説明

コンクリート体

【課題】ひび割れ誘発目地内に充填された充填物のひび割れ誘発目地内からの剥落を防止できるひび割れ誘発目地を備えたコンクリート体を提供する。
【解決手段】本発明に係るコンクリート体は、コンクリート体の表面(壁表面2)に開口して当該表面に沿って延長する凹溝により形成されたひび割れ誘発目地3を備えたコンクリート体(鉄筋コンクリート壁1)において、ひび割れ誘発目地3は、凹溝の開口の幅寸法aが凹溝の底面の幅寸法bよりも小さいことを特徴とするので、ひび割れ誘発目地内に充填された充填物のひび割れ誘発目地内からの剥落を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れ誘発目地を備えたコンクリート体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート壁は、打設した直後から乾燥収縮が始まり、これによって壁面にひび割れが生じる。このひび割れは、コンクリートの物性に起因するものなので、必然的なものであり、これを回避することはできない。近年では一般的な集合住宅でも高強度コンクリートが使用されるようになっており、その組成的性質からもひび割れがより生じやすくなっている。
そこで、図7(a)に示すように、ひび割れを予測した特定の場所に集中させるため、ひび割れを誘発させるひび割れ誘発目地100を壁表面115に備えた鉄筋コンクリート壁101が知られている(特許文献1等参照)。
また、ひび割れ誘発目地により誘発されたひび割れを介して外部からコンクリート中に、鉄筋の腐蝕や壁体の耐久性等の低下をもたらす各種の劣化因子、例えば塩素イオン、酸素、水等が浸入するのを阻止するためや、外観を整えるため、通常、ひび割れ誘発目地100内には、図7(b)に示すように、ひび割れを修復するための専用のモルタル等の充填材102を充填することが知られている(特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−231573号公報
【特許文献2】特開平11−117407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7に示すように、ひび割れ誘発目地100は、断面凹状の凹溝により形成され、当該凹溝の開口110の幅寸法111は凹溝の底面112の幅寸法113よりも大きい。つまり、従来のひび割れ誘発目地100は、壁表面115側が広く底面112側が狭い台形の断面形状を有している。これは、ひび割れ誘発目地100を形成するために図外のコンクリート型枠に設置した型棒を離型させやすくするためである。
しかしながら、凹溝の開口110の幅寸法111が凹溝の底面112の幅寸法113よりも大きいひび割れ誘発目地100では、ひび割れ誘発目地100内に充填材102が充填されていても、地震時において、ひび割れ誘発目地100部分に圧縮力や引張力が作用すると、充填材102がひび割れ誘発目地100内より剥離して落下する。充填材102がひび割れ誘発目地100内より剥落した場合、鉄筋コンクリート壁101の断面欠損となって、構造的にも悪影響を及ぼす可能性があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、ひび割れ誘発目地内に充填された充填物のひび割れ誘発目地内からの剥落を防止できるひび割れ誘発目地を備えたコンクリート体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るコンクリート体は、コンクリート体の表面に開口して当該表面に沿って延長する凹溝により形成されたひび割れ誘発目地を備えたコンクリート体において、ひび割れ誘発目地は、凹溝の開口の幅寸法が凹溝の底面の幅寸法よりも小さいので、ひび割れ誘発目地内に充填された充填物のひび割れ誘発目地内からの剥落を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】鉄筋コンクリート壁のひび割れ誘発目地部分の拡大断面図(実施形態1)。
【図2】ひび割れ誘発目地を備えた鉄筋コンクリート壁の斜視図(実施形態1)。
【図3】ひび割れ誘発目地を備えた鉄筋コンクリート壁の断面図(実施形態1)。
【図4】型棒と鉄筋コンクリート壁との関係を示す断面図(実施形態1)。
【図5】ひび割れ誘発目地を形成するための方法を示す図(実施形態1)。
【図6】型棒と鉄筋コンクリート壁との関係を示す断面図(実施形態2)。
【図7】鉄筋コンクリート壁のひび割れ誘発目地部分の拡大断面図(従来)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1.
実施形態1のコンクリート体としての鉄筋コンクリート壁1は、図2に示すように、壁表面2に開口して当該壁表面2に沿って延長する凹溝により形成されたひび割れ誘発目地3を備える。
このひび割れ誘発目地3における目地の長手方向と直交する断面の形状(以下、ひび割れ誘発目地3の断面形状という)は、図1に示すように、ひび割れ誘発目地3を形成する凹溝の開口5の幅寸法aが凹溝の底面6の幅寸法bよりも小さい台形形状に形成される。
ひび割れ誘発目地3の断面形状は、例えば、上底が凹溝の開口5の幅寸法aで、下底が凹溝の底面の幅寸法bとなる台形形状である。即ち、ひび割れ誘発目地3は、壁表面2側が狭く底面6側が広い台形の断面形状を有している。
尚、ひび割れ誘発目地3は、図2;3に示すように、互いに対向する壁の両方の壁表面2;2に設けられたり、あるいは、一方の壁表面2のみに設けられる。図3において、4は鉄筋コンクリート壁1の壁内に配設された鉄筋である。
【0008】
ひび割れ誘発目地3の形成方法を説明する。
ひび割れ誘発目地3の形成は、鉄筋コンクリート壁1の壁表面2を形成する型枠面21aにひび割れ誘発目地3を形成するための型棒10を取り付けた型枠板21(図5(a)参照)を用いて形成される。
図4に示すように、型棒10は、第1型棒11と第2型棒12とにより形成される。型棒10は、長手方向と直交する断面の形状が、ひび割れ誘発目地3の断面形状と同じ形状に形成される。型棒10は、第1型棒11と第2型棒12とが着脱可能に形成される。
【0009】
第1型棒11の断面形状は、下底の長さa1及び上底の長さb1が凹溝の開口5の幅寸法aよりも小さく、下底の長さa1>上底の長さb1である台形に形成される。
第2型棒12の断面形状は、下底の長さb2及び上底の長さa2が凹溝の開口5の幅寸法aよりも小さく、下底の長さb2>上底の長さa2である台形に形成される。
型棒10は、台形断面の上底が第1型棒11の台形断面の下底と第2型棒12の台形断面の上底とで形成され、台形断面の下底が第1型棒11の台形断面の上底と第2型棒12の台形断面の下底とで形成されるように、第1型棒11の接合面13と第2型棒12の接合面14とが突き合わされ、かつ、第1型棒11と第2型棒12とが釘、木ねじ、両面テープなどの接続具23(図5(a)参照)により着脱可能に接続されて形成される。
【0010】
図5(a)に示すように、壁表面2と接することになる型枠板21の型枠面21aと型棒10の台形断面の上底となる面とを接触させた状態で型枠板21と型棒10とを釘などの固定具22で取り付けておいて、型枠面21a同士が鉄筋コンクリート壁1の厚さ寸法を隔てて互いに向かい合うように2つの型枠板21を設置し、対向する型枠板21;21間に鉄筋4を配筋した後に型枠板21;21間に生コンクリートを打設する。コンクリートが固化した後、まず、型枠板21と型棒10とを固定している固定具22を取り除いて、型枠板21を鉄筋コンクリート壁1より剥がす。その後、第1型棒11と第2型棒12とを着脱可能に接続している接続具23を取り除いて、図5(b)に示すように、第1型棒11を鉄筋コンクリート壁1より取り外す。第1型棒11は、図4に示すように、壁表面2側に位置する断面台形の下底の長さa1が上底の長さb1よりも長いので、鉄筋コンクリート壁1より簡単に取り外すことができる。その後、図5(c)に示すように、第2型棒12を鉄筋コンクリート壁1より取り外す。第2型棒12の断面台形の下底の長さb2及び上底の長さa2は、図4に示すように、ひび割れ誘発目地3を形成する凹溝の開口5の幅寸法aよりも小さいので、鉄筋コンクリート壁1より簡単に取り外すことができる。以上により、壁表面2に、凹溝の開口5の幅寸法aが凹溝の底面6の幅寸法bよりも小さいひび割れ誘発目地3を備えた鉄筋コンクリート壁1を形成できる。そして、図5(d)に示すように、ひび割れ誘発目地3を形成する凹溝内にモルタルなどの充填物25を充填する。
【0011】
実施形態1によれば、ひび割れ誘発目地3内に充填物25が充填された場合に充填物25の脱落を防止できるひび割れ誘発目地3を備えた鉄筋コンクリート壁1が得られる。
【0012】
尚、一般に、鉄筋コンクリート製の耐震壁は、コンクリートの打設から壁の仕上げ工事までの間に数ヶ月を要することが多く、壁の乾燥収縮ひび割れは、仕上げ工事時点ですでにひび割れ誘発目地部分に発生していることが多い。そこで、ひび割れ誘発目地3を形成している凹溝内に、仕上げ工事時点で充填物25を充填することによって、壁表面2に現れるひび割れを抑えることができ、仕上げ材のひび割れや剥離等を防止することもできる。
【0013】
実施形態2.
3本以上の型棒を組み合わせた型棒を用いても良い。例えば、図6に示すように、3本の型棒30,31,32を組み合わせた型棒10を使用してもよい。
【0014】
要するに、型棒10としては、鉄筋コンクリート壁1の壁表面2に凹溝の開口の幅寸法aが凹溝の底面の幅寸法bよりも小さいひび割れ誘発目地3を形成した後に、脱型できるように分割可能な2つ以上の型棒により形成された型棒10を用いればよい。
【0015】
上記では、ひび割れ誘発目地を備えたコンクリート体としての鉄筋コンクリート壁1を示したが、本発明のひび割れ誘発目地の構成は、例えば、橋台、ボックスカルバート、橋脚、胸壁、ラーメン式橋台、地覆、擁壁、防波堤、波返しなどのコンクリート体にも適用できる。
【符号の説明】
【0016】
1 鉄筋コンクリート壁(コンクリート体)、2 壁表面(表面)、
3 ひび割れ誘発目地、a 凹溝の開口の幅寸法、b 凹溝の底面の幅寸法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の表面に開口して当該表面に沿って延長する凹溝により形成されたひび割れ誘発目地を備えたコンクリート体において、ひび割れ誘発目地は、凹溝の開口の幅寸法が凹溝の底面の幅寸法よりも小さいことを特徴とするコンクリート体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32842(P2011−32842A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183181(P2009−183181)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】