説明

コレステロール化合物を利用したPTC材料

【課題】 薄膜化することができて小型で軽量なヒーター等(例えば、鏡の曇り防止用ヒーター等)を作製するのに好適であり、耐久性にも優れた新しいPTC材料を提供する。
【解決手段】 下記の式(I)で表わされるコレステロール化合物を含有することを特徴とするPTC材料。式(I)中、Meはメチル基を表し、Rは、−OH、ハロゲン原子、またはCH3−(C24)−C(O)−O−(nは0〜10の整数)で示されるアルキルエステル基を表す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒーター等として用いられるのに好適な新規なPTC材料に関する。
【背景技術】
【0002】
PTC材料は、抵抗値が温度に対して正特性、すなわち、温度上昇に伴い抵抗値が大きくなる(Positive Temperature Coefficient)特性を有する材料であり、近年、自らの温度を制御できるヒーター(発熱体)としての他、温度コントローラーや電流調節器等への応用が試みられている。
【0003】
従来よりPTC材料としては主として無機系の材料が検討され使用に供されている。無機系の材料は、PTC材料として電気的特性においては優れているものが多いが、重くて薄膜化するのが困難であり、軽量、薄型でフレキシブルなヒーターなどとして用いるには適していなかった。
【0004】
無機系のPTC材料における上述の難点を克服し得るものとして有機系物質からPTC材料も検討されており、例えば、パラフィンを用いる有機系PTC材料などが提案されているが製膜性等の点で充分ではない。
【0005】
本発明者らは、先に、エステル構造を有する特定の低分子または高分子の有機化合物がPTC材料として有用であることを見出した(特開2003−243206号公報:特許文献1)。この特許に開示されている有機化合物は、薄膜として供することのできるPTC材料を構成する数少ない例であるが、繰り返し使用に対する耐久性において必ずしも充分でなかった。
【特許文献1】特開2003−243206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、薄膜化することができて小型で軽量なヒーター等を作製するのに好適であり、耐久性にも優れた新しいPTC材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、研究を重ねた結果、特定構造のコレステロール化合物(コレステロールおよびコレステロール誘導体)を利用することにより如上の目的が達成されることを見出し本発明を導き出した。
【0008】
かくして、本発明は、下記の式(I)で表わされるコレステロール化合物を含有することを特徴とするPTC材料を提供するものである。
【化1】

式(I)中、Meはメチル基を表し、Rは、−OH、ハロゲン原子、またはCH3−(C24)−C(O)−O−(nは0〜10の整数)で示されるアルキルエステル基を表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPTC材料は、スクリーン印刷などの手法により耐久性に優れた薄膜として供することができるので、各種の形状から成る軽量小型のヒーター等が容易に製作できる。そして、このようにして得られるヒーターは、PTCの効果により発熱量を制御するため、従来の化石燃料等を用いる暖房設備や加熱手段に比べて、省エネルギー型で環境にやさしいヒーターユニットとして、例えば、鏡の曇り防止用ヒーター、ビニールハウスの育苗用ヒーター、ペット用ヒーター、浴室、洗面所、トイレ用の防水ヒーター、畳用ヒーター、電気敷毛布、ホットカーペットへ、医療用保温器具等の広範な用途を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のPTC材料を構成するコレステロール化合物としては、例えば、図3〜図8に示されるように、酢酸コレステロール(Cholesterol Acetate)、n−カプリル酸コレステロール(Cholesterol n-Caprylate)、ミリスチン酸コレステロール(Cholesterol
Myristate)、ステアリン酸コレステロール(Cholesterol Stearate)、コレステロール(Cholesterol)、塩化コレステロール(Cholesterol
Chloride)などがあるが、既述の式(I)に包含される限り、これらに限定されるものではない。
【0011】
以上のようなコレステロール化合物は、適当な導電性微粒子およびベース材と混合されてPTC材料(コンパウンド)として供される。
導電性微粒子として好ましい例は、カーボンブラックに代表されるカーボン微粒子(炭素微粒子)であるが、その他に金属微粒子(銅粉、銀粉など)、あるいは合成樹脂の微粒子表面を炭素または金属で表面処理した導電性微粒子なども使用することができる。これらの導電性微粒子は導電性フィラーとして提供されていることが多い。
【0012】
ベース材は、コレステロール化合物および導電性微粒子を分散して薄膜を形成するのに適した粘度の液状物とする溶剤(溶媒)から成り、その他に適当な添加剤を含有してもよい。コレステロール化合物を利用する本発明のPTC材料に用いられるのに特に好適なベース材はスクリーン印刷用組成物であり、これは、一般に、スクリーンインク、溶剤および粘性付与剤(例えば、クロロプレンゴム)などから構成される。
【0013】
以上のようにして得られる本発明のPTC材料は、スクリーン印刷などの薄膜化手法により薄膜として供することができるので、任意の形状のパネルなどとして製作することができる。得られる薄膜は、或る特定の温度から急激な抵抗値(電気抵抗)の上昇を示すという特性を有し、この特性は繰り返し使用においても発現される。かくして、本発明のPTC材料は、任意の各種形状のパネルヒーターなどとして広範に利用され得るものである。
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0014】
PTC特性およびDSC測定
本発明に従うコレステロール化合物を含有するPTC材料を調製しそのPTC特性を測定し、さらにコレステロール化合物のDSC測定(示差走査熱量測定)を行った。
<ベース材の調製>
ベース材調製を行う前にスクリーンインク(セイコーアドバンス社製:60A)の温熱乾燥炉を用いた乾燥を行った。乾燥を行ったスクリーンインク(5.45g)に溶剤(18ml)(セイコーアドバンス社製:遅乾溶剤T−910)を加え超音波照射を行い均一溶液とし、クロロプレンゴム(2.34g)(東ソー株式会社製:B30S)を加えてさらに超音波照射を行い均一溶液とした。
【0015】
<コンパウンド調製>
上記のようにして調製したベース材を溶解させたビーカーに、コレステロール化合物としてn−カプリル酸コレステロール(0.61g)(東京化成株式会社製)を加え均一溶液になるまで超音波照射した。カーボンブラック(0.61g)(旭カーボン株式会社:HS−500)を加えペンシルミキサーで撹拌したのち30分超音波照射。さらに導電性フィラー(0.61g)(大塚化学株式会社:DENTALL BK−400:チタン化合物の表面にカーボンブラックを付着させたもの)を加えてペンシルミキサーで撹拌し30分超音波照射して所望のコンパウンド(PTC材料)を得た(実施例A)。組成やコレステロール化合物の種類を変えて同様にコンパウンドを調製した(実施例B〜H)。調製した各コンパウンドの組成は表1に示している。
【0016】
<スクリーン印刷>
(1) 図1に示すパターンの電極を導電性インク(東洋紡績株式会社製:DX−153H−87)を用いてコロナ処理したPETシートへスクリーン印刷し乾燥した。乾燥後の重量増加よりインクは1.2g付着したことになる。
(2) パターン印刷の終了したPETシートにスクリーン(幅180mm×長さ290mm×厚さ25μm)を用いて印刷し、温熱乾燥炉(50℃6時間)で乾燥をした。乾燥後の重量増加によりインクは1.1g付着したことになる(1回の実施につき同じサンプルを4体作成した)。
(1)および(2)で用いたスクリーン印刷装置は、九栄スクリーン製スクリーン印刷装置である。
【0017】
<PTC特性測定>
上記のようにして得られた薄膜にアルミ鉄箔テープ(住友スリーエム製:FE−20CX)を電極に使用してテスターで初期抵抗値を測定した。次に、電極を取り付けた薄膜をコンピュータとセットになっている計測器に接続し、外部から加温して抵抗値変動の経時変化を測定した。
使用した抵抗測定装置はデジタルハイテスター3235(日置電機株式会社製)、デジタルパワーメーターWT110(横河電機株式会社製)、デジタルレコーダーDR210L(株式会社チノー製)の、温度・電力・抵抗計測システム器である。
n−カプリル酸を用いたPTC材料(実施例A)を代表例として、温度変化に対する抵抗値の変化の測定結果を図2に示す。図2に示されるように50℃付近から抵抗値の急激な上昇がありPTC特性の発現が確認された。最大抵抗値は70℃において認められた。組成やコレステロール化合物の種類を変えても同様の特性が認められた。表1には、各コンパウンドにおける最大抵抗値を示している。
【0018】
<DSC測定>
各コレステロール化合物について示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製:EXSTRA6200)を用いてDSC測定を行った。その結果を図3〜8に示す。いずれの場合においても、顕著な吸熱変化が認められ、PTC特性の発現を裏付けている。
【0019】
【表1】

【実施例2】
【0020】
ヒーターユニットの耐久試験
既述のコンパウンドを使用してスクリーン印刷により作製した薄膜から成るヒーターユニットを製作し下記の二つの耐久試験を実施した。
<全面閉塞試験>
断熱材(熱伝導率λ=0.042W/(m・K))の上に薄膜を置き温度測定用熱電対をヒーターにセットする。その上からもう一枚の断熱材で全面閉塞し、電力密度が0.05W/cmになるように電圧を印加して温度分布を測定した。使用した抵抗測定装置はデジタルハイテスター3235(日置電機株式会社製)、デジタルパワーメーターWT110(横河電機株式会社製)、デジタルレコーダーDR210L(株式会社チノー製)の温度・電力・抵抗計測システム器である。
【0021】
<耐久試験>
断熱材(熱伝導率λ=0.042W/(m・K))の上に薄膜を置き温度測定用熱電対と電源制御用熱電対をヒーターにセットする。その上からもう一枚の断熱材で全面閉塞し、電力密度が0.05W/cmになるように電圧を印加して温度分布を測定した。使用した耐久試験装置はPCレコーダーR1M−GH(株式会社エムシステム技研製)をコンピュータに接続し、デジタル指示調節計SDC15S(株式会社山武製)を用いて温度制御を行った。
耐久試験の加熱冷却の条件は42℃〜47℃〜42℃の加熱冷却を3分間のインターバルで測定した(200サイクル/日)。この測定を4000サイクル(20日間)行い再度全面閉塞試験を行った。耐久試験の結果の1例を図9に示す。
耐久試験前に行った全面閉塞試験と耐久試験後の全面閉塞試験の結果を図10に示す。
以上の結果からコレステロール化合物を用いたヒーターユニットは、温度上昇−冷却の繰り返しが無限に可能でありきわめて安定であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のPTC材料を用いて作製された発熱シートの印刷形状を例示する。
【図2】コレステロール化合物を含有する本発明のPTC材料の抵抗値の温度変化特性を例示する。
【図3】コレステロール化合物として酢酸コレステロールを含有する本発明のPTC材料のDSC測定結果をコレステロール化合物の構造式とともに示す。
【図4】コレステロール化合物としてn−カプリル酸コレステロールを含有する本発明のPTC材料のDSC測定結果をコレステロール化合物の構造式とともに示す。
【図5】コレステロール化合物としてミリスチン酸コレステロールを含有する本発明のPTC材料のDSC測定結果をコレステロール化合物の構造式とともに示す。
【図6】コレステロール化合物としてステアリン酸コレステロールを含有する本発明のPTC材料のDSC測定結果をコレステロール化合物の構造式とともに示す。
【図7】コレステロール化合物としてコレステロールを含有する本発明のPTC材料のDSC測定結果をコレステロール化合物の構造式とともに示す。
【図8】コレステロール化合物として塩化コレステロールを含有する本発明のPTC材料のDSC測定結果をコレステロール化合物の構造式とともに示す。
【図9】コレステロール化合物を含有する本発明のPTC材料から作製されたヒーターユニットの耐久試験の結果を例示する。
【図10】コレステロール化合物を含有する本発明のPTC材料から作製されたヒーターユニットの全面閉塞試験の結果を例示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で表わされるコレステロール化合物を含有することを特徴とするPTC材料。
【化1】

〔式(I)中、Meはメチル基を表し、Rは、−OH、ハロゲン原子、またはCH3−(C24)−C(O)−O−(nは0〜10の整数)で示されるアルキルエステル基を表す。〕


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−207797(P2007−207797A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21676(P2006−21676)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(591099304)株式会社ツツミ (1)
【Fターム(参考)】