説明

コンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材

【課題】比較的高目付の補強材料にも拘わらず、樹脂含浸性に優れ、しかも構造物表面への追従性(ドレープ性)にも優れるコンクリート構造物の補修・補強用のテープ材を提供する。
【解決手段】鎖糸5と第一挿入糸6とで編成される編地の両側に、各鎖糸5間にそれぞれ炭素繊維束1が配置され、各炭素繊維層2、3の各束(2a〜e、3a〜e)は鎖糸5に編み込まれた第二挿入糸7により袋状に拘束されてなるテープ材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱、梁、スラブ、壁、煙突等のコンクリート構造物の補強方法、特にじん性補強などの高い補強効果が求められる補強方法に使用されるコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の梁や柱、或いは、橋脚、煙突等の既設コンクリート構造物は、経年劣化による耐力の低下もさることながら、建造時の設計基準によっても大きく強度が異なっている。また、先の阪神・淡路大震災においては、昭和56年施行の新耐震設計法の基準を満たす建築物の被害が軽微であったとの経験から、新耐震基準での見直しが行われ、既設構造物についても新耐震基準への適合が求められている。
【0003】
既設構造物の場合、取り壊し、新たに建造すれば新耐震基準を満たした構造物も得られるが、建造に長期間を有し、その費用も多大である。従って、通常は著しく劣化していない限りは耐震補強などの補修・補強工法が実施される。
【0004】
これら構造物の補修・補強工法では、施工が容易なことから、補強繊維、特に炭素繊維シートを用いた補修・補強工法が広く行われている。この補修・補強工法としては、樹脂含浸していない炭素繊維シート(ドライシート)を構造物に貼り、常温硬化型の樹脂をローラーや刷毛等を用いて含浸させる、いわゆるハンドレイアップ法が主流である。
【0005】
ところで、高い補修・補強効果が必要な、例えばじん性補強などの場合には、必要な強化繊維量が多くなる。通常のシート材は薄く、一枚のシートは炭素繊維目付量として多くても200〜300g/m程度しかないため、複数回のハンドレイアップが必要となり、工程が煩雑化していた。
【0006】
この対策として、高目付量のシート材を使用すれば、積層作業回数が少なくなり、省力化が図られるが、シート材が高目付量であると、下記のように炭素繊維への樹脂含浸が不完全となり、FRP層による補強効果が十分に得られないおそれがある。つまり、シート材の炭素繊維への樹脂含浸は、通常、シート材を構成する炭素繊維束の表面から繊維束の内部へ、ならびに炭素繊維束と隣接する炭素繊維束によって形成された間隙に入った樹脂が炭素繊維束の側面から繊維束の内部へと毛細管現象によって含浸されていく。ところが目付量が大きなシート材では、面内の繊維密度が大きくなるので、炭素繊維同士が互いに接触した状態となっており、表面から繊維束への樹脂含浸が進みにくい。また、炭素繊維束同士も互いに接触するような状態となりやすいので、炭素繊維束間の間隙も形成されない状態になることがあり、このような状態では、樹脂の含浸性がさらに悪くなる。
【0007】
また、構造物の補修・補強の際に高目付量の炭素繊維シート材を曲率の大きい角を持つ柱などに巻きつけると、炭素繊維シート材には厚みがあるため、シート材を屈曲させた部分の外周と内周とに経路差が生じ、外周側には引張力が働き内周側には圧縮力が働くことになるが、炭素繊維の弾性率が高いため、このような引張力や圧縮力によっては炭素繊維は大きく伸び縮みはしない。このため、屈曲させた部分の外周側では炭素繊維に引張りの力がかかったままの状態になり、内周側では炭素繊維自体が縮まないため炭素繊維が蛇行する。
【0008】
炭素繊維は弾性率が高く変形が与えられた際に元に戻ろうとする復元力が強いため、上記のように強化繊維に蛇行が生じた場合、蛇行をなるべく小さくしようとする力が作用し、屈曲させた部分で繊維蛇行を吸収しようとするため、この部分で炭素繊維シート材が丸く膨らむことが多い。
【0009】
このため、曲率の大きい角を持つ被補強物に炭素繊維シート材を巻きつけた場合、角部では炭素繊維の蛇行が生じたり、繊維蛇行を吸収しようとするため炭素繊維シート材が丸く膨らむので、被補強物の角部と炭素繊維シート材がきれいに密着せず、両者間に空隙が生じてしまう。
【0010】
このような問題が発生した状態で、炭素繊維シート材に樹脂含浸を行って硬化させFRP層を形成したとしても、被補強物の角部と炭素繊維シート材間の空隙部分で樹脂リッチとなってボイドが生じやすいという問題や、被補強物の角部で生じた炭素繊維の蛇行があるため高い補強効果が得られないといった問題がある。
【0011】
シート材の炭素繊維目付量を単純に大きくすると、シートを構成する炭素繊維糸条の間隔が密となり、樹脂含浸が困難となる。
【0012】
そこで、特許文献1では、強化繊維糸条がシートの長さ方向に平行に配列した基材が、強化繊維の方向が同じになるように多層重なり、隣接する層が互いに一体化されている多層強化繊維シートが開示されている。例えば、特許文献1の図6には、一方向多重織物の一例として、2重織物が示されているが、これは、強化繊維糸条2と補助糸4とからなる平織物3と、強化繊維糸条2と補助糸4からなる平織物3との多層構造を有し、平織物3の一部の補助糸4と平織物3の強化繊維糸条2とが互いに交差することによって平織物3と平織物3とが一体となっている。
【0013】
又、特許文献2には、強化繊維基材への樹脂含浸性を保ちつつ、かつ比較的高目付の強化繊維基材を構造物に貼り付けるため、強化繊維目付が300〜1000g/mであり、かつJISL1096に従って測定される通気量が3cm/cm/sec以上かつ30cm/cm/sec未満である強化繊維基材を、JIS K7117に従って測定される粘度が0.05〜2Pa・sである室温硬化型樹脂を用いて構造物表面へ貼り付ける方法が開示されている。ここで、強化繊維基材としては、一方向性強化繊維を低融点熱可塑性樹脂とガラス繊維などの非熱融着性繊維との複合糸などを形態保持用の補助糸とした平織物が開示されている。
【0014】
上記のような織物は、経糸(縦糸)と緯糸(横糸)とを互いに交差させて織られており、強化繊維の目ずれは少ないものの、経糸と緯糸との交錯点において構成繊維が大きく屈曲(クリンプ)しており、そのため該織物に応力が加わるとその応力が上記屈曲部に集中して、強化繊維が本来有している高強力、高弾性率を発揮できない場合がある。
【0015】
これに対し、特許文献3では、補強繊維が並列に配列された繊維群を一単位として、それが間隔をもって、畝状に配列され、各畝状繊維群と交差する被覆補助繊維が、該繊維群の長さ方向に配置され、かつ該被覆補助繊維が隣接する繊維群の畝間で、からみ補助繊維により経編組織で結束されている補強シートが開示されている。このように構成されたシートでは、強化繊維がクリンプされていない(ノンクリンプ)構造となり、強化繊維が有する高強力、高弾性率を損なうことがない。特許文献4にも、形態安定性に優れ、樹脂含浸性にも優れる強化繊維シート材として、強化繊維束間に鎖編地糸を配置し、鎖編地糸に編み込まれた補強挿入糸を一定の列(コース)毎に振って強化繊維束の両面を挟持し、補強挿入糸の少なくとも一部に熱可塑性樹脂を含む熱融着糸が含まれており、該熱融着糸により強化繊維束を固着させたシートが提案されている。
【0016】
しかしながら、このようなシート材を用いて施工した場合、施工後は強化繊維板でコンクリート表面が覆われてしまうため、例えば、中規模の地震が発生した場合に、コンクリートにひび割れ等が発生していないかどうかの診断が非常に困難である。
【0017】
加えて、補強繊維シートによる全面巻き付けでは、段差や突起、不陸等の調整処理は、十分な接着性を得るために必須の処理であり、工程が煩雑となり、コスト増、施工期間の長期化等の原因ともなっている。
【0018】
特許文献5には、コンクリート構造物の表面上に、らせん状または縞状に、組紐状炭素繊維含有補強材料を所定間隔で巻き付けることを特徴とするコンクリート構造物の剪断補強方法が開示されている。しかしながら、組紐状炭素繊維は目付量が大きくなると樹脂含浸性が損なわれる場合がある。又、1本当たりの目付量を少なくして樹脂含浸性の低下を抑えると、必要目付量を得るための重ね巻を行う必要があり、重ね巻時にズレやすく、作業性が悪くなる場合があり、改良の余地があった。
【0019】
特許文献6には、袖壁付き柱を補強シート材を用いて補強する際に、袖壁部分を貫通する穴を設け、この穴に補強シート材の定着用アンカーとして帯状の連続繊維補強部材からなり、その端部を扇形又はラッパ型に成型しやすい材料を使用することが提案されている。この帯状補強部材も特許文献3,4のような経編組織で結束された構造を有している。又、図4(a)には、炭素繊維の束を二層積層する構成が示されている。
【特許文献1】特開2000−085044号公報(図6、「0030」)
【特許文献2】特開2000−220302号公報
【特許文献3】特開平10−037051号公報
【特許文献4】特開2004−360104号公報
【特許文献5】特開2007−113346号公報
【特許文献6】特開2006−124945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本出願人らの一部は、先に帯状炭素繊維補強部材によるコンクリート構造物、特にコンクリート柱などのじん性補強方法を提案している。該方法によれば、従来のシート材による全面補強と比較して、施工後の構造物表面の確認が容易であること、施工に際しての下地処理が少なくて済むなどの有利な効果が得られている。
【0021】
このようなコンクリート角柱などの角部のように曲率部を有する場合、所望の補強強度を少ない巻き回し回数で確保するために、強化繊維の目付量を増やしていくと、このような角部への追従性(ドレープ性)が損なわれ、角部で浮き上がったり、強化繊維の過剰な屈曲が生じたりする。その結果、所期の特性が得られなくなる場合がある。
【0022】
しかしながら、ノンクリンプ構造(直線性)とドレープ性に関しては相反する面がある。例えば、ノンクリンプ構造において、1層で高目付量の基材とすると、シート自体の厚みが増し、内層と外層での経路差が生じ曲げにくくなる。たとえ曲げられたとしても炭素繊維は弾性率が高く復元力が働き、このような状態で樹脂含浸を行うと、樹脂リッチな部分や空隙が生じてしまう。
【0023】
そこで、本発明の目的は、比較的高目付の補強材料にも拘わらず、樹脂含浸性に優れ、しかも構造物表面への追従性(ドレープ性)にも優れるコンクリート構造物の補修・補強用のテープ材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決する本発明は、
一方向に引き揃えられた複数の炭素繊維束を並列に配列し、これら炭素繊維束を編組織体により拘束して層を成し、その炭素繊維層が2層以上複数積層されたコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材であって、
前記編組織体は、鎖糸、第一挿入糸及び第二挿入糸で構成され、
該鎖糸が前記各炭素繊維束と交互に平行に配列され、前記第一挿入糸を隣接する鎖糸間に一定のコース毎に振られて編み込まれて編地を成し、
該編地の両面に各炭素繊維層が配置され、各炭素繊維層の各炭素繊維束は、前記隣接する鎖糸間に一定のコース毎に振られて編み込まれた前記第二挿入糸により袋状に拘束されてなるコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材に関する。
【0025】
前記炭素繊維層の一層当たりの目付量が300〜900g/mであることが好ましく、前記編組織体を形成する鎖糸、第一挿入糸及び第二挿入糸の繊度が50〜600dtexであることが好ましい。又、前記テープ材の幅は、10〜100mmであることが好ましい。
【0026】
又、本発明では、少なくとも2本の上記のテープ材が、その長手方向の側面で連結糸により連結されてなるコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、比較的高目付の補強材料であり、炭素繊維がノンクリンプ状態で保持されている材料が提供できるため、炭素繊維が本来有する特性を損なうことがない。又、含浸樹脂の粘度が高くとも、炭素繊維束間に編組織体により間隙が形成されているため、樹脂含浸性に優れる。さらに、本発明のテープ材は、炭素繊維束を編組織体で拘束しており、炭素繊維束層間に第1挿入糸が介在することによって、テープ材を構造物表面に合わせて屈曲させた際にも炭素繊維束が編組織体内で上下独立に移動可能であるためドレープ性に優れ、樹脂リッチな部分やボイドが発生しない。
【0028】
加えて、このようなテープ材の少なくとも2本を、その長手方向の側面で連結糸により連結したテープ材は、ロールに巻き取られる際には開いた状態でロール厚みを少なく抑えることができ、使用時に折りたたんで使用することで容易に高目付の補修・補強部材が得られ、一つのテープ材を重ね巻きする場合よりも重ね合わせずれが少ないという顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明のテープ材の構成について説明する。
【0030】
図1は炭素繊維層2と炭素繊維層3の二層形態とされた炭素繊維テープ状材料Aを示しており、図2はその模式的断面図である。テープ材の長手方向に延びる複数の炭素繊維束1がテープ材の幅方向に並行に配列されて炭素繊維層2(2a、2b、2c、2d、2eは炭素繊維層2を形成する炭素繊維束を示している)と炭素繊維層3(3a、3b、3c、3d、3eは炭素繊維層3を形成する炭素繊維束を示している)を成し、これら炭素繊維層2と炭素繊維層3の間には鎖糸5に第一挿入糸6を編み込み、一定コース毎に振って側方に並行する鎖糸5の更に隣の鎖糸5に編み込まれて形成される編地が存在し、この編地に各炭素繊維束1を袋状に覆うようにして、第二挿入糸7を一定コース毎に振って側方に並行する鎖糸に編み込んで各炭素繊維束1を拘束する編組織体4が形成されている。図3に編組織体の一例になる組織図を示す。
【0031】
なお、図2では説明を容易とするために編組織体4と炭素繊維束1との間に空隙を有するように示されているが、実際には編組織体4を構成する各補助糸(鎖糸5、第一挿入糸6、第二挿入糸7)は炭素繊維束1を屈曲させない程度のテンションで各炭素繊維束1に接してテープ材を構成している。
【0032】
鎖糸、第一挿入糸、第二挿入糸は、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系などの一般的な合成繊維を単独又は複数混合して作成される糸条であり、その繊度が50〜600dtex程度のものである。繊度が50dtex未満では、糸条の糸切れが起こりやすいため編組織体を形成しにくく、600dtexを超える場合、炭素繊維以外の材料が多くなりすぎて、テープ材の強度低下の要因となりやすい。好ましくは、200dtex〜500dtexであり、この範囲であれば、炭素繊維束間の間隙を形成しやすく、樹脂含浸性がより良好となる効果を奏する。
【0033】
鎖糸は、ループ状に炭素繊維束の配向方向(長手方向)に連続して鎖編み目を形成しながら編成されたもので、テープ材の長手方向、幅方向及び厚み方向への伸縮性を有している。鎖糸間の間隔は、その間で拘束する炭素繊維束の量により一概に限定されないが、通常、1mm〜8mmである。1mm未満とすると炭素繊維以外の材料が多くなり、テープ材の強度低下の要因となりやすく、8mmより大きくすると編組織体の形成が困難になり炭素繊維の直線性を保持することができなくなる場合がある。より好ましくは2mm〜6mmとする。
【0034】
第一挿入糸及び第二挿入糸は、鎖糸に対して一定のコース毎に振って編み込んでいくが、少なくとも第二挿入糸を3〜10mmのピッチが好ましい。3mm未満とすると炭素繊維束を被覆している挿入糸が多くなり樹脂の含浸を阻害する場合がある。一方、10mmより大きくとすると炭素繊維束の直線性が保持できず所期の特性を得られなくなる場合がある。第1挿入糸及び第二挿入糸は同じコースに振っても、異なるコースに振ってもよく、又、それぞれに異なるピッチで挿入しても良い。
【0035】
使用する強化繊維は、炭素繊維を使用するが、ガラス繊維、アラミド繊維、その他有機繊維等を問題のない範囲で混合して使用することができ、その用途に応じて適宜選択することができる。使用する炭素繊維としては、例えば、JIS K 7073に準拠した炭素繊維強化プラスチックの引張試験方法において、高強度タイプでは、2.45×10N/mm、中弾性タイプでは4.40×10N/mm、高弾性タイプでは6.40×10N/mmの引張弾性率を有する材料を使用する。
【0036】
炭素繊維層の1層当たりの目付量は300〜900g/mであり、本発明になるテープ材は少なくとも2層の炭素繊維層を有することから、600g/m以上の炭素繊維目付量を有するものとなる。炭素繊維層1層当たりの目付量が900g/mより大きくなると、炭素繊維束間の間隙が狭くなり、樹脂含浸がなかなか進行していかないため好ましくない。炭素繊維層1層当たりの目付量が300g/m未満であると、テープ材の積層枚数が多く必要とされるため、手間がかかり好ましくない。炭素繊維層一層当たりのより好ましい目付量は500〜700g/mである。
【0037】
テープ材の幅は特に制限されるものではないが、好ましくは10〜100mm、より好ましくは20〜80mmとする。10mm未満とすると、テープ材に含まれる炭素繊維束が少なくなるため、所期の特性を得るためには不向きである。100mmを超えるとテープ材のメートルあたりの質量が重くなり、施工や成形の効率が悪くなり好ましくない。
【0038】
図4は、三層形態とされたテープ材の模式的断面図である。この場合も炭素繊維層11と12の間に鎖糸15と第一挿入糸16aからなる編地、炭素繊維層12と13の間に鎖糸15bと第一挿入糸16bからなる編地が配置され、各炭素繊維層の縦方向の炭素繊維束11a〜13a、11b〜13b、11c〜13c、11d〜13d、11e〜13eが鎖糸15に編み込まれた第二挿入糸17により袋状に拘束されて編組織体14が構成されている。さらに多層の炭素繊維層を積層する場合も同様である。なお、多層になるほど編成が難しくなるため、通常は5層程度までにすることが好ましい。
【0039】
施工時に目付量を増やすためには、所定目付のテープ材を重ねることで対応できるが、本発明では以下のような構成のテープ材を用いることが好ましい。
【0040】
図5は、本発明になるテープ材B及びCの2本をそれぞれの長手方向の一側面にて連結糸28にて連結したものであり、(a)は概略斜視図、(b)は模式的断面図を示す。連結糸28として第一挿入糸26をそのまま使用することができ、鎖糸25と第一挿入糸26から形成される編地に組み合わせられる炭素繊維束1のうち、炭素繊維束1の一束分を抜いた状態で編組織体を形成することで容易に得られる。又、製造された各テープ材を、各テープ材の側面にある鎖糸25に別途用意した連結糸28を編み込むことで繋ぐこともできる。図5中、その他の符号は図1と同様の意味を示し、22a〜22j、23a〜23jは各強化繊維層を形成する強化繊維束、27は第二挿入糸、24は編組織体を示す。
【0041】
通常、本発明になるテープ材はロールに巻いて運搬され、現場にて引き出して使用されるが、目付量が多くなると厚くなり、ロールの径が大きくなる。また、目付量が多くなると編組織体を形成することがより難しくなる。一方、図5のように連結糸28でつなぎ合わせたものは、ロールに巻く場合には開いた状態で巻くことで、ロール径が大きくなることを防止できる。また、使用時には図示するようにテープ材Cをテープ材B上に折りたたんで使用する。その結果、見かけ上は目付量の大きな帯を使用することになり、巻き回し回数が少なくて済む。また、連結糸28にて各テープ材がつながれているため、1本のテープ材を重ね巻きする場合よりずれにくいという効果も奏する。
【0042】
本発明になるテープ材は、図6に示すようにコンクリート柱(RC柱31)などの構造物表面に所定の間隔を空けて、図示するようなゼブラ状、或いは螺旋状に巻き付けて使用される。巻き付け間隔は、要求される補強効果により種々異なり一概に限定できないが、例えば鉄筋コンクリート製柱のじん性補強を行うには、柱の上下端部から2D(Dは柱断面高さを示す)以下のじん性補強区間にテープ材32を、柱の端部より巻き付け間隔(P)が、5cm以上であり、P/Dが1/3以下となるように所定間隔を空けて巻き付け補強することが好ましい。また、じん性補強に際しては、より多くの補強量が要求されることから、テープ材32を重ねて巻くことが好ましい。
【0043】
一方、せん断補強は、じん性補強ほどの補強量は要求されないため、より広い間隔で巻くことができる。せん断補強は柱の全区間が対象となるが、通常はじん性補強と組み合わせて行うことが多く、その場合は、じん性補強区間以外の部分について適用すればよい。また、本発明になるテープ材は、炭素繊維目付量が多いため、一重巻きで十分なせん断補強効果が得られる。
【0044】
本発明になるテープ材、要求補強量の多いじん性補強において、特に有効である。
【0045】
なお、じん性補強及びせん断補強の補強量は、例えば、(財)鉄道総合技術研究所発行の「炭素繊維シートによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法設計・施工指針」第3版に準拠して、安全側に設計されるように選択すればよい。
【0046】
このように巻き付けられたテープ材には樹脂が含浸され、それが硬化することによって炭素繊維複合材料(CFRP)となる。含浸する樹脂は、常温硬化型あるいは熱硬化型のエポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱硬化性樹脂、メチルメタクリレート等のラジカル反応系樹脂などが使用できる。特に、常温硬化型のエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。本発明になるテープ材の使用に当たっては、含浸樹脂の粘度を最適化することが好ましく、特に、20℃において、0.1Pa・s以上5Pa・s以下であることが好ましい。たとえば、コニシ(株)製の商品名「CFB500」シリーズなどの低圧樹脂注入工法用、樹脂モルタル用の低粘度形エポキシ樹脂が使用できる。
【0047】
又、樹脂の含浸は、樹脂未含浸のドライ状態のテープ材をRC柱などの表面に巻き回した後に行うことが好ましいが、テープ材を巻き回す直前にテープ材を樹脂を溜めた樹脂槽を潜らせてから巻き回しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のテープ材を説明するための概略斜視図である。
【図2】図1に示すテープ材の模式的断面図である。
【図3】編組織体の一例になる組織図である。
【図4】本発明のテープ材の別の例を説明する模式的断面図である。
【図5】本発明のテープ材2本を繋いで構成されるテープ材の概略斜視図及びその模式的断面図である。
【図6】本発明のテープ材を用いた補強方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
1 炭素繊維束
2、3 炭素繊維層
4 編組織体
5 鎖糸
6 第一挿入糸
7 第二挿入糸
11,12,13 炭素繊維層
14 編組織体
15a、15b 鎖糸
16a、16b 第一挿入糸
17 第二挿入糸
22a〜j 23a〜j 炭素繊維束
24 編組織体
25 鎖糸
26 第一挿入糸
27 第二挿入糸
28 連結糸
31 RC柱
A、B、C、32 テープ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた複数の炭素繊維束を並列に配列し、これら炭素繊維束を編組織体により拘束して層を成し、その炭素繊維層が2層以上複数積層されたコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材であって、
前記編組織体は、鎖糸、第一挿入糸及び第二挿入糸で構成され、
該鎖糸が前記各炭素繊維束と交互に平行に配列され、前記第一挿入糸を隣接する鎖糸間に一定のコース毎に振られて編み込まれて編地を成し、
該編地の両面に各炭素繊維層が配置され、各炭素繊維層の各炭素繊維束は、前記隣接する鎖糸間に一定のコース毎に振られて編み込まれた前記第二挿入糸により袋状に拘束されてなるコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材。
【請求項2】
前記炭素繊維層の一層当たりの目付量が300〜900g/mである請求項1に記載のコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材。
【請求項3】
前記編組織体を形成する鎖糸、第一挿入糸及び第二挿入糸の繊度が50〜600dtexである請求項1又は2に記載のコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材。
【請求項4】
前記テープ材の幅が、10〜100mmである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材。
【請求項5】
少なくとも2本の請求項1乃至4のいずれか1項に記載のテープ材が、その長手方向の側面で連結糸により連結されてなるコンクリート補修・補強用炭素繊維テープ材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162018(P2009−162018A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2254(P2008−2254)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(591168932)新道繊維工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】