説明

コモンモードノイズフィルタおよびその製造方法

【課題】高周波特性に極めて優れ、かつ歩留まりが良好なコモンモードノイズフィルタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ガラスと無機フィラーとを含み内部に複数の気孔を有した第一の絶縁層11aと、前記第一の絶縁層11aの内部に対向配置された一対のコイル導体12と、前記第一の絶縁層11aの上方および下方に配置された酸化物磁性体層15と、を少なくとも有したコモンモードノイズフィルタにおいて、前記第一の絶縁層11aと前記酸化物磁性体層15との間に、ガラスと無機フィラーを含み、かつ前記第一の絶縁層11aよりも単位体積当たりの気孔の体積が少ない第二の絶縁層11b、11cを設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体基板間に一対のコイル導体を配したコモンモードノイズフィルタおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばUSB(Universal Serial Bus)やHDMI(High−Definition Multimedia Interface)などの高速インターフェースのさらなる高速化にともない放射ノイズ対策が問題となっている。そこで、この放射ノイズの原因となるといわれているコモンモードノイズを除去するため、高周波対応可能なコモンモードノイズフィルタが望まれている。
【0003】
このコモンモードノイズフィルタは2本のコイルを同じ向きに巻いたものである。通常、電流をコイルに流すと磁場が発生し、自己誘導作用によりブレーキ効果が起こる。
【0004】
コモンモードノイズフィルタは、2本のコイルで構成されており、両者の相互作用を利用してコモンモードノイズ電流の通過を阻止する。具体的には、2本のコイルにディファレンシャルモードの信号電流を流すと、往路と復路の電流は逆方向となるため磁束は相殺されて信号電流はスムーズに流れる。一方、コモンモードノイズ電流は同方向に流れるため、コイルに発生する磁束は合成されて強め合う。その結果、自己誘導作用による起電力により、より強いブレーキ作用が働き、コモンモードノイズ電流の通過を阻止することができる。
【0005】
このようなコモンモードノイズフィルタとしては、一対の酸化物磁性体層間に複数のコイル用導体パターンと絶縁層を積層し、これらを一体化した構造が通例である(特許文献1)。上記一対の酸化物磁性体層としてはNi−Zn−Cu系フェライトを、また、酸化物磁性体層間に配される絶縁層としてはCu−Zn系フェライトやZn系フェライトを用いたものが、広く知られている。
【0006】
このような構造の電子部品においては、2本のコイルを近づけることによりコイルに発生する磁束を合成し、強め合うことでより強いブレーキ作用を働かせ、コモンモードノイズフィルタとしての機能をより良好に発揮させたい。しかしながら、2本のコイルを近づけるとコイル間の浮遊容量が高くなってしまうため、共振現象が発生し、高周波信号電流の通過が阻害されてしまう。
【0007】
そこで、近年の高周波化に伴い、絶縁層としてガラス系材料が用いられるようになってきている。一般的に、フェライト材料が比誘電率10〜15程度であるのに対し、低誘電率のシリカ系フィラーを添加したガラス系材料では、4〜6程度の比誘電率を示すため、コイル間の浮遊容量を好適に低減でき、結果、従来の非磁性フェライト材料を絶縁層に用いたものよりも、特性良好なノイズフィルタを得ることができる(特許文献2)。
【0008】
さらに、高周波特性の良好な電子部品を得るために、誘電率の低い気孔内在材料を用いたセラミック電子部品とその製造方法が知られている(特許文献3)。
【0009】
従って、内部にコイル導体を埋設した絶縁層の両主面に酸化物磁性体層が形成され、絶縁層はガラス系材料からなり、かつ内部に複数の気孔が設けられている構成とすれば、高周波特性の極めて優れたコモンモードノイズフィルタとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−124028号公報
【特許文献2】特開2004−235494号公報
【特許文献3】特開平11−067575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、酸化物磁性体層としてNi−Zn−Cu系フェライトを用い、磁性体層間を上記構成とした場合、酸化物磁性体層、絶縁層およびコイル導体の各々が全く異なる材料からなるため、クラックやデラミネーションといった構造欠陥を生じることなく、一体同時焼成することが困難となる。さらに、焼成条件等を適切に見極めることで同時焼成による一体化を可能としたとしても、フェライト磁性体層と気孔内在絶縁層の強固な密着を得ることは難しく、バレル研磨等、焼成後の後工程における応力負荷により、酸化物磁性体層−絶縁層界面近傍で容易にデラミネーションを生じてしまう。
【0012】
本発明は、気孔内在ガラス系材料を絶縁層として用いた、高周波特性に極めて優れたコモンモードノイズフィルタにおいて、焼成後のバレル研磨等に起因するデラミネーションの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして上記目的を達成するために本発明は、ガラスと無機フィラーとを含み複数の気孔を有した第一の絶縁層中に、一対のコイル導体が対向配置され、前記第一の絶縁層の上方および下方に酸化物磁性体層を設けてなるコモンモードノイズフィルタにおいて、ガラスと無機フィラーとを含む第二の絶縁層を、前記第一の絶縁層と前記磁性体層の間に設け、前記第二の絶縁層の内部に占める単位体積当たりの気孔の体積が前記第一の絶縁層の内部に占める気孔の体積よりも小さい構成とした。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のコモンモードノイズフィルタは、バレル研磨等で第二の絶縁層と酸化物磁性体層との界面でのデラミネーションを発生させることなく、高い歩留まりで極めて優れた高周波特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例におけるコモンモードノイズフィルタの構成を示した分解斜視図
【図2】本発明の一実施例におけるコモンモードノイズフィルタの斜視図
【図3】本発明の一実施例におけるコモンモードノイズフィルタの図2のA−A線における断面図
【図4】本発明の一実施例におけるコモンモードノイズフィルタの製造工程図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のコモンモードノイズフィルタの第二の絶縁層11b、11cと酸化物磁性体層15の界面において強固な密着が得られる要因と、全請求項に記載の発明について一実施例と図面を用いて説明する。
【0017】
第一の絶縁層11aとしてCu−Zn系等の非磁性フェライト材料を用いた場合、焼成時に酸化物磁性体層15のフェライト材料との間で相互拡散により反応層を形成して強固な密着が得られる。しかしながら、本発明のように第一の絶縁層11aとしてガラス系材料を用いた場合は、反応層は生じることなくガラスの融着力のみで密着を保っていると考えられる。さらには第一の絶縁層11aの内部に複数の気孔が設けられたガラス系材料を用いると、酸化物磁性体層15と第一の絶縁層11aとの界面にも気孔が存在することにより、ガラスの実融着面積が小さくなり、密着が保ち難くなる。
【0018】
ここで酸化物磁性体層15と第一の絶縁層11aとの間に、第一の絶縁層11aよりも単位体積当たりの気孔体積が低い第二の絶縁層11b、11cを設けることにより、酸化物磁性体層15と、第二の絶縁層11b、11cが融着する面積が大きくなるため好適に密着を保つことができる。さらに、酸化物磁性体層15と接する第二の絶縁層11b、11cは、内部に複数の気孔を有する第一の絶縁層11aと同じくガラス系の材料からなるため、それらの界面では、融着面積こそ小さくなるものの、微視的に見た個々の融着部は界面なく一体化し、強固に密着しているものと思われる。
【実施例】
【0019】
図1は本発明の一実施例におけるコモンモードノイズフィルタの構成を示した分解斜視図、図2は同コモンモードノイズフィルタの斜視図であり、図3は図2のA−A線における断面図である。
【0020】
図1〜図3において、本発明の一実施例におけるコモンモードノイズフィルタは、ホウ珪酸ガラスと無機フィラーからなる第一の絶縁層11aと、この第一の絶縁層11aの上方および下方に設けた酸化物磁性体層15と、第一の絶縁層11aに埋設して対向配置したコイル導体12と、第一の絶縁層11aと酸化物磁性体層15との間に図1に示すように配置した第二の絶縁層11b、11cとを有し、さらに一対のコイル導体12と電気的に接続する引出電極13と、コイル導体12と引出電極13を繋ぐビア電極14と、コイル導体12および引出電極13に接続する外部端子電極17とを有している。第一の絶縁層11aおよび第二の絶縁層11b、11cは、酸化物磁性体層15とは異なり実質的に磁性を有さない非磁性の層である。
【0021】
酸化物磁性体層15はFe23をベースとしたフェライトなどの磁性材料により構成されている。なお、本発明の一実施例においては、酸化物磁性体層15は3層とし、この酸化物磁性体層15の間にガラス成分を含む絶縁層16を介した構成とすることによって、外部端子電極17との接着強度を高めるとともに、第一の絶縁層11aとは異なる材料からなる酸化物磁性体層15の焼成収縮挙動を第一の絶縁層11aにより近づけ、一体同時焼成に、より有利な構成としている。なお、酸化物磁性体層15の層数は2層でも良いし、ガラス成分を含む絶縁層16を介していなくても良い。
【0022】
一対のコイル導体12は、Agなどの導電材料を渦巻き状にめっきすることにより形成されるもので、第一の絶縁層11a内に埋設され、第一の絶縁層11aと第二の絶縁層11b、11c間に形成された引出電極13とビア電極14を介して電気的に接続されている。
【0023】
なお、一対のコイル導体12の形状は、渦巻き状に限られるものではなく、螺旋状、蛇行状等の他の形状であっても構わない。また、一対のコイル導体12の形成方法は、めっきに限定されるものではなく、その他の印刷や蒸着等の方法で形成することも可能である。
【0024】
第一の絶縁層11aおよび第二の絶縁層11b、11cはホウ珪酸ガラスと無機フィラーからなるガラス系非磁性材料であり、絶縁性を有している。また、第一の絶縁層11aはコイル導体12を埋設した構成となっており、かつ内部に複数の気孔を有している。
【0025】
好ましくは、第一の絶縁層11aの気孔率を5〜40vol%とすることで、材料強度を保ちつつ好適に低誘電率化が図れる。
【0026】
一方、第二の絶縁層11b、11cは実質的に気孔を含まない層とした。ここで、第二の絶縁層11b、11cの実質的に気孔を含まないとは、気孔形成剤を添加していないガラス系材料を十分に焼結させた状態を指し、特にその気孔率が2%以下であることがより望ましい。
【0027】
なお、第一の絶縁層11aの気孔形成手法としては、焼成温度域で熱分解し、ガスを発生するような無機発泡剤を、第一の絶縁層11aの原材料であるガラス粉末およびフィラー粉末に添加、混合することが望ましい。
【0028】
一般的には、ガラスやセラミックス内部への気孔形成手法としては、焼成消失粒子(ポリエチレン等の樹脂粒子)や中空粒子を原料粉末へ添加する手法が広く用いられている(例えば上記特許文献3)。
【0029】
しかしながら、樹脂粒子を焼成消失粒子として用いた気孔形成手法では、樹脂粒子が概ね500℃までに消失するため、気孔率を確保しようとすると連通開気孔が生成し易く、吸湿等による信頼性劣化を生じ易い。この連通開気孔を生じないよう、焼結を進めると気孔率が低くなってしまう。
【0030】
また、中空粒子を利用した気孔形成手法では、原理上開気孔は形成されないため、電極材が絶縁層の気孔内部に入り込んで食いつくことがなく、コイル電極との密着を確保しづらい上に、一般には高価な中空粒子を用いるため、部品価格が高くならざるを得ない。
【0031】
上述の無機発泡剤を添加する手法では、焼成温度域で、ある程度焼成収縮が進行し、ガラス融液がフィラーおよび無機発泡剤を濡らした後に、発泡剤が熱分解し気体を発生することで、発生した気体がガラス内部に好適にトラップされる。それゆえ、独立閉気孔を高密度に生成させることができ、高い気孔率を得やすい上に、独立開気孔も形成されるため、コイル電極との密着を確保し易い。
【0032】
なお、ここでいう開気孔とは、その一部が当該ガラス系材料外部と通じている気孔を指し、閉気孔とは当該ガラス系材料内部にあって、当該ガラス系材料外部と通じていない気孔を指す。また、連通気孔とは複数の気孔が連なった形態を有する気孔を指し、独立気孔とは当該ガラス系材料内部に単独で存在する気孔を指す。無機発泡剤としては、CaCO3またはSrCO3が特に好適に用いられる。
【0033】
この無機発泡剤としては、CaCO3またはSrCO3が望ましいが、CaCO3とSrCO3を混合して用いてもかまわず、600℃から1000℃で分解するものであれば、各種炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などが使用可能であり、例えば、BaCO3、Al2(SO43、Ce2(SO43などがあげられる。そして、上記発泡剤の分解完了温度は600℃から1000℃、より好ましくは700℃から1000℃のものが好適に使用できる。分解完了温度がこの範囲内であれば、昇温過程で発生したガスが第一の絶縁層11aの内部に好適にトラップされる。
【0034】
ここで、分解完了温度とは、発泡剤として用いる原料粉末のTG−DTA測定((株)リガク製 TG8120にて測定)を行い、そのTGチャートにおいて減量の完了する温度である。
【0035】
なお、無機発泡剤の添加量は1〜4wt%が望ましく、5wt%以下であれば、気孔同士の繋がった、連通開気孔がほとんど生成しないため、第一の絶縁層11aの吸水率を0.5%以下とすることができる。これにより、樹脂含浸等の特殊な処理を施さずとも、十分な絶縁信頼性を確保できる。
【0036】
そして、第一の絶縁層11aおよび第二の絶縁層11b、11cで用いられるホウ珪酸ガラスのガラス組成は、SiO2、B23に加え、Al23、アルカリ金属酸化物より選ばれるいずれか1種類以上を含有する材料からなることが望ましい。また、環境への悪影響を考慮し、PbOは実質的に含まないことが望ましい。
【0037】
さらに、第一の絶縁層11aおよび第二の絶縁層11b、11cで用いられるホウ珪酸ガラスのガラス屈服点は550℃以上、750℃以下が望ましい。なぜなら、550℃未満の場合、焼成時の変形が著しく、また、耐薬品性が劣るためめっき等のプロセスで問題が生じるからである。また、750℃を越えた場合、コイル導体12と同時焼成可能な温度域での緻密化が不十分となるからである。
【0038】
ここで、ガラス屈服点とは、ガラスの棒状サンプルを用い、TMA測定((株)リガク製 TMA8310にて測定)を行った際の膨張から収縮に転じる温度である。
【0039】
また、第一の絶縁層11aおよび第二の絶縁層11b、11cで用いられる無機フィラーとしては、焼成時にホウ珪酸ガラスとの反応を起こしにくいものであれば、アルミナ、ディオプサイド、ムライト、コージェライト、シリカ等、種々のものを用いることができるが、特に誘電率の低いコージェライトやシリカを用いることで、第一の絶縁層11aの誘電率を効果的に下げることができるため望ましい。
【0040】
なお、本実施例におけるコモンモードノイズフィルタにおいては図示していないが、第二の絶縁層11bと酸化物磁性体層15、第二の絶縁層11cと酸化物磁性体層15の間には、ガラス成分を含む絶縁層16が介装されることがより望ましい。これはAgとの同時焼成可能な温度域では焼結性にやや難がある酸化物磁性体層15と引出電極13が直接接することのない構成とした方が、吸湿等に対する信頼性をより高めることができるからである。
【0041】
そして、上記した構成部品を一体化することにより、積層体が構成され、かつこの積層体の両側部に、Agからなる4つの外部端子電極17が設けられる。この外部端子電極17は一対のコイル導体12と、引出電極13の各一端部とそれぞれ接続されるように形成される。なお、外部端子電極17の表面には、電極の腐食を抑制するためニッケルめっき層、スズめっき層が施されることが望ましい。
【0042】
次に、本実施例におけるコモンモードノイズフィルタの製造方法について図4を用いて具体的に説明する。
【0043】
まず、第一の絶縁層11aを構成する第一の絶縁シートとしてホウ珪酸ガラス粉末63wt%とSrCO3粉末4wt%と無機フィラー33wt%とを配合、混合して混合粉末を得る。その後有機バインダとしてPVB(ブチラール樹脂)及びアクリル樹脂、可塑剤BBP(フタル酸ベンジルブチル)とを混合、分散しスラリーを作製する。
【0044】
次にこのスラリーをドクターブレード法にてPETフィルム上に塗布することによって第一の絶縁シートを成形した。また、第二の絶縁層11b、11cを構成する第二の絶縁シートはホウ珪酸ガラス粉末66wt%と無機フィラー34wt%を、酸化物磁性体層15を構成する酸化物磁性体シートはフェライト材料100wt%、ガラス成分を含む絶縁層16を構成するガラス成分を含む絶縁シートはホウ珪酸ガラス粉末69wt%と無機フィラー31wt%を、出発原料とし、第一の絶縁シートと同様にグリーンシートを成形した。
【0045】
なお、本発明の一実施例では上述のように第一の絶縁層11aおよび第二の絶縁層11b、11cを構成するガラスおよび無機フィラーを同一の材料としたが、両層にガラス系の材料を用いれば第二の絶縁層11b、11cと酸化物磁性体層15との密着性を確保できるとともに、第一の絶縁層11aと第二の絶縁層11b、11c間でガラス同士の結合層を形成するため密着性を確保することができる。
【0046】
次に第一の絶縁シートの所定位置にビアホールを形成し、Ag粉末とガラスフリットからなるビア電極用ペーストを充填した。
【0047】
次に一対のコイル導体12、引出電極13の形成方法としては、別途用意したベース板(図示せず)に所定パターン形状でめっきによりAgからなるコイル導体12、引出電極13を形成し、第一の絶縁シートまたは第二の絶縁シートの所定のシートに転写することにより形成した。
【0048】
なお、これらのシートの作製方法は上記の如きシート成形に限ったものではなく、ペースト印刷により各層を構成しても良く、また、一対のコイル導体12、引出電極13およびビア電極14の形成方法は特に限定されない。
【0049】
その後、Ag転写したシートを含む各シートを順次積層してシート積層体とし、このシート積層体を所望のサイズに切断して個片の積層体を得た。通常、コモンモードノイズフィルタのようなチップ部品は50mm角以上のシート積層体を約1〜2mm角程度に切断して積層体を得る。
【0050】
次に、上記積層体を所定の温度、時間で焼成して焼結を進めるとともに、無機発泡剤からガスを発生させて焼成体を得た。このとき、無機発泡剤を含む第一の絶縁層11aの原材料に混合された無機発泡剤であるSrCO3粉末が熱分解し、積層体内部で炭酸ガスを発生するため、第一の絶縁層11aには複数の気孔が形成されるとともに、第一の絶縁層11aにはSr元素が残存する。なお、無機発泡剤としてCaCO3を用いた場合には、第一の絶縁層11a内部に複数の気孔が形成されるとともにCa元素が残存する。
【0051】
次に、後述する外部端子電極塗布時の品質を確保するため、バレル研磨を行う。具体的には、約1万個の焼成体を、直径2mmのメディアとSiC研磨剤と純水とを遊星ミル内に投入し、150rpmで10分間回転させる。これにより、焼成体表面の凹凸を取り除くとともに、角部の面取りを行い、外部端子電極17が良好に塗布できるようになる。
【0052】
次に、バレル研磨後の焼成体の両側面に、コイル導体12あるいは引出電極13と電気的に接続されるようにAg粉末とガラスフリットを含む外部端子電極ペーストを塗布し、その後700℃で焼付け熱処理して外部端子電極17を形成した。
【0053】
なお、第一の絶縁層11aは内部に独立閉気孔のみを包含し、連通開気孔がほとんど生成しないため、樹脂含浸等の後処理を施さずとも、十分な絶縁信頼性を確保できるものではあるが、更に高い信頼性を確保するために、外部端子電極17形成後の焼成体をフッ素系シランカップリング剤等に浸漬し、表面の開気孔内に樹脂を含浸させても良い。
【0054】
最後に外部端子電極17の表面にめっき法によってニッケルめっき層、スズめっき層を形成してコモンモードノイズフィルタを形成した。
【0055】
(表1)は、第一の絶縁層11aと酸化物磁性体層15との間に配置される、第二の絶縁層11b、11cの厚みを変えて作製したものについて、第二の絶縁層11b、11cと酸化物磁性体層15との界面部におけるデラミネーション発生の有無を確認した結果をまとめたものである。コイル導体12間の第一の絶縁層11aの厚みは25μmとし、コイル導体12と第二の絶縁層11bの間に配される第一の絶縁層11a、コイル導体12と第二の絶縁層11cの間に配される第一の絶縁層11aも25μmと一定とした。焼成、バレル研磨後のサンプル約1万個から、50個のサンプルを無作為に抽出し、各サンプルの四側面部を拡大鏡下で観察し、うち少なくとも一側面にデラミネーションが確認できたものをNGとした。
【0056】
また、焼成後に複数の気孔を有する第一の絶縁層11aと、第一の絶縁層11aよりも単位体積当たりの気孔の体積が少ない第二の絶縁層11b、11cとは各々が焼結し一体化されるため、同一材料を用いた場合にはSEM観察をしても各々の層の境界を明確に区別し難い場合がある。しかしながら、上述した製造プロセスにおいて第一の絶縁層11aと、第二の絶縁層11b、11cとの間にはコイル導体12が存在するため、本明細書では各々の層の境界はコイル導体12として明確に定義する。
【0057】
次に本発明での第一の絶縁層11aと、第二の絶縁層11b、11cにおける単位体積当たりの気孔の体積の測定方法について説明する。
【0058】
まず各々の層の単位体積当たりの気孔体積の測定部位について説明する。第一の絶縁層11aの単位体積当たりの気孔体積は一対のコイル導体12間の層において測定し、第二の絶縁層11b、11cの気孔体積は、酸化物磁性体層15と一対のコイル導体12との間の層を測定した。各々の層の単位体積当たりの気孔体積の測定方法は、焼結体の任意の5断面をSEM観察により撮影した写真を用いて、各々の層における気孔部分の面積(SP)と、素体全体の面積(SB)とを画像処理により算出し、SP3/2/SB3/2を計算することにより、単位体積当たりの気孔体積を算出した。
【0059】
なお、評価に供したサンプルにおける第一の絶縁層11aの気孔率は12%であった。
【0060】
【表1】

【0061】
上記(表1)の如く第二の絶縁層11b、11cを形成せず、気孔を有する第一の絶縁層11aと酸化物磁性体層15とが直接接する構成とした焼成体(試料番号1)のデラミネーション発生率は、37/50と70%以上となり、第二の絶縁層11b、11cを形成した焼成体の(試料番号2)のデラミネーション発生率は、7/50とほぼ15%、それに対し、試料番号3〜6のように、第二の絶縁層11b、11cの厚みを厚くすると本体部焼成体のデラミネーション発生率は、すべて50分の0と優れた結果となった。
【0062】
以上より、第一の絶縁層11aと酸化物磁性体層15との間に第二の絶縁層11b、11cを配置した構成とすることで、バレル研磨後のデラミネーションの発生率は低くなる。
【0063】
上記した本発明の一実施例においては、ガラス系材料からなり内部に複数の気孔を有した第一の絶縁層11a内部に一対のコイル導体12を設けることで、コイル導体12間に発生する浮遊容量を極めて低く抑えることができるため、高周波特性の極めて優れたコモンモードノイズフィルタとすることができ、さらには第一の絶縁層11aと酸化物磁性体層15間に実質的に気孔を含まない第二の絶縁層11b、11cを配置することで酸化物磁性体層15と第二の絶縁層11b、11c間でのデラミネーションの発生を抑制し、高い歩留まりを得ることができる発明である。
【0064】
なお、上記本実施例におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、一対のコイル導体12を設けたものについて説明したが、一対のコイル導体12の個数は2個に限ったものではなく、対向する対のコイル導体12を複数形成して、アレイタイプとしてもよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、酸化物磁性体層と第二の絶縁層界面でのデラミネーションを防止することができるため、高周波帯域での使用が可能なコモンモードノイズフィルタを高い歩留まりで得ることができ、特にデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器のノイズ対策等として有用である。
【符号の説明】
【0066】
11a 第一の絶縁層
11b、11c 第二の絶縁層
12 コイル導体
13 引出電極
14 ビア電極
15 酸化物磁性体層
16 ガラス成分を含む絶縁層
17 外部端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスと無機フィラーとを含み内部に複数の気孔を有した第一の絶縁層と、
前記第一の絶縁層の内部に対向配置された一対のコイル導体と、
前記第一の絶縁層の上方および下方に配置された酸化物磁性体層と、を少なくとも有したコモンモードノイズフィルタにおいて、
前記第一の絶縁層と前記酸化物磁性体層との間に、ガラスと無機フィラーを含み、かつ前記第一の絶縁層よりも単位体積当たりの気孔の体積が少ない第二の絶縁層を設けたことを特徴とするコモンモードノイズフィルタ。
【請求項2】
前記第二の絶縁層の厚みが5μm以上である事を特徴とする請求項1記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第一の絶縁層にはアルカリ土類金属元素を含むことを特徴とする請求項2記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第一の絶縁層を構成する前記ガラスと前記第二の絶縁層を構成する前記ガラス、および前記第一の絶縁層を構成する前記無機フィラーと前記第二の絶縁層を構成する前記無機フィラーとは夫々同一の材料系からなる請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項5】
前記第一および前記第二の絶縁層はホウ珪酸ガラスとシリカフィラーからなる請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項6】
ガラスと無機フィラーと無機発泡剤と有機バインダを含む第一の絶縁シート層を成形する工程と、
ガラスと無機フィラーと無機発泡剤と有機バインダを含む第二の絶縁シート層を成形する工程と、
磁性材料を主成分とし、有機バインダを含む酸化物磁性体シートを成形する工程と、
前記一対のコイル導体間および上下面に前記第一の絶縁シートを配し、さらに前記第一の絶縁シートの表面に前記第二の絶縁シートを配した構成となる積層体を形成する積層工程と、前記積層体を所定の温度で焼成して第一の絶縁シート層に含まれる無機発泡剤からガスを発生させて内部に複数の気孔を形成した焼成体を得る焼成工程と、
前記焼成体に外部端子電極を形成する工程と、を有するコモンモードノイズフィルタの製造方法。
【請求項7】
前記無機発泡剤は、少なくとも一種のアルカリ土類炭酸塩を含むことを特徴とする請求項6に記載のコモンモードノイズフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−62460(P2013−62460A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201438(P2011−201438)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】