説明

コードすだれ織物、および、繊維コードの製造方法

【課題】接着性に優れた繊維コードを容易に得ることができるコードすだれ織物を提供する。また、接着性に優れた繊維コードを容易かつ低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなり、接着剤が付着しているコードすだれ織物とする。また、繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなるコードすだれ織物に接着剤を付与した後、該コードすだれ織物から緯糸を引き抜き取り繊維コードの製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多本数の経糸に対し、長手方向所要間隔毎に緯糸を打ち込んで製織したすだれ織物、および、該織物から熱処理された経糸のみを得る製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤにおける補強層等の繊維コードを補強材とする構成部分を、シングルのコードを用いて周方向でジョイント部を生じさせない構造(ジョイントレスタイヤ)にすることが提案されている。
【0003】
上記コードを製造する方法としては、ボビンに巻かれた繊維コードを1本づつ引き出して接着剤処理し、ヒートセットを行うといった方法が取られているが、作業効率やエネルギ効率が極めて悪いものである。
【0004】
また、シングルのコードを複数本並べて、接着剤処理し、ヒートセットすることも可能であるが、コードの本数が多くなればなるほど接着剤処理工程等でコード同士が絡み合ってコード切れのトラブルが発生し易くなり、また、コード切れが発生すると切れたコードが全体に絡みつき、それらの糸の除去や再度糸を通し直しが必要となり、コードや時間、労力のロスが大きくなる。
【0005】
これに対して、特許文献1には、多本数の経糸に対し長手方向所要間隔に緯糸を打ち込んで製織した長尺のすだれ織物からタイヤコードを得るために、織物を巻き戻しながら2〜30cm巾に分離されるように分割部を緯糸方向に押し広げながら緯糸を切断することによって粗分割した後、さらに同様にして経糸群が0.5〜5cm巾になるように緯糸を切断することによって細分割した後、それぞれの単糸をほぐしながら巻き取るタイヤコード織物より経糸を回収する方法が開示されている。
【0006】
一方、特許文献2には、コードになる多数本の経糸に対し、長手方向所要間隔毎に緯糸を打ち込んで製織した長尺の織物を接着剤処理を施した後にロール状に巻き取っておき、この巻取り体からすだれ織物を一方向に引き出しながら、その引き出し走行部分において、すだれ織物の経糸を側端面から順に1本づつ走行方向に位置をずらして側方に引き離し、タイヤコードを得る方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記の方法においては、すだれ織物から経糸を回収するためには緯糸を除去するための装置が必要でそのための設備投資が必要であり、また、作業工程が複雑となるといった問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭52−121538号公報
【特許文献2】特開2000−198148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記背景技術を鑑みなされたもので、その目的は、接着性に優れた繊維コードを容易に得ることができるコードすだれ織物を提供することにある。また、他の目的は、接着性に優れた繊維コードを容易かつ低コストで製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが検討を行った結果、上記の目的は、繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなり、接着剤が付着しているコードすだれ織物により達成できる。また、他の目的は、繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなるコードすだれ織物に接着剤を付与した後、該コードすだれ織物から緯糸を引き抜き取る繊維コードの製造方法により達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高強度の緯糸を使用することにより、熱処理によっても残存強度が高いため、該緯糸を織物から引き抜くことが可能となり、多数の繊維コードを容易かつ安価に製造することができる。また、接着剤加工を施す際も、接着剤により経糸同士の密着が発生することが無く、安定して繊維コードの生産が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の繊維コードすだれ織物は、繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなり、接着剤が付着しているすだれ織物である。
前述したように、一般に、複数本の繊維コードに対して、ゴム等との接着性を向上させるための接着剤を付与する処理、いわゆる接着処理を同時にしようとすれば、シングルの繊維コードを複数本並べて、接着剤処理し、ヒートセットすることが必要である。しかし、繊維コードの本数が多くなればなるほど接着剤処理工程等でコード同士が絡み合ってコード切れのトラブルが発生し易くなり、また、コード切れが発生すると切れたコードが全体に絡みつき、それらの糸の除去や再度糸を通し直しが必要となり、コードや、時間、労力のロスが大きくなる。
【0013】
本発明の繊維コードすだれ織物においては、接着剤が既に付与されたすだれ織物に状態であるため、これから緯糸を引き抜くことにより、容易に複数の接着剤が付着した繊維コードを得ることができる。
【0014】
また、上記のように一般的に行われている繊維コードを複数本並べて同時に処理する場合のように、繊維コード同士が絡んだり部分的に接合したりして、繊維コードが断糸するといったことがない。
【0015】
本発明のすだれ織物においては、緯糸として7〜50cN/dtexの緯糸が配されていることが肝要である。これにより、すだれ織物に接着剤の付与処理等をした後でも、緯糸の残存強度が高いため、緯糸を織物から容易に引き抜くことができ、経糸を繊維コードとして回収することができる。
【0016】
このため、緯糸の破断強度が7cN/dtex未満の場合は、緯糸を引き抜く際に、接着剤処理による経糸との接着力、あるいは、経糸との摩擦力によって、緯糸が途中で切れてしまう。一方、緯糸の強度が50cN/dtexを越える場合は、弾性率が高くなる傾向にあり、製織工程や工程間における取り扱い性が低下しやすい。緯糸の強度は8〜30cN/dtexであることが好ましく、10〜30cN/dtexであることがより好ましく、20〜30cN/dtexであることがより好ましい。
【0017】
また、緯糸の伸度は、1〜10%であることが好ましい。伸度が10%を越える場合は、緯糸を引き抜く際に、緯糸が途中で切れてしまう傾向にある。一方、伸度が1%未満の場合は、製織工程や工程間における取り扱い性が低下する。緯糸の伸度は2〜6%であることがより好ましい。
【0018】
上記緯糸としては、アラミド繊維、炭素繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、高強力ポリエチレン繊維や、ポリエチレンナフタレート繊維等のポリエステル繊維を好ましく例示することができ、これらの繊維を組み合わせたものであっても良い。また、繊維の形状はマルチフィラメントでもモノフィラメントでもよい。緯糸は、接着剤の熱処理によって強度劣化し難いことが望ましく、融点、軟化点、または分解温度が200℃以上のものが好ましく、250℃以上のものがより好ましい。
【0019】
緯糸の総繊度は、100〜3000dtexが好ましく、200〜2000dtexがより好ましい。繊度が3000dtexを越える場合は、製織工程や工程間における取り扱い性が低下する。一方、繊度が100dtex未満の場合は、緯糸を引き抜く際に、接着剤処理による経糸との接着力、あるいは、経糸との摩擦力によって、緯糸が途中で切れてしまう。
【0020】
一方、経糸としては、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維に代表されるポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル繊維およびポリビニールアルコール繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、炭素繊維などを撚糸した繊維コード、または、これらの繊維を2種類以上混繊または複合したハイブリッドコードなども挙げることができる。
【0021】
経糸を構成する糸の総繊度は、好ましくは560〜2200dtex、より好ましくは1100〜1670dtexである。また、経糸、すなわち繊維コードは、上記糸を1〜4本撚糸して用い、該繊維コードの繊度としては1100〜5000dtexが好ましく、2200〜3340dtexがより好ましい。
【0022】
本発明のすだれ織物としては、経糸を1000〜1500本並べ、これらに緯糸で打ち込み製織したものを好ましく用いることができる。織物の幅は140〜160cm、長さは800〜2500mであり、緯糸は1.0〜10.0cm間隔で打ち込まれていることが好ましい。
【0023】
本発明の繊維コードの製造方法は、繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなるコードすだれ織物に接着剤を付与した後、該コードすだれ織物から緯糸を引き抜き取る方法である。かかる製造方法により、繊維コードはそれを経糸に用いた織物として接着剤処理を行うため、前述した一般に行われる繊維コードを複数本同時に並べて接着処理する場合のように繊維コード同士が絡んだり部分的に接合したりして、繊維コードが断糸するといったことがない。
【0024】
上記の接着付与処理においては、繊維コードをゴム補強用繊維コードとして使用する場合には、上記接着剤として、エポキシ化合物、イソシアネ−ト化合物およびハロゲン化フェノ−ル化合物およびレゾシンポリサルファイド化合物などを用いる接着剤処方を適用することができ、具体的には第1処理液でエポキシ化合物、ブロックイソシアネ−ト、ラテックスの混合液を付与し、熱処理後に第2処理液としてレゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物およびゴムラテックスからなる液(RFL液)が付与される。
【0025】
また、接着処理の後、一般に熱処理を行うが、その処理条件としては、例えば経糸がナイロン6繊維の場合は170〜215℃で30〜90秒、好ましくは190〜210℃で50〜70秒、またナイロン66繊維の場合は200〜240℃、30〜90秒、好ましくは210〜230℃で50〜70秒がよい。また、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリエチレンナフタレート繊維の場合は200〜250℃で30〜150秒、好ましくは210〜230℃の処理が好ましい。
【0026】
本発明の製造方法によれば、すだれ織物から緯糸を引き抜くことで、接着剤付与処理、さらに熱処理された経糸のみを得ることができる。緯糸を引き抜く方法は、すだれ織物の接着剤付与処理、さらに熱処理を施した後であればよく、該すだれ織物をセルに巻き取るまでの工程途中で引き抜いても良いし、セルに巻き取った後に引き抜いても良い。したがって、緯糸長さは織物幅より長いほうが好ましく、製織工程や工程間における取り扱い性を損なわない範囲内で、緯糸をつかみ易くしておくことが望ましい。また、緯糸を抜き取った後の繊維コードは、補強用繊維コードとしての要求特性を著しく低下させるようなことが無ければ、得られる繊維コードに部分的に付着していても構わない。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例をあげて、本発明の構成および効果についてさらに詳細に説明する。なお、実施例中の各物性は次の方法により測定した。
(1)緯糸の強度及び伸度
JISL1013 8.5に準じて測定した。
(2)接着強度
JIS L 1017 3.1 Tテスト(A法)にて測定した。
(3)融点、軟化点及び分解温度
差動走査熱量計(DuPont社製DSC−910型)を使用して、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱し測定した。
【0028】
[実施例1]
経糸として帝人ファイバー株式会社製ポリエチレンナフタレート繊維「テオネックス」1670デシテックス250フィラメントのマルチフィラメント2本を、下撚数40回/10cm、上撚数40回/10cmの撚数で撚糸したコードを総本数1500本引き揃えて経糸とし、これに帝人テクノプロダクツ株式会社製アラミド繊維「テクノーラ」220デシテックス T−240(強度:24.5cN/dtex、伸度:4.5%、分解温度:500℃)を1.0cm間隔で緯糸として打込み、幅160cm、長さ1500mの織物を得た。上記の織物を、エポキシ化合物、ブロックイソシアネ−ト化合物およびゴムラテックスからなる混合液(第1浴処理液)に浸漬した後、130℃で100秒間乾燥し、続いて240℃で45秒間延伸熱処理した。また、上記第1処理浴で処理した織物を、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)からなる第2処理液に浸漬した後、100℃で100秒間乾燥し、続いて240℃で60秒間延伸熱処理、リラックス熱処理を施した。仕上がった織物から緯糸を引き抜いたところ、緯糸は途中で切れることなく容易に抜き取ることができた。また、得られた繊維コードは、接着強度は200N/cmと補強用繊維コードとして十分実用的なものであった。
【0029】
[実施例2]
帝人テクノプロダクツ株式会社製アラミド繊維「テクノーラ」1110デシテックス T−200(強度:24.5cN/dtex、伸度:4.5%、分解温度:500℃)を緯糸とし、実施例1と同様に処理を施した。仕上がった織物から緯糸を引き抜いたところ、緯糸は途中で切れることなく容易に抜き取ることができた。また、得られた繊維コードは、接着強度は195N/cmと補強用繊維コードとして十分実用的なものであった。
【0030】
[実施例3]
実施例1のポリエチレンナフタレート繊維(強度:8.3cN/dtex、伸度:11%、融点:274℃)を撚糸した繊維コ−ドを用い、これを総本数1500本0.1cm間隔で引揃え、これを実施例1と同様にして、エポキシ化合物、ブロックイソシアネ−ト化合物およびゴムラテックスからなる混合液(第1浴処理液)に浸漬した後、130℃で100秒間乾燥し、続いて240℃で45秒間延伸熱処理した。
また、上記第1処理浴で処理した繊維コードを、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)からなる第2処理液に浸漬した後、100℃で100秒間乾燥し、続いて240℃で60秒間延伸熱処理、リラックス熱処理を施した。仕上がった織物から緯糸を引き抜いたところ、経糸間に緯糸がわずかに残存したが、緯糸は途中で切れることなく抜き取ることができた。また、得られた繊維コードは、接着強度は193N/cmと補強用繊維コードとして十分実用的なものであった。
【0031】
[比較例1]
帝人ファイバー株式会社製ポリエステルフラットヤーン167デシテックス48フィラメントN300SB SD(強度:5cN/dtex、伸度:35%、融点:261℃)を緯糸とし、実施例1と同様に処理を施した。仕上がった織物から緯糸を引き抜こうとしたが、緯糸は途中で切れ、経糸間に多くの緯糸が残存した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のコードすだれ織物および繊維コードの製造方法によれば、強度が7〜50cN/dtexの範囲にある緯糸がすだれ織物の緯糸に配されているため、織物から緯糸を引き抜き、容易に繊維コードである経糸を回収することができる。また、接着剤加工を施す場合においても、接着剤による経糸の密着が発生すること無く品質が良好な繊維コードを得ることができる。このため、繊維コードの製造を、従来よりも容易かつ低コストで行うことができ産業上の利用性が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなり、接着剤が付着しているコードすだれ織物。
【請求項2】
緯糸の繊度が、100〜3000dtexである請求項1記載のコードすだれ織物。
【請求項3】
緯糸が、アラミド繊維、炭素繊維、PBO繊維、高強力ポリアリレート繊維、高強力ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載のコードすだれ織物。
【請求項4】
緯糸の融点、軟化点、または分解温度が、200℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコードすだれ織物。
【請求項5】
繊維コードからなる経糸と、強度が7〜50cN/dtexの緯糸とからなるコードすだれ織物に接着剤を付与した後、該コードすだれ織物から緯糸を引き抜き取る繊維コードの製造方法。
【請求項6】
接着剤を付与した後、熱処理を施す請求項5記載の繊維コードの製造方法。

【公開番号】特開2010−90506(P2010−90506A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261579(P2008−261579)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】