説明

コンデンサの絶縁抵抗測定装置およびコンデンサの絶縁抵抗測定方法

【課題】測定コストの上昇の抑制とハムノイズの除去とを行いつつ、充電状態を揃えて絶縁抵抗を測定する。
【解決手段】m個のコンデンサ11に試験電圧Vを同時に印加する電圧出力部2と、各コンデンサ11に流れる電流Iを検出して検出信号SIを出力する電流検出部3と、各検出信号SIの1つを選択して特定検出信号SIsとして出力する信号切替部4と、特定検出信号SIsの波形データDwを出力する1つのA/D変換部6と、波形データDwで示される電流値と試験電圧Vとから各コンデンサ11の絶縁抵抗IRを算出する処理部6とを備え、処理部6は、信号切替部4を切替制御して、(Tc×m/n)以上であるTcの最小の倍数を時間kとしたときに、n個のポイントの時間間隔が(Tc/n+k)となり、各検出信号SIの1個目のポイントがすべて異なる時間で、かつ期間(Tc/n+k)内に含まれるように信号切替部4を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加すると共に、各コンデンサに流れる電流を検出し、検出した各電流の電流値および試験電圧の電圧値に基づいて、各コンデンサの絶縁抵抗を測定するコンデンサの絶縁抵抗測定装置およびコンデンサの絶縁抵抗測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサの絶縁抵抗を測定する方法として、測定用の直流電圧をコンデンサに印加し、十分に充電された後のコンデンサの漏れ電流(充電電流)を測定する方法が知られており、この方法の一つとして、JIS−C5102で規定された測定方法が知られている。この測定方法は、下記特許文献1の従来の技術に記載されているように、コンデンサが十分に充電された状態での電流値を測定する必要があるため、コンデンサ1個当たりの測定時間が長くなるという課題が存在していた。
【0003】
この課題を解決するため、下記特許文献1には、測定方法自体は同じであるが、この測定方法を複数のコンデンサに同時に適用することにより、つまり、複数のコンデンサに対して同時に充電(予備充電)と絶縁抵抗測定とを行うことにより、単位時間当たりのコンデンサの測定時間を短縮するバッチ方式による絶縁抵抗の測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−227821号公報(第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記したバッチ方法によるコンデンサの絶縁抵抗測定方法には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、このコンデンサの絶縁抵抗測定方法には、予備充電された複数のコンデンサの絶縁抵抗を同時に測定するため、複数のコンデンサに流れる電流(絶縁抵抗を流れる漏れ電流)を同時に測定するための多数の電流測定装置が必要になり(例えば、電流測定装置が、検出抵抗などで構成されて電流を検出すると共に電圧に変換して出力する電流検出部、電流検出部から出力される電圧をサンプリングして波形データに変換して出力するA/D変換部、および波形データに基づいて電流値を算出する処理部を備える構成のときには、A/D変換部および処理部が多数必要になり)、測定コストが上昇するという解決すべき課題が存在している。
【0006】
一方、この課題を解決するため、1つの電流測定装置を切替回路を介して複数のコンデンサに接続し、切替回路を作動させてコンデンサを1つずつ電流測定装置に接続することにより、各コンデンサに流れる電流を順次測定することで、使用する電流測定装置の数を減らして測定コストの上昇を抑制する測定方法も考えられる。
【0007】
ところで、コンデンサに流れる電流にハムノイズ(商用電源の周波数(商用周波数)と同じ周波数の正弦波状のノイズ)が重畳する場合があり、このハムノイズを除去(キャンセル)してこの電流を測定するためには、ハムノイズが重畳することによって正弦波状の信号波形となる電流について、商用周波数の1周期の期間内において複数ポイントの電流値を測定する必要がある。
【0008】
しかしながら、切替回路を作動させてコンデンサを1つずつ1つの電流測定装置に接続しつつ各コンデンサに流れる電流を順次測定する上記の絶縁抵抗測定方法に、コンデンサ毎に複数ポイントの電流値を測定する構成を適用してなる新たな絶縁抵抗測定方法では、複数のコンデンサのうちの最初に電流値を測定したコンデンサの電流測定時刻と、最後に電流値を測定したコンデンサの電流測定時刻とが大きく相違する状態が発生する場合がある。この場合、充電は同時に開始されることから、充電の開始から電流の測定開始(または測定完了)までに要する時間が特に最初のコンデンサと最後のコンデンサとで大きく相違する状態、すなわち、充電状態が大きく相違する状態となる。このため、同一のコンデンサであってもこのように充電状態が相違する状態で測定される電流の電流値には差異が生じ、この結果として、測定される絶縁抵抗にも差異が生じる。
【0009】
したがって、充電状態が大きく相違する状態で電流を測定することになる上記の新たなコンデンサの絶縁抵抗測定方法には、測定コストの上昇の抑制とハムノイズの除去とを行えるものの、充電状態が揃った状態での絶縁抵抗の測定が行えないという解決すべき新たな課題が存在している。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、測定コストの上昇の抑制とハムノイズの除去とを行いつつ、充電状態の揃った状態で絶縁抵抗の測定を行い得るコンデンサの絶縁抵抗測定装置、およびコンデンサの絶縁抵抗測定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく請求項1記載のコンデンサの絶縁抵抗測定装置は、m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加する電圧出力部と、前記コンデンサ毎に配設されて、対応する当該コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を出力するm個の電流検出部と、当該m個の電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を入力すると共に当該各検出信号のうちの任意の1つの検出信号を選択して特定検出信号として出力する信号切替部と、前記特定検出信号をサンプリングして、当該特定検出信号の波形データを出力する1つのA/D変換部と、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、m個の前記電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける前記波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行する処理部とを備え、前記処理部は、前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとし、かつ(Tc×m/n)の時間長以上であるTcの最小の倍数を時間kとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔が(Tc/n+k)となると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつ(Tc/n+k)の期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させる。
【0012】
また、請求項2記載のコンデンサの絶縁抵抗測定装置は、m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加する電圧出力部と、前記コンデンサ毎に配設されて、対応する当該コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を出力するm個の電流検出部と、当該m個の電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を入力すると共に当該各検出信号のうちの任意の1つの検出信号を選択して特定検出信号として出力する信号切替部と、前記特定検出信号をサンプリングして、当該特定検出信号の波形データを出力する1つのA/D変換部と、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、m個の前記電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける前記波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行する処理部とを備え、前記処理部は、前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔がTc/nとなると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつTc/nの期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させる。
【0013】
また、請求項3記載のコンデンサの絶縁抵抗測定方法は、m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加すると共に、前記各コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を当該コンデンサ毎に配設した電流検出部によって検出しつつ、m個の前記電流検出部から出力されるm個の前記検出信号のうちの任意の1つの検出信号を信号切替部に入力すると共に当該信号切替部に対する切替制御を実行して特定検出信号としてA/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行するコンデンサの絶縁抵抗測定方法であって、前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとし、かつ(Tc×m/n)の時間長以上であるTcの最小の倍数を時間kとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔が(Tc/n+k)となると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつ(Tc/n+k)の期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させる。
【0014】
また、請求項4記載のコンデンサの絶縁抵抗測定方法は、m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加すると共に、前記各コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を当該コンデンサ毎に配設した電流検出部によって検出しつつ、m個の前記電流検出部から出力されるm個の前記検出信号のうちの任意の1つの検出信号を信号切替部に入力すると共に当該信号切替部に対する切替制御を実行して特定検出信号としてA/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行するコンデンサの絶縁抵抗測定方法であって、前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔がTc/nとなると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつTc/nの期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のコンデンサの絶縁抵抗測定装置および請求項3記載のコンデンサの絶縁抵抗測定方法によれば、m個の検出信号についてのn個の各ポイントにおける波形データを、1個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、2個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、3個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、・・・、m個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、1個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、2個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、3個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、・・・、m個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、・・・、1個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データ、2個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データ、3個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データ、・・・、m個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データというように、各検出信号についての波形データを1つずつ順番に取得することができる。
【0016】
このため、1つの検出信号についての全ポイントにおける波形データを取得した後に、次の1つの検出信号についての全ポイントにおける波形データを取得するという動作を、すべての検出信号について実行する構成と比較して、最初に波形データの取得を開始した1個目の検出信号についてのn個すべての波形データの取得の完了から、最後に波形データの取得を開始したm個目の検出信号についてのn個すべての波形データの取得の完了までの時間を短縮することができる結果、各コンデンサの充電状態がより揃っている状態で、つまり、各電流の波形が揃っている状態で、波形データを取得することができる。このため、取得した波形データに基づいて算出する絶縁抵抗の測定精度のコンデンサ毎のバラツキを十分に低減させることができる。
【0017】
また、このコンデンサの絶縁抵抗測定装置およびコンデンサの絶縁抵抗測定方法によれば、使用するA/D変換部の数が1つで済むため、検出信号毎にA/D変換部を配設する構成と比較して、測定コストを安価にすることができる。つまり、測定コストの上昇を抑制することができる。また、各検出信号についてのn個のポイントの時間間隔がTc/n+kとなるように信号切替部に対する切替制御を実行することにより、各検出信号を時間間隔Tc/nでサンプリングしたのと等価な波形データを取得できるため、各コンデンサに流れる電流に重畳しているハムノイズ成分を確実かつ簡単に除去することができ、この結果として、各コンデンサの絶縁抵抗を一層精度良く測定することができる。
【0018】
請求項2記載のコンデンサの絶縁抵抗測定装置および請求項4記載のコンデンサの絶縁抵抗測定方法によれば、m個の検出信号についてのn個の各ポイントにおける波形データを、1個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、2個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、3個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、・・・、m個目の検出信号についての1個目のポイントにおける波形データ、1個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、2個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、3個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、・・・、m個目の検出信号についての2個目のポイントにおける波形データ、・・・、1個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データ、2個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データ、3個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データ、・・・、m個目の検出信号についてのn個目のポイントにおける波形データというように、各検出信号についての波形データを1つずつ順番に、しかも商用電源の1周期Tc内で取得することができる。
【0019】
このため、1つの検出信号についての全ポイントにおける波形データを取得した後に、次の1つの検出信号についての全ポイントにおける波形データを取得するという動作を、すべての検出信号について実行する構成と比較して、最初に波形データの取得を開始した1個目の検出信号についてのn個すべての波形データの取得の完了から、最後に波形データの取得を開始したm個目の検出信号についてのn個すべての波形データの取得の完了までの時間を大幅に短縮することができる結果、各コンデンサの充電状態が一層揃っている状態で、つまり、各電流の波形が一層揃っている状態で、波形データを取得することができる。このため、取得した波形データに基づいて算出する絶縁抵抗の測定精度のコンデンサ毎のバラツキを十分に低減させることができる。
【0020】
また、このコンデンサの絶縁抵抗測定装置およびコンデンサの絶縁抵抗測定方法によれば、使用するA/D変換部の数が1つで済むため、検出信号毎にA/D変換部を配設する構成と比較して、測定コストを安価にすることができる。つまり、測定コストの上昇を抑制することができる。また、各検出信号についてのn個のポイントの時間間隔がTc/nとなるように信号切替部に対する切替制御を実行することにより、各検出信号を時間間隔Tc/nでサンプリングしたのと等価な波形データを取得できるため、各コンデンサに流れる電流に重畳しているハムノイズ成分を確実かつ簡単に除去することができ、この結果として、各コンデンサの絶縁抵抗を一層精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】絶縁抵抗測定装置1の構成図である。
【図2】各コンデンサ11に流れる電流Iの時間的変化を示す説明図である。
【図3】絶縁抵抗測定装置1の絶縁抵抗測定動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】絶縁抵抗測定装置1の他の絶縁抵抗測定動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、コンデンサの絶縁抵抗測定装置およびコンデンサの絶縁抵抗測定方法の実施の形態について説明する。
【0023】
まず、コンデンサの絶縁抵抗測定装置1(以下、単に「絶縁抵抗測定装置1」ともいう)の構成について図1を参照して説明する。
【0024】
絶縁抵抗測定装置1は、図1に示すように、電圧出力部2、複数(後述するコンデンサ11と同数の2以上の整数であるm個)の電流検出部3,3,・・・,3(以下、特に区別しないときには「電流検出部3」ともいう)、信号切替部4、A/D変換部5、処理部6、記憶部7および表示部8を備え、複数(2以上の整数であるm個)のコンデンサ11,11,・・・,11(以下、特に区別しないときには「コンデンサ11」ともいう)についての絶縁抵抗IR,IR,・・・,IR(以下、特に区別しないときには「絶縁抵抗IR」ともいう)を同時に測定する。
【0025】
電圧出力部2は、一例として1台の定電圧電源で構成されている。また、電圧出力部2は、処理部6によって制御されることにより、直流電圧としての試験電圧V(電圧値V1)を一対の電源ライン12,13間に出力する。この場合、一対の電源ライン12,13のうちの一方の電源ライン12には、各コンデンサ11,11,・・・,11の一方の端部に接続される複数(コンデンサ11と同じm個)の第1プローブ14が接続され、他方の電源ライン13は、後述するように各コンデンサ11,11,・・・,11毎に配設された複数の電流検出部3に共通接続されている。
【0026】
複数の電流検出部3は、各コンデンサ11,11,・・・,11の他方の端部に接続される複数(コンデンサ11と同じm個)の第2プローブ15の各々と、電源ライン13との間に配設されている。このようにして、コンデンサ11,11,・・・,11毎に配設された各電流検出部3,3,・・・,3は、対応するコンデンサ11,11,・・・,11に流れる電流I1,I2,・・・,Im(以下、特に区別しないときには「電流I」ともいう)を検出すると共に、各電流I1,I2,・・・,Imの振幅に比例して振幅が変化する検出信号SI,SI,・・・,SI(以下、特に区別しないときには「検出信号SI」ともいう)を出力する。
【0027】
なお、コンデンサ11は、図示はしないが、容量成分と、この容量成分に並列に接続された絶縁抵抗(IR)とを含む回路で等価的に表される。このため、試験電圧Vを印加したときにコンデンサ11に流れる電流Iは、図2に示すように、容量成分を介して瞬間的に流れることによって一旦大きな電流値となり、その後は、容量成分の充電が進むに従って次第に低下し、絶縁状態の正常な(絶縁抵抗(IR)の大きな)コンデンサ11の場合には、試験電圧Vの印加開始からの経過時間がある時間に達した以降(同図では、時間t1以降)に、予め規定された閾値Ithを下回る電流値Idとなる。この電流値Idは、コンデンサ11のいわゆる漏れ電流の電流値であり、極めて小さい電流値である。このため、一定の電流値Idとなった時点での電流Iは、ハムノイズの影響を受けやすく、その波形は図3に示すように、直流成分としての電流値Id(同図では、電流I1については電流値Id1,電流I2については電流値Id2,電流I3については電流値Id3を示す)に、ハムノイズの交流成分(商用電源の周期Tc(例えば、20ms)と同じ周期の交流成分)Iacが重畳した波形として観測される。
【0028】
信号切替部4は、一例として複数の切替スイッチ(図示せず)が組み合わされて構成されている。また、信号切替部4は、各電流検出部3,3,・・・,3から出力される検出信号SI,SI,・・・,SIを入力すると共に、各切替スイッチのオン・オフ状態が処理部6によって制御されることにより、各検出信号SIのうちの任意の1つを選択して、特定検出信号SIsとして出力する。
【0029】
A/D変換部5は、特定検出信号SIsを予め規定されたサンプリング周期でサンプリングすることにより、特定検出信号SIsの振幅を示す波形データDwを出力する。この場合、この波形データDwは、特定検出信号SIsとしての検出信号SIを出力する電流検出部3において検出されたコンデンサ11に流れる電流Iの電流値を示す。
【0030】
処理部6は、CPUを備えて構成されて、電圧出力部2および信号切替部4に対する制御を実行する。また、処理部6は、データ取得処理、電流算出処理および抵抗算出処理を実行する。この場合、処理部6は、データ取得処理では、m個の検出信号SIのそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける波形データDwを取得する。また、処理部6は、電流算出処理では、取得した波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iの電流値Idを算出する。また、処理部6は、抵抗算出処理では、各コンデンサ11に流れる電流Iの電流値Idと試験電圧Vの電圧値V1とに基づいて、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRを算出する。
【0031】
記憶部7は、一例として半導体メモリやハードディスク装置を用いて構成されて、処理部6のための動作プログラムを記憶する。表示部8は、一例として、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイ装置で構成されている。
【0032】
次に、絶縁抵抗測定装置1の動作と共に、コンデンサの絶縁抵抗測定方法(以下、単に「絶縁抵抗測定方法」ともいう)について図面を参照して説明する。なお、一例として、3(=m)個の各コンデンサ11,11,11に流れる電流I1,I2,I3についての3つの検出信号SI,SI,SIのそれぞれについて、一例として6(=n)個のポイントにおける波形データDwを取得し、これらの波形データDwに基づいて、各コンデンサ11,11,11の絶縁抵抗IRを測定する例を挙げて説明する。
【0033】
まず、各コンデンサ11,11,11の一方の端部に第1プローブ14が接続され、各コンデンサ11,11,11の他方の端部に第2プローブ15が接続されている状態において、処理部6は、電圧出力部2に対する制御を実行して、試験電圧Vの出力を開始させる。
【0034】
これにより、各コンデンサ11,11,11には、電流I1,I2,I3が流れ始め、各コンデンサ11,11,11の絶縁状態が正常なときには、各電流Iは、図2に示すように、試験電圧Vの印加開始から時間t1を経過した以降において、予め規定された閾値Ith以下の電流値Idとなる。なお、各電流I1,I2,I3の電流値Idを、電流値Id1,Id2,Id3ともいう。また、各電流検出部3,3,3は、対応するコンデンサ11,11,11に流れる電流I1,I2,I3を検出しつつ、検出した電流I1,I2,I3の振幅に応じて振幅が変化する検出信号SI,SI,SIを出力する。
【0035】
処理部6は、試験電圧Vの印加開始からの経過時間を計測しつつ、経過時間が上記の時間t1に達した時点からデータ取得処理を実行する。この場合、各コンデンサ11,11,11は、時間t1までにそれらの容量成分が十分に充電されているため、電流I1,I2,I3の殆どが容量成分に並列に接続された絶縁抵抗IRに流れている状態にある。このため、各電流I1,I2,I3の電流値はほぼ一定の状態となっている。
【0036】
このデータ取得処理では、処理部6は、まず、時間間隔Tc/nの反復計測(計測を繰り返すこと)を実行し、一例として、この時間間隔Tc/nの計測の開始時点を検出信号SIについての1個目(最初)のポイント(ポイントP1)として、図3に示すように、このポイントP1における波形データDw1を取得して、検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。また、処理部6は、時間間隔Tc/nの計測の開始時点(本例では、検出信号SIのポイントP1における波形データDw1の取得時点)において、検出信号SIについての時間間隔T1(=Tc/n+k)の反復計測を開始する。この場合、kは、Tc×m/n以上であるTcの最小の倍数(Tcの倍数のうちのTc×m/n以上の最小の倍数)であり、処理部6が予め算出する。なお、処理部6が算出する構成に代えて、処理部6に入力部(不図示)を接続し、この入力部から処理部6に入力する構成を採用することもできる。本例では、Tc×m/nは、Tc/2(=Tc×3/6)となるため、Tc/2以上であるTcの最小の倍数はTcであり、k=20ms(=Tc)となる。したがって、時間間隔T1=23.33msとなる。
【0037】
次いで、処理部6は、時間間隔Tc/nの反復計測において、2回目の時間間隔Tc/nの計測の開始時点を検出信号SIについての1個目(最初)のポイント(ポイントP1)として、図3に示すように、このポイントP1における波形データDw2を取得して、検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。また、処理部6は、この2回目の時間間隔Tc/nの計測の開始時点(本例では、検出信号SIのポイントP1における波形データDw2の取得時点)において、検出信号SIについての時間間隔T2(=T1)の反復計測を開始する。
【0038】
続いて、処理部6は、時間間隔Tc/nの反復計測において、3回目の時間間隔Tc/nの計測の開始時点を検出信号SIについての1個目(最初)のポイント(ポイントP1)として、図3に示すように、このポイントP1における波形データDw3を取得して、検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。また、処理部6は、この3回目の時間間隔Tc/nの計測の開始時点(本例では、検出信号SIのポイントP1における波形データDw3の取得時点)において、検出信号SIについての時間間隔T3(=T1)の反復計測を開始する。このようにして、処理部6は、時間間隔T1,T2,T3の反復計測を並行して実行する。
【0039】
その後、処理部6は、新たな時間間隔T1の計測の開始時点において、この開始時点を検出信号SIについての次のポイントとして、図3に示すように、各ポイント(ポイントP2,P3,・・・,P6)における波形データDw1,Dw1,・・・,Dw1を取得して、検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。また、処理部6は、新たな時間間隔T2の計測の開始時点において、この開始時点を検出信号SIについての次のポイントとして、各ポイント(ポイントP2,P3,・・・,P6)における波形データDw2,Dw2,・・・,Dw2を取得して、検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。また、処理部6は、新たな時間間隔T3の計測の開始時点において、この開始時点を検出信号SIについての次のポイントとして、各ポイント(ポイントP2,P3,・・・,P6)における波形データDw3,Dw3,・・・,Dw3を取得して、検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。
【0040】
この場合、処理部6は、m(=3)個の検出信号SI,SI,SIについてのn(=6)個の各ポイントP1〜P6における波形データDw1〜Dw1,Dw2〜Dw2,Dw3〜Dw3の取得の際に、信号切替部4に対する切替制御を実行して、検出信号SI,SI,SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に順次出力させつつ、A/D変換部5から出力される波形データDwを取得して、取得した波形データDwを特定検出信号SIsとして信号切替部4から出力させている検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。
【0041】
処理部6は、検出信号SI,SI,SIのすべてについて、n(=6)個の各ポイントP1〜P6における波形データDwの取得が完了した時点で、データ取得処理を完了させる。このようにして、このデータ取得処理によって取得された検出信号SIについての各波形データDw1〜Dw1は、図3に示すように、電流I1の直流成分(電流値Id1)に重畳しているハムノイズの交流成分(商用電源の周期Tcと同じ周期の交流成分)Iacを時間Tc/6(=Tc/n)ずつずらしてサンプリングしたデータとなっている。このため、各波形データDw1〜Dw1は、結果として、この交流成分Iacの1周期分をTc/6の周期でサンプリングして得られる波形データと等価なデータとなる。
【0042】
また、各波形データDw1〜Dw1と同様にして、各波形データDw2〜Dw2についても、図3に示すように、電流I2の直流成分(電流値Id2)に重畳しているハムノイズの交流成分Iacの1周期分をTc/6の周期でサンプリングして得られる波形データと等価なデータとなり、各波形データDw3〜Dw3についても、電流I3の直流成分(電流値Id3)に重畳しているハムノイズの交流成分Iacの1周期分をTc/6の周期でサンプリングして得られる波形データと等価なデータとなる。
【0043】
次いで、処理部6は、電流算出処理を実行する。この電流算出処理では、処理部6は、取得した各検出信号SIについての各ポイントP1〜P6における波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iの電流値Id(漏れ電流の電流値)を算出する。
【0044】
具体的には、処理部6は、まず、各検出信号SIについての各ポイントP1〜P6における波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iの各ポイントP1〜P6での電流値を算出する。次いで、処理部6は、この検出した電流Iの各ポイントP1〜P6での電流値を平均(加算してn(=6)で除算)することにより、直流成分としての電流値Idを算出する。
【0045】
この場合、上記したように、電流Iの各ポイントP1〜P6での電流値は、交流信号としてのハムノイズの1周期分を時間間隔Tc/6でサンプリングして得られた波形データDwに基づいて算出される値である。このため、各ポイントP1〜P6での電流値の加算により、ハムノイズの周波数成分(つまり、交流成分Iac)が除去されて、直流成分としての電流値Idが算出される。処理部6は、算出した各電流I1,I2,I3についての電流値Id1,Id2,Id3を記憶部7に記憶させる。これにより、電流算出処理が完了する。
【0046】
続いて、処理部6は、抵抗算出処理を実行する。この抵抗算出処理では、処理部6は、各コンデンサ11,11,11に流れる電流I1,I2,I3の電流値Id1,Id2,Id3で試験電圧Vの電圧値V1を除算することにより、各コンデンサ11,11,11の絶縁抵抗IR,IR,IRを算出(測定)し、各コンデンサ11,11,11の識別情報に対応させて記憶部7に記憶させる。これにより、抵抗算出処理が完了する。最後に、処理部6は、各コンデンサ11,11,11の絶縁抵抗IR,IR,IRを記憶部7から読み出して、表示部8に表示させる。この場合、処理部6は、絶縁状態が正常なときの各コンデンサ11についての標準絶縁抵抗IRrefと、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRとを比較して、その比較結果についても併せて表示部8に表示させることもできる。
【0047】
このように、この絶縁抵抗測定装置1および絶縁抵抗測定方法では、ハムノイズの周期である商用電源の1周期をTcとしたときに、m(=3)個の各検出信号SI,SI,SIについてのn(=6)個のポイントP1〜P6の時間間隔T1,T2,T3がTc/n+k(=23.33ms)となると共に、各検出信号SI,SI,SIについての1個目のポイントP1が時間軸上においてすべて異なる時間で、かつ(Tc/n+k)の期間内に含まれるように、処理部6が信号切替部4を制御して、各検出信号SI,SI,SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に順次出力させて、各波形データDw1〜Dw1,Dw2〜Dw2,Dw3〜Dw3を取得している。
【0048】
したがって、この絶縁抵抗測定装置1および絶縁抵抗測定方法によれば、m(=3)個の検出信号SI,SI,SIについてのn(=6)個の各ポイントP1〜P6における波形データDwを、Dw1,Dw2,Dw3,Dw1,Dw2,Dw3,・・・,Dw1,Dw2,Dw3というように、1つずつ順番に取得することができる。
【0049】
このため、1つの検出信号SIについての全ポイントPにおける波形データDwを取得した後に、次の1つの検出信号SIについての全ポイントPにおける波形データDwを取得するという動作を、すべての検出信号SIについて実行する構成(上記の例では、検出信号SIについての波形データDw1〜Dw1を取得し、次いで、検出信号SIについての波形データDw2〜Dw2を取得し、最後に、検出信号SIについての波形データDw3〜Dw3を取得するという構成)と比較して、最初に波形データDwの取得を開始した検出信号SIについてのn(=6)個すべての波形データDwの取得の完了から、最後に波形データDwの取得を開始した検出信号SIについてのn(=6)個すべての波形データDwの取得の完了までの時間を短縮することができる結果、各コンデンサ11の充電状態がより揃っている状態で、つまり、電流I1,I2,I3の波形が揃っている状態で、波形データDwを取得することができる。このため、取得した波形データDwに基づいて算出する絶縁抵抗IRの測定精度のコンデンサ11毎のバラツキを十分に低減させることができる。
【0050】
また、この絶縁抵抗測定装置1および絶縁抵抗測定方法によれば、使用するA/D変換部5の数が1つで済むため、検出信号SI毎にA/D変換部5を配設する構成と比較して、測定コストを安価にすることができる。つまり、測定コストの上昇を抑制することができる。
【0051】
また、各検出信号SIについてのn(=6)個のポイントPの時間間隔T1,T2,T3がTc/n+kとなるように処理部6が信号切替部4に対する切替制御を実行することにより、各検出信号SIを時間間隔Tc/nでサンプリングしたのと等価な波形データDwを取得できる。このため、各検出信号SIについての各ポイントP1〜P6での電流値の加算により、各コンデンサ11に流れる電流Iに重畳しているハムノイズの周波数成分(つまり、交流成分Iac)を確実かつ簡単に除去することができ、これにより、直流成分としての電流値Idを精度よく算出できる結果、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRを精度良く測定することができる。
【0052】
なお、上記の絶縁抵抗測定装置1および絶縁抵抗測定方法では、図3に示すように、各検出信号SIについての同じポイントPを同じ時間間隔Tc/nずつ(均等に)ずらす構成(例えば、検出信号SI,SI,SIの各ポイントP1を同じ時間間隔Tc/nずつずらす構成)を採用しているが、不均等にずらす構成を採用することもできる。
【0053】
次いで、他の絶縁抵抗測定装置および他の絶縁抵抗測定方法について説明する。
【0054】
まず、絶縁抵抗測定装置1Aの構成について説明する。なお、絶縁抵抗測定装置1Aは、処理部6Aを除き絶縁抵抗測定装置1と同一である。このため、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0055】
絶縁抵抗測定装置1Aは、図1に示すように、電圧出力部2、m個の電流検出部3,3,・・・,3、信号切替部4、A/D変換部5、処理部6A、記憶部7および表示部8を備え、m個のコンデンサ11,11,・・・,11についての絶縁抵抗IR,IR,・・・,IRを同時に測定する。
【0056】
処理部6Aは、CPUを備えて構成されて、電圧出力部2および信号切替部4に対する制御を実行する。また、処理部6Aは、データ取得処理、電流算出処理および抵抗算出処理を実行する。この場合、処理部6Aは、データ取得処理では、m個の検出信号SIのそれぞれについてn個のポイントにおける波形データDwを取得する。また、処理部6Aは、電流算出処理では、取得した波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iの電流値Idを算出する。また、処理部6Aは、抵抗算出処理では、各コンデンサ11に流れる電流Iの電流値Idと試験電圧Vの電圧値V1とに基づいて、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRを算出する。
【0057】
次に、絶縁抵抗測定装置1Aの動作と共に、絶縁抵抗測定方法について図面を参照して説明する。なお、処理部6Aが、m個の検出信号SIのそれぞれについて、一例として8(=n)個のポイントにおける波形データDwを取得し、これらの波形データDwに基づいて、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRを測定する例を挙げて説明する。
【0058】
まず、各コンデンサ11,11,・・・,11の一方の端部に第1プローブ14が接続され、各コンデンサ11,11,・・・,11の他方の端部に第2プローブ15が接続されている状態において、処理部6Aは、電圧出力部2に対する制御を実行して、試験電圧Vの出力を開始させる。
【0059】
これにより、各コンデンサ11,11,・・・,11には、電流I1,I2,・・・,Imが流れ始め、各コンデンサ11,11,・・・,11の絶縁状態が正常なときには、各電流Iは、図2に示すように、試験電圧Vの印加開始から時間t1を経過した以降において、予め規定された閾値Ith以下の電流値Idとなる。なお、各電流I1,I2,・・・,Imの電流値Idを、電流値Id1,Id2,・・・,Idmともいう。また、各電流検出部3,3,・・・,3は、対応するコンデンサ11,11,・・・,11に流れる電流I1,I2,・・・,Imを検出しつつ、検出した電流I1,I2,・・・,Imの振幅に応じて振幅が変化する検出信号SI,SI,・・・,SIを出力する。
【0060】
処理部6Aは、試験電圧Vの印加開始から経過時間を計測しつつ、経過時間が上記の時間t1に達した時点からその後の時間t2までの短い期間(この間での電流値Idの変化量がほぼゼロとみなせる程度に短い期間。図2,4参照)において、データ取得処理を実行する。
【0061】
このデータ取得処理では、処理部6Aは、まず、時間間隔Tc/nの計測を繰り返し実行し、一例として、この時間間隔Tc/nの計測の開始時点を最初のポイントP(ポイントP1)とし、その後に到来する時間間隔Tc/nの計測完了の時点を新たなポイントP(ポイントP2,P3,・・・)として、各検出信号SI,SI,・・・,SIのそれぞれについて各ポイントP1,P2,・・・,Pnにおける波形データDwを取得して、記憶部7に記憶させる。本例では、n=8であるため、処理部6Aは、時間間隔Tc/8の計測を繰り返し実行して、各検出信号SI,SI,・・・,SIのそれぞれについて各ポイントP1,P2,・・・,P8における波形データDwを取得して、記憶部7に記憶させる。
【0062】
具体的には、処理部6Aは、m個の検出信号SIについての8個すべてのポイントPにおける波形データDwの取得の際に、信号切替部4に対する切替制御を実行して、各検出信号SIについてのn個のポイントP1〜P8の時間間隔がTc/n(=Tc/8)となると共に、各検出信号SIについての1個目のポイントP1が時間軸上においてすべて異なる時間で、かつTc/nの期間内に含まれるようにm個の検出信号SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に順次出力させる。また、処理部6Aは、A/D変換部5から出力される波形データDwを取得して、取得した波形データDwを特定検出信号SIsとして信号切替部4から出力させている検出信号SIに対応させて記憶部7に記憶させる。
【0063】
例えば、図4に示すように、処理部6Aは、m個の検出信号SIについての1個目のポイント(ポイントP1)における波形データDw1,Dw2,・・・,Dwmの取得の際に、信号切替部4に対する切替制御を実行して、m個の検出信号SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に、検出信号SI,SI,・・・,SIの順で順次出力させつつ、A/D変換部5から出力される波形データDwを、波形データDw1,Dw2,・・・,Dwmとして取得して、この取得した波形データDw1,Dw2,・・・,Dwmを特定検出信号SIsとして信号切替部4から出力させている検出信号SI,SI,・・・,SIに対応させて記憶部7に記憶させる。
【0064】
また、処理部6Aは、次の2個目のポイント(ポイントP2)における波形データDw1,Dw2,・・・,Dwmの取得の際にも、信号切替部4に対する切替制御を同様に実行して、m個の検出信号SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に、検出信号SI,SI,・・・,SIの順で順次出力させつつ、A/D変換部5から出力される波形データDwを、波形データDw1,Dw2,・・・,Dwmとして取得して、この取得した波形データDw1,Dw2,・・・,Dwmを特定検出信号SIsとして信号切替部4から出力させている検出信号SI,SI,・・・,SIに対応させて記憶部7に記憶させる。
【0065】
処理部6Aは、3個目以降の各ポイントP3,P4,・・・,P8においても、上記したポイントP1,P2のときと同様にして、信号切替部4に対する切替制御を同様に実行して、m個の検出信号SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に、検出信号SI,SI,・・・,SIの順で順次出力させつつ、A/D変換部5から出力される波形データDwを取得して、この取得した波形データDwを特定検出信号SIsとして信号切替部4から出力させている検出信号SI,SI,・・・,SIに対応させて記憶部7に記憶させる。
【0066】
これにより、記憶部7には、検出信号SIについての各ポイントP1〜P8における波形データDw1,Dw1,・・・,Dw1、検出信号SIについての各ポイントP1〜P8における波形データDw2,Dw2,・・・,Dw2、・・・、および検出信号SIについての各ポイントP1〜P8における波形データDwm,Dwm,・・・,Dwmが記憶される。この場合、処理部6Aは、図4に示すように、各検出信号SIについての各ポイントP1〜P8における波形データDwの時間間隔がTc/8となるように、信号切替部4に対する切替制御を実行すると共に、A/D変換部5から出力される波形データDwを取得する。以上により、データ取得処理が完了する。
【0067】
次いで、処理部6Aは、電流算出処理を実行する。この電流算出処理では、処理部6Aは、取得した各検出信号SIについての各ポイントP1〜P8における波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iの電流値Id(漏れ電流の電流値)を算出する。
【0068】
具体的には、処理部6Aは、まず、各検出信号SIについての各ポイントP1〜P8における波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iの各ポイントP1〜P8での電流値を算出する。次いで、処理部6Aは、この検出した電流Iの各ポイントP1〜P8での電流値を加算することにより、直流成分としての電流値Idを算出する。
【0069】
この場合、電流Iの各ポイントP1〜P8での電流値は、交流信号としてのハムノイズの1周期分を時間間隔Tc/8でサンプリングして得られた波形データDwに基づいて算出される値である。このため、各ポイントP1〜P8での電流値の平均(加算してn(=8)で除算)することにより、ハムノイズの周波数成分(つまり、交流成分Iac)が除去されて、直流成分としての電流値Idが算出される。処理部6Aは、算出した各電流I1,I2,・・・,Imについての電流値Id1,Id2,・・・,Idmを記憶部7に記憶させる。これにより、電流算出処理が完了する。
【0070】
続いて、処理部6Aは、抵抗算出処理を実行する。この抵抗算出処理では、処理部6Aは、各コンデンサ11,11,・・・,11に流れる電流I1,I2,・・・,Imの電流値Id1,Id2,・・・,Idmで試験電圧Vの電圧値V1を除算することにより、各コンデンサ11,11,・・・,11の絶縁抵抗IR,IR,・・・,IRを算出(測定)し、各コンデンサ11,11,・・・,11の識別情報に対応させて記憶部7に記憶させる。これにより、抵抗算出処理が完了する。最後に、処理部6Aは、各コンデンサ11,11,・・・,11の絶縁抵抗IR,IR,・・・,IRを記憶部7から読み出して、表示部8に表示させる。この場合、処理部6Aは、絶縁状態が正常なときの各コンデンサ11についての標準絶縁抵抗IRrefと、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRとを比較して、その比較結果についても併せて表示部8に表示させることもできる。
【0071】
このように、この絶縁抵抗測定装置1Aおよび絶縁抵抗測定方法では、ハムノイズの周期である商用電源の1周期をTcとしたときに、m個の各検出信号SI,SI,・・・,SIについてのn(=8)個のポイントP1〜P8の時間間隔がTc/8(=Tc/n)となると共に、各検出信号SI,SI,・・・,SIについての1個目のポイントP1が時間軸上においてすべて異なると共にTc/8の期間内に含まれるように、処理部6Aが信号切替部4を制御して、各検出信号SI,SI,・・・,SIを特定検出信号SIsとしてA/D変換部5に順次出力させて、各波形データDw1〜Dw1,Dw2〜Dw2,・・・,Dwm〜Dwmを1つずつ順番に、しかも商用電源の1周期Tc内で取得する。
【0072】
したがって、この絶縁抵抗測定装置1Aおよび絶縁抵抗測定方法によれば、m個の検出信号SIについての各ポイントにおける波形データDwの取得をほぼ同じタイミングで取得することができるため、1つの検出信号SIについての全ポイントにおける波形データDwを取得した後に、次の1つの検出信号SIについての全ポイントにおける波形データDwを取得するという動作を、すべての検出信号SIについて実行する方法と比較して、各コンデンサ11についての同じポイントでの波形データDwを各コンデンサ11の充電状態が一層揃っている状態で取得することができる。このため、取得した波形データDwに基づいて算出する絶縁抵抗IRの測定精度を十分に向上させることができる。
【0073】
また、この絶縁抵抗測定装置1Aおよび絶縁抵抗測定方法によれば、使用するA/D変換部5の数が1つで済むため、検出信号SI毎にA/D変換部5を配設する構成と比較して、測定コストを安価にすることができる。つまり、測定コストの上昇を抑制することができる。また、各検出信号SIのn(=8)個のポイントの時間間隔が間隔Tc/nとなるように信号切替部4に対する切替制御が処理部6Aによって実行されるため、取得した波形データDwに基づいて、各コンデンサ11に流れる電流Iに重畳しているハム成分を確実かつ簡単に除去することができ、その結果として、各コンデンサ11の絶縁抵抗IRを一層精度良く測定することができる。
【0074】
なお、上記の絶縁抵抗測定装置1Aおよび絶縁抵抗測定方法では、各検出信号SIについての同一ポイントPでの波形データDwの取得のタイミング(各波形データDwの取得の時間間隔)については、特に規定していないが、同じ時間間隔ずつ(均等に)ずらす構成(例えば、検出信号SI,SI,SIの各ポイントP1の時間間隔を等間隔でずらす構成)を採用してもよいし、不均等にずらす構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0075】
1,1A 絶縁抵抗測定装置
2 電圧出力部
3 電流検出部
4 信号切替部
5 A/D変換部
6,6A 処理部
11 コンデンサ
Dw 波形データ
SI 検出信号
SIs 特定検出信号
V 試験電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加する電圧出力部と、
前記コンデンサ毎に配設されて、対応する当該コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を出力するm個の電流検出部と、
当該m個の電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を入力すると共に当該各検出信号のうちの任意の1つの検出信号を選択して特定検出信号として出力する信号切替部と、
前記特定検出信号をサンプリングして、当該特定検出信号の波形データを出力する1つのA/D変換部と、
前記信号切替部に対する切替制御を実行して、m個の前記電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける前記波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行する処理部とを備え、
前記処理部は、前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとし、かつ(Tc×m/n)の時間長以上であるTcの最小の倍数を時間kとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔が(Tc/n+k)となると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつ(Tc/n+k)の期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させるコンデンサの絶縁抵抗測定装置。
【請求項2】
m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加する電圧出力部と、
前記コンデンサ毎に配設されて、対応する当該コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を出力するm個の電流検出部と、
当該m個の電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を入力すると共に当該各検出信号のうちの任意の1つの検出信号を選択して特定検出信号として出力する信号切替部と、
前記特定検出信号をサンプリングして、当該特定検出信号の波形データを出力する1つのA/D変換部と、
前記信号切替部に対する切替制御を実行して、m個の前記電流検出部からそれぞれ出力される前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける前記波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行する処理部とを備え、
前記処理部は、前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔がTc/nとなると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつTc/nの期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させるコンデンサの絶縁抵抗測定装置。
【請求項3】
m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加すると共に、前記各コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を当該コンデンサ毎に配設した電流検出部によって検出しつつ、
m個の前記電流検出部から出力されるm個の前記検出信号のうちの任意の1つの検出信号を信号切替部に入力すると共に当該信号切替部に対する切替制御を実行して特定検出信号としてA/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行するコンデンサの絶縁抵抗測定方法であって、
前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとし、かつ(Tc×m/n)の時間長以上であるTcの最小の倍数を時間kとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔が(Tc/n+k)となると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつ(Tc/n+k)の期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させるコンデンサの絶縁抵抗測定方法。
【請求項4】
m(mは2以上の整数)個のコンデンサに対して試験電圧を同時に印加すると共に、前記各コンデンサに流れる電流の電流値に応じた電圧値の検出信号を当該コンデンサ毎に配設した電流検出部によって検出しつつ、
m個の前記電流検出部から出力されるm個の前記検出信号のうちの任意の1つの検出信号を信号切替部に入力すると共に当該信号切替部に対する切替制御を実行して特定検出信号としてA/D変換部に順次出力させつつ、前記各検出信号のそれぞれについてn(nは2以上の整数)個のポイントにおける波形データを取得するデータ取得処理、取得した前記各検出信号のそれぞれについてのn個の前記波形データに基づいて前記各コンデンサのそれぞれに流れる前記電流の前記電流値を算出する電流算出処理、および算出した前記各コンデンサに流れるそれぞれの前記電流値と前記試験電圧の電圧値とに基づいて当該各コンデンサのそれぞれの絶縁抵抗を算出する抵抗算出処理を実行するコンデンサの絶縁抵抗測定方法であって、
前記データ取得処理において、前記信号切替部に対する切替制御を実行して、商用電源の1周期をTcとしたときに、前記各検出信号についてのn個の前記ポイントの時間間隔がTc/nとなると共に、前記各検出信号についての1個目の前記ポイントが時間軸上においてすべて異なる時間で、かつTc/nの期間内に含まれるようにm個の前記検出信号を前記特定検出信号として前記A/D変換部に順次出力させるコンデンサの絶縁抵抗測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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