説明

コンクリート表面の切削方法

【課題】 コンクリートを切削する際に、粉塵の発生を極力抑制して、粉塵による周辺施設の再汚染や作業員への悪影響を低減し、さらに切削装置や集塵機を小型化して、作業の効率化を図る。
【解決手段】 切削対象となるコンクリート表面40にグルコマンナン溶液50を塗布又は吹き付け、グルコマンナン溶液50をコンクリート中に浸透させた後、あるいは、切削対象となるコンクリート表面40にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けながら、コンクリート表面40を切削する。このコンクリート表面40の切削方法は、放射能汚染されたコンクリート表面40を切削する際に適用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面の切削方法に関するもので、例えば放射能汚染されたコンクリート表面のように切削時における粉塵の発生及び飛散を防止することが必要なコンクリート表面の切削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近い将来、耐用年数が経過して使用できなくなった原子力施設のデコミッショニングにより、放射能汚染されたコンクリート構造物を解体する機会が増加する。汚染されたコンクリートを解体する場合、放射性廃棄物量を少なくするため及び構造物の解体を容易にするため、汚染されたコンクリート表面を切削し、放射性物質が含まれたコンクリート表層を取り除く必要がある。
【0003】
従来、原子力施設のコンクリート構造物の表面を切削するための方法として以下に示すものがある。
【0004】
第1の方法として、ハンドブレーカ、スキャブラ、プレーナ等の切削機器を用い、コンクリート構造物の表面に機械的衝撃を加えて切削する方法がある。この方法は、コンクリート構造物の表面を切削するための技術として実績を有しており、操作が容易であるが、粉塵の発生が非常に多くなるという欠点がある。粉塵が発生すると、粉塵中に放射性物質が含まれているため、汚染されていないコンクリート等が汚染したり、作業員が被曝したりするおそれがある。このため、切削機器に集塵機能を付加したり、作業エリアを覆いで密閉して粉塵の拡散を防止するとともに、作業員には防塵マスク等の保護具を着用させる等の対策が必要であった。また、粉塵の発生を抑制するためには撒水を行うことが有利であるが、撒水による汚染排水が大量に発生するため、その処理がまた問題となる。
【0005】
第2の方法として、サンドブラスト工法やショットブラスト工法のように、スチールグリットや砂等の研磨材をコンクリート表面に叩きつけ、その衝撃力でコンクリートの表層を削り取る方法がある。この方法においても、多量の粉塵が発生するとともに、研磨材が汚染され、新たな汚染廃棄物を生み出すという欠点がある。
【0006】
第3の方法として、水ジェットを用いてコンクリート表面層をその水圧で削り取る方法がある。この方法では、粉塵の発生量は非常に少ないが、汚染された大量の排水が発生するため、その処理が問題となる。
【0007】
上述したいずれの技術であっても、原子力施設のコンクリート表面の放射性物質を除去する際には、放射能で汚染された粉塵又は排水が発生し、それを極力抑制する必要があり、従来より種々の技術が開発されている(特許文献1参照)。
【0008】
この特許文献1に記載された技術は、放射能汚染されたコンクリートを切断して破砕する際に生じる粉塵を回収するための技術であって、作業領域を覆う移動可能なバリア部と、このバリア部内に存在するガスを吸引して粉塵を回収する集塵装置とを備えている。そして、集塵装置の単位時間当たりのガス吸引量を制御して、コンクリートとバリア部との隙間におけるガス流量を調整することにより、放射能汚染されたコンクリート粉塵の外部への漏洩を防止するようになっている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−331519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した従来の技術では、装置が大型化するとともに、粉塵の発生抑制と汚染廃液の発生抑制とを両立できないという問題があった。特に、上述した特許文献1に記載された技術は、構造及び制御が複雑な粉塵回収装置を必要とするため、解体コストが上昇するという問題があった。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、コンクリートを切削する際に、粉塵の発生を極力抑制して、粉塵による周辺施設の再汚染や作業員への悪影響を低減することが可能であり、さらに切削装置や集塵機を小型化して、作業の効率化を図ることが可能なコンクリート表面の切削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のコンクリート表面の切削方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。
すなわち、本発明のコンクリート表面の切削方法は、切削対象となるコンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付け、該グルコマンナン溶液をコンクリート中に浸透させた後、コンクリート表面を切削することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のコンクリート表面の切削方法は、切削対象となるコンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けながら、コンクリート表面を切削することを特徴とするものである。
【0014】
また、切削対象となるコンクリート表面に吸水部材を張り付けた後、コンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けることが可能である。
【0015】
本発明のコンクリート表面の切削方法は、特に放射能汚染されたコンクリート表面を切削対象とした場合に、顕著な効果を発揮することができる。
【0016】
ここで、グルコマンナンとは、コンニャク根茎由来のコンニャクマンナンに代表されるヘテロ多糖類のことである。また、グルコマンナン溶液とは、グルコマンナンを水等の溶媒に溶かし込んでゾル化させたものである。
また、吸水部材とは、綿状物をシート状としてコンクリート表面に張り付けることができるようにしたものである。
また、放射能汚染とは、誘導放射能を帯びていること、及び放射性物質が付着あるいは浸透していることをいう。
また、コンクリート表面とは、コンクリート構造物の壁面、床面、天井面等のことである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコンクリート表面の切削方法によれば、ゾル状のグルコマンナン溶液がコンクリートの表面に付着し、あるいはコンクリート中に浸透して、コンクリートに含有されるアルカリ成分と反応してゲル化する。
【0018】
したがって、ゲル化したグルコマンナンによりコンクリートの表面が覆われるので、粉塵の発生を極力抑制するとともに、微量の粉塵が発生したとしても、粉塵の飛散を効果的に抑制することができる。
特に、本発明を放射能汚染されたコンクリート表面の切削に適用した場合には、粉塵の発生を極力抑制して、粉塵による放射能汚染を防止するとともに、作業員の被曝量を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<グルコマンナン溶液の塗布又は吹き付け>
以下、図面を参照して、本発明に係るコンクリート表面の切削方法の実施形態を説明する。図1及び図2は、本発明に係るコンクリート表面の切削方法の実施形態を示すもので、図1はコンクリート表面に対してグルコマンナン溶液を吹き付ける工程の一例を示す説明図、図2は、コンクリート表面に吸水部材を張り付けてグルコマンナン溶液を吹き付ける工程の一例を示す説明図である。
【0020】
本発明の実施形態に係るコンクリート表面の切削方法は、例えば、放射能汚染されたコンクリート表面を切削する際に使用される技術である。
具体的手順としては、まず、切削対象となるコンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付ける。ここで、グルコマンナン溶液を塗布するには刷毛や塗布ローラ等を使用し、グルコマンナン溶液を吹き付けるにはハイウォッシャやエアスプレーガン等を用いる。
【0021】
すなわち、図1に示すように、予め、タンク10内にグルコマンナン溶液50を貯留し、コンプレッサ20を駆動して吹き付けノズル30の先端からグルコマンナン溶液を噴射し、コンクリート表面40にグルコマンナン溶液50を吹き付ける。
【0022】
<グルコマンナン溶液>
グルコマンナン溶液は、例えばコンニャク根茎から抽出されるコンニャクマンナンに代表されるヘテロ多糖類を水等の溶媒に溶かし込んでゾル化させたものである。なお、グルコマンナンは、入手が容易で価格安定性に優れているという点で、コンニャク根茎から抽出したコンニャクマンナンを用いることが好ましいが、ヘミセルロース由来のもの等、他の植物等から抽出したグルコマンナンを用いてもよい。
【0023】
グルコマンナン溶液の濃度は、切削対象となるコンクリート構造物の規模、コンクリートの組成、塗布又は吹き付けを行う際の温度や湿度等の環境要因に応じて適宜変更して実施することができる。本実施形態では、グルコマンナン溶液をコンクリート表面に十分に行き渡らせるとともに、コンクリート内へ十分に浸透させるために、グルコマンナンに対する水の量を200倍〜800倍程度としている。
【0024】
また、グルコマンナン溶液を作成する際に、ゲルタイム調整剤を添加してもよい。ゲルタイム調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム等のアルカリ性化合物を用いることができる。このゲルタイム調整剤により、グルコマンナン溶液がゾルからゲルへ変化する時間を調整することができる。すなわち、切削対象となるコンクリート表面の状態や、作業工程等に応じてゲルタイムを調整することにより、作業効率を向上させるとともに、適切かつ的確にコンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けることができる。
【0025】
<コンクリート表面の切削>
切削作業を行う際に、コンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けた後に、コンクリート中にグルコマンナン溶液が浸透するのを待ってから、コンクリート表面を切削してもよいし、コンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けながら、コンクリート表面を切削してもよい。
【0026】
どちらの工程を選択するかは、切削対象となるコンクリート構造物の規模、コンクリートの組成、塗布又は吹き付けを行う際の温度や湿度等の環境要因、作業計画等による。すなわち、グルコマンナン溶液がコンクリート中に浸透し難い場合や、作業時間を十分に取ることができる場合等には、コンクリート中にグルコマンナン溶液が浸透するのを待ってから、コンクリート表面を切削する方法を選択することが好ましい。
【0027】
一方、グルコマンナン溶液をコンクリート表面に塗布又は吹き付けるだけでよい場合や、グルコマンナン溶液がコンクリート中に浸透しやすい場合には、コンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けながら、コンクリート表面を切削する方法を選択することが好ましい。
【0028】
なお、コンクリート表面の切削には、ブレーカ、チッパー、サンドブラスト等を用いることができる。
【0029】
<吸水部材の張り付け>
また、グルコマンナン溶液の塗布又は吹き付けに先立って、コンクリート表面に吸水部材を張り付けてもよい。この吸水部材は、例えば、綿状物をシート状としたものを用いることができる。吸水部材の材質は、グルコマンナン溶液の濃度や、廃棄物の処理方法等に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、植物綿、ポリエステル等からなる合成樹脂綿を用いることができる。
【0030】
グルコマンナン溶液の塗布又は吹き付けに先立って、コンクリート表面に吸水部材を張り付けるか否かは、切削対象となるコンクリート構造物の規模、コンクリートの組成、塗布又は吹き付けを行う際の温度や湿度等の環境要因、作業計画等による。すなわち、切削対象となるコンクリート表面に対して、グルコマンナン溶液を十分に行き渡らせたい場合や、グルコマンナン溶液がコンクリート中に浸透し難い場合には、コンクリート表面に吸水部材を張り付けた後に、コンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けることが好ましい。
【0031】
具体的には、図2に示すように、コンクリート表面40に吸水部材60を張り付け、図1で示す手順と同様にして、吹き付けノズル30の先端からグルコマンナン溶液50を噴射して、コンクリート表面40にグルコマンナン溶液50を吹き付ける。
【0032】
<添加剤>
さらに、グルコマンナン溶液の添加剤として、抗菌剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、粘度安定剤等を添加してもよい。
【0033】
<粉塵の飛散試験>
次に、本発明の実施形態に係るコンクリート表面の切削方法について行った粉塵の飛散試験について説明する。
この粉塵の飛散試験では、まず、コンクリートを破砕して試料調整を行うとともに、所定濃度のグルコマンナン溶液を作成した。続いて、同量のコンクリート試料をバット内に平均して敷き均し、無対策(撒水及びグルコマンナン溶液の散布を行わないもの)の試料、撒水した試料、グルコマンナン溶液を散布した試料とした。続いて、実験開始直後、1時間経過後、3時間経過後、3日後に、それぞれドライヤーで30秒間送風して重量変化率を測定した。
【0034】
下記表1は、無対策の試料、撒水した試料、グルコマンナン溶液を散布した試料について、飛散試験による重量変化率を示す表である。また、下記表2は、無対策の試料、撒水した試料、グルコマンナン溶液を散布した試料について、経過時間と重量変化率との関係を示すグラフである。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

上記表1及び表2から明らかなように、室内において飛散試験を実施した結果、グルコマンナン溶液を散布した試料は、粉塵の発生抑制に対して撒水した試料と同等以上の効果を挙げることができた。また、グルコマンナン溶液を散布した試料は、時間経過に伴う粉塵の発生抑制に対して撒水した試料と同等以上の効果を挙げることができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】コンクリート表面に対してグルコマンナン溶液を吹き付ける工程の一例を示す説明図である。
【図2】コンクリート表面に吸水部材を張り付けてグルコマンナン溶液を吹き付ける工程の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10 タンク
20 コンプレッサ
30 吹き付けノズル
40 コンクリート表面
50 グルコマンナン溶液
60 吸水部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削対象となるコンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付け、該グルコマンナン溶液をコンクリート中に浸透させた後、コンクリート表面を切削することを特徴とするコンクリート表面の切削方法。
【請求項2】
切削対象となるコンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けながら、コンクリート表面を切削することを特徴とするコンクリート表面の切削方法。
【請求項3】
切削対象となるコンクリート表面に吸水部材を張り付けた後、コンクリート表面にグルコマンナン溶液を塗布又は吹き付けることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート表面の切削方法。
【請求項4】
グルコマンナン溶液中に、ゲルタイム調整剤を添加したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンクリート表面の切削方法。
【請求項5】
切削対象となるコンクリート表面は、放射能汚染されたコンクリート表面であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンクリート表面の切削方法。

【図1】
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【図2】
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