説明

コンクリート防水層の試験方法およびこの方法で使用する試験装置

【課題】下地コンクリートのひび割れを介した水圧による防水層の変化を、実際に近い条件で調べることができる方法を提供する。
【解決手段】特定の配筋がなされたコンクリート試験体1の穴13に、半円筒状の一対の加圧板61を、両者の端部がV字溝14の位置に配置されるように入れた後に、両加圧板61の間に油圧シリンダ62を入れ、これに接続された油圧ポンプ63で、油圧シリンダ62を両加圧板61の間隔を開く方向に作動させる。これにより、コンクリート試験体1防水層5が形成されている2側面にひび割れを発生させた後に、穴13の内面に水圧を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下地コンクリートのひび割れを介した水圧によって防水層がどのように変化するかを調べるコンクリート防水層の試験方法と、この方法で使用する試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下室の防水の目的は、地下水の浸入を防止することである。地下躯体は水圧を伴う地下水に接するため、コンクリートの水密性を高めるとともに、水圧に耐える防水層を施工しなければならない。防水の方法には、地下躯体の外回りを防水層で包む外防水と、躯体の内側に防水層を施す内防水がある。また、結露防止を目的とした二重壁工法がある。
施工された防水層に対する機械的劣化要因として、第一に下地コンクリートに発生するひび割れを挙げることができる。メンブレン防水層のひび割れ追従性(ひび割れに追従して破断に至らない性能)には、ゼロスパンテンションか否かや材料の伸び能力が深く関係する。
【0003】
また、日本建築学会建築工事標準仕様書「JASS 8 防水工事」では、主に屋根や屋上防水の仕様について述べられており、水圧を受ける地下内外壁、水槽およびピットの防水仕様に関しては深く触れられていない。
さらに、従来の防水層のひび割れ試験方法では、引っ張り力や曲げ力を与えてひび割れを生じさせている(例えば、下記の特許文献1および2を参照)。また、地下水圧に相当する水圧を与えて、コンクリート試験体のひび割れを介して防水層がどのように変化するかを調べることのできる試験装置は存在しない。
【特許文献1】特開平11−83709公報
【特許文献2】特開2004−93402公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、下地コンクリートのひび割れを介した水圧によって防水層がどのように変化するかを、実際に近い条件で調べることのできる方法と、この方法が実施できる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のコンクリート防水層の試験方法は、下地コンクリートのひび割れを介した水圧による防水層の変化を調べる試験方法であって、先ず、互いに反対側となる2側面に防水層を形成する直方体のコンクリート試験体として、下記の構成(1) 〜(3) を満たすものを作製する。
(1) 上下面の中心を貫通する円柱状の穴を有し、この穴の断面円の、防水層を形成する2側面に垂直な直径に沿った方向の外側に、V字溝が形成されている。
(2) 直方体の四つの角部に配置された主筋と、防水層を形成する2側面の中央部が切断されている複数本の帯筋と、防水層を形成する2側面に配置された補助筋と、からなる配筋がなされている。
(3) 前記補助筋は前記主筋および帯筋より細く、主筋の長さ方向両端の帯筋に対して、当該帯筋と平行に、当該帯筋と接触するように、且つ両端が各主筋まで至るように配置されている。
【0006】
次に、このコンクリート試験体の前記2側面に防水層を形成する。次に、前記穴に加圧板を挿入して穴径を広げる方向に加圧することにより、コンクリート試験体にひび割れを生じさせる。次に、前記穴の内面に水圧を与える。
本発明の方法によれば、前記構成(1) 〜(3) を満たすコンクリート試験体を使用することにより、ひび割れが防水層を形成する2側面の方向にだけ生じ、他の2側面の方向には生じないようにすることができる。また、ひび割れを、コンクリートに発生するクラックと同様に、曲げを伴わない引っ張り破壊で発生させることができる。また、穴径を広げる方向に加圧する際の圧力を制御することにより、ひび割れ幅を任意の幅に制御することができる。
【0007】
また、コンクリート試験体を実際の施工に対応させた材料で作製し、任意の幅のひび割れを生じさせることにより、防水層の性能に対する、下地コンクリートの調合による影響、下地コンクリートの表面処理方法の影響、コンクリートのひび割れ幅の影響、防水層の施工方法の影響、防水層材料の種類による影響などを調べることができる。
【0008】
本発明はまた、下記の構成(4) を満たすひび割れ発生装置と、下記の構成(5) を満たす背面水圧作用装置と、を有することを特徴とするコンクリート防水層の試験装置を提供する。
(4) 前記コンクリート試験体の穴に入れる加圧板と、この加圧板に前記穴の径を広げる方向の圧力を付与する圧力付与手段と、を備えている。
(5) 前記コンクリート試験体の前記穴の両端面に相当する上下面を挟む一対の板状部材と、前記コンクリート試験体が移動しないように上下の板状部材を締結する締結部材と、上側の板状部材の前記穴に対応する位置に設けた注水口、圧力計、および安全弁と、を備えている。
本発明の試験装置によれば、ひび割れが形成されたコンクリート試験体に対して、地下水圧に相当する水圧を容易に与えることができるため、コンクリート地下壁の防水層の性能を実際に近い条件で評価することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、コンクリート試験体を実際の施工に対応させた材料で作製し、任意の幅のひび割れを生じさせることで、下地コンクリートのひび割れを介した水圧によって防水層がどのように変化するかを、実際に近い条件で調べることができる。
本発明の試験装置によれば、本発明の方法が容易に実施できるとともに、コンクリート地下壁の防水層の性能を実際に近い条件で評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態で使用するコンクリート試験体を示す斜視図である。図2は、このコンクリート試験体が有する鉄筋の骨組みを示す斜視図である。図3は、このコンクリート試験体の寸法を示す平面図(a)と側面図(b)である。
このコンクリート試験体1は、平面寸法が300mm×223mmで高さが200mmの直方体であり、上下面をなす長方形の長辺を有する300mm×200mmの2側面11,12を、防水層の形成面としている。また、このコンクリート試験体1には、上下面の中心を貫通する円柱状の穴13が形成されている。また、この穴13の断面円の、2側面11,12に垂直な直径Aに沿った方向の外側に、V字溝14が形成されている。
【0011】
このコンクリート試験体1が有する鉄筋の骨組み2は、直方体の四つの角部に配置される主筋21と、3対の帯筋22〜24と、4本の補助筋25とからなり、図2および3に示す配筋となるように、図示されない結束線で結合されている。
帯筋22〜24は、2側面11,12側の中央部が50mmの長さで切断されている。前述のV字溝14は、帯筋22〜24の切断された部分の中央に配置されている。なお、実際には、所定長さの鉄筋をコの字に折り曲げて、コの字の開口同士が対向配置されるように主筋21に結合することで、鉄筋の端面間に空間が形成され、この空間が帯筋22〜24の切断された部分となっている。
【0012】
補助筋25は、主筋2の長さ方向両端に配置された帯筋22,24の2側面11,12側に、帯筋22,24と平行に、帯筋22,24と接触するように、且つ両端が各主筋21まで至るように配置されている。ここでは、主筋21および帯筋22〜24として直径6mmの異形鉄筋を用い、補助筋25として直径4mmの棒ネジを用いた。
このコンクリート試験体1を図4に示す方法で作製した。先ず、前記寸法の直方体に対応させた内面31を有する型枠3内に、図2の鉄筋の骨組み2を入れて、その中心と型枠3の中心を合わせる。
【0013】
また、外径165mmで長さ200mmの塩化ビニール製の管4を用意し、その断面円の直径に沿って対向する位置に、断面が高さ9mmの二等辺三角形である長さ200mmの棒41を固定することで、穴13およびV字溝14の形成するための型40を作製する。なお、塩化ビニール製の管4には、断面円の一カ所に長さ方向全体に渡る切断部4aを形成し、ここに板材42を嵌めておく。
この型40も型枠3内に入れて、型40の中心と型枠の中心を合わせる。その際に、三角形の棒41が帯筋22〜24の切断部の中心に配置されるようにする。この状態でコンクリートを打設し、常温の空気中で1日置いて硬化させる。次に、型枠3を外し、板材42を抜いて型40を外し、水中で2週間養生した後、さらに1週間空気中で養生する。
【0014】
次に、このコンクリート試験体1の2側面11,12に防水層5を形成し、空気中で2週間養生した後、図5に示す方法でコンクリート試験体1にひび割れを生じさせる。先ず、コンクリート試験体1の穴13に、半円筒状の一対の加圧板61を、両者の端部がV字溝14の位置に配置されるように入れる。次に、両加圧板61の間に油圧シリンダ62を入れ、これに接続された油圧ポンプ63で、油圧シリンダ62を両加圧板61の間隔を開く方向に作動させる。これにより、コンクリート試験体1に、穴13の径を広げる方向の圧力が付与される。
【0015】
その結果、ひび割れは、コンクリート試験体1の防水層5が形成された2側面11,12の方向にだけ生じ、他の2側面の方向には生じなかった。また、ひび割れを、コンクリートに発生するクラックと同様に、曲げを伴わない引っ張り破壊で発生させることができた。また、コンクリート試験体1の上面のV字溝14の外側にパイ型変位計を取り付け、その測定値が所定値となった時点で圧力の付与を停止することで、コンクリート試験体1に設定された幅のひび割れを形成することができる。
この実施形態のひび割れ発生装置は、加圧板61と、油圧シリンダ(圧力付与手段)62と、これに接続された油圧ポンプ(圧力付与手段)63とで構成されている。
【0016】
次に、図6に示す背面水圧作用装置を用いて、コンクリート試験体1の穴13の内面に水圧を与える。
図6の背面水圧作用装置は、コンクリート試験体1の穴13の両端面に相当する上下面を挟む一対の長方形の板状部材71と、8本の支柱(締結部材)72と、支柱72の両端に設けた雄ねじに螺合するナット(締結部材)73を備えている。板状部材71の四つの端面に、U字状の切り込み71aが各二カ所に形成されている。上側の板状部材71には、コンクリート試験体1の穴13に対応する位置に、注水口74、圧力計75、および安全弁76が設けてある。また、これらの外側に把手77が取り付けてある。下側の板状部材71には、四つの角部の下に脚部78が固定されている。
【0017】
先ず、下側の板状部材71を水平な台上に設置し、その上に、穴13の周囲にOリングを配置した状態で、コンクリート試験体1を置く。次に、上面の穴13の周囲にOリングを配置した上に板状部材71を置いて、上下の板状部材71の切り込み71a同士を合わせる。次に、各切り込み71aに支柱72を嵌めて、両端の雄ねじにワッシャーを介してナット73を螺合させることで、上下の板状部材7を締結する。
この状態で、注水口74に給水管を接続して給水し、圧力計75が設定水圧を示すまでコンクリート試験体1の穴13内に水を入れることにより、穴13の内面に設定された水圧を与える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態で使用するコンクリート試験体を示す斜視図である。
【図2】図1のコンクリート試験体が有する鉄筋の骨組みを示す斜視図である。
【図3】図1のコンクリート試験体の寸法を示す平面図(a)と側面図(b)である。
【図4】図1のコンクリート試験体の作製方法を説明する図である。
【図5】この実施形態のひび割れ発生方法を説明する図である。
【図6】この実施形態の背面水圧作用装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 コンクリート試験体
11,12 防水層を形成する2側面
13 円柱状の穴
14 V字溝
2 鉄筋の骨組み
21 主筋
22〜24 帯筋
25 補助筋
3 型枠
40 型
5 防水層
61 加圧板
62 油圧シリンダ(圧力付与手段)
63 油圧ポンプ(圧力付与手段)
71 板状部材
71a U字状の切り込み
72 支柱(締結部材)
73 ナット(締結部材)
74 注水口
75 圧力計
76 安全弁
77 把手
78 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地コンクリートのひび割れを介した水圧による防水層の変化を調べる試験方法であって、
互いに反対側となる2側面に防水層を形成する直方体のコンクリート試験体として、
(1) 上下面の中心を貫通する円柱状の穴を有し、この穴の断面円の、防水層を形成する2側面に垂直な直径に沿った方向の外側にV字溝が形成され、
(2) 直方体の四つの角部に配置された主筋と、防水層を形成する2側面の中央部が切断されている複数本の帯筋と、防水層を形成する2側面に配置された補助筋とからなる配筋がなされ、
(3) 前記補助筋は前記主筋および帯筋より細く、主筋の長さ方向両端の帯筋に対して、当該帯筋と平行に、当該帯筋と接触するように、且つ両端が各主筋まで至るように配置されたものを作製し、
このコンクリート試験体の前記2側面に防水層を形成した後、
前記穴に加圧板を挿入して穴径を広げる方向に加圧することにより、コンクリート試験体にひび割れを生じさせた後、前記穴の内面に水圧を与えることを特徴とするコンクリート防水層の試験方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法で使用する試験装置であって、
前記コンクリート試験体の穴に入れる加圧板と、この加圧板に前記穴の径を広げる方向の圧力を付与する圧力付与手段と、を備えたひび割れ発生装置と、
前記コンクリート試験体の前記穴の両端面に相当する上下面を挟む一対の板状部材と、前記コンクリート試験体が移動しないように上下の板状部材を締結する締結部材と、上側の板状部材の前記穴に対応する位置に設けた注水口、圧力計、および安全弁と、を備えた背面水圧作用装置と、
を有することを特徴とするコンクリート防水層の試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−256178(P2007−256178A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83231(P2006−83231)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】