説明

コントロールチューブ

【課題】 コントロールチューブの生産、使用及び廃棄に到る全てのプロセスに亘り、製品の取り扱いに関わる人や環境に対する影響を軽減或いは解消させる。
【解決手段】 内芯チューブ及び被覆保護カバーからなるコントロールチューブにおいて、内芯チューブが主に、炭化水素から構成されるエラストマーからなり、被覆保護カバーが水酸化マグネシウム及びシリコーン系難燃剤を含有するノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物からなることを特徴とするコントロールチューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントロールチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
コントロールチューブはスパッター用チューブ、カバーホース等の名称でも呼ばれている製品であり、内芯チューブと被覆保護カバー(被覆外層)の2層構造で構成されている。実際に空気や水等の流体を流す内芯チューブ自体が、外部からの紫外線や火気、熱源(溶接スパッター等)、衝撃及び擦過等からの影響を受けないように保護する目的で被覆保護カバーはカバー掛けされている。また、実際の配管にあたっては、継手と本2層構造チューブの接続時は、継手に挿入されるのは内芯チューブのみであるため、継手挿入部の被覆保護カバーは、カッター等で容易に切り裂くことができ、手で簡単に剥離できなければならない。
【0003】
従って、実際のチューブとしてのパフォーマンスが必要なのは、内芯チューブであり、被覆保護カバーはあくまで内芯チューブの保護材として供され、不要な部分は簡単に剥がせることが必要なため、内芯チューブと被覆保護カバーは異種材質原料(異なった樹脂原料)が用いられる。以下に、実際に製作されている製品について紹介する。
【0004】
内芯のチューブ材料は機械特性や柔軟性等の性能が重視されるため、主にナイロン(ナイロン11或いは12)チューブやポリウレタンチューブが用いられ、被覆保護カバーには、ポリ塩化ビニル樹脂やクロロプレンゴム及び塩素化ポリオレフィン樹脂が使用されている。前記被覆保護カバーに使用されている材料は、黒色配合することにより飛躍的に耐紫外線性が向上するため、特に屋外配管用のチューブとして有効となる。また、前記被覆原料には全て塩素分が含まれているハロゲン系化合物が使用されているが、保護材として用いられる理由は、溶接スパッター等が飛散、付着しても燃えにくい難燃性が必要であるからである。更に、その難燃性の向上を目的として、臭素系難燃剤等のハロゲン系物質や、アンチモン系物質等の環境負荷物質が加えられることも実例として多々ある。また、前記保護材には、内芯チューブの柔軟性を阻害しないような硬度の低い柔軟なものが求められるため、所謂可塑剤が配合されており、その可塑剤はフタル酸エステル系(フタル酸ジオクチル(DOP)等)のものが多用されている。DOPは近年所謂環境ホルモン(内分泌攪乱物質)の問題で、各種規制が行われている物質の代表的なものではある。DOP等の可塑剤を添加しなければいけない理由の一つとしては、柔軟性の他、前記の説明の如く、本製品の通常の使用に際しては、継手への配管時、被覆保護カバーの部分をカッター等で切り裂き、手で剥離し、内芯部分を露出させて継手に挿入する必要性があることからきている。
【0005】
そのため、内芯チューブと被覆保護カバーは剥離し易くなければならず、内芯と被覆保護カバーは異材質で接着することがなく、被覆保護カバーは柔らかく切り裂き易いことが必要とされるため、可塑剤等が配合された前記材質の柔軟性があり、裂け易く、剥離し易いものが用いられてきた。
【0006】
内芯に使用されているナイロンチューブやポリウレタンチューブは、従来から空気配管や水配管に数多く使用されている実績の高いチューブであり、そのチューブの成形や配管使用時における環境への影響因子は殆どなく、人体や環境に対し安全な製品であるといえる。
【0007】
しかしながら、ナイロンやポリウレタンは含窒素ポリマーであることから、生産時や配管時の廃材や使用済み製品の廃棄時には焼却処理は不可能であり、リサイクルも難しい樹脂であるため、産業廃棄物として扱わざるを得ない。
【0008】
すなわち、ナイロンもポリウレタンも含窒素ポリマーであり、一般的な焼却炉(焼却温度750℃位)で燃焼させた場合には、構成元素の窒素と大気中の酸素が反応して窒素酸化物(NOx)、他の構成元素である炭素や水素と窒素が反応してシアン化水素(HCN)やアンモニア類(NHx)等の有毒ガスが発生する。含窒素ポリマーを完全燃焼させるためには、1000℃以上で燃やせる能力のある特別な焼却炉が必要となる。この高温焼却可能な焼却炉を用いることにより、シアン化水素やアンモニア類の発生はごく微量に留まり、環境に対する許容濃度以下とすることができる。しかしながら、前記の大気中の酸素と反応して発生する窒素酸化物の発生は減少せず、環境に排出させないための特別な除外設備(排煙脱硝設備等)が必要となってくる。但し、実際にはそのような高価な設備を備えているところは限られてくるため、産業廃棄物として処理せざるを得なくなる。窒素酸化物の有害性については、人や動物の呼吸器系への影響や光化学スモッグ発生の要因等、周知の事実である。
【0009】
更に、前述したように、内芯チューブと被覆保護カバーは異材質であり、産業廃棄物として処理する際も分別する必要があり、一体となっている製品を別々に分けなければならない。具体的には、被覆保護カバーをカッター等で切り込みをいれながら剥離させ、内芯チューブと被覆保護カバーを別々に集約して、産業廃棄物処理業者に委託する義務がある。
【0010】
また、被覆保護カバーに使用されている塩素系の化合物は、焼却処理をすると、前記含窒素ポリマーよりも有毒な塩素ガスを発生させ、所謂ダイオキシン等の有害ガスの発生に繋がる危険性があり、焼却処理は当然ながら全く不可能である。
【0011】
更に、被覆保護カバーについては、前述したようにポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等の塩素系化合物が使用されており、チューブ成形時には、溶融による塩素ガスが発生し、作業環境を悪化させるばかりでなく、製品使用時も外部の火気や熱を受けた場合には、同じく塩素ガスの発生による環境悪化を引き起こす。更に、前述した可塑剤として多く用いられているフタル酸エステル系(DOP等)の化合物は、近年環境ホルモンの問題等で削減物質の対象(化学物質管理促進法(PRTR法)対象物質)となってきている。
【0012】
また、特許文献1には、オレフィン系樹脂又は水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分とする熱可塑性ポリマー、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)を主成分とするゴム、赤燐及び水酸化物を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなる外層と、熱可塑性ポリマーを主成分とする内層を備えたホースが開示されている。
【0013】
しかしながら、赤燐は燃焼時に人体に有害なホスフィンガスを発生させるため好ましくなく、大気汚染防止法で特定物質に指定されている。
【特許文献1】特開2001−139829号公報(請求項1、4〜6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記従来のコントロールチューブの問題点を解決し、生産、使用及び廃棄に到る全てのプロセスに亘り、製品の取り扱いに関わる人や環境に対する影響を軽減或いは解消させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)内芯チューブ及び被覆保護カバーからなるコントロールチューブにおいて、内芯チューブが主に、炭化水素から構成されるエラストマーからなり、被覆保護カバーが水酸化マグネシウム及びシリコーン系難燃剤を含有するノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物からなることを特徴とするコントロールチューブ。
【0016】
(2)内芯チューブを構成するエラストマーがポリプロピレン及び水素添加スチレン系エラストマーからなる前記(1)に記載のコントロールチューブ。
(3)内芯チューブを構成するエラストマーが光安定剤を含有する前記(1)又は(2)に記載のコントロールチューブ。
【0017】
(4)被覆保護カバーを構成するノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物のベース樹脂がエチレン−酢酸ビニル共重合体である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のコントロールチューブ。
(5)被覆保護カバーが無機充填剤を含有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載のコントロールチューブ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生産、使用及び廃棄に到る全てのプロセスに亘り、製品の取り扱いに関わる人や環境に対する影響を軽減或いは解消させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のコントロールチューブは、内芯チューブと、該内芯チューブの外側を覆う被覆保護カバーから構成される。内芯チューブの本数は、特に制限はないが、通常1〜10本、好ましくは1〜7本である。本発明のコントロールチューブの外径は、内芯チューブの本数、外径等により異なるが、通常5〜22mm×5〜22mmである。内芯チューブの外径及び内径は、通常3.5〜13mm×2〜9.5mmである。本発明のコントロールチューブの断面の形状は、内芯チューブの本数等により異なり、通常、内芯チューブ1本の場合は円形、内芯チューブ2本の場合はトラック形、内芯チューブ3本の場合は三角形、内芯チューブ7本の場合は六角形である。内芯チューブ2本、内芯チューブの外径及び内径8mm×6mm、コントロールチューブの外径18mm×10mmのコントロールチューブの正面図及び断面図を図1に示す。
【0020】
本発明においては、焼却処理を可能とし、廃棄時の負担を軽減するため、前記内芯チューブは主に、炭化水素から構成されるエラストマーからなる。内芯チューブの材料として用いられるエラストマーとしては、炭化水素から構成される熱可塑性エラストマーであれば特に制限はないが、例えば、ポリスチレン(硬質相)とポリブタジエン、ポリイソプレン、ビニル−ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエン、水素添加ポリイソプレン又は水素添加ビニル−ポリイソプレン(軟質相)とから構成されるポリスチレン系エラストマー;ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)(硬質相)とエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン−非共役ポリエン共重合体(例えば、EPDM)又はブチルゴム(軟質相)とから構成されるポリオレフィン系エラストマーが挙げられる。前記ポリスチレン系エラストマーには、必要に応じてポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を配合してもよい。
【0021】
内芯チューブの材料としては、耐屈曲疲労性や柔軟性の点で、ポリプロピレン及び水素添加スチレン系エラストマーからなる配合物が好ましい。前記配合物におけるポリプロピレンと水素添加スチレン系エラストマーとの配合割合は、重量比で、好ましくは85:15〜40:60、更に好ましくは80:20〜60:40である。
【0022】
内芯チューブの材料には、必要に応じて、前記の成分以外に、酸化防止剤、熱安定剤や、耐候性を向上させるための紫外線吸収剤、光安定剤等を配合することができる。前記光安定剤としては、内芯チューブのベース樹脂との相溶性がよく、耐紫外線が効果的で、ベース樹脂の特性も低下させない点で、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えばジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられる。これらの各種ヒンダードアミン系光安定剤は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものが併用されてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤を配合する場合の配合割合は、ベース樹脂100重量部に対して、通常0.3〜1重量部であり、耐紫外線効果が優れ、ベース樹脂特性及び成形バランスに影響を及ぼさない点から、0.5〜0.8重量部が好ましい。内芯チューブの材料に光安定剤、好ましくはヒンダードアミン系光安定剤を配合することにより、継手挿入用に被覆保護カバーが剥離された内心チューブ部分の紫外線劣化を防止することができる。
【0023】
前記被覆保護カバーは水酸化マグネシウム及びシリコーン系難燃剤を含有するノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物からなる。
【0024】
前記ノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物のベース樹脂としては、ノンハロゲン樹脂であれば特に制限はないが、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のノンハロゲンビニル樹脂;ノンハロゲンオレフィン系樹脂が挙げられ、可塑剤を使用せずに柔軟性が得られる点で、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体が好ましい。前記ノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物におけるベース樹脂の配合割合は、通常30〜50重量%、好ましくは40〜45重量%である。
【0025】
また、内芯チューブ及び被覆保護カバーのベース樹脂をいずれもビニル樹脂とすることにより、チューブの生産から使用、及び使用済み後の廃棄の全てのプロセスにおいて、両者とも同様に取り扱うことができ、しかも、廃棄時は焼却処理を行っても、完全燃焼させれば発生ガスは水蒸気及び炭酸ガスのみで、有害ガスの発生は皆無で、人や環境に対し負荷を与えることはない。当然ながら、燃料として使用することも可能であり、焼却時もエネルギーとしての貢献を果たすことが可能である。
【0026】
本発明においては、ハロゲン系化合物等の環境負荷物質を使用せずに、難燃性とするために、被覆保護カバー材料であるノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物中に水酸化マグネシウムを配合させる。水酸化マグネシウムは、難燃性が良好であり、ベース樹脂であるノンハロゲン樹脂との相溶性及び分散性に優れ機械特性を低下させない。水酸化マグネシウムの配合割合は、ノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物中、通常40〜60重量%、好ましくは48〜53重量%であり、ベース樹脂100重量部に対して、通常100〜150重量部、好ましくは110〜130重量部である。
【0027】
また、本発明においては、被覆保護カバーの引き裂き易さ及び剥離性の点で、被覆保護カバー材料であるノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物中に、シリコーン系難燃剤を配合することが必要であり、更に無機充填剤を配合することが好ましい。
【0028】
前記シリコーン系難燃剤としては、ケイ素原子を含有する有機化合物であれば特に制限はなく、例えばシリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂が挙げられる。前記シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイルが挙げられる。前記シリコーンゴムとしては、例えばメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴムが挙げられる。前記シリコーン樹脂としては、例えばメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、フェニルシリコーンが挙げられる。また前記ケイ素原子を含有する有機化合物は、−OH、−NH、−NCO、−COOH、−CHO、−SH、メチロール基、アクリレート基、メタクリレート基、シリル基、グリシジル基又はエポキシ基等の官能基を有していてもよい。
【0029】
前記シリコーン系難燃剤の配合割合は、ノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物中、通常1.0〜2.0重量%、好ましくは1.2〜1.3重量%であり、ベース樹脂100重量部に対して、通常2.3〜4.7重量部、好ましくは2.8〜3.0重量部である。
【0030】
前記無機充填剤としては、難燃性樹脂組成物に配合することができる、水酸化マグネシウム以外の無機充填剤であれば特に制限はなく、例えばスズ酸亜鉛に代表される無機酸化物類、ケイ酸塩類、炭酸塩類、モリブデン類等が挙げられ、好ましくはスズ酸亜鉛、炭酸マグネシウム等の剥離性改善効果等の改質効果を有する無機充填剤が挙げられる。
【0031】
前記無機充填剤の配合割合は、ノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物中、通常2.0〜10.0重量%、好ましくは3.0〜5.0重量%であり、ベース樹脂100重量部に対して、通常4.6〜23.2重量部、好ましくは7.1〜11.6重量部である。
【0032】
前記ノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物には、必要に応じて、前記の成分以外に、加工性改良剤、酸化防止剤、改質剤、架橋剤、顔料、紫外線吸収剤、熱安定剤等を配合することができる。
【0033】
また、内芯チューブ及び被覆保護カバーの材料には、環境ホルモン等の環境影響性の点で、DOP等の可塑剤は配合しないことが好ましい。
【0034】
本発明のコントロールチューブは、例えば、次のようにして製造することができる。
先ず、内芯チューブ用のポリプロピレンと水素添加スチレン系エラストマーからなるチューブを、予め、押出成形機を用いて生産する。
【0035】
次いで、大気中で十分に冷却安定するまで保管された、前記内芯チューブをクロスヘッド型押出成形機出口の金型内に導き入れ、クロスヘッド型押出機により、ノンハロゲン・ノンリン難燃樹脂組成物からなる樹脂原料を用いて被覆保護カバー掛け成形を行う。
【0036】
本2段階の生産方式によらずに、例えば、2層同時押出成形方式を用いると、内芯チューブ用樹脂と、被覆保護カバー樹脂が、互いに溶融し合い、本発明の目的である、「被覆保護カバー」の剥離自体が全く不可能となる。
【0037】
前記2段階の成形方式を用いても、内芯チューブ及び被覆保護カバーのベース樹脂をともにビニル樹脂にすると、相溶性があるため、内芯チューブと被覆保護カバーが溶け合い接着状態となり、剥離しにくくなるため、被覆保護カバーの成形時に内芯チューブが溶融しないような成形条件及び手段を採用することが好ましい。
【0038】
このような手段として、例えば、押出成形機のクロスヘッド金型構造の選択が挙げられる(図2)。
(i)シリンダー出口(クロスヘッド入り口;図2、A,A’)の形状は、従来の金型では図2Aに示すように曲部を有していたが、図2A’に示すように直線的にする。
(ii)クロスヘッドの長さ(図2、B,B’)は、従来の金型では23〜30cmであったが、吐出圧力を伝達し易くし、かつ樹脂の滞留時間を短縮させるため、12〜17cmと短縮し、金型自体の長さを縮小する(約52〜58%)。
(iii)金型溝部(図2、C,C’)の断面形状は、従来の金型では従来の金型では図2Cに示すようにテーパー部を有していたが、スクリューの吐出圧力の分散を防止し、樹脂内の圧力伝達を改善させるため、図2C’に示すように両側をほぼ垂直にし、樹脂の流動性を高める。
(iv)樹脂と金型間で発生する摩擦熱を減少させ、樹脂の流動性を改善するために、金型焼入れ後、精密研磨を行った後、硬質クロムメッキ処理を施す。
【0039】
前記のようなクロスヘッド金型構造を採用することにより、樹脂の流動性が飛躍的に改善され、吐出量も増加し、成形スピードが改善され、被覆保護カバーの成形時に内芯チューブが溶融することを防止できる。
【0040】
また、被覆保護カバーの成形が可能な範囲内で、内芯チューブの成形温度条件(190〜210℃)には到らない温度、好ましくは樹脂温度が180℃以下となるように、被覆保護カバーの成形を行うことにより、被覆保護カバーの成形時に内芯チューブが溶融することを防止できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
(1)内芯チューブの製造
次のようにして、外径8mm、内径6mmの内芯チューブを、黒色顔料を配合した黒色内芯チューブと黒色顔料を配合しない透明内芯チューブのそれぞれ1本製造した。
【0043】
通常のストレート型押出成形機により、主成分がポリプロピレンと水素添加スチレン系エラストマーからなる原料樹脂(ポリプロピレンと水素添加スチレン系エラストマーとの重量比:80:20;ヒンダードアミン系光安定剤0.6重量%添加)を用いて、予め、内芯用チューブの製造を行った。
【0044】
(2)被覆保護カバー掛け成形
前記の内芯用チューブが十分に冷却し、内部物性的に十分に安定してから、クロスヘッド型押出成形機の出口側金型に、チューブを導き入れ、ノンハロゲン・ノンリン難燃樹脂組成物からなるカバー用原料で被覆保護カバー掛け成形を行った。
【0045】
(3)成形条件の検討
原料に添加剤(シリコーン系難燃剤及び無機充填剤)を加えることにより、剥離性改善の効果はあったものの、成形後確認すると剥離部の内芯チューブに被覆保護カバーの残渣(滓)がこびりつく部位が点在する結果となっていたので、更に改善する手段を検討した。
【0046】
部分的に接着部位が発生する原因としては、被覆保護カバー成形時の下記成形条件に起因しているものと判断された。
(i)被覆用原料のカバー掛け成形時の成形温度が高く、内芯チューブの成形温度近くまで達してしまう。
(ii)被覆保護カバー成形時の成形スピードが遅く、内芯チューブが通過する際に、高温環境下に長い時間曝露される。
【0047】
前記(i)及び(ii)の改善を行うため、下記の対策を講じた。
A.クロスヘッド金型構造の変更(図2参照)
被覆保護カバー原料には、従来の説明のように水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤が配合されているため、樹脂の流動性が悪く、成形温度を高めに設定しないと樹脂がうまく流れない傾向があった。また、従来のクロスヘッド金型構造では、原料樹脂の吐出量を増加させることは困難であり、溶融原料が長く金型内に留まることにより、樹脂間、及び樹脂と金型間の摩擦熱の発生により、設定温度以上の樹脂温となっていた(参考:内芯チューブはクロスヘッド内部を通過)。
改善前の成形温度設定と実際の樹脂温度(最も温度の高い部分)を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
前記の成形温度条件、及び実際の樹脂温度は、内芯チューブの成形温度条件(190〜210℃)と同レベルとなってしまっているため、内芯チューブ自体が溶融を開始してしまい、被覆保護カバーとの接着部位が生じる要因となっていた。
この対策として、金型改善を行った。
【0050】
(改善内容)
(i)シリンダー出口(クロスヘッド入り口、図2A)の形状変更
スクリューの吐出圧力がクロスヘッドに直接加わるように、AからA’に形状を変更した。
(ii)クロスヘッドの長さ(図2B)を短縮
吐出圧力を伝達し易くし、かつ樹脂の滞留時間を短縮させるため、B(25.2cm)からB’(14.2cm)とし、金型自体の長さを縮小した(約56%)。
(iii)金型溝部(図2C)の変更
スクリューの吐出圧力の分散を防止し、樹脂内の圧力伝達を改善させるため、テーパー部を有していた溝部Cを、C’形状とし、樹脂の流動性を高めた。
(iv)金型表面処理
樹脂と金型間で発生する摩擦熱を減少させ、樹脂の流動性を改善するために、金型焼入れ後、精密研磨を行った後、硬質クロムメッキ処理を施した。
【0051】
前記の対策を行うことにより、樹脂の流動性が飛躍的に改善され、吐出量の増加改善も確認された。
【0052】
B.成形スピードの高速化と成形温度の改善(低温化)
前記金型改善を行った結果、スクリュー回転数を上げても(従来14rpmから60rpm)、トルク的には問題がなくなり、吐出量の増加が確認されたため、成形スピード自体を向上させる確証が得られた。また、吐出量の増加に対応するため、内芯チューブの送り出し装置と、完成品引き取り装置のコントロールの改善(同調制御)を行い、常に一定の成形スピードでの生産を可能とした(従来の成形スピード:5m/minから改善後:18m/min)。
【0053】
また併せて、被覆保護カバーの成形可能な低温限界を探るために、何回かのトライを行った結果、下記成形温度設定においても、十分な安定成形ができることが確認できたため、低い成形温度でも成形が可能となり、内芯チューブの成形温度に達してしまう現象を防止することが可能となった。
改善後の成形温度設定と実際の樹脂温度(最も温度の高い部分)を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
前記温度設定条件の変更により、実際の樹脂温度も低下させることが可能となり、内芯チューブの成形温度条件(190〜210℃)には到らず、内芯チューブの溶融開始温度を下回り、被覆保護カバーと内芯チューブが接着してしまう危険性は皆無となった。
【0056】
また、本成形スピード改善と温度条件改善により、被覆保護カバーと内芯チューブの接着してしまう不具合が解消されたのと同時に、内芯チューブ自体が、被覆保護カバーを掛けられる際に生じる熱による影響(チューブ軟化によるチューブの細化現象及び熱による物性低下)を最小限に留めることが可能となり、チューブ品質面の向上効果も得られた。
【0057】
(3)被覆保護カバーの形成
前記(1)で製造した黒色及び透明の内芯チューブ計2本の外側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体43重量%、水酸化マグネシウム51重量%、シリコーン系難燃剤(難燃助剤及び剥離性改善剤)1.3重量%、無機充填剤(剥離性改善等改質剤)4.3重量%、その他(加工性改良剤、酸化防止剤、改質剤、架橋剤、顔料)からなる樹脂組成物を用いて、クロスヘッド型押出成形機により、カバー掛け成形することにより被覆保護カバーを形成し、図1に示すコントロールチューブを製造した。
【0058】
(実施例2)燃焼性(難燃性)試験
実施例1で製造したコントロールチューブについて、電線規格のUL44 VW−1に準拠して燃焼性(難燃性)試験を実施した。VW−1試験は、電線規格の中では最も厳しい燃焼性(難燃性)試験であり、これをクリアすれば上位のカテゴリーに分類される。UL44 VW−1の試験方法を用いた理由は、コントロールチューブはカバー材により保護された形状であり、電線(ケーブル)の使用用途と同等と判断されるからである。
【0059】
試験方法
試料を垂直に保持し、20度に傾けたブンゼンバーナーで、還元炎の先端が試料に当たるように炎を調整し、15秒間隔で15秒間の接炎を5回行った時、次の要件:
(i)試料は炎を延焼させてはならない。
(ii)各接炎後、60秒以上燃焼しないこと。
(iii)電線の上部に取り付けたクラフト紙は、25%以上燃えないこと。
(iv)試料から落ちた滴下物で、試料下の外科用綿が発火しないこと。
を満足することを確認した。
その結果、VW−1に合格した。
【0060】
(実施例3)耐候性促進試験
実施例1と同様にして、被覆保護カバーの材料となる樹脂組成物中に黒色顔料を配合しない黄色コントロールチューブと、黒色顔料を配合した黒色コントロールチューブを製造して、耐候性促進試験に供した。
試験条件:キセノンアーク、120分中18分の噴霧あり、温度63℃±2℃。
【0061】
黄色コントロールチューブ及び黒色コントロールチューブについての試験結果を、それぞれ表3及び表4に示した。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
なお、促進試験前(ブランク)を100(%)とし、促進試験において、200時間は通常屋外の1年に相当する。
【0065】
いずれのコントロールチューブも、外観についての異常はなく、樹脂の実力値である100%モジュラス残率も殆ど低下していないことにより、十分な耐候性を有していると考えられた。
【0066】
(実施例4)内芯チューブの耐候性促進試験
ポリプロピレン80重量部及び水素添加スチレン系エラストマー20重量部からなる原料樹脂を含有する組成物を用いてサンプルプレートを作製した。サンプル原料は、ヒンダードアミン系光安定剤(以下「HALS」という。)を0.6重量部配合したものと、配合しないもの、及び黒色顔料(オレフィン系黒色マスターバッチ2重量%)を配合したものと、配合しないもの、計4種類用いた。
【0067】
試験方法
サンシャインウエザーメーター(63℃、雨あり)にサンプルプレートをセットし、所定時間経過後、外観確認後、サンプルプレートをダンベル形状に打ち抜き、引張破断の伸び率(樹脂寿命の尺度)を測定した。
結果を表5に示した。
【0068】
【表5】

【0069】
サンプル1:HALS添加なし、ナチュラル(透明)
サンプル2:HALS添加なし、黒色
サンプル3:HALS添加、ナチュラル(透明)
サンプル4:HALS添加、黒色
外観異常:クレージング(微小で無数のヒビ割れ)
前記促進テストの200時間が通常屋外の1年に相当する。
【0070】
ポリプロピレン系の原料の寿命の尺度は、通常、クレージングの発生時期と、引張破断
伸びの半減期(50%となった時期)が使用される。
【0071】
前記結果より、サンプル1は240時間で既に使用不可であったが、HALS添加のサンプル3は、1500時間となり、飛躍的に耐候性が向上した。サンプル2とサンプル4の間でも違いは明らかであり、HALS添加効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】内芯チューブ2本、内芯チューブの外径及び内径8mm×6mm、コントロールチューブの外径18mm×10mmのコントロールチューブを示す図である。
【図2】押出成形機のクロスヘッド金型構造を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 被覆保護カバー
2 内芯チューブ
3 内芯チューブ
A,A’ シリンダー出口(クロスヘッド入り口)
B,B’ クロスヘッドの長さ
C,C’ 金型溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内芯チューブ及び被覆保護カバーからなるコントロールチューブにおいて、内芯チューブが主に、炭化水素から構成されるエラストマーからなり、被覆保護カバーが水酸化マグネシウム及びシリコーン系難燃剤を含有するノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物からなることを特徴とするコントロールチューブ。
【請求項2】
内芯チューブを構成するエラストマーがポリプロピレン及び水素添加スチレン系エラストマーからなる請求項1記載のコントロールチューブ。
【請求項3】
内芯チューブを構成するエラストマーが光安定剤を含有する請求項1又は2記載のコントロールチューブ。
【請求項4】
被覆保護カバーを構成するノンハロゲン・ノンリン難燃性樹脂組成物のベース樹脂がエチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコントロールチューブ。
【請求項5】
被覆保護カバーが無機充填剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のコントロールチューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−315338(P2006−315338A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141416(P2005−141416)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(593075418)株式会社アオイ (17)
【Fターム(参考)】