説明

コンデンサー用ポリプロピレンフィルム

【課題】 耐熱・耐電圧性能、長期耐用性に優れた極薄のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供する。
【解決手段】 高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められるメソペンタッド分率([mmmm])が94%以上98%未満である立体規則性度を有するとともに、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下であり、かつ、分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が9%以上15%以下である2軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、前記分子量分布の構成をポリプロピレン樹脂の過酸化分解処理によって調整したポリプロピレン原料樹脂を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子及び電気機器に用いられる極薄コンデンサーフィルムの耐熱性、耐電圧性向上に関するものであり、さらに詳しくは、高温下における耐電圧特性(破壊電圧値の向上)あるいは、高電圧を負荷した場合の高温下の長期耐用性(いわゆる、長寿命化、高ライフ性能)に優れた高容量のコンデンサーに好適であり、かつ非常に薄いフィルム厚であるコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、その耐電圧性能、低い誘電損失特性などの優れた電気特性、及びそれに加え、高い耐湿性を活かしてコンデンサー用の誘電体フィルムとしても、広く利用されている。
コンデンサー用ポリプロピレンフィルムは、高電圧コンデンサーをはじめとし、各種スイッチング電源やコンバーターや、インバーター等のフィルター用や、平滑用としてコンデンサー類に好ましく用いられており、近年はコンデンサーの小型化、高容量化の要求が非常に強く、ますます薄いフィルムの要求が高まってきている。
【0003】
さらに、ポリプロピレンフィルムコンデンサーは、近年需要が高まりつつある電気自動車やハイブリッド自動車等に用いられる駆動モーターを制御するインバーター電源回路に平滑用コンデンサーとして、広く用いられ始めている。
【0004】
このような自動車等に用いられるインバーター電源機器用コンデンサーは、小型・軽量・高容量でありながら、−40℃〜90℃という広い温度範囲において、長期にわたり高い直流電圧に耐えつつ安定した動作(静電容量の維持)を継続しなければならない。
【0005】
そのため、用いられるコンデンサー誘電フィルムにおいては、1〜5μm厚と極薄(高延伸性能)化をなしつつ、より高温下(温度)で、より高い直流電圧(電圧)を負荷しても破壊(絶縁破壊)されない高い耐電圧特性(絶縁破壊電圧の向上)が必要となってきており、さらには、そのようなフィルムからなるコンデンサーにおいては、より高温下で、より高い電圧を、より長く(時間)負荷し続けても破壊されない長期耐用性(静電容量の時間変化の最小化)を向上させることが必須となってきている。
【0006】
耐電圧特性の向上には、結晶性や表面の平滑性能を制御してフィルムの絶縁破壊電圧値を向上させる方法が古くから提案されている。例えば、特許文献1などには、酸化防止剤を含んだ高立体規則性ポリプロピレン樹脂からなるコンデンサーが開示されている。また特許文献2などには、高溶融張力ポリプロピレン樹脂を用いることで、高い溶融結晶化温度(高結晶性)と表面平滑性能の制御を実現したフィルム及びそのコンデンサーに関する技術が開示されている。しかしながら、単純な高立体規則性化・高結晶性化は延伸性の低下を招き、延伸過程におけるフィルムの破断が発生しやすくなり、製造上、好ましくない上、特許文献2の技術でも、進展著しいコンデンサー市場の要求を十分に応えるに至っていない。
【0007】
他方、同体積のコンデンサーにおいて、静電容量を向上させるためには、誘電体フィルムを薄くする必要がある。そのように極薄のフィルムを得るためには、樹脂及びキャスト原反シートの延伸性向上が必須となるが、この特性は、前述したように、耐電圧性向上のための手法、つまり結晶性向上とは一般的に相容れない物性である。
【0008】
これに対し、特許文献3には、特定の範囲の分子量分布と立体規則性度をバランスさせた樹脂を用い、β晶量の比較的低いキャスト原反から延伸した微細粗面化フィルムが開示されている。この延伸した微細粗面化フィルムは、耐電圧特性を有する薄いフィルムであり、適度な表面粗化性を有していることから前記3つの特性に関して満足できるレベルに達した微細粗面化フィルムであるが、高温下での長期の耐電圧性に関する厳しい要求規格を満たすためには改善の余地がある。
【0009】
さらに、特許文献4には、低分子量成分の含有により分子量分布調整することで、立体規則性を高度化しなくとも高い耐電圧性能と薄膜化を両立できることを開示している。しかしながら、市場が要求する長期の耐用性や耐電圧性能に関しては例示も示唆も無く、十分に満足できているとはいえない状況にある。
【0010】
他方、特許文献1でも開示されているように、長期の耐電圧性能やコンデンサーの電気的性能には、酸化防止剤が少なからず影響を及ぼすことが知られている。
特許文献5では、フェノール系酸化防止剤の適切な組み合わせと配合量によって、誘電損失を低く抑制する技術が開示されている。しかしながら、高電圧負荷時のコンデンサーの寿命(あるいはライフ性能(長期耐用性))、高温下の長期耐電圧性に関しては、例示も示唆もない。また、最近では、特許文献6において、高融点の酸化防止剤を用いる事で、高温下での絶縁抵抗を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この文献においても、高温、高電圧負荷時の長期耐電圧性に関しては、例示も示唆もない。
【0011】
このように、進展著しいコンデンサー産業からの、高温下、より高い電圧を負荷した際の長期耐用性(コンデンサーのライフ(寿命)性能)に関する厳しい要求を、以上の技術をもってしても、依然満足するには至っていない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−119127号公報(2−5頁)
【特許文献2】特開2006−93689号公報(2−4頁)
【特許文献3】特開2007−137988号公報(2−4頁)
【特許文献4】国際公開 WO2009−060944号公報(3−11頁)
【特許文献5】特開2007−146026号公報(2−3頁)
【特許文献6】特開2009−231705号公報(2−4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、コンデンサーとした際、高温下、高い直流電圧を長期間負荷し続けても静電容量の減少が少なく、かつ、高温における高い絶縁破壊電圧特性を有した極薄のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に記載の態様を含む。
【0015】
(1)高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%未満である立体規則性度を有するとともに、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下であり、かつ、分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が9%以上15%以下である2軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、前記分子量分布の構成をポリプロピレン樹脂の過酸化分解処理によって調整したポリプロピレン原料樹脂を用いて作製されていることを特徴とするコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0016】
(2)前記2軸延伸ポリプロピレンフィルムが、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を少なくとも1種類以上含有し、そのフィルム中の残存含有量が4000ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下あることを特徴とする(1)項記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0017】
(3)前記2軸延伸ポリプロピレンフィルムが、その少なくとも片方の面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.05μm以上0.15μm以下であり、かつ、最大高さ(Rz、旧JIS定義でのRmax)で0.5μm以上1.5μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0018】
(4)前記2軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さが、1μm以上5μm以下であることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0019】
(5)前記(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面もしくは両面に金属蒸着を施したことを特徴とするコンデンサー用金属化ポリプロピレンフィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によるコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、過酸化分解処理によって分子量分布を調整した原料ポリプロピレン樹脂を用いることによって、平均分子量数万程度の低分子量成分が通常より多く配合され、特異な分子量分布を構成しているので、高い絶縁破壊強度を示し、高温下で高い電圧を負荷した際の耐性に優れているという効果を有する。その上、本発明に係る特定の酸化防止剤を本発明記載の範囲で適切に配合することによって、高温下で、長期間高電圧を負荷した際の耐性が極めて向上する。
また、その特異な分子量分布の構成は、樹脂の延伸性にも効果を有しているので、厚みが1〜5μmの非常に薄いフィルム厚のコンデンサー用フィルムの実現にも極めて優れている。
【0021】
以上のように、本発明によって、ポリプロピレンフィルムコンデンサーの使用可能温度の高温化、定格電圧の高圧化、長寿命化(長期耐用化)、小型・高容量化が、効果的に実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】低分子量領域の構成が異なる樹脂1及び樹脂2に関する分子量分布曲線の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一の態様のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%未満である立体規則性度を有するとともに、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下であり、かつ、分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が9%以上15%以下である2軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、前記分子量分布の構成をポリプロピレン樹脂の過酸化分解処理によって調整したポリプロピレン原料樹脂を用いることを特徴とする。
【0024】
本態様のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレン樹脂は、結晶性のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であり、プロピレンの単独重合体である。
【0025】
本態様のフィルムは、高温核磁気共鳴(NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%未満であり、さらに好ましくは、95%以上97%以下である分子特性を有することを特徴とするコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0026】
メソペンタッド分率[mmmm]=94%以上であると、高い立体規則性成分により、樹脂の結晶性が向上し、高い耐電圧特性が奏される。メソペンタッド分率[mmmm]=94%未満であると、耐電圧性や、機械的耐熱性が劣る傾向にある。一方、メソペンタッド分率[mmmm]が98%以上であると、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速さが早くなりすぎ、シート成形用の金属ドラムからの剥離が発生し易くなったり、延伸性が低下する。
【0027】
前記メソペンタッド分率([mmmm])を測定するために高温NMR装置には、特に制限はなく、ポリオレフィン類の立体規則性度が可能な一般に市販されている高温型核磁気共鳴(NMR)装置、例えば、日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)、JNM−ECP500が利用可能である。観測核は、13C(125MHz)であり、測定温度は、135℃、溶媒には、オルト−ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1))を用いられる。高温NMRによる方法は、公知の方法、例えば、「日本分析化学・高分子分析研究懇談会編、新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1995年、610頁」に記載の方法により行うことが出来る。
測定モードは、シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は、9.1μsec(45°パルス)、パルス間隔5.5sec、積算回数4,500回、シフト基準は、CH(mmmm)=21.7ppmとされる。
【0028】
立体規則性度を表すペンタッド分率は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向の並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より百分率で算出される。mmmmやmrrmなどに由来する各シグナルの帰属に関し、例えば、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁(1988)」などのスペクトルの記載が参照される。
【0029】
このように、前記載の低分子量成分の適度な含有によって、従来技術のようにメソペンタッド分率で、98%を超えるような非常に高い立体規則性度を有せずとも、高い耐電圧性を維持したまま、延伸性を付与される。
前記メソペンタッド分率([mmmm])は、前出の重合条件や触媒の種類、触媒量など、適宜調整することによって、コントロールすることができる。
【0030】
また、本態様のフィルムは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下である。好ましくは、25万以上40万以下である。GPC法により得られる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の比から計算される分子量分布は4以上7以下であり、4.5以上7以下がより好ましく、さらに好ましくは、5以上7以下である。
【0031】
重量平均分子量が45万を超えると、樹脂流動性が著しく低下し、キャスト原反シートの厚さの制御が困難となり、本発明の目的である非常に薄い延伸フィルムを幅方向に精度良く作製することが出来なくなるため、実用上好ましくない。また、重量平均分子量が25万に満たない場合、押し出し成形性には富むが、シート及びフィルム厚みムラを発生し易くなる上、出来たシートの力学特性や熱−機械的特性の低下とともに延伸性が著しく低下し、2軸延伸成形が出来なくなるという製造上や製品性能上に難点を生じるため、好ましくない。
【0032】
2軸延伸ポリプロピレンフィルムの分子量・分子量分布測定値を得るためのゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置には、特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置、例えば、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC−8121GPC−HTが利用することが可能である。具体的には、GPCカラムとして、東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結させたものが用いられ、カラム温度は140℃に設定され、溶離液にはトリクロロベンゼンを用いられ、流速1.0ml/minにて測定される。検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いられ、測定結果はポリプロピレン値に換算される。このようにして得られる重量平均分子量の対数値を、対数分子量(Log(M))と称する。
【0033】
さらに、本態様のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、前述の分子量・分子量分布の範囲の値を有すると同時に、分子量微分分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が9%以上15%以下あり、好ましくは9%以上13%以下である必要がある。このことは、対数分子量Log(M)が4〜5の間、つまり重量平均分子量より低分子量側の分子量1万から10万の成分(以下、低分子量成分とも称する)の分布値が、重量平均分子量より高分子量側のLog(M)=6前後(分子量100万前後)の成分(以下、高分子量成分とも称する)の分布値に比較してある程度高い構成であることを意味している(図1参照)。低分子量成分の代表値としてLog(M)=4.5における微分分布値を、高分子量成分の代表値として、Log(M)=6のときの微分分布値を採用した。
【0034】
つまり、分子量分布Mw/Mnが4〜7であるといっても単に分子量分布幅の広さを表しているに過ぎず、その中の高分子量成分、低分子量成分の構成状況までは分からない。そこで、本態様においては、広い分子量分布を有すると同時に、その分布構成を調整し、分子量1万から10万の成分を、分子量100万の成分に対して、ある一定割合多く含む分布構成とすることにより、延伸性と耐電圧性を両立させている。
【0035】
本態様のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいては、低分子量成分の構成を、高分子量成分の構成より多くする必要が有るため、重量平均分子量より低分子量側であるLog(M)=4.5の微分分布値から、高分子量側のLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差は、「正」でなければならず、その量は9%以上を必要とする。しかしこの差が15%を超えると、低分子量成分が多すぎるため、製膜性や機械的耐熱性に難点が生じるため、実用上好ましくない。
【0036】
微分分布値は、GPC法においては、一般に次のようにして得る。GPCの示差屈折(RI)検出計において検出される強度分布の時間曲線(一般には、溶出曲線と呼ぶ)を、分子量既知の物質から得た検量線を用い、対数分子量(Log(M))に対する分布曲線とする。さて、RI検出強度は、成分濃度と比例関係にあるので、次に、分布曲線の全面積を100%とした場合の対数分子量Log(M)に対する積分分布曲線を得ることが出来る。微分分布曲線は、この積分分布曲線をLog(M)で、微分することによって得る。したがって、ここで言う微分分布とは、濃度分率の分子量に対する微分分布を意味する。この曲線から、特定のLog(M)のときの微分分布値を読み、本態様に係る関係を得ることが出来る。
【0037】
従来の技術では、立体規則性度(結晶性)の値を高くすることによって、高い耐電圧性を実現できるが、それだけでは、延伸性が低下し、非常に薄いフィルムは得ることは困難である。2軸延伸ポリプロピレンフィルムの分子量、分子量分布、及び、高分子量成分・低分子量成分の構成比を前記範囲に収まるように調整することにより、さらなる耐電圧性と延伸性とを付与することができる。
【0038】
本態様の2軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、分子量分布の構成において、重量平均分子量より低分子量側の分子量Mが約31600(Log(M)=4.5)の成分が、重量平均分子量より高分子量側の分子量Mが100万(Log(M)=6)の成分よりも多く存在する。立体規則性度と分子量分布がほぼ同一のフィルムにおいては、分子量が低い程、その絶縁破壊電圧が高い(耐電圧性が良好である)ことが示されている。このように、分子量分布を前記範囲内に維持しながら、低分子量成分を多く存在させることにより、2軸延伸ポリプロピレンフィルムの耐電圧性を向上させることが出来る。
【0039】
Log(M)=4.5の微分分布値から、高分子量側のLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差を9〜15%の間に調整する方法としては、本態様においては、分解剤によって、高分子量成分を選択的に過酸化分解処理したポリプロピレン原料樹脂を用いる方法が好ましく採用される。
【0040】
過酸化分解によって、ポリプロピレン原料樹脂の分子量分布の構成を調整するには、過酸化水素や有機化酸化物などの分解剤よる過酸化処理による方法が好ましい。
ポリプロピレンのような崩壊型ポリマーに過酸化物を添加すると、ポリマーからの水素引抜き反応が起こり、生じたポリマーラジカルは一部再結合し架橋反応も起こすが、殆どのラジカルは二次分解(β開裂)を起こし、より分子量の小さな二つのポリマーに分かれることが知られている。したがって、高分子量成分から高い確立で分解が進行し、よって、低分子量成分が増大し、分子量分布の構成を調整することが出来る。低分子量成分を適度に含有している樹脂を過酸化分解により得る方法としては、例えば、次のような方法が例示できる。
【0041】
重合して得たポリプロピレン樹脂の重合粉あるいはペレットと、有機過酸化物として、例えば、1,3−ビス−(ターシャリー−ブチルパーオキサイドイソプロピル)−ベンゼンなどを0.001質量%〜0.5質量%程度、目標とする高分子量成分及び低分子量成分の組成(構成)を考慮しながら調整添加して、溶融混練器機にて、180℃〜300℃程度の溶融混練することによって行うことが出来る。
【0042】
目標とする分子量分布の構成(低分子量成分量の組成)を得るためには、例えば有機化酸化物の濃度(量)や、溶融混練処理の時間や回転数の調整によって達成することが出来る。
本態様のポリプロピレン原料樹脂中に含まれる溶融反応処理や重合触媒残渣等に起因する総灰分は、電気特性を良化するために可能な限り少ないことが好ましく、50ppm以下、好ましくは40ppm以下である。
【0043】
本態様のポリプロピレン延伸フィルムを製造するためのポリプロピレン樹脂を製造する重合方法としては、一般的に公知の重合方法をなんら制限無く用いることが出来る。一般的に公知の重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法、スラリー重合法が例として挙げられる。
また、少なくとも2つ以上の重合反応器を用いた多段重合反応であっても良く、また、反応器中に水素あるいはコモノマーを分子量調整剤として添加して行う重合方法であっても良い。
【0044】
使用される触媒は、特に限定されるものではなく、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒が広く適用される。また、助触媒成分やドナーを含んでも構わない。触媒や重合条件を適宜調整することによって、分子量分布をコントロールすることが可能となる。
【0045】
このようにして、高温下における短期(分〜時間オーダー)の耐電圧性(絶縁破壊電圧値)は改善できるに至ったが、市場、特に、前出の自動車産業用途においては、高温下で高電圧を負荷し続けた場合の長寿命化(長期耐用性)が、一層求められている。
高温下、高い電圧を負荷し続けると、コンデンサー素子においては、フィルム内で自己発熱が発生し、酸化・熱劣化が時間と共に進行し、コンデンサー性能(コンデンサーの静電容量)が低下する。
【0046】
このようなコンデンサー素子(あるいはコンデンサーフィルム)の長期耐用性は、コンデンサー素子に、実際に使用する温度や電圧よりも高温・高電圧を負荷させて寿命(長期耐用性)を促進させて評価する方法が一般に良く知られている。100℃以上(例えば105℃)の環境温度の下、直流高電圧(例えば600〜900V)を、コンデンサー素子に負荷し続けた場合、コンデンサー素子の静電容量の変化率を長期間(例えば2000時間:約80日)にわたり記録する。
【0047】
劣化の進行が少なく長期耐用性が良好(長寿命)なフィルムを用いたコンデンサーは、高電圧を2000時間負荷しても、フィルムの劣化の程度が少ないため、静電容量の低下が少ない。一方、劣化の進行が速く長期耐用性に劣るフィルムによるコンデンサーの場合は、時間とともに容量低下が大きくなる傾向にある。
このように、コンデンサーフィルムの長期耐用試験は、コンデンサー素子として、高温・高電圧を所定時間(長期:数十日オーダー)負荷し続けた場合の静電容量変化によって評価され、この改善向上が重要な技術要件となる。
【0048】
本発明のもう一つの態様は、長期使用時における時間と共に進行する劣化を抑制する目的で、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を1種類以上含有し、そのフィルム中における残存含有量は、4000ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下であることを特徴とするコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0049】
本態様に用いられるカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−ターシャリー−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:イルガノックス245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス259)、ペンタエリスルチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:イルガノックス1076)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(商品名:イルガノックス1098)などが挙げられるが、高分子量であり、ポリプロピレンとの相溶性に富み、低揮発性かつ耐熱性に優れたペンタエリスルチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が、最も好ましい。
【0050】
本態様のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムに含有される、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量(フィルム中における残存量)は、4000ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下である。
カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量(フィルム中における残存量)が、4000ppm(質量基準)未満の場合、長期寿命試験中における酸化劣化抑制効果が不十分であり、高温・高電圧下における長期耐用性の向上効果が十分に発揮されず好ましくない。一方、フィルム中の残存量が6000ppmを超えると、酸化防止剤自身が電荷のキャリア(ある種の不純物)となる場合があり、結果として、高電圧下において電流を発生し、熱暴走あるいは破裂などと呼ばれる破壊に至らしめる現象が発生するため、かえって長期耐性を失うことになるので好ましくない。より好ましくは、4500ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下であり、さらにより好ましくは、5000ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下である。
【0051】
ポリプロピレンと分子レベルで相溶性が良好であるカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を、最適な特定範囲の量を含有させたコンデンサーフィルムは、前出の分子量分布調整によって得られる高い耐電圧性(絶縁破壊電圧値)を維持したまま、100℃以上という非常に高温の寿命(ライフ)促進試験においても、1000時間を越える(40日以上の)長期に渡って、静電容量を低下させず(劣化が進行せず)、長期耐用性が向上する。
【0052】
前出の態様(以下、本発明と略す)の2軸延伸ポリプロピレンフィルムの分子特性(分子量、分子量分布、分子量分布の構成、立体規則性度)は、フィルム製造用の樹脂そのものの値ではなく、製膜工程を経た後のフィルムを形成している樹脂の値である必要がある。このフィルムを形成している樹脂は、製膜工程中に、押出機内では、熱・酸化劣化、せん断劣化、伸長劣化などを、少なからず発生して、分解が進んでいる。それに伴い、分子量・分子量分布、立体規則性も、原料樹脂と製膜後のフィルムを形成している樹脂とでは、多くの場合、異なるものとなる。フィルムの耐電圧性や耐熱性に影響を及ぼすものは、フィルムの状態となっている樹脂の分子特性の方である。
【0053】
劣化の進行度合い、即ち分子量分布や立体規則性の変化は、押出機内の窒素パージ(酸化の抑制)、押出機内のスクリュー形状(せん断力)、キャスト時のTダイの内部形状(せん断力)、酸化防止剤の添加量(酸化の抑制)、キャスト時の巻き取り速度(伸長力)などにより調整することが可能である。
【0054】
樹脂中には、必要に応じて押出機内での劣化を抑制するための酸化防止剤、塩素吸収剤や紫外線吸収剤等の必要な安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲であれば添加しても良い。
【0055】
樹脂中に添加される酸化防止剤としては、押出機内での熱・酸化劣化を抑制することを目的とする酸化防止剤(以下、1次剤とも称する)と、コンデンサーフィルムとしての長期使用における劣化抑制、コンデンサー性能向上に寄与する酸化防止剤(以下、2次剤とも称する)の少なくとも2つの目的をもって使用される。
これら2つの目的に、各々、異なる種類の酸化防止剤を用いても構わないし、1種類の酸化防止剤で2つの目的を持たせても良い。
【0056】
異なる種類の酸化防止剤を用いる場合、押出機内での劣化抑制を目的とする1次剤として、例えば、2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラ−クレゾール(一般名称:BHT)を1000ppm〜4000ppm程度添加できる。この目的の酸化防止剤は、押出機内での成形工程にてほとんどが消費され、製膜成形後のフィルム中には、ほとんど残存しない(一般的には、残存量100ppmより少ない)。
本発明に係る目的であるコンデンサーとしての長期使用における劣化抑制、性能向上に寄与する2次剤として、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が添加される。
【0057】
カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−ターシャリー−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス259)、ペンタエリスルチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:イルガノックス1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:イルガノックス1076)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(商品名:イルガノックス1098)などが挙げられるが、高分子量であり、ポリプロピレンとの相溶性に富み、低揮発性かつ耐熱性に優れたペンタエリスルチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−ターシャリー−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が、最も好ましい。
【0058】
添加量は、樹脂の総質量に対して5000ppm(質量基準)以上7000ppm(質量基準)以下の範囲で添加する必要が有る。好ましくは5500ppm(質量基準)以上7000ppm(質量基準)以下である。
本発明に係るコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムに含有される、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤のフィルム中における残存量を、4000ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下とするためには、前記の添加量とする必要がある。これは、前述の様に、押出機内での劣化抑制を目的とする1次剤の有無によらず、押出機内で少なからず、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤も消費されるためである。押出機内でのカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の消費量は、通常1000ppm〜2000ppm程度である。
【0059】
即ち、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が5000ppmより少ないと、コンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム内における酸化防止剤の残存量が4000ppmより少なくなるため、高電圧下における長期耐用性の向上効果が十分に発揮されず好ましくない。一方、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量が7000ppmより多くすると、フィルム中の残存量が6000ppmを超え、前述の如く、酸化防止剤自身が、電荷のキャリア(ある種の不純物)となり、かえって長期耐性を失う傾向にある。
【0060】
押出機内での熱・酸化劣化を抑制することを目的とする酸化防止剤を使用しない場合、この目的の酸化防止剤として、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤で代用される。この場合、押出機内での成形工程での劣化抑制に、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤がかなり消費されるので、添加量は、樹脂の総質量に対して、6000ppm(質量基準)以上7000ppm(質量基準)以下と、多めに添加しておくことが好ましい。
【0061】
本発明の2軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造するための延伸前のキャスト原反シートを成形する方法としては、公知の各種方法を採用することが出来る。例えば、ドライ混合されたポリプロピレン樹脂ペレット(及び/あるいは重合粉)あるいは、予め溶融混練して作製した混合ポリプロピレン樹脂ペレットからなる原料ペレット類を押出機に供給し、加熱溶融し、ろ過フィルターを通した後、170℃〜320℃、好ましくは、200℃〜300℃で加熱溶融してTダイから溶融押し出し、80℃〜140℃に保持された少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させ、未延伸のキャスト原反シートを成形する方法を採用できる。
【0062】
このシート成形の際に、金属ドラム群の温度を80℃〜140℃、好ましくは90℃〜120℃に保持することにより、得られるキャスト原反シートのβ晶分率は、X線法で1%以上50%以下、好ましくは、5%以上30%未満程度となる。なお、この値は、β晶核剤を含まない時の値である。
前述したように、低すぎるβ晶分率は、フィルム表面を平滑化するため、素子巻き等の加工適性に劣る傾向にあるが、耐電圧特性などコンデンサーの特性が向上する。しかしながら、前述のβ晶分率の範囲になると、コンデンサー特性と素子巻き加工性の両物性を十分に満足させることができる。
【0063】
前記β晶分率は、X線回折強度測定によって得られ、「A.Turner−Jones et al.,Makromol.Chem.,75巻,134頁 (1964)」に記載されている方法によって算出される値であり、K値と呼ばれている値である。即ち、α晶由来の3本の回折ピークの高さの和とβ晶由来の1本の回折ピークの比によってβ晶の比率を表現したものである。
【0064】
上記キャスト原反シートの厚さには特に制限はないが、通常、0.05mm〜2mm、好ましくは、0.1mm〜1mmであるのが望ましい。
本発明のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、前記ポリプロピレンキャスト原反シートに延伸処理を行って作製することができる。延伸は、縦及び横に2軸に配向せしめる2軸延伸が良く、延伸方法としては逐次2軸延伸方法が好ましい。逐次2軸延伸方法としては、まずキャスト原反シートを100〜160℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に3〜7倍に延伸し、直ちに室温に冷却する。この縦延伸工程の温度を適切に調整することにより、β晶は融解しα晶に転移し、凹凸が顕在化する。引き続き、当該延伸フィルムをテンターに導いて160℃以上の温度で幅方向に3〜11倍に延伸した後、緩和、熱固定を施し巻き取る。
【0065】
巻き取られたフィルムは、20〜45℃程度の雰囲気中でエージング処理を施された後、所望の製品幅に断裁することが出来る。
このような延伸工程によって、機械的強度、剛性に優れたフィルムとなり、また、表面の凹凸もより明確化され、微細に粗面化された延伸フィルムとなる。
本発明のフィルムの表面には、素子巻き適性を向上させつつ、コンデンサー特性を良好とする適度な表面粗さを付与することが好ましい。
【0066】
本発明のさらにもう一つの態様は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.05μm以上0.15μm以下であり、かつ、最大高さ(Rz、旧JIS定義でのRmax)で0.5μm以上1.5μm以下に微細粗面化されていることを特徴とすることにある。
RaやRz(旧JIS定義のRmax)がある程度大きい値であると、巻き取り、巻き戻しなどの加工や、コンデンサー加工の際には、素子巻き加工において、フィルム間に適度な空隙が生じるためフィルムが適度にすべり、巻取りにシワが入りにくく、かつ横ズレも起こしにくくなる。しかし、それらの値が大きすぎると、表面光沢性や透明性などに実用上の問題を生じる他、コンデンサーにおいては、フィルム間の層間空隙が大きくなることによる重量厚み低下が起こり、耐電圧性の低下を招くため、好ましくない。逆に、突起体積が低くある程度平滑であると、耐電圧性の面では有利となるが、低い値になりすぎると、フィルムが滑りにくく、巻き加工の際にシワが発生しやすくなり、生産性が低下するため好ましくない上、細かなシワなどはコンデンサーの耐電圧性の悪化をも招くので実用上不適と言える。
【0067】
Ra及びRz(旧JIS定義のRmax)の測定は、例えばJIS−B0601:2001等に定められている方法によって、一般的に広く使用されている触針式あるいは非接触式表面粗さ計などを用いて測定される。装置のメーカーや型式には何ら制限は無い。本発明における検討では、小坂研究所社製、万能表面形状測定器SE−30型を用い、粗さ解析装置AY−41型によって、JIS−B0601:2001に定められている方法に準拠してRa及びRz(旧JIS定義のRmax)を求めた。接触法(ダイヤモンド針等による触針式)、非接触法(レーザー光等による非接触検出)のどちらでも測定可能であるが、本発明における検討では、接触法により測定し、その値の信頼性を、必要に応じて非接触法値により補足参照して行った。
【0068】
フィルム表面に微細な凹凸を与える方法としては、エンボス法、エッチング法など、公知の各種粗面化方法を採用することが出来るが、その中でも、不純物の混入などの必要がない、β晶を用いた粗面化法が好ましい。β晶の生成割合は、一般的には、キャスト温度やキャストスピードによってもβ晶の割合はコントロールされ得る。また、縦延伸工程のロール温度ではβ晶の融解/転移割合を制御することができ、これらβ晶生成とその融解/転移の二つのパラメーターについて最適な製造条件を選択することで、微細な粗表面性を得ることが出来る。
【0069】
本発明においては、本発明に係る範囲の低分子量成分による結晶化挙動変化によって、特徴的な微結晶の形成状態を発現するため、微細な表面の凹凸を得るためのβ晶生成にも有用な効果を得ることが出来る。つまり、β晶生成の割合を調整するための製造条件を従来条件から大きく変更しなくても、本発明に係る特徴的な分子量分布の構成によって小さな球晶サイズ、かつ、あまり多すぎない球晶密度を制御でき、よって、本発明に係る前記表面粗さを実現することができ、他の性能を損なうことなく、効果的に巻き加工適性を付与することが可能となる。
【0070】
本発明のさらにもう一つの態様は、本発明の2軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さが、1μm以上5μm以下、好ましくは1.5μm以上4μm以下であり、より好ましくは1.8μm以上3.5μm以下であることを特徴とする極薄のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0071】
本発明のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、金属蒸着加工工程などの後工程において、接着特性を高める目的で、延伸・熱固定工程終了後に、オンラインもしくはオフラインにてコロナ放電処理を行っても構わない。コロナ放電処理としては公知の方法を用いることができるが、雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガス中で処理することが望ましい。
【0072】
本発明のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムには、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の他、塩素吸収剤等の必要な安定剤をコンデンサー特性に影響を及ぼさない範囲内で添加しても良く、塩素吸収剤としては、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸が好ましく用いられる。
本発明のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム中に含まれる総灰分は、電気特性を良化するために、可能な限り少ないことが好ましく、50ppm以下、好ましくは、40ppm以下である。
【0073】
本発明のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムをコンデンサーとして加工する際の電極は、特に限定されるものではなく、例えば、金属箔や、少なくとも片面を金属化した紙やプラスチックフィルムであるのが良いが、小型・軽量化が一層要求されるコンデンサー用途においては、本発明のフィルムの片面もしくは両面を直接金属化した電極が好ましい。このとき金属化するのに用いられる金属は、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの単体、複数種の混合物、合金などを制限無く用いられるが、環境や、経済性、コンデンサー性能などを考慮し、亜鉛やアルミニウムが好ましい。
【0074】
本発明のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムを直接金属化する場合の方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法を挙げることが出来、これらに限定されるものではないが、生産性や経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法としては、一般的にるつぼ法式やワイヤー方式などを挙げることができるが、特に限定されるものではなく、適宜最適なものを選択すればよい。
【0075】
蒸着により金属化する際のマージンパターンも特に限定されるものではないが、コンデンサーの保安性等の特性を向上させる点から、フィッシュネットパターンないしはTマージンパターン等といった、いわゆる特殊マージンを含むパターンを本発明のフィルムの片方の面上に施した場合、保安性が高まり、コンデンサーの破壊、ショートの防止、などの点からも効果的であり好ましい。
マージンを形成する方法はテープ法、オイル法など、一般に公知の方法が、何ら制限無く使用することが出来る。
【0076】
このコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、表面が微細に粗面化されているため、素子巻き適性に優れており、耐電圧特性も高く、非常に薄いフィルムであるため高い静電容量も発現し易い上、長期耐用性にも優れているので、小型、かつ、5μF以上、好ましくは10μF以上、さらに好ましくは20μF以上の高容量のコンデンサーに極めて好適である。
【実施例】
【0077】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、もちろん、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。また、特に断らない限り、例中の部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0078】
〔特性値の測定方法ならびに効果の評価方法〕
実施例における特性値の測定方法及び効果の評価方法はつぎの通りである。
【0079】
(1)重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、及び微分分布値の測定
2軸延伸ポリプロピレンフィルムの分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、分布曲線の微分分布値の評価は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で測定し行った。
測定機:東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC、
HLC−8121GPC-HT型
カラム:東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結
カラム温度:140℃、
溶離液:トリクロロベンゼン
流速:1.0ml/min
検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0080】
微分分布値は、次のような方法で得た。まず、RI検出計において検出される強度分布の時間曲線(溶出曲線)を、検量線を用いて分子量(Log(M))に対する分布曲線とした。次に、分布曲線の全面積を100%とした場合のLog(M)に対する積分分布曲線を得た後、この積分分布曲線をLog(M)で、微分することによってLog(M)に対する微分分布曲線を得ることが出来る。この微分分布曲線から、Log(M)=4.5及びLog(M)=6のときの微分分布値を読んだ。なお、微分分布曲線を得るまでの一連の操作は、通常、GPC測定装置に内蔵の解析ソフトウェアを用いて行うことが出来る。
【0081】
(2)メソペンタッド分率([mmmm])測定
2軸延伸ポリプロピレンフィルムを溶媒に溶解し、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)を用いて、以下の条件で、メソペンタッド分率([mmmm])を求めた。
測定機:日本電子株式会社製、高温FT−NMR JNM−ECP500
観測核:13C(125MHz)
測定温度:135℃
溶媒:オルト−ジクロロベンゼン〔ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(4/1)〕
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:9.1μsec(45°パルス)
パルス間隔:5.5sec
積算回数:4500回
シフト基準:CH(mmmm)=21.7ppm
5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より、百分率(%)で算出した。mmmmやmrrmなどに由来する各シグナルの帰属に関し、例えば、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁(1988)」などのスペクトルの記載を参考とした。
【0082】
(3)2軸延伸ポリプロピレンフィルム中の酸化防止剤残存量の測定
2軸延伸ポリプロピレンフィルムを断裁し、溶媒を加え、超音波抽出でフィルム中に残存している酸化防止剤を抽出した。
得られた抽出液を、高速液体クロマトグラフ/紫外線検出器を用いて2次剤の測定を行った。得られたクロマトグラフのピーク強度から、予め求めてある検量線を用いて、2次剤の残存量を計算した。
【0083】
(4)表面粗さの測定
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの中心線平均粗さ(Ra)、及び、最大高さ(Rz)の測定は、小坂研究所社製、万能表面形状測定器SE−30型を用い、粗さ解析装置AY−41型によって、JIS−B0601に定められている方法に準拠して求めた。測定回数は3回行い、その平均値を評価に用いた。本評価では、接触法により測定し、その値の信頼性を、必要に応じて非接触法値により補足、確認した。
【0084】
(5)フィルム厚の評価
2軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、マイクロメーター(JIS−B7502)を用いて、JIS−C2330に準拠して測定した。
【0085】
(6)フィルムの高温耐電圧性(高温絶縁破壊強度)の評価
二軸延伸フィルムの耐電圧性は、JIS−C2330 7.4.11.2(絶縁破壊電圧・平板電極法:B法)に準じて絶縁破壊電圧値を測定することによって評価した。昇圧速度は100V/sec、破壊の際の遮断電流は10mAとし、測定回数は18回とした。ここでは、測定された平均電圧値を、フィルムの厚みで割ったものを、絶縁破壊強度として評価に用いた。送風循環式高温槽内にフィルム及び電極冶具をセットして、評価温度100℃にて、測定を行った。
高温絶縁破壊強度450V/μm以上が実用上望ましく、450V/μm以上が、さらに好ましい耐電圧性であると言える。
【0086】
(7)コンデンサー素子の作製(素子巻き適性評価)
2軸延伸ポリプロピレンフィルムに、Tマージン蒸着パターンを蒸着抵抗12Ω/□にてアルミニウム蒸着を施し、金属化フィルムを得た。小幅にスリットした後に、2枚の金属化フィルムを相合わせて、株式会社皆藤製作所製、自動巻取機 3KAW−N2型を用い、巻き取り張力400gにて、1150ターン巻回を行った。
素子巻きの際の加工適性を、目視で定性的に評価した。
素子巻きした素子は、プレスしながら120℃にて6時間熱処理を施した後、素子端面に亜鉛金属を溶射し、扁平型コンデンサーを得た。出来上がったコンデンサーの静電容量は、100μF(±5μF)であった。
【0087】
(8)コンデンサー素子の寿命(ライフ)促進試験(高温・長期耐用性)
得られたコンデンサー素子は、自動車駆動用モーターを制御するインバーターとしては、環境最高温度90℃、最大電圧700Vにて、使用されるものと想定し、ライフ促進試験を以下の手順で行った。
予め素子を試験環境温度(105℃(想定最高温度+15℃))にて1時間予熱した後、試験前の初期の静電容量を安藤電気株式会社製LCRテスターAG4311にて、評価した。次に、105℃の高温槽中にて、高圧電源を用い、コンデンサー素子に直流750V(想定最大電圧+50V)の電圧を500時間負荷続けた。500時間経過後の素子の容量をLCRテスターで測定し、電圧負荷前後の容量変化率を算出した。ついで、素子を再度高温槽内に戻し、さらに、500時間電圧負荷を行い、1000時間経過(累積)の容量変化(累積)を求め、これを2000時間経過後まで繰り返した。2000時間経過後の容量変化率を求め、素子3個の平均値を評価に採用した。容量変化率は、2000時間後で、±5%以内が実用上好ましい。
【0088】
(9)コンデンサー用フィルムとしての総合評価
静電容量向上に必要な5μm以下のフィルムによるコンデンサー素子作製の成否、フィルムの高温での絶縁破壊強度(耐電圧性)、かつフィルムをコンデンサー素子とした際の高温長期耐用特性等、コンデンサー用フィルムとしての好適性を総合的に評価した。従来技術に基づくフィルムより向上したものを「○」、従来と変わらないものを「△」、それより劣るものを「×」とした。
【0089】
〔ポリプロピレン樹脂〕
プライムポリマー株式会社より、分子量分布未調整ポリプロピレン樹脂E(メルトフローインデックス4g/10分、重量平均分量30万、メソペンタッド分率96%)を得た。
また、このポリプロピレン樹脂Eと有機過酸化物を溶融混練することで過酸化分解処理を施し、分子量分布調整樹脂A〜Dを得た。さらに、低立体規則性ポリプロピレン樹脂(メソペンタッド分率93.5%)を有機過酸化物と溶融混練することで過酸化分解処理を施した分子量分布調整樹脂Fを得た。また、比較のため、樹脂Eをベースに高メルトフロー樹脂を添加混合することによって分子量分布を調整したポリプロピレン樹脂Gを得た。
ポリプロピレン樹脂A〜Gには酸化防止剤(2次剤)を添加した。
表1には、これら樹脂より得た二軸延伸ポリプロピレンフィルムの過酸化分解処理の有無、分子量微分分布値差、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、立体規則性度(メソペンタッド分率)、酸化防止剤(2次剤)の残存量をまとめた。
なお、表1のこれらの値はフィルムの分析値である。
【0090】
〔実施例1〕
プライムポリマー社製の樹脂Eに2次酸化防止剤としてイルガノックス(登録商標)1010を5000ppm、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサンを20ppm添加し造粒機で溶融混練することにより過酸化分解処理を施して分子量分布を調整した原料樹脂Aを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押出し、表面温度を95℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約140μmのキャスト原反シートを作製した。引き続きこの未延伸キャスト原反シートを140℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0091】
〔実施例2〕
実施例1の原料樹脂Aに代えて、過酸化分解処理を施した分子量分布調整樹脂Bに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を実施例1と同様に添加した原料樹脂Bを押出機に供給した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0092】
〔実施例3〕
実施例1の原料樹脂Aに代えて、過酸化分解処理を施した分子量分布調整樹脂Cに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を5500ppm添加した原料樹脂Cを押出機に供給した以外は、実施例1と同様に、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0093】
〔実施例4〕
実施例1の原料樹脂Aに代えて、過酸化分解処理を施した分子量分布調整樹脂Dに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を6000ppm添加した原料樹脂Dを押出機に供給した以外は、実施例1と同様に、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0094】
〔実施例5〕
実施例1の原料樹脂Aを押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押出し、表面温度を95℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約125μmのキャスト原反シートを作製した。引き続きこの未延伸キャスト原反シートを140℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ2.5μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0095】
〔比較例1〕
特許文献4(国際公開 WO2009−060944号公報)の実施例2を参考に、重合法によって分子量分布の構成を調整した樹脂Eに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を4000ppm添加した原料樹脂Eを押出機に供給した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0096】
〔比較例2〕
重合法によって分子量分布の構成を調整した樹脂Eに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を5000ppm添加した原料樹脂E’を押出機に供給した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0097】
〔比較例3〕
実施例1の原料樹脂Aに代えて、プライムポリマー社製、ポリプロピレン樹脂(メルトフローインデックス3g/10分、平均分子量35万、メソペンタッド分率93.5%)を有機過酸化物と溶融混練することで過酸化分解処理を施した分子量分布調整樹脂Fに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を5000ppm添加した原料樹脂Fを押出機に供給した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0098】
〔比較例4〕
特許文献4(国際公開 WO2009−060944号公報)の実施例2を参考に、実施例1の原料樹脂Aに代えて、樹脂Eをベースにプライムポリマー社製の高メルトフロー樹脂(メルトフローインデックス9g/10分)を15%添加混合することによって分子量分布を調整したポリプロピレン樹脂Gに、2次酸化防止剤であるイルガノックス(登録商標)1010を4000ppm添加した原料樹脂Fを押出機に供給した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.8μmの非常に薄い2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの分子特性並びにフィルムの物性値を表1にまとめる。また、コンデンサーフィルムとしての評価結果を表2にまとめる。なお、表1の分子量微分分布値差、分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、メソペンタッド分率、2次酸化防止剤残存量はフィルムの分析値である。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
実施例1〜5で明らかな通り、本発明の2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、非常に薄く、高い絶縁破壊電圧値を有しているフィルムである上、それを巻回して得たコンデンサー素子に高温下、高い直流電圧を長期間負荷し続けても静電容量の減少が少なく、耐熱・高耐電圧性能に優れており、コンデンサー用フィルムとして、極めて好適なものであった。
【0102】
しかしながら、従来技術によって、重合法にて分子量分布の構成の調整をおこなっても、過酸化処理を実施せず、微分分布値が本発明の範囲外であると、絶縁破壊電圧値も長期耐用性も劣るものであった(比較例1)。
【0103】
さらに、比較例1の従来技術による重合法分子量分布調整原料に、2次酸化防止剤の添加量を増やしても、長期耐用性に効果は得られたものの、十分満足できる結果は得るには至らなかった(比較例2)。
【0104】
過酸化処理による分解法であり、分子量、分子量分布の構成、酸化防止剤の組成が、本発明に係る範囲であっても、立体規則性度(メソペンタッド分率)及び表面粗さが、本発明の範囲外にあると、充分な効果が得ることが出来なかった。(比較例3)。
【0105】
従来技術を参考に、過酸化処理を実施せず、高メルトフロー樹脂の添加混合によって分子量分布の構成の調整を行った場合、必ずしも、十分に効果に優れているとは言えない状況にあった(比較例4)。
【0106】
2軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、本発明の立体規則性、分子量、分子量分布、過酸化処理による分子量分布の構成、酸化防止剤の組成の条件を同時に満たさないと、コンデンサー素子としては、いずれも性能は不十分なものであった
(比較例1〜4)。
【産業上の利用可能性】
【0107】
高温下における耐電圧特性(破壊電圧値)が高い上、高温下における長期用性(長期間の耐電圧特性にも優れているため、この2軸延伸フィルムを用いたフィルムコンデンサーは、長寿命化が実現できるばかりではなく、特に薄い2軸延伸フィルムであるので、このフィルムは、耐熱性が要求される小型かつ大容量型のコンデンサーに好ましく利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1.低分子量領域の構成割合が多い樹脂
2.低分子量領域の構成割合が少ない樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%未満である立体規則性度を有するとともに、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下であり、かつ、分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が9%以上15%以下である2軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、前記分子量分布の構成をポリプロピレン樹脂の過酸化分解処理によって調整したポリプロピレン原料樹脂を用いることを特徴とする、コンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレンフィルムが、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を少なくとも1種類以上含有し、そのフィルム中の残存含有量が4000ppm(質量基準)以上6000ppm(質量基準)以下あることを特徴とする、請求項1記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記2軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.05μm以上0.15μm以下であり、かつ、最大高さ(Rz、旧JIS定義でのRmax)で0.5μm以上1.5μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記2軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さが、1μm以上5μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンデンサー用2軸延伸ポリプロピレンフィルム。





【図1】
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【公開番号】特開2012−149171(P2012−149171A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8877(P2011−8877)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】