説明

コヒーレント受信装置およびコヒーレント受信方法

【課題】コヒーレント受信を採用する光通信の効率を向上させる。
【解決手段】コヒーレント受信装置は、受信した部分応答光信号を部分応答デジタル信号に変換する受信器フロントエンドと、部分応答デジタル信号を全応答デジタル信号に変換するプリフィルタと、プリフィルタリングされた全応答デジタル信号を等化するイコライザと、イコライザによって等化された信号について位相再生を行う位相再生装置と、位相再生装置により位相再生が行われた信号をポストフィルタリングして、全応答デジタル信号を部分応答デジタル信号に戻すポストフィルタを備える。プリフィルタの伝達関数は、部分応答信号の伝達関数の近似反転である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント受信装置、コヒーレント受信方法、フィルタに係わり、たとえば、部分応答直交振幅変調(PR−QAM:Partial Response Quadrature Amplitude Modulation)システムにおいて使用されるコヒーレント受信装置、コヒーレント受信方法、コヒーレント受信装置が備えるプリフィルタに適用可能である。
【背景技術】
【0002】
低コストで大容量の光ファイバ伝送システムは、将来の光通信が発展していく方向である。ビット当たりの伝送コストをさらに低下させ、光ファイバ当たりの容量をさらに増大させるためには、より狭いスペクトラムを有する、進歩した変調フォーマットを使用することが良い解決法の1つである。部分応答直交振幅変調(PR−QAM)は、直交部分応答(QPR)とも呼ばれ、スペクトラム効率が高く、光通信の分野において様々な関連する研究がなされている。PR−QAMは、部分応答および直交振幅変調を組み合わせた変調形式である。部分応答システムは、制御されたシンボル間干渉(ISI:Inter-Symbol Interference)を導入することにより、高いスペクトラム効率を実現する。部分応答システムにおいて、部分応答信号の第1のカテゴリは、デュオバイナリ信号とも呼ばれ、滑らかなスペクトラムを有し、物理的に実装可能なフィルタによって生成されるので、広く研究および適用されている。
【0003】
関連する技術として、下記の特許文献1〜2、非特許文献1〜7に記載の技術が提案されている。なお、特許文献1〜2、非特許文献1〜7に記載の内容は、参照により、本出願に取り込まれるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許4055727
【特許文献2】米国特許5214390
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kazuro KIKUCHI, Yuta ISHIKAWA, and Kazuhiro KATOH, “Coherent Demodulation of Optical Quadrature Duobinary Signal with Spectral Efficiency of 4 bit/s/Hz per Polarization,”ECOC 07, Sep. 16-20, 2007 Berlin, Germany
【非特許文献2】Ilya Lyubomirsky, "Quadrature Duobinary for High-Spectral Efficiency 100G Transmission," Journal of Lightwave Technology, to be published (www.ee.ucr.edu/〜ilyubomi/JLT-11759-2009-Final.pdf)
【非特許文献3】I. Lyubomirsky, “Quadrature duobinary modulation for 100G transmission beyond the Nyquist limit,” to be presented in Optical Fiber Communication Conference (OFC), paper OThM4, San Diego, USA, Mar. 2010
【非特許文献4】Peter Kabal and Subbarayan Pasupathy, "Partial-response signaling," IEEE Transactions on Communications, Vol. 23, No. 9, pp. 921-934, Sep. 1975
【非特許文献5】Jitendra K. Tugnait and Uma Gummadavelli, "Blind Equalization and Channel Estimation with Partial Response Input Signals," IEEE Transactions on Communications, vol.45, no. 9, pp.1025-1031, sep. 1997
【非特許文献6】Ezra Ip and Joseph M. Kahn, "Feed forward Carrier Recovery for Coherent Optical Communications," Journal of Lightware Technology, vol. 25, no. 9, pp. 2675-2692, sep. 2007
【非特許文献7】Andreas Leven, Noriaki Kaneda, Ut- VaKoc, and Young-Kai Chen, “Frequency Estimation in Intradyne Reception,” IEEE Photonic Technology Letters, vol. 19, no. 6, pp. 366-368, Mar. 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、PR−QAM光通信システムに対して設けられるコヒーレント受信器は、適応等化技術を採用していない。機能および性能の点において、デジタル信号処理(DSP)技術の利点を発揮させるためには、リンクにより発生する線形劣化を解消するために、PR−QAMシステムのコヒーレント受信器において適応等化技術が広く使用されることが期待される。ところが、コヒーレント受信器において一般的に使用されている定包絡線アルゴリズム(CMA:Constant Modulus Algorithm)またはそれを改良した等化アルゴリズムは、PR−QAMシステムにおいて直接的に使用することはできない。この理由は以下の通りである。すなわち、処理対象の信号が独立した同一の分布についての統計的な特徴に係る要件を満たすことが、CAMまたはその改良アルゴリズムの重要な前提条件である。これに対して、PR−QAMシステムは、制御されたシンボル間干渉を導入するので、上記要件に違反してしまい、受信器を新たに設計する必要がある。
【0007】
CMAを採用した適応等化モジュールの前段および後段にそれぞれデジタルプリフィルタおよびデジタルポストフィルタを挿入する方法は、上述の問題を解決できる可能性がある。ところが、従来技術は、典型的な光コヒーレント通信システムにおいて、システムがキャリア位相再生の問題を有していないことを前提としているか、或いは、受信器のフロントエンドにおいて位相ロックループ技術を使用することにより位相ミスマッチの問題が取り除かれていることを前提としている。しかし、位相ロックループのループ遅延により引き起こされる欠点のため、デジタル領域での位相再生の前に、光通信システムにおける等化が実行されることが一般に期待される。また、従来技術のプリフィルタ装置は、比較的複雑であり、このことがハードウェア構成を複雑にする。
【0008】
本発明は、従来技術の制限に起因する1または複数の問題点を解決するものであり、1以上の有用な選択肢を提供するものである。
本発明の1つの目的は、コヒーレント受信を採用する光通信の効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様のコヒーレント受信装置は、受信した部分応答光信号を部分応答デジタル信号に変換する受信器フロントエンドと、前記部分応答デジタル信号を全応答デジタル信号に変換するプリフィルタと、プリフィルタリングされた前記全応答デジタル信号を等化するイコライザと、前記イコライザによって等化された信号について位相再生を行う位相再生装置と、前記位相再生装置により位相再生が行われた信号をポストフィルタリングして、全応答デジタル信号を部分応答デジタル信号に戻すポストフィルタを備える。前記ポストフィルタの伝達関数は、前記部分応答デジタル信号の伝達関数と同じであり、前記プリフィルタは、伝達関数

を有する部分応答信号に対して、下記の伝達関数

を使用するものである。
【数1】

mおよびnはゼロ以上の整数であり、mおよびnは同時にゼロとなることはなく、αはゼロよりも大きく1よりも小さい。
【0010】
上記構成のコヒーレント受信装置において、Aは、例えば、1である。m、nは、それぞれ、例えば、1、ゼロである。αは、例えば、0.75から0.85の間である。イコライザは、例えば、定包絡線アルゴリズムまたは改良された定包絡線アルゴリズムを利用して適応等化を実行する。
【0011】
本発明の1つの態様のコヒーレント受信方法は、受信した部分応答光信号を部分応答デジタル信号に変換するフロントエンド処理と、前記部分応答デジタル信号を全応答デジタル信号に変換するプリフィルタリング処理と、前記全応答デジタル信号を等化する等化処理と、前記等化処理が行われた信号について位相再生を行う位相再生処理と、前記位相再生処理により位相再生が行われた信号をポストフィルタリングするポストフィルタリング処理を備える。前記ポストフィルタリング処理で使用される伝達関数は、前記部分応答デジタル信号の伝達関数と同じであり、前記プリフィルタリング処理は、伝達関数

を有する部分応答信号に対して、下記の伝達関数

を使用する。
【数2】

mおよびnはゼロ以上の整数であり、mおよびnは同時にゼロとなることはなく、αはゼロよりも大きく1よりも小さい。
【0012】
上述のコヒーレント受信装置およびコヒーレント受信方法によれば、上述のプリフィルタ(または、プリフィルタリング処理)を使用するので、定包絡線アルゴリズムまたはそれを改良した等化アルゴリズムを採用することができ、リンクにおいて発生する線形劣化を容易に且つ確実に処理することができる。また、構成がシンプルであり、低コスト化を実現できる。
【0013】
上述のコヒーレント受信装置においては、プリフィルタとポストフィルタとの間に位相再生モジュールが配置されるので、位相再生の機能を考慮することができ、位相再生のためのフィードバック系(例えば、位相ロックループ)を必要としない。また、位相再生装置の複雑さは、低いままである。
【0014】
なお、上述の方法および装置(コヒーレント受信装置、フィルタ)は、様々な部分応答タイプおよび様々なスケールのQAMを含む、PR−QAMを使用する任意のシステムに好適である。よって、上述の方法および装置は、非常に汎用的である。
【0015】
以下の記載および図面を参照すれば、上述のおよび更なる態様、実施形態、および本発明の特徴は、より明確になる。本発明の具体的な実施形態は、本発明の使用方法を示す明細書および図面において詳しく開示されている。ただし、本発明の範囲は、それらの実施形態に限定されるものではなく、また、本発明の実施形態は、特許請求の範囲の精神および規定の範囲内で、様々な変形、変更、およびその均等なものを含む。
【0016】
1つの実施形態について記載されたおよび/または表わされた特徴は、同一または類似の方法で1または複数の他の実施形態において使用でき、および/または、他の実施形態の特徴と組み合わせることができ、他の実施形態の特徴と置き換えることもできる。
【0017】
なお、「含む/備える」または「含んでいる/備えている」という語は、特徴、構成部分、ステップ、組立て品が存在することを意味するものであって、1または複数の他の特徴、構成部分、ステップ、組立て品、またはそれらの組合せの存在または追加を排除するものではない。
【発明の効果】
【0018】
上述の態様によれば、コヒーレント受信を採用する光通信の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のコヒーレント光受信装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の受信器フロントエンドの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態によるデュオバイナリ信号に対するプリフィルタの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態のコヒーレント受信装置のDSP部分を示す図である。
【図5】図4に示すコヒーレント受信装置において使用可能な受信器フロントエンドの実施例である。
【図6】本発明の実施形態のコヒーレント受信方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。実施形態は、本発明を限定するものではなく、単なる例示的なものである。当業者が本発明の原理および実施形態を容易に理解できるように、本発明の実施形態は、光通信システムを一例として記載する。なお、本発明の実施形態は、PR−QAM変調形式を使用するすべての通信システムに適用可能であり、光通信システムに限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態のコヒーレント光受信装置を示すブロック図である。なお、図1においては、受信器が備える構成部分のうち、本発明を理解するために必ずしも重要でない部分については、省略されている。それらの省略されている構成部分は、当業者に知られている又は将来知られ得る様々な装置または方法を使用して実装可能であり、商業的に入手可能な要素または特別に製造された部品等を使用して実装可能である。また、それらの省略されている構成部分またはDSPモジュールは、特に限定されるものではないが、例えば、電源、受信器フロントエンド不均衡補償モジュール、大きな分散を補償するモジュール、非線形補償モジュール等を含む。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態のコヒーレント受信装置10は、受信器フロントエンド11、プリフィルタ12、イコライザ13、位相再生装置14、ポストフィルタ15、データ再生装置16を備える。
【0023】
受信器フロントエンド11は、受信信号(この実施形態では、アナログPR−QAM光信号)に対してフロントエンド処理を行うように構成されている。フロントエンド処理において、アナログPR−QAM信号はデジタルPR−QAM信号に変換される。このデジタルPR−QAM信号は、プリフィルタ12によってプリフィルタリングされる。イコライザ13は、プリフィルタリングされた信号を等化する。好ましくは、イコライザ13は、適応イコライザであって、プリフィルタリングされた信号に対して適応等化を行う。位相再生装置14は、イコライザ13により等化(または、適応等化)された信号について位相再生を行う。ポストフィルタ15は、上述のようにして位相再生が行われた信号に対してポストフィルタリングを行う。そして、ポストフィルタリングされた信号は、データ再生のためにデータ再生装置16に送られ、さらに後続のデータ処理部へ入力される。
【0024】
図2は、本発明の実施形態の受信器フロントエンド11の構成を示す図である。図2に示すように、受信器フロントエンド11は、光ミキサ112、局部発振レーザ113、受光素子(PD)114、115、アナログ/デジタル変換器(ADC)116、117を備える。受信器フロントエンド11は、入力光信号111をベースバンドデジタル電気信号I+jQに変換する。ここで、Iは同相成分であり、Qは直交成分である。なお、この明細書では、ベースバンドデジタル電気信号I+jQは、デジタル領域におけるPR−QAM信号である。
【0025】
図2に示す構成は、受信器フロントエンド11を実現するための一例であって、当業者であれば、受信器フロントエンド11を実現するための他の構成を使用することができる。光ミキサ112、局部発振レーザ113、受光素子114、115、アナログ/デジタル変換器116、117の構成および使用方法は、当業者にとって明らかであるので、ここでは説明を省略する。
【0026】
プリフィルタ12は、部分応答信号を全応答信号に変換するために使用される。すなわち、プリフィルタ12は、部分応答システムによって導入された、人工的に制御された部分ISIを除去する。プリフィルタの伝達関数は、例えば、部分応答伝達関数の反転により実現される。しかしながら、本発明の発明者は、デジタル信号処理理論によれば、典型的な部分応答伝達関数は複素平面単位円上にゼロ点を有し、プリフィルタの伝達関数は、部分応答伝達関数の厳密な反転ではなく、部分応答伝達関数の近似反転(或いは、準反転)となるように設計すべきであることを見出した。
【0027】
部分応答信号のz変換(z領域伝達関数)は、下記の形式で表わされる。
【数3】

m、nは、それぞれ、通常、小さな整数である。また、異なる部分応答タイプの下では、m、nは、互いに異なる値であり、同時にゼロにならない。Aは、他の項目であって、その値および表現は、部分応答タイプに応じて変化する。例えば、非常に典型的な部分応答タイプに対しては、Aの値は、通常、1である。より複雑な部分応答タイプに対しては、Aの値および表現も複雑になる。例えば、典型的な第1のカテゴリの部分応答信号(デュオバイナリ信号とも呼ばれる)に対する伝達関数は、下記の通りである。
【数4】

【0028】
部分応答のショック応答列のz変換(z領域伝達関数)についての本発明の発明者による研究に基づき、本発明は、係数αを付加することにより、部分応答伝達関数の近似反転を得る。
【0029】
本発明の実施形態においては、プリフィルタ12の伝達関数(ここでは、z領域伝達関数)

は、下式で表わされる。
【数5】

特に、デュオバイナリ信号のためのプリフィルタのz領域伝達関数は、下式で表わされる。
【数6】

【0030】
上記式(1)〜(4)から分かるように、パラメータαは、部分応答伝達関数の近似反転が得られるように、部分応答伝達関数のゼロ点を面zの単位円内へ移動させるために導入されている。これによって、部分応答が厳密な反転を持たないという条件は、効果的に取り除かれる。αを選択するときには、実際のシステムに応じて最適化が実行されるが、以下の原則を守ることが好ましい。
(1)部分応答に関連して、上記(3)式により表わされるプリフィルタの伝達関数の反転の近似度が高くなり、また、プリフィルタがCMAまたはその改良アルゴリズムの前提条件を満たすためにシンボル間相関を除去できるように、αは、1に近い値とする
(2)αは、1に無限に近づいてはいけない。なぜならば、仮に、αが1に無限に近づくと、プリフィルタは原雑音の一部を無限に増幅してしまい、CMAが収束しなくなるか、或いはCMAの性能が劣化するからである。
【0031】
本発明の発明者は、上記係数αを選択するためのシミュレーションを行った。シミュレーション環境は、現在普及している112Gbit/s光ファイバ通信システムである。変調形式は、デュオバイナリQPSK、すなわち部分応答タイプは第1のカテゴリである。QAMは、QPSKを選択する。レーザの線幅およびレーザの周波数差(例えば、送信器のレーザおよび受信器内の局部発振レーザの周波数差)は、現在の技術の典型的な値とする。光ファイバリンクは、弱い非線形性の伝送リンク、すなわち主に線形劣化が発生するリンクである。線形等化アルゴリズムは、典型的なCMAである。位相再生は、最も一般的なアルゴリズム(例えば、四次法アルゴリズム)を採用する。そして、多数回のシミュレーションを行った結果、αの最適値は、概ね0.75〜0.85であった。
【0032】
図3は、本発明の実施形態によるデュオバイナリ信号に対するプリフィルタ12の構成を示す図である。図3に示すように、本発明の実施形態によれば、プリフィルタ12は、加算器121、遅延器122、乗算器123を含む。加算器121は、乗算器123の出力信号に入力信号x(n)を加算して、出力信号y(n)を得る。遅延器122は、加算器121の出力信号y(n)をサンプル時間だけ遅延させて信号y(n−1)を得る。乗算器123は、遅延器122の出力信号に対して予め決められた係数αを乗算する。そして、乗算器123により得られる積は、加算器121に与えられる。
【0033】
なお、図3に示すプリフィルタ12の構成は、1つの例であって、本発明はこの構成に限定されるものではない。当業者であれば、上記(4)式に基づいて、様々な形態のプリフィルタを構成することができる。また、当業者であれば、上記(3)式およびn、mの値に応じて、適切なプリフィルタを実装する(得る、又は組み立てる)ことができる。
【0034】
プリフィルタを通過した後のPR−QAM信号は、通常のQAM信号に変換されているので、等化(好ましくは、適応等化)および位相再生は、通常のQAM信号のためのイコライザ(例えば、CMAアルゴリズムまたは改良されたCAMアルゴリズムに基づく適応イコライザ)で実行することができる。通常のQAM信号は、例えば、部分応答でないQAM信号、或いは、全応答QAM信号である。位相再生装置は、例えば、周波数差推定モジュール、位相推定モジュール、位相再生モジュールを含む。この場合、当業者により知られている任意の適応フィルタ13および位相再生器14を採用することができる。例えば、適応等化装置として、中国特許出願「適応バランス装置およびその方法」(公開番号:CN101599929A、Liu Ling Et.al.)に記載されている構成を採用してもよい。さらに、適応等化装置および位相再生装置として、中国特許出願「フィルタ係数を変更する装置および方法」(公開番号:CN101552640、Liu Ling Et.al.)に記載されている構成を採用してもよい。これらの特許文献に記載の内容は、参照により、本出願に取り込まれるものとする。キャリア位相再生としては、コヒーレント光通信における周波数差推定およびキャリア位相再生のための一般的なアルゴリズム、例えば上述した非特許文献6、7に記載されているアルゴリズムを使用してもよい。
【0035】
ポストフィルタ15は、全応答信号を部分応答信号に戻す変換を行うように構成されている。すなわち、ポストフィルタ15は、プリフィルタ12に対応する。たとえば、プリフィルタ12が上記(3)式の伝達関数を採用する場合は、ポストフィルタ15は、上記(1)式の伝達関数を採用する。また、プリフィルタ12が上記(4)式の伝達関数を採用する場合は、ポストフィルタ15は、上記(2)式の伝達関数を採用する。
【0036】
データ再生装置16は、当業者に知られているPR−QAMのための様々なデータ再生装置を採用することができる。例えば、データ再生装置16として、シンボル毎に直接的に検出する装置または最尤系列検出装置(Digital Communication (the 4th edition), written by J. G. Proakis, translated by Zhang Lijun, etc., Beijing: Electronic Industry Press, 2006, pages 407 to 410等に記載されている)を採用してもよい。
【0037】
本発明の実施形態によれば、光受信フロントエンドにより受信され、A/D変換されたPR−QAM信号は、本発明の実施形態のプリフィルタを通過し、定包絡線アルゴリズム(CMA)または必要に応じて改良されたアルゴリズムを採用する線形イコライザにより処理され、位相再生装置によるキャリア位相再生が実行され、最後に、線形等化され且つ位相再生されたPR−QAM信号となる。本発明の実施形態においては、キャリア位相再生モジュールは、プリフィルタとポストフィルタとの間に配置されるが、この構成により多くの利点が得られる。仮に、キャリア位相再生モジュールがプリフィルタの前段に設けられているものとすると、信号は等化されていないので、位相再生のためにフィードバック系(シミュレーションでは、位相ロックループを使用する)が必要となる。また、仮に、キャリア位相再生モジュールがポストフィルタの後段に設けられているものとすると、PR−QAM信号のコンステレーションに応じてキャリア位相再生器を変更する必要があり、構成が複雑になる。
【0038】
通常のQAM信号に好適なCMAおよびその改良アルゴリズムにおいては、等化すべき信号が独立した同一の分布についての統計的な特徴に係る要件を満たすことが必要である。PR−QAMシステムにおいては、元のQAM信号に対して、制御されたシンボル間干渉が導入されるので、CMAまたはその改良アルゴリズムは、PR−QAMシステムに直接的に適用することはできない。これに対して、本発明の実施形態においては、プリフィルタによって部分応答信号が一時的に全応答信号に変換される。すなわち、PR−QAM信号が一時的に通常のQAM信号に変換される。よって、通常のQAM信号に対する、当業者によく知られているコヒーレント受信器DSPアルゴリズム(例えば、CMAおよびその改良アルゴリズム、周波数差推定アルゴリズム、キャリア位相推定アルゴリズム等)を、変更することなく、直接的に適用することができる。等化および位相再生の後、PR−QAM信号は、後続のデータ判定および検出のために、(プリフィルタに対して)対称的なポストフィルタによって再生される。したがって、本発明の実施形態は、簡易な構成のプリフィルタおよび上述の構成を使用することにより、コヒーレント受信装置のコストを低下させ、性能を向上させることができる。
【0039】
なお、上述の説明においては、プリフィルタ、適応イコライザ、位相再生装置、ポストフィルタは、1つの信号チャネルに対して記載されているが、本発明の実施形態は、偏波多重コヒーレント光通信システムに対しても好適である。偏波多重コヒーレント光通信システムにおいては、送信端末は、互いに直交する双方の偏波で情報を送信し、受信端末において偏波ダイバーシティのコヒーレント光受信器が使用される。偏波ダイバーシティを利用するデジタルコヒーレント光受信器においても、本発明の実施形態のプリフィルタ等を使用することができる。
【0040】
図4は、本発明の実施形態のコヒーレント受信装置のDSP部分を示す図である。図4に示すように、本発明の実施形態のコヒーレント受信装置は、H偏波方向信号およびV偏波方向信号(すなわち、H偏波方向の信号およびV偏波方向の信号)にそれぞれ対応する2つのブランチを有している。各ブランチは、それぞれ、プリフィルタ12、位相再生装置14、ポストフィルタ15、および不図示のデータ再生装置を含む。本発明の実施形態によるコヒーレント受信装置の等化装置は、バタフライ型イコライザ13’(たとえば、CMAに基づくバタフライ構成の4つのFIRフィルタ)を使用する。Whh、Wvh、Whv、Wvvは、バタフライ構成に配置された4つのFIRフィルタの等価な伝達関数を表す。なお、図4に示す例では、位相再生装置14は、周波数差推定モジュール、位相推定モジュール、位相再生モジュールを含む構成である。
【0041】
また、図4では、位相再生装置および等化装置が互いに分離されて描かれており、位相再生装置14は等化装置13(図4では、バタフライ型イコライザ13’)に対してフィードバックを有していないが、本発明は、この構成に限定されるものではない。すなわち、位相再生装置は、等化装置13に対して、適応フィードバック信号、制御信号、係数調整信号などを提供してもよい。フィードバック信号の種別および量は、本発明を限定するものではない。
【0042】
図5は、図4に示すコヒーレント受信装置において使用可能な受信器フロントエンドの実施例である。図5に示すように、受信器フロントエンドへの入力光信号は、偏波ビームスプリッタ211により2つの成分(H偏波およびV偏波)に分離され、それぞれ光90°ミキサ212の第1の入力ポートおよび第2の入力ポートに導かれる。受信器の局部発振レーザ(局部レーザ)213の出力は、偏波ビームスプリッタ214に入力される。偏波ビームスプリッタ214は、局部発振レーザ213の出力光を2つの成分(H偏波およびV偏波)に分離し、光90°ミキサ212に入力する。光90°ミキサ212は、入力された4つの信号チャネルを混合する。光90°ミキサ212により得られる2組の混合信号は、それぞれ、バランス型受光器(PD)215、216により電気信号に変換され、さらに対応するA/D変換器(ADC)217、218によりデジタル信号に変換される。これにより、H偏波方向信号およびV偏波方向信号が得られる。
【0043】
図6は、本発明の実施形態のコヒーレント受信方法を示すフローチャートである。図6に示すように、本発明の実施形態のコヒーレント受信方法は、まず、ステップS601において、入力光信号をデジタル電気信号に変換するフロントエンド処理を実行する。この電気信号は、本発明の実施形態においては、例えば、PR−QAM電気信号である。
【0044】
ステップS602において、上述のフロントエンド処理により得られるデジタル電気信号をプリフィルタリングし、部分応答信号を全応答電気信号に変換する。この処理においては、例えば、上記(3)式で表わされる伝達関数が使用される。また、1つの実施例においては、デュオバイナリ信号に対して上記(4)式で表わされる伝達関数が使用される。
【0045】
ステップS603において、上述のプリフィルタリングにより得られる全応答信号について、等化および位相再生が実行される。好ましくは、例えば、適応等化が実行される。適応等化としては、CMAまたはその改良アルゴリズムに基づく等化を採用してもよい。
【0046】
ステップS604において、位相再生された信号に対してポストフィルタリングを実行し、全応答信号を部分応答信号に戻す変換を行う。例えば、プリフィルタリング処理において上記(3)式の伝達関数が使用されたときは、ステップS604において上記(1)式の伝達関数が使用される。また、プリフィルタリング処理において上記(4)式の伝達関数が使用されたときは、ステップS604において上記(2)式の伝達関数が使用される。
【0047】
ステップS605において、ポストフィルタリングにより得られる全応答信号に対して、データ再生などの処理が実行される。データ再生は、当業者に知られている様々な方法で実行することができる。なお、ステップS605においては、データ再生に加えて、さらに他の処理を実行してもよい。
【0048】
コヒーレント受信方法が偏波多重コヒーレント光通信システムにおいて使用されるときは、ステップS601〜S605は、下記のように実行される。ステップS601のフロントエンド処理は、受信した部分応答信号を、H偏波方向部分応答デジタル信号およびV偏波方向部分応答デジタル信号に変換する。ステップS602のプリフィルタリング処理は、H偏波方向部分応答デジタル信号をプリフィルタリングしてH偏波方向全応答デジタル信号を生成するHパスプリフィルタリング処理、およびV偏波方向部分応答デジタル信号をプリフィルタリングしてV偏波方向全応答デジタル信号を生成するVパスプリフィルタリング処理を含む。ステップS603の等化および位相再生処理においては、等化処理は、フィルタリングされたH偏波方向全応答デジタル信号およびV偏波方向全応答デジタル信号に対してバタフライ等化を実行するために、バタフライ型イコライザ(例えば、バタフライ構成に配置された4つのFIRフィルタ)を使用して、H偏波方向全応答デジタル等化信号およびV偏波方向全応答デジタル等化信号を生成する。さらに、位相再生処理は、H偏波方向全応答デジタル等化信号について位相再生を行うHパス位相再生処理、およびV偏波方向全応答デジタル等化信号について位相再生を行うVパス位相再生処理を含む。ステップS604のポストフィルタリング処理は、位相再生されたH偏波方向全応答デジタル等化信号をポストフィルタリングするHパスポストフィルタリング処理、および位相再生されたV偏波方向全応答デジタル等化信号をポストフィルタリングするVパスポストフィルタリング処理を含む。ステップS605のデータ再生処理は、光通信分野において知られている任意の方法を使用することができ、本発明の実施形態に影響を及ぼさないので、ここでは説明を省略する。
【0049】
上述した本発明の装置および方法は、ハードウェアで、またはハードウェアとソフトウェアとの組合せで実装することができる。本発明は、論理ユニット(例えば、FPGA、マイクロチップ、CPU)により実行されたときに、その論理ユニットに、上述の装置または構成部分の機能を実装させる、或いは、上述の方法または処理を実装させる、コンピュータ読取り可能プログラムに係わる。本発明は、上述のプログラムを記憶する記憶媒体、例えば、ハードディスク、磁気ディスク、光ディスク、DVD、フラッシュメモリ、にも係わる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態との組合せにおいて記載された。しかし、この技術分野の当業者にとっては、明細書の記載は単なる例であり、本発明の範囲を限定するものではないことは明らかである。また、この技術分野の当業者は、本発明の精神および原理に基づいて、本発明の様々な変更および変形を創造することができ、そのような変更および変形も本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した部分応答光信号を部分応答デジタル信号に変換する受信器フロントエンドと、
前記部分応答デジタル信号を全応答デジタル信号に変換するプリフィルタと、
プリフィルタリングされた前記全応答デジタル信号を等化するイコライザと、
前記イコライザによって等化された信号について位相再生を行う位相再生装置と、
前記位相再生装置により位相再生が行われた信号をポストフィルタリングして、全応答デジタル信号を部分応答デジタル信号に戻すポストフィルタを備え、
前記ポストフィルタの伝達関数は、前記部分応答デジタル信号の伝達関数と同じであり、
前記プリフィルタは、伝達関数

を有する部分応答信号に対して、下記の伝達関数

を使用するものであり、
【数7】

mおよびnはゼロ以上の整数であり、mおよびnは同時にゼロとなることはなく、αはゼロよりも大きく1よりも小さい
ことを特徴とするコヒーレント受信装置。
【請求項2】
Aは1である
ことを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント受信装置。
【請求項3】
mは1であり、nはゼロである
ことを特徴とする請求項1または2に記載のコヒーレント受信装置。
【請求項4】
αは、0.75から0.85の間である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコヒーレント受信装置。
【請求項5】
前記イコライザは、定包絡線アルゴリズムまたは改良された定包絡線アルゴリズムを利用して適応等化を実行する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコヒーレント受信装置。
【請求項6】
前記コヒーレント受信装置は、偏波多重コヒーレント光通信システムにおいて使用され、
前記受信器フロントエンドは、受信光信号をH偏波方向およびV偏波方向の部分応答デジタル信号に変換するために使用され、
前記プリフィルタは、第1および第2のプリフィルタを備え、前記位相再生装置は、第1および第2の位相再生装置を備え、前記ポストフィルタは、第1および第2のポストフィルタを備え、
前記第1のプリフィルタは、H偏波方向の前記部分応答デジタル信号をプリフィルタリングして、H偏波方向の全応答デジタル信号を生成し、
前記第2のプリフィルタは、V偏波方向の前記部分応答デジタル信号をプリフィルタリングして、V偏波方向の全応答デジタル信号を生成し、
前記イコライザは、H偏波方向およびV偏波方向においてそれぞれフィルタリングされた前記全応答デジタル信号に対してバタフライ等化および偏波分離を行い、H偏波方向およびV偏波方向においてそれぞれ全応答デジタル等化信号を得る、バタフライ型イコライザであり、
前記第1の位相再生装置は、H偏波方向において前記全応答デジタル等化信号について位相再生を行い、
前記第2の位相再生装置は、V偏波方向において前記全応答デジタル等化信号について位相再生を行い、
前記第1のポストフィルタは、H偏波方向において位相再生された前記全応答デジタル等化信号をポストフィルタリングし、
前記第2のポストフィルタは、V偏波方向において位相再生された前記全応答デジタル等化信号をポストフィルタリングする
ことを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント受信装置。
【請求項7】
受信した部分応答光信号を部分応答デジタル信号に変換するフロントエンド処理と、
前記部分応答デジタル信号を全応答デジタル信号に変換するプリフィルタリング処理と、
前記全応答デジタル信号を等化する等化処理と、
前記等化処理が行われた信号について位相再生を行う位相再生処理と、
前記位相再生処理により位相再生が行われた信号をポストフィルタリングするポストフィルタリング処理を備え、
前記ポストフィルタリング処理で使用される伝達関数は、前記部分応答デジタル信号の伝達関数と同じであり、
前記プリフィルタリング処理は、伝達関数

を有する部分応答信号に対して、下記の伝達関数

を使用するものであり、
【数8】

mおよびnはゼロ以上の整数であり、mおよびnは同時にゼロとなることはなく、αはゼロよりも大きく1よりも小さい
ことを特徴とするコヒーレント受信方法。
【請求項8】
受信した部分応答光信号を部分応答デジタル信号に変換する受信器フロントエンドを備えるコヒーレント受信装置において使用されるフィルタであって、
伝達関数

を有する部分応答信号に対して、下記の伝達関数

を使用して、前記部分応答デジタル信号を全応答デジタル信号に変換する、
【数9】

mおよびnはゼロ以上の整数であり、mおよびnは同時にゼロとなることはなく、αはゼロよりも大きく1よりも小さい
ことを特徴とするフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−223563(P2011−223563A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59885(P2011−59885)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】