ物質の拡散を極力防止でき、しかも、使用しない端子収容室に対して相手端子が誤挿入されても、相手端子が変形等のダメージを受けないコネクタを提供する。
【解決手段】雌端子用コネクタハウジング23には、複数の端子収容室28,28Aが設けられ、各端子収容室28,28Aの前面には、雄端子4が挿入される端子挿入口28aが設けられ、各端子収容室28,28Aの後面には電線引出口28bが設けられ、雌端子が収容されない端子収容室28A内には、雄端子4が挿入される誤挿入許容スペース40を囲み、誤挿入許容スペース40内を遮蔽する第1遮蔽壁41が設けられ、且つ、電線引出口28bを遮蔽する第2遮蔽壁42が設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大設定可能な端子収容数より少ない数の端子収容室を使用するコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油中環境に使用されるコネクタは、コンタミネーション問題を解決する構造が要求される。かかる従来のコネクタ装置として、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
この従来のコネクタ装置100は、図5及び図6に示すように、雄端子用コネクタ101と雌端子用コネクタ110から構成される。雄端子用コネクタ101は、前面が開口された相手コネクタ嵌合室103を有する雄端子用コネクタハウジング102と、雄端子用コネクタハウジング102に固定された複数の雄端子104とを有する。各雄端子104の先端側は、相手コネクタ嵌合室103に等間隔で突出されている。
【0004】
雌端子用コネクタ110は、複数の端子収容室112を有する雌端子用コネクタハウジング111と、各端子収容室112に収容された複数の雌端子113とを有する。各端子収容室112は、外壁111aと仕切壁111bによってそれぞれ仕切られている。各端子収容室112の前面には、相手の雄端子104が挿入される端子挿入口114が開口されている。各端子収容室112の後面には、電線(図示せず)を引き出すための電線引出口115が開口されている。又、各端子挿入口114を囲む外壁111aと仕切壁111bの前面は、雄端子用コネクタハウジング102への嵌合状態では、雄端子用コネクタハウジング102の相手コネクタ嵌合室103の奥壁面102aに当接するよう設定されている。
【0005】
上記構成において、コネクタ嵌合状態では、雌端子用コネクタハウジング111の各端子挿入口114の周囲を形成する外壁111aと仕切壁111bが雄端子用コネクタハウジング102の奥壁面102aに当接するため、隣り合う端子収容室112同士は、端子挿入口114及び前面隙間を介して連通しない。又、雌端子用コネクタハウジング111の各電線引出口115は、通常では、電線の外周に装着されたゴム栓(図示せず)でそれぞれ密閉される。各端子収容室112は、このようにして極力遮蔽され、これによりコンタミ物質の端子収容室112への汚染拡大を極力防止する。
【0006】
ところで、コネクタ装置100には、最大設定可能な数より少ない端子収容室112しか使用しない場合がある。このような場合には、使用しない空の端子収容室112に空栓を装着したり、短寸法の電線を加締めたダミー端子を収容する。これにより、使用しない端子収容室112へのコンタミ物質の浸入を極力防止し、コネクタ装置100内へのコンタミ物質の拡散を未然に防止する。雌端子用コネクタハウジング111内へのコンタミ物質の内部拡散は、ショート等の問題を引き起こす要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−27507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、最大設定可能な数より少ない端子収容室しか使用しない場合にあって、空栓の装着やダミー端子の収容で対応するのでは、その手間が面倒であると共に部品コストが掛かるという問題があった。
【0009】
また、空栓等では、電線引出口115からの浸入を防止できるものの、雌端子用コネクタハウジング111と雄端子用コネクタハウジング102間の嵌合隙間から空の端子収容室112へのコンタミ物質の浸入を防止できない。空の端子収容室112に浸入したコンタミ物質は、端子挿入口114に容易に入り込むため、コネクタ装置100内の拡散を有効に防止できない。
【0010】
ここで、空の端子収容室112の端子挿入口114を遮蔽するように遮蔽壁を設けることが考えられる。しかし、空の端子収容室112に対して雄端子104が誤挿入されると、雄端子104が誤挿入によって変形等のダメージを受ける。
【0011】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、最大設定可能な端子数より少ない数しか使用しない場合にあって、別部品を用いることなく、使用しない端子収容室からのコンミタ物質の拡散を極力防止でき、しかも、使用しない端子収容室に対して相手端子が誤挿入されても、相手端子が変形等のダメージを受けないコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、コネクタハウジングには、仕切壁でそれぞれ仕切られた端子収容室が複数設けられ、前記各端子収容室の前面には、相手端子が挿入される端子挿入口が設けられ、前記各端子収容室の後面には電線引出口が設けられていると共に、端子が収容されない前記端子収容室内には、相手端子が挿入される誤挿入許容スペースを囲み、前記誤挿入許容スペース内を遮蔽する第1遮蔽壁が設けられ、且つ、前記電線引出口を遮蔽する第2遮蔽壁が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、端子が収容されない端子収容室に対し、コネクタハウジングの嵌合隙間からコンタミ物質が浸入しても、端子挿入口への浸入が第1遮蔽壁によって阻止される。又、コンタミ物質の電線引出口から端子収容室への浸入が第2遮蔽壁によって阻止され、端子挿入口に浸入しない。以上より、最大設定可能な端子数より少ない端子数しか使用しない場合にあって、別部品を用いることなく、使用しない端子収容室からのコンミタ物質のコネクタハウジング内への拡散を極力防止できる。
【0014】
また、使用しない端子収容室に対して相手端子が誤挿入されても、当該相手端子の挿入が許容されるため、相手端子が誤挿入によって変形等のダメージを受けない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)は雄端子用コネクタの横断面図、(b)は雄端子用コネクタの正面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、(a)は雌端子用コネクタの横断面図、(b)は雌端子用コネクタの正面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、コネクタ装置の嵌合状態の要部縦断面図である。
【図4】(a)は第1比較例の雌端子用コネクタの要部縦断面図、(b)は第2比較例の雌端子用コネクタの要部縦断面図、(c)は第1比較例の雌端子用コネクタに誤挿入の雄端子が挿入された状態を示す要部縦断面図である。
【図5】従来例を示し、(a)は雌端子用コネクタの横断面図、(b)は雌端子用コネクタの正面図、(c)は雄端子用コネクタの横断面図、(b)は雌端子用コネクタの正面図である。
【図6】従来例を示し、コネクタ装置の嵌合状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図3は、本発明の一実施形態を示す。図1及び図2に示すように、コネクタ装置1は、雄端子用コネクタ2と本発明に係るコネクタである雌端子用コネクタ22とから構成される。
【0018】
雄端子用コネクタ2は、雄端子用コネクタハウジング3と、雄端子用コネクタハウジング3内に収容された複数の雄端子4と、雄端子用コネクタハウジング3にスライド装着されたリアホルダ5とを有する。
【0019】
雄端子用コネクタハウジング3には、相手コネクタ嵌合室6が設けられている。相手コネクタ嵌合室6の前面は、外部に開口している。相手コネクタ嵌合室6の上面側の内壁には、コネクタロック溝7が設けられている。
【0020】
雄端子用コネクタハウジング3には、複数の端子収容室8が上下2段設けられている。各段の隣り合う端子収容室8同士は、仕切壁9によってそれぞれ仕切られている。雄端子用コネクタハウジング3は、最大設定端子数が16であり、下段に10個の端子収容室8が、上段に6個の端子収容室8,8Aが配列されている。各端子収容室8内には、弾性変形可能なランス10がそれぞれ突出している。各ランス10は、雄端子用コネクタハウジング3によって一体に設けられている。各端子収容室8,8Aの前面には、端子突出口8aがそれぞれ設けられている。この各端子突出口8aは、相手コネクタ嵌合室6に開口している。各端子収容室8,8Aの後面には、電線引出口8bがそれぞれ設けられている。
【0021】
雄端子用コネクタハウジング3には、後面から見て外周側の全域に亘ってホルダスライド溝11が設けられている。
【0022】
雄端子4は、上段の左右端の端子収容室8Aを除き、各端子収容室8に収容されている。上段の左右端の端子収容室8Aは、使用しない空の室である。つまり、雄端子用コネクタ2は、最大設定収容数(16ピン)より少ない使用数(14ピン)のコネクタである。各雄端子4は、各電線引出口8bより各端子収容室8に挿入される。挿入完了位置まで挿入されると、各ランス10が弾性復帰変形して係止される。これにより、各雄端子4は、電線引出方向への移動が阻止される。各雄端子4の先端部は、端子突出口8aより相手コネクタ嵌合室6にそれぞれ突出している。各端子4は、電線(図示せず)の端部に接続されている。各電線は、電線引出口8bより外部に引き出される。各電線の外周にはゴム栓(図示せず)が装着されている。このゴム栓によって電線引出口8bが封止されている。これで、コンタミ物質は、電線引出口8bより端子収容室8に浸入しないようになっている。
【0023】
リアホルダ5は、ほぼ四角形の枠形状である。リアホルダ5は、雄端子用コネクタハウジング3の後側からホルダスライド溝11にスライド挿入される。リアホルダ5は、スライド完了位置では、ロック爪5aが雄端子用コネクタハウジング3のロック溝12にロックされる。リアホルダ5は、スライド完了位置では、各ランス10の解除方向への移動を規制する。
【0024】
雌端子用コネクタ22は、雌端子用コネクタハウジング23と、雌端子用コネクタハウジング23内に収容された複数の雌端子24と、雌端子用コネクタハウジング23にスライド装着されたリアホルダ25とを有する。
【0025】
雌端子用コネクタ22の上面側には、コネクタロックアーム27が設けられている。このコネクタロックアーム27には、ロック用突部27aと押圧操作部27bが設けられている。
【0026】
雌端子用コネクタハウジング23には、複数の端子収容室28,28Aが上下2段設けられている。各段の隣り合う端子収容室28,28A同士は、仕切壁29によってそれぞれ仕切られている。雌端子用コネクタハウジング23は、最大収容端子数が16であり、下段に10個の端子収容室28が、上段に6個の端子収容室28,28Aが配列されている。各端子収容室28内には、弾性変形可能なランス30がそれぞれ突出している。各ランス30は、雌端子用コネクタハウジング23によって一体に設けられている。各端子収容室28,28Aの前面には、相手端子である雄端子4が挿入する端子挿入口28aがそれぞれ設けられている。この各端子挿入口28aは、雌端子用コネクタハウジング23の前面に開口している。各端子収容室28,28Aの後面には、電線引出口28bがそれぞれ設けられている。
【0027】
雌端子用コネクタハウジング23には、後面から見て外周側の全域に亘ってホルダスライド溝31が設けられている。
【0028】
雌端子24は、上段の左右端の端子収容室28Aを除き、各端子収容室28に収容されている。上段の左右端の端子収容室28Aは、使用しない空の室である。つまり、雌端子用コネクタ22は、最大設定端子数(16ピン)より少ない使用端子数(14ピン)のコネクタである。各雌端子24は、各電線引出口28bより各端子収容室28に挿入される。挿入完了位置まで挿入されると、各ランス30が弾性復帰変形して係止される。これにより、各雌端子24は、電線引出方向への移動が阻止される。各雌端子24は、電線(図示せず)の端部に接続されている。各電線は、電線引出口28bより引き出される。各電線の外周にはゴム栓(図示せず)が装着されている。このゴム栓により、電線引出口28bが封止されている。コンタミ物質は、電線引出口28bより端子収容室28に浸入しないようになっている。
【0029】
リアホルダ25は、ほぼ四角形の枠形状である。リアホルダ25は、雌端子用コネクタハウジング23の後側からホルダスライド溝31にスライド挿入される。リアホルダ25は、スライド完了位置では、ロック爪25aが雌端子用コネクタハウジング23のロック溝32にロックされる。リアホルダ25は、スライド完了位置では、各ランス30の解除方向への移動を規制する。
【0030】
空の端子収容室28Aには、雄端子4の挿入を許容する誤挿入許容スペース40を囲むようにして第1遮蔽壁41が設けられている。第1遮蔽壁41は、誤挿入許容スペース40内を遮蔽している。空の端子収容室28Aには、第1遮蔽壁41より後側の位置で第2遮蔽壁42が設けられている。第2遮蔽壁42は、電線引出口28bを実質的に遮蔽している。
【0031】
上記構成において、コネクタ装置1は、例えば油中環境に使用されると、コンタミ物質がコネクタ装置1内に浸入しようとする。雌端子用コネクタハウジング23におけるコンタミ物質の浸入経路としては、図3のA矢印で示すように、電線(図示せず)が引き出されていない電線引出口28bから空の端子収容室28Aへの経路が考えられる。しかし、この経路から浸入したコンタミ物質は、第2遮蔽壁42で浸入が阻止されるため、端子収容室28Aの前方側に浸入できない。又、図3のB矢印で示すように、雄端子用コネクタハウジング3と雌端子用コネクタハウジング23の嵌合隙間から空の端子収容室28Aへの経路が考えられる。しかし、この経路から浸入したコンタミ物質は、第1遮蔽壁41で誤挿入許容スペース40に浸入できず、その結果、誤挿入許容スペース40から端子挿入口28aに浸入できない。
【0032】
ここで、コンタミ物質の電線引出口28bからの浸入を阻止するため、図4(a)に示すように、空の端子収容室28A内を前後方向に単に仕切る遮蔽壁50を設けることが考えられる。しかし、この場合には、図4(a)の矢印で示すように、雌端子用コネクタハウジング23の嵌合隙間から浸入したコンタミ物質は、空の端子収容室28Aから容易に端子挿入口28aに浸入するため、コネクタ装置1内に容易に拡散することになる。
【0033】
また、図4(b)に示すように、空の端子収容室28Aの前面側を遮蔽壁51d遮蔽し、端子挿入口28aを開口しないことが考えられる。しかし、図4(b)の矢印で示すように、空の端子収容室28Aの前面近くまでは容易にコンタミ物質が多量に浸入できる。このように多量に浸入したコンタミ物質は、遮蔽壁51と雄端子用コネクタハウジング3の相手コネクタ嵌合室6の内壁面との隙間を通ってコネクタ装置1内に容易に拡散する可能性がある。
【0034】
最大設定可能な端子数より少ない数しか使用しない雌端子用コネクタ22にあって、従来例のように別部品を用いることなく、コンミタ物質の使用しない端子収容室28Aからの浸入に起因するコネクタ装置1内への拡散を極力防止できる。従来例のように別部品を用いないため、コネクタ装置1、又は、かかるコネクタ装置1を含むワイヤーハーネスについて、その製造のトータルコストを抑制できる。
【0035】
また、雄端子用コネクタ2として、最大設定端子数を全て使用するもの(16ピンのコネクタ)が誤って使用される場合が想定される。すると、図3にて仮想線で示すように、雄端子4が空の端子収容室28Aに誤挿入されるが、誤挿入された雄端子4は誤挿入許容スペース40に入り込み、第1遮蔽壁41に突き当たらない。従って、誤挿入された雄端子4が変形等のダメージを受けない。
【0036】
ここで、図4(b)に示す遮蔽壁51では、誤挿入された雄端子4が遮蔽壁51に衝突して変形等のダメージを受ける又、図4(a)に示す遮蔽壁50では、図4(c)に示す位置では、誤挿入された雄端子4が遮蔽壁51に突き当たって、変形等のダメージを受ける。
【0037】
以上説明したように、雌端子用コネクタ22では、使用しない端子収容室28Aに雄端子4が誤挿入されても、雄端子4が変形等のダメージを受けることを防止しつつ、コンミタ物質の使用しない端子収容室28Aからの浸入に起因するコネクタ装置1内への拡散を極力防止できる。
【0038】
尚、この実施形態では、最大設定端子数が16ピンの雄端子用コネクタ2と雌端子用コネクタ22で、且つ、これを14ピンの雄端子用コネクタ2と雌端子用コネクタ22とした場合を示したが、最大設定端子数及び使用端子数はこれに限るものでないことはもちろんである。
【符号の説明】
【0039】
4 雄端子(相手端子)
22 雌端子用コネクタ(コネクタ)
23 雌端子用コネクタハウジング(コネクタハウジング)
28,28A 端子収容室
28a 端子挿入口
28b 電線引出口
29 仕切壁
40 誤挿入許容スペース
41 第1遮蔽壁
42 第2遮蔽壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジングには、仕切壁でそれぞれ仕切られた端子収容室が複数設けられ、前記各端子収容室の前面には、相手端子が挿入される端子挿入口が設けられ、前記各端子収容室の後面には電線引出口が設けられていると共に、
端子が収容されない前記端子収容室内には、相手端子が挿入される誤挿入許容スペースを囲み、前記誤挿入許容スペース内を遮蔽する第1遮蔽壁が設けられ、且つ、前記電線引出口を遮蔽する第2遮蔽壁が設けられたことを特徴とするコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−37876(P2013−37876A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172850(P2011−172850)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】