説明

コンクリート構造体

【課題】衝撃作用時におけるコンクリート片の剥離・飛散を抑制すると共に、衝撃作用時におけるひび割れを抑制することができ、衝撃を受けたときに高い破壊抑制効果を発揮することができるコンクリート構造体を提供することを目的としている。
【解決手段】コンクリート体2の表層部分、或いはダブル配筋の鉄筋材の間に、セメント系材料の内部に立体格子4が埋設された補強層20が設けられている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剛飛翔体の衝突や爆風圧等の衝撃作用を受けるコンクリート壁(鉄筋コンクリート壁も含む。)の破壊抑制対策としては、例えば、壁厚(コンクリート体の厚さ)を増す方法や、壁の表面(衝撃作用を受ける面)や裏面(衝撃作用を受ける面の反対側の面)に補強鋼板を取り付ける方法などが一般的に行われている。しかしながら、上記した壁厚を増す方法では、建築面積に対する躯体の占める面積が増えることから、建築空間の有効利用の観点からデメリットがある。また、上記した補強鋼板を取り付ける方法では、壁の両面に補強鋼板を取り付けると、衝撃作用後の構造体(両側の補強鋼板の間に介在されたコンクリート体)の健全性を確認することが困難であるというデメリットがある。
【0003】
そこで、従来、例えば下記特許文献1に示すように、壁の裏面に補強シートを貼り付けたり高弾性樹脂を吹き付けたりする方法が提案されている。この方法によれば、上記した壁厚を増す方法に比べてコンクリート壁(補強シートや高弾性樹脂層を含む)の厚さを小さくすることができ、建築空間の有効利用を図ることができる。また、壁の表面側から構造体の状況を確認することが可能であるので、衝撃作用後に構造体の健全性を確認することができる。
【0004】
また、従来、例えば下記特許文献2に示されているように、鋼や合成樹脂の短繊維をコンクリートに混入する方法が提案されている。この方法によれば、壁厚を増大させる必要がなく、建築空間の有効利用を図ることができる。また、壁の表面側或いは裏面側から構造体の状況を確認することが可能であるので、衝撃作用後に構造体の健全性を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−257669号公報
【特許文献2】特開2006−290722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した前者の従来技術では、衝撃作用時における壁の裏面のコンクリート片の剥離・飛散を抑制する効果はあるが、コンクリート体の破壊自体を抑制する効果は小さいため、衝撃の応力波によってコンクリート体にひび割れが発生するおそれがある。
また、上記した後者の従来技術では、繊維の混入量が多くなり過ぎると生コンクリートの流動性が低下して施工性が悪くなるため、繊維の混入量に限界がある。したがって、十分な破壊抑制効果が得られない場合がある。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、衝撃作用時におけるコンクリート片の剥離・飛散を抑制すると共に、衝撃作用時におけるひび割れを抑制することができ、衝撃を受けたときに高い破壊抑制効果を発揮することができるコンクリート構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコンクリート構造体は、コンクリート体の表層部分に、セメント系材料の内部に立体格子が埋設された補強層が設けられていることを特徴としている。
【0009】
このような特徴により、コンクリート体内に発生する応力が立体格子によって分散されるため、衝撃作用時に応力が局部に集中することが抑制され、引張破壊におけるひび割れが分散される。また、立体格子によってコンクリート構造体の靭性が向上するため、地震などの衝撃作用に対しても破壊抑制効果が有効に発揮される。
【0010】
また、本発明に係るコンクリート構造体は、コンクリート体の内部にダブル配筋の鉄筋材が埋設されたコンクリート構造体であって、前記ダブル配筋の鉄筋材の間に、セメント系材料の内部に立体格子が埋設された補強層が設けられていることを特徴としたものであってもよい。
このような特徴により、コンクリート体内に発生する応力が立体格子によって分散されるため、押し抜きせん断破壊における内部ひび割れが分散される。
【0011】
また、本発明に係るコンクリート構造体は、前記立体格子の材料の弾性係数が前記コンクリート体の弾性係数よりも高く、且つ、前記立体格子の材料の強度が前記コンクリート体の強度よりも高いことが好ましい。
これにより、立体格子によってコンクリート構造体の引張応力に対する抵抗力が向上するため、応力波によって発生するひび割れが抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るコンクリート構造体によれば、衝撃作用時におけるコンクリート片の剥離・飛散を抑制すると共に、衝撃作用時におけるひび割れを抑制することができ、衝撃を受けたときに高い破壊抑制効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するためのコンクリート構造体の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を説明するためのコンクリート構造体の断面図である。
【図3】本発明の変形例を説明するためのコンクリート構造体の断面図である。
【図4】本発明の変形例を説明するためのコンクリート構造体の断面図である。
【図5】本発明の変形例を説明するための立体格子の斜視図である。
【図6】本発明の変形例を説明するための立体格子の斜視図である。
【図7】本発明の変形例を説明するための立体格子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るコンクリート構造体の第1、第2の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係るコンクリート構造体の第1の実施の形態について図1に基づいて説明する。
図1に示すコンクリート構造体1は、剛飛翔体の衝突や爆風圧等の衝撃作用を受ける鉄筋コンクリート造の壁であり、コンクリート体2の内側に壁鉄筋3が埋設された構成からなる。このコンクリート構造体1の一方側(図1における左側)の面が、剛飛翔体が衝突したり爆風圧が作用したりする衝撃作用面10であり、他方側(図1における右側)の面が、前記した衝撃作用面10の反対側の裏面11である。
【0016】
図1に示すように、壁鉄筋3は、例えば異形鋼棒からなる主筋及び配力筋を縦横に格子状に組んだ構成からなり、この格子状に組まれた主筋及び配力筋が二重に配設されたダブル配筋となっている。この壁鉄筋3は、所定のかぶり厚さを確保した位置に配設されている。
【0017】
コンクリート体2の両側の表層部分には、セメント系材料の内部に立体格子4が埋設された補強層20,20がそれぞれ設けられている。具体的に説明すると、コンクリート体2の両側のかぶり部分21,21に立体格子4が埋設されており、このかぶり部分21,21が補強層20,20となっている。
【0018】
前記した立体格子4は、鋼製(例えば一般鋼やステンレス鋼等)或いは合成樹脂製(例えばポリプロピレン等)の線材を波形や不規則に湾曲させたり屈曲させたりすることで立体的に形成された立体網状マットであり、この立体格子4の厚さ寸法は、少なくともコンクリート体2のかぶり厚さ(かぶり部分21の厚さ)以下である。また、立体格子4の材料の弾性係数がコンクリート体2の弾性係数よりも大きく、且つ、立体格子4の材料の強度がコンクリート体2の強度よりも大きい。また、この立体格子4の線材(辺)で囲まれた空間は四面体や六面体等の多面体形状、或いは不均一な形状に形成されている。また、立体格子4の格子間隔(線材の間隔)は、コンクリート体2のコンクリート打設時に立体格子4の内部に生コンクリートが容易に流入して立体格子4の内部全体に生コンクリートが隙間無く充填される程度の大きさであり、少なくともコンクリート体2の骨材の最大寸法よりも大きい格子間隔で形成されている。なお、立体格子4の厚さが薄い場合には、立体格子4の格子間隔が上記した骨材の最大寸法よりも小さくなっていてもよい。
【0019】
次に、上記した構成からなるコンクリート構造体1の施工方法について説明する。
【0020】
まず、壁鉄筋3を組み立てる鉄筋配筋工程を行う。詳しく説明すると、所定位置に主筋及び配力筋を縦横格子状に組み立ててダブル配筋の壁鉄筋3を形成する。
【0021】
次に、コンクリート体2を形成する図示せぬ型枠を組み立てる型枠建込工程を行う。詳しく説明すると、前記した壁鉄筋3の両側の所定の位置に図示せぬ型枠をそれぞれ建てる。このとき、図示せぬ型枠の型枠面に立体格子4を設置しておく。なお、立体格子4を型枠面に設置しない方法であってもよく、例えば、壁鉄筋3の両側に立体格子4を設置した後、図示せぬ型枠を建て込んでもよい。
【0022】
次に、上記した型枠内に生コンクリートを打設するコンクリート打設工程を行う。詳しく説明すると、ダブル配筋の壁鉄筋3の間に生コンクリートを流し込む。このとき、型枠内に打設された生コンクリートの一部が立体格子4の内側に流れ込み、立体格子4の内側に満遍なく生コンクリートが充填される。
【0023】
その後、コンクリート体2の硬化後に前記した型枠を脱型する。
以上により、コンクリート体2の内側に壁鉄筋3が埋設されていると共にコンクリート体2の両側のかぶり部分21,21に立体格子4が埋設されて両側の表面部分に補強層20,20が設けられたコンクリート構造体1が形成される。
【0024】
上記したコンクリート構造体1によれば、コンクリート体2内に発生する応力が立体格子4によって分散されるため、衝撃作用時に応力が局部に集中することが抑制され、引張破壊におけるひび割れが分散される。また、立体格子4の材料の弾性係数がコンクリート体2の弾性係数よりも大きく、且つ、立体格子4の材料の強度がコンクリート体2の強度よりも大きいため、立体格子4によってコンクリート構造体1の引張応力に対する抵抗力が向上するため、応力波によって発生するひび割れが抑制される。したがって、衝撃作用時における衝撃作用面10及び裏面11でのコンクリート片の剥離・飛散を抑制することができ、また、衝撃作用時におけるひび割れを抑制することができる。さらに、立体格子4によってコンクリート構造体1の靭性が向上するため、地震などの衝撃作用に対しても破壊抑制効果が有効に発揮される。このように、衝撃を受けたときに高い破壊抑制効果を発揮することができる。
【0025】
また、立体格子4の材料(線材)の弾性係数及び強度がコンクリート体2の弾性係数や強度よりも低くても前記したひび割れを分散する効果は期待できるが、ことが望ましい。これにより、上記したひび割れを抑制する効果を十分に奏することができる。
【0026】
[第2の実施の形態]
次に、本発明に係るコンクリート構造体の第2の実施の形態について図2に基づいて説明する。
なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0027】
図2に示すコンクリート構造体101は、鉄筋コンクリート造の壁体であり、格子状の鉄筋材30,31を二重に配筋したダブル配筋の壁鉄筋3がコンクリート体2の内側に埋設された構成からなる。前記コンクリート体2の厚さ方向の中央部分、つまりダブル配筋の鉄筋材30,31の間の部分には、セメント系材料の内部に立体格子4が埋設された補強層20が設けられている。
【0028】
次に、上記した構成からなるコンクリート構造体101の施工方法について説明する。
【0029】
まず、壁鉄筋3を組み立てる鉄筋配筋工程を行う。詳しく説明すると、所定位置に主筋及び配力筋を縦横格子状に組み立てて壁鉄筋3を形成する。このとき、ダブル配筋の鉄筋材30,31の間に立体格子4を設置しておく。
【0030】
次に、コンクリート体2を形成する図示せぬ型枠を組み立てる型枠建込工程を行う。詳しく説明すると、前記した壁鉄筋3の両側の所定の位置に図示せぬ型枠をそれぞれ建てる。
【0031】
次に、上記した型枠内に生コンクリートを打設するコンクリート打設工程を行う。詳しく説明すると、ダブル配筋の鉄筋材30,31の間に生コンクリートを流し込む。このとき、型枠内に打設された生コンクリートの一部が立体格子4の内側に流れ込み、立体格子4の内側に満遍なく生コンクリートが充填される。
【0032】
その後、コンクリート体2の硬化後に前記した型枠を脱型する。
以上により、コンクリート体2の内側に壁鉄筋3が埋設されていると共にダブル配筋の鉄筋材30,31の間に立体格子4が埋設されてコンクリート体2の厚さ方向の中央部分に補強層20が設けられたコンクリート構造体101が形成される。
【0033】
上記したコンクリート構造体101によれば、コンクリート体2内に発生する応力が立体格子4によって分散されるため、押し抜きせん断破壊におけるコンクリート体2内部のひび割れが分散され、また、立体格子4によってコンクリート構造体1の押し抜きせん断応力に対する抵抗力が向上するため、応力波によって発生するコンクリート体2内部のひび割れが抑制される。これにより、コンクリート体2の内部の破壊抑制効果を発揮することができる。
【0034】
以上、本発明に係るコンクリート構造体の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図3に示すように、コンクリート体2の裏面に繊維シート5が貼り付けられたり高弾性樹脂6が吹き付けられたりしたコンクリート構造体201であってもよい。
【0035】
また、上記した第1の実施の形態では、コンクリート体2の両側の表面部分(かぶり部分21,21)に立体格子4が埋設されて補強層20,20が形成されているが、本発明は、衝撃作用面10側および裏面11側のうちの何れか一方側の表面部分にのみ補強層を形成する構成であってもよい。
さらに、本発明は、コンクリート体2の両側の表面部分のうちの少なくとも一方の表面部分と、コンクリート体2の内部(ダブル配筋の鉄筋材30,31の間)に、補強層をそれぞれ形成する構成であってもよい。
【0036】
また、上記した第1の実施の形態では、コンクリート打設工程の際に図示せぬ型枠の内側に立体格子4を設置しておくことで、コンクリート体2の表面部分に補強層20,20を形成しているが、本発明は、図4に示すように、補強筋として立体格子4が埋設されたモルタル板6(セメント系材料)を製作し、このモルタル板6を型枠として建て込み、このモルタル板6の内側に生コンクリートを打設することで、現場打ちコンクリート部321とモルタル板6とを一体化させたコンクリート構造体301であってもよい。これにより、型枠として使用した上記したモルタル板6が補強層320となり、コンクリート体302の表面部分に補強層320が形成される。なお、この場合、図4に示すように、モルタル板6の内面にコッター60を突設させておくことで、現場打ちコンクリート部321とモルタル板6との接合強度を向上させることができる。
【0037】
また、上記した実施の形態では、立体格子4として、鋼製或いは合成樹脂製の線材を波形や不規則に湾曲させたり屈曲させたりすることで立体的に形成された立体網状マットが使用されているが、本発明は、他の構成の立体格子を用いることも可能である。
例えば、図5(a)、図5(b)に示すように、複数の棒材440,540が三角形の集合体となるように組み立てられたトラス形状の立体格子404、504であってもよい。また、図6(a)、図6(b)に示すように、複数のラチス部材643,743を平行に並べた構成の立体構成604,704であってもよい。前記ラチス部材643,743は、直棒状の上弦材640,740及び下弦材641,741と、それら上弦材640,740及び下弦材641,741の間に介装された複数の斜材642,742と、からなるラチス梁状の部材である。また、図6(b)に示す立体格子704には、ラチス部材743に対して交差すると共に各ラチス部材743を跨ぐように波形に屈曲された波形棒材744が備えられている。
さらに、図7に示すように、棒材をコイル状に巻いた構成からなるスパイラル材840からなる立体格子804であってもよい。
【0038】
また、上記した実施の形態では、コンクリート構造体1として鉄筋コンクリート造の壁体について説明しているが、本発明は、壁体以外の構造体であってもよく、例えば柱や梁、スラブなどであってもよい。さらに、本発明は、鉄筋コンクリート造のコンクリート構造体に限定されず、例えば、コンクリートのみからなる構造体であってもよく、或いは鉄骨コンクリート造や鉄筋鉄骨コンクリート造、鋼管コンクリート造等の他のコンクリート系構造の構造体であってもよい。
【0039】
また、本発明に係るコンクリート構造体は、立体格子の材料(線材)の弾性係数及び強度がコンクリート体の弾性係数や強度よりも低くてもよい。この場合であっても、上述したひび割れの分散効果は期待できる。
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1,101,201,301 コンクリート構造体
2,302 コンクリート体
30,31 鉄筋材
4,404,504,604,704,804 立体格子
20,320 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の表層部分に、セメント系材料の内部に立体格子が埋設された補強層が設けられていることを特徴とするコンクリート構造体。
【請求項2】
コンクリート体の内部にダブル配筋の鉄筋材が埋設されたコンクリート構造体であって、
前記ダブル配筋の鉄筋材の間に、セメント系材料の内部に立体格子が埋設された補強層が設けられていることを特徴とするコンクリート構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−72564(P2012−72564A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216300(P2010−216300)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】