説明

コラーゲンの産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤及び軟骨細胞の遊走促進剤

【課題】本発明の課題は、安全性が高いコラーゲンの産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤及び軟骨細胞の遊走促進剤を提供することである。
【解決手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々研究を重ねた結果、人工コラーゲン、及びPHGペプチドが、上記要望を充足することを見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンの産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤及び軟骨細胞の遊走促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、繊維状タンパク質であり、皮膚や骨の主成分として哺乳類では全タンパク質の約30%を占めると言われている。
また、一般的なコラーゲン分子は、3本のコラーゲンポリペプチド鎖が三重らせん構造と呼ばれるロープ状の超らせん構造をとる。加えて、コラーゲンには、プロリン(Pro)とグリシン(Gly)とが特に多く含まれ、両アミノ酸残基とも安定な3重らせん構造の形成に重要である。
【0003】
生体由来のコラーゲンの作製方法及び利用方法では、例えば、ブタ又はウシの皮膚組織をそのままあるいは凍結乾燥した後、火傷などによる皮膚の損傷部位に移植する方法、酵素処理などによって細胞成分を除去して用いる方法、酸性溶液や酵素処理によって可溶化したコラーゲンを、所望の形態に再構成して用いる方法がある。
【0004】
一方、ウシの海綿状脳症の原因物質がプリオンと呼ばれる伝染性タンパク質であり、この伝染性タンパク質がヒトのクロイツフェルド-ヤコブ病伝染の原因の一つと言われている。プリオンは、タンパク質であり、通常の滅菌、殺菌方法では失活し難く、しかも種を越えて感染することが指摘されている。
また、生体由来のコラーゲンには、ウイルスが混入している可能性も否定できない。
【0005】
一般に、医療用具や医薬品、化粧品ではウシやブタ由来のコラーゲンを原料として用いることが多い。そのため、通常の滅菌、殺菌方法では除去できないプリオンなどの病原体の感染の危険性が常に存在している。
【0006】
さらに、生体由来のコラーゲンは、移植対象の患者に対して異種タンパク質であるので、免疫拒絶反応の問題もあった。
【0007】
一方、軟骨欠損部の治療では、荷重のかからない部位の軟骨組織を採取して患部に再移植するモザイクプラスティーと呼ばれる手法が中心であった。しかし、自家組織の使用は患者への負担が大きく、その採取量にも限界がある。
【0008】
また、コラーゲンを使用した軟骨培養用基材及びその製法が報告されている(特許文献1)。しかし、本特許文献で使用されるコラーゲンは、生体由来である。
さらに、軟骨の再構築のためのコラーゲンI及びコラーゲンIIを含有する再吸収可能細胞外マトリックスが報告されている(特許文献2)。しかし、本特許文献は、上記文献と同様に、生体由来のコラーゲンを使用している。
【0009】
人工コラーゲンについて報告されている(特許文献3及び4)。しかし、特許文献3では、人工コラーゲンの軟骨細胞の足場としての利用及び軟骨細胞の増殖促進効果については開示がない。
また、特許文献4では、人工コラーゲン、特に人工コラーゲン水溶液の軟骨細胞の増殖促進効果については開示がない。
【0010】
加えて、P(プロリン)H(ヒスチジン)G(グリシン)配列が繰り返し続いた人工コラーゲン(分子量が1000万)の軟骨細胞に対する効果を検討した例はあるが、骨芽細胞や靱帯や腱細胞、筋肉細胞に対する効果は知られていない。また、PHG配列が1〜8回繰り返しているペプチドの軟骨細胞、骨芽細胞、筋肉細胞に対する効果は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−194944
【特許文献2】特開2003―180815
【特許文献3】特開2003−321500
【特許文献4】特開2005−58499
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記要望にこたえるべく、安全性が高いコラーゲンの産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤及び軟骨細胞の遊走促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々研究を重ねた結果、人工コラーゲン、及びPHGペプチドが、上記要望を充足することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
つまり、本発明は、以下の通りである。
1.人工コラーゲンを含む肩の腱板細胞、アキレス腱細胞、骨芽細胞及び筋細胞のコラーゲンの産生促進剤。
2.前記コラーゲンが、タイプ1コラーゲンである前項1に記載のコラーゲンの産生促進剤。
3.前記人工コラーゲンが、濃度0.05〜5.00%(W/V)の溶液である前項1又は2に記載のコラーゲンの産生促進剤。
4.前記人工コラーゲンが、濃度0.05〜3.00%(W/V)の水溶液である前項1〜3のいずれか1に記載のコラーゲンの産生促進剤。
5.前記人工コラーゲンが、以下(1)〜(3)で表されるペプチドユニットで構成されているポリペプチドである前項1〜4のいずれか1項に記載のコラーゲンの産生促進剤。
(1)[-(OC-(CH2)m-CO)p-(Pro-Y-Gly)n-]a
(2)[-(OC-(CH2)m-CO)q-(Z)r-]b
(3)[-HN-R-NH-]c
(式中、mは1〜18の整数、p及びqは同一又は異なって0又は1、YはProまたはHyp(ハイドロキシプロリン)を表し、nは1〜20の整数を表す。Zは1〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、rは1〜20の整数を表し、Rは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を表す。aとbとの割合はa/b=100/0〜30/70(モル比)であり、p=1及びq=0であるときc=a、p=0及びq=1であるときc=bであり、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である。)
6.mが2〜12の整数、nが2〜15の整数、Zが、Gly, Sar, Ser, Glu, Asp, Lys, His, Ala,Val、Leu、Arg、Pro、Tyr、Ileから選択された少なくとも一種のアミノ酸残基又はペプチド残基で構成されているペプチド鎖、rが1〜10の整数、RがC2〜12アルキレン基である前項5に記載のコラーゲンの産生促進剤。
7.さらにヒアルロン酸ナトリウムを含む前項1〜6のいずれか1項に記載のコラーゲンの産生促進剤。
8.さらにRGDペプチドを含む前項1〜7のいずれか1項に記載のコラーゲンの産生促進剤。
9.以下のいずれか1のペプチドを含むコラーゲン産出促進剤。
(1)PHG単位が1〜12回の繰り返し配列であるペプチド
(2)PHG(配列番号1)
(3)PHG-PHG(配列番号2)
(4)PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
(5)PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
10.以下のいずれか1のペプチドを含むプロテオグリカン産出促進剤。
(1)PHG単位が1〜12回の繰り返し配列であるペプチド
(2)PHG(配列番号1)
(3)PHG-PHG(配列番号2)
(4)PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
(5)PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
11.以下のいずれか1のペプチドを含む細胞の遊走促進剤。
(1)PHG単位が1〜12回の繰り返し配列であるペプチド
(2)PHG(配列番号1)
(3)PHG-PHG(配列番号2)
(4)PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
(5)PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【発明の効果】
【0015】
本発明では、安全性が高い、コラーゲンの産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤及び軟骨細胞の遊走促進剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】肩関節から腱板を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype I collagen mRNAの発現結果。
【図2】肩関節から腱板を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype III collagen mRNAの発現結果。
【図3】アキレス腱を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype I collagen mRNAの発現を確認結果。
【図4】アキレス腱を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype III collagen mRNAの発現結果。
【図5】軟骨を採取して4種類のペプチドを各濃度で添加した場合のプロテオグリカン産生能の結果。
【図6】軟骨を採取して4種類のペプチドを各濃度で添加した場合のプロテオグリカン産生能とDNA量の結果。
【図7】軟骨を採取して人工コラーゲンを各濃度で添加した溶液へ軟骨細胞の遊走性の結果。
【図8】軟骨を採取してPHG(配列番号1)ペプチドを各濃度で添加した溶液へ軟骨細胞の遊走性の結果。
【図9】軟骨を採取してPHG-PHG(配列番号2)、PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)、PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)ペプチドを各濃度で添加した溶液へ軟骨細胞の遊走性の結果。
【図10】人工コラーゲンを添加した1週後のtype I collagenのmRNAの発現結果。
【図11】マウスの3T3骨芽様細胞にPHG(配列番号1)ペプチドを添加して1週のtype I collagenのmRNAの発現結果。
【図12】PHG(配列番号1)ペプチド添加による骨芽様細胞の遊走性の結果。
【図13】PHG-PHG(配列番号2)ペプチド添加による骨芽様細胞の遊走性の結果。
【図14】PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)ペプチド添加による骨芽様細胞の遊走性の結果。
【図15】PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)ペプチド添加による骨芽様細胞の遊走性結果。
【図16】ヒト由来の骨芽様細胞でのPHG(配列番号1)ペプチド添加による遊走性の結果。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
(人工コラーゲン)
本発明の人工コラーゲンは、生体由来のコラーゲンではないことを意味する。例えば、以下のようなポリペプチドを本発明の人工コラーゲンとする。
【0019】
本発明の人工コラーゲンであるポリペプチドは、下記式(1)〜(3)で表されるペプチドユニットで構成されている。
(1)[-(OC-(CH2)m-CO)p-(Pro-Y-Gly)n-]a
(2)[-(OC-(CH2)m-CO)q-(Z)r-]b
(3)[-HN-R-NH-]c
式中、mは1〜18の整数、p及びqは同一又は異なって0又は1、YはProまたはHypを表し、nは1〜20の整数を表す。Zは1〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、rは1〜20の整数を表し、Rは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を表す。aとbとの割合はa/b=100/0〜30/70(モル比)であり、p=1及びq=0であるときc=a、p=0及びq=1であるときc=bであり、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である。
より詳しくは、前記式(1)〜(3)のユニットで構成されたポリペプチドにおいて、通常、mは2〜12の整数、nは2〜15の整数であり、Zは、Gly, Sar, Ser, Glu, Asp, Lys, His, Ala,Val、Leu、Arg、Pro、Tyr、Ileから選択された少なくとも一種のアミノ酸残基又はペプチド残基で構成されているペプチド鎖である。また、前記式において、通常、rは1〜10の整数、RはC2〜12アルキレン基である。
【0020】
また、本発明のポリペプチドは、下記の繰り返し単位(i)、(ii)又は(iii)で構成されていてもよい。
(i)ペプチドユニット[-(Pro-Y-Gly)n-]a(式中、Y及びnは、前記に同じ)と、ペプチドユニット[-(Z)r-]b(式中、Z及びrは、前記に同じ)とを、a/b=100/0〜40/60(モル比)の割合で含む繰り返し単位で構成されたポリペプチド
(ii)ペプチドユニット[-(OC-(CH2)m-CO)-(Pro-Y-Gly)n-]a(式中、m、n及びYは、前記に同じ)と、ユニット[-HN-R-NH-]c(式中、Rは前記に同じ)とを、実質的にa/c=1/1(モル比)の割合で含む繰り返し単位で構成されたポリペプチド
(iii)ペプチドユニット[-(OC-(CH2)m-CO)-(Pro-Y-Gly)n-]a(式中、m、n及びYは、前記に同じ)と、ペプチドユニット[-(OC-(CH2)m-CO)-(Z)r-]b(式中、m、r及びZは、前記に同じ)と、ユニット[-HN-R-NH-]c(式中、Rは前記に同じ)とを、a/b=100/0〜40/60(モル比)の割合、なおかつ、実質的に(a+b)/c=1/1(モル比)の割合で含む繰り返し単位で構成されたポリペプチド。
【0021】
なお、上記Rで表される直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基は、ポリペプチドの物理的および生物学的性質を損なわない範囲であればよく、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレンなどのC1〜18アルキレン基が例示できる。前記アルキレン基Rは、直鎖状のメチレン鎖(CH2)s(sは1〜18の整数を表す)であってもよい。好ましいRは、C2〜12アルキレン基(さらに好ましくはC2〜10アルキレン基,特にC2〜6アルキレン基)である。
なお、これらの人工コラーゲンの詳細及び製造方法は、特開2003-321500に記載されている。
【0022】
加えて、好ましくは、本発明の人工コラーゲンは、株式会社PHGより販売されている人工コラーゲン(INCI名:Poly(Tripeptide-6)、CAS.No:60961-94-6:http://www.phg.co.jp/research/collagen.html)を使用することが好ましい。
【0023】
(人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤)
本発明の人工コラーゲンを含む産生促進剤は、少なくとも上記記載の人工コラーゲンを含む。また、人工コラーゲンは、溶液、特に水溶液の形態、好ましくは0.10%〜5.0%(W/V)、より好ましく0.30%〜3.0%(W/V)、最も好ましくは0.50%〜2.0%(W/V)の水溶液にすることが好ましい。
なお、人工コラーゲン水溶液とは、人工コラーゲンを水又は生理食塩水に溶解又は一部溶解した溶液を意味する。
【0024】
さらに、本発明のコラーゲン産生促進剤は、追加の活性成分、担体若しくはキャリア、又は添加剤などを含んでいてもよい。
前記活性成分としては、例えば、殺菌剤又は消毒剤、抗炎症剤、消炎・鎮痛剤、鎮痒剤、抗潰瘍剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗生物質、皮膚軟化剤、褥瘡・皮膚治療剤、ビタミン剤、漢方薬などが例示できる。さらに、ヒアルロン酸ナトリウム、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板分化増殖因子(PDGF)、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、グリア誘導神経栄養因子(GDNF)、神経栄養因子(NF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の増殖因子、骨形成タンパク質(BMP)や転写因子等のその他のサイトカイン、ホルモン、Mg、Ca及びCO等の無機塩、クエン酸及びリン脂質等の有機物、抗がん剤等の薬剤等を挙げることができる。
担体又はキャリアとしては、生体材料の剤形(固形剤、半固形剤、液剤など)に応じて、生理学的に許容される種々の担体やキャリアが使用できる。例えば、固形剤の担体としては、結合剤、賦形剤、崩壊剤などが例示できる。
【0025】
加えて、液剤の形態では、担体として、例えば、水、アルコール(エタノールなど)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、油脂(トウモロコシ油、オリーブ油など)などが挙げられる。
【0026】
(人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤の用途)
本発明のコラーゲン産生促進剤の用途は、肩の腱板細胞のコラーゲン、アキレス腱細胞のコラーゲン、骨芽細胞のコラーゲン、筋細胞のコラーゲン、特にタイプ1コラーゲンの産出を促進する。
【0027】
本発明のコラーゲン産生促進剤の別の用途としては、軟骨細胞のための足場材料、軟骨細胞の分化・増殖材、軟骨再生材として使用することができる。
例えば、本発明のコラーゲン産生促進剤は、軟骨(細胞)培養の好適な足場として、生体外および生体内における軟骨組織の構築を可能にする。
また、例えば、本発明のコラーゲン産生促進剤を軟組織欠損部に移植すれば、移植された箇所で軟骨組織の再生(分化・増殖)が促進される。
加えて、本発明のコラーゲン産生促進剤の用途である足場材料およびインプラントの形態及び形状は、特に限定されず、スポンジ、メッシュ、不繊布状成形物、ディスク状、フィルム状、棒状、粒子状、及びペースト状等、任意の形態及び形状を用いることができる。こうした形態や形状は、足場材料やインプラントの使用目的に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
(人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤の投与方法)
本発明のコラーゲン産生促進剤の投与方法としては、以下の方法が例示されるが、特に限定されない。
(1)本発明のコラーゲン産生促進剤を肩関節に注入して肩の腱板細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進させる。
(2)本発明のコラーゲン産生促進剤をアキレス腱部に注入してアキレス腱細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進させる。
(3)本発明のコラーゲン産生促進剤を筋肉内に注入して筋細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進させる。
(4)本発明のコラーゲン産生促進剤を骨欠損部に使用するスカフォルドに添加して骨芽細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進させる。
なお、上記(1)〜(4)のコラーゲン産生促進剤の濃度は、0.01〜5.0%、好ましくは0.03〜1.0%、より好ましくは0.05〜0.3%の範囲で使用する。
【0029】
(PHGペプチド)
本発明のPHGペプチドとは、 PHG配列が繰り返し続いたペプチドを意味する。PHG配列の繰り返し単位は、1〜12回であり、好ましくは、1、2、4、8回である。加えて、本発明のPHGペプチドは下記で述べる用途の効果を消失させない限りは、適宜、1〜5個のアミノ酸の置換、挿入、消失があっても良く、さらに、化学的修飾があっても良い。
【0030】
(PHGペプチドを含むコラーゲン産生促進剤の用途)
本発明のPHGペプチドを含むコラーゲン産生促進剤の用途は、コラーゲン産出促進、特にタイプIコラーゲンの産生を促進させる。より詳しくは、骨芽細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進させる。
なお、PHGペプチドを含むコラーゲン産生促進剤の濃度は、1〜2000μM、好ましくは2〜1500μM、より好ましくは3〜1000μMの範囲で使用する。
【0031】
(PHGペプチドを含むプロテオグリカン産出促進剤の用途)
本発明のPHGペプチドを含むプロテオグリカン産出促進剤の用途は、プロテオグリカンの産生を促進させる。より詳しくは、軟骨細胞のプロテオグリカンの産生を促進させる。
なお、PHGペプチドを含むプロテオグリカン産出促進剤の濃度は、1〜2000μM、好ましくは2〜1500μM、より好ましくは3〜1000μMの範囲で使用する。
【0032】
(PHGペプチドを含む細胞の遊走促進剤の用途)
本発明のPHGペプチドを含む細胞の遊走促進剤の用途は、細胞(特に、軟骨細胞、骨芽細胞)の遊走を促進させる。
なお、PHGペプチドを含むプロテオグリカン産出促進剤の濃度は、1〜2000μM、好ましくは2〜1500μM、より好ましくは3〜1000μMの範囲で使用する。
【0033】
(PHGペプチドを含むコラーゲン産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤、細胞の遊走促進剤の投与方法)
本発明の投与方法としては、以下の方法が例示されるが、特に限定されない。
(1)PHGペプチドをヒアルロン等に添加した後に、肩関節内に投与することで肩の腱板を修復させる。また、関節内注射することで軟骨修復材や軟骨保護剤として使用できる。
(2)PHGペプチドをアキレス腱や筋細胞に注入することで細胞の修復を促進させる。加えて、PHGペプチドを湿布剤に含ませて皮膚より浸透させることで、靱帯や筋肉損傷の修復を促進させる。
(3)PHGペプチドを骨欠損部に充填するスカフォルドに添加することで、周囲より骨芽細胞を遊走させて欠損部に集めて骨欠損の修復を促進させる。
(4)PHGペプチドを軟骨骨欠損部に充填するスカフォルドに添加することで、周囲より軟骨細胞を遊走させて欠損部に集めて軟骨欠損の修復を促進させる。
【0034】
(軟骨細胞)
本発明における使用のための軟骨細胞は、関節軟骨、骨膜および軟骨膜から単離される同種異系または自家細胞、ならびに骨髄からの間葉(間質)幹細胞を包含する細胞供給源から得られ得る。同種異系細胞は免疫応答および感染性合併症に関する潜在的能力を保有するので、自家細胞から、特に自家の関節軟骨から軟骨細胞を単離することが好ましい。細胞を収集するための技法は既知であり、酵素的消化または外部成長培養が含まれる。次に、収集細胞は、身体への再導入前に細胞培養で増やされる。概して、軟骨組織の最適な再生を提供するためには、少なくとも106、好ましくは少なくとも107細胞が軟骨培養用基材中に含浸されるべきである。
【0035】
(プロテオグリカン)
プロテオグリカン(proteoglycan)は、糖側鎖としてGAG(グリコサミノグリカン)を有するタンパク質であり、古くはムコ多糖と呼ばれてきた。骨、軟骨、皮膚などの結合組織に豊富に存在しており、細胞内や細胞膜に存在が認められている。
【0036】
(RGD)
RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸;配列番号5)配列は、いくつかの重要な細胞外マトリックスタンパク質中に見出され、そして細胞表面受容体のインテグリンファミリーのメンバーへの接着リガンドとして働く。典型的なRGD配列は、Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro(GRGDSP;配列番号6)である。環状RGDもまた、細胞接着モチーフとして使用可能である。典型的な配列はArg−Gly−Asp−(D−Phe)−Val(配列番号7)である。RGD修飾表面は、膜上にそのままで(in situ)細胞単層の形成を導く。
すなわち、本発明の軟骨培養用基材は、上記いずれかのRGDペプチドを含むことにより、軟骨細胞との接着能力を高め、軟骨細胞の増殖能力を高めることができると考えられる。
【0037】
(関節機能改善剤)
現在、変形性関節症、スポーツ障害後の変形性関節症、関節リウマチ、などの疾患に軟骨保護作用のあるヒアルロン酸製剤を関節内に注射することで有効な治療効果が得られている。
例えば、関節機能改善剤であるヒアルロン酸ナトリウム関節内注射液であるスベニール(登録商標)(製造販売元:中外製薬株式会社)、アルツ(登録商標)(製造販売元:生化学工業株式会社)が販売されている。
上記関節機能改善剤の用法・用量は、以下の通りである。
変形性膝関節症:通常、成人1回2.5ml(ヒアルロン酸ナトリウム25mg)を1週間毎に連続5回膝関節腔内に投与する。その後、症状の維持を目的とする場合は、2〜4週間隔で投与する。
肩関節周囲炎:通常、成人1回2.5ml(ヒアルロン酸ナトリウム25mg)を1週間毎に連続5回肩関節(肩関節腔、肩峰下滑液包又は上腕二頭筋長頭腱腱鞘)内に投与する。
慢性関節リウマチにおける膝関節痛:通常、成人1回2.5ml(ヒアルロン酸ナトリウム25mg)を1週間毎に連続5回膝関節腔内に投与する。
【0038】
本発明の人工コラーゲン水溶液には軟骨修復効果がある。関節の体積の小さい指関節から、体積の大きい膝関節や股関節など全身の関節軟骨の修復を行うために、濃度を0.1mg/ml〜300mg/mlで変えて投与を行うことが好ましい。
また、人工コラーゲン水溶液をヒアルロン酸などと混合することで、軟骨保護効果や軟骨修復効果を増強できる。ここで記載している軟骨には、硝子軟骨と半月板(膝関節)、関節唇(股関節)などの線維軟骨を含む。すなわち、本発明の人工コラーゲンをヒアルロン酸又は上記の関節機能改善剤に添加した関節機能改善剤を関節内に投与することで、下記実施例の結果から明らかなように、軟骨保護効果を有し軟骨修復を促進させる効果があると考えられる。
また、1cm3の溶液に対して0.1mgから300mgまでの人工コラーゲンを上記関節機能改善剤2.5mlに添加することで関節系脳改善剤を製造することができる。
【0039】
本発明のコラーゲン産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤、細胞の遊走促進剤を医療用途に用いる場合には、殺菌又は滅菌して用いることが好ましい。殺菌、滅菌方法としては、種々の殺菌・滅菌方法、例えば、湿熱蒸気滅菌、ガンマ線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、薬剤殺菌、紫外線殺菌などが例示できる。これらの方法のうち、ガンマ線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌は、滅菌効率と材料に与える影響が少なく好ましい。
【0040】
本発明のコラーゲン産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤、細胞の遊走促進剤は、種々の被検体(被験体)の組織(例えば、表皮組織及び真皮組織など)へ適用できる。被検体は、ヒトに限らず、非ヒト動物(例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどの非ヒト動物)であってもよい。
【0041】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことはいうまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも更には上記した発明の実施の形態における記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱し得ない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【実施例1】
【0042】
(人工コラーゲン水溶液の効果確認)
本発明の人工コラーゲンを含む水溶液のアキレス腱、肩腱板に対する効果を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0043】
(人工コラーゲン)
本発明の人工コラーゲンは、株式会社PHGより販売されている人工コラーゲン(INCI名:Poly(Tripeptide-6)、CAS.No:60961-94-6:http://www.phg.co.jp/research/collagen.html)を使用した。
【0044】
(細胞の調整)
New Zealand White rabbit 7週令♂3羽を麻酔下で屠殺してアキレス腱、rotator cuff(肩の腱板)を無菌的に採取した。
(培養液)
DMEM(high Glucose) with L-Glutamine and Phenol Red(SIGMA D5796)
Penicillin-streptomycin
10% Fetal Bovine Serum (EQUITECH-BIO,INC.)
50 μg/mL 2-phospho-L-ascorbic acid trisodium salt (Fluka)
(試薬)
Collagenase Type1 (Worthington CLS1)
PBSで0.1%に調整 (1mg/mL) 後、フィルター滅菌(0.22 μm)した。
Trypsin (SIGMA T-8003)
PBSで0.25%に調整 (2.5mg/mL) 後、フィルター滅菌(0.22 μm)した。
Dulbecco's PBS (-) (Nissui)
【0045】
1.靭帯を遠沈管PBS 10 mLに入れて振とうし、1300 rpm 20℃ 5 minで遠心し、上清を吸引した。
2.靭帯を裁断した後、0.1% コラゲナーゼ溶液4.5 mLを加え、37℃の恒温槽で揺らしながら12時間処理した。
3.上記の溶液に0.25% トリプシンを4.5 mL加え撹拌し、37℃で揺らしながらさらに2時間処理した。
4.上記の溶液にDMEMを9mL加えセルストレイナーに通して組織を取り除いた。
5.1300 rpm 20℃ 5 minで遠心し、上清を吸引した。
6.ascorbic acid入り10% FBS加DMEMにペレットを懸濁した。
7.100 mm dishに播種し、37℃、5%CO2にて培養した。
【0046】
(靱帯細胞の播種)
semi-confluentに達した靱帯細胞をtripsin-EDTA溶液処理によりdishから剥離し、培養液を加えて遠心洗浄した。その後、1.5×106 cells/wellにて6-well plateに播種し、37℃、5% CO2にて培養を行った。
(人工コラーゲン水溶液の添加)
培養開始24時間後において、人工コラーゲンを0(コントロール)、0.05、0.1、0.2、0.3%に調整した培養液に交換し、7日間作用させた。
(靱帯細胞の回収・RNA抽出)
上記培養終了後、靱帯細胞を回収し、RNA抽出はRNeasy Mini Kit (QIAGEN) を用いて行った。逆転写反応はQuantiTect Reverse Transcription Kit (QIAGEN) を用いて行った。 より詳しくは以下の方法でReal-time PCRを行った。
【0047】
(Real-time PCR)
Real-time PCRに使用した機種はABI PRISM 7000 (Applied Biosystems)であり、使用した試薬はReal-time PCR Master Mix (TOYOBO)とPre-Developed TaqMan® Assay Reagents Eukaryotic 18S rRNA (Applied Biosystems)、TaqMan® Probe kit (Applied Biosystems)であった。
加えて、使用したprimer配列と反応条件を以下に示す。
(rabbit)
collagen, type I, alpha 1 Oc03396074_g1(Applied Biosystems販売)
COL3A1 F: 5-GCTCCTGGACAGAATGGTGAG-3 (配列番号8)
R: 5-CGCCTTTGACACCTTGAGGA-3 (配列番号9)
Probe: 5-AAGGAGAAAGAGGTGCTCCC-3 (配列番号10)
GAPDH F: 5-CCCTCAATGACCACTTTGTGAA-3 (配列番号11)
R: 5-AGGCCATGTGGACCATGAG-3 (配列番号12)
Probe: 5-CGAATTTGGCTACAGCAACA-3 (配列番号13)
(反応条件)
50℃-2min, 95℃-10min,(95℃-15sec, 60℃-1min)×50 cyclesで行った。
【0048】
(肩の腱板に関する結果)
New Zealand white rabbit 7週令の肩関節から腱板を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype I collagen mRNAの発現を確認した(参照:図1)。
さらに、New Zealand white rabbit 7週令の肩関節から腱板を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype III collagen mRNAの発現を確認した(参照:図2)。
以上により、人工コラーゲンを0.05-0.3%の濃度で添加することで肩の腱板のタイプIコラーゲンの産生を促進することができる。さらに、腱板断裂の治療で関節内に定期的に注入することで腱板断裂の修復を促進できる。
【0049】
(アキレス腱に関する結果)
New Zealand white rabbit 7週令のアキレス腱を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype I collagen mRNAの発現を確認した(参照:図3)。
さらに、New Zealand white rabbit 7週令のアキレス腱を採取して1週間人工コラーゲンを添加して培養した場合のtype III collagen mRNAの発現を確認した(参照:図4)。
以上により、人工コラーゲンを0.05-0.3%の濃度で添加することでアキレス腱のタイプIコラーゲンの産生を促進することができる。さらに、アキレス腱断裂の手術時で人工コラーゲンを添加することでアキレス腱断裂の修復を促進できる。また、アキレス腱断裂部の皮膚に人工コラーゲンを塗布することで人工コラーゲンを浸透させ、腱の修復を促進することができる。
【実施例2】
【0050】
(ペプチドが軟骨のプロテオグリカン産生に与える影響の確認)
PHGペプチドが軟骨のプロテオグリカン産生に与える影響を確認した。
使用したPHGペプチドは、以下の通りである。なお、純度は95%以上である。
PHG(配列番号1)
PHG-PHG(配列番号2)
PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【0051】
(軟骨細胞の作製)
New Zealand white rabbit、雄性、8-9週 5匹の肩関節、膝関節を摘出しメスで軟骨層のみを削って採取した。滅菌PBS溶液で洗浄後、Dulbecco's Modified Eagle's medium 25ml + gentacin (25μg/ml)に0.4%となるように pronaseを添加して37℃で2時間インキュベーションした。その溶液を0.22 μm Steriflipを用いて濾過滅菌した。濾過滅菌した溶液に0.025% となるようにcollagenaseを添加して37℃でovernightインキュベーションした。その溶液を0.22 μm Steriflipを用いて濾過滅菌した。
得られた溶液を洗浄して軟骨細胞を回収後、直径90mmのシャーレに1〜2×106cells/dish の軟骨細胞を播き3日一度液替えをした。Confluent になった時点で一回のみ系代培養を行った。以下の実験は1回系代培養した細胞を用いて行った。
また、培養液の構成は以下の通りである。
(培養液の組成)
Dulbecco's Modified Eagle's medium nutrient mixture F-12 HAM(SIGMA)+20% FETAL BOVINE SERUM (Hyclone)+20 ug/ml ascorbic acid(SIGMA)を使用し、3日に一度液替えを行った。各ペプチドは0(コントロール),30,100,300μmolの濃度で添加した。
【0052】
(軟骨細胞のプロテオグリカン産生能の解析)
各ペプチドを含む水溶液を添加することによる軟骨細胞のプロテオグリカン産生能を測定した。詳細は、以下の通りである。
(軟骨細胞の播種)
semi-confluentに達した軟骨細胞をtripsin-EDTA溶液処理によりdishから剥離し、培養液を加えて遠心洗浄した。その後1.5×106 cells/wellにて6-well plateに播種し、37℃、5% CO2にて培養を行った。
(ペプチド水溶液の添加)
培養開始24時間後において、それぞれのペプチドを0、30、100、300μmolの濃度に調整した培養液に交換し、7日間作用させ、最後の24時間は更に10μCi/ml Na35SO4を添加して培養を行った。培養液は3日に1回交換した。
(回収・抽出)
上記培養終了後、新しい培養液で洗浄し、protease inhibitors (0.1 M 6-aminohexanoic acid, 0.005 M benzamidine hydrochloride, 0.01 M Na2 EDTA , 0.01 M N-ethylmaleimide, 0.001M phenylmethyl sulfonyl fluoride)を加えたlysis buffer(4 M GuHCl, 0.05 M NaAC, pH 6.0)を各wellに入れ、4℃で4時間抽出を行い、4℃、15000rpmにて20分間遠心した。
(分離・放射活性測定)
PD-10 pre-packed column(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて、elution buffer (4M GuHCl , 0.05M Na acetate, 0.1M Na sulfate , 0.5% TritonX-10 (pH 7.5))で溶出し、サンプルを分取した。各フラクションに、ethanolとシンチレーターを加えて混合し、液体シンチレーションカウンターで放射能含有量(cpm)を測定した。また、この際用いたサンプルのDNA量をHoechst 33258 dyeにより測定し、cpm/mg DNA値を求めた。
【0053】
(軟骨細胞のDNA合成能の解析)
PHGペプチドを含む水溶液を添加することによる軟骨細胞のDNA合成能を測定した。詳細は、以下の通りである。
(軟骨細胞の播種)
semi-confluentに達した軟骨細胞をtripsin-EDTA溶液処理によりdishから剥離し、培養液を加えて遠心洗浄した。その後、1.5×105 cells/wellにて6-well plateに播種し、37℃、5% CO2にて培養した。
(ペプチド水溶液の添加)
培養開始24時間後において、それぞれのペプチドを0、30、100、300μmolの濃度に調整した培養液に交換し、24時間作用させた。最後の4時間はさらに1μCi/ml [methyl-3H] Thymidineを添加して培養を行った。
(回収・抽出)
上記培養終了後、細胞を冷PBS(-)で洗浄し、milliQ水を加えて室温で10分間放置した。セルスクレイパーで細胞をはがしてエッペンに回収し、10%TCAを加えて混合した後、室温で30分間放置した。15,000 rpm, 4℃, 5分間遠心した後、上清を取り除き、0.1N NaOHを加えて沈殿を懸濁した。
(放射活性測定)
サンプルにethanolとシンチレーターを加えて混合し、液体シンチレーションカウンターで放射能含有量(cpm)を測定した。
【0054】
(ペプチドが軟骨のプロテオグリカン産生に与える影響の結果)
New Zealand white rabbit 7週令の軟骨を採取して4種類のペプチドを各濃度で添加した場合のプロテオグリカン産生能とDNA量を検討した(参照:図5、6)。
以上により、PHG〜(PHG)8までのペプチドで1000μmolの範囲で投与することで軟骨細胞のプロテオグリカン産生を亢進させることができる。
【実施例3】
【0055】
(軟骨の遊走性の検討)
本発明の人工コラーゲン及びPHGペプチド投与による軟骨の遊走性を検討した。詳細は、以下の通りである。
使用したペプチドは、以下の通りである。なお、純度は95%以上である。
PHG(配列番号1)
PHG-PHG(配列番号2)
PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【0056】
(軟骨細胞の作製)
New Zealand white rabbit、雄性、8-9週 5匹の肩関節、膝関節を摘出しメスで軟骨層のみを削って採取した。滅菌PBS溶液で洗浄後、Dulbecco's Modified Eagle's medium 25ml + gentacin (25μg/ml)に0.4%となるように pronaseを添加して37℃で2時間インキュベーションした。その溶液を0.22 μm Steriflipを用いて濾過滅菌した。濾過滅菌した溶液に0.025% となるようにcollagenaseを添加して37℃でovernightインキュベーションした。その溶液を0.22 μm Steriflipを用いて濾過滅菌した。
得られた溶液を洗浄して軟骨細胞を回収後、直径90 mmのシャーレに1〜2×106cells/dish の軟骨細胞を播き3日一度液替えをした。Confluent になった時点で一回のみ系代培養を行った。以下の実験は1回系代培養した細胞を用いて行った。
【0057】
また、培養液の構成は以下の通りである。
(培養液の組成)
Dulbecco's Modified Eagle's medium nutrient mixture F-12 HAM(SIGMA)+20% FETAL BOVINE SERUM (Hyclone)+20 ug/ml ascorbic acid(SIGMA)を使用した。
(試薬)
Minimum essential medium alpha medium:αMEM (GIBCO)
Fetal Bovine Serum : FBS (EQUITECH-BIO,INC.)
Dulbecco' s PBS (-) (Nissui)
0.25% trypsin-EDTA solution (SIGMA)
96 Well Cell Migration Assay (Trevigen) (Cat No.:3465-096-K)
(方法)
96 Well Cell Migration Assay (Trevigen) kitを使用した。
(播種)
1.実験開始24 hr前より、0.5%FBS添加αMEMにて培養した細胞を回収し、カウントした。
2.1200 rpm、4℃にて5 min遠心し、上清をアスピレートし、wash bufferで洗浄後、1×106 cells/mLに懸濁した。
3.ボトムチャンバーに試薬を添加したメディウムを150μLずつ加えた。
4.トップチャンバーに細胞懸濁液を50μLずつ加え、12 hrインキュベートした。
5.50,000、25,000、10,000、5,000、2,000及び1,000の細胞数のwellを予め用意してコントロールを作成した。
(添加試薬)
PHG(配列番号1)は 0(コントロール)、10、100、300、1000、3000、10000 μM の濃度で用意した。
PHG-PHG(配列番号2)、PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)、PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)は0(コントロール)、10、30、100、300、1000μMの濃度で用意した。
細胞数は、485 nm/520 nmで吸光度を測定して算出した。
【0058】
(軟骨の遊走性の検討結果)
New Zealand white rabbit 7週令から採取して軟骨に対して、人工コラーゲンを各濃度で添加した溶液での軟骨細胞の遊走性を検討した(参照:図7)。
さらに、New Zealand white rabbit 7週令の軟骨を採取してPHGペプチドを各濃度で添加した溶液へ軟骨細胞の遊走性を検討した(参照:図8)。
加えて、New Zealand white rabbit 7週令の軟骨を採取してPHG-PHG(配列番号2)、PHG-PHG -PHG-PHG(配列番号3)、PHG-PHG -PHG-PHG -PHG-PHG -PHG-PHG(配列番号4)ペプチドを各濃度で添加した溶液へ軟骨細胞の遊走性を検討した(参照:図9)。
以上により、人工コラーゲンは軟骨細胞の遊走性の効果はなかった。一方、PHGペプチドを300〜10000μMの範囲で添加することで軟骨細胞を遊走させることができた。さらに、(PHG)8のペプチドは30〜1000μMの濃度で添加することで軟骨細胞を遊走させることができる。
【実施例4】
【0059】
(骨芽様細胞に対する人工コラーゲンとPHGペプチドの効果の確認)
骨芽様細胞に対する人工コラーゲンとPHGペプチドの効果を確認した。詳細は以下の通りである。
使用したペプチドは、以下の通りである。なお、純度は95%以上である。
PHG(配列番号1)
PHG-PHG(配列番号2)
PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【0060】
(試薬)
Minimum essential medium alpha medium:αMEM (GIBCO)
10% Fetal Bovine Serum (EQUITECH-BIO,INC.)
100 μM 2-phospho-L-ascorbic acid trisodium salt (Fluka)
10 mM Glycerol 2-phosphate disodium salt hydrate (SIGMA)
fetal bovine serum: FBS (Equitech-Bio)
Dulbecco' s PBS (-) (Nissui)
0.25% trypsin-EDTA solution (Sigma)
【0061】
(方法)
<播種>
10%FBS添加αMEM培地にMC3T3-E1細胞を懸濁させ、24 well plateに1×105cells/wellとなるよう1 mLずつ播種した。
24時間後、メディウムをアスピレートし、人工コラーゲンを0(コントロール)、0.01、0.025、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5%の濃度添加した溶液に置き換えて1週間培養する。PHGペプチドは、0(コントロール)、3、10、30、100、300、1000、3000、10000μM添加した溶液に置き換えて1週間培養した。
<骨芽様細胞の回収・RNA抽出>
上記培養終了後、靱帯細胞を回収し、RNA抽出はRNeasy Mini Kit (QIAGEN) を用いて行った。逆転写反応はQuantiTect Reverse Transcription Kit (QIAGEN) を用いて行った。 より詳しくは以下の方法でReal-time PCRを行った。
<Real-time PCR>
Real-time PCRに使用した機種はABI PRISM 7000 (Applied Biosystems)であり、使用した試薬はReal-time PCR Master Mix (TOYOBO)とPre-Developed TaqMan® Assay Reagents Eukaryotic 18S rRNA (Applied Biosystems)、TaqMan® Probe kit (Applied Biosystems)であった。
加えて、使用したprimer配列と反応条件を以下に示す。
Mouse
collagen, type I, alpha 1 Mm00801666_g1
Pre-Developed TaqMan Assay Reagents -mouse GAPDH
<反応条件>
50℃-2min, 95℃-10min,(95℃-15sec, 60℃-1min)×50 cyclesで行った。
【0062】
(骨芽様細胞に対する人工コラーゲンとPHGペプチドの効果の確認結果)
マウスの3T3骨芽様細胞に人工コラーゲンを添加して1週後のtype I collagenのmRNAの発現を確認した(参照:図10)。さらに、マウスの3T3骨芽様細胞にPHGペプチドを添加して1週のtype I collagenのmRNAの発現を確認した(参照:図11)。
以上により、骨芽細胞に0.05-0.4%の範囲で人工コラーゲンを添加することで、骨芽細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進できる。さらに、骨芽細胞に10〜300μMの範囲でPHGペプチドを添加して骨芽細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進することができる。
【実施例5】
【0063】
(本ペプチドによる骨芽様細胞の遊走性の効果)
本ペプチドによる骨芽様細胞の遊走性の効果を確認した。詳細は以下の通りである。
使用したペプチドは、以下の通りである。なお、純度は95%以上である。
PHG(配列番号1)
PHG-PHG(配列番号2)
PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【0064】
(細胞)
MC3T3-E1細胞
(試薬)
Minimum essential medium alpha medium:αMEM (GIBCO)
Fetal Bovine Serum : FBS (EQUITECH-BIO,INC.)
Dulbecco' s PBS (-) (Nissui)
0.25% trypsin-EDTA solution (SIGMA)
96 Well Cell Migration Assay (Trevigen) (Cat No.:3465-096-K)
(方法)
96 Well Cell Migration Assay (Trevigen) kitを使用した。
(播種)
1.実験開始24 hr前より、0.5%FBS添加αMEMにて培養した細胞を回収し、カウントした。
2.1200 rpm、4℃にて5 min遠心し、上清をアスピレートし、wash bufferで洗浄後、1×106 cells/mLに懸濁した。
3.ボトムチャンバーに試薬を添加したメディウムを150 μLずつ加えた。
4.トップチャンバーに細胞懸濁液を50 μLずつ加え、12 hrインキュベートした。
5.50,000、25,000、10,000、5,000、2,000及び1,000の細胞数のwellを予め用意してコントロールを作成した。
(添加試薬)
PHG(配列番号1)は 0(コントロール)、3、30、100、300、1000、3000、10000μM の濃度で用意した。
PHG-PHG(配列番号2)、PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)、PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)は0(コントロール)、10、30、100、300、1000μMの濃度で用意した。
細胞数は、485 nm/520 nmで吸光度を測定して算出した。
【0065】
マウスの3T3骨芽様細胞を用いてPHG(配列番号1)、PHG-PHG(配列番号2)、PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)、PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)ペプチドを添加して溶液へ骨芽様細胞の遊走性を検討した(参照:図12〜15)。さらに、ヒト由来の骨芽様細胞を用いたPHGの遊走性を検討した(参照:図16)。
以上により、PHG単独からPHGが8回繰り返しているまでのペプチドは、3〜1000μMの範囲投与することで骨芽細胞を遊走させる効果を持つことを確認した。
【0066】
(実施例の結果の総論)
上記実施例の結果から以下のことが言える。
本発明は、人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤は以下の効果を有することを確認している。
0.05〜0.3%の人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤を肩関節腱板に添加して肩の腱板のタイプIコラーゲンの産生を促進できる。
0.05〜0.3%の人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤をアキレス腱に添加してアキレス腱のタイプIコラーゲンの産生を促進できる。
人工コラーゲンを含むコラーゲン産生促進剤を骨に添加して骨芽細胞のタイプIコラーゲンの産生を促進できる。
【0067】
本発明のPHGペプチドを含むコラーゲン産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤、細胞の遊走促進剤は、以下の効果を有することを確認している。
30〜1000μmolのPHGペプチド{PHG〜(PHG)8}を軟骨細胞に投与することでプロテオグリカン産生を亢進できる。
30〜1000μMのPHGペプチド{PHG〜(PHG)8}を軟骨細胞に投与することで軟骨細胞を遊走させることができる。
PHGペプチドを骨芽細胞に投与することでタイプIコラーゲンの産生を促進できる。
3.0〜1000μMのPHGペプチド{PHG〜(PHG)8}を骨芽細胞に投与することで骨芽細胞を遊走させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、安全性が高い、コラーゲンの産生促進剤、プロテオグリカン産出促進剤及び細胞の遊走促進剤であり、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工コラーゲンを含む肩の腱板細胞、アキレス腱細胞、骨芽細胞及び筋細胞のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項2】
前記コラーゲンが、タイプ1コラーゲンである請求項1に記載のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項3】
前記人工コラーゲンが、濃度0.05〜5.00%(W/V)の溶液である請求項1又は2に記載のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項4】
前記人工コラーゲンが、濃度0.05〜3.00%(W/V)の水溶液である請求項1〜3のいずれか1に記載のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項5】
前記人工コラーゲンが、以下(1)〜(3)で表されるペプチドユニットで構成されているポリペプチドである請求項1〜4のいずれか1項に記載のコラーゲンの産生促進剤。
(1)[-(OC-(CH2)m-CO)p-(Pro-Y-Gly)n-]a
(2)[-(OC-(CH2)m-CO)q-(Z)r-]b
(3)[-HN-R-NH-]c
(式中、mは1〜18の整数、p及びqは同一又は異なって0又は1、YはProまたはHyp(ハイドロキシプロリン)を表し、nは1〜20の整数を表す。Zは1〜10個のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、rは1〜20の整数を表し、Rは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を表す。aとbとの割合はa/b=100/0〜30/70(モル比)であり、p=1及びq=0であるときc=a、p=0及びq=1であるときc=bであり、p=1及びq=1であるときc=a+bであり、p=0及びq=0であるときc=0である。)
【請求項6】
mが2〜12の整数、nが2〜15の整数、Zが、Gly, Sar, Ser, Glu, Asp, Lys, His, Ala,Val、Leu、Arg、Pro、Tyr、Ileから選択された少なくとも一種のアミノ酸残基又はペプチド残基で構成されているペプチド鎖、rが1〜10の整数、RがC2〜12アルキレン基である請求項5に記載のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項7】
さらにヒアルロン酸ナトリウムを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項8】
さらにRGDペプチドを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載のコラーゲンの産生促進剤。
【請求項9】
以下のいずれか1のペプチドを含むコラーゲン産出促進剤。
(1)PHG単位が1〜12回の繰り返し配列であるペプチド
(2)PHG(配列番号1)
(3)PHG-PHG(配列番号2)
(4)PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
(5)PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【請求項10】
以下のいずれか1のペプチドを含むプロテオグリカン産出促進剤。
(1)PHG単位が1〜12回の繰り返し配列であるペプチド
(2)PHG(配列番号1)
(3)PHG-PHG(配列番号2)
(4)PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
(5)PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)
【請求項11】
以下のいずれか1のペプチドを含む細胞の遊走促進剤。
(1)PHG単位が1〜12回の繰り返し配列であるペプチド
(2)PHG(配列番号1)
(3)PHG-PHG(配列番号2)
(4)PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号3)
(5)PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG-PHG(配列番号4)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−126720(P2012−126720A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258379(P2011−258379)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月15日に日本薬学会医療薬科学部会により発行された「第4回次世代を担う若手医療薬科学シンポジウム」の要旨集の第39頁に記載
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】