説明

コンクリート等自硬性物質の成形用型枠および成形方法

【課題】高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を成形させるのに、自硬性物質を確実に成形空間に移動させて、成形精度を高めることができるコンクリート等自硬性物質の成形用型枠および成形方法を提供する。
【解決手段】充填する高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質6を収容できるように側壁板5で囲む深さ空間7を有する固定型枠1に対して、固定型枠1に下端部を軸着し、自硬性物質6を挟み込むようにしてこの固定型枠1の深さ空間7に入り込み、かつ、固定型枠1側に移動して最終には必要とする成形空間9を得る可動型枠2とからなるコンクリート等自硬性物質の成形用型枠を使用し、可動型枠2を固定型枠1側に移動することにより、充填したコンクリート等自硬性物質6を展伸させて成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントやコンクリートなど自硬性物質の成形用型枠および成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートまたはコンクリート製品の成形用型枠として、固定型枠と可動型枠の組合せからなるものは、下記特許文献等にも示すように種々ある。
【0003】
【特許文献1】実開昭53−46355号公報
【特許文献2】実開平5−26309号公報
【特許文献3】特開2001−287214号公報
【特許文献4】特開平9−290414号公報
【0004】
これらは内枠を固定型枠とし、側枠を可動型枠として、側枠の下側を軸着して開閉できるようにしたものである。
【0005】
また、コンクリートの成型時に、コンクリートが巻き込む空気量を抑制できる成形方法として、管などの無機質コンクリート成形体を成形するための型枠を垂直配置して、遠心成型する方法がある(例えば、下記特許文献5、6参照)。
【0006】
また、前記成形方法として、型枠の下部位置からコンクリートを強制注入して上方へ強制移動させることでコンクリート成形体を得る方法がある(例えば、特許文献7、8、9参照)。
【0007】
さらに、前記成形方法として、立設した型枠の上部から注入導管を下方部位まで垂下し、コンクリートを充填しながら、注入導管を上昇させる方法が提案されている(例えば特許文献10参照)。
【0008】
【特許文献5】特開平6ー193776号公報(第3頁、図1)
【特許文献6】特開平8−39534号公報(第3頁、図2)
【特許文献7】特開平5−520411号公報(第2頁、図2)
【特許文献8】特開平5−293815号公報(第3頁、図1)
【特許文献9】特開平5−293817号公報(第3頁、図1)
【特許文献10】特開2005−200849号公報(第5頁、図4―6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1〜4に示す固定型枠と可動型枠の組合せからなる型枠はすべて、脱型の容易性を考慮して可動型枠とするものであり、コンクリート打設時の型枠内空間は固定されるものである。
【0010】
特許文献5〜10の技術にあっては、空気の混入の抑制効果はある程度期待できるが、注入コンクリートに急激に直接外力が作用することから、空気混入の防止には、限界があり、成形物の表面に空気残存の気泡痕跡の所謂「まめ」が生じ、品質に課題がある。
【0011】
さらに、型枠の下部一側から型枠内にコンクリートを強制挿入する従来技術にあっては、型枠一側から型枠内に供給されたコンクリートは、型枠内で2分され、2方向のコンクリートが型枠一側から型枠内周面に沿って移動した後、型枠他側内にて合流するので、その合流部分でコンクリート同士が接触することによって空洞や界面が形成され、界面直下ではコンクリートの連続性が失われ、硬化後の強度的な弱点となる問題がある。
【0012】
型枠内にコンクリートを挿入するためのポンプなどのコンクリート圧送装置も必要となる。
【0013】
一方、特開2000−7395号公報などに示すPVA繊維(Polyvinyl Alcohol 系繊維,通称ビニロン繊維と呼ばれている)を配合した高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料は、自己充填タイプ(流し込み)のものであり、モルタルと同様に型枠に流し込みで充填することができるが、高粘性・高流動性を有するため、薄い成形品を作るための扁平な狭い空間には充分回りきらないことが多い。
【0014】
さらに、高靱性セメント系繊維補強セメント複合材料を急激に型枠内に注入したり、遠心力を加えた場合には、繊維の偏積が発生し、品質低下となる。
【0015】
前記型枠の下部位置からコンクリートを強制注入して上方へ強制移動させることで成形物を得る方法にあっては、移動中において、コンクリート材料の繊維類は、重力の作用により、コンクリート内における位置制御が行われ、成形物内に安定して分散する可能性が期待できるが、コンクリートの注入に伴い、注入圧力を高く保持する必要があることから、型枠の剛性を高くしなければならないとともに、連続してコンクリートを注入する必要があるため、管理が難しいなどの問題がある。また、高圧での連続注入を可能とする高価なポンプを必要とする問題がある。
【0016】
一方、連続注入ができない場合は、成形物の品質低下の一要因になり、また、型枠の剛性を高めることは、高価な型枠を必要とし経済的に劣るので、型枠の剛性を高めないまま高圧注入をすると、型枠の変形による成形物の品質低下が生じる問題がある。
【0017】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を成形させるのに、空気混入防止効果が高く、自硬性物質を確実に成形空間に移動させて、材料を均一に分散でき、また、成形精度を高めることができるコンクリート等自硬性物質の成形用型枠および成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため本発明のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠は、第1に、充填する高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を収容できるように側壁板で囲む深さ空間を有する固定型枠に対して、固定型枠に下端部を軸着し、自硬性物質を挟み込むようにしてこの固定型枠の深さ空間に入り込み、かつ、固定型枠側に移動して最終には必要とする成形空間を得る可動型枠とからなること、第2に、可動型枠は固定型枠の両面側に設けること、第3に、対面する可動型枠と固定型枠の少なくとも一方は曲面形状であることを要旨とするものである。
【0019】
また、コンクリート等自硬性物質の成形方法としては、固定型枠と固定型枠に下端部を軸着した可動型枠の組合せからなる型枠を使用し、固定型枠は充填する高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を収容できるように側壁板で囲む深さ空間を有し、可動型枠はこの固定型枠の深さ空間に入り込み、かつ、固定型枠側に移動することにより、充填したコンクリート等自硬性物質を展伸させて成形することを要旨とするものである。
【0020】
請求項1および請求項4記載の本発明によれば、固定型枠と可動型枠で形成される空間に、高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を投入し、可動型枠を固定型枠側に移動させて成形する。このとき、自硬性物質は、固定型枠と可動型枠で形成される空間を移動し、最終的には、最終可動位置まで移動した可動型枠と固定型枠とで構成される空間と同じ形状の成形体が製造できる。しかも、可動型枠の移動速度を制御することで、自硬性物質の移動を低速で徐々に行うことができ、材料の均一な分散性すなわち均一な配向性を確保できる。
【0021】
さらに、材料の落下などの急速移動により発生する空気混入を防止する効果が高く、真空箇所や空気の巻込みによる空洞の発生を防止でき、また、自硬性物質面を均一レベルの状態で移動させることによって界面の発生を防止できるので、空洞や界面直下での材料の不連続性による強度的な問題を解決できる。
【0022】
さらに、自硬性物質を高圧で連続注入するためのポンプおよび高剛性の型枠などの高価な製造設備や正確な連続注入管理を必要とすることなく、高品質の成形物を安価にかつ容易に成形できる。
【0023】
また、自硬性物質を、固定型枠と可動型枠で形成される空間を移動させるのに、可動型枠は固定型枠に下端部を軸着し、可動型枠側に移動した際にコンクリート等自硬性物質を挟み込むことで、確実に移動させることができる。
【0024】
請求項2記載の本発明によれば、可動型枠は固定型枠の両面側に設けることで、一度に得られる成形品の数を増やすことができる。
【0025】
請求項3記載の本発明によれば、曲面を有する成形品を作成することも可能となる。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように本発明のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠および成形方法は、高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を成形させるのに、空気混入防止効果が高く、自硬性物質を確実に成形空間に移動させて、材料を均一に分散でき、また、成形精度を高めることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠の1実施形態を示す側面図、図2は同上要部の側面図、図3は同上斜視図で、本発明の型枠は、双方縦向きタイプの固定型枠1と可動型枠2の組合せからなり、図中3は台座4を設置するベースを示す。これらは全て鋼製のものとする。
【0028】
固定型枠1は、左右両側に側壁板5を備え、充填する高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質6を収容できるように側壁板5で囲む深さ空間7を有する。
【0029】
これに対して、可動型枠2はその下端を軸8で固定型枠1の下端に軸着したものであり、前記固定型枠1の深さ空間7に入り込み、かつ、軸8を中心に固定型枠1側に移動して、最終には図2に示すように、固定型枠1との間で必要とする成形空間9を形成する。固定型枠1および可動型枠2は垂直に立設配置される。
【0030】
本実施形態では、固定型枠1と可動型枠2の両方が成形面を曲面形状として前記成形空間9は偏平で湾曲したものであり、得られる成形品が薄い湾曲板である。
【0031】
また、台座4はその上端脇に前記可動型枠2を軸着するものであり、軸着部から下方の可動型枠2の延設部にはガイドローラー10を取付け、これを台座4の裾部4a上に滑動させることで、可動型枠2の回動を容易ならしめる。
【0032】
図中11は台座4に設けた可動型枠2の傾倒ストッパーであり、可動型枠2の延設部の下端角が当接することでそれ以上の傾倒を阻止する。
【0033】
さらに、前記軸8はピンとして抜き差し可能であり、脱型や清掃時にこれを引き抜いて可動型枠2を取り外す。
【0034】
可動型枠2は固定型枠1の両面側に設けるものであり、図3に示すように複数を並列させることで、多数枚の成形板を同時に得ることができる。図3においては、側壁板5の図示は省略するが、左右の端に設けるものである。
【0035】
さらに、固定型枠1はその中心部に厚さ調整材(アンコ)1aを配することもできる。
【0036】
可動型枠2を回動させる機構としては、油圧ジャッキアームを利用することも考えられるが、図示の例ではワイヤー12を使用し、これを巻き上げ、巻き出すことで行うものとする。図中13はワイヤー12の巻き取り具であるワイヤーブロック、14はガイドローラーである。
【0037】
次に、前記型枠を使用した本発明のコンクリート等自硬性物質の成形方法について説明する。自硬性物質としては高粘性・高流動性を有するコンクリートまたはモルタル等であればその種類を問わないが、一例として、前記のごとく、材令28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の短繊維補強セメント複合材料であって、所定の条件を満たすPVA短繊維を、所定の調合マトリクスに、1越え3Vol.%の配合量で、3次元ランダムまたは2次元ランダムに配合した高靱性の繊維補強セメント複合材料(高靱性FRC材料)を対象とする。
【0038】
固定型枠1に対して可動型枠2を図1に示すように開き、固定型枠1内にコンクリート等自硬性物質6を充填する。なお、可動型枠2は固定型枠1の側壁板5で囲む深さ空間に入り込んでいるので、自硬性物質6が漏れることはない。
【0039】
この状態からワイヤーブロック13はワイヤー12を巻き取り、可動型枠2を固定型枠1側に移動させる。
【0040】
その結果、充填した自硬性物質6は展伸され、最終的には、最終可動位置まで移動した可動型枠2と固定型枠1とで構成される空間と同じ形状の成形体が製造できる。その場合、自硬性物質6は無理な力を加えることなく、最終成形形状まで伸ばすことができる。図4に本発明の原理を示す。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠の1実施形態を示す側面図である。
【図2】本発明のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠の1実施形態を示す要部の側面図である。
【図3】本発明のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠の1実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明のコンクリート等自硬性物質の成形方法の原理を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1…固定型枠 1a…厚さ調整材(アンコ)
2…可動型枠 3…ベース
4…台座 4a…裾部
5…側壁板 6…自硬性物質
7…深さ空間 8…軸
9…成形空間 10…ガイドローラー
11…傾倒ストッパー 12…ワイヤー
13…ワイヤーブロック 14…ガイドローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填する高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を収容できるように側壁板で囲む深さ空間を有する固定型枠に対して、固定型枠に下端部を軸着し、自硬性物質を挟み込むようにしてこの固定型枠の深さ空間に入り込み、かつ、固定型枠側に移動して最終には必要とする成形空間を得る可動型枠とからなることを特徴としたコンクリート等自硬性物質の成形用型枠。
【請求項2】
可動型枠は固定型枠の両面側に設ける請求項1記載のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠。
【請求項3】
対面する可動型枠と固定型枠の少なくとも一方は曲面形状である請求項1または請求項2に記載のコンクリート等自硬性物質の成形用型枠。
【請求項4】
固定型枠と固定型枠に下端部を軸着した可動型枠の組合せからなる型枠を使用し、
固定型枠は充填する高粘性・高流動性を有するコンクリート等自硬性物質を収容できるように側壁板で囲む深さ空間を有し、
可動型枠はこの固定型枠の深さ空間に入り込み、かつ、固定型枠側に移動することにより、充填したコンクリート等自硬性物質を展伸させて成形することを特徴としたコンクリート等自硬性物質の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−265044(P2008−265044A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108103(P2007−108103)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000228660)日本コンクリート工業株式会社 (50)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】