説明

コレステロール代謝制御剤、それを含有する飲食品、食品添加物及び医薬

【課題】 天然物由来であって、コレステロールに対する代謝制御作用を有し、かつ、副作用の可能性が極めて小さいコレステロール代謝制御剤を提供する。
【解決手段】 ホップ苞抽出物であって、ホップ苞由来のポリフェノールを有効成分として含有してなるコレステロール代謝制御剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップ苞より得られるコレステロール代謝制御剤、それを含有する飲食品、食品添加物及び医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップはアサ科の多年生植物であり、その毬果(未受精の雌花が成熟したもの)を一般にホップと呼んでいる。このホップのルプリン部分(毬果の内苞の根元に形成される黄色の顆粒)は、ホップの苦味、芳香の主体であり、ビール醸造において酵母、麦芽と並んで重要なビール原料である。またホップは、民間療法では鎮静剤や抗催淫剤として通用している。
【0003】
一方、ホップ苞はホップ毬果よりルプリン部分を除いたものであり、ビール醸造には有用とされず、場合によってはビール醸造の際にホップ苞は取り除かれ、副産物として生ずる。その際、ホップ苞は土壌改良用の肥料として用いられる他に特に有用な利用法は見出されておらず、より付加価値の高い利用法の開発が望まれている。
【0004】
食生活の向上および食文化の欧米化に伴い、脂肪エネルギー比率が逐年増加し、今後も増加する傾向にある。平成13年国民栄養調査結果によると、総コレステロール値が200 mg/dL以上の割合は男性で48%、女性で55%にのぼる。脂肪の過剰摂取はたんに体脂肪の増加のみならず、各種のいわゆる生活習慣病の発症のリスクを高めることが指摘されてきた。現在、動脈硬化性疾患は日本人の死因統計で癌と並んで大きな位置を占め、またその多くは働き盛りに突然発症して、社会的にも家庭的にも極めて大きな損失を与えることから、その効果的な予防及び治療対策の確立は必須の課題である。動脈硬化は多様な要因の重なりによって発症・進展することが知られているが、それらの中で、最も大きな要因と考えられているのは、高脂血症、とくに高コレステロール血症であるため、これまでその対策に最も重点を置かれてきた。
【0005】
近年において、コレステロール代謝制御作用に優れた薬物治療が普及し、それによる冠動脈疾患の予防効果が欧米において示されるようになった。わが国でも最近になり介入試験を含め多人数での試験が行われるようになり、参考となる資料が得られるようになってきた。しかし、薬物治療の普及は安易に薬剤に依存し、ライフスタイルの改善が十分おこなわれない恐れもある。
【0006】
今日、高コレステロール血症に対しては一律な治療をおこなうのではなく、動脈硬化を予防する上でより効率的な治療をおこなうべき時代である(非特許文献1)。
【0007】
例えば、動物界に広く存在する脂質成分の一種であるコレステロールは、細胞や組織の生体膜の構成成分や、胆汁、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、ビタミンD等の前駆体となる有用物質であるが、卵や畜肉に特に多く含有され、近年の食生活の変化から過剰に摂取される傾向にある。
【0008】
コレステロールは、血中においては、特異的なタンパク質と結合したリポタンパク質の形で末梢組織に運搬されるが、特に、悪玉コレステロールと呼ばれるLDL(低密度リポタンパク質)-コレステロールの増加は、高コレステロール血症等の脂質代謝異常の原因となることが知られており、動脈硬化発症の原因となることが報告されている。
【0009】
一方、善玉コレステロールと呼ばれるHDL(高密度リポタンパク質)-コレステロールは、LDL-コレステロールとは拮抗的に作用する。即ち、動脈壁や抹消組織中に余分に蓄積された遊離コレステロールを除去し、生体のコレステロールプールを減少させる作用、即ち、脂質の排泄促進作用を有することが知られている。
【0010】
従来、このような脂質代謝制御剤としては、医薬品にあってはプラバスタチンナトリウム、ベザフィブラート、食品由来成分にあっては食物繊維、ポリフェノール等が知られている。
【0011】
一方、植物界に広く存在するポリフェノールは、最近の研究によって様々な生理機能性を有することが確認されており、特許文献1には、バラ科果実若しくは未熟果実由来の果実ポリフェノールを有効成分とする生体内脂質代謝制御について報告されている。しかしながら、当該発明によると、酸化コレステロール摂取による生体内脂質の酸化抑制及びHDL-コレステロール/総コレステロール比の改善について示したのみであり、ヒトあるいは動物において普通食の吸収・代謝後の血清中のコレステロール濃度を調節することに関して全く言及しておらず、何ら実施例も設定されていない。
【0012】
また、特許文献2には、柿タンニンについてコレステロール代謝改善剤が報告されている。しかしながら、当該発明のコレステロール代謝改善作用は本発明のホップ苞抽出物と比して作用は効果的ではない。
【特許文献1】特開平10-330278号公報
【特許文献2】特開2003-231684号公報
【非特許文献1】動脈硬化性疾患診療ガイドライン、日本動脈硬化学会編、2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の通り、薬物治療の普及は安易に薬剤に依存し、ライフスタイルの改善が十分おこなわれない恐れもある。今日、高コレステロール血症に対しては一律な治療をおこなうのではなく、動脈硬化を予防する上でより効率的な治療をおこなうべきである。
【0014】
しかしながら、現状では、天然物由来であって、総合的脂質代謝に対する幅広い機能性を有し、かつ、副作用の可能性が極めて小さいという点において、十分満足できるものは見出されておらず、これらの性質を満足するコレステロール代謝制御剤が切望されている。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、コレステロール吸収を低減する効果があり、普通食を摂取し、食事制限がなく、天然物質由来で安全性が高く、コレステロール低減作用を有するコレステロール代謝制御剤、飲食品、食品添加物または医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明者らはホップ苞抽出物が、コレステロール代謝制御作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。 ホップ苞に含有されるポリフェノール様物質で、ゲル型合成樹脂に吸着し、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を通過しない物質、すなわちホップ苞を水または水と混和する有機溶媒の水溶液で抽出し、ゲル型合成樹脂または限外ろ過膜により処理して、それぞれ各処理工程を経て得られる画分が、コレステロール低下剤として用いることのできる物質であることを見出した。さらにこの物質を、飲食品、食品添加物及び医薬に利用することにより本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の内容を要旨とするものである。
(1) ホップ苞抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とするコレステロール代謝制御剤。
(2) ホップ苞抽出物であり、かつポリフェノール様物質を吸着する吸着樹脂に吸着する物質であるコレステロール代謝制御剤。
(3)ホップ苞抽出物であり、かつ分画分子量1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しない物質を有効成分として含有することを特徴とするコレステロール代謝制御剤。
(4) ホップ苞に含有されるポリフェノール様物質であり、かつ分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しない物質であるコレステロール代謝制御剤。
(5) (1)ないし(4)のいずれか1項に記載のコレステロール代謝制御剤を含有する飲食品。
(6) (1)ないし(4)のいずれか1項に記載のコレステロール代謝制御剤を含有する食品添加物。
(7) (1)ないし(4)のいずれか1項に記載のコレステロール代謝制御剤を含有する医薬。
【発明の効果】
【0018】
本発明のホップ苞抽出物を有効成分とするコレステロール代謝制御剤は、副作用が極めて少なくコレステロールの代謝を制御することができる。
【0019】
また、上記のコレステロール代謝制御剤を有効成分として含有する飲食品、食品添加物及び医薬は、副作用が極めて少なくコレステロールの代謝を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明におけるホップ苞抽出物は、ホップ苞由来ポリフェノールを有効成分として含有するものである。
【0021】
本発明で使用するホップ苞ポリフェノールを含有するホップ苞抽出物は、ホップ毬果よりルプリン部分を除いて得られるものであり、一般に、ホップ毬果を粉砕後、篩い分けによってルプリン部分を除くことによってホップ苞を得る。しかし、最近のビール醸造において、ホップ苞を篩い分けして除去する手間を省くために、ビール醸造に有用でないホップ苞を取り除かずにホップ毬果をそのままペレット状に成形し、ホップペレットとして、ビール醸造に利用する傾向にある。したがって、本発明の原料としては、ホップ苞を含むものであれば特に限定せず、ホップ苞を含むホップ毬果やホップペレットを原料としてもなんら問題ない。
【0022】
ホップ苞抽出物の抽出方法としては、特に限定されるものではないが、例えば原料であるホップ苞またはホップ苞を含むホップ毬果やホップペレットなどを、4〜95℃、好ましくは30〜60℃で0〜50%、好ましくは10〜40%のエタノールと混和し、抽出する。原料と抽出溶媒の割合は、1:20〜100(重量比)、好ましくは1:30〜90(重量比)であり、攪拌下、20〜60分、好ましくは30〜50分で行う。5〜75℃、好ましくは15〜25℃で珪藻土(商品名「シリカ300S」、中央シリカ社製)濾過によりさらに清澄化を行う。ホップ苞抽出物はコレステロール代謝制御作用を有するため、コレステロール代謝制御剤として有用である。
【0023】
ホップ苞抽出物に含まれるポリフェノール様物質がコレステロール代謝制御作用を有するため、コレステロール代謝制御剤として有用である。
【0024】
ホップ苞抽出物からポリフェノール様物質を得るには、例えば、ホップ苞抽出物をポリフェノール様物質を吸着する吸着樹脂で吸着処理して、ホップ苞抽出液からホップ苞由来ポリフェノール様物質を分離精製すればよい。吸着処理方法は特に限定されないが、例えばホップ苞抽出液を0〜40℃、好ましくは15〜25℃で吸着樹脂に吸着させればよい。
【0025】
吸着樹脂は、ポリフェノール様物質を吸着するものであれば特に限定されないが、例えば親水性ビニルポリマー樹脂(東ソー社製「トヨパールHW40」)、スチレン−ジビニルベンゼン樹脂(三菱化学社製「セパビーズSP−825」)、ゲル型合成樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンHP-20」)を挙げることができる。これらの吸着樹脂を充填した吸着カラムにホップ苞抽出物を通液し、ポリフェノール様物質を吸着させる。続いて純水を通液し、カラム中の非吸着物質(糖類、有機酸類等)を除去した後、10〜90%、好ましくは30〜80%のエタノールでポリフェノール様物質を溶出させればよい。
【0026】
ホップ苞抽出物またはホップ苞に含有されるポリフェノール様物質のうち、分画分子量1,000以上の限外ろ過膜で処理した際に膜を透過しない物質が小腸内でコレステロールのミセル可溶化を阻害して生体への侵入を制御する点で好ましい。
【0027】
次に、限外ろ過膜を用いる方法について述べる。上記の抽出工程または吸着工程で得られたホップ苞抽出物またはホップ苞由来ポリフェノール様物質を含む処理液を、分画分子量が1,000以上、好ましくは10,000〜50,000の限外ろ過膜で処理する。その際必要があれば、ホップ苞由来ポリフェノール様物質を含む処理液を減圧濃縮し、エタノール濃度を下げておくこともできる。また処理は、抽出溶媒の有機溶媒濃度や抽出溶媒とホップまたはホップ苞の割合にもよるが、およそ上残り液の量が処理開始時の1/10〜1/100、好ましくは1/20〜1/100になるまで行う。その際の圧力は9.8kPa〜981kPa、好ましくは98kPa〜686kPaである。このまま液体状態で利用することも可能であるが、下記記述のとおり、乾燥させることもできる。得られた画分からエタノールを25〜100℃、好ましくは35〜90℃で減圧濃縮し、濃縮液をそのまま或いはデキストリン等の粉末助剤を添加し、噴霧乾燥又は凍結乾燥を行い、抽出粉末品を得る。
【0028】
なお、ホップ苞由来ポリフェノール様物質であって、分画分子量1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を通過しない物質を得る方法は、上記方法に限定されるものではなく、ホップ苞由来抽出物を分画分子量1,000以上の限外ろ過膜で処理した後、限外ろ過膜を透過しない処理液を、ゲル状高分子で吸着処理をしてもよい。
【0029】
本発明のコレステロール代謝制御剤により、血清総コレステロール低減、LDL-コレステロール低減、HDL-コレステロール上昇効果を得るための成人1日あたりのホップ苞抽出物投与量は、200〜5000 mgであるが、好ましくは300〜3000 mg、更に好ましくは300〜2000 mg、特に300〜1500 mgであるのが好ましい。
【0030】
本発明のコレステロール代謝制御剤は、飲料を含む、広く食品一般に添加して用いることができ、スープ類、飲料(ジュース、酒、ミネラルウォーター、コーヒー、茶、ノンアルコールビール等)、菓子類(ガム、キャンディー、チョコレート、スナック、ゼリー等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、アルコール飲料(ビール、発泡酒、カクテル、チューハイ、焼酎、日本酒、ウィスキー、ブランデー、ワイン等)に好適に用いられる。
【0031】
本発明のコレステロール代謝制御剤を含む飲料の場合は、飲料中のホップ苞由来抽出物の含有量は0.1〜2.5重量%、好ましくは0.3〜1.5重量%、特に0.6〜1重量%が好ましい。この量であるとホップ苞抽出物の多量の摂取が容易でありながら、苦味を生じなく好ましい。また0.1重量%以上であると、飲用時にコクを持った味となり好ましい。
【0032】
本発明のコレステロール代謝制御剤を含む食品の場合は、食品の一部としてコレステロールを含有する食品に用いることができる。かかるコレステロール含有食品としては、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品が挙げられる。具体的には、かかるコレステロールを含有したマヨネーズ類、レバーペースト類、カスタードクリーム類、ケーキ類等が挙げられる。
【0033】
製剤としては、製剤中、ホップ苞抽出物が、0.1〜2.5重量%、好ましくは0.3〜1.5重量%、更に0.6〜1重量%含有するのが好ましい。この量であるとホップ苞抽出物の苦味がなく、多量の摂取が容易であり、投与回数、効果の点で好ましい。
【0034】
本発明のコレステロール代謝制御剤を含む医薬品の剤形は特に限定されないが、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。この経口投与剤は、形態に応じて当分野において通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料、薬剤用担体等を添加して通常使用されている方法によって製造することができる。ホップ苞抽出物は、経口投与用医薬品中に、医薬品の用途及び形態によっても異なるが、一般に0.2〜100重量%、特に2〜80重量%含有す
るのが好ましい。
【0035】
実施例
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
製造例1
(ゲル型合成樹脂によるホップ毬花からの調製)
ホップ毬花20gを乳鉢で粉砕し、2Lの水で攪拌下、90℃、40分間抽出した。ろ過後、放冷し、抽出液を親水性ビニルポリマー樹脂(東ソー社製トヨパールHW40)80mLを充填したカラムに2時間かけて通液し(SV=12.5)、ついで400mLの5%エタノール水溶液で洗浄した。さらに同カラムに80%エタノール水溶液400mLを通液し、同溶出液を回収し、凍結乾燥して無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末0.8gを得た。ホップ毬花からの収率は4%であった。
【0037】
製造例2
(ゲル型合成樹脂によるホップ苞からの調製)
ホップ苞20gを600mLの50%エタノール水溶液で攪拌下、80℃、40分間抽出した。ろ過後、容積が300mLになるまで減圧濃縮し、その濃縮液をスチレン−ジビニルベンゼン樹脂(三菱化学社製セパビーズSP−825)80mLを充填したカラムに1時間かけて通液し(SV=3.75)、ついで400mLの水で洗浄した。さらに同カラムに80%エタノール水溶液400mLを通液し、同溶出液を回収し、凍結乾燥して無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末1.6gを得た。ホップ苞からの収率は8%であった。
【0038】
製造例3
(限外ろ過膜によるホップ毬花からの調製)
ホップ毬花20gを乳鉢で粉砕し、2Lの水で攪拌下、95℃、40分間抽出した。ろ過後、放冷し、抽出液を分画分子量が50,000の限外ろ過膜(アミコン社製XM50)により、98kPa、室温下、20mLになるまで処理した。得られた上残り液を減圧乾固し、無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末0.2gを得た。ホップ毬花からの収率は1%であった。
【0039】
製造例4(限外ろ過膜によるホップ苞からの調製)
ホップ苞20gを600mLの50%エタノール水溶液で攪拌下、80℃、40分間抽出した。ろ過後、抽出液を分画分子量が10,000の限外ろ過膜(アミコン社製YM10)により、294kPa、室温下、60mLになるまで処理した。得られた上残り液を凍結乾燥して無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末0.8gを得た。ホップ苞からの収率は4%であった。
【0040】
製造例5
(ゲル型合成樹脂によるホップ苞からの調製品のさらなる精製)
製造例2(ゲル型合成樹脂によるホップ苞からの調製)で得たゲル型合成樹脂によるホップ苞からの調製品0.8gを、500mLの10%エタノール水溶液に溶解し、分画分子量が10,000の限外ろ過膜(アミコン社製YM10)により、98kPa、室温下、20mLになるまで処理した。得られた上残り液を凍結乾燥して無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末0.4gを得た。
【0041】
(試験例1)ホップ苞由来ポリフェノールの測定
フィルター(0.8μm)で濾過した液体のホップ苞抽出物を、高速液体クロマトグラフ(日立社製、型式L7000)を用い、逆相液体クロマトグラフ用パックドカラムODS C18(4.6mmφ×250mm、GLサイエンス社製)に装着し、カラム温度35℃でグラジエント法により行った。移動相A液はリン酸カリウム10mmol/L含有の10%メタノール水溶液、B液はリン酸カリウムを10mmol/L含有の10%メタノール水溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280 nmの条件で行った。
【0042】
(試験例2)ホップ苞抽出物のコレステロール代謝制御作用(ラット)
まず、動物試験により、ホップ苞抽出物の血清コレステロールの代謝制御作用を検討した。
【0043】
SD系ラット(日本チャールスリバー)の雄を各6匹に分け、製造例2で調製したホップ苞抽出物を0.2%及び1%量、混餌自由摂取にて9週間投与を行った。コントロール群を設定した。各試料間での体重増加及び摂餌量に差は認められなかった。ホップ苞抽出物摂取群は有意に血清総コレステロールが低下し、血清HDL-コレステロール/総コレステロール比が増加した。その結果を図1に示した。
【0044】
実験時の一般状態、体重に異常は見られず、実験終了後の一般血液検査及び解剖所見も異常が見られなかった。
【0045】
飼料組成:(重量%)
カゼイン 23.6
α‐コーンスターチ 8.4(ホップ苞抽出物を含む)
ショ糖 28.8
セルロース 6.4
大豆油 7
ラード 20.8
ミネラル混合物(AIN93) 3.5
ビタミン混合物(AIN93) 1
L-シスチン 0.3
重酒石酸コリン 0.2
【0046】
(比較例1)
洗浄した柿(Diospyros kaki)の果皮を含む成熟果実10kgを破砕し、50%エタノール20Lを加えて25℃で3日間浸漬した。その浸漬液をろ過した後、そのろ液をゲル型合成樹脂(ダイヤイオンHP、三菱化成工業株式会社製)に吸着した。続いて純水を通液し、カラム中の非吸着物質を除去した後、50%エタノールで溶出した。抽出液を減圧濃縮し、濃縮液を凍結乾燥を行い、抽出粉末品を得た。
【0047】
(試験例3)小腸吸収モデルによるホップ苞抽出物のコレステロール吸収抑制作用
in vitro小腸吸収モデル実験系でホップ苞抽出物のコレステロール吸収に及ぼす影響を調べる為に、タウロコール酸ナトリウム、ホスファチジルコリンおよびコレステロール混合物から構成される人工ミセルを超音波処理で作成した。このミセルに製造例1で調製したホップ苞抽出物あるいは比較例1で調製した柿抽出物を加えてコレステロールとタウロコール酸ナトリウムのミセル可溶化の変化を加えなかった場合と比較した。その結果、表1に示した通り、ミセル内のコレステロール濃度は柿抽出物と比べてホップ苞抽出物によって減少した。以上のことからホップ苞抽出物を摂取した場合、小腸内で胆汁酸と結合し、コレステロールのミセル可溶化を阻害して生体内への侵入を制御していることが示された。
【0048】
【表1】

【0049】
(比較例2)錠剤
ラクトース140gとコーンスターチ17gとを混合し、この混合物をあらかじめコーンスターチ70gから調整したペーストとともに顆粒化した。得られた顆粒にステアリン酸マグネシウム1gを加えてよく混合し、この混合物を打錠機にて打錠して錠剤1000個を製造した。
【0050】
(実施例1)錠剤
製造例2で調製したホップ苞抽出物33gとラクトース90gとコーンスターチ17gとを混合し、この混合物をあらかじめコーンスターチ70gから調整したペーストとともに顆粒化した。得られた顆粒にステアリン酸マグネシウム1gを加えてよく混合し、この混合物を打錠機にて打錠して錠剤1000個を製造した。
【0051】
(実施例2)錠剤
製造例2で調製したホップ苞抽出物67gとラクトース90gとコーンスターチ17gとを混合し、この混合物をあらかじめコーンスターチ70gから調整したペーストとともに顆粒化した。得られた顆粒にステアリン酸マグネシウム1gを加えてよく混合し、この混合物を打錠機にて打錠して錠剤1000個を製造した。
【0052】
(実施例3)錠剤
製造例2で調製したホップ苞抽出物167gとラクトース90gとコーンスターチ17gとを混合し、この混合物をあらかじめコーンスターチ70gから調整したペーストとともに顆粒化した。得られた顆粒にステアリン酸マグネシウム1gを加えてよく混合し、この混合物を打錠機にて打錠して錠剤1000個を製造した。
【0053】
(試験例4)ホップ苞抽出物のコレステロール代謝制御作用(ヒト)
次に、臨床試験により、ホップ苞抽出物の血清コレステロールの代謝制御作用を検討した。
【0054】
血清総コレステロールが200〜260 mg/dLである境界領域の試験対象者56名(20〜69歳の男女)に試験食である錠剤(対照群(比較例2、製造例2で調製したホップ苞抽出物 0 mg:14名)、低用量群(実施例1、製造例2で調製したホップ苞抽出物 300 mg:14名)、中用量群(実施例2、ホップ苞抽出物 600 mg:14名)、高用量群(実施例3、製造例2で調製したホップ苞抽出物 1500 mg:14名))を1日2回4週間摂取させた。対照群では総コレステロール及びLDL-コレステロールともに上昇したのに大使、全投与群では値が低下した。さらに、中用量群では摂取前後で有意に総コレステロールが低下し、さらにLDL-コレステロールも有意に低下した(表2)。また、各種血液検査、尿検査から異常は認められなかった。摂取期間中、問題となるような訴えは全く見られなかった。
【0055】
【表2】

【0056】
(試験例5)ホップ苞抽出物の安全性試験
{14日間反復投与毒性試験}
SD系ラット(日本チャールスリバー)の雌雄を各2匹に分け、製造例4で調製したホッ
プ苞抽出物を2000、3000 mg/kg量、胃ゾンデにて14日間投与を行った。実験時の一般状態、体重に異常は見られず、実験終了後の一般血液検査及び解剖所見も異常が見られなかった。
【0057】
{28日間反復投与毒性試験}
SD系ラット(日本チャールスリバー)の雌雄を各6匹に分け、製造例 4で調製したホ
ップ苞抽出物を500、1000、2000 mg/kg量、胃ゾンデにて28日間投与を行った。実験時の
一般状態、体重に異常は見られず、実験終了後の一般血液検査及び解剖所見も異常が見られなかった。
【0058】
{変異原性試験}
ICR系マウス(日本チャールスリバー)の雄性を6匹に分け、製造例 4で調製したホップ苞抽出物を500、1000、2000 mg/kg量、胃ゾンデにて投与を行った。一般状態、体重に異常は見られず、小核をもつ多染性赤血球及び多染性赤血球の出現頻度において、陰性対照群と比較して有意な差はなく、小核誘発性は陰性であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
ホップ苞抽出物を有効成分とするコレステロール代謝制御剤は、副作用が極めて少なくコレステロールの代謝を制御することができるので、本発明は有用である。
【0060】
また、上記のコレステロール代謝制御剤を有効成分として含有する飲食品、食品添加物及び医薬は、副作用が極めて少なくコレステロールの代謝を制御することができるので、本発明は有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ホップ苞由来のポリフェノールを摂食させたラットの血清コレステロール濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ苞抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とするコレステロール代謝制御剤。
【請求項2】
ホップ苞抽出物であり、かつポリフェノール様物質を吸着する吸着樹脂に吸着する物質であるコレステロール代謝制御剤。
【請求項3】
ホップ苞抽出物であり、分画分子量1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しない物質であるコレステロール代謝制御剤。
【請求項4】
ホップ苞に含有されるポリフェノール様物質であり、かつ分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しない物質であるコレステロール代謝制御剤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のコレステロール代謝制御剤を含有する飲食品。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のコレステロール代謝制御剤を含有する食品添加物。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のコレステロール代謝制御剤を含有する医薬。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111609(P2006−111609A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124438(P2005−124438)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】