説明

コークス製造廃液の浄化剤および浄化方法

【課題】コークス製造廃液の浄化剤および廃液の浄化方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物からなる廃液浄化剤。また、第一の浄化方法は、1)水溶性タール状物質を含有するコークス製造廃液にアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を沈降物質の析出に必要な有効量溶解させる工程と2)前記溶解工程において析出した沈降物質を分離除去する工程とからなるものであり、第二の浄化方法は、前記溶解工程および分離除去工程に、さらに、沈降物質の分離除去後の廃液と無機吸着材料との接触工程を付加したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス製造廃液の浄化剤および浄化方法に関するものであり、さらに詳しくは、製鉄用コークス製造のための石炭乾留工程において排出される廃液の浄化剤およびコークス製造廃液の浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中国においては、製鉄業の興隆に伴ない、製鉄用原料としてコークスを大量に必要とされる状況にある。かかる状況下において、製鉄用コークスの製造方法としては、通常、約1000℃〜1300℃で行う石炭の高温乾留による方法が採用されている。石炭高温乾留装置としては、通常、コークス炉が用いられ、現今のコークス炉の大多数のものは、副産物回収式のものである。コークス炉の炭化室においては、高温乾留により炭素化の進行に伴ない、生ずる発生ガスは、冷却されて大部分のタールを分離した後、精製装置に供されて副産物が回収される。コークス製造装置において副産物を回収する際に、各種の廃液が発生する。
【0003】
その一つはガス液である。ガス液は、次のようにして回収される。すなわち、コークスの製造において、コークス炉から排出される高温のコークス炉ガスに水を噴射してガスを冷却し、含有するタール分を凝縮させ沈降させる。次いで、コークス炉ガスは間接冷却により、さらに冷却し、ガス精製装置に供され、ガス軽油として芳香族炭化水素類を主成分とする軽質油分、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンが回収され、さらに凝縮分離してくる廃水をガス液として回収する。ガス液には、通常、アンモニア、シアン、フェノール、硫化水素等が含有されている。
【0004】
コークス炉から排出される廃水に関して、特開平7−228871号公報(以下、「特許文献1」という。)には、成型炭を竪型シャフト炉で乾留し治金用成型コークスを製造するプロセスにおいて発生する安水を、竪型シャフト炉内に吹き込んで熱媒ガスと接触させることにより700℃まで加熱することからなる毒性の少ない安水に改質する安水処理方法が記載されている。安水中には、アンモニア、シアン塩、チオシアン塩、硫化物等の無機化合物およびフェノール、クレゾール、アミン、アニリン、ピリジン等の有機化合物を含有するが、700℃以上の熱ガスと接触するため、これらの有機成分の一部は熱分解して除去される。
【0005】
特開平11−128972号公報(以下、「特許文献2」)には、ガス液循環系から排出される余剰ガス液を、他の排出源からの汚染された廃水と一緒にして、活性汚泥法を含む廃水処理系で処理する方法において廃水処理に持ち込まれるアンモニア分が所定の範囲となるように、余剰ガス液をスチームストリッピングに供してそのアンモニア分を低減させてから廃水処理系に流入させる方法が記載されている。
【0006】
また、特開2007−260586号公報(以下、「特許文献3」という。)には、コークス炉において発生するシアンを含有する廃水に第二鉄塩と第一鉄塩とを添加して沈殿物を形成させ、スラッジとして回収することによりシアンを除去する方法が記載されている。
【0007】
また、特表2006−524562号公報には、窒素化合物、シアン化合物、硫化物を含んだコークス製造廃液をガス透過性膜組織を用いる浄化方法が記載されている。
【0008】
しかし、かかる特許文献1〜3には、シアン、アンモニア、フェノール等を含む廃水の処理が記載されているが、水溶性のタール状物質を含有する廃液の浄化処理についてはいずれにも開示はない。水溶性タール状物質を含有する廃水は、黒褐色を呈するが、透明体であり、かかる廃水については従来、提案されている前記の如き浄化方法では処理することができない。
【特許文献1】特開平7−228871号公報
【特許文献2】特開平11−128972号公報
【特許文献3】特開2007−260586号公報
【特許文献4】特表2006−524562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、製鉄用コークスの製造のための石炭乾留工程において排出される着色物質を含有する廃液を簡便な操作により処理することが可能であり、着色物質である水溶性タール状物質を効率よく分離除去することが可能なコークス製造廃液の浄化剤を提供することにある。
【0010】
また、本発明の課題は、製鉄用コークスの製造のための石炭乾留工程において排出される着色物質である水溶性タール状物質を含有する廃液の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者は、前記の本発明の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、前記のコークス製造廃液中の着色物質が灯油等の有機溶媒では抽出できない点、ケイ藻土、アルミナ等の吸着物質との接触によっても脱色しない点等に鑑み、前記着色物質は、疎水性コロイドまたは水溶性物質であり、石炭中に含有されているNa、K、Mg、Ca等の灰分が、カルボン酸またはフェノールのイオンの形で廃液中に溶解しているものと推定し、大過剰の食塩等の添加による塩析沈降によれば分離除去が可能であり、さらに、土砂を用いた濾過により一層清澄化できることに着目し、かかる知見に基いて本発明に想到するに至った。
【0012】
かくして、本発明によれば、
請求項1において、
コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液の浄化に用いられる廃液浄化剤であって、該廃液浄化剤がアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有してなることを特徴とするコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0013】
請求項2によれば、
前記コークス製造廃液が、石炭乾留工程において生成する留出ガスを水と接触させることにより得られる生成物から油分およびタールを除去した廃水である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0014】
請求項3によれば、
前記廃液浄化剤が、さらに、無機吸着材料が混合されてなる廃液浄化剤である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0015】
請求項4によれば、
前記アルカリ金属塩化物からなる廃液浄化剤が、塩化ナトリウムを含有してなる廃液浄化剤である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0016】
請求項5によれば、
前記アルカリ金属硫酸塩からなる廃液浄化剤が、硫酸ナトリウムを含有してなる廃液浄化剤である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0017】
請求項6によれば、
前記塩化ナトリウムを含有してなる廃液浄化剤が、岩塩または鹹水またはこれらの混合物を含有してなる廃液浄化剤である請求項4に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0018】
請求項7によれば、
前記無機吸着材料が、土砂である請求項3に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0019】
請求項8によれば、
前記土砂が、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、アルミナ、シリカまたはシリカアルミナを含有する無機吸着材料である請求項7に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0020】
請求項9によれば、
前記廃液浄化剤中の無機吸着材料の含有量が、前記廃液浄化剤の全重量基準で5重量%〜50重量%である請求項3に記載のコークス製造廃液の浄化剤
が提供される。
【0021】
請求項10によれば、
1)コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液に、沈降物質の析出のために必要な有効量のアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有する廃液浄化剤を溶解させる工程と、
2)前記の溶解工程において、生成した沈降物質を分離除去する工程とからなることを特徴とするコークス製造廃液の浄化方法
が提供される。
【0022】
請求項11によれば、
1)コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液にアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有する廃液浄化剤を沈降物質の析出のために必要な有効量溶解させる工程と、
2)前記の溶解工程において生成した沈降物質を分離除去する工程と、
3)前記の分離除去工程において得られた沈降物質の分離除去後の廃液を無機吸着材料と接触させる工程
とからなることを特徴とするコークス製造廃液の浄化方法
が提供される。
【0023】
請求項12によれば、
前記コークス製造廃液が、石炭乾留工程において生成する留出ガスを水と接触させることにより得られる生成物から油分およびタールを除去した廃水である請求項10または11に記載のコークス製造廃液の浄化方法
が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るコークス製造廃液の浄化剤は、前記の通りの構成からなるものであり、かかる廃液浄化剤を用いる浄化方法によれば、簡易な操作により、廃液中の着色物質を効率よく、しかも低コストで分離除去することができ、約90%を超える脱色された廃液を得ることができる。特に、第二の浄化方法によれば、除去率をさらに向上させ、浮遊物も除去することができる。
【0025】
また、廃液浄化剤としては、中国において大量に採掘可能な岩塩または鹹水を利用することができるので低コストの工業的浄化剤として有利な浄化剤を提供することができる。
【0026】
さらに、高濃度の食塩水等の廃液浄化剤はリサイクルして使用することができるので、経済性においても優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
先ず、本発明に係るコークス製造廃液の浄化方法に用いられる廃液浄化剤について説明する。
【0028】
かかる廃液浄化剤は、アルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有するものである。
【0029】
アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等を挙げることができるが、実用上ナトリウムが好ましい。
【0030】
従って、好ましいアルカリ金属塩化物としては、塩化ナトリウムを挙げることができる。塩化ナトリウムとしては食塩のほか、岩塩および鹹水を用いることができるが、岩塩および鹹水を用いることが工業上有利である。
【0031】
かかるアルカリ金属塩化物は、粒状体で用いることが、効率の高い溶解処理を行なうためには好適である。粒状体の粒径としては特に限定されるものではなく、溶解容易であり取扱いが便利な大きさのものでよい。岩塩は破砕して前記の任意の範囲に粒径を調整すればよい。
【0032】
また、アルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム等が挙げられるが、硫酸ナトリウム等が好適であり、使用形態については塩化ナトリウムと同様のものとすることが浄化処理プロセス上好ましい。
【0033】
アルカリ金属塩化物とアルカリ金属硫酸塩との混合割合は、10:90〜90:10の範囲が好ましく、30:70〜70:30の範囲が特に好ましい。
【0034】
本発明に係るコークス製造廃液の浄化方法の溶解工程において用いられる廃液浄化剤としては、前記のアルカリ金属の塩化物および硫酸塩が主成分として好適であるが、アルカリ土類金属の炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物、ケイ酸塩水酸化物等も廃液浄化剤の成分として用いることができる。具体的には、カルシウム、マグネシウム、バリウム等の、特に、炭酸塩が好適である。また、アルカリ金属の塩化物および硫酸塩の不純物として、これらのマグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム等の1〜3価の金属の塩化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酸化物、ケイ酸塩、水酸化物を含有するものでもよい。
【0035】
また、本発明に係るコークス製造廃液の浄化方法の吸着工程において用いられる無機吸着材料としては土砂を挙げることができる。かかる土砂としては、特に限定されるものではなく、通常、入手し得る形態のものでよい。
【0036】
土砂の使用形態としては粒状体の吸着固定層として、また、廃液中に添加し、流動層とすることが好適であり、粒径としては、特に限定されるものではない。
【0037】
土砂として具体的には、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ等を含有するものが好ましいが、他の無機物質を含有するものでもよい。
【0038】
本発明に係るコークス製造廃液の第一の浄化方法は、次の1)および2)の二工程から構成される。
【0039】
1)コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液に、アルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有する廃液浄化剤を沈降物質の生成に必要な有効量溶解させる工程と、
2)前記の溶解工程において生成した沈降物質を分離除去する工程。
【0040】
また、本発明に係るコークス製造廃液の第二の浄化方法は、次の1)、2)および3)の三工程から構成される。
【0041】
1)コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液に、アルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有する廃液浄化剤を沈降物質の生成に必要な有効量溶解させる工程と、
2)前記の溶解工程において生成した沈降物質を分離除去する工程と、
3)前記の分離除去工程において得られた沈降物質の分離除去後の廃液を無機吸着剤と接触させる工程。
【0042】
本発明に係るコークス製造廃液の浄化方法において用いられるコークス製造廃液は、コークス製造装置、例えば、コークス炉で石炭の高温乾留によるコークス製造時に副生する留出ガスから副産物を回収する際に水洗冷却して得られる生成物から分離して得られる廃水である。
【0043】
石炭の高温乾留は、具体的には、コークス炉の炭化室で、1000℃〜1300℃程度の高温で、コークス炉ガス、発生炉ガス、高炉ガス等を燃料と使用する炭化処理である。乾留処理は、通常、16時間〜24時間で終了するが、かかる乾留工程において排出するコークス炉ガスに水を噴射し冷却することにより、上層が油分、中層が廃水、下層がタール状物質からなる生成物を得ることができる。
【0044】
本発明に係るコークス製造廃液の浄化方法において対象とする廃液は、前記の水洗冷却による生成物の中層からなる廃水であり、本発明の浄化方法において特に対象とする廃水は、少なくとも水溶性タール状物質を含有するものである。タール状物質は水溶性のものであり、通常黒褐色を呈する透明体である。かかる廃水には、アンモニア、シアン、フェノール、硫化水素等を含有するものであっても、本発明の浄化方法による水溶性タール状物質の浄化には支障を与えるものではなく、また、本発明に係る浄化工程で除去できない成分については除去可能な工程を付加してもよい。
【0045】
前記の水溶性タール状物質は、有機着色物質であるタール状物質に付加されたカルボン酸金属塩がイオンの形で水に溶解しているものと推定される。
【0046】
かかる水溶性タール状物質の含有量については、特に限定されるものではなく、低濃度から高濃度の広範囲にわたり、浄化処理に適用することができる。
【0047】
かかるタール状物質の含有により廃液は着色された状態であって、通常、黒褐色であり、そのまま公共水域に廃棄することはできない。
【0048】
かかる着色物質は、灯油等の有機溶媒によって抽出することができない点、また、ケイ藻土、アルミナ等の吸着剤との接触によっても脱色しない点およびかかる着色物質を含有する廃液は透明である点から、コークス炉における石炭の高温乾留により得られる石炭ガス(コークス炉ガス)から凝縮分離してくる通常の廃水(ガス液)とは水溶性タール状物質を含有する点において特殊性を有するものである。
【0049】
次に、本発明に係るコークス製造廃液の浄化方法における溶解工程について説明する。
溶解工程は、水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液に廃液浄化剤を沈降物質が析出するために必要な有効量溶解させることを内容とする。
【0050】
溶解処理は、前記廃液に前記廃液浄化剤を添加し、溶解に必要な時間撹拌操作により行う。
【0051】
浄化剤の形態としては、固体状粒状体および粒状体の水溶液を用いることができるが、飽和濃度に達するには、粒状体の水溶液に加えて固体状浄化剤の添加により補充することが好ましい。
【0052】
廃液浄化剤の添加量は、前記の通り有効量でよいが、有効量として溶解飽和濃度までの範囲であり、大過剰量、例えば、食塩の場合、約20重量%以上が好ましい。具体的には実施例で示すように廃液浄化剤は、廃液10mlに対し、2.0g〜7.0g用いることが好適である。特に7.0g用いることが除去率、色相、臭気のすべての点から好適であることが示されている。
【0053】
かかる溶解処理により、廃液中の着色物質は沈降し、沈澱を生成する。廃液浄化剤が溶解し、水溶液となり、処理後の廃液は清澄化し色相は薄くなり臭気も消失する。なお、飽和濃度以上に添加しても、不溶解分が沈降するのみで、浄化の効果を奏するものではなく、また、下限度としては10重量%である。下限値に達しないと浄化の効果は得られない。
【0054】
次に分離除去工程について説明する。
【0055】
分離除去工程においては、前記溶解工程において、生成した沈降物質を廃液から分離除去される。沈降物質の分離方法は、特に限定されるものではなく、一般に採用される方法でよい。具体的には濾過手段による沈降物質の除去またはデカンテーションによる上澄液の採取等による分離方法が挙げられる。
【0056】
分離除去工程はバッチ式または連続式のいずれでも採用することができるが、連続式にはデカンテーション法が効率の観点から好適である。
【0057】
次に無機吸着材料を用いる接触方法による吸着濾過工程について説明する。
【0058】
かかる無機吸着材料との吸着濾過工程は、1)コークス製造廃液に廃液浄化剤を沈降物質の生成に必要な有効量溶解させる工程と、2)該溶解工程において、生成した沈降物質を分離除去する工程に後続する工程であり、前記の分離除去工程において得られた沈降物質の分離除去後の廃液を無機吸着材料と接触させることを内容とするものであり、前記廃液と無機吸着材料との接触により、前記の沈降物質の分離除去後の廃液に残存する浮遊物が吸着濾過により除去され、濁りのない透明の液体を得ることができる。
【0059】
前記廃液と接触させる無機吸着材料の量は、廃液量に対して20容量%以上、好ましくは50容量%以上、さらに好ましくは、55容量%〜90容量%になるように調整する。20容量%未満では、浮遊物の十分な除去をすることができないおそれがある。
【0060】
前記の廃液と無機吸着材料との接触工程の実施形態は特に限定されないが、廃液に無機吸着材料を添加し、撹拌後濾過する方法および無機吸着濾過材料を充填した吸着固定床に廃液を通過させる方法等を採用することができる。前記吸着床は、廃液中に無機吸着材料を添加し、流動化させた流動床のほか、吸着塔内に粒状の無機吸着材料を充填することにより、形成させた固定床が好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について、実施例および比較例により、さらに具体的に説明する。もっとも、本発明はかかる実施例等により限定されるものではない。
【0062】
なお、コークス製造廃液としては下記のものを用い、除去率については次の算定方法を用いた。
【0063】
コークス製造廃液
コークス製造廃液は、コークス炉において石炭の高温乾留によるコークス製造時に副生する溜出ガスを水洗して冷却することにより得られた生成物から分離された廃水である。生成物は三層に分かれ、上層は油分、中層は黒褐色の廃水、下層はタール状物質である。実施例および比較例において使用したコークス製造廃液は、前記の中層であり、黒褐色の水溶性タール状物質を含有する透明体の廃水である。
【0064】
黒褐色物質の除去率の算定方法
実施例および比較例において用いたコークス製造廃液を試験管に1ml採り、浄化処理の結果得られた廃液の上澄液と同一の色相になるまで水で稀釈し、その稀釈率を以って、黒褐色物質の除去率とした。
【0065】
実施例1
試験管に10mlの前記の黒褐色のコークス製造廃液を採り、それに塩化ナトリウムを2.0g添加し、撹拌して溶解させた。かかる操作により溶解後、黒褐色物質が沈降した後、沈降後の上澄液を他の試験管に移した。前記の着色物質の除去率の算定方法により黒褐色物質の除去率は50%であった。浄化処理結果を、他の実施例、比較例の結果と共に表1に示す。
【0066】
実施例2
塩化ナトリウムの添加量を、実施例1の2.0gの代わりに、3.5gとしたこと以外すべて実施例1と同一の条件および操作によりコークス製造廃液の浄化処理を行なった。除去率60%の結果を得た。
【0067】
実施例3
塩化ナトリウムの添加量を実施例1の2.0gの代わりに5.0gとしたこと以外すべて実施例1と同一の条件および操作によりコークス製造廃液の浄化処理を行なった。除去率70%の結果を得た。
【0068】
実施例4
塩化ナトリウムの添加量を実施例1の2.0gの代わりに7.0gとしたこと以外すべて実施例1と同一の条件および操作によりコークス製造廃液の浄化処理を行なった。除去率90%の結果を得た。
【0069】
実施例5
実施例4の浄化処理により得られたやや褐色の処理液10mlに炭酸カルシウム1.0gを添加し攪拌したところ除去率は93%に向上した。実施例4の結果と対比して、色相および臭気についても改善した。浄化結果については表1に示す。
【0070】
実施例6
ビュレットに5mlの砂を充填し、これに実施例5の浄化処理により得られた褐色の処理液を流下させ濾過液を採取した。濾過液はクリアーな黄色(オレンジ色)を呈し、臭気も著しく改善された。除去率は95%であった。
【0071】
実施例7
試験管に前記の黒褐色のコークス製造廃液を10ml採り、それに硫酸ナトリウムを1.0g添加し、撹拌して溶解させた。溶解後、黒褐色物質が沈降した後、沈降後の上澄液を他の試験管に移した。前記の着色物質の除去率の算定方法により求めた黒褐色物質の除去率は50%であり、浄化後の廃液の色相は茶褐色で臭気は強く残った。浄化結果を表1に示す。
【0072】
実施例8
硫酸ナトリウムの添加量を実施例7の1.0gの代わりに3.0gに変更したこと以外、すべて実施例7と同一の条件および操作によりコークス製造廃液の浄化処理を行なった。除去率が90%に上昇するなど、表1に示す結果を得た。
【0073】
実施例9
硫酸ナトリウムの添加量を実施例7の1.0gの代わりに5.0gとしたこと以外すべて実施例7と同一の条件および操作によりコークス製造廃液の浄化処理を行ない、除去率95%の結果を得た。表1に浄化結果を示す。
【0074】
実施例10
実施例9と同様に硫酸ナトリウム5.0gを溶解させて浄化処理した後、浄化後の廃液を前記の砂濾過に供したところ浮遊物が除去され濁りが消失し、透明な液体が得られた。
【0075】
実施例11
前記のコークス製造廃液10mlに塩化ナトリウムを3.0gおよび硫酸ナトリウムを3.0g添加し、撹拌して黒褐色物質を沈降させた。除去率95%を得た。浄化結果を表1に示す。
【0076】
比較例1
前記のコークス製造廃液を浄化処理しないものをすべての浄化処理に供して得られた処理油との比較対照のために比較例1とした。色相は黒褐色であり透明であった。
【0077】
比較例2
前記のコークス製造廃液10mlを砂10gの充填層を通過させたが、表1に示すように濾液の黒褐色物質は除去されず、臭気も強く、比較例1と同様に、浄化効果は得られなかった。
【0078】
前記の実施例および比較例による評価結果を表1に示す。
【0079】
表1の結果から、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムの添加量を増加すると黒褐色物質が凝集し、除去率は向上し、廃液はやや褐色がかった色となり退色した。
【0080】
また、さらに無機吸着材料により処理を行なうと一部浮遊物が存在する場合もかかる浮遊物が除去され、濁りのない透明の廃液となり、臭気も消失した。黒褐色物質は水溶性のものであった。
【0081】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液の浄化に用いられる廃液浄化剤であって、該廃液浄化剤がアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有してなることを特徴とするコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項2】
前記コークス製造廃液が、石炭乾留工程において生成する留出ガスを水と接触させることにより得られる生成物から油分およびタールを除去した廃水である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項3】
前記廃液浄化剤が、さらに、無機吸着材料が混合されてなる廃液浄化剤である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩化物からなる廃液浄化剤が、塩化ナトリウムを含有してなる廃液浄化剤である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項5】
前記アルカリ金属硫酸塩からなる廃液浄化剤が、硫酸ナトリウムを含有してなる廃液浄化剤である請求項1に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項6】
前記塩化ナトリウムを含有してなる廃液浄化剤が、岩塩または鹹水またはこれらの混合物を含有してなる廃液浄化剤である請求項4に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項7】
前記無機吸着材料が、土砂である請求項3に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項8】
前記土砂が、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、アルミナ、シリカまたはシリカアルミナを含有する無機吸着材料である請求項7に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項9】
前記廃液浄化剤中の無機吸着材料の含有量が、前記廃液浄化剤の全重量基準で5重量%〜50重量%である請求項3に記載のコークス製造廃液の浄化剤。
【請求項10】
1)コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液に、沈降物質の析出のために必要な有効量のアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有する廃液浄化剤を溶解させる工程と、
2)前記の溶解工程において、生成した沈降物質を分離除去する工程とからなることを特徴とするコークス製造廃液の浄化方法。
【請求項11】
1)コークス製造のための石炭乾留工程において排出される水溶性タール状物質を少なくとも含有する廃液にアルカリ金属塩化物またはアルカリ金属硫酸塩またはこれらの混合物を含有する廃液浄化剤を沈降物質の析出のために必要な有効量溶解させる工程と、
2)前記の溶解工程において生成した沈降物質を分離除去する工程と、
3)前記の分離除去工程において得られた沈降物質の分離除去後の廃液を無機吸着材料と接触させる工程
とからなることを特徴とするコークス製造廃液の浄化方法。
【請求項12】
前記コークス製造廃液が、石炭乾留工程において生成する留出ガスを水と接触させることにより得られる生成物から油分およびタールを除去した廃水である請求項10または11に記載のコークス製造廃液の浄化方法。

【公開番号】特開2012−240009(P2012−240009A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114240(P2011−114240)
【出願日】平成23年5月21日(2011.5.21)
【出願人】(395004597)株式会社根岸製作所 (9)
【出願人】(506410279)有限会社ファインプランニング (3)
【出願人】(511124909)洛陽山梨環保科技有限公司 (1)
【Fターム(参考)】