説明

コマモナス属遺伝子破壊株を用いたステロイド代謝産物の製造方法

【課題】3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン及びその類縁体の微生物学的生産を目的とする。
【解決手段】下記の式(1)
【化1】


の化合物の代謝関連遺伝子が破壊されたステロイド資化性コマモナス(Comamonas)属細菌を、培地中でステロイド化合物と接触させ、生成した式(1)の化合物又は類縁体を単離し、必要に応じてさらにそれらの誘導体を形成することを含む、式(1)の化合物又はその類縁体、あるいはそれらの誘導体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイド資化性コマモナス(Comamonas)属細菌の遺伝子破壊株を使用してステロイド代謝産物、具体的には、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン(別称:9-オキソ-1,2,3,4,5,6,7,10,19-ノナノル-13,17-セコアンドロスト-8(14) -エン-17-オイックアシド;3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸)及びその類縁体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン及びその類縁体は、医薬、農薬等の製造原料として有用である。
【0003】
上記化合物の合成については、過塩素酸/ギ酸の存在下、4−ケト−5−(3−クロロ−2−ブテニル)−ヘキサン酸の環化反応によって4%の収率で合成されたという報告があるのみである(非特許文献1)。
【0004】
また、上記化合物の類縁体の合成については、カルシフェノールの合成途中に、上記化合物の類縁体である(2E)−3−(5−ヒドロキシ−2−メチルシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸を経由することが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
本発明者らは、これまで、コマモナス属細菌、特にコマモナス・テストステロニ(C. testosteroni)TA441株のステロイド代謝系酵素遺伝子群の解析を行ってきた。細菌によるステロイド代謝は、A.W. CoulterとP. Talalay (非特許文献3)が主にノカルディア(Nocardia)について解析を行って明らかにした。
【0006】
本発明者らは、このNocardia属細菌における結果を参考に、主にステロイド代謝系酵素遺伝子群の取得・解析とその遺伝子破壊株の精製・同定を並行して行って、TA441株のステロイド代謝経路を明らかにしてきた。これら遺伝子群は主に2つのクラスターからなっており、特にその一方について、例えばTesA2(ORF11)破壊株、TesA1(ORF12)破壊株、TesD破壊株、TesH破壊株、ORF17破壊株、ORF18破壊株等を構築し、テストステロン等のステロイド化合物を基質として培養したのち各代謝産物を調べ、同定される化合物やその他の実験により遺伝子の機能を決定し、これら遺伝子がステロイド代謝にもっぱら関わっている事も立証した(特許文献1;非特許文献4)。
【0007】
ORF2は、上記主要な遺伝子クラスター2つのうちのもう一方に含まれる推定遺伝子である(非特許文献5;非特許文献6)。こちらの遺伝子クラスターには機能未同定の遺伝子が多く、いくつかのデータから、Nocardia属細菌でも解析の行われていない、ステロイド代謝の後半部分の代謝系酵素遺伝子群ではないかと推定されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003-61671号公報
【非特許文献1】M. KobayashiとT. Matsumoto, Bull Chem Soc Jpn 52(10):2978-2990, 1979
【非特許文献2】Dawsonら、J.Chem.Soc. 12:2352-2355
【非特許文献3】A.W. CoulterとP. Talalay, J. Biol. Chem. 243:3238-3247, 1968
【非特許文献4】M. Horinouchi, T. Hayashi, T. Yamamoto及びT. Kudo, Appl. Environ. Microbiol. 69:4421-4430, 2003
【非特許文献5】M. Horinouchiら, Microbiology, 147(12):3367-3375, 2001
【非特許文献6】D. Skowashら, BBRC 294:560-566, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
微生物学的方法によって、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン及びその類縁体を生成する方法は知られていない。
【0010】
本発明者らは、コマモナス属細菌のステロイド代謝系酵素遺伝子破壊株を作製し、各遺伝子の機能解析を試み、様々なステロイド化合物を基質に用いた変換を検討していた際に、テストステロンの代わりに4-AD、ADD等を基質に用いるとORF2破壊株がこれらステロイド化合物を3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノンに変換することを見出した。
【0011】
また、上記基質を、例えばコール酸に代えた場合、対応する水酸基がついた化合物等の、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノンの類縁体が得られることを見出した。
【0012】
したがって、本発明の目的は、コマモナス属細菌由来の3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノンの代謝関連遺伝子の破壊株を用いて、この目的化合物及びその類縁体を微生物学的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の特徴は、要約すると以下のとおりである。
【0014】
(1)下記の式(1)
【化1】

の化合物の代謝関連遺伝子が破壊されたステロイド資化性コマモナス(Comamonas)属細菌を、培地中でステロイド化合物と接触させ、生成した前記式(1)の化合物又はその類縁体を単離し、必要に応じてさらにそれらの誘導体を形成することを含む、式(1)の化合物又はその類縁体、あるいはそれらの誘導体を製造する方法。
【0015】
(2)前記コマモナス属細菌が、コマモナス・テストステロニである、(1)の方法。
(3)前記コマモナス・テストステロニが、コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株である、(2)の方法。
(4)前記代謝関連遺伝子が、前記コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株ゲノムのステロイド代謝系酵素遺伝子ORF2である、(1)の方法。
(5)前記代謝関連遺伝子が、前記コマモナス属細菌ゲノムのORF2ホモログである、(1)の方法。
(6)前記ステロイド化合物が、テストステロン代謝中間体化合物又はその類縁体である、(1)〜(5)のいずれかの方法。
(7)前記テストステロン代謝中間体化合物又はその類縁体が、アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン、アンドロスト-4-エン-3,17-ジオン、コール酸、デオキシコール酸又はケノデオキシコール酸である、(6)の方法。
(8)前記コマモナス属細菌が担体に固定化されている、(1)〜(7)のいずれかの方法。
(9)前記細菌とステロイド化合物との接触が、回分式又は連続式で行われる、(1)〜(8)のいずれかの方法。
(10)前記誘導体が、カルボン酸の塩、エステル、アシル又はアミド誘導体である、請求項1に記載の方法。
(11)前記式(1)の化合物、その類縁体又は誘導体が、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン、2−[2−(メトキシカルボニル)エチル]−3−メチル−6−オキソシクロヘキサ−1−エンカルボン酸、3−(6−ヒドロキシ−6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸、(2E)−3−(5−ヒドロキシ−2−メチルシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸又は(2E)−3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸、あるいはそれらのカルボン酸の塩、エステル、アシル又はアミド誘導体である、(1)の方法。
【0016】
(12)下記の式(2)
【化2】

(式中、R1及びR2が独立的に水素又はアルキルである。)
で示される化合物又はその塩。
【0017】
(13)下記の式(3)
【化3】

(式中、R3が水素又はアルキルである。)
で示される化合物。
【0018】
(14)下記の式(4)
【化4】

(式中、R4が水素又はアルキルである。)
で示される化合物。
【0019】
(15)下記の式(5)
【化5】

(式中R5が水素又はアルキルである。)
で示される化合物又はその塩。
【0020】
上記の式(2)〜(5)において、「アルキル」は置換若しくは未置換及び/又は飽和若しくは不飽和のアルキル、好ましくはC1〜C20アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘプチル、オクチルなどである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法は、コマモナス属細菌の遺伝子破壊株を使用するため、増殖及びステロイド変換に要する時間が著しく短縮され、かつ保存的変異がほとんどないか全くなく破壊株の安定的維持が容易であるし、並びに、この破壊株を使用してステロイド化合物を資化させることによって上記式(1)の化合物を得ることができ、その精製が比較的容易である、という利点を有している。更に、化学合成では難しい上記式(1)の化合物の類縁体も、破壊株による代謝物として得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明をさらに具体的に説明する。
本発明は、上述したとおり、下記の式(1)
【化6】

の化合物、すなわち3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン(別称:9-オキソ-1,2,3,4,5,6,7,10,19-ノナノル-13,17-セコアンドロスト-8(14) -エン-17-オイックアシド;3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸)の代謝関連遺伝子が破壊されたステロイド資化性コマモナス属細菌株を、培地中でステロイド化合物と接触させ、生成した式(1)の化合物又はその類縁体を単離し、必要に応じてさらにそれらの誘導体を形成することを含む、式
(1)の化合物又はその類縁体、あるいはそれらの誘導体を製造する方法を提供する。
【0023】
コマモナス属細菌
本発明において、コマモナス属細菌は、ステロイド資化性であり、かつステロイド代謝系内に式(1)の化合物を代謝中間体として含むものであれば、そのいずれも本発明の遺伝子破壊株の作製のための親株として使用できる。この親株ゲノム上で破壊すべき遺伝子は、ステロイド代謝系で式(1)の化合物の代謝に関わる遺伝子、すなわち代謝関連遺伝子である。この遺伝子は、少なくとも構造遺伝子を含み、さらにその5'非翻訳領域、3'非翻訳領域及び/又は転写調節領域(例えばエンハンサー又はプロモーター)を含むことができる。本発明の目的のためには、構造遺伝子を破壊することが好ましいが、非翻訳領域又は転写調節領域の破壊であっても、転写が抑制もしくは阻止され、前記代謝関連遺伝子の発現が起こらなければ、構造遺伝子以外の領域のみの破壊も可能である。遺伝子破壊株の作製法については、後述する。
【0024】
コマモナス属細菌には、例えば、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni) (Tamaokaら, Int. J. Syst. Bacteriol.(1987), 37:58; ATCC 11996, ATCC 1740, DSM 50244など)及びその近縁種、例えばコマモナス・デニトリフィカンス(C. denitrificans)(Gumaeliusら, Int. J. Syst. Bacteriol. (2001), 51:1005; ATCC 700936)、コマモナス・ニトラチボランス(C. nitrativorans)(Etchebehereら, Int. J. Syst. Bacteriol. (2001), 51:982; DSM 13191)、コマモナス・テリジェナ(C. terrigena) (DeVosら, Int. J. Syst. Bacteriol. (1985), 35:450; ATCC 8461, DSM 7099)など、並びに、これらの変異株が含まれ、式(1)の化合物を代謝中間体とするステロイド資化性細菌種が本発明で遺伝子破壊株作製のための親株として使用される。
【0025】
本発明において、好ましいコマモナス属細菌は、コマモナス・テストステロニである。この菌株には、以下のものに限定されないが、例えばTA441株(特開2003-61671号公報)及びその近縁株、例えばATCC 11996株、ATCC 17410株、ATCC 15666株、ATCC 15667株、ATCC 17409株、ATCC 17510株、ATCC 27911株、ATCC 31492株、ATCC 33083株などが含まれる。ここでATCCとは、米国寄託機関であるアメリカンタイプカルチャーコレクションを意味し、ATCCの後の数字は、寄託された微生物の受託番号である。TA441株とATCC11996株又はATCC 17410株との間の%同一性はそれぞれ、ゲノムDNAレベルで99%以上、80%以上であると考えられる。ここで変異株とは、自然変異もしくは人為的変異によって得られた細菌株をいい、ステロイド代謝系酵素遺伝子群を含むゲノム配列の%同一性が、TA441株に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%であるような細菌株である。
【0026】
%同一性は、同一の重なり合う位置の数/位置の総数×100で表わされ、2種類の配列間の%同一性は、公知の数学的アルゴリズムを用いて決定されうる。数学的アルゴリズムの例は、BLASTnプログラムである(Altschulら, J. Mol. Biol. (1990), 215:403-410)。例えばスコア=100、ワード長=12のBLASTnプログラムによりBLASTヌクレオチド検索を行い、目的の核酸配列と相同なヌクレオチド配列を得、%同一性を決定しうる。その他の例は、ギャップ付きアラインメントを得るためのGapped BLASTを利用する方法(Altschulら, Nucleic Acids Res. (1997), 25:3389-3402)、Pearson及びLipmanが記載したような配列比較のためのFASTA(Proc. Natl. Acad. Sci. (1988), 85:2444-2448)などである。
【0027】
特に本発明の好適実施形態において、前記コマモナス・テストステロニは、コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株である。
【0028】
本明細書中で使用される「変異株」は、自然変異によるか、又はUV、γ線などの照射、変異原物質処理、トランスポゾンなどで変異を生じさせて得られる、かつ親株と比べて遺伝子型に変化が生じた細菌株を意味し、上記式(1)の化合物又はその類縁体を代謝中間体として生成する細菌株である。
【0029】
遺伝子破壊株
本発明で使用可能な遺伝子破壊株は、ステロイド代謝中間体である式(1)の化合物の代謝関連遺伝子が破壊されていることを特徴とする。
【0030】
本発明では、ステロイド資化性コマモナス属細菌ゲノムにおける式(1)の化合物の代謝関連遺伝子がDNA組換え技術、特に相同組換え技術、によって破壊された細菌株が使用されうる。
【0031】
好ましい代謝関連遺伝子は、コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株ゲノムのステロイド代謝系酵素遺伝子ORF2、並びに、他のコマモナス属細菌ゲノムのORF2ホモログである。ORF2ホモログとは、コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株以外のコマモナス属細菌由来の、ORF2と同等の機能をもつ同族体遺伝子を意味する。
【0032】
以下に、本発明の遺伝子破壊株の作製について説明する。
【0033】
本発明の遺伝子破壊株では、コモナス属細菌のステロイド代謝系酵素遺伝子群、より具体的にはテストステロン代謝系酵素遺伝子群、のなかで、式(1)の化合物の代謝に関わる酵素のゲノム遺伝子が破壊される(図1)。
【0034】
破壊される代謝関連遺伝子の具体例は、コマモナス・テストステロニTA441株のORF2であり、そのヌクレオチド配列は、配列番号1として示されている。本発明ではこの特定例に制限されず、配列番号1に示される配列との%同一性が、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%である配列を含む代謝関連遺伝子もまた、本発明の目的のために使用できる。ただし、相同な代謝関連遺伝子は、式(1)の化合物の代謝に関わる酵素をコードする。このような相同遺伝子を有するコマモナス属細菌はすべて、本発明における遺伝子破壊株の作製のために使用できる。好ましいコマモナス属細菌は、コマモナス・テストステロニ、例えばTA441株及びその近縁株、例えばATCC 11996株、ATCC 17410株、ATCC 15666株、ATCC 15667株、ATCC 17409株、ATCC 17510株、ATCC 27911株、ATCC 31492株、ATCC 33083株などであり、これらの細菌株から誘導された遺伝子破壊株が、本発明において好ましく使用できる。特にTA441株では、一連の代謝系酵素遺伝子の解析も進んでおり、代謝の効率化や異なる基質の変換、異なる生成物の生産などを目的としたさらなる改変を、狙いをつけて行うことが可能である。
【0035】
コマモナス属細菌が、配列番号1と相同な代謝関連遺伝子をゲノム上に有することを調べるために、32P、125Iなどの放射性同位元素、ローダミン、フルオレサミン、それらの誘導体、Cy3、Cy5などの蛍光色素などによって標識された配列番号1の配列由来のプローブを作製し、コマモナス属細菌由来のゲノムDNA、mRNA、cDNA又はそれらの断片と、プローブとのハイブリダイゼーションを実施することができる。
【0036】
プローブは、配列番号1の配列の相補的配列又はその断片配列からなるDNA分子であり、配列番号1の配列からの連続する少なくとも30ヌクレオチド(nt)、少なくとも50nt、少なくとも70nt、少なくとも100nt、少なくとも150ntのサイズである。
【0037】
ハイブリダイゼーションは、特に制限されないが、公知のハイブリダイゼーション技術、例えばサザンハイブリダイゼーション、ノザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーション、DNAマイクロアレイなどによって行うことができる(中山広樹ら著、細胞工学別冊、バイオ実験イラストレイテッド、遺伝子解析の基礎、秀潤社、1995年;松村正明ら監修、細胞工学別冊、DNAマイクロアレイと最新PCR法、秀潤社、2000年)。相同性の高い代謝関連遺伝子を保有することを確認するために、ハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で行うことが好ましい。
【0038】
ストリンジェントな条件は、温度、イオン強度、洗浄条件などの条件の違いによって低、中又は高ストリンジェント条件としうるが、好ましくは高ストリンジェント条件である。ハイブリダイゼーション条件及び手順、試薬などについては、例えば、Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1989;Ausubelら,Current Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1998に記載されており、本発明においてそれらの記載を参考にしうる。また、ハイブリダイゼーション試薬は、市販のものを使用してもよい。高ストリンジェント条件としては、例えば、50%ホルムアミド、5×デンハート液、5×SSPE、0.2%SDS、42℃でのハイブリダイゼーションとその後の0.1×SSPE、0.1%SDS、65℃での洗浄、あるいは、1×SSC、65℃又は1×SSC、42℃及び50%ホルムアミド、0.1%SDSでのハイブリダイゼーションが挙げられる。
【0039】
ハイブリダイゼーションが陽性の場合、細菌のゲノムDNA断片の制限マップを作成し、所望の前記代謝関連遺伝子配列及び、必要により、その周辺配列を決定し、さらに必要ならばTA441株由来の配列番号1の配列との%同一性を決定する。配列決定のために、制限マップに基いて、所望遺伝子を制限的に切り出し、プラスミド、ファージ、コスミドなどのクローニングベクターに挿入し、大腸菌、枯草菌(例えばバチルス・ブレビス)などの宿主細胞中に形質転換することを含む方法によって所望遺伝子を増幅することができる。また、このときポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用することによって、所望遺伝子を効率的に増幅することができる。
【0040】
クローニングベクターとして、例えば市販される、M13mp(ファージ)、Charomid9系(コスミド)、pMW系、pBluescript系、pBR322、pUC系、pDEL系(以上、プラスミド)などを使用することができる。ベクターには、所望遺伝子の他に、プロモーター、ターミネーター、開始コドン、停止コドン、複製開始点、選択マーカー、リボソーム結合部位、マルチプル制限酵素部位などを適宜含むことができる。
【0041】
形質転換は、公知の形質転換技術、例えばリン酸カルシウム法、塩化カルシウム法、エレクトロポレーションなどの手法を用いて行うことができる。
【0042】
配列決定は、サンガー法、マキサム-ギルバート法などの慣用手法を用いて行うことができる。配列決定のために、CUGA(登録商標)シークエンシングキット(ニッポンジーン)などの市販キットを使用してもよい。
【0043】
PCRは、DNAの変性、アニーリング、伸長反応からなり、変性は、二本鎖DNAを通常94℃、15秒〜1分で処理して一本鎖DNAに解離させる段階、アニーリングは、鋳型DNAにプライマーをアニーリングさせる段階であり、通常55℃、30秒〜1分の処理条件からなる段階、伸長は、プライマーの伸長を通常72℃、30秒〜10分の条件でTaqポリメラーゼなどの耐熱性ポリメラーゼを使用して行う段階を含み、これを1サイクルとして通常25〜40サイクル繰り返してDNA増幅行う。プライマーは通常15〜30塩基長が好ましい。PCR技術は、例えば蛋白質核酸酵素増刊、PCR法最前線(1996), 41巻5号,共立出版に記載されており、本発明において参考にしうる。
【0044】
目的遺伝子のクローニング、配列決定、PCRなどの技術に関しては、Sambrookら(上記)、Ausbelら(上記)に具体的に記載されており、それらの記載を本発明において参考にすることができる。
【0045】
本発明において、遺伝子破壊は、ステロイド資化性コマモナス属細菌において、式(1)の目的の化合物の代謝関連遺伝子の破壊であり、この破壊のために、代謝中間体としてのこれら化合物やその類縁体が、培養液中に蓄積される。遺伝子を破壊するために、本発明では、ニトロソグアニジンなどの変異試薬を用いる突然変異による方法も利用できるが、好ましくはDNA組換え技術、特に相同組換え技術を使用して、所望遺伝子及び/又は5'非翻訳領域、3'非翻訳領域もしくは転写調節配列の一部又は全部を破壊し、所望遺伝子によってコードされる関連代謝酵素をin vivoで生成させないようにするかあるいは機能不全にする。破壊は、所望遺伝子の配列において、例えば該配列の一部の欠失(例えば脱落、部分分解)、異種DNAによる置換、及び/又は異種DNAの挿入によって実施できる。本発明の特定例では、相同組換え法によって、所望遺伝子の内部に異種DNAとして抗生物質耐性遺伝子を挿入することによって、所望遺伝子が破壊される。抗生物質耐性遺伝子の例は、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などである。この方法では、所望遺伝子内部の1つ又は複数の制限部位に、抗生物質耐性遺伝子配列と、その各末端に連結された、前記ユニーク制限部位の5'及び3'側に存在する所望遺伝子断片及びそれに隣接する非翻訳領域からの少なくとも約0.3kb、好ましくは少なくとも約0.6kb、さらに好ましくは少なくとも約1kbの各配列とを含む相同組換え用プラスミドを使用して、ゲノムへの抗生物質耐性遺伝子配列の挿入を行うことができる。プラスミドの例は、pGT系、pBluescript KS(+)、pUC系、pCT系などを含む。菌体内へのプラスミドの導入は、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法などの慣用技術によって実施できる。培養により、抗生物質耐性菌株を選択し、そのなかで所望遺伝子内部に抗生物質耐性遺伝子が挿入された遺伝子破壊株を得る。挿入の確認は、抗生物質耐性遺伝子及び所望遺伝子の各プローブを用いるサザンハイブリダイゼーションによって行うことができる。
【0046】
なお、遺伝子破壊については、本出願人の特開2003-61671号公報に記載される手順を参考にすることができる。
【0047】
物質生産
上記の手法で得られたコマモナス属遺伝子破壊株を、通常、培地中で前培養し、その一部又は全部を、原料ステロイド化合物を含む培地に加えて培養し、式(1)の化合物又はその類縁体を生産し回収する。
【0048】
培養は、コマモナス属細菌の公知の培養条件で行うことができる。
培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、天然培地、合成培地のいずれも使用可能である。一般に、細菌用の固体又は液体培地であれば、培地として使用できる。培地成分には、例えば、炭素源及び窒素源としてペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、肉エキス、バクトトリプトンなど、無機塩類としてNaCl, KH2PO4, K2HPO4, MgSO4, CaCl2, FeSO4, MgSO4, MoO3, ZnSO4, CuSO4, MnSO4, CoCl2, H3BO3など、必要に応じてアガーを含むことができる。培地の例は、Luria-Bertani(LB)培地、C培地、LB/C混合培地などである。本発明では、培地中にさらに原料ステロイド化合物を含有させるが、ステロイドが炭素源として効率よく資化されるように、ステロイド化合物の含量を増やすことができる。培地のpHは、7〜7.3が好ましい。
【0049】
本発明の遺伝子破壊株は、上記の培地成分を含む固体培地で保存菌を培養、増殖したのち、同様の成分の液体培地中で前培養し、さらに菌数を増やし、次いで、同様の液体培地中で物質生産のために使用される。菌量は、特に限定されないが、培地あたり約1〜約10%(w/v)である。
【0050】
培養の方式としては、回分式又は連続式培養のいずれも使用できる。
回分式培養の場合、培養槽のなかに、滅菌培地、培養遺伝子破壊株もしくはその固定化菌体、原料ステロイド化合物を仕込み、振盪培養、攪拌培養、通気攪拌培養、深部通気攪拌培養などの培養方法で、約25℃〜約35℃の培養温度で、約15〜約100時間培養することができる。
【0051】
連続式培養の場合、同様の培養温度で、膜型、流動層型、充填層型、横型などの種々のバイオリアクターの使用が可能である。具体的には、例えば中空糸膜などの半透膜で仕切られた培養槽の一方の区画に遺伝子破壊株を仕込み、他方の区画に原料ステロイド化合物を含む滅菌培地を連続的に流して、原料ステロイド化合物を、半透膜を介して遺伝子破壊株と接触させる方法、あるいは、遺伝子破壊株を担体に固定化した固定化遺伝子破壊株を作製し、この固定化菌体をカラムなどの連続式培養槽内に充填もしくは流動し、原料ステロイド化合物を含む滅菌培地を連続的に槽内に流して、固定化菌体とステロイド化合物とを接触させる方法などの方法を使用できる。
【0052】
遺伝子破壊株を固定化するための担体には、多孔性無機粒状物、例えば軽石、ゼオライト、シリカゲルなど、有機粒状物、例えばポリマー類、例えばポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、不飽和ポリエステル、不飽和エポキシド、不飽和アクリル樹脂、ポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのポリエステル、親水性光硬化性樹脂、例えばポリエチレングリコールとメタアクリル酸2−ヒドロキシエチルとのウレタン化付加物などが含まれる。さらに特願平07-039376号公報、特願平10-296284号公報、特開2003-000237号公報に記載されるような固定化担体を使用することもできる。これらの固定化用担体に遺伝子破壊株を固定化する方法としては、吸着法、包括法、付着増殖法などの一般的手法を使用できる。本発明の遺伝子破壊株は、担体の孔表面に吸着もしくは付着されるか、あるいは、多孔性担体の内部に埋め込まれて、その場で増殖することが好ましい。
【0053】
本発明で使用される原料ステロイド化合物は、本発明の遺伝子破壊株によって式(1)の化合物もしくはその類縁体に変換されるものであれば、その種類を問わない。原料ステロイド化合物の例は、テストステロン、シトステロール、カンペステロール、1,4-アンドロスタジエン-3,17-ジオン、4-アンドロステン-3,17-ジオン、プロゲステロン、胆汁酸、テストステロン代謝中間体化合物、又はそれらの類縁体であるが、これらに限定されない。ここで、類縁体は、上記のステロイド化合物の任意の位置において、1もしくは複数の置換基、非限定的に、例えば-OH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、フェニル、置換フェニル、ハロゲン、-OR(Rはアルキルもしくは置換アルキル)、-OCOR(Rはアルキルもしくは置換アルキル)、カルボニル基などから選択される置換基、を含むステロイド化合物の誘導体を指す。該代謝中間体化合物又は類縁体の例は、アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン(図1のADD)、アンドロスト-4-エン-3,17-ジオン(図1の4-AD)、コール酸(図1のCholic Acid)、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸などであるが、これらに限定されない。
【0054】
原料ステロイドの濃度は、培養液あたり約0.01%〜約2%(w/v)、好ましくは約0.1%〜1%(w/v)であるが、この範囲に限定されない。
【0055】
培養後、培養液を、塩酸などの酸にて酸性(例えばpH約2)に調整したのち、酢酸エチルなどのエステル、メチルエチルケトンなどのケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、エチルエーテルなどのエーテルなどの有機溶剤で抽出、濃縮し、目的の生成物を精製することができる。あるいは、培養液をイオン交換カラム(H+)に通し、樹脂に生成物を吸着させたのち、酢酸、塩酸などの酸にて生成物を溶出させてもよい。あるいは、HPLC、シリカゲルクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどのクロマトグフィー技術を適宜組み合わせて、目的の生成物を精製することもできる。
【0056】
本発明の式(1)の化合物及びその類縁体は、光学活性体、ラセミ体、エナンチオマー混合物のいずれの形態であってもよい。式1の化合物の類縁体は、不飽和環の二重結合の位置がシフトしたもの、水素原子が水酸基又はカルボキシル基に置換したもの、カルボニルが水酸基に変換されたもの、プロピオン酸側鎖が不飽和化したものなどの化合物を含み、具体的には上記の式(2)〜式(5)の化合物(特に、R1、R2、R3、R4又はR5が水素である。)である。式(1)の化合物又はその類縁体は更に、種々の誘導体、例えば塩、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属との塩、又はアミンなどの有機塩基との塩、カルボン酸のエステル化、アミド化、アシル化などのカルボキシル基の一般的な化学反応により得られるようなカルボン酸誘導体の形態に変換しうる。このような塩あるいは誘導体は、当業者には周知の化学合成技術を用いて形成しうる。
【0057】
本発明の実施形態により、式(1)の化合物、その類縁体又は誘導体は、例えば、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン、2−[2−(メトキシカルボニル)エチル]−3−メチル−6−オキソシクロヘキサ−1−エンカルボン酸、3−(6−ヒドロキシ−6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸、(2E)−3−(5−ヒドロキシ−2−メチルシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸、(2E)−3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸、あるいはそれらのカルボン酸の塩、エステル、アシル又はアミド誘導体である。エステルは、カルボン酸とアルコールとの縮合体であり、アルコールには脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂環式アルコール、グリコール、グリセロールなどが含まれる。アシル誘導体は、例えばカルボン酸の酸塩化物と芳香族化合物からFriedel-Crafts反応によって、あるいは該酸塩化物と有機銅(I)酸リチウム化合物との反応によって得ることができる。アミド誘導体は、例えばカルボン酸の酸塩化物と脂肪族アミン、芳香族アミンなどのアミンとの反応によって得ることができる。
【0058】
本発明によれば、2−[2−(メトキシカルボニル)エチル]−3−メチル−6−オキソシクロヘキサ−1−エンカルボン酸、3−(6−ヒドロキシ−6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸、(2E)−3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸、及びそれらの塩、並びにそれらの誘導体(例えばエステル)は、新規の化合物である。
【0059】
本発明を、以下の実施例においてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されないものとする。
【実施例1】
【0060】
コマモナス・テストステロニTA441由来のORF2遺伝子破壊株の作製
コマモナス・テストステロニTA441株のORF2遺伝子(配列番号1)を、該遺伝子のユニークSacII制限部位にカナマイシン耐性遺伝子(Kmr)を挿入することによって、遺伝子破壊した。
【0061】
Kmr挿入用プラスミドpORF2-Kmrは、図2の手順に従って構築された。具体的には、カルベニシリン耐性遺伝子Cbrを保有するプラスミドpUC19にORF2遺伝子を挿入したのち、ORF2遺伝子をSacIIで切断し、末端平滑化し、これにカナマイシン耐性遺伝子Kmr Smaインサートを挿入した。このカナマイシン耐性遺伝子は、トランスポゾンTn5由来であり、遺伝子カセットを作製しやすくするために、その前後にSmaIサイトを連結し、また耐性遺伝子の最初にPstI, EcoRI, EcoRV, HindIIIの各制限酵素サイトを有している。エレクトロポレーションによってプラスミドをTA441株に導入し、相同組換えを行った。相同的に組み換えられた遺伝子ORF2-Kmr(ORF2にKmrを挿入した配列)は、配列番号2に示されている。
【0062】
ORF2破壊株について、カナマイシン又はカルベニシリンを含有する別々のLB培地固体培地上で培養し、カナマイシンに耐性でカルベニシリンに感受性のTA441変異株を選択した。
【0063】
ORF2遺伝子内へのKmr遺伝子の挿入は、ORF2(配列番号1)又はKmrをプローブとして用いるサザンハイブリダイゼーションによって確認された。使用されたハイブリダイゼーション条件は、以下のとおりである。
【0064】
(試薬)
10%ブロッキング試薬保存液
ブロッキング試薬10g/buffer 100 ml(オートクレーブ滅菌)
Buffer 1:0.1Mマレイン酸
0.15M NaCl, pH7.5(NaOHにより調整)(オートクレーブ滅菌)
高SDSハイブリダイゼーション溶液
SDS 35g
100%ホルムアミド(脱イオン化) 250ml
30×SSC 83ml
1Mリン酸ナトリウム, pH 7.0 25ml
N-ラウロイルサルコシン 0.5g
10%ブロッキング試薬保存液 100ml/蒸留水500ml
2×洗浄液:2×SSC, 0.1%SDS
0.1×洗浄液:0.1×SSC, 0.1%SDS
【0065】
(操作)
高SDSハイブリダイゼーション溶液(20ml/100cm2メンブレン)中、42℃、少なくとも1時間プレハイブリダイゼーションを行ったのち、高SDSハイブリダイゼーション溶液(3.5ml/100cm2メンブレン)中、42℃一晩ハイブリダイゼーションを行った。メンブレンを2×SSC、0.1%SDSで室温、5分間、2回洗浄し、さらに0.1×SSC、42℃、15分間、2回洗浄した。
【0066】
(検出)
メンブレンをBuffer 1(0.1Mマレイン酸, 0.15M NaCl, pH 7.5)で軽く濯ぎ、100mlのBuffer 2(10%(w/v)ブロッキング試薬保存液を10倍希釈したもので室温30分間ゆっくり振盪しブロッキングを行った。次いで、希釈標識抗体溶液(アルカリフォスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体150mU/ml Buffer 2)で室温、30分間ゆっくり振盪した。Buffer 1で15分ずつ2回洗浄し、20mlのBuffer 3(0.1M Tris-HCl, pH 9.5, 0.1M NaCl)で2分間平衡化した。10mlの発色試薬(NBT溶液45μl+X-リン酸溶液35μl/Buffer 3 10ml)を加えて暗所に静置した。バンドが検出されたら、TE50mlで5分間洗浄し、反応を停止させた。なお、NBT溶液は、ニトロブルー・テトラゾリウム塩75mg/ml 70%DMF、X-リン酸溶液は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート、トルイジン塩50mg/mlDMFである。
上記の手法によって、コマモナス・テストステロニTA441由来のORF2遺伝子破壊株を作製した。
【実施例2】
【0067】
ORF2遺伝子破壊株による3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン(ORF2-A)の製造
実施例1で得られたORF2遺伝子破壊株をLB試験管培地〔ポリペプトン 10 g;NaCl 5 g;酵母エキス5 g;pH 7.0 (NaOHで調整)/1L蒸留水〕10ml×2本で30℃、一晩、100回/分で振盪培養した。培養液を、バッフルの無い500ml三角フラスコにLB培地とC培地〔(NH4)2SO4 5.0 g;K2HPO4 5.87 g;KH2PO4 2.93 g;MgSO4・7H2O (×100) 10 ml;NaCl 2 g;酵母エキス0.2 g;10g/L CaCl2溶液1 ml (最終10 mg / L);10g/L FeSO4 溶液1 ml (最終 10 mg/L);微量元素溶液 (×100) 20 μl;pH 7.0 (NaOHで調整)/1L 蒸留水;MgSO4・7H2O (×100) : MgSO4・7H2O 30 g / L;微量元素溶液 (×100) : MoO3 0.1 g、ZnSO4・5H2O 0.7 g、 CuSO4・5H2O 0.05 g、H3BO3 0.1 g、MnSO4・5H2O0.1 g、CoCl2・6H2O 0.1 g/1L 蒸留水〕を50mlずつ計100ml加えた培地5個に6mlずつ植菌し、0.1%(w/v)の1,4-アンドロスタジエン-3,17-ジオン(図1のADD)を添加して、振盪数80rpm、培養温度30℃で、3日間培養した。
【0068】
培養液(100ml×5)を遠心し、上清を6N HCl溶液を用いてpH2に調整後、酢酸エチル550mlで3回抽出した。酢酸エチル画分を合わせ、Na2SO4上で脱水した後、減圧濃縮し油状残渣640mgを得た。
【0069】
培養上清のHPLC分析結果を図3-1、酢酸エチル画分のHPLC分析結果を図3-2にそれぞれ示した。HPLCの分析条件は次のとおりである。
【0070】
装置:Waters 2690 HPLC
カラム:Inertsil ODS-3 (4.6×250 mm)
展開溶剤:20%溶液A+80%溶液Bから65%溶液A+35%溶液Bのグラジエント10分;3分の保持;20%溶液Aへ2分間で変化;15分から最初の状態20%溶液A+80%溶液Bに戻る。
溶液A(CH3CN:CH3OH:TFA=95:5:0.05)
溶液B(H2O:CH3OH:TFA=95:5:0.05)
温度:40℃
流速:1ml/分
【0071】
酢酸エチル抽出液の濃縮残渣640mgを少量のメタノールに溶解し、2回に分けてHPLC分取を行った。HPLC分取条件は以下のとおりである。
【0072】
装置: Waters 600 HPLC
カラム:Inertsil ODS-3 column (20 x 250 mm)
流速: 8 ml/min
温度: 40 ℃
展開溶剤 20%溶液A + 80%溶液B から 65%溶液A + 35%溶液B へ 25分間で変化, 10分保持, それから20%溶液A へ5分間で変化。
【0073】
溶液A (CH3CN:CH3OH:TFA = 95:5:0.05)
溶液B (H2O:CH3OH:TFA = 95:5:0.05)
検出波長:210nm
【0074】
溶出された主な画分について減圧濃縮により溶剤を除去し、それぞれの重量を測定した結果、RT7.3分のピークA溶出画分の濃縮重量が106mgで最も多く、その直前の画分RT7.1分が74mgで、2番目の重さを示した。この両画分がORF2破壊株の主な蓄積物と判断した。
【0075】
ピークAの直前のRT7.1分画分に含まれていた物質を重メタノールでNMR測定した結果、微量の不純物を含むX5P-2(図1参照)と同定された。
【0076】
また、ピークA画分には約半量のX5P-2が含まれていたため、同様の方法で再HPLC分取を2回繰り返すことにより、強力なUV吸収(241nm溶出液中で)を有する油状物21mgを単離した。この化合物を重メタノール溶液でNMR測定した結果、それが目的の化合物であることが分かった。NMR(CDCl3又はCD3OD)の測定結果を表1に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
さらにFAB-MSの分析結果もまた、得られた物質が目的化合物であることを示した。
FAB-MS分析:実験値:m/z 183.1015;計算値:m/z 183.1021(C10H15O3)
【実施例3】
【0079】
3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノンのメチルエステル(ORF2-A-Me)の製造
実施例2で得られた酢酸エチル抽出液濃縮液の約20%量をメタノール(1ml)、ベンゼン(7ml)に溶解し、トリメチルシリル・ジアゾメタン試薬ヘキサン溶液1mlを添加してメチル化反応を行った。そのメチル化反応液のHPLCチャートを図4に示した。
【0080】
このメチル化反応液の濃縮残渣を実施例2と同様の条件でHPLC分取にかけ、RT9.9分のピークに相当する画分を得て濃縮し、油状物質を8mg得た。
【0081】
RT9.9分の油状物質を重メタノール溶液としてNMR測定した結果、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノンのメチルエステルであることが分かった(表1)。
【0082】
FAB-MSの測定結果は、油状物質が目的のメチルエステル体であることを示した。
FAB-MS分析:実験値:m/z 197.1178;計算値:m/z 197.1178(C11H17O3)
【実施例4】
【0083】
ORF2遺伝子破壊株による3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン(ORF2-A)の類縁体の製造
0.1%(w/v)の1,4-アンドロスタジエン-3,17-ジオン(図1のADD)の代わりに、0.1%(w/v)のコール酸(図1のCholic Acid)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で、ORF2遺伝子破壊株を培養した。
【0084】
培養開始から3日目の培養液を遠心分離し、上清500mlを凍結保存した。そのうち400mlを溶解して6N HCl溶液を用いてpH2に調整後、450ml酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル画分を合わせ、Na2SO4上で脱水した後、減圧濃縮して残渣400mgを得た。
【0085】
培養上清のHPLC分析結果を図5-1、酢酸エチル画分のHPLC分析結果を図5-2にそれぞれ示した。HPLCの分析条件は、実施例2の分析条件と同様とした。
【0086】
酢酸エチル抽出液の濃縮残渣400mgを100μlのメタノールに溶解し、HPLC分取を行った。HPLC分取条件は、検出波長を240nmとした以外は、実施例2の分取条件と同様とした。
【0087】
溶出された主な画分について減圧濃縮により溶剤を除去し、それぞれの重量を測定した結果、RT7.3分のピークAを含む溶出画分の濃縮重量が31mgで最も多く、RT6.1分のピークBを含む画分が10mg、RT4.2分のピークDを含む画分が15mg、RT6.7分のピークEを含む画分が6mg、最後にRT7.6分のピークFを含む画分が2mg、それぞれ得られた。
これらの濃縮画分の純度を確認する為に、濃縮画分をそれぞれHPLC分析した。
【0088】
ORF2-Aの単離
ピークA画分の濃縮液は不純物も認められず、単一ピークを示したことから、構造解析のためにHR−FAB−MS(positive)と重メタノール溶液としてNMRを測定し、構造解析を行った。
【0089】
その結果、ピークAは、実施例2のADDを基質にしたときに蓄積物として単離されたORF2-A(3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン)と一致した。
【0090】
ORF2-Bメチルエステルの単離
ピークB濃縮画分はピークAと同じRT7.3分にピークBとほぼ同じ大きさの副生物のピークが現れた(図6−1)。このようにピークBは不安定な性質を有していることから、ピークB濃縮画分をジアゾメタン処理によるメチル化を行い、メチル誘導体として単離し、構造を明らかにすることにした。
【0091】
ピークB濃縮画分をメタノール(0.2ml)、ベンゼン(1.4ml)に溶解し、トリメチルシリル・ジアゾメタン試薬ヘキサン溶液(0.4ml)を添加して4時間メチル化反応を行った。メチル化したピークB濃縮画分を分析した結果、RT9.9分とRT10.3分にほぼ同じ大きさの2つのピークが現れた(図6−2)。
【0092】
メチル化したピークB濃縮残渣をHPLC分取して、ピークRT9.9分とRT10.3分の2つの画分を濃縮し、HR−FAB−MS(positive)と重メタノール溶液としてNMRをそれぞれ測定し、構造解析を行った。
その結果、ピークRT9.9分は前述したORF2-Aのメチルエステル誘導体(ORF2-A-Me)と同定された。
【0093】
また、ピークRT10.3分は本来のピークBメチルエステル(ORF2-B-Me)であり、ORF2-Aメチルエステルの8位にカルボキシル側鎖が付いた新規の代謝物(2−[2−(メトキシカルボニル)エチル]−3−メチル−6−オキソシクロヘキサ−1−エンカルボン酸メチルエステル(別称:9−オキソ−1,2,3,4,5,6,7,10,19−ノナノル−13,17−セコアンドロスト−8(14)−エン−7,17−ジオイックメチルエステル))であることが明らかとなった。表2にHR-FAB-MS(positive)の分析結果、表3にNMRの測定結果、図7に構造解析の結果を示す。
【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
ORF2-Dメチルエステルの単離
ピークD濃縮画分はRT5.6分などに複数の大小の副生ピークが見られ、不安定であった。そこでピークD濃縮画分を前述のピークBの場合と同様にジアゾメタン処理によるメチル化を行った。
【0097】
メチル化したピークDの濃縮残渣をHPLC分取して、RT6.2分のピークを濃縮して油状物質5mg(ORF2-D-Me)を単離した。
【0098】
ORF2-D-MeをHR−FAB−MS(positive)と重メタノール溶液としてNMRを測定し、構造解析を行った結果、ORF2-D-Meは上述したORF2-Aのメチルエステル誘導体の13位に水酸基(OH)がついた新規の代謝物(3−(6−ヒドロキシ−6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸メチルエステル(別称:13−ヒドロキシ−9−オキソ−1,2,3,4,5,6,7,10,19−ノナノル−13,17−セコアンドロスト−8(14)−エン−17−オイックメチルエステル))であることが明らかとなった。表2にHR-FAB-MS(positive)の分析結果、表4にNMRの測定結果、図7に構造解析の結果を示す。
【0099】
【表4】

【0100】
ORF2-Eメチルエステルの単離
ピークE濃縮画分はRT13.8分などに複数の小さな副生ピークが見られ、不安定であった。そこでピークEの濃縮画分を前述のピークBの場合と同様にジアゾメタン処理によるメチル化を行った。
【0101】
メチル化したピークEの濃縮残渣をUV280nmでモニターしながらHPLC分取して、RT8.9分のピークを濃縮して油状物質1mg(ORF2-E-Me)を単離した。
【0102】
ORF2-E-MeをHR−FAB−MS(positive)と重メタノール溶液としてNMRを測定し、構造解析を行った結果、ORF2-E-Meは前述したORF2-Aの関連物質((2E)−3−(5−ヒドロキシ−2−メチルシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸メチルエステル(別称:(E)−9−ヒドロキシ−1,2,3,4,5,6,7,10,19−ノナノル−13,17−セコアンドロスト−6,8(14)−ジエン−17−オイックメチルエステル))であることが明らかとなった。表2にHR-FAB-MS(positive)の分析結果、表5にNMRの分析結果、図7に構造解析の結果を示す。
【0103】
【表5】

【0104】
ORF2-Fの単離
ピークF濃縮物は、単一のピークを示し不純物は認められなかった。構造解析のために重メタノール溶液としてNMR測定とHR-FAB-MS(positive)の測定を行った結果、ピークFは新規な代謝物ORF2-F((2E)−3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸(別称:(E)−9−オキソ−1,2,3,4,5,6,7,10,19−ノナノル−13,17−セコアンドロスト−6,8(14)−ジエン−17−オイックメチルエステル))であった。表2にHR-FAB-MS(positive)の分析結果、表6にNMRの分析結果、図7に構造解析の結果を示す。
【0105】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の方法は、医薬品、健康食品、食品、化粧品、育毛剤、強壮剤、農薬等の製造原料としての上記式(1)の化合物及びその類縁体の工業的生産のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】C. testosteroni TA441株のテストステロン及びコール酸の分解経路の推定図を示す。
【図2】破壊用プラスミドpORF2-Kmrの構築図を示す。
【図3−1】ORF2遺伝子破壊株による1,4-アンドロスタジエン-3,17-ジオンの変換生成物ORF2-Aを含有する培養上清のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図3−2】ORF2-Aを含有する培養上清の酢酸エチル画分のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図4】ORF2-Aのメチル化反応液のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図5−1】ORF2遺伝子破壊株によるORF2-Aの類縁体を含有する培養上清のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図5−2】ORF2-Aの類縁体を含有する培養上清の酢酸エチル画分のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図6−1】ピークBの濃縮画分のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図6−2】メチル化したピークBの濃縮画分のHPLC分析クロマトグラムを示す。
【図7】ORF2-B-Me、ORF2-D-Me、ORF2-E-Me、ORF2-Fの構造を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0108】
配列番号2:ORF2-Kmr

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)
【化1】

の化合物の代謝関連遺伝子が破壊されたステロイド資化性コマモナス(Comamonas)属細菌を、培地中でステロイド化合物と接触させ、生成した前記式(1)の化合物又はその類縁体を単離し、必要に応じてさらにそれらの誘導体を形成することを含む、式(1)の化合物又はその類縁体、あるいはそれらの誘導体を製造する方法。
【請求項2】
前記コマモナス属細菌が、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記コマモナス・テストステロニが、コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記代謝関連遺伝子が、前記コマモナス・テストステロニ TA441株、ATCC11996株又はそれらの変異株ゲノムのステロイド代謝系酵素遺伝子ORF2である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記代謝関連遺伝子が、前記コマモナス属細菌ゲノムのORF2ホモログである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ステロイド化合物が、テストステロン代謝中間体化合物又はその類縁体である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記テストステロン代謝中間体化合物又はその類縁体が、アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン、アンドロスト-4-エン-3,17-ジオン、コール酸、デオキシコール酸又はケノデオキシコール酸である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記コマモナス属細菌が担体に固定化されている、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記細菌とステロイド化合物との接触が、回分式又は連続式で行われる、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記誘導体が、カルボン酸の塩、エステル、アシル又はアミド誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記式(1)の化合物、その類縁体又は誘導体が、3−(2−カルボキシエチル)−4−メチル−2−シクロヘキセノン、2−[2−(メトキシカルボニル)エチル]−3−メチル−6−オキソシクロヘキサ−1−エンカルボン酸、3−(6−ヒドロキシ−6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)プロピオン酸、(2E)−3−(5−ヒドロキシ−2−メチルシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸又は(2E)−3−(6−メチル−3−オキソシクロヘキサ−1−エニル)アクリル酸、あるいはそれらのカルボン酸の塩、エステル、アシル又はアミド誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
下記の式(2)
【化2】

(式中、R1及びR2が独立的に水素又はアルキルである。)
で示される化合物又はその塩。
【請求項13】
下記の式(3)
【化3】

(式中、R3が水素又はアルキルである。)で示される化合物又はその塩。
【請求項14】
下記の式(4)
【化4】

(式中、R4が水素又はアルキルである。)
で示される化合物又はその塩。
【請求項15】
下記の式(5)
【化5】

(式中R5が水素又はアルキルである。)
で示される化合物又はその塩。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−271380(P2006−271380A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57905(P2006−57905)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】