説明

コンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物、およびその製造方法

【課題】メッシュ状物の目止めが容易で、強度性、取扱い性、施工性に優れたコンクリート補強または補修用複合メッシュ状物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂製フィラメントが熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸が二軸以上に積層されたコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物であって、該構成糸の交点が熱硬化型接着剤で目止され、その交点の剥離強度が20N以上であることを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物、及び(a)熱可塑性樹脂製フィラメントを二軸以上に積層してメッシュ状物を形成する工程、(b)前記メッシュ状物に熱硬化型接着剤を付着させる工程、(c)加熱処理を行い、熱硬化型接着剤を硬化する工程、及び(d)加圧処理を行い、構成糸を扁平化させる工程を含む製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などの構造物からのコンクリート片剥落の防止、剥落部の補修などに好適なメッシュ状物、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分が剥落したり、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修または補強用シートにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図られるとして提案されている。(特許文献1参照)
【0003】
また、従来において、補修または補強用の種々の繊維基材が提案されているが、その材質としてはコンクリートとの密着性などの観点から、現在はビニロン繊維製のシート状物が主に用いられている。
ビニロン繊維の剥落防止用繊維シートとしては、ビニロン繊維の強度、伸度、ヤング率、繊維シートの強度等を所定の範囲とすることが提案されている。(特許文献2参照)
【0004】
一方、特公昭62−54904号に開示されている如く、繊維糸条を製織せずに、積層接着してシート状に構成した積層布(一般に「組布」と呼ばれる。「組布」は登録商標。)が各種分野に使用されている。そして、その構成糸条に、ガラス繊維などの補強繊維を使用することが提案されている。(特許文献3参照)
この種の積層布は、強度特性に方向性が少なく、デザイン的にも優れ、生産性が良く、コストダウンできるという特徴を有している。
しかし、積層布の構成は、引き揃えられた経方向糸の上に、斜め方向、逆斜め方向糸を積層し、しかる後交点を接着して、積層布としての一体性を保持しており、接着剤の塗布工程や乾燥を要し、また、最終的な積層布の柔軟性や、取扱い性にも影響を及ぼしている。
また、コンクリート構造物の補強に使用する繊維メッシュ状物を製織により構成しようとすると、前述同様、経糸、緯糸の交点を接着する目止めを要し、同様の問題がある。
【0005】
この種の問題の解決手段として、糸条(強化繊維)と熱可塑性樹脂成分として熱可塑性樹脂繊維を引揃え繊維束層として、繊維束層を加熱加圧して接着することが提案されている。(特許文献4参照)
しかし、強化繊維に熱可塑性樹脂繊維を引揃え配置する方法では、熱可塑性樹脂繊維の合糸、配列工程を要し、熱可塑性樹脂繊維の混入率と強度との関係など、考慮すべき点も多く、また交点の接着強度も必ずしも十分でない。
【0006】
前記のビニロン繊維は、酸、アルカリに侵されにくく、セメントとの接着性に優れているため、コンクリート構造物の補強、補修用メッシュ状物として使用されているが、積層布における、繊維交点の目止剤(接着剤)は、主に水溶性のものが用いられ、たとえばアクリル系接着剤等を含浸、硬化させる方法が一般的に採用され、接着剤量も対繊維で20質量%にも及ぶ。このため、コストのアップと、重量増加、雨などの水との接触や高湿度下では、交点が剥がれるため、取扱いや保管の煩雑性などの問題がある。
このように、コンクリート片の剥落防止や補修用に適した取扱い性や施工性に優れるメッシュ状物は未だ提案されていない。
【0007】
そこで、本発明者らは、コンクリートの補強または補修用シート(以下、補強・補修用シートということがある。)として比較的多く使用されているビニロン繊維の積層布からなるメッシュ状物の取扱い性と施工性の問題点について、鋭意検討した結果、(1)補強・補修用シートが、対象コンクリート構造物の補強・補修箇所に追随しにくいこと、(2)補強・補修用シートは、束状マルチフィラメントを収束した構成糸に接着剤などを付着させて、目ずれが発生しないように固定化したメッシュ状物とされているが、施工の際にメッシュ状物を構成している単繊維や、糸が、ローラー(ハンドローラー)によるシートの貼付作業において、メッシュ状物の厚み方向からみて束状マルチフィラメントを収束した構成糸とメッシュ状物の開口部分との段差が高いとローラーに引っかかりやすくなって剥がれること、この剥がれによって補強効果の低下も危惧されることが判明した。
【0008】
【特許文献1】特開2002−256707号公報
【特許文献2】特開2004−238757号公報
【特許文献3】特開平10−18146号公報
【特許文献4】WO00/21742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、メッシュ状物の目止めが容易で、強度性、取扱い性、施工性に優れたコンクリート補強または補修用複合メッシュ状物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂製フィラメントに熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸が二軸以上積層されたコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物であって、該構成糸の交点が熱硬化型接着剤で目止され、その交点の剥離強度が20N以上のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物とすることで上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)熱可塑性樹脂製フィラメントが熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸が二軸以上に積層されたコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物であって、該構成糸の交点が熱硬化型接着剤で目止され、その交点の剥離強度が20N以上であることを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物、
(2)ビニロンフィラメントを構成糸としてなる前記(1)記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物、
(3)メッシュ状物の幅方向端部から所定の間隔で施された補強または補修工事におけるメッシュ状物の重ね合わせ部位の標識を兼ねる識別標識を有する前記(1)または(2)に記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物、
(4)熱可塑性樹脂製フィラメントが熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸が二軸以上に積層されたコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法であって、(a)熱可塑性樹脂製フィラメントを二軸以上に積層してメッシュ状物を形成する工程、(b)前記メッシュ状物に熱硬化型接着剤を付着させる工程、(c)加熱処理を行い、熱硬化型接着剤を硬化する工程、及び(d)加圧処理を行い、構成糸を扁平化させる工程を含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法、
(5)(d)工程の加圧処理を、線圧30kg/cm以上のローラー間で行う前記(4)記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法、及び
(6)(c)工程において、該接着剤を部分的に硬化して交点を固定化する工程、その後に該接着剤を完全硬化する加熱工程を含む前記(4)または(5)に記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
目止めのため、メッシュ状物に加熱・加圧処理を施しているため、メッシュ状物が全体にフラット状となるので、可撓性(柔軟性)が増して、取扱性、作業性、施工時の被補修または被補強コンクリート構造物へのフィット性が向上して、見栄えのよい覆工が可能となる。
また、構成糸が扁平でかつ熱硬化型接着剤で収束されているので、ハンドローラー等で毛羽立ちや構成糸交点での糸剥がれの問題がなくの塗布作業ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂製フィラメントとしては、フィラメントの構成は、単繊維径が概ね0.5〜50μm、フィラメントが10〜500本程度のものであって、トータル繊度は、概ね100〜5,000dTexが好ましい。100dTex未満であると、メッシュ状物として、目的とする物性が得られ難くなり、5,000dTexを超えると柔軟性や追随性が損なわれる虞がある。
熱可塑性樹脂製フィラメントとしてより具体的には、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維などを単独、又は混合したもので、繊維の破断伸度が5〜20%、破断強度が5cN/dtex以上の補強効果を有するものから選択される。これらの繊維の中で、ビニロン繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維に比して酸、アルカリにおかされにくく耐薬品性に優れている、耐候性に優れている、セメントとの接着性に優れている等のコンクリート構造物の補修、補強に用いるのに適した特性を併せて有している。
また、上記フィラメントに低融点の接着性繊維フィラメントを混合しておくと、メッシュ状物の目止めを熱融着によりできるので、メッシュ形成直後の取扱いや、以後に行う熱硬化型接着剤の含浸、付着等がし易くなる。
【0013】
繊維の破断強度が5cN/dtex未満であると、繊維シートの強度が不足して必要な補強効果を得られない。繊維の強度は、大きい程強度的には有利であるが、15cN/dtexを超えるものとなると伸度の小さいものとなり、繊維シートの伸度も小さくなって、少しの伸びでも破損してしまい、補強効果がなくなってしまう。中でもビニロン繊維の破断強度は、6〜12cN/dtexであるのがより好ましい。
【0014】
なお、ビニロン繊維とは、ポリビニルアルコールを湿式法、乾式法、乾湿式法、ゲル紡糸法等の紡糸法を用い、その後、延伸、中和、湿熱延伸、水洗、乾燥、熱延伸等を常法に従って製造したものである。そして、長繊維としてマルチフィラメントやモノフィラメントのみならず、繊維を集束して繊維束とし、これをカットして短繊維としたものや、短繊維をその後紡績工程により紡績糸としたものでもよい。
【0015】
剥落防止用繊維シートとしては、ある程度の伸びを有していることが重要であり、繊維の伸度が5%未満であると、繊維シートの伸度も小さくなって、少しの伸びでも破損してしまい、補強効果に乏しいものとなる。また、貼り付け時にも種々の凹凸を有する構造に対応できず、施工性に劣るものとなる。伸度が20%を超えるものとなると、充分な強度の繊維シートが得にくくなり、補強効果を損なうこととなる。中でもビニロン繊維の伸度は、5〜15%であるのがより好ましい。
【0016】
繊維のヤング率が10GPa未満であると、低荷重で容易に伸びてしまう繊維シートとなり、補強効果に乏しいものとなる。ヤング率が27GPaを超える繊維となると、伸度が小さくなって、少しの伸びでも破損してしまい、補強効果に乏しいものとなる。中でもビニロン繊維のヤング率は、13〜24GPaであるのが好ましい。
【0017】
また、本発明のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物(以下、単にメッシュ状物という場合がある。)は、織構造を有する織布ではなく、メッシュ状物を構成する構成糸(以下、糸条ということがある。)が、少なくとも経方向と緯方向に積層された二軸、さらに斜方向にも積層された三軸の不織布(積層布)、あるいはそれ以上の多軸の積層布によるメッシュ状物であって、コンクリート構造物の補強強度等の関係から概ね5〜25mmの目合を有している。
また、本発明のメッシュ状物の開口率は30%以上あることが望ましい。開口率が30%未満では、接着剤や、上塗り樹脂、下塗り樹脂等がメッシュ状物に侵入しにくく補強効果が期待できない。
この種の積層布を使用すると、構成糸が織りのために屈曲されることなく直線状に配置されるので、繊維強度の保持率が高く、薄手で低目付けの経済的なメッシュ状物を得ることができる。また、構成糸が斜交する三軸以上の積層布とすると強度の方向性が少ないメッシュ状物を得ることができる。これらの積層布の製造方法は、特開昭58−104255号、特公昭62−54904号公報等に記載されている。
軸方向の異なる構成糸を積層し、重なり合う構成糸の交点は、接着等の手段により目止めされてメッシュ状物が形成される。
【0018】
本発明のメッシュ状物において、構成糸は、熱硬化型接着剤で収束され、断面が扁平であることに特徴がある。構成糸の断面を扁平にすることで、メッシュ状物の柔軟性の指標となる剛軟度が低下する。その結果、特に屈曲部や凹凸部を有する施工物において、凹凸部への追従性が向上するため、施工性が向上するともに、補強効率を高めることができる。
フィラメントである構成糸への熱硬化型接着剤の付与は、構成糸が積層されメッシュ状に形成された後、ローラー転写、スプレー、浸漬等によりメッシュ状物の構成糸に熱硬化型接着剤を付着または、含浸し要すれば絞液することにより行われる。
構成糸へ熱硬化型接着剤を付与した後、加熱して熱硬化型接着剤を硬化し、又は硬化しつつ加熱・加圧して、メッシュ状物全体及び構成糸を扁平化する。構成糸の扁平度合いは、構成糸の幅/構成糸の厚みで5〜20の範囲が、可撓性、取扱い性、補強効率の観点から好ましい。
【0019】
本発明のメッシュ状物に使用できる熱硬化型接着剤は、メッシュ状の形態を安定して保持できるものであり、構成糸のフィラメントとの接着性に優れたものが好ましく、更にコンクリートなどの被補強材との密着性に優れているものがより好ましい。
具体的には、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、これらに硬化触媒を添加したものであることが好ましい。
また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を組合せた接着剤であってもよい。
構成糸に対する熱硬化型接着剤の付着率は、5〜50質量%程度が好ましい。5質量%未満では、加熱・加圧による扁平化が難しく、また、交点の接着が不十分であり、50質量%を超えると、柔軟性が損なわれ、施工性が悪化するとともに、接着剤の使用量が増し、経済的でない。
補強用メッシュ状物を被補強材であるコンクリートに貼付るために使用する接着剤との接着性が高いものを、構成糸に含浸硬化させて、構成糸自体を扁平なFRP(繊維強化樹脂)状にしておくと、施工において、接着剤を構成糸に含浸する作業が不要で、仕上げ後において脱泡不良による膨れなどもなく、施工時間の短縮と美麗な仕上げを行うことができる。
【0020】
本発明のメッシュ状物の構成糸の交点の目止めは、剥離強度が20N以上に接合(接着)されていることを要する。交点の剥離強度が20N以上であれば、補強工事での施工時に層剥離などの不都合がなく取り扱うことができる。
【0021】
本発明のメッシュ状物は、幅方向端部から所定の間隔で施された補強または補修工事におけるメッシュ状物の重ね合わせ部位の標識を兼ねる識別標識を設けることができる。
概識別標識は、積層布の表面層の所定の部位の構成糸に、原液着色又は染色した糸を使用することによって設ければよい。所定の部位としては、補強または補修工事におけるメッシュ状物の重ね合わせ部位であり、積層布の幅Xに対してその幅方向(積層布の製造における流れ方向と直交する方向)の両端から0.1Xの位置などが一般的である。
メッシュ状物の強度や、メッシュ状物の使用枚数(補強積層数)に応じて、識別標識の設置位置は任意に設計できる。
また、識別標識は、メッシュ状物の一方の面に接着性向上のための表面処理等を施す場合、その対象面及び処理後の当該面等としての機能をもたせることもできる。
例えば、メッシュ状物によりコンクリート構造物を補強する場合、コンクリート構造物側に当接されるメッシュ状物の表面は接着向上処理を施さず、反対の面のみに処理を施し、それを、接着剤により貼付して施工すれば、コンクリート側からの破壊エネルギーに対する吸収力が向上し、高い補強効果が発現される場合があり、このような、施工をする場合は、処理面を特定するための標識として有効である。
【0022】
本発明のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法は、前述の熱熱可塑性樹脂製フィラメント、熱硬化型接着剤等を用い、(a)熱可塑性樹脂製フィラメントを二軸以上に積層してメッシュ状物を形成する工程、(b)前記メッシュ状物に熱硬化型接着剤を付着させる工程、(c)加熱処理を行い、熱硬化型接着剤を硬化する工程、及び(d)加圧処理を行い、構成糸を扁平化させる工程を含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法である。
(a)熱可塑性樹脂製フィラメントを二軸以上に積層してメッシュ状物を形成する工程は、この種の積層布の製造方法として、特開昭58−104255号、特開昭59−83619号に記載されているように、マルチフィラメントを経糸として多数配列した片面に、接着剤を含む緯糸を重ねその交点において、経糸と緯糸を接着することによって、二軸の積層布(基布)を得ることができる。
また、三軸以上の積層布によるメッシュ状物は、組布とも呼ばれるもので、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層した3軸のものを一般的に使用できる。三軸積層布の製造は、例えば、特公昭62−54904号公報、特開平11−20059号公報に記載の方法により製造できる。
積層布の積層数は、上述の経一層、斜方向、逆斜方向の三軸三層のほか、さらに経一層を追加した、三軸四層や、経緯のみの二軸二層、前記三軸に緯方向を加えた四軸四層または四軸五層であってもよい。
【0023】
(b)メッシュ状物に熱硬化型接着剤を付着させる工程は、特開昭58−104255号、特開昭59−83619号に記載されているように、緯糸を両端の緯糸支持部材の回りに回転する腕から供給して緯糸層を形成し、該緯糸に接着剤付与ロールで接着剤を付着させる。一方、該緯糸層の上下の一方または双方に配列される経糸層にも接着剤付与ロール等で接着剤を付着させ、接着剤が付着された二軸の積層布(基布)を準備する。
三軸以上の積層布の場合は、三軸のメッシュ状物を形成した後、接着剤付与ロール、スプレー等の常法で付着すればよい。
【0024】
(c)加熱処理を行い、熱硬化型接着剤を硬化する工程は、二軸メッシュ状物では経糸及び/または緯糸、三軸メッシュ物では、さらに斜向糸に付着させた熱硬化型接着剤を加熱して硬化させ、構成糸の交点において接着性を発現させるための工程である。
加熱手段は、熱源がセットされた乾熱槽中を通過させるか、加熱ローラーに接触させて加熱するのが一般的であり、加熱温度、時間は熱硬化型接着剤の硬化特性に合わせて設定される。乾熱槽中での熱硬化の場合は、構成糸の交点における接着のため、加熱硬化の段階で交点に圧力を加えて接触させることが望ましく、このメッシュ状物への圧力の付加は、出口側の引取り用ニップローラー等によっても達成できる。
【0025】
(d)加圧処理を行い、構成糸を扁平化させる工程は、メッシュ状物を加圧して、各構成糸及びその交点を扁平化し、メッシュ状物の厚みを薄くして、可撓性を向上させるための工程である。加圧処理は、メッシュ状物のガラス転移温度以上の温度、熱硬化型接着剤が構成糸に付与されている場合は、50〜150℃の範囲で行うことが好ましい。前記の(c)工程に連続して、加圧処理を行う場合は、メッシュ状物が加熱硬化処理によって昇温されているので、メッシュ状物を再度加熱する必要がないか、少ない熱量で昇温できるので、エネルギー効率がよい。
メッシュ状物の加圧手段は、メッシュ状物が連続的に製造される場合は、対になっている加圧ローラーを用い、線圧30kg/cm以上で行うことが好ましい。
この加圧処理に先立って、又は同時に、前記、熱硬化型接着剤の硬化開始温度以上で加熱処理を行えば、熱硬化型接着剤の硬化をさらに促進する後硬化(アフターキュアー)処理となって、より高い接着力のメッシュ状物を得ることができる。この工程において、加熱温度条件が不適切の場合は、加圧処理によって、メッシュ状物の扁平化は達成できるが、接着力が低下する場合があるので、加熱温度条件が重要である。
【0026】
以上、本発明のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物は、構成糸の交点が熱硬化型接着剤で目止めされ、かつ構成糸自体が接着剤で収束され、メッシュ状物全体が扁平化されているので、メッシュ状物を剛性および可撓性を有する定型の面状物として、一体的に取扱うことができる。
【0027】
本発明のメッシュ状物をコンクリート構造物の補修または補強に用いるには、一般的にコンクリート構造物の表面にプライマーを塗布し、下塗り樹脂塗膜を形成した後、メッシュ状物を巻き付け、さらに上塗り樹脂層を形成して、補強層となすものである。
この際、メッシュ状物は、構成する糸条の種類、繊維物性等に応じて、巻き付け使用する方向、表裏等を予め決定して使用される。また、メッシュ状物は、補強または補修の設計仕様を満足させるため、表裏いずれかの面あるいは、両面に表面処理を要するか予め検討される。表面処理の要否および表面改質面あるいは非改質面のいずれを被補修または被補強コンクリート構造物側とするかについては、予め、日本道路公団規格、JHS424:2004、「はく落防止の押抜き試験方法」に準拠して、上塗り樹脂の脱落防止効果、補強強度の試験を行い、その結果に基づいて決定することが望ましい。
一般的に、コンクリート構造物の表面に形成される補強層において、メッシュ状物の濡れ性改質側、あるいは上塗り樹脂との接着性が高い繊維(糸条)側を上塗り樹脂側とすることが望ましい。逆にすると、補強層とコンクリート構造体との接着が強すぎて、荷重に対する許容変位が小さくなって、上塗り樹脂の脱落を有効に予防できない惧れがある。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
<熱可塑性樹脂製マルチフィラメント>
ビニロン繊維(W1、W2、S1、S2)
2,000dTex、フィラメント数240本、引張強度7.9cN/dTex、伸度7.0%、ヤング率160cN/dTex、140℃で測定した熱収縮率2.0%のビニロン繊維を使用した。また、識別標識Dとして用いたビニロン繊維は、前記と同一のビニロン繊維を緑色に染色したものを使用した。
【0029】
<メッシュ状物の製造>
熱可塑性樹脂製マルチフィラメントとしてビニロン繊維を経糸、斜交糸および逆斜交糸として幅1,060mmの積層布製造装置に配置し、経方向、斜方向および逆方向の3方向に、経糸、斜交糸および逆斜交糸を10mmピッチで積層した後、転写ローラーでエポキシ樹脂系の熱硬化型接着剤ビニロン繊維に対して20質量%の割合で付着させ、これを130℃で加熱処理して、熱硬化型接着剤を硬化させつつ、積層布の引き取りを兼ねる一対の加熱ローラーで加圧して、構成糸の交点を接着し目止めしたメッシュ状物を得、これを連続して巻き取り、未処理のビニロン繊維メッシュ状物とした。
【0030】
実施例1〜3、比較例1〜10
ビニロン製メッシュ状物の柔軟化を図るため、上記の未処理のビニロン繊維メッシュ状物について、線圧の変更が可能な直径350mmの一対の加熱ローラーからなるプレス加工装置により、線圧を50kgf/cmに固定し、プレス温度を40〜150℃に変更してプレス加工して、実施例及び比較例のビニロンメッシュ状物を得、剥離強度、柔軟性を以下の方法で評価した。各実施例及び比較例のプレス条件、メッシュ状物厚み、扁平化率、剥離強度、柔軟性をまとめて表1−1、1−2に示す。
得られたメッシュ状物1は、図1にその構成を模式的に示すように経糸W1層の上部に斜交糸S1の層、逆斜交糸S2の層、その上部に第二の経糸W2の層が積層され、経糸W2の層において、メッシュ状物の端部から100mmの位置に識別標識Dとして、緑色に染色されたビニロン繊維を用いた。メッシュ状物の各構成糸10は、加圧処理により、図2に示すように、熱可塑性樹脂製フィラメント2としてのビニロンフィラメントが、熱硬化型接着剤3で収束され扁平な断面形状を呈していた。
参考までに、実施例3及び比較例1、6のメッシュ状物上面の部分写真を図3に示す。
なお、扁平化率は、未処理のビニロンメッシュ状物の厚みt0に対する、各実施例、比較例の厚みtから、(t0−t)/t0 の%として算出した。
【0031】
<メッシュ状物の評価>
実施例によるメッシュ状物および比較例のメッシュ状物について、25℃、RH60%での交点強力について、JIS規格 R3420 ガラス繊維一般試験方法 7.4(a)織物の引張強さの試験方法に準じ、引張強さの測定により評価した。幅50mmの試験片で測定した幅25mm換算の経糸方向(経方向)の引張強さと、幅50mmの試験片について経糸方向と斜交する方向の引張強さを測定した。各サンプルにつき5回測定を行い、それぞれの平均値を求めた。
【0032】
メッシュ状物の柔軟性は、JIS L 1096の「8.19.1」A法(45°カンチレバー法)の規定に準じて測定した。経の構成糸の配列軸方向に沿ってメッシュ状物の測定サンプルをカンチレバー型試験機にセットし、サンプルを斜め方向にずらし、片方の端が試験機の斜面と接触した時点で、スライドさせた距離(mm)を測定した。各サンプルにつき5回測定を行い、それぞれの平均値を求めた。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
実施例1〜3のメッシュ状物は、メッシュ厚みが0.21mm〜0.17mm、扁平化率45〜55%、剥離強度20〜27Nで、134〜98mmの柔軟性であった。
一方、比較例においては、プレス温度40〜120℃の範囲では、未処理の比較例1より接着度合いが低下し、比較例7〜10では接着不足で柔軟性の測定も困難な状態であった。これは、適正温度でない条件でプレスされたことによって、一旦接着した構成糸の交点の接着構造が、破壊されるためと考えられる。
一方、実施例における130〜150℃でのプレスでは、接着構造の破壊を伴わず、むしろ、接着剤の硬化が一層促進され、プレスによる構成糸の接触面積の増加と相俟って、剥離強度が向上しているものと考えられる。
【0036】
以上より、本発明のメッシュ状物は、取扱上十分な交点の接着力を有し、薄くて柔軟性に富むので、コンクリート構造物の補強または補修用補強材として極めて優れている。
また、従来、構成糸同士の段差で、ハンドローラーによる接着剤の塗布作業時に交点から糸が剥がれたり、毛羽立つ等の問題があったが、構成糸が扁平でかつ熱硬化型接着剤で収束されているので、毛羽立ちがなく塗布作業のしやすいコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物として有効に利用できる。
さらに、熱硬化型接着剤は、耐水、耐湿性があるので、目止め部分の剥離などの懸念がなく、保管や施工環境における管理負担を軽減できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物は、熱可塑性樹脂製マルチフィラメントに熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸を二軸以上に積層したメッシュ状物とし、目止めとしての構成糸交点の剥離強度を20N以上とし、かつ、扁平で柔軟性のメッシュ状物としているので、コンクリート構造物の補修または補強工事での取り扱いに支障がなく、かつ対象とする補強部分等の形状へのフィット性が向上し、見栄えのよい覆工材料として利用できる。
また、従来、構成糸同士の段差で、ハンドローラーによる接着剤の塗布作業時に交点から糸が剥がれたり、毛羽立つ等の問題があったが、構成糸が扁平でかつ熱硬化型接着剤で収束されているので、毛羽立ちがなく塗布作業のしやすいコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物として有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のメッシュ状物の積層構造を示す説明図である。
【図2】本発明のメッシュ状物を構成する断面扁平な構成糸の説明図である。
【図3】本発明の実施例、比較例におけるメッシュ状物(部分)の上面写真である。
【符号の説明】
【0039】
1 メッシュ状物(経二層、斜二層の四層三軸積層布)
W1、W2 経糸
S1 斜交糸
S2 逆斜交糸
D 識別標識
2 熱可塑性樹脂製フィラメント
3 熱硬化型接着剤
10 構成糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製フィラメントが熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸が二軸以上に積層されたコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物であって、該構成糸の交点が熱硬化型接着剤で目止され、その交点の剥離強度が20N以上であることを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物。
【請求項2】
ビニロンフィラメントを構成糸としてなる請求項1に記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物。
【請求項3】
メッシュ状物の幅方向端部から所定の間隔で施された補強または補修工事におけるメッシュ状物の重ね合わせ部位の標識を兼ねる識別標識を有する請求項1または2に記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂製フィラメントが熱硬化型接着剤で収束された断面扁平な構成糸が二軸以上に積層されたコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法であって、
(a)熱可塑性樹脂製フィラメントを二軸以上に積層してメッシュ状物を形成する工程、
(b)前記メッシュ状物に熱硬化型接着剤を付着させる工程、
(c)加熱処理を行い、熱硬化型接着剤を硬化する工程、及び
(d)加圧処理を行い、構成糸を扁平化させる工程
を含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法。
【請求項5】
(d)工程の加圧処理を、線圧30kg/cm以上のローラー間で行う請求項4記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法。
【請求項6】
(c)工程において、該接着剤を部分的に硬化して交点を固定化する工程、その後に該接着剤を完全硬化する加熱工程を含む請求項4または5に記載のコンクリート構造物の補修または補強用メッシュ状物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63782(P2008−63782A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241329(P2006−241329)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】