説明

コンクリート表層部の耐凍害性評価手法

【課題】寒冷地におけるコンクリート構造物の耐久性に関する設計や維持管理を実施するにあたり、コンクリート表層部の劣化度あるいは劣化の進行予測をどのような評価手法により行うかが課題となっている。
【解決手段】凍結融解作用を受けるコンクリートにおいて、特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法を実施し、その任意深さの引張強度が凍結融解作用を受ける前と比べて50%±5%低下した時点をコンクリートの劣化状態と判定し、凍害劣化深さを求めようとするものである。また、コンクリート表層部の凍害劣化深さと、凍結融解サイクル数との関係を一次式により近似し、劣化進行を予測しようとするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表層部の耐凍害性を評価することに関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷地におけるコンクリート構造物の耐久性に関する設計や維持管理を実施するにあたり、凍害劣化の多くは表層部から顕在化し内部に向かって進行することが認識されるようになり、コンクリート表層部の劣化度あるいは劣化の進行予測をどのような評価手法により行うかが課題となっている。
【0003】
従来から行われているコンクリートの耐凍害性の評価試験であるJIS A 1148(コンクリートの凍結融解試験方法)では、寸法100×100×400mmの供試体を使用し、凍結融解0サイクルにおけるたわみ振動の一次共鳴振動数を基準とし、凍結融解サイクル後のたわみ振動の一次共鳴振動数との二乗比として定義される相対動弾性係数により、その劣化度が評価されている。また、一般に凍結融解300サイクル後のコンクリート供試体の相対動弾性係数が60%以上であることを確認することにより、耐久性を確保している。
参照文献 JIS A 1148(コンクリートの凍結融解試験方法)
【0004】
近年では、凍結融解作用を受けるコンクリートにおいて、特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法を実施し、その任意深さの引張強度より凍害劣化深さを評価する手法についての報告もある。
参照文献 阿波 稔・庄谷 征美・月永 洋一:簡易引張強度試験によるコンクリート構 造物の凍害劣化度評価、土木学会水辺のコンクリート構造物に関するシンポジ ウム論文集、コンクリート技術シリーズ45、pp.II−55−60、20 02
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、相対動弾性係数による評価方法は、コンクリートの劣化度を供試体の平均的な品質として把握することになり、コンクリート表層部における局部的な劣化形態としての凍害の程度を精度よく評価できないこともある。また、相対動弾性係数は室内試験を対象とした劣化指標であり、実構造物への適用や劣化の進行予測への応用も困難である。さらに、前述の凍害劣化深さの評価手法では、劣化状態を判定するためのコンクリート表層部の引張強度低下率の範囲が非常に大いため、ばらつきが生じやすい。本発明は、このような従来方法に見られるような欠点を除去せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、凍結融解作用を受けるコンクリートにおいて、特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法を実施し、その任意深さの引張強度が凍結融解作用を受ける前と比べて50%±5%低下した時点をコンクリートの劣化状態と判定し、凍害劣化深さを求めようとするものである。また、コンクリート表層部の凍害劣化深さと、凍結融解サイクル数との関係を一次式により近似し、劣化進行を予測しようとするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、表層部から顕在化し内部に向かって進行するコンクリートの凍害劣化過程をより合理的に評価するものであり、その現象に立脚した劣化指標値の設定や精度よい劣化進行の予測、現位置試験での実構造物への適用も可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
凍結融解作用を受けるコンクリートにおいて、特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法を実施し、その任意深さの引張強度が凍結融解作用を受ける前と比べて50%±5%低下した時点をコンクリートの劣化状態と判定し、凍害劣化深さを求める。また、コンクリート表層部の凍害劣化深さと、凍結融解サイクル数との関係を一次式により近似し、劣化進行を予測する。
【実施例】
【0009】
図1は、凍結融解作用を受けるコンクリートにおいて、特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法の実施例を示す説明図で、要部を断面で表わしてある。図において、円形溝の任意深さを5mm、15mm、30mmおよび50mm等、4段階以上とすることが望ましい。
【0010】
図2は、JIS A 1148(コンクリートの凍結融解試験方法)と同一の凍結融解サイクルと供試体寸法により実施した凍結融解試験結果を示す説明図の一例である。縦軸はコンクリート表層部の引張強度低下率、横軸は凍結融解サイクル数を示した。コンクリート表層部の引張強度低下率は、凍結融解0サイクルにおける引張強度を基準とし、凍結融解サイクル後の低下割合としてコンクリート表面からの深さ毎に示す。
【0011】
あわせて図2は、従来、コンクリートにおける凍害の劣化指標である相対動弾性係数との関連も示す説明図である。図において、相対動弾性係数によるコンクリートの耐凍害性の判断基準である60%の時点で、対応するコンクリート表層部の引張強度低下率は、おおよそ50%±5%を示している。これより、コンクリート表層部の引張強度が50%±5%に低下した時点を劣化状態と判定し、凍害劣化深さを求める。
【0012】
図3は、凍害劣化深さと凍結融解サイクル数との関係を示す説明図の一例である。縦軸は凍害劣化深さ、横軸は凍結融解サイクル数を示す。これらの関係はコンクリート表層部の引張強度が50%±5%の範囲で表し、下記の一次式で近似する。そして、凍結融解環境下におけるコンクリートの劣化進行予測のための基礎資料とする。
【数1】
=FDF(N−N
:凍害劣化深さ(mm)
FDF:凍害劣化係数
N:任意の凍結融解サイクル数
:D=0の時の凍結融解サイクル数(N)
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】「凍結融解作用を受けるコンクリートにおける特許2121279による表層部の引張強度試験方法の実施例を示す説明図」
【図2】「コンクリート表層部の引張強度低下率と凍結融解サイクル数との関係を示す説明図の一例」
【図3】「凍害劣化深さと凍結融解サイクル数との関係を示す説明図の一例」
【符号の説明】
【0014】
1 コンクリート
2 円筒形鋼片
2a 円鋳部
2b 円筒部
2c 引張試験機の引張接続部に接続するねじ部
3 円形溝
4 引張試験機
4a ロードセル
4b 油圧ポンプ
4c 荷重検出装置
4d 引張接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結融解作用を受けるコンクリートにおいて、特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法を実施し、その任意深さの引張強度より凍害劣化度を評価することを特徴とするコンクリート表層部の耐凍害性評価手法。
【請求項2】
特許2121279によるコンクリート表層部の引張強度試験方法により求めた任意深さの引張強度が、凍結融解作用を受ける前と比べて50%±5%低下した時点をコンクリートの劣化状態と判定し、凍害劣化深さを求めることを特徴とする請求項1のコンクリート表層部の耐凍害性評価手法。
【請求項3】
請求項2により求めたコンクリート表層部の凍害劣化深さと、凍結融解サイクル数との関係を一次式により近似し、劣化進行を予測することを特徴とする請求項1のコンクリート表層部の耐凍害性評価手法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−47133(P2007−47133A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252556(P2005−252556)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(303002930)財団法人青森県工業技術教育振興会 (17)
【Fターム(参考)】