説明

コレステリック液晶駆動方法

【課題】コレステリック液晶や駆動回路ICの特性変動に影響されず、安定した表示を行うことができるようにする。
【解決手段】「消去」では正パルスと負パルスをプロセスで許容できる最大電圧とし、「選択(書込み)」、「選択(保持)」および「維持」では正パルスと負パルスを最大電圧より低く且つコレステリック液晶の特性ばらつきを考慮した上限電圧とし、「選択(書込み)」と「選択(保持)」の各時間を前記コレステリック液晶の特性ばらつきを考慮した上限時間とし、「選択(書込み)」と「選択(保持)」の時間を5分割し、「選択(保持)」と「維持」では前記正パルスと負パルスの数を同数とし、「選択(書込み)」と「維持」ではコレステリック液晶に印加される0Vの連続パルス数を前記分割数の半分より少なくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DDS(Dynamic Drive Scheme)駆動方式を採用したコレステリック液晶駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コレステリック液晶表示装置は、表示状態を無電源で保持でき、超低消費電力駆動が可能なことから、電子棚札や電子ブック等のアプリケーションに利用されている。このコレステリック液晶表示装置は、コモン電極とセグメント電極の間にコレステリック液晶を挟持して画素を形成したもので、両電極間に印加されるパルス電圧の値によってプレーナ配向又はフォーカルコニック配向の安定した状態をとる。電圧を印加しない状態ではプレーナ配向となり、コレステリック液晶の螺旋ピッチに応じた色光を選択反射する。弱い電圧を印加するとフォーカルコニック配向に変化して光を透過し、この状態で電圧を解除してもフォーカルコニック配向を維持する。更に高い電圧を印加するとホメオトロピック配向になり光の透過度が増すが、この状態で電圧を解除するとプレーナ配向に変化する。
【0003】
図4はコレステリック液晶に対する印加電圧(パルス)と反射率の特性を示す図である。横軸のV0は印加電圧零(ZFM:Zero Field Memory、電圧解除)、VLは低電圧、VBは双安定の記憶が保持できるバイアス電圧(BFM:Bias Field Memory)、VHは高電圧である。パルス電圧を印加するとき、初期配向がプレーナ配向の場合は、a→e→f→cと変化してホメオトロピック配向になり、初期配向がフォーカルコニック配向の場合は、d→e→f→cと変化してホメオトロピック配向になり、初期配向がホメオトロピック配向の場合は、a→e→b→cと変化してホメオトロピック配向を保つ。なお、VBではその電圧をパルスで例えば2秒程度印加するとその配向状態を維持するが、直流的に印加しても同様である。この保持状態にはbの状態(プレーナ配向)とfの状態(フォーカルコニック配向)の2つがある(双安定)。
【0004】
従来のコレステリック液晶表示装置における情報の書込みは、まず全ての画素に高電圧を印加してホメオトロピック配向にし現在の表示内容を消去(リセット)してから、電圧を解除することによりプレーナ配向にしてそのプレーナ配向を保持するか、あるいはフォーカルコニック配向にし、最後に全ての画素の電圧を解除して、プレーナ配向又はフォーカルコニック配向を保持して表示を維持していた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、このコレステリック液晶表示装置では、セグメント駆動回路やコモン駆動回路が選択する電圧レベルの種類が多く(セグメント側で4個、コモン側で3個)なり(例えば、特許文献1の段落0041等参照)、このためサイズの大きな高耐圧トランジスタを多用する必要があり、またコモンの数が多いパネルでは、プレーナ配向/フォーカルコニック配向を識別するためのコモンの駆動電圧レベルが高くなり、スイッチサイズが大きくなって、チップサイズが大きくなるという問題があった。
【0006】
そこで、印加電圧のレベルを2種類として上記問題を解決したコレステリック液晶表示パネルを駆動する手法が非特許文献1で紹介されている。これは、図5に示すようなタイミングによって、情報書込みを、「消去」→「選択」(書込みと保持)→「維持」→「電圧解除」(ZFM)の順序で行うものである。「消去」では実効電圧を高くして全ての画素をホメオトロピック配向にする。「選択(書込み)」では選択波形の行(選択コモンライン)の画素をホメオトロピック配向からフォーカルコニック配向又はプレーナ配向にすることで書込みを行う。「選択(保持)」では非選択波形の行(非選択コモンライン)の画素を双安定のBFM状態に保つ。「維持」では配向が安定するまで、全ての画素を双安定のBFM状態に保つ。
【0007】
図5において、R1,R2,R3はコモンライン、C1,C2はセグメントラインであり、各交点の画素にはコモンラインとセグメントラインの電圧の差分が印加する。ここでは、コモンラインR1とセグメントラインC1の交点の画素P11、コモンラインR3とセグメントラインC2の交点の画素P32について考える。
【0008】
まず、「消去」の期間では画素P11,P32ともに両極性のパルスを連続して印加することで実効電圧を高い電圧Vuにしてホメオトロピック配向にしている。次の「選択」の期間では、この場合はコモンラインが3本であるので3区間(Ta,Tb,Tc)にわけているが、その各区間を4分割して駆動している。区間Taでは画素P11がコモンラインR1とセグメントラインC1により選択されて「選択(書込み)」となり、しばらくの間その差電圧は零であり、その画素P11はホメオトロピック配向からフォーカルコニック配向に遷移し低反射率(以下、OFFという)となる。このとき、他の画素は「選択(保持)」である。区間Tcでは画素P32がコモンラインR3とセグメントラインC2により選択されて「選択(書込み)」となり、その差電圧が大きくなって、その画素P32はホメオトロピック配向を保ち、高反射率(以下、ONという)を保持する。このとき、他の画素は「選択(保持)」である。
【0009】
このように、「選択(書込み)」の画素は、印加電圧がしばらくの間零になればフォーカルコニック配向に遷移し、高い電圧であればホメオトロピック配向を保つ。そして、「選択(保持)」の画素は、4分割の内の1分割区間で正パルス、もう1分割区間で負パルスが印加し、現在の配向状態(ホメオトロピック配向又はフォーカルコニック配向)を保持する。この後の「維持」では、この後の配向が安定するまで「選択(保持)」と同様に4分割の内の1分割区間で正パルス、もう1分割区間で負パルスが印加する。そして、この後に電圧解除となる。その時点でホメオトロピック配向はプレーナ配向へ遷移する。
【0010】
図6は上記した画素に印加する実効電圧Veの波形図である。「消去」では、正又は負で常時電圧Vuが印加しているので実効電圧VeはVuである。次の「選択」において、当該の画素が非選択のタイミングである「選択(保持)」では4分割の内2回だけ電圧Vuが印加するので、その実効電圧Veは、

となる。そして、「維持」のタイミングでの実効電圧Veは選択(保持)と同じVu/√(2)となる。
【0011】
図7は「選択」の3区間をそれぞれ6分割して駆動する場合であり、画素P11が「選択(書込み)」のときは印加電圧は零であるが、画素P32が「選択(書込み)」のときは6分割の内に4回だけ電圧Vuを印加している。このため、「選択(書込み)」の画素に印加する実効電圧Veは、図8に示すように、「消去」では、正又は負で常時電圧Vuが印加しているので実効電圧VeはVuである。「選択」では、当該の画素が非選択のタイミングである「選択(保持)」では6分割の内4回だけ電圧Vuが印加するので、その実効電圧Veは、

となる。また、当該画素が選択されているタイミングである「選択(書込み)」の実効電圧Veは零又はその√(2/3)倍となる。そして、「維持」での実効電圧Veは選択(保持)と同じVu√(2/3)となる。
【0012】
以上の図5のタイミングチャートの「選択」における4分割駆動法と、図7のタイミングチャートの「選択」における6分割駆動法による場合のパラメータを次の表1に示す。
【表1】

このうち、図7の6分割駆動法によるパラメータの根拠は次の通りである。まず、双安定のBFMを保つ電圧(「選択(保持)」と「維持」)は、図9の特性において、ホメオトロピック配向とフォーカルコニック配向が両存する双安定領域の期間が長くなる24.5Vとしている。よって、消去電圧Vpは
Vp=24.5V×√(3/2)=30V
であり、そのときの消去時間(パルス幅)は35msである。
【0013】
また、双安定のBFM状態から画素にかかる電圧を零に変化させたとき、ホメオトロピック配向からフォーカルコニック配向にしっかり相転移する最小時間は、図10の特性から、1.3msとし、これを「選択(書込み)」の時間としている。そして、この1.3msの書込み時間によれば、最終的にプレーナ配向を保つ電圧は5V以上であることも分かる。
【0014】
また、電圧を24.5Vとしてフォーカルコニック配向が安定する最小時間を図11に示す反射率が1.0になる特性から7msとし、これを「維持」時間としている。
【0015】
以上から、6分割駆動法では、コレステリック液晶表示パネルの最大行数(コモンライン数)は、(双安定時間−「維持」時間)/選択時間から、
(2000ms−7ms)/1.3ms=1500
となる。なお、図7では3行の場合で説明した。
【0016】
【特許文献1】特開平11−326871号
【非特許文献1】A.Rybalochka,"P-85:Simple Drive Scheme for Bistable Cholesteric LCDs",SID 2001 Digest p.882-885
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、コレステリック液晶パネルの特性には、変動(ばらつきや変化)が常につきものである。材料ばらつき、製造加工ばらつき、温度変化、経時変化など、種々の要因がある。どの特性がどの程度変動するかは一概には決まらない。調整時の合わせ込みや温度補償回路などによってある程度の調整は可能であるが、通常では±20%程度の特性変動がある。
【0018】
例えば、コレステリック液晶の図9の特性における双安定領域(BFM状態)の上限電圧(約25V)が−20%変動して20Vになっていたとする。このときは、コレステリック液晶に24.5VのBFM電圧を加え続けると、電圧が高すぎコレステリック液晶は常にホメオトロピック配向になって、目的とした表示ができないことになる。
【0019】
逆に+20%変動していたとすると、24.5Vは相対的に19.6V(=24.5×0.8)になり、BFM状態の持続時間は2秒ではなく約180msに減少する。場合によっては、コレステリツクコレステリック液晶がフォーカルコニック配向に転移するかもしれない。また、消去電圧の30Vは相対的には24V(30×0.8)と低くなり、図9の特性からすると平均的には消去できないことになる。35msで消去するには、コレステリック液晶に36V(30×1.2)を供給しなければならない。消去電圧を36Vとすると、BFM状態を保つ電圧は29.4V(=36×√(2/3))となり、図9の特性からすると平均的(変動が無いとき)にはBFM領域を外れ、コレステリック液晶はほとんどホメオトロピック配向になってしまう。このように、±20%変動では既存の多分割DDS駆動方式では、破綻してしまう。
【0020】
他の例では、図10の特性によって決められている「選択(書込み)」の時間1.3msが、−20%相当の1.04ms(=1.3×0.8)になっていたとすると、ほとんどフォーカルコニック配向への転移は起こらないことになってしまう。−20%相当では、「選択(書込み)」の時間は1.56ms(=1.3×1.2)以上が必要になる。
【0021】
図10からは定かでないが、平均的にはフォーカルコニック配向へ転移しない「選択(書込み)」の最小時間を1.0msとしたとき、コレステリック液晶の特性が+20%変動していたとすると、フォーカルコニック配向へ転移しない最小時間は0.8ms(=1.0×0.8)となる。この場合、「選択(書込み)」の時間1.56msを、図5のように4分割した場合、コレステリック液晶に2個のパルス分の0Vが連続すると0.78ms(=(1.56/4)×2)となるので、ぎりぎりでフォーカルコニック配向へ転移しない(0.78ms<0.8ms)が危険である。ただ、図7のように6分割した場合、0Vの連続は2パルスとなっているので0.52ms(=(1.56/6)×2)であり、0.8msからすると余裕がある。
【0022】
以上から、「選択(書込み)」の時間を1.56msとし、上記のBFM状態の「持続」の時間を180msとした場合、コレステリック液晶パネルの最大行数は
(180−7)/1.56)=110
となる。これでは小型コレステリック液晶パネルにしか使えず、電子ブックなどのアプリケーションには向かない。
【0023】
ところで、図9のパルスの印加方法と双安定時間の測定方法は不明であるが、双安定を維持するBFM領域で交流電圧(0V期間がない)をコレステリック液晶に印加し続ければ、相転移は起こらないことが知られている。コレステリック液晶に0Vが印加される図5とか図7のタイミングチャートのパルス印加のせいで、図9の特性のような結果になる可能性がある。もしそうなら、0Vになる相対時間を短くすれば、双安定時間は延びるであろうと思われる。
【0024】
本発明の目的は、交流方式を採用し、コレステリック液晶や駆動回路ICの特性変動に影響されず、安定した表示を行うことができるようにしたコレステリック液晶駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明は、コレステリック液晶に同一振幅の正パルスと負パルスを印加して行う情報書込みを、前記コレステリック液晶をホメオトロピック配向に遷移させる「消去」→最終的にプレーナ配向又はフォーカルコニック配向に遷移させる「選択」→該「選択」で設定された配向を所定時間維持する「維持」→「電圧解除」の順序で行い、前記「選択」を当該画素に書込みを行う「選択(書込み)」と当該画素に書込みを行わない「選択(保持)」とから構成したコレステリック液晶駆動方法において、前記「消去」では前記正パルスと前記負パルスをプロセスで許容できる最大電圧とし、前記「選択(書込み)」、「選択(保持)」および前記「維持」では前記正パルスと前記負パルスを前記最大電圧より低く且つ前記コレステリック液晶の特性ばらつきを考慮した上限電圧とし、前記「選択(書込み)」と「選択(保持)」の各時間を前記コレステリック液晶の特性ばらつきを考慮した上限時間とし、前記「選択(書込み)」と「選択(保持)」の各時間を「電圧パルス数+1」又は「8n−3」(ただし、nは1,2,3,・・・)に分割し、前記「選択(保持)」と前記「維持」では前記正パルスと負パルスの数を同数とし、前記「選択(書込み)」と前記「維持」では前記コレステリック液晶に印加される0Vの連続パルス数を前記分割数の半分より少なくしたことを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のコレステリック液晶駆動方法において、前記「選択(書込み)」で前記フォーカルコニック配向に遷移させるときは全分割区間に亘って印加電圧を0Vとし、最終的に前記プレーナ配向に遷移させるときは同数の正パルスおよび負パルスを印加することを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載のコレステリック液晶駆動方法において、前記コレステリック液晶からなる画素にコモンラインの電圧とセグメントラインの電圧の差分を印加するとき、前記「選択(保持)」と前記「維持」における前記コモンラインの波形を同一としたことを特徴とする。
請求項4にかかる発明は、請求項3に記載のコレステリック液晶駆動方法において、前記「選択(書込み)」と「選択(保持)」の時間を5分割とし、1を正パルス、0を0Vとするとき、前記「選択(書込み)」においてプレーナ配向に遷移させる際に、コモンラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,1,0,0,1)とし、前記「選択(書込み)」においてフォーカルコニック配向に遷移させる際に、コモンラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とし、前記「選択(保持)」と前記「維持」においてホメオトロピック配向を保持/維持する際、コモンラインの電圧波形を(1,0,1,0,0)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,1,0,0,1)とし、前記「選択(保持)」と前記「維持」においてフォーカルコニック配向を保持/維持する際、コモンラインの電圧波形を(1,0,1,0,0)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とした、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上から本発明によれば、駆動電圧が消去電圧以外では2種類であるので、コモンライン駆動回路およびセグメントライン駆動回路のスイッチ数が少なくなり、チップサイズを小さくできる。また、その駆動電圧は低くできるために、高耐圧トランジスタは消去用のみで済み、この点でもチップサイズを小さくできる。また、駆動電圧や選択時間はコレステリック液晶のばらつき(材料ばらつき、製造加工ばらつき、温度変化、経時変化等)を考慮した上限値としているので、それらばらつきの影響を受けることなく、安定した表示を実現できる。また、行数が比較的多いパネルであっても、安定した表示が得られるので、応用範囲が広くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明では下記のような駆動方式にする。まず、基本的には、「選択」の電圧が2種類(VH,VL)だけのDDS駆動方式とする。そして、情報書込みは、「「消去」」→「選択(書込みと保持)」→「維持」→「ZFM」(電圧解除)の順序で従来と同様に行う。ただし、「消去」の電圧は、「選択」や「維持」と関係なく、プロセスで許容できる最大電圧(VHH)を使用する。具体的には、「消去」の間だけ電圧を高くする回路を設け、変動を含めて「消去」に十分な時間が経過したら、本来の「選択」の電圧に切り替える。双安定のBFM状態を保つ電圧は、変動を考慮した上限の電圧とする。例えば、図9の例では、+20%変動を想定して、19.6V(=24.5×0.8)とする。このようにすると、後述する5分割の場合、「選択」の電圧は21.9V(=19.6×√(5/4))となり、より低い高耐圧プロセスが使用可能となる。「選択」の時間も、前述のように、変動を考慮した上限の時間とする。図10の例では+20%を想定して、1.56ms(=1.3×1.2)とする。このように「選択」と「維持」に関係なく、つまり駆動方式によらず、プロセスで決まる最大電圧(VHH)を「消去」の電圧とするので、スイッチは増やす必要はない。
【0028】
駆動パターンは、下記のようにする。まず、コレステリック液晶にかかる電圧パルスは、「選択」、「維持」にかかわらず、均等に交流化する。このために、電圧パルス数を偶数(0,2,4,6,・・・)とし、正パルスと負パルスの回数を同数にする。「選択(保持)」時および「維持」時に画素にかかる電圧パルス数は同数とし、双安定(BFM)の時間を延ばすため、分割数は「電圧パルス数+1」又は「8n−3(n:1,2,3,・・・)」にする。また、分割数が増えるとスイッチング数が増し消費電力が増えるので、できるだけ分割数は少なくする。例えば、「選択(保持)」時にコレステリック液晶に4個の電圧パルスを印加するなら、分割数は5にする。また、「選択(保持)」時と「維持」時のコモンラインの電圧の波形は同じにする。「選択(書込み)」時において、プレーナ配向(ON)にする画素には0Vのパルスを印加し、フォーカルコニック配向(OFF)にする画素にはできるだけ多くの電圧パルスを印加する。双安定のBFM状態からフォーカルコニック配向に転移しないように、「選択(書込み)」時および「維持」時には、コレステリック液晶に印加される0Vの連続パルス数は、分割数の半数より少なく(5分割の場合は2個まで)し、理想的には単発とする。すなわち、図1に示す全てのケースにおいて、移行の境界において、0Vのパルスができるだけ連続しないようにする。
【0029】
図2に、選択」の区間を5分割にした場合について、「消去」、「選択(書込み)」、「選択(保持)」と「維持」の場合の、コモンラインCOMの電圧とセグメントラインSEGの電圧による駆動波形を示した。VHは高電圧、VLは低電圧(0V)、VHHはプロセスで許容できる最大電圧、Tは「選択」の時間の1/5の時間(5分割区間)、ONはプレーナ配向、OFFはフォーカルコニック配向である。コモンラインCOMの電圧からセグメントラインSEGの電圧を差し引いた差分が画素に印加される。
【0030】
「消去」では当該画素に5分割の全区間毎に正と負のVHHの電圧を交互に印加する。「選択(書込み)」では、当該画素をON(プレーナ配向)にさせるON波形では5分割区間の2区間だけVHの正と負のパルスを1個ずつ印加し、当該画素をOFF(フォーカルコニック配向)にさせるOFF波形では0Vになる。「選択(保持)」と「維持」では、5分割区間の4区間分だけVHの正と負のパルスを2個ずつ印加する。
【0031】
図3は、図2の駆動波形を使用して2列3行のコレステリック液晶パネルを駆動する場合のタイミングチャートである。「選択」の期間において、画素P11は時間Taで電圧解除となりOFF(フォーカルコニック配向)の「選択(書込み)」となる。時間Tb,Tcでは正パルスが2個、負パルスが2個で「選択(保持)」となっている。画素P32は時間Tcで正パルスが1個、負パルスが1個でON(プレーナ配向)の「選択(書込み)」となる。時間Ta,Tbでは正パルスが2個、負パルスが2個で「選択(保持)」となっている。
【0032】
次の表2は「選択(書込み)」、「選択(保持)」と「維持」の部分を行列で表したものである。
【表2】

セグメントラインSEG、コモンラインCOMの電圧VHを1、VLを0とした。画素のコレステリック液晶に印加する電圧を表す合成は「COM−SEG」を成分(5分割区間の1区間に相当し、最も左から第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、第5成分と称す)ごと行う。ここでは、ON画素のSEGを行列Aとし、OFF画素のSEGを行列Bとし、「選択(書込み)」のCOMを行列Sとし、「選択(保持)」と「維持」のCOMを行列Hとすると、ON画素の「選択(書込み)」の合成は(S−A)、OFF画素の「選択(書込み)」の合成は(S−B)、ON画素の「選択(保持)」と「維持」の合成は(H−A)、OFF画素の「選択(保持)」と「維持」の合成は(H−B)となる。
【0033】
すなわち、
ON画素のSEG: A=(a1,a2,a3,a4,a5)
OFF画素のSEG: B=(b1,b2,b3,b4,b5)
「選択(書込み)」のCOM: S=(s1,s2,s3,s4,s5)=B
「選択(保持)」と「維持」のCOM: H=(h1,h2,h3,h4,h5)
とすれば、
ON画素の「選択(書込み)」合成: S-A=(s1-a1,s2-a2,s3-a3,s4-a4,s5-a5)
OFF画素の「選択(書込み)」合成: S-B=S-S=(0,0,0,0,0)
ON画素の「選択(保持)」と「維持」合成: H-A=(h1-al,h2-a2,h3-a3,h4-a4,h5-a5)
OFF画素の「選択(保持)」と「維持」合成: H-B=H-S=(h1-sl,h2-s2,h3-s3,h4-s4,h5-s5)
となる。
【0034】
合成(H−A)と(H−B)が決まれば、(S−A)は自動的に決まる。すなわち、
(H−A)−(H−B)=(B−A)=(S−A)
となる。また、(H−A)と(H−B)には、1と−1が2個ずつと0が1個あり、(S−A)には1と−1が同数と残りは0でなければならない。
【0035】
したがって、(H−A)と(H−B)との対応する成分(同一分割区間)には、1と−1の組み合わせはありえない。なぜなら、(S−A)の成分が、2または−2となってしまうからである。つまり、
(1)−(−1)=2
(−1)−(1)=−2
となるからである。
【0036】
また、(H−A)と(H−B)との対応する成分(同一分割区間)には、0と0の組み合わせはありえない。なぜなら、残りの4つの対応する成分同士が同じ(1と1、あるいは−1と−1)になるので、(H−A)と(H−B)との全ての対応する成分(同一分割区間)が同じになってしまう。つまり、
(H−A)=(H−B)→(A−B)=(S−A)=(S−B)=(0,0,0,0,0)
と、ON画素もOFFになってしまうからである。
【0037】
(H−A)と(H−B)の端の成分(第1成分又は第5成分)が0になるのは好ましくない。すなわち、一方の第1成分(あるいは第5成分)が0で、他方の第5成分(あるいは第1成分)が0だと、前述した移行の境界で0が連続してしまう。かといって1または−1にすると、(S−A)の第5成分(あるいは第1成分)が0になり、これまた移行の境界で0が連続してしまう。
【0038】
更に、(H−A)または(H−B)の第3成分が0になるのは好ましくない。一方の第3成分が0で、他方の第2成分(あるいは第4成分)が0だと、(S−A)の第4成分と第5成分(あるいは第1成分と第2成分)が連続して0になってしまう。1例を示すと次の場合がある。
(H−A)=(1,1,0,−1,−1)
(H−B)=(1,0,1,−1,−1)
(S−A)=(H−A)−(H−B)=(0,1,−1,0,0)
【0039】
結局、(H−A)と(H−B)の偶数成分に0が入るが、同時に0にはならないことになる。(H−A)または(H−B)のうち、一方の第2成分が0だと他方の第4成分が0になるか、その逆が好ましいことになる。(H−A)の第4成分が0だと、他の成分は、1と−1が2個ずつとなり、それに対応して、(H−B)の成分が自動的に決まることになる。(H−B)の第2成分は0で、第1成分、第3成分、第5成分は(H−A)と同じで、第4成分は(H−A)の第2成分と同じになる。前記の5分割の表2はその1例で、(H−A)を決めると(H−B)が決まり、(H−A)−(H−B)で(S−A)が求まることになる(表3参照)。
【表3】

【0040】
H、A、Bの成分は1または0だから、(H−A)の成分が1になるのは、Hの成分が1でAの成分が0の場合である。(H−A)の成分が−1になるのは、Hの成分が0でAの成分が1の場合である。(H−A)の成分が0になるのは、両方とも1か両方とも0の場合があるが、(H−B)の方から自動的に決まる。この結果を付け加えると次の表4となる。
【表4】

以上で、SEG/COMの全ての波形が確定する。
【0041】
(H−A)の第4成分が0で残りの4つの成分に1と−1が2個ずつ入る場合の数は、4個の異なるものから2個を取り出す組み合わせ問題と同じであり、
6(42=4!/(4−2)!/2!)
である。残りの5つの場合を、表5に列挙する。
【表5】

【0042】
省略するが、同様に(H−A)の第2成分が0の場合も6つある。それらは、上記の6つの場合の成分の並び順を、それぞれ逆(第5成分、第4成分、第3成分、第2成分、第1成分)にしたものと同じである。
【0043】
さて、「選択」の時間を3分割とする場合は、前述の移行の境界で必ず0が連続するので、好ましくない。(H−A)と(H−B)の両方とも、端の成分(第1成分又は第3成分)が0の場合は言うまでもない(表6)。
【表6】

(H−A)から(H−B)への移行で、0が連続してしまう。
【0044】
(H−A)と(H−B)のうち、どちらか一方の端の成分(第1成分又は第3成分)が0で、他方の端の成分が0でない場合、(S−A)の端の成分が必ず0になってしまう(表7)。
【表7】

(H−A)から(S−A)への移行で、0が連続してしまう。
【0045】
一方、「選択」の時間を7分割とする場合は、(S−A)で0が5個になるので、0Vの連続パルス数を分割数の半分3.5より少なく、つまり3個以下にし、(H−A)と(S−A)の端の成分は0以外にしなければならない。したがって、(H−A)と(H−B)の0の位置は、4種類に限られる(表8)。
【表8】

【0046】
それぞれについて、(H−A)の成分が0以外の6つの成分に1と−1が3個ずつ入る場合の数は、6個の異なるものから3個を取り出す組み合わせ問題と同じであり、20(63)となる。全体では、80(=4×20)になる。(H−A)を決めれば、他は全て決まる。その1例を次の表9に示す。
【表9】

ただし、(S−A)の7つの成分のうち5つが0なので、P配向を保つ電圧として十分かを確かめる必要がある。また、(S−A)で0Vの連続パルスがあるのは、あまり好ましくない。
【0047】
以上で分かるように、(S−A)に0Vの連続パルスが生じないのは、(H−A)と(H−B)において、どちらかの偶数成分が0になる場合である。もちろん、0の数は同数でなければならない。また、1と−1は同数でなければならないので、0以外の成分は偶数となる。その条件を満足する選択時間の分割数は、下記となる。
分割数=8n−3(n:1,2,3,・・・)
つまり、5,13,21,・・・となる。5分割の場合は、既に記載した通りである。13分割の場合の例を示すと次の表10の通りである。
【表10】

ただし、分割数が多いと、消責電流が増えるので、5分割が最適な解である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】境界で0Vのパルスが連続しないことが要求される移行の説明図である。
【図2】本発明の実施例のコレステリック液晶駆動方法で使用するコモンラインCOMとセグメントラインSEGの電圧パルスおよび画素に印加する電圧パルスの波形図である。
【図3】図2の波形を使用して2列3行のコレステリック液晶パネルを駆動する場合のタイミングチャートである。
【図4】コレステリック液晶の印加電圧と反射率の特性図である。
【図5】「選択」区間を4分割した従来例の2列3行のコレステリック液晶パネルを駆動する場合のタイミングチャートである。
【図6】「選択」区間を4分割した従来例の2列3行のコレステリック液晶パネルの画素に印加する実効電圧の波形図である。
【図7】「選択」区間を6分割した従来例の2列3行のコレステリック液晶パネルを駆動する場合のタイミングチャートである。
【図8】「選択」区間を6分割した従来例の2列3行のコレステリック液晶パネルの画素に印加する実効電圧の波形図である。
【図9】コレステリック液晶の各配向における消去時間−消去電圧特性図である。
【図10】コレステリック液晶の各書込み時間における電圧−反射率特性図である。
【図11】コレステリック液晶の各維持時間における電圧−反射率特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステリック液晶に同一振幅の正パルスと負パルスを印加して行う情報書込みを、前記コレステリック液晶をホメオトロピック配向に遷移させる「消去」→最終的にプレーナ配向又はフォーカルコニック配向に遷移させる「選択」→該「選択」で設定された配向を所定時間維持する「維持」→「電圧解除」の順序で行い、前記「選択」を当該画素に書込みを行う「選択(書込み)」と当該画素に書込みを行わない「選択(保持)」とから構成したコレステリック液晶駆動方法において、
前記「消去」では前記正パルスと前記負パルスをプロセスで許容できる最大電圧とし、
前記「選択(書込み)」、「選択(保持)」および前記「維持」では前記正パルスと前記負パルスを前記最大電圧より低く且つ前記コレステリック液晶の特性ばらつきを考慮した上限電圧とし、
前記「選択(書込み)」と「選択(保持)」の各時間を前記コレステリック液晶の特性ばらつきを考慮した上限時間とし、
前記「選択(書込み)」と「選択(保持)」の各時間を「電圧パルス数+1」又は「8n−3」(ただし、nは1,2,3,・・・)に分割し、
前記「選択(保持)」と前記「維持」では前記正パルスと負パルスの数を同数とし、
前記「選択(書込み)」と前記「維持」では前記コレステリック液晶に印加される0Vの連続パルス数を前記分割数の半分より少なくしたことを特徴とするコレステリック液晶駆動方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコレステリック液晶駆動方法において、
前記「選択(書込み)」で前記フォーカルコニック配向に遷移させるときは全分割区間に亘って印加電圧を0Vとし、最終的に前記プレーナ配向に遷移させるときは同数の正パルスおよび負パルスを印加することを特徴とするコレステリック液晶駆動方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコレステリック液晶駆動方法において、
前記コレステリック液晶からなる画素にコモンラインの電圧とセグメントラインの電圧の差分を印加するとき、前記「選択(保持)」と前記「維持」における前記コモンラインの波形を同一としたことを特徴とするコレステリック液晶駆動方法。
【請求項4】
請求項3に記載のコレステリック液晶駆動方法において、
前記「選択(書込み)」と「選択(保持)」の時間を5分割とし、1を正パルス、0を0Vとするとき、
前記「選択(書込み)」においてプレーナ配向に遷移させる際に、コモンラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,1,0,0,1)とし、
前記「選択(書込み)」においてフォーカルコニック配向に遷移させる際に、コモンラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とし、
前記「選択(保持)」と前記「維持」においてホメオトロピック配向を保持/維持する際、コモンラインの電圧波形を(1,0,1,0,0)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,1,0,0,1)とし、
前記「選択(保持)」と前記「維持」においてフォーカルコニック配向を保持/維持する際、コモンラインの電圧波形を(1,0,1,0,0)とし、セグメントラインの電圧波形を(0,0,0,1,1)とした、
ことを特徴とするコレステリック液晶駆動方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−193199(P2007−193199A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12553(P2006−12553)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(501285133)川崎マイクロエレクトロニクス株式会社 (449)
【Fターム(参考)】