説明

コンクリート矢板の接合構造

【課題】隣り合うコンクリート矢板を接合するときに、高い止水性及び耐久性を備えた接合部を簡単に構築することができるコンクリート矢板の接合構造を提供することを課題とする。
【解決手段】コンクリート矢板の接合構造であって、隣り合うコンクリート矢板1A,1bの側端面14a,14aが連結されることで壁体を構成し、一方のコンクリート矢板1Aの側端面14aには、先端部から基端部に亘って水膨潤性のシール部材20が取り付けられるとともに、シール部材20の先端部には、スペーサ30が取り付けられており、スペーサ30が他方のコンクリート矢板1Bの側端面14aに当接することで、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの側端面14a,14aの間に隙間が形成され、シール部材20は膨張したときに他方のコンクリート矢板1Bの側端面14aに密着するように構成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート矢板の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地下道路などの構造体の構築において、プレキャストコンクリートである複数のコンクリート矢板を一方向に並べて地盤内に壁体を構築し、この壁体を土留め壁として地盤を掘削した後に、その壁体を本設の構造体として利用する構成がある。
【0003】
そして、コンクリート矢板の接合構造としては、図7に示すように、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部に上下方向に貫通した中空部130を形成し、この中空部130に水膨潤性の部材であるシール部材120を挿入しているものがある。
この構成では、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部に浸透した水分をシール部材120が吸収して、シール部材120が中空部130内で膨張することによって、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部を密閉して止水性を確保している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−249849号公報(段落0017〜0018、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来の接合構造では、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部に形成された中空部130にシール部材120を挿入する前に、中空部130内に高圧水を噴射して、泥や泥水固化材を除去する必要があるため、接合作業が煩雑になってしまうという問題がある。
【0006】
また、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部に形成された中空部130に、流動性を有する充填材を注入し、この充填材を中空部130内で硬化させて、接合部の止水性を確保する構成もあるが、この場合も中空部130内を洗浄する必要があるとともに、充填材の耐久性が低いため、本設の構造体として利用する場合には不向きである。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、隣り合うコンクリート矢板を接合するときに、高い止水性及び耐久性を備えた接合部を簡単に構築することができるコンクリート矢板の接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、コンクリート矢板の接合構造であって、隣り合う前記コンクリート矢板の側端面が連結されることで壁体を構成し、一方の前記コンクリート矢板の側端面には、先端部から基端部に亘って水膨潤性のシール部材が取り付けられるとともに、前記シール部材の先端部には、スペーサが取り付けられており、前記スペーサが他方の前記コンクリート矢板の側端面に当接することで、隣り合う前記コンクリート矢板の側端面の間に隙間が形成され、前記シール部材は膨張したときに他方の前記コンクリート矢板の側端面に密着するように構成されていることを特徴としている。
【0009】
この構成では、隣り合うコンクリート矢板の側端面の間に介在させた水膨潤性のシール部材を膨張させることで、隣り合うコンクリート矢板の接合部を確実に密閉して止水性を確保しており、隣り合うコンクリート矢板の接合部に形成した中空部にシール部材を挿入する従来の接合構造のように、中空部内を洗浄する必要がないため、隣り合うコンクリート矢板を簡単に接合することができる。
【0010】
また、水膨潤性のシール部材は、膨張したときに他方のコンクリート矢板の側端面に密着するように構成されている。すなわち、二体のコンクリート矢板を並べて設置したときに、膨張していない状態のシール部材は、他方のコンクリート矢板の側端面に接触しないことになる。したがって、一方のコンクリート矢板の側端面を他方のコンクリート矢板の側端面に連結するときに、シール部材と他方のコンクリート矢板の側端面との接触を防ぐことができ、シール部材の剥離や損傷を防ぐことができる。
【0011】
また、水膨潤性のシール部材を用いることで、充填材を硬化させる従来の接合構造と比較して、止水部材の耐久性を高めることができる。
【0012】
前記したコンクリート矢板の接合構造において、前記スペーサの先端部は、一方の前記コンクリート矢板の先端面から先方側に突出しており、一方の前記コンクリート矢板の側端面から他方の前記コンクリート矢板の側端面に向かうに連れて突出量が大きくなっているように構成することができる。
【0013】
この構成では、地盤内に打設された他方のコンクリート矢板に並べて一方のコンクリート矢板を先端側から地盤内に打ち込んだときに、スペーサの先端部に他方のコンクリート矢板側に向かう力が作用する。すなわち、スペーサが地盤に対して楔の役割りを果たすことになり、一方のコンクリート矢板は他方のコンクリート矢板に寄りながら地盤内を進行することになるため、隣り合うコンクリート矢板の間が広がるのを防ぐことができる。したがって、隣り合うコンクリート矢板の側端面の間でシール部材を膨張させたときに、シール部材を他方のコンクリート矢板の側端面に対して確実に密着させることができるため、隣り合うコンクリート矢板の接合部の止水性を高めることができる。
【0014】
前記したコンクリート矢板の接合構造において、前記スペーサには、他方の前記コンクリート矢板の側端面に接触するブラシ又はスクレーバが取り付けられているように構成することができる。
【0015】
この構成では、地盤内に打設された他方のコンクリート矢板に並べて一方のコンクリート矢板を先端側から地盤内に打ち込んだときに、他方のコンクリート矢板の側端面に付着した泥や泥水固化材などの付着物を除去することができる。このように、他方のコンクリート矢板の側端面を清掃することで、膨張させたシール部材を他方のコンクリート矢板の側端面に確実に密着させることができるため、隣り合うコンクリート矢板の接合部の止水性を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンクリート矢板の接合構造によれば、隣り合うコンクリート矢板の側端面の間に介在させた水膨潤性のシール部材を膨張させることで、隣り合うコンクリート矢板の接合部を確実に密閉して止水性を確保しているため、隣り合うコンクリート矢板を簡単に接合することができる。
また、一方のコンクリート矢板の側端面を他方のコンクリート矢板の側端面に連結するときには、スペーサによってシール部材の剥離や損傷を防ぐことができる。
また、水膨潤性のシール部材を用いることで止水部材の耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態のコンクリート矢板の接合構造は、複数のコンクリート矢板を並べて設置するときに、隣り合うコンクリート矢板を接合するための構造であり、各コンクリート矢板は同一の構成となっている。
なお、コンクリート矢板の説明において、幅方向とは、図1(b)の左右方向に対応している。また、特許請求の範囲における先端側は下端側に対応し、基端側は上端側に対応している。
【0018】
図1(a)に示すコンクリート矢板1Aは、地下道路などの構造体を構築するときに土留め壁として用いられた後に、地下道路の壁体として用いられる部材であり、予め工場などで製作されたプレキャストコンクリートによって矢板本体10が形成されている。
【0019】
矢板本体10は板状の部材であり、上下方向に延びている凹溝11が幅方向の中央部に形成されるように折り曲げられた形状となっている。
凹溝11は、図1(b)に示すように、軸断面が台形状に形成されており、地盤側に向けて配置される外面12(図1(b)の上側の面)から、地下道路の内方に向けて配置される内面13(図1(b)の下側)に向けて平面視で順次に拡幅されている。
また、矢板本体10の幅方向における両端部には、他のコンクリート矢板1B(図4参照)に接合される継手部14,14が幅方向に突出している。
このように、矢板本体10は、凹溝11によって平面視で略U形状となっている部位と、U形となる部位の両端部から幅方向に突出している継手部14,14とが形成されている所謂U形の矢板である。
【0020】
右側の継手部14の側端面14aには、図2(a)に示すように、下端部から上端部に亘ってシール部材20が取り付けられている。
シール部材20は、側端面14aにおいて内面13側の縁部(図1(b)参照)に沿って取り付けられている。このシール部材20は、水分を吸収することで膨張する水膨潤性の部材であり、クロロプレンゴム系やエチレンプロピレンゴム系など公知の材料を用いることができる。本実施形態では、コンクリート矢板1が本設の壁体として利用されることを考慮して、耐久性に優れたエチレンプロピレンゴムを用いている。
【0021】
図2(a)に示すように、シール部材20の下端部には、スペーサ30が取り付けられている。このスペーサ30は、上面31がシール部材20の下端面に接合され、左側面32が矢板本体10の側端面14aに接合されたブロック体である。本実施形態では、スペーサ30を金属部材によって形成しているが、シール部材20よりも硬質の材料であれば、その材料は限定されるものではない。
【0022】
図2(b)に示すように、スペーサ30の幅方向及び奥行き方向の厚さは、膨張していない状態のシール部材20の幅方向及び奥行き方向の厚さよりも大きく設定されている。すなわち、シール部材20がスペーサ30の外形よりも突出しないように設定されている。また、スペーサ30の右側面33、すなわち、他のコンクリート矢板1B(図4参照)の側端面14aに向けられる面には、ブラシ33aが取り付けられている。
【0023】
スペーサ30の下端部は、図2(a)に示すように、矢板本体10の下端面から下方側に突出しており、右方に向かうに連れて突出量が大きくなっている。すなわち、図5に示すように、コンクリート矢板1Aと他のコンクリート矢板1Bとを側方に並べて配置したときには、スペーサ30の下端部は、他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに向かうに連れて突出量が大きくなっている。そして、スペーサ30の下面34は、矢板本体10の側端面14aから右斜め下方に向けて傾斜した傾斜面となっている。
【0024】
次に、前記した構成のコンクリート矢板1A,1Bの接合構造を構築する手順について説明する。
まず、図3に示すように、地盤内に打設された他のコンクリート矢板1Bの左方に並べてコンクリート矢板1Aを地盤内に打ち込む。
このとき、コンクリート矢板1Aの下端部を先端として地盤内に打ち込み、その側端面14aが他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに沿うように地盤内に進行させる。これにより、シール部材20の下端部に取り付けられたスペーサ30のブラシ33aが他のコンクリート矢板1Bの側端面14a上を摺動することになり、他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに付着した泥や泥水固化材などの付着物が除去される。
【0025】
また、スペーサ30が他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに当接することで、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの側端面14a,14aの間に一定の幅の隙間が形成される。
なお、スペーサ30の幅方向の厚さは、膨張していない状態のシール部材20の幅方向の厚さよりも大きく設定されているため、シール部材20は他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに接触しない。
【0026】
また、スペーサ30の下端部は、コンクリート矢板1Aの側端面14aから他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに向かうに連れて突出量が大きくなっているため、スペーサ30の下面34に作用する垂直抗力の分力によって、スペーサ30には他方のコンクリート矢板1B側に向かう力が作用する。すなわち、スペーサ30が地盤に対して楔の役割りを果たすことになり、コンクリート矢板1Aは他方のコンクリート矢板1Bに寄りながら地盤内を進行する。
【0027】
図4及び図5に示すように、コンクリート矢板1Aと他のコンクリート矢板1Bとを並べて設置した後に、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの側端面14a,14aの間に浸透した水分を水膨潤性のシール部材20が吸収することで膨張し、膨張したシール部材20が他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに密着することで、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部が密閉される。
【0028】
以上のようなコンクリート矢板1A,1Bの接合構造では、図4に示すように、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの側端面14a,14aの間に介在させた水膨潤性のシール部材20を膨張させることで、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部を確実に密閉して止水性を確保しているため、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bを簡単に接合することができる。また、水膨潤性のシール部材20を用いることで、止水部材の耐久性を高めることができる
【0029】
また、図3に示すように、コンクリート矢板1Aの側端面14aを他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに連結するときに、スペーサ30によってシール部材20と他のコンクリート矢板1Bの側端面14aとの接触を防ぐことができるため、シール部材20の剥離や損傷を防ぐことができる。
【0030】
また、他のコンクリート矢板1Bに並べてコンクリート矢板1Aを地盤内に打ち込んだときに、スペーサ30が地盤に対して楔の役割りを果たすことになり、コンクリート矢板1Aは他のコンクリート矢板1Bに寄りながら地盤内を進行するため、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの間が広がるのを防ぐことができる。したがって、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの側端面14a,14aの間でシール部材20を膨張させたときに、シール部材20を他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに対して確実に密着させることができるため、隣り合うコンクリート矢板1A,1Bの接合部の止水性を高めることができる。
【0031】
また、他のコンクリート矢板1Bに並べてコンクリート矢板1Aを地盤内に打ち込んだときに、スペーサ30のブラシ33aが他のコンクリート矢板1Bの側端面14a上を摺動することで、他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに付着した泥や泥水固化材などの付着物を除去することができる。このようにして、他のコンクリート矢板1Bの側端面14aを清掃することで、膨張させたシール部材20を他のコンクリート矢板1Bの側端面14aに確実に密着させることができるため、隣り合うコンクリート矢板1A、1Bの接合部の止水性を高めることができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、本実施形態では、図3に示すように、スペーサ30にブラシ33aを取り付けることで、他のコンクリート矢板1Bの側端面14aを洗浄するように構成されているが、図6に示すように、スペーサ30の右側面33に樹脂材などで形成されたスクレーバ33bを取り付け、このスクレーバ33bを他のコンクリート矢板1Bの側端面14a上で摺動させることによって、側端面14aに付着した泥や泥水固化材などを除去することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態のコンクリート矢板を示した図で、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図2】本実施形態のコンクリート矢板を示した図で、(a)は正面図、(b)A−A断面図である。
【図3】本実施形態のコンクリート矢板の接合構造を示した図で、他のコンクリート矢板にコンクリート矢板を並べて設置する態様を示した正面図である。
【図4】本実施形態のコンクリート矢板の接合構造を示した平面図である。
【図5】本実施形態のコンクリート矢板の接合構造の一部を拡大して示した正面図である。
【図6】他の実施形態のコンクリート矢板の接合構造を示した図で、スペーサにスクレーバを取り付けた構成の正面図である。
【図7】従来のコンクリート矢板の接合構造を示した平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 コンクリート矢板
1A コンクリート矢板
1B コンクリート矢板
10 矢板本体
14 継手部
14a 側端面
20 シール部材
30 スペーサ
33a ブラシ
33b スクレーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート矢板の接合構造であって、
隣り合う前記コンクリート矢板の側端面が連結されることで壁体を構成し、
一方の前記コンクリート矢板の側端面には、先端部から基端部に亘って水膨潤性のシール部材が取り付けられるとともに、前記シール部材の先端部には、スペーサが取り付けられており、
前記スペーサが他方の前記コンクリート矢板の側端面に当接することで、隣り合う前記コンクリート矢板の側端面の間に隙間が形成され、
前記シール部材は膨張したときに他方の前記コンクリート矢板の側端面に密着するように構成されていることを特徴とするコンクリート矢板の接合構造。
【請求項2】
前記スペーサの先端部は、一方の前記コンクリート矢板の先端面から先方側に突出しており、一方の前記コンクリート矢板の側端面から他方の前記コンクリート矢板の側端面に向かうに連れて突出量が大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート矢板の接合構造。
【請求項3】
前記スペーサには、他方の前記コンクリート矢板の側端面に接触するブラシ又はスクレーバが取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート矢板の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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