説明

コンデンサ陰極用箔およびその製造方法

【課題】高い静電容量と高い強度をともに確保することが可能なコンデンサ陰極用箔とその製造方法を提供する。
【解決手段】コンデンサ陰極用箔は、アルミニウム箔と、このアルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層とを備える。アルミニウム箔と炭素含有層との間には、アルミニウムと炭素を含む介在層が形成されている。炭素含有層は、アルミニウム箔の表面から外側に延びるように形成されている。介在層は、アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を構成する。炭素含有層は、第1の表面部分から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンデンサ陰極用箔およびその製造方法に関し、特定的にはアルミニウム箔を基材として用いるコンデンサ陰極用箔およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは二つの電極、すなわち陽極と陰極とを備えている。陽極材料としては、表面に絶縁酸化被膜を生成することが可能なアルミニウム、タンタル等の弁金属が用いられる。陰極材料としては、電解液、無機半導体、有機導電性物質または金属薄膜のいずれかが用いられる。陰極材料が電解液の場合には、陰極端子として表面積を拡大したアルミニウム箔が使用されることが多い。この種のアルミニウム箔は電解コンデンサ陰極用アルミニウム箔と呼ばれている。コンデンサの静電容量を増加させるために陰極用アルミニウム箔の表面積が拡大される。
【0003】
ところで、コンデンサの製造工程においては、コイル状で巻取られた形態で供給される陰極用アルミニウム箔を所定の幅に切断する工程、その切断されたスリットコイル状の陰極用アルミニウム箔をさらに巻取る工程、最終的に筒状のコンデンサを構成するために陰極用アルミニウム箔を巻取る工程または積層型のコンデンサを構成するために陰極用アルミニウム箔を切断する工程等が行なわれる。
【0004】
これらの工程における生産性を向上させるためには陰極用アルミニウム箔の巻取り速度を高めることが要求される。この要求に応えるために、陰極用アルミニウム箔の機械的強度、すなわち陰極用アルミニウム箔の引張強度を向上させることが必要になる。
【0005】
このように、陰極用アルミニウム箔には、要求特性として高い静電容量とともに高い引張強度も求められる。
【0006】
陰極用アルミニウム箔の静電容量を増大させるためには、エッチングによってアルミニウム箔の表面積を拡大させる方法が一般的に採用される。ところが、エッチング処理を行なうと、アルミニウム箔の引張強度は著しく低下する。
【0007】
近年、電気機器の小型化に伴い、コンデンサをより小さくすることが求められている。コンデンサを小さくするためには、陰極用アルミニウム箔の厚みをより薄くする必要がある。アルミニウム箔の厚みが薄くなれば、アルミニウム箔の強度も相対的に低下する。
【0008】
また、コンデンサ陰極用アルミニウム箔は、アルミニウム箔の表面積を拡大させるためのエッチング時の反応を制御するために、通常、アルミニウムの純度が99.0〜99.95質量%程度のものが用いられている。なお、ここでいうアルミニウムの純度(ベース純度)とは、アルミニウム箔中に含まれる不純物元素のうち、鉄、ケイ素、銅の主要三元素の含有量を100%から差引いた値をいう。
【0009】
そこで、たとえば、特開平5−247609号公報(特許文献1)には、電解コンデンサ陰極用アルミニウム箔の静電容量と強度を向上させるための製造方法が提案されている。その電解コンデンサ陰極用アルミニウム箔の製造方法は、アルミニウムの純度が99.8%以上であり、不純物元素として、FeおよびSiをそれぞれ0.05%以下、Cuを0.005%以下に抑制し、かつ、Mg含有量とZn含有量を所定の式を満足するように成分調整されている化学成分を有するアルミニウムについて、均熱処理を540℃以下で行ない、熱間圧延後、巻き取り温度が300℃以下で終了し、さらに最終冷間圧延を加工率95%以上で行なって製品箔厚にするものである。このアルミニウム箔をエッチングして表面積を拡大させる。
【0010】
しかしながら、上記の特開平5−247609号公報(特許文献1)に開示された製造方法を用いても、コンデンサ陰極用アルミニウム箔の要求特性として引張強度を低下させずに静電容量を向上させるには限度があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−247609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、高い静電容量と高い強度をともに確保することが可能なコンデンサ陰極用箔とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、背景技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム箔に特定の処理を施すことによって、上記の目的を達成できるコンデンサ陰極用箔を得ることができることを見出した。このような発明者の知見に基づいて本発明はなされたものである。
【0014】
この発明に従ったコンデンサ陰極用箔は、アルミニウム箔と、このアルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層とを備える。アルミニウム箔と炭素含有層との間には、アルミニウムと炭素を含む介在層が形成されている。
【0015】
この発明のコンデンサ陰極用箔においては、炭素含有層がアルミニウム箔の強度を低下させることなく、アルミニウム箔の表面積を拡大または増大させる作用をする。これにより、コンデンサ陰極用箔の静電容量が増大する。また、アルミニウム箔と炭素含有層との間にはアルミニウムと炭素を含む介在層が形成されているので、この介在層が、アルミニウム箔の表面積を増大させる炭素含有層との間の密着性を高める作用をする。これにより、所定の静電容量と強度とを確保することができる。
【0016】
また、この発明のコンデンサ陰極用箔において、炭素含有層は、アルミニウム箔の表面から外側に延びるように形成されている。このようにすることにより、炭素含有層がアルミニウム箔の表面積を拡大または増大させる作用をより効果的に発揮する。
【0017】
さらに、この発明のコンデンサ陰極用箔において、介在層は、アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を構成する。炭素含有層は、第1の表面部分から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分を構成する。
【0018】
このように構成することにより、第2の表面部分がアルミニウム箔の強度を低下させることなく、アルミニウム箔の表面積を増大させる作用をする。これにより、コンデンサ陰極用箔の静電容量が増大する。また、アルミニウム箔と第2の表面部分との間にはアルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分が形成されているので、この第1の部分が、アルミニウム箔の表面積を増大させる第2の表面部分との間の密着性を高める作用をする。これにより、所定の静電容量と強度とを確保することができる。
【0019】
この発明に従ったコンデンサ陰極用箔において、好ましくは、炭素含有層は、アルミニウムと炭素を含む介在物を内部に含む。
【0020】
炭素含有層が薄い場合は、上記の介在層の存在のみによって、アルミニウム箔と炭素含有層との密着性を高めることができる。しかし、炭素含有層が厚い場合は、炭素含有層の内部で剥離が生じ、所定の静電容量が得られない可能性がある。この場合、炭素含有層の内部にアルミニウムと炭素を含む介在物を形成することによって、炭素含有層内での密着性を高めることができ、所定の静電容量を確保することができる。
【0021】
この発明に従ったコンデンサ陰極用箔の製造方法は、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置する工程と、このアルミニウム箔を加熱する工程とを備える。
【0022】
この発明の製造方法では、炭化水素含有物質を含む空間に配置したアルミニウム箔を加熱することにより、アルミニウム箔の表面に、アルミニウムと炭素を含む介在物を形成するとともに、アルミニウム箔の表面積を増大させる作用をする炭素含有層を容易に形成することができる。
【0023】
また、この発明に従ったコンデンサ陰極用箔の製造方法においては、アルミニウム箔を配置する工程は、炭素含有物質およびアルミニウム粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種をアルミニウム箔の表面に付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置することを含む。
【0024】
炭化水素含有物質を含む空間に配置したアルミニウム箔を加熱することにより、従来よりも高い静電容量と高い強度をともに備えたコンデンサ陰極用箔を得ることができる。しかし、さらに飛躍的に高い静電容量を備えたコンデンサ陰極用箔を得る場合、炭素含有物質およびアルミニウム粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種をアルミニウム箔の表面に付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置し、加熱する。
【0025】
この発明に従ったコンデンサ陰極用箔の製造方法においては、アルミニウム箔を加熱する工程は、450℃以上660℃未満の温度範囲で行なうのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、この発明によれば、高い静電容量と高い強度をともに確保することが可能なコンデンサ陰極用箔を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図2】実施例3の試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図3】実施例6の試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者は、アルミニウムを炭化水素含有物質の存在下で加熱すると、第1の表面部分としてアルミニウムの表面近傍下に炭化アルミニウムの結晶が形成され、この炭化アルミニウムの結晶からアルミニウム表面の外側に向かって延びるように第2の表面部分が高密度で形成されることを見出した。また、形成された第2の表面部分は、互いに強固に結合することにより、または、別の炭素含有物質と強固に結合することにより、より表面積の高いアルミニウム箔を形成する性質も併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0029】
アルミニウムは、板状、箔状、粉状のいずれの形態でも上記の効果を発揮するが、コンデンサ陰極用としては箔状のものを用いる。
【0030】
この発明の一つの実施の形態における第2の表面部分はアルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分から外側に向かって延び、好ましくはフィラメント状、繊維状またはサボテン状の形態で存在して大きい表面積を有するため、アルミニウム箔の表面積を増大させる作用をする。その結果、コンデンサ陰極用箔の静電容量が増大する。
【0031】
この発明の一つの実施の形態においては、アルミニウム箔と第2の表面部分との間には炭化アルミニウムの結晶を含む第1の表面部分が形成されているので、この第1の部分が、アルミニウム箔の表面積を増大させる第2の表面部分との間の密着性を高める作用をする。これにより、所定の静電容量と強度とを確保することができる。
【0032】
また、この発明の一つの実施の形態においては、第2の表面部分は互いに強固に結合するので、アルミニウム粉末を利用して、より表面積の高いアルミニウム箔を得ることができる。
【0033】
さらに、この発明の一つの実施の形態においては、第2の表面部分はそれ自身とは別の炭素含有物質を強固に結合するので、活性炭などの表面積の大きい炭素含有物質を利用して、より表面積の高いアルミニウム箔を得ることができる。
【0034】
この発明の一つの実施の形態においては、第2の表面部分は互いに強固に結合し、または、別の炭素含有物質と強固に結合するので、アルミニウム粉末と炭素含有物質を利用して、より表面積の高いアルミニウム箔を得ることができる。
【0035】
本発明のコンデンサ陰極用箔は、エッチング処理によって表面積を増大または拡大させる手法を採用しないので、エッチング液との反応性を制御するためにアルミニウム箔の純度を99.0〜99.95質量%程度に限定する必要がない。アルミニウム箔の厚みは、要求特性としての強度とコンデンサの小型化の必要性とから適宜決めればよいが、通常は1〜200μm程度のものを用いればよい。
【0036】
本発明のコンデンサ陰極用箔の製造方法の一つの実施の形態では、用いられる炭化水素含有物質の種類は特に限定されない。炭化水素含有物質の種類としては、たとえば、メタン、エタン、プロパン、n‐ブタン、イソブタンおよびペンタン等のパラフィン系炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテンおよびブタジエン等のオレフィン系炭化水素、アセチレン等のアセチレン系炭化水素等、またはこれらの炭化水素の誘導体が挙げられる。これらの炭化水素の中でも、メタン、エタン、プロパン等のパラフィン系炭化水素は、アルミニウム箔を加熱する工程においてガス状になるので好ましい。さらに好ましいのは、メタン、エタンおよびプロパンのうち、いずれか一種の炭化水素である。最も好ましい炭化水素はメタンである。
【0037】
また、炭化水素含有物質は、本発明の製造方法において固体、液体、気体等のいずれの状態で用いてもよい。炭化水素含有物質は、アルミニウム箔が存在する空間に存在するようにすればよく、アルミニウム箔を配置する空間にどのような方法で導入してもよい。たとえば、炭化水素含有物質がガス状である場合(メタン、エタン、プロパン等)には、アルミニウム箔の加熱処理が行なわれる密閉空間中に炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填すればよい。また、炭化水素含有物質が固体または液体である場合には、その密閉空間中で気化するように炭化水素含有物質を単独または不活性ガスとともに充填してもよい。
【0038】
アルミニウム箔を加熱する工程において、加熱雰囲気の圧力は特に限定されず、常圧、減圧または加圧下であってもよい。また、圧力の調整は、ある一定の加熱温度に保持している間、ある一定の加熱温度までの昇温中、または、ある一定の加熱温度から降温中のいずれの時点で行なってもよい。
【0039】
アルミニウム箔を配置する空間に導入される炭化水素含有物質の重量比率は、特に限定されないが、通常はアルミニウム箔100重量部に対して炭素換算値で0.1重量部以上50重量部以下の範囲内にするのが好ましく、特に0.5重量部以上30重量部以下の範囲内にするのが好ましい。
【0040】
アルミニウム箔を加熱する工程において、加熱温度は、加熱対象物であるアルミニウム箔の組成等に応じて適宜設定すればよいが、通常は450℃以上660℃未満の範囲内が好ましく、500℃以上630℃以下の範囲内で行なうのがより好ましく、570℃以上630℃以下の範囲内で行なうのがさらに好ましい。ただし、本発明の製造方法において、450℃未満の温度でアルミニウム箔を加熱することを排除するものではなく、少なくとも300℃を超える温度でアルミニウム箔を加熱すればよい。
【0041】
加熱時間は、加熱温度等にもよるが、一般的には1時間以上100時間以下の範囲内である。
【0042】
昇温および降温工程も含め、加熱温度が400℃以上になる場合は、加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0体積%以下とするのが好ましい。加熱温度が400℃以上で加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0体積%を超えると、アルミニウム箔の表面の熱酸化被膜が肥大し、アルミニウム箔の表面における界面電気抵抗が増大するおそれがある。
【0043】
また、加熱処理の前にアルミニウム箔の表面を粗面化してもよい。粗面化方法は、特に限定されず、洗浄、エッチング、ブラスト等の公知の技術を用いることができる。
【0044】
なお、加熱処理の後にコンデンサ陰極用アルミニウム箔を圧延して所望の厚さおよび硬さに調整してもよい。
【0045】
本発明の製造方法を用いることによって、アルミニウム箔の表面積をさらに増大または拡大させるためには、アルミニウム箔の表面に炭素含有物質またはアルミニウム粉末の少なくともいずれか一種を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置する工程が採用される。このとき、アルミニウム箔の表面に形成される第2の表面部分は、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分から外側に向かって延び、好ましくはフィラメント状、繊維状またはサボテン状の形態で存在する部分と、この部分の上に付着している多数個の粒子部分とから構成される。
【0046】
この場合、炭素含有物質としては、活性炭素繊維、活性炭クロス、活性炭フェルト、活性炭粉末、墨汁、カーボンブラックまたはグラファイト等のいずれを用いてもよい。炭素含有物質の付着方法は、バインダー、溶剤または水等を用いて、スラリー状、液体状または固体状等に上記の炭素含有物質を調製したものを、塗布、ディッピングまたは熱圧着等によってアルミニウム箔の表面上に付着させればよい。炭素含有物質をアルミニウム箔の表面上に付着させた後、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させてもよい。
【0047】
また、アルミニウム箔の表面に炭素含有物質を付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置する工程を採用し、その後、付着させた炭素含有物質の表面積をさらに高めるための賦活処理を施してもよい。賦活処理は、50℃以上600℃以下の範囲内の温度で、好ましくは200℃以上500℃以下の範囲内の温度で、酸素を2〜50体積%含む空間にアルミニウム箔を配置すればよい。賦活処理時間は、温度にもよるが、一般に10秒間以上100時間以下の範囲内であればよく、賦活処理を繰り返し行なってもよい。
【0048】
また、アルミニウム粉末としては、不定形状、球状、偏平状のアルミニウム粉末またはアルミニウムペ−ストのいずれを用いてもよい。アルミニウム粉末の付着方法は、バインダー、溶剤等を用いて、スラリー状、液体状または固体状等に上記のアルミニウム粉末を調製したものを、塗布、ディッピングまたは熱圧着等によってアルミニウム箔の表面上に付着させればよい。
【実施例】
【0049】
以下の実施例1〜10と従来例に従ってコンデンサ陰極用箔を作製した。なお、実施例1〜10と比較するためにコンデンサ陰極用箔の参考例も作製した。
【0050】
(実施例1)
厚みが30μmのアルミニウム箔(JIS A1050−H18)を、アセチレンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料の表面を観察したところ、炭素含有層として、約1000nmの長さで繊維状またはフィラメント状の形態でアルミニウム箔の表面から外側に延びている部分の存在を確認した。この走査電子顕微鏡写真を図1に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
【0051】
(実施例2)
平均粒径が0.5μmのカーボンブラック2重量部を、塩化ビニル系バインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが30μmのアルミニウム箔(JIS A1050−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面1μmであった。このアルミニウム箔をメタンガス雰囲気中にて温度590℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料の表面を観察したところ、約1000nmの長さで繊維状またはフィラメント状の形態でアルミニウム箔の表面から外側に延びている部分と、この部分の上に付着している粒径が約0.5μmの多数個の粒子部分とから構成される炭素含有層の存在を確認した。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
【0052】
(実施例3)
平均粒径が1μmのアルミニウム粉末2重量部を、塩化ビニル系バインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが15μmのアルミニウム箔(JIS 1N30−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面2μmであった。このアルミニウム箔をメタンガス雰囲気中にて温度620℃で10時間保持した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料表面を観察したところ、炭素含有層として、アルミニウム箔の表面上に付着している粒径が約1μmの多数個の粒子部分から、約5000nmの長さでサボテン状の形態で外側に延びている部分の存在を確認した。この走査電子顕微鏡写真を図2に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
【0053】
(実施例4〜10)
平均粒径が0.1μmのカーボンブラック2重量部と平均粒径が1μmのアルミニウム粉末2重量部を、塩化ビニル系バインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが12μmのアルミニウム箔(JIS A3003−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面4μmであった。このアルミニウム箔を表1に示す条件で熱処理した。実施例8では、熱処理後に圧延ロールを用いて約20%の圧下率で圧延加工をアルミニウム箔に施した。実施例10では、熱処理後に空気中で300℃2時間の賦活処理を施した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料表面を観察したところ、アルミニウム箔の表面上に付着している粒径が約1μmの多数個の粒子部分から、サボテン状の形態で外側に延びている部分と、この部分の上に付着している粒径が約0.1μmの多数個の粒子部分とから構成される炭素含有層の存在を確認した。実施例6の走査電子顕微鏡写真を図3に示す。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にて炭化アルミニウムの存在を確認した。
【0054】
【表1】

【0055】
(参考例)
平均粒径が0.1μmのカーボンブラック2重量部と平均粒径が1μmのアルミニウム粉末2重量部を、塩化ビニル系バインダー1重量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分30%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが12μmのアルミニウム箔(JIS A3003−H18)の両面に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の厚みは片面4μmであった。このアルミニウム箔をアルゴンガス中にて温度500℃で乾燥した。その後、走査電子顕微鏡(SEM)で試料表面を観察したが、炭素含有層がアルミニウム箔の表面に付着して形成されておらず、塗膜が剥離して脱落している部分が見られ、繊維状、フィラメント状またはサボテン状の形態で表面から外側に延びている部分の存在は確認されなかった。また、X線回折および電子エネルギー損失分光器(EELS)にても炭化アルミニウムの存在は確認されなかった。
【0056】
(従来例)
厚みが40μmのアルミニウム箔(JIS A1080−H18)に、塩酸15%と硫酸0.5%を含む電解液中で温度50℃、電流密度0.4A/cm2の条件にて60秒間交流エッチング処理を施した後、エッチング後のアルミニウム箔を水洗し、乾燥した。
【0057】
上記の実施例1〜10、参考例および従来例で得られた各試料の特性を次のようにして測定した。
【0058】
(1)厚み
各試料の厚みを100倍の光学顕微鏡断面写真において測定した。その測定結果を表2に示す。
【0059】
(2)静電容量
各試料の静電容量は、ホウ酸アンモニウム水溶液(8g/L)中で、LCRメータにより測定した。
【0060】
(3)機械的強度
各試料の機械的強度は引張試験によって評価した。すなわち、インストロン型引張試験機を用い、幅15mmの試料を引張速度10mm/minで引張り、試料の厚みから引張強度を算出した。
【0061】
このようにして測定された各試料の静電容量および引張強度を、従来例で得られた値を100とした場合の指数で表わし、表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
これらの測定結果からわかるように、実施例1〜10の試料は、表面積が拡大されているので従来例よりも高い静電容量を示すとともに、高い引張強度を示した。なお、参考例は従来例よりも高い引張強度を示すが、低い静電容量を示した。
【0064】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に従ったコンデンサ陰極用箔は、高い静電容量と高い強度をともに確保するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の表面上に形成された炭素含有層とを備え、
前記アルミニウム箔と前記炭素含有層との間に形成された、アルミニウムと炭素を含む介在層をさらに備え、
前記炭素含有層は、前記アルミニウム箔の表面から外側に延びるように形成され、
前記介在層は、前記アルミニウム箔の表面の少なくとも一部の領域に形成された、アルミニウムの炭化物を含む第1の表面部分を構成し、
前記炭素含有層は、前記第1の表面部分から外側に向かって延びるように形成された第2の表面部分を構成する、コンデンサ陰極用箔。
【請求項2】
前記炭素含有層は、アルミニウムと炭素を含む介在物を内部に含む、請求項1に記載のコンデンサ陰極用箔。
【請求項3】
炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置する工程と、
前記アルミニウム箔を加熱する工程とを備え、
前記アルミニウム箔を配置する工程は、炭素含有物質およびアルミニウム粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種をアルミニウム箔の表面に付着させた後、炭化水素含有物質を含む空間にアルミニウム箔を配置することを含む、コンデンサ陰極用箔の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム箔を加熱する工程は、450℃以上660℃未満の温度範囲で行なう、請求項3に記載のコンデンサ陰極用箔の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−21589(P2010−21589A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246013(P2009−246013)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【分割の表示】特願2004−570192(P2004−570192)の分割
【原出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】