説明

コーティング組成物および光学物品

【課題】プラスチックレンズ等の基材に施用して、該基材表面上にフォトクロミック特性が良好で且つ基材との密着性に優れるフォトクロミックコート層を形成することができるコーティング用組成物。
【解決手段】この組成物は、モノマー成分として0.1〜20重量%が4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドの如きマレイミド化合物を含む。モノマー成分としてγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解によりシラノール基を生成する基を有するモノマーをさらに含むことができ、アミン化合物を含むことが一層望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学材料にフォトクロミック性を付与するために好適に使用されるコーティング組成物およびそれで被覆された光学材料からなる光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック眼鏡とは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡であり、近年その需要は増大している。
【0003】
フォトクロミック性を有するプラスチックレンズの製造方法としては、フォトクロミック性を有しないレンズの表面にフォトクロミック化合物を含浸させる方法(以下、含浸法という)、あるいはプラスチックレンズの表面にフォトクロミック性を有する層(フォトクロミックコート層)を設ける方法(以下、コーティング法という)、あるいはモノマーにフォトクロミック化合物を溶解させそれを重合させることにより直接フォトクロミックレンズを得る方法(以下、練り混み法という)が知られている。これらの方法の中でもコーティング法は、他の2つの方法と比べて、原理的にはどのようなレンズ基材に対しても簡単にフォトクロミック性を付与できるという利点を有している。たとえば、含浸法においては基材レンズとしてフォトクロミック化合物が拡散し易い柔らかい基材を用いる必要があり、また練りこみ法においても良好なフォトクロミック性を発現させるためには特殊なモノマー組成物を使用する必要があるのに対し、コーティング法においては、このような基材に対する制約はない。
このようにコーティング法はフォトクロミックプラスチックレンズの製法として優れた方法であるといえるが、基材さらには必要に応じてフォトクロミックコート層上に形成されるハードコート層に対して十分な密着性を有し、且つ良好なフォトクロミック特性を発現するフォトクロミックコート層を形成する技術は未だ確立されていない。
【0004】
従来、コーティング方法としては、(i)ウレタンオリゴマー中にフォトクロミック化合物を溶解させたものをレンズ表面に塗布し、それを硬化する方法(特許文献1参照)、(ii)単官能、2官能および多官能ラジカル重合性単量体を組み合わせた重合性単量体組成物にフォトクロミック化合物を溶解し、それをレンズ表面に塗布し、硬化する方法(特許文献2参照)、(iii)2種類以上の2官能(メタ)アクリルモノマーのみの組み合わせからなるモノマー組成物にフォトクロミック化合物を溶解し、それをレンズ表面に塗布、硬化する方法(特許文献3参照)、(iv)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、触媒(好ましくは酸性触媒)及びフォトクロミック化合物等からなる組成物をレンズ表面に塗布、熱硬化する方法(特許文献4参照)が知られている。しかしながら、上記(i)の方法には、得られるフォトクロミックコート層の架橋密度が低いためにフォトクロミック特性の温度依存性が大きくなるばかりでなく、フォトクロミックコート層上にハードコートを施用する際にハードコート液中にフォトクロミック化合物が溶出するなどといった問題がある。また(ii)、(iii)及び(iv)の方法には、眼鏡レンズ基材とフォトクロミックコート層との密着性が十分でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/37115号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5914174号公報
【特許文献3】国際公開第01/02449号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/36047号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラスチックレンズ等の基材に施用して、該基材表面上にフォトクロミック特性が良好で且つ基材との密着性に優れるフォトクロミックコート層を形成することができるコーティング組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高温・高湿下で長時間保存しても基材との密着性が低下しないコーティング組成物を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、本発明のコーティング組成物の硬化被覆層を備えた光学物品を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
(A2) マレイミド化合物 0.01〜20重量% および
(B2) 上記(A2)成分と異なる他のラジカル重合体化合物 80〜99.99重量%
からなるラジカル重合性単量体混合物 100重量部
並びに
(D1) フォトクロミック化合物 0.01〜20重量部
を含有してなり、そしてアミン化合物を含まないかあるいは20重量部以下でアミン化合物を含有することを特徴とするコーティング組成物によって達成される。
【0011】
本発明のコーティング組成物は、基材に対して高い密着性を有するコート層を与えるコーティング剤として本発明者等が開発した、「シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含有するラジカル重合性単量体、アミン化合物およびフォトクロミック化合物を夫々特定量含有してなる硬化性組成物」からなるフォトクロミックコーティング剤(以下、接着性フォトクロミックコーティング剤ともいう。該コーティング剤は、国際公開第03/011967号パンフレットに開示されている。)の改良を目的に検討を行なった過程で得られた下記(i)〜(iii)の知見に基づいて見出されたものである。即ち、該接着性フォトクロミックコーティング剤を施用して得られるフォトクロミック層は、初期密着性は高いものの高湿度の条件下で長時間保存した場合には密着性が低下しコート層が剥離する場合があることから、上記のような過酷な条件下で保存しても基材との密着性が低下しないコーティング組成物を得るべく多くの実験を行なった結果、本発明者等は、(i)上記接着性フォトクロミックコーティング剤中にマレイミド化合物を配合することにより上記目的が達成されるという知見、(ii)マレイミド化合物を添加した場合には上記シラン系のモノマーを含有しなくとも同様の効果が得られるという知見及び(iii)更にこれらの場合においてレンズ基材の表面に予め接着層を形成した場合にはアミン化合物を含まない場合でもフォトクロミックコート層が基材に密着するという知見を得、これら知見に基づいて前記本発明の組成物を完成したものである。
【0012】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、光透過性基板の少なくとも一方の面上に、本発明のコーティング組成物の硬化体からなる被覆層が形成されてなる光学物品によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のコーティング組成物についての説明
本発明のコーティング組成物における成分(A2)のラジカル重合性単量体は、マレイミド化合物である。また、成分(B2)のラジカル重合性単量体は、上記(A2)成分以外のラジカル重合性単量体である。本発明のコーティング組成物のラジカル重合性単量体成分は、(A2)成分0.01〜20重量%及び(B2)成分80〜99.99重量%からなる。(A2)成分の含有量が0.01重量%未満の時には十分な密着性が得られず、また20重量%を越えるときには(A2)成分は固体の場合が多いため(B2)成分に対するその溶解性が問題となり、さらにフォトクロミック化合物を配合した場合において発色濃度あるいは退色速度といったフォトクロミック特性が低下する。効果の観点から(A2)成分の含有量が0.05〜15重量%、特に0.1〜10重量%であり、残部が(B2)成分であるのが好適である。
【0014】
本発明のコーティング組成物は、ラジカル重合性単量体成分の合計100重量部に対してフォトクロミック化合物を0.01〜20重量部含み、20重量部を超える量のアミン化合物を含まないことによって、フォトクロミック特性が良好で且つ高湿度下で長期間保存しても基材に密着しているフォトクロミックコート層を形成するコーティング剤となる。また、このようなコーティング剤を施用してフォトクロミックレンズを製造する場合、フォトクロミック化合物の含有量によっては十分な発色濃度を得るためにはフォトクロミックコート層の厚さを例えば40μm程度と厚くする必要があるが、その25℃における粘度が20〜500cPであるものは、例えばスピンコート法といった簡便な方法で均一で厚さの厚いコート層を容易に形成することができる。
以下に、本発明で使用する各種重合性単量体について詳しく説明する。
【0015】
ラジカル重合性単量体についての説明
1. (A2)成分:マレイミド化合物の説明
本発明のコーティング組成物の(A2)成分であるマレイミド化合物(該マレイミド化合物もラジカル重合性を示す単量体である)は、マレイミド又はその誘導体であれば公知の化合物が何ら制限なく用いることができるが、好適なものとして下記式(1’)〜(3’)で表される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、R01は置換若しくは非置換のアルキル基、置換基若しくは非置換のアリール基、または置換基若しくは非置換のシクロアルキル基である。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、Wは2価の有機残基である。
【0020】
【化3】

【0021】
式中、Qは2価の有機残基であり、R02は水素原子若しくはスルホン酸ナトリウム基である。
【0022】
上記式(1’)中のR01は置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基 または置換若しくは非置換のシクロアルキル基を示す。入手のし易さ等の点から炭素数が1〜20、特に1〜15であるアルキル基、環を構成する炭素原子の数が6〜10であるアリール基、または環を構成する炭素原子の数が3〜10であるシクロアルキル基であることが好ましい。また当該アルキル基、アリール基またはシクロアルキル基は置換基を有していてもよい。当該置換基としては、アリール基またはシクロアルキル基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基;クロロメチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシル基;メチルエステル基、エチルエステル基等の炭素数2〜10のエステル基;アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等の炭素数2〜10のアシル基;アミノ基、及びメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10の置換アミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;カルボキシル基;メルカプト基;シアノ基;ニトロ基等が挙げられる。またアルキル基の置換基としては上記した置換基の中から炭素数1〜10のアルキル基を除くものを挙げることができる。
【0023】
上記R01としてのアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ラウリル基等が例示され、環を構成する炭素数6〜10の置換又は非置換のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が例示され、環を構成する炭素数3〜10の置換又は非置換のアリール基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が例示される。
上記式(2’)中のWは、2価の有機残基であり、好ましくは炭素数1〜50の2価の有機残基である。当該有機残基の構造は特に限定されるものではなく、側鎖や置換基を有していてもよい。またその構造中に、エーテル結合、アミド結合、アミノ結合、ウレタン結合、チオエーテル結合等の炭素―炭素結合以外の結合を有していてもよく、さらにはオキサ基(ケトン炭素)が含まれていてもよい。該有機残基の有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられる。
前記Wで示される2価の有機残基としては、炭素数1〜30であるものがより好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等の炭素数1〜15のアルキレン基;あるいは以下に示す基、並びにこれらの基に前記置換基が結合したもの等が例示される。
【0024】
【化4】

【0025】
上記式(3’)中のQは、2価の有機残基であり、好ましくは炭素数1〜30の2価の有機残基である。当該有機残基の構造は特に限定されるものではなく、側鎖や置換基を有していてもよい。またその構造中に、エーテル結合、アミド結合、アミノ結合、ウレタン結合、チオエーテル結合等の炭素―炭素結合以外の結合を有していてもよく、さらにはオキサ基(ケトン炭素)が含まれていてもよい。該有機残基の有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられる。
前記Qで示される有機残基としては、炭素数1〜15であるものがより好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等の炭素数1〜15のアルキレン基;あるいは以下に示す基、並びにこれらの基に前記置換基が結合したもの等が例示される。
【0026】
【化5】

【0027】
また前記式中のR02は、水素原子もしくはスルホン酸ナトリウム基(即ち、基「−SONa」)である。
【0028】
前記式(1’)〜(3’)で示されるマレイミド化合物のうち、好適に使用できるものを具体的に例示すると、N−フェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(2−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリブロモフェニル)マレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(3−メチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(4−エチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−(4−カルボキシルフェニル)マレイミド、N−(4−エチルエステルフェニル)マレイミド、N−(4−アセチルフェニル)マレイミド、N−(4−メトキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−(2−クロロシクロヘキシル)マレイミド、N−(3−メチルシクロヘキシル)マレイミド、N−メチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−(t−ブチル)マレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N,N’−(1,4−フェニレン)ビスマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、N−(4−マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドナトリウム塩、スルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート、スルホスクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート等が挙げられる。なお、これらマレイミド化合物は単独あるいは数種混合して使用することができる。
【0029】
2. (B2)成分の説明
本発明のコーティング組成物の(B2)成分は、前記(A2)成分と異なるラジカル重合性単量体であれば特に限定されないが、硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度、耐久性等のフォトクロミック特性の点から、下記(C1)成分の重合性単量体を含有するのが好適である。この場合において、(C1)成分は、高硬度モノマー、低硬度モノマー及び必要に応じて中硬度モノマーやエポキシ系モノマーを含有するのが好適である。また、基材に対する密着性をより高くするという理由から(B2)成分は、下記(A1)成分及び(B1)成分からなる群の少なくとも1種を含有しているのが好適である。(B2)成分が(A1)成分を含有する場合には、本発明のコーティング組成物の硬化体からなる被膜上にハードコート膜を形成した場合において両者間の密着性が良好となる。
【0030】
即ち、(B2)成分は、下記(i)〜(iv)の何れかであるのが好適である。なお、下記(i)〜(iv)における各成分の重量%は、本発明のコーティング組成物中の全重合性単量体の重量を100%としたときの値である。
【0031】
(i) (A1)シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体(以下、単に「シリルモノマー」ともいう)およびイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(以下、単に「イソシアネートモノマー」ともいう)よりなる群から選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性単量体 0.1〜20重量%
(B1) 上記(A1)成分以外のラジカル重合性単量体であって、分子内に少なくとも1つのオキシカルボニル基を有するラジカル重合性単量体(但し、オキシカルボニル基として(メタ)アクリロイルオキシ基に由来するオキシカルボニル基しか含有しないものを除く)(以下、単に「エステル結合含有モノマーともいう) 0.1〜50重量% および
(C1) 上記(A1)成分および(B1)成分と異なる他のラジカル重合性単量体 10〜99.79重量%。
(ii) 上記(A1)成分0.1〜20重量%および上記(C1)成分 60〜99.89重量%。
(iii) 上記(B1)成分0.1〜50重量%および(C1)成分 30〜99.89重量%。
(iv) 上記(C1)成分 80〜99.99重量%。
【0032】
なお、前記(i)及び/又は(ii)の態様においては、全重合性単量体成分中における(A1)成分の含有量が0.1重量%未満の時には更なる密着性の向上効果が見られず、また20重量%を越えるときにはフォトクロミック化合物を配合した場合において発色濃度あるいは退色速度といったフォトクロミック特性が低下する。また、全重合性単量体成分中における(B1)成分の含有量が0.1重量%未満の時には更なる密着性の向上効果が見られず、また50重量%を越えるときにはフォトクロミック化合物を配合した場合において発色濃度あるいは退色速度といったフォトクロミック特性、組成物の粘度及び密着性などの全ての物性を満足することが困難となる。効果の観点から(B2)成分は、全重合性単量体重量基準で0.5〜20重量%の(A1)成分及び/又は0.5〜40重量%の(B1)成分、特に1〜10重量%の(A1)成分及び/又は1〜30重量%の(B2)成分を含有するのが好適である。
【0033】
3. (A1)成分の説明
(a)シリルモノマー:
(A1)成分として使用するシリルモノマーとは、シラノール基(≡Si−OH)又は加水分解によりシラノール基を生成する基と、ラジカル重合性基とを有する化合物を意味し、当該シリルモノマーとしてはこのような条件を満足する公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
上記シリルモノマーにおける加水分解によりシラノール基を生成する基を具体的に例示すると、アルコキシシリル基(≡Si−O−R;Rはアルキル基である)、アリールオキシシリル基(≡Si−O−Ar;Arは置換されていても良いアリール基である)、ハロゲン化シリル基(≡Si−X;Xはハロゲン原子)、シリルオキシシリル基(≡Si−O−Si≡)等が挙げられる。これらの基の中でもシラノール基の生成のし易さ、合成や保存の容易さ、反応によりケイ素原子から脱離した基が硬化体の物性に与える影響の少なさ等の理由から、アルコキシシリル基又はシリルオキシシリル基、特に炭素数1〜4のアルコキシル基が好ましく、メトキシシリル基またはエトキシシリル基が最も好ましい。
【0034】
上記シリルモノマーにおけるラジカル重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基{なお、(メタ)アクリロイルはアクリロイル又はメタクリロイルの意である。};(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基から誘導される基;ビニル基;アリル基;スチリル基等の公知のラジカル重合性基が挙げられる。なおラジカル重合性基がビニル基、アリル基またはスチリル基である場合には、当該ラジカル重合性基は置換基を有していてもよく、当該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン化アルキル基;ハロゲン原子;シアノ基;ニトロ基;ならびに水酸基が例示される。また、ラジカル重合性基が(メタ)アクリロイルアミノ基である場合には、当該基のアミド窒素原子には置換又は非置換のアルキル基、アリール基、アリル基等の各種有機基が結合していてもよい。これらラジカル重合性基のなかでも、入手の容易さや重合性の良さから(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基であることが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基であることがより好ましい。
【0035】
本発明で好適に使用できるシリルモノマーとしては下記式(1)〜(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0036】
【化6】

【0037】
式中、Rはアルキル基又はアリール基であり、R及びRは各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基であり、Aは2〜4価の有機残基であり、Yはラジカル重合性基であり、aは1〜3の整数であり、b及びcは独立に0〜2の整数であり、d及びeは独立に1〜3の整数である、但しa+b+c+d=4である。
【0038】
【化7】

【0039】
式中、R及びRは各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基であり、Aは2〜4価の有機残基であり、Yはラジカル重合性基であり、bおよびcは独立に0〜2の整数であり、dおよびeは独立に1〜3の整数である、但しb+c+d=3である。
【0040】
【化8】

【0041】
式中、Rはアルキル基又はアリール基であり、R及びRは各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基であり、Rはビニル基であり、aは1〜3の整数であり、b及びcは独立に0〜2の整数である、但しdは1〜3の整数である、但しa+b+c+d=4である。
【0042】
上記式(1)及び(3)中、Rはアルキル基又はアリール基である。加水分解によるシラノール基の発生のし易さ及び保存安定性の点から主鎖炭素数が1〜10であるアルキル基または環を構成する炭素原子の数が6〜10であるアリール基が好ましい。また当該アルキル基またはアリール基は置換基を有していてもよく、当該置換基としては、アリール基の置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜10のアルキル基;クロロメチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基が挙げられる。アルキル基およびアリール基の置換基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシル基;アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等の炭素数2〜10のアシル基;アミノ基、及びメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10の置換アミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;カルボキシル基;メルカプト基;シアノ基;ニトロ基等が挙げられる。
【0043】
主鎖炭素数1〜10の置換又は非置換のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、クロロメチル基等が例示される。環を構成する炭素数6〜10の置換又は非置換のアリール基としては、例えばフェニル基、トルイル基、キシリル基等が例示される。
前記加水分解によるシラノール基の発生のし易さ及び保存安定性の点から、Rはアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基又はエチル基であることが最も好ましい。
【0044】
前記式(1)〜(3)におけるR及びRは各々独立に、アルキル基、アリール基又はアシル基である。アルキル基及びアリール基としては、例えば前記Rで説明したものと同一の基が例示され、好ましい基もRと同様である。またアシル基としては、炭素数2〜10のアシル基であることが好ましい。また当該アシル基は脂肪族系のアシル基でも芳香族系のアシル基でもよい。当該アシル基を具体的に例示すると、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
前記式(1)及び(2)におけるAは2〜4価の有機残基であり、好ましくは炭素数1〜30の2〜4価の有機残基である。当該有機残基の構造は特に限定されるものではなく、側鎖や置換基を有していてもよい。またその構造中に、エーテル結合、アミド結合、アミノ結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホニル結合等の炭素−炭素結合以外の結合を有していてもよく、さらにはオキサ基(ケトン炭素)が含まれていてもよい。該有機残基の有する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、ニトロ基等が例示される。
【0045】
前記Aの有機残基としては炭素数1〜10のものであるのがより好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等の炭素数1〜10のアルキレン基;メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基、ブチレンジオキシ基等の炭素数1〜10のアルキレンジオキシ基;あるいは以下に示す基、並びにこれらの基に前記置換基が結合したもの等が例示される。
【0046】
【化9】

【0047】
(上記式中、uは1〜5の整数であり、u’及びu”は各々1〜3の整数である。)
前記式(1)及び(2)におけるYは、前記したのと同じ重合性基であるが、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基であるのが好ましい。
上記式(1)〜(3)で表されるシリルモノマーの中でも式(1)で表されるシリルモノマーが好ましく、その中でも下記式(4)で表されるシリルモノマーが特に好適である。
【0048】
【化10】

【0049】
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルコキシル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、aは1〜3の整数であり、bは0〜2の整数である、但しa+b=3である。)
上記式(4)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキレン基である。Rの主鎖炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等が挙げられる。Rは炭素数1〜4のアルコキシル基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が例示され、Rの炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が例示される。
【0050】
前記式(1)〜(3)で表されるシリルモノマーを具体的に例示すると、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、アリルジメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、4−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、3−(3−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、ジエトキシビニルシラン、1,3−ジビニルテトラエトキシジシロキサン、ドコセニルトリエトキシシラン、O−(メタクリロイルオキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシエトキシトリメチルシラン、(メタクリロイルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−トリメチルシロキシプロパン、テトラキス(2−メタクリロイルオキシエトキシ)シラン、トリビニルエトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジフェニルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O−(ビニロキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、ビニロキシトリメチルシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン、ビニルフェニルメチルメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシランビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。これらシリルモノマーは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0051】
これらの中でも前記式(4)で表されるシリルモノマーである、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリロイルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシランが特に好適に使用できる。
【0052】
(b)イソシアネートモノマー:
本発明においては、上記シリルモノマーに替えて又はシリルモノマーと共に第1コーティング組成物において、(A1)成分として、イソシアネートモノマーを用いることができ、同様に基材及びハードコート層との密着性を高くすることが可能である。イソシアネートモノマーとしては、イソシアネート基(−NCO)とラジカル重合性基を有する化合物であれば公知のものがなんら制限なく使用できる。このようなイソシアネートモノマーとしては、例えば下記式(5)又は(6)で示されるものが挙げられる。
【0053】
【化11】

【0054】
式中、Rは水素原子またはメチル基であり、R10はアルキレン基である。
【0055】
【化12】

【0056】
式中、R11は水素原子またはメチル基であり、R12はアルキレン基である。
【0057】
上記式(5)及び(6)中、R10、R12は共にアルキレン基を示す。当該アルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0058】
好適に使用できるイソシアネートモノマーを具体的に例示すると、2−イソシアナトエトキシメタアクリレート、4−(2−イソシアナトイソプロピル)スチレンが挙げられる。なお、これらイソシアネートモノマーは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0059】
4. (B1)成分:エステル結合含有モノマーの説明
(B1)成分であるエステル結合含有モノマーとしては、オキシカルボニル基{−O−C(=O)基又は−C(=O)−O−基}を分子内に少なくとも1つ有するラジカル重合性単量体(但しオキシカルボニル基としてアクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基に由来するオキシカルボニル基しか含有しないものを除く)であれば公知のラジカル重合性単量体が何ら制限なく使用できる。
【0060】
エステル結合含有モノマーとしては、例えば下記式(7)、(8)、(10)および(12)で示される化合物が挙げられる。
【0061】
【化13】

【0062】
式中、R13は置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、R14は水素原子またはメチル基であり、R15は水素または置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基であり、Xは2価の有機残基であり、qは1または2であり、q’は0または1である、但しq+q’=2である。
【0063】
【化14】

【0064】
式中、hは0〜10の整数であり、R16は水素原子またはメチル基であり、R17及びR18は、各々独立に、(メタ)アクリロイルオキシ基または下記式(9)で示される基であり、
【0065】
【化15】

【0066】
式中、R19は炭素数1〜10のアルキレン基、R20は炭素数1〜10のアルキル基であり、h’は0または1の整数である。
Bは3価の有機残基であり、Dは2価の有機残基である、但し、hが0の場合、R17及びR18のどちらか一方は前記式(9)で示される基である。
【0067】
【化16】

【0068】
式中、R21は水素原子またはメチル基であり、R22及びR23は各々独立に、炭素数1〜10のアルキレン基であり、Vは水素原子または下記式(11)で示される基であり、
【0069】
【化17】

【0070】
式中、R24は炭素数1〜10のアルキレン基であり、Uは炭素数1〜10のアルキル基、水素原子、ベンゼン環または(メタ)アクリロイルオキシ基である。rは1〜10の整数である。
【0071】
【化18】

【0072】
式中、R25は炭素数1〜10のアルキレン基であり、vは1〜5の整数であり、v’は1〜6の整数であり、v”は0〜5の整数であり、v’+v”=6である。なお、上記式は、括弧( )内に示される6価の基の6個の未結合手にそれぞれ括弧外に示される2種の1価の基のいずれかが結合していることを示すものである。
【0073】
上記式(7)におけるR13は、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、R14は水素原子またはメチル基を示す。R13としての炭素数1〜10のアルキレン基を例示すれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等が挙げられる。また、該アルキレン基が置換基を有する場合の当該置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;アミノ基;メルカプト基;シアノ基;ニトロ基等が挙げられる。
上記式(7)におけるR15は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基を示す。当該置換基を有してもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びこれらアルキル基の水素原子の少なくとも一つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;アミノ基;メルカプト基;シアノ基及びニトロ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基で置換された置換アルキル基を挙げることができる。
上記式(7)におけるXは、2価の有機残基であり、好ましくはベンゼン環などの芳香族環、シクロヘキシル環などの飽和炭化水素環またはシクロヘキセン環などの不飽和炭化水素環等の環構造を含む2価の有機残基を挙げることができる。この中でも、原料の入手しやすさなどの観点から、より好ましいXとしてはフェニレン基、シクロヘキシレン基及びシクロヘキセレン基等を挙げることができる。
【0074】
前記式(8)におけるR16は、水素原子またはメチル基であり、R17及びR18は(メタ)アクリロイルオキシ基または前記式(9)で示される基である。なお、前記式(9)におけるR19は炭素数1〜10のアルキレン基であり、R20は炭素数1〜10のアルキル基である。R19のアルキレン基を例示すれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等が挙げられる。また、R20のアルキル基を例示すれば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
また、前記式(8)におけるBは3価の有機残基であり、Dは2価の有機残基である。当該B及びDは特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。好ましくは、当該Bは炭素数3〜10の直鎖または分枝状の炭化水素から誘導される有機残基、もしくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素から誘導される有機残基であり、当該Dは好ましくは炭素数1〜10の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素、又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素から誘導される有機残基である。好適なBとしては、例えばベンゼン環、ピリジン環などから誘導される3価の基が挙げることができ、好適なDとしては、例えばエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、フェニレン基などを挙げることができる。
【0075】
前記式(10)におけるR21は、水素原子またはメチル基を示し、R22及びR23は炭素数1〜10のアルキレン基を示す。当該アルキレン基は直鎖もしくは分枝状でも構わなく、具体的に例示すれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
前記式(10)におけるVは、水素原子または前記式(11)で示される基である。前記式(11)におけるR24は、炭素数1〜10のアルキレン基を示す。当該アルキレン基は直鎖もしくは分枝状でもよく、具体的に例示すれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。また、前記式(11)におけるUは、炭素数1〜10のアルキル基、水素原子、ベンゼン環または(メタ)アクリロイルオキシ基である。
前記式(12)におけるR25は、炭素数1〜10のアルキレン基を示す。当該アルキレン基は直鎖もしくは分枝状でもよく、具体的に例示すれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
【0076】
前記式(7)、(8)、(10)および(12)で示される該エステル結合含有モノマーを具体的に例示すれば、2−アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−アクリロイルオキシエチルフタレート、ビス(2−アクリロイルオキシヒドロキシプロピル)フタレート、ビス(2−アクリロイルオキシヒドロキシプロピルテトラヒドロハイドロゲン)フタレート、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−メタクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)フタレート、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−アクリロイルオキシエチルマレイン酸、分子量2,500−3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6,000−8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45,000−55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、分子量250−3,000の2官能ポリエステルアクリレートオリゴマー(サンノプコ社、フォトマー5007、フォトマー5018:東亜合成社、M−6100、M−6500等)、分子量300−2,000の3官能以上を有するポリエステルアクリレート(東亜合成社、M−7100、M−8530等)、分子量9,000−17,000のアクリル化アクリルコポリマー(ダイセルユーシービー社、EB1701等)、分子量300−500のペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート(東亞合成社、M−233等)、分子量180−1,500のω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノアクリレート(ダイセル化学工業社、FA3、FA5等)、分子量900−3,000の6官能ポリカプロラクトンアクリレート(日本化薬社、KAYARAD DPCA−20、DPCA−60等)、分子量200−1,500のω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノメタクリレート(ダイセル化学工業社、FM3、FM5等)、荒川化学工業社製ビームセット101、大日本インキ化学工業社製不飽和ポリエステルUNIDIC V−3265、V−3270、V−3121、サートマー社製SR9008、SR9012、三井化学社製RA1050、RA2003などを挙げることができる。上記以外の該エステル結合含有モノマーとして、日本化薬社製KAYAMER PM−2、PM−21なども挙げることができる。
【0077】
5. (C1)成分の説明
本発明の組成物は、硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度、耐久性等のフォトクロミック特性の点から、上記シリルモノマー及び/又はイソシアネートモノマー並びにエステル結合含有モノマーに加え、(C1)成分としてこれら以外のラジカル重合性単量体(以下、その他モノマーともいう)を30〜99.8重量%含有する。
このような(C1)成分モノマーは特に限定されないが、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有す化合物が好ましい。また、前記した硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性の観点から、(C1)成分モノマーとしては、単独重合させたときのLスケールロックウェル硬度が60以上のもの(以下、「高硬度モノマー」ともいう)と、同じく単独重合させたときのLスケールロックウェル硬度が40以下のもの(以下、「低硬度モノマー」ともいう)を併用することがより好ましい。この場合において単独重合させたときのLスケールロックウェル硬度が40を越え60未満以上のラジカル重合性単量体(以下、「中硬度モノマー」ともいう)を併用することも可能である。
【0078】
上記高硬度モノマー、低硬度モノマー及び中硬度モノマーは適宜混合して使用できるが、硬化性組成物の硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性のバランスを良好なものとするため、(C1)成分モノマー中の低硬度モノマーは5〜70重量%であり、高硬度モノマーは5〜95重量%であることが好ましい。さらに、配合される高硬度モノマーとして、ラジカル重合性基を3つ以上有する単量体が、その他のラジカル重合性単量体中に少なくとも5重量%以上配合されていることが特に好ましい。なお、上記に記述する好適な(C1)成分モノマーの組成は、低硬度モノマー、中硬度モノマー及び高硬度モノマーの合計が100重量%となる。
【0079】
なお、Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味し、各モノマーの単独重合体について測定を行うことにより前記硬度の条件を満足するかどうかを簡単に判断することができる。具体的には、後述する実施例に示すように、モノマーを重合させて厚さ2mmの硬化体を得、これを25℃の室内で1日保持した後にロックウェル硬度計を用いて、Lスケールロックウェル硬度を測定することにより容易に確認することができる。また、上記Lスケールロックウェル硬度の測定に供する重合体は、仕込んだ単量体の90%以上が重合する条件で注型重合して得られたものである。このような条件で重合された硬化体のLスケールロックウェル硬度は、ほぼ一定の値として測定される。
また、(C1)成分モノマー中には、上記のような硬度による分類とは別に、分子中にすくなくとも一つのエポキシ基と少なくとも一つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体(以下、「エポキシ系モノマー」ともいう)が配合されていることが好ましい。当該エポキシ系モノマーはその構造により、前記単独硬化体のLスケールロックウェル硬度が60以上のものもあれば、40以下のものもあり、それに応じ、高硬度モノマー、低硬度モノマー、中硬度モノマーのいずれかに分類される。
以下、これらこれら(C1)モノマー成分について詳しく説明する。
【0080】
(a)高硬度モノマー
高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。これら効果をより効果的なものとするためには、高硬度モノマーは、単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が65〜130であるラジカル重合性単量体であるのが好ましい。
高硬度モノマーは、好ましくは2〜15個、より好ましくは2〜6個のラジカル重合性基を有す化合物であり、例えば下記式(13)〜(16)で示すものを挙げることができる。
【0081】
【化19】

【0082】
式中、R26は水素原子又はメチル基であり、R27は水素原子、メチル基又はエチル基であり、R28は3〜6価の有機残基であり、fは0〜3の整数であり、f’は0〜3の整数であり、gは3〜6の整数である。
【0083】
【化20】

【0084】
式中、R29は水素原子又はメチル基であり、R30は水素原子、メチル基、エチル基又はヒドロキシル基であり、Eは環状の基を含む2価の有機残基であり、i及びjは、i+jの平均値が0〜6となる正の整数又は0である。
【0085】
【化21】

【0086】
式中、R31は水素原子又はメチル基であり、Fは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2〜9のアルキレン基である。
【0087】
【化22】

式中、R32は水素原子、メチル基又はエチル基であり、kは1〜6の整数である。
【0088】
上記式(13)〜(16)における、R26、R29及びR31はいずれも水素原子またはメチル基である。すなわち、式(13)〜(15)で示される化合物は2〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。
上記式(13)におけるR27は水素原子又はメチル基、エチル基である。また、R28は3〜6価の有機残基である。当該有機残基は特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度を60以上とするために当該R28は、好ましくは炭素数1〜30の有機残基であり、より好ましくはエーテル結合及び/又はウレタン結合を含んでいてもよい炭素数1〜15の有機残基である。また、f及びf’は各々独立に0〜3の整数である。これらf及びf’が3より大きい場合には、これらモノマーを単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が60より小さくなる傾向がある。またLスケールロックウェル硬度を60以上とするためには、f及びf’の合計は0〜3であることが好ましい。
【0089】
前記式(13)で示される高硬度モノマーを具体的に例示すると、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができる。
【0090】
前記式(14)におけるR30は水素原子、メチル基、エチル基又はヒドロキシル基である。また、Eは環状の基を含む2価の有機残基である。当該有機残基は環状の基を含むものであれば特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。当該Eに含まれる環状の基としては、フェニレン基、シクロヘキシレン基、アダマンチレン基あるいは以下に示す環状の基等が例示される。
【0091】
【化23】

【0092】
なお、前記Eに含まれる環状の基はフェニレン基であることが好ましく、さらにEは、下記式で示される基であることが特に好ましい。
【0093】
【化24】

【0094】
ここでGは、酸素原子、硫黄原子、又は−S(O)−、−C(O)−、−CH−、−CH=CH−、−C(CH−、−C(CH)(C)−から選ばれるいずれかの基であり、R33及びR34は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子であり、l及びl’は各々独立に0〜4の整数である。
【0095】
最も好ましいEは下記式で示される基である。
【0096】
【化25】

【0097】
また、式(14)中、i及びjはi+jの平均値が0〜6となる正の整数又は0である。なお、式(14)で示される化合物は、i及びjの双方が0である場合を除き、通常i及びjの異なる複数の化合物の混合物として得られ、それらの単離が困難なため、i及びjはi+jの平均値で示される。i+jの平均値は2〜6であることがより好ましい。
【0098】
前記式(14)で示される化合物としては、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4ーメタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等が具体的に例示される。
前記式(15)におけるFは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2〜9のアルキレン基である。当該主鎖炭素数2〜9のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、ノニリレン基等が例示される。鎖長が炭素数9を超えると単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が60以上とならない傾向がある。式(15)で示される化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等が例示される。
【0099】
前記式(16)におけるR32は水素原子、メチル基又はエチル基であり、kは2〜6の整数である。kが6を超えると単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が60以上とならない傾向があり、好ましいkは3又は4である。式(16)で示される化合物を具体的に例示すると、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等が例示される。
これら単独重合させたときのLスケールロックウェル硬度が60以上のラジカル重合性単量体は単独で用いても、数種以上混合して用いてもよい。
【0100】
なお上記式(13)〜(16)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が60未満のものがあるが、その場合には、これらの化合物は低硬度モノマーまたは中硬度モノマーに分類される。
また上記式(13)〜(16)で示されない高硬度モノマーもあり、その代表的化合物としては、例えばビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0101】
(b)低硬度モノマー
本発明の硬化性組成物には、上記高硬度モノマーに加え、さらに単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が40以下である低硬度モノマーがさらに配合されていることが好ましい。
当該低硬度モノマーは、硬化体を強靭なものとしまたフォトクロミック化合物の退色速度を向上させる効果を有する。
このような低硬度モノマーとしては下記式(17)又は下記式(18)のそれぞれで示される2官能モノマー、下記式(19)又は下記式(20)のそれぞれで示される単官能のモノマーが例示される。
【0102】
【化26】

【0103】
式中、R35は水素原子又はメチル基であり、R36及びR37は各々独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子であり、mは1〜70の整数であり、m’は0〜70の整数である。但しmはR35が水素原子の場合は1〜70の整数であり、R35がメチル基の場合は7〜70の整数である。
【0104】
【化27】

【0105】
式中、R38は水素原子又はメチル基であり、R39及びR40は各々独立に水素原子、メチル基、エチル基又はヒドロキシル基であり、Iは環状の基を含む2価の有機残基であり、i’及びj’は、i’+j’の平均値が8〜40となる正の整数である。
【0106】
【化28】

【0107】
式中、R41は水素原子又はメチル基であり、R42及びR43は各々独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、R44は水素原子、炭素数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、ハロアルキル基、炭素数6〜25のアリール基、又は(メタ)アクリロイル基以外の炭素数2〜25のアシル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子であり、nは1〜70の整数であり、n’は0〜70の整数である。但しnはR41が水素原子の場合は1〜70の整数であり、R41がメチル基の場合は、nは4〜70の整数である。
【0108】
【化29】

【0109】
式中、R45は水素原子又はメチル基であり、R46は炭素数1〜40のアルキル基である、但しR46はR45が水素原子の場合には炭素数1〜20のアルキル基であり、R45がメチル基の場合には炭素数8〜40のアルキル基である。
上記式(17)〜(20)において、R35、R38、R41及びR45は水素原子又はメチル基である。即ち、低硬度モノマーは重合性基として、通常2個以下の(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリロイルチオ基を有する。
【0110】
前記式(17)におけるR36及びR37は各々独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、Zは酸素原子又は硫黄原子である。また、R35が水素原子、即ち重合性基としてアクリロイルオキシ基又はアクリロイルチオ基を有する場合には、mは7〜70の整数であり、一方、R35がメチル基、即ち重合性基としてメタクリロイルオキシ基又はメタクリロイルチオ基を有する場合には、mは1〜70の整数である。また、m’は0〜70の整数である。式(17)で示される低硬度モノマーを具体的に例示すると、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0111】
前記式(18)におけるR39及びR40は、各々独立に水素原子、メチル基又はエチル基である。また、Iは環状の基を含む2価の有機残基である。当該Iとしては前記一般式(14)に含まれる環状の基であるEとして例示されたものと同様のものが例示される。式(18)におけるi’及びj’は、i’+j’の平均値が8〜40となる整数、好ましくは9〜30となる整数である。当該i’及びj’も前記した式(14)におけるi及びjと同様の理由で通常は平均値で示される。式(18)で示される低硬度モノマーを具体的に例示すると、平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン等を挙げることができる。
【0112】
前記式(19)におけるR42及びR43は各々独立に水素原子、メチル基又はエチル基である。R44は水素原子、炭素数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、ハロアルキル基、炭素数6〜25のアリール基又はアクリロイル基以外の炭素数2〜25のアシル基である。炭素数1〜25のアルキル基またはアルケニル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ノニル基等が例示される。また、これらアルキル基またはアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、さらには、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アリール基、エポキシ基等の置換基で置換されていてもよい。炭素数1〜25のアルコキシアルキル基としては、メトキシブチル基、エトキシブチル基、ブトキシブチル基、メトキシノニル基等が例示される。炭素数6〜25のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、アントラニル基、オクチルフェニル基等が例示され、(メタ)アクリロイル基以外のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、オレイル基等が例示される。式(19)におけるnは、R41が水素原子の場合、即ちアクリロイルオキシ基又はアクリロイルチオ基を重合性基として有する場合には1〜70の整数、R41がメチル基の場合、即ちメタクリロイルオキシ基又はメタクリロイルチオ基を重合性基として有する場合にはnは4〜70の整数であり、またn’は0〜70の整数である。
【0113】
式(19)で示される低硬度モノマーを具体的に例示すると、平均分子量526のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロヘプチルエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0114】
前記式(20)におけるR45は水素原子又はメチル基であり、当該R45が水素原子の場合には、R46は炭素数1〜20のアルキル基、当該R45がメチル基の場合には、R46は炭素数8〜40のアルキル基である。これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アシル基、エポキシ基等の置換基で置換されていてもよい。式(20)で示される低硬度モノマーを具体的に例示すると、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート等を挙げることができる。
【0115】
これら式(17)〜(20)で表される低硬度モノマーの中でも、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
これら単独重合させたときのLスケールロックウェル硬度が40以下のラジカル重合性単量体は単独で用いても、数種以上混合して用いてもよい。
なお、上記式(17)〜(20)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合させた際のLスケールロックウェル硬度が40以上のものがあるが、その場合には、これらの化合物は前述した高硬度モノマーまたは中硬度モノマーに分類される。
【0116】
(c)中硬度モノマー
その他モノマーは、上記高硬度モノマーでも低硬度モノマーでもないモノマー、即ち、単独硬化体のLスケールロックウェル硬度が40を超え60未満であるモノマー(中硬度モノマー)を含むこともできる。このような中硬度モノマーとしては、平均分子量650のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量1,400のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド等の2官能(メタ)アクリレート;アリルジグリコールカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニル等のアクリル酸及びメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸及びチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン等のビニル化合物;オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレート等の分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6〜25の(メタ)アクリレートなどのラジカル重合性単官能単量体等が挙げられる。
【0117】
(d)エポキシ系モノマー
(C1)成分モノマーには、コーティング層と基材との密着性を更に向上させ、また、フォトクロミック化合物が該コーティング層に含まれる場合には、フォトクロミック化合物の耐久性を向上させるために、エポキシ系モノマーが含まれていることが好ましい。このようなエポキシ系モノマーとしては、ラジカル重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましい。
【0118】
かかるエポキシ系モノマーは、好ましくは下記式(21)で表される。
【0119】
【化30】

【0120】
式中、R47及びR50は各々独立に水素原子又はメチル基であり、R48及びR49は各々独立に炭素数1〜4のアルキレン基、又は下記式で示される基であり、s及びtはそれぞれ0〜5の整数である。
【0121】
【化31】

【0122】
式中、G’は、酸素原子、硫黄原子、又は−S(O)−、−C(O)−、−CH−、−CH=CH−、−C(CH−および−C(CH)(C)−からなる群より選ばれるいずれかの基であり、R51及びR52は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子であり、p及びp’は各々独立に0〜4の整数である。
上記R48及びR49で示される炭素数1〜4のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基等が挙げられる。また、これらアルキレン基は、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。
またR48及び/又はR49としての下記式
【0123】
【化32】

で表される基としては、下記式
【0124】
【化33】

で示される基が最も好ましい。
【0125】
上記式(21)で示されるエポキシ系モノマーを具体的に例示すると、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、平均分子量540のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートおよび平均分子量540のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレートが特に好ましい。
これらエポキシ系モノマーの配合割合は、(C1)成分モノマー中、0.01〜30重量%、特に0.1〜20重量%であるのが好適である。
【0126】
フォトクロミック化合物の説明
本発明で使用するフォトクロミックとしては、フォトクロミック性を有する化合物を何ら制限なく使用することができる。フォトクロミック化合物としては、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物がよく知られており、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。
上記のフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物およびクロメン化合物としては、例えば特開平2−28154号公報、特開昭62−288830公報、WO94/22850号明細書、WO96/14596号明細書など記載されている化合物が好適に使用できる。
【0127】
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として、特開2001−114775号公報、特開2001−031670号公報、特開2001−011067号公報、特開2001−011066号公報、特開2000−347346号公報、特開2000−344762号公報、特開2000−344761号公報、特開2000−327676号公報、特開2000−327675号公報、特開2000−256347号公報、特開2000−229976号公報、特開2000−229975号公報、特開2000−229974号公報、特開2000−229973号公報、特開2000−229972号公報、特開2000−219687号公報、特開2000−219686号公報、特開2000−219685号公報、特開平11−322739号公報、特開平11−286484号公報、特開平11−279171号公報、特開平10−298176号公報、特開平09−218301号公報、特開平09−124645号公報、特開平08−295690号公報、特開平08−176139号公報、特開平08−157467号公報等に開示されている化合物も好適に使用することができる。
【0128】
これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べ高く、さらに本発明における組成物中においてフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のフォトクロミック化合物に比べて特に大きいために、特に好適に使用することができる。さらにこれらクロメン系フォトクロミック化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、本発明における組成物中において、発色濃度および退色速度といったフォトクロミック特性の向上が特に大きいため、好適に使用することができる。
このようなクロメン系フォトクロミック化合物の中でも好適な化合物を具体的に例示すれば、下記構造のクロメン化合物を挙げることができる。
【0129】
【化34】

【0130】
【化35】

【0131】
【化36】

【0132】
これらフォトクロミック化合物は適切な発色色調を発現させるため、複数の種類のものを適宜混合して使用することもできる。
【0133】
本発明の組成物において、フォトクロミック化合物を添加する際のフォトクロミック化合物の配合量は、ラジカル重合性単量体混合物100重量部に対して、0.01〜20重量部であるのが好適である。フォトクロミック化合物の配合量が0.01重量部未満では発色濃度が低くなることがあり、一方、20重量部を越えると重合性単量体に十分に溶解しないため不均一となり、発色濃度のむらが生じることがある。このような観点からフォトクロミック化合物の添加量はラジカル重合性混合物100重量部に対して、より好ましくは0.05〜15重量部、特に好ましくは0.1〜10重量部である。なお、本発明の組成物を光学材料のコーティング剤として用いる場合には、コート層の厚さが薄い場合にはフォトクロミック化合物濃度を高く、薄い場合には低くすることにより適度な発色濃度を得ることが可能となる。具体的には、コーティング層厚さが10μm程度の際にはラジカル重合性単量体混合物100重量部に対してフォトクロミック化合物を5〜15重量部程度、コーティング層厚さが50μm程度の際には0.1〜5重量部程度とするのが特に好適である。
【0134】
本発明のコーティング組成物は、レンズ基材の表面に予め接着層を形成した場合には、特願2001−227374号(国際公開第03/011967号パンフレットとして既に公開されている。)に開示されている接着性フォトクロミックコーティング剤と同様に基材に密着するフォトクロミックコート層を与えることができる。
【0135】
ここで、接着層とは基板とコーティング層とを接着するための層であって、基材上に接着剤を塗布し、必要に応じて硬化させた層を意味する。接着剤としては、公知のものがなんら制限なく使用可能であるが、好適なものを具体的に例示すれば、アクリル系光硬化型接着剤MO5、UT20、HV16、V300、A100、A200(いずれも株式会社アーデル製)を挙げることができる。これらのアクリル系光硬化型接着剤には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を適宜混合し、好適な粘度に調整して使用することも可能である。また、接着層の塗布方法としては、特に限定されず公知の被覆(コーティング)方法がなんら制限なく適用できる。具体的には、コーティング剤をスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の方法で塗布する方法が例示される。なお、必要に応じて接着層を塗布する前の基板及び本発明の組成物を塗布する前の接着層を塗布済みの基板に対して前処理を実施しても構わない。当該前処理としては、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ及び低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理またはUVオゾン処理等を挙げることができるが、プラスチックレンズとコーティング層の密着性の観点から、アルカリ処理、プラズマ処理、又はコロナ放電処理を用いるのが好適である。また、異なる当該前処理を2種類以上併用しても構わない。
【0136】
本発明のコーティング組成物は、上記のような効果を奏するものであるが、全ラジカル重合体成分100重量部に対してアミン化合物 0.1〜20重量部をさらに含有するものは、接着層を有しない基材に対しても高い密着性及び高い密着耐久性を有するフォトクロミックコート層を与えるという優れた特徴を有する。但し、上記特定量のアミン化合物を含有する場合のこの優れた効果は、フォトクロミック化合物を含有しない場合にも勿論発現する(後述の参考例参照)。したがって、本発明のコーティング組成物と同一組成の重合性単量体100重量部に対し、アミン化合物を0.1〜20重量部含有する組成物であってフォトクロミック化合物を含有しない組成物もコーティング組成物として有用である。以下、本発明で使用できるアミン化合物について説明する。
【0137】
アミン化合物についての説明
アミン化合物としてはアミノ基を有する化合物が何ら制限なく使用できる。好適に使用できるアミン化合物を具体的に例示すると、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4−ジメチルアミノベンゾフェノン、ジアザビシクロオクタン等の非重合性低分子系アミン化合物、N,N―ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N,N―ジエチルアミノエチルメタアクリレート等の重合性基を有するアミン化合物、n−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシフェニル−2−ピペリジノエトキシシラン、N,N−ジエチルアミノメチルトリメチルシラン、(N,N−ジエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン等のシリル基を有するアミン化合物が挙げられる。
【0138】
これらアミン化合物は単独もしくは数種混合して使用することができる。これらアミン化合物の配合量としては、すなわち全ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.1〜20重量部である。0.1重量部未満のとき、あるいは20重量部を超えるときは、コート層と接着層を有しない基材の密着性の向上効果が得られない。さらに20重量部を越えるときは、コート層の黄変を生じ易くなるばかりでなく得られるフォトクロミックコート層のフォトクロミック特性が低下するので好ましくない。効果の観点からアミン化合物の含有量は全ラジカル重合性単量体成分100重量部に対して0.5〜10重量部、特に1〜10重量部であるのが好適である。
本発明のコーティング組成物は、ラジカル重合開始剤を添加した後にプラスチックレンズ等の基材表面に塗布して硬化させることにより、基材に密着し、しかも高湿度条件下で保持しても容易に剥離しない被膜(コート層)を与えることができ、このような基材に対するコーティング剤として好適に使用することができる。以下、本発明の組成物に使用するラジカル重合開始剤について説明する。
【0139】
ラジカル重合開始剤の説明
本発明のコーティング組成物は、光で硬化させるために、光重合開始剤を配合することが好ましい。
本発明の光硬化性コーティング組成物には、該光硬化性コーティング組成物を光で硬化させるために、光重合開始剤を配合することが好ましい。
【0140】
光重合性開始剤を具体的に例示すれば、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6−ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等のモノアシルフォスフィンオキシド系化合物;ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメトキシベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキシド系化合物;ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロルチオキサントン、ジイソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアンスラキノン、4’,4”−ジエチルイソフタロフェノン、9,10−フェナンスレンキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2(O−エトキシカルボニル)オキシム、ベンゾフェノン、オルソベンゾイル安息香酸メチル、オルソベンゾイル安息香酸、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン等を挙げることができる。
これら光重合開始剤は、ラジカル重合性単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.001〜5重量部の範囲で用いられる。上記の光重合開始剤は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0141】
また、本発明においては、光重合開始剤に替えて又は光重合開始剤と共に熱重合開始剤を使用することもできる。熱重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものが使用できるが、代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーオキシカーボネート類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
これら熱重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、ラジカル重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、好ましくはラジカル重合性単量体混合物100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲で用いるのが好適である。上記の熱重合開始剤は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0142】
その他添加剤の説明
本発明のコーティング組成物には、フォトクロミック化合物を添加した際のフォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0143】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、重合性単量体への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の添加量は、ラジカル重合性単量体混合物100重量部に対し、0.1〜20重量部の範囲が好ましい。
【0144】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用してもよい。さらにこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用してもよい。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、ラジカル重合性単量体混合物100重量部に対し、0.001〜20重量部の範囲が好ましい。
【0145】
本発明のコーティング組成物を光学材料のコーティング剤として使用する場合、スピンコートにより所望の厚さのコート膜が得られやすいという観点から、その25℃での粘度は20〜1000cP、特に50〜800cP、さらには70〜500cPとするのが好適である。この粘度範囲とすることにより、後述するコーティング層の厚さを10〜100μmと厚めに調整することが容易となり、特にフォトクロミック化合物を添加した際に、十分なフォトクロミック特性を発揮させることが可能となる。
このような範囲に粘度調製するためには、密着性やフォトクロミック特性を向上させるラジカル重合性単量体が100cP以下の低粘度である場合が多いため、本組成物中に200cP以上、好ましくは500cP以上、より好ましくは2000cP以上の粘度を有する高粘度のラジカル重合性単量体を適宜混合することにより、目的の粘度とすればよい。
【0146】
また、本発明のコーティング組成物を眼鏡レンズ用のコーティング材料として使用する場合、その硬化体の屈折率が当該眼鏡レンズの屈折率とほぼ等しくなるように、配合する各成分、特にラジカル重合性単量体の配合割合を調整することが好ましい。一般には、屈折率1.48〜1.75程度に調節される。
本発明の組成物の調製
以下、本発明のコーティング組成物の調製法を説明する。
【0147】
本発明の組成物の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより容易に調製することができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、モノマー成分のみを予め混合し、後で、例えば重合させる直前にフォトクロミック化合物や他の添加剤を添加混合してもよい。なお、アミン化合物およびラジカル重合性単量体としてエポキシ系モノマーを含む本発明の組成物を保存する場合には、該エポキシ系モノマーとアミン化合物は別個の包装とし、使用時に混合して用いるのが高い保存安定性を得る上で好ましい。この場合には、他の成分は上記2包装に適宜分配すればよい。
前記したように、本発明の組成物、特にフォトクロミック化合物を含有する本発明の組成物は、プラスチックレンズ等の光学材料基材用のコーティング剤として好適に使用できる。そこで、以下にこのような用途で使用する際の使用方法について説明する。
本発明の組成物からなるコーティング剤が施用される光学材料基材としては、特に限定されず、ガラス及びプラスチック眼鏡レンズ、家屋や自動車の窓ガラス等公知の光学材料が挙げられるが、プラスチック眼鏡レンズに対して用いるのが特に好適である。
【0148】
プラスチック眼鏡レンズとしては、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ系樹脂等のプラスチック系の眼鏡レンズが使用できるが、本発明の組成物により形成されるコート層との密着性およびその耐久性(特に高湿度条件下で保存したときの密着性の耐久性)が優れるという観点から、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、チオエポキシ系樹脂又はアリル系樹脂からなる眼鏡レンズを使用するのが特に好適である。
【0149】
本発明の組成物からなるコーティング剤をプラスチックレンズ基材に施用するに際しては、その施用前に、密着性を向上させる目的でプラスチックレンズの前処理を行なうことが好ましい。前処理としては、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ及び低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理またはUVオゾン処理等を挙げることができるが、プラスチックレンズとコーティング層の密着性の観点から、アルカリ処理、プラズマ処理、又はコロナ放電処理を用いるのが好適である。また、プラスチックレンズの前処理においては、異なる2種類以上の処理を併用しても構わない。
【0150】
基材表面にコート層を形成するには、必要に応じてこのような前処理を行った後に基材の表面(表面及び/又は裏面の表面)に本発明の組成物からなるコーティング剤を塗布し、これを硬化させればよいが、この際の塗布方法は特に限定されず公知の被覆(コーティング)方法がなんら制限なく適用できる。具体的には、コーティング剤をスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の方法で塗布する方法が例示される。このような方法により塗布されるコーティング剤層の厚さ(硬化後のコート層の厚さに対応する)は特に限定されないが、特にフォトクロミック化合物を添加した場合には、フォトクロミック化合物濃度が低くても充分な発色濃度が得られ、またフォトクロミック特性の耐久性も良好なため、該厚さは比較的厚い方が好ましい。しかしながら一方で、コーティング層の厚さが厚い方が初期の黄色さも増加するため、硬化後のコート層厚さが10〜100μm、特に20〜50μmとなるような厚さであるのが好ましい。このような厚めのコーティング厚さとするには前記した通り、硬化性組成物の25℃における粘度を前記したような範囲に調整することによって容易に達成できる。因みに、プラスチックレンズに汎用的に施用されているハードコート用コーティング剤等のコーティング組成物は均一な塗膜を得るために溶媒等が含まれているため、その25℃における粘度は通常5cP以下であり、またそれにより得られるコーティング層の厚さも数μm以下であり、このような厚さと比較すると上記10〜100μmという厚さは非常に厚いものである。
【0151】
また、硬化方法としては使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて光硬化法、あるいは熱硬化法が適宜採用される。得られるコート膜の物性及び外観等の観点からは、光重合開始剤を用いて光照射により硬化させた後、加熱して重合を完結させる方法を採用するのが好適である。この際に、熱重合開始剤を併用しておいても構わない。このとき、光硬化に使用される光源としては、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、殺菌ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク、タングステンランプ等の有電極ランプ、または無電極ランプ等を用いることができる。また、光源として電子線を用いてもよく、この場合には光重合開始剤を添加せずにコーティング層を硬化させることもできる。また、熱硬化法としては、重合炉中で熱を施して熱重合させる方法、または重合炉中で赤外線を照射して重合硬化させる方法等を挙げることができる。
【0152】
このようにして本発明の組成物の硬化体からなるコート層が形成された光学材料はそのままでも使用することが可能であるが、より好ましくはさらにハードコート材で被覆することが好ましい。ハードコート層で被覆することにより、該光学材料の耐擦傷性を向上させることができる。当該ハードコート層としては公知のものがなんら制限なく使用でき、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート用コーティング剤を塗布後硬化させたものや、有機高分子体を主成分とするハードコート用コーティング剤を塗布後硬化させたものが挙げられる。本発明においては、コーティング組成物中にシリルモノマーを採用することにより、より強固にまた簡便に十分な密着性を得ることができる。
【0153】
また、本発明の組成物からなるコート層さらに必要に応じてその上に形成されるハードコート層上に、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物から成る薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工及び2次処理を施すことも勿論可能である。
以下、実施例および比較例を掲げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0154】
以下に使用した化合物の略号と名称を示す。その他のラジカル重合性単量体については、括弧内に「ホモ−HL」として、各化合物(モノマー)を注型重合(30℃から90℃まで20時間かけて昇温し、さらに120℃で2時間重合した。)して単独重合したときに得られる硬化体のLスケールでのロックウエル硬度を記載した。該硬度の測定方法は、硬化体を25℃の室内で1日保持した後、明石ロックウエル硬度計(形式:AR−10)を用いて測定した。なお、グリシジルメタアクリレートはエポキシ系モノマーである。
【0155】
(1)ラジカル重合性単量体
(A1)成分:シリルモノマー
TMSiMA:γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
DMSiMA:γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン。
(A1)成分:イソシアネートモノマー
MOI:2−イソシアナトエトキシメタアクリレート。
(A2)成分:マレイミド化合物
PMI:N−フェニルマレイミド
LMI:N−ラウリルマレイミド
BMI−1:4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド
BMI−2:2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン。
【0156】
(B1)成分:エステル結合含有モノマー
EB6A:ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセル・ユーシービー社:EB1830)
HP:ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート
EBA:アクリル化アクリルコポリマー(ダイセル・ユーシービー社:EB1701)
FA3:平均分子量458のω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノアクリレート
HOA:2−アクリロイルオキシエチルコハク酸
HOB:2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート
DPCA:平均分子量1200のポリカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社:DPCA−60)
【0157】
(C1)成分:(A1)成分および(B1)成分と異なる他のラジカル重合性単量体
・高硬度モノマー
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(ホモ−HL=122)
GMA:グリシジルメタアクリレート(ホモ−HL=80)(注:該モノマーはエポキシ系モノマーでもある。)
BPE:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン(ホモ−HL=110)
U6A:ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート(ホモ−HL=100)(新中村化学社:U−6HA)
・低硬度モノマー
9GA:平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート(ホモ−HL<20)
MePEGMA:平均分子量1000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート(ホモ−HL<20)
BPEO:平均分子量776の2,2-ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン(ホモ−HL<40)。
【0158】
(2)フォトクロミック化合物
クロメン1(以下、c1ともいう):下記構造の化合物
【0159】
【化37】

【0160】
クロメン2(以下、c2ともいう):下記構造の化合物
【0161】
【化38】

【0162】
クロメン3(以下、c3とも言う):下記構造の化合物
【0163】
【化39】

【0164】
クロメン4(以下、c4とも言う):下記構造の化合物
【0165】
【化40】

【0166】
クロメン5(以下、c5とも言う):下記構造の化合物
【0167】
【化41】

クロメン6(以下、c6とも言う):下記構造の化合物
【0168】
【化42】

【0169】
クロメン7(以下、c7とも言う):下記構造の化合物
【0170】
【化43】

【0171】
クロメン8(以下、c8とも言う):下記構造の化合物
【0172】
【化44】

【0173】
(3)アミン化合物
NMDEA:N−メチルジエタノールアミン
DMEMA:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート。
(4)重合開始剤
CGI1800:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの3対1の比の混合物。
(5)安定剤
LS765:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート。
(6)プラスチックレンズ
CR39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)
MR(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)
TE(チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.71)
SPL(メタクリル系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.54)
TR(ウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.53)
(7)接着層
UT20(アクリル系光硬化型接着剤:株式会社アーデル製)
【0174】
コーティング組成物に関する実施例、比較例及び参考例
参考例1
コーティング剤A’の調製
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド1.5重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート18.5重量部、平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン30重量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート20重量部、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート20重量部、グリシジルメタクリレート10重量部からなる重合性単量体100重量部に、N−メチルジエタノールアミンを3重量部、LS765を5重量部、重合開始剤としてCGI1800を0.2重量部添加し十分に混合し、光硬化性のコーティング剤A’を得た。この混合液の動粘度を、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて測定した。測定はJISK2283に準拠し、25℃で行った。得られた動粘度とあらかじめ測定した試料の比重より、式〔粘度(cP)=動粘度(cSt)×比重(G/cm)〕を用いて試料の粘度を算出したところ142cPであった。
【0175】
試料作成
試料1の作成: チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ(MR)の凸面全体に、大気圧プラズマ照射器(株式会社キーエンス製ST−7000)を用いて、90秒間の大気圧プラズマ処理を行い、40℃の温水約2mlで凸面を洗浄した後、光硬化性のコーティング剤Aを、MIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、回転数を段階的に上げて(具体的には60r.p.mで40秒→400r.p.mで2秒→600r.p.mで4秒)スピンコートした。次いで、コーティング剤A’で被覆された凸面を上面にしてレンズを保持し、窒素ガス雰囲気中で照射強度が100mW/cm程度のコールドリフレクターを装備したメタルハライドランプを用いて180秒間照射し、コーティング剤A’を硬化させた。その後、レンズの凸面を下面にして保持し、さらに120℃で1時間加熱した。得られたコート層(コート層A’)を有するプラスチックレンズについてフィルメトリクス社製薄膜測定装置を用いてコート層A’の厚さを測定した。このレンズを試料(試料1)として後述するレンズとコーティング層との密着性を評価するための密着性試験1を行った。
【0176】
試料2の作成: 別に、試料1を製造するのと同様にしてコーティング剤A’の硬化体からなるコート層(コート層A’)を有するプラスチックレンズ得た。次いで、コート層の厚さを測定した後に該プラスチックレンズをアセトンで洗浄して十分に風乾して清澄な状態とし、次いで10%NaOH水溶液に10分浸漬した後に十分に水洗して再び風乾した。このレンズをハードコート用コーティング剤{(株)トクヤマ社製TS56Hハードコート液}に浸し、30cm/分で引き上げた後、60℃で15分予備乾燥後、130℃で2時間加熱硬化して試料とし、ハードコート層を有する試料(試料2)を作成した。
試料3の作成: 試料2と同様にして試料3を作成した。
【0177】
試料評価
(1)レンズとコート層A’との密着性(以下、密着性1ともいう)
硬化後0.5〜24時間室温放置した試料1のコート層の表面に、カッターナイフで1mm×1mmのマス目を100個つけた。続いて、市販のセロハンテープを貼り付けて、次いでそのセロハンテープを素早く剥がした時のコーティング層の剥がれ状態を目視により確認する碁盤目試験により評価した。評価は、100個のマス目のうち何個が剥離せずに残ったかで評価し、(評価後の残存マス目数)/(評価前のマス目数=100)が100/100を◎、99〜95/100を○、94〜80/100を△、79〜50/100を▲、49/100以下を×とする5段階評価とした。その結果を他の参考例の結果と共に第3表に示す。
(2)コート層A’とハードコート層との密着性(以下、密着性2ともいう)
ハードコート層形成後0.5〜24時間室温放置した試料2の表面に、カッターナイフで1mm×1mmのマス目を100個つけ、上記(1)と同様に碁盤目試験を行い、密着性2を評価した。他の参考例の結果と共に第3表に示す。なお、ここで残存マス数はコート層A’およびハードコート層の両層とも剥離せずに残ったマス数とした。
(3)耐湿試験後の密着性
ハードコート層形成後、温度40℃、湿度90%RHの条件下に一週間さらには1ヶ月間放置した試料3について、上記(1)と同様にして碁盤目試験を行った。この耐湿試験1週間後の密着性を密着性3とし、耐湿試験1ヶ月後の密着性を密着性4とする。また、他の参考例の結果と共に第3表に示す。なお、評価において残存マス数は、上記(2)と同様にコート層A’およびハードコート層の両層とも剥離せずに残ったマス数とした。
【0178】
参考例2〜17
コーティング剤A’と同様の方法で、第1表に示す成分を混合して、本発明の組成物からなる光硬化性のコーティング剤B’〜H’を得た。
第3表に示すコーティング剤およびレンズ基材を用い、また第3表に示すレンズ基材の前処理を用いたこと以外は参考例1と同様にして試料を作成し、評価した。評価結果を第3表に示す。以下に、第3表に示した前処理の具体的な方法を示す。
【0179】
レンズ基材の前処理方法
(1)大気圧プラズマ処理(第3表では、プラズマと記す。)
レンズ基材の凸面全体に、大気圧プラズマ照射器(株式会社キーエンス製ST−7000)を用いて、90秒間の大気圧プラズマ処理を行い、その後40℃の温水約2mlで凸面を洗浄し、風乾させた。
(2)コロナ放電処理(第3表では、コロナと記す。)
レンズ基材の凸面全体に、京都電気機器(株)製コロジェット1000を用いて90秒間コロナ放電処理した。
(3)アルカリ水溶液処理(第3表では、アルカリと記す。)
50℃に加温した10%水酸化ナトリウム水溶液にレンズ基材を6分間浸した後、水道水で約10分間流水洗浄を行った。その後、80℃のオーブンで20分間乾燥させた。
(4)研磨剤処理(第3表では、研磨と記す。)
約1μmの粒径を有するアルミナ粒子を蒸留水に分散させ、この液を布につけてレンズ基材の凸面全体を擦った。その後、水道水で洗浄を行い、80℃のオーブンで20分間乾燥させた。
【0180】
比較例1〜6
コーティング剤A’と同様の方法で、第2表に示す成分を混合して、光硬化性のコーティング剤T’及びU’を得た。なお、T’及びU’はマレイミド化合物を含有しない比較実験用のコーティング剤である。
第4表に示すコーティング剤およびレンズ基材を用い、また第4表に示すレンズ基材前処理も用いたこと以外は参考例1と同様にして試料を作成し、評価した。評価結果を第4表に示す。なお、比較例2〜4に関しては、密着性1しか評価していない。
【0181】
【表1】

【0182】
【表2】

【0183】
【表3】

【0184】
【表4】

【0185】
【表5】

【0186】
【表6】

【0187】
【表7】

【0188】
【表8】

【0189】
前記第3表から明らかなように、参考例1〜17のコーティング剤を用いて得られたコート膜は、レンズ基材とコーティング層との密着性(密着性1)、コーティング層とハードコート層との密着性(密着性2)、更には耐湿試験1週間後の密着性(密着性3)が良好である。しかし、参考例1〜9に用いた組成物には、シリルモノマーを添加していないため、シリルモノマーを採用している参考例10〜17に比べて、密着性2および耐湿試験1ヵ月後の密着性(密着性4)が若干低下する傾向が見られた。シリルモノマーを採用しない場合、若干の密着性低下が見られるものの、マレイミド化合物を添加しているために非常に優れた密着性を有している。これに対し、第4表の比較例1〜6の結果に示されるようにマレイミド化合物をコーティング剤中に含まない場合には、密着性4を満足するものは得られていない。特に、比較例1〜5に示すように、マレイミド化合物、シリルモノマー更にはエステル結合含有モノマーを含まない場合には、密着性1の段階で密着性が得られていない。
【0190】
実施例1〜19
コーティング剤A’と同様の方法で、第1表及び第2表に示す成分を混合して、フォトクロミック化合物を含有する本発明の組成物からなる光硬化性のコーティング剤I’〜S’を得た。次に、第5表に示すコーティング剤およびレンズ基材を用い、また第5表に示す前処理方法を採用したこと以外は参考例1と同様にして試料1〜3に相当する試料を作成し、試料1について各種フォトクロミック特性(最大吸収波長、発色濃度、退色速度及び耐久性)を測定した。また、上記試料1〜3について、参考例1と同様に密着性1〜4の評価を行った。その結果を第5表に示した。
【0191】
【表9】

【0192】
【表10】

【0193】
比較例7〜12
コーティング剤A’と同様の方法で、第2表に示す成分を混合して、フォトクロミック化合物を含有する光硬化性のコーティング剤W’及びX’を得た。次に、第6表に示すコーティング剤およびレンズ基材を用い、第6表に示すレンズ基材に対する前処理方法を用いたこと以外は参考例1と同様にして試料1〜3に相当する試料を作成し、試料1について各種フォトクロミック特性(最大吸収波長、発色濃度、退色速度及び耐久性)を実施例1〜19と同様な方法で測定した。また、上記試料1〜3について、参考例1と同様に密着性1〜4の評価を行った。その結果を第6表に示した。
【0194】
【表11】

【0195】
前記第5表から明らかなように、実施例1〜19における本発明のコーティング組成物を用いて作成した試料(フォトクロミックプラスチックレンズ)のフォトクロミック特性並びに密着性は十分に良好であった。一方、第6表に示されているように、比較例7〜11の場合には光硬化性コーティング組成物(コーティング剤W’)中にラジカル重合性単量体としてマレイミド化合物等を含んでいるため密着性はさほど低下しないものの、アミン化合物を本発明で規定する量より多く含んでいるため、フォトクロミック特性の一つである耐久性が著しく低下している。また、比較例12の場合には光硬化性コーティング組成物(コーティング剤X’)中にマレイミド化合物を含まず、更にシリルモノマーを本発明で規定する量より多く含んでいるため、密着性が低下し、フォトクロミック特性も著しく低下している。
【0196】
実施例20
実施例1において、アミン化合物を含有しない他は組成物I’と同じ組成を有するコーティング組成物を用い、基材として予め接着層を形成した基材を用いる他は実施例1と同様にして試料(コート層厚み39μm)を作成し、密着性試験及びフォトクロミック性の評価を行なった。その結果は、密着性1:◎、密着性2:◎、密着性3:◎、密着性4:○、λmax:610(nm)、発色濃度:0.76、退色半減期:1.4(分)、耐久性43%であった。なお、接着層の形成は次のようにして行なった。即ち、先ず、チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ(MR)の凸面全体に、大気圧プラズマ照射器(株式会社キーエンス製ST−7000)を用いて、60秒間の大気圧プラズマ処理を実施した後、UT20をMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用い、回転数を段階的に変速しながら(具体的には50r.p.mで20秒→1500r.p.mで5秒→600r.p.mで4秒)スピンコートし、次いでUT20で被覆された凸面を上面にしてレンズを保持し、窒素ガス雰囲気中で照射強度が100mW/cm程度のコールドリフレクターを装備したメタルハライドランプを用いて120秒間照射し、UT20を硬化さることにより密着層を形成した。
この結果から、アミン化合物を含まない本発明のコーティング組成物を用いた場合でも、基材として接着層を有する基材を用いた場合には、密着性及びフォトクロミック特性の良好なフォトクロミックコート層が得られることが分かる。
【0197】
比較例13
実施例20において、A2成分及びアミン化合物を含有しない他は組成物I’と同じ組成を有するコーティング組成物を用いた以外は、実施例20と同様にして試料(コート層厚み37μm)を作成し、密着性試験及びフォトクロミック性の評価を行なった。その結果は、密着性1:◎、密着性2:○、密着性3:△、密着性4:▲λmax:610(nm)、発色濃度:0.78、退色半減期:1.3(分)、耐久性41%であった。この結果から予め接着剤を設けた基材を用いても、特に(A2)成分(マレイミド化合物)を含まないコーティング組成物を用いた場合には、十分な密着性が得られないことが分かった。
【0198】
以上実施例により説明したとおり、本発明の組成物は、プラスチックレンズ等の光学材料基材の表面に塗布して硬化させたことにより基材に対して良好な密着性を有するコート層を形成することができる。しかも、このコート層は、その上にハードコートを施した場合におけるハードコート層との密着性も良好であり、コート層形成後の基材を高湿度の条件下で長期間保存して剥離することがない。また、フォトクロミック化合物を含有する本発明の組成物を硬化させて得られる硬化体は良好なフォトクロミック特性を示す。したがって、このような本発明の組成物は、コーティング法によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造する際のコーティング剤(フォトクロミック性を付与するためのコーティング剤)として優れたものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A2) マレイミド化合物 0.01〜20重量% および
(B2) 上記(A2)成分と異なる他のラジカル重合性化合物 80〜99.99重量%
からなるラジカル重合性単量体混合物 100重量部
並びに
(D1) フォトクロミック化合物 0.01〜20重量部
を含有してなり、そしてアミン化合物を含まないかあるいは20重量部以下でアミン化合物を含有することを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
上記(B2)成分が、全ラジカル重合性単量体重量を基準として
(i) (A1) シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体およびイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性単量体 0.1〜20重量%
(B1) 上記(A1)成分以外のラジカル重合性単量体であって、分子内に少なくとも1つのオキシカルボニル基を有するラジカル重合性単量体(但し、オキシカルボニル基として(メタ)アクリロイルオキシ基に由来するオキシカルボニル基しか含有しないものを除く) 0.1〜50重量% および
(C1) 上記(A1)成分および(B1)成分と異なる他のラジカル重合性単量体 10〜99.79重量% からなるか、
(ii) 上記(A1)成分0.1〜20重量%および上記(C1)成分60〜99.89重量% からなるか、
(iii) 上記(B1)成分0.1〜50重量%および上記(C1)成分30〜99.8重量% からなるか あるいは
(iv) 上記(C1)成分80〜99.99重量%からなる
請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
アミン化合物を0.1〜20重量部で含有する請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
光透過性基板の少なくとも一方の面上に、請求項1に記載のコーティング組成物の硬化体からなる被覆層が形成されてなる光学物品。
【請求項5】
請求項1に記載のコーティング組成物の光透過性基板を被覆するための使用。


【公開番号】特開2010−31294(P2010−31294A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257598(P2009−257598)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【分割の表示】特願2004−556914(P2004−556914)の分割
【原出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】