説明

ゴキブリ忌避性を有する金属材料およびそれを用いた構造物

【課題】
質感、加工性等金属の本来の性質を保持しつつゴキブリ忌避性を発揮する金属材料を提供する。
【解決手段】
基材金属の表面にめっき金属をめっきした金属材料であって、最大径が50μm以下の無機材料からなる多孔質微細粒子が、めっき金属の表面に対して面積率で1%以上30%以下でめっき金属に分散されており、多孔質微細粒子の孔内にゴキブリ忌避性を有する薬剤あるいは精油を担持せしめたことを特徴とする、ゴキブリ忌避性を有する金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴキブリに対して忌避性を有する金属材料およびそれを用いて効
果的にゴキブリ忌避性を発揮しうる構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼をはじめとする金属は、強度や硬さ、耐熱性などのいわゆる金属の特長を
生かして、太古の昔から幅広く使用されている。特にステンレス鋼は、通常の
生活環境では錆の発生がほとんど希であるため、清潔さを要求される例えば医
療や食品分野、美麗さを要求される自動車や家電分野、建材や装飾品の分野に
広く使用されている。しかしそれだけではなく、上述の金属本来の機能以外機
能が要求され、それを満たすことによってさらに幅広く使用されてきた。例え
ば、金属には本来ないカラフルな色や意匠が求められ、塗装によってその要求
を満たし、種々の家電製品や家庭用品に使用されてきた。
【0003】
それでも金属にはない機能の要求は根強く、その一つがゴキブリのような不
快な昆虫の忌避あるいは殺虫機能である。金属の中には例えばAgやCuのように
、細菌などに対して抗菌性を示すものもあるが、細菌などに比べると大型であ
る昆虫に対してはほとんど影響がないと考えられている。特に、衛生面からゴ
キブリの侵入が問題となる厨房機器や厨房用備品、食品類の展示ケース、自動
販売機、食堂などの内装品、電気系のショートなどの故障の原因となりやすい
家電製品や通信機器などでは、ゴキブリの侵入が大きな問題となっている。
【0004】
従来、これらに対する対応は、電気機器や通信機器など衛生面での問題が大
きくない分野では、密閉度を上げて内部への侵入を抑制する程度で事実上放置
をするか殺虫剤による殺虫が主体である。家庭内では殺虫剤の使用あるいは粘
着シートや泡状粘着剤での捕獲による殺虫が行われるが、営業用の厨房や外食
産業分野、食品工場などでは、殺虫剤の使用も安全面から限定的とならざるを
得ず、粘着シートでの捕獲による殺虫が主体である。このような殺虫剤や捕獲
剤は、既に広く市販されている。
【0005】
殺虫剤による駆除は、ゴキブリが露見している場合には極めて大きい殺虫効
果があるし、糞まで食べるゴキブリの特性を活用した殺虫剤では、かなり高い
駆除効果があると言われる。しかし、その殺虫効果は人間や小動物にもおよび
、アレルギー症状を起こしたり甚だしい場合は服毒と同じ効果が現れたりする
危険がある。このために、広範囲に噴霧したり散布しゴキブリの体に付着する
ことで殺虫する殺虫剤では、急速に毒性が分解し無害化させるか分解の早い薬
剤のみの使用に限定せざるを得ないのである。この施策は、ゴキブリの駆除の
点からは極めて不利である。すぐに効果が無くなるために、予防的に噴霧した
り散布しても効果が薄いし、効果を上げようと頻繁に噴霧したり散布すると人
間や小動物に薬害が現れる危険が増す。さりとて、殺虫効果の持続性を高める
ことは安全上できない。
【0006】
一方、ゴキブリが食べることで殺虫する殺虫剤の場合、必ずしも効果の分解
が早い必要はないが、その殺虫剤の置き場所までゴキブリが徘徊して移動し口
に入れる必要がある。さらに、幼児や小動物がそれを口にする危険も高い。
【0007】
いずれにしても殺虫によるゴキブリの駆除の場合、ゴキブリの死に場所が人
間の目に触れない機器の内部であったり手の届かない隙間であることが多いた
め、その死骸が除去できず細菌類などの栄養(巣)となり、むしろ不衛生のも
ととなりかねない。衛生面での問題は小さい電気機器類でも、回路の腐食やシ
ョートの原因となる。
【0008】
このように、殺虫剤による駆除は徘徊して到達したゴキブリに対するもので
、ゴキブリの侵入を防止するものではない。従って、ゴキブリの徘徊による衛
生上の課題は何ら解決していないのである。
【0009】
粘着シートなどによる捕獲は、殺虫剤に比べると安全上の問題は圧倒的に少
ない。しかし、粘着シートに触れなければ捕獲できないにもかかわらず必要な
面に全てに敷設設置することができないことから、ゴキブリの徘徊を防止する
ことは事実上できない。また、捕獲効率が必ずしも高くなく、人間の目に露見
したものの捕獲と大差がないとの指摘もある。
【0010】
ところで、ゴキブリや蝿などの不快昆虫に対して、捕獲殺虫するだけでなく
繁殖を抑えることで数を減らしていこうとする考えが、主として行政部門から
提唱されている。蝿に対しては不衛生箇所の解消などの努力によって効果を上
げつつあるが、ゴキブリに対しては何でも食べどんなところでも生息できると
いった特性から、効果が上がっていないのが実情である。しかも、都市の温度
上昇や家屋の密閉度向上に伴う温度低下の減少、電気機器の普及による高温と
なる生息適性場所の増加によって、むしろ生息数の増加が懸念されている。
【0011】
一方、ゴキブリを直接殺したり捕獲殺虫するのではなく、ゴキブリの例えば
家屋内や機器内への侵入を防止しようとする考えがある。これには、ゴキブリ
忌避性のある薬剤を家屋や機器内に散布したり噴霧したりあるいは塗布してお
くことで効果を上げている。薬剤は、殺虫剤ではないことから、人間や犬猫な
どの小動物に対しても概ね安全なものが多い。しかも、天然植物由来の成分に
ゴキブリ忌避効果を示すものが多いことから、植物由来成分を基に安全で効果
の高い種々の薬剤が提唱されている。例えば、特許文献1には、マツ科植物の
精油成分あるいはそのヘキサン抽出物を主成分とするゴキブリ忌避剤が、特許
文献2にはヒノキ針葉から抽出した精油あるいはその精油より分離した成分を
主成分とするゴキブリ忌避剤が開示されている。
【0012】
【特許文献1】特開平5−213710号
【特許文献2】特開平8−048607号
【0013】
この他にも、スギ針葉からの抽出成分や、多くの樹木に含まれるフェンチル
アルコールなどが公知である。
これらの薬剤は、いずれも忌避を必要とする部材に対して塗布、吹き付け、
浸漬、注入、散布、あるいは噴霧して施用することを提唱している。またこの
方法は、ゴキブリを殺すのではないことから、生息場所以外の場所に死骸が残
ることは少ないので、局所的ではあるが、衛生的な方法である。なお、これら
の薬剤は、ゴキブリの種類(例えば、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ヤマ
トゴキブリ、ワモンゴキブリ)によらず同様の効果があることが示されている

【0014】
以上のように、従来ゴキブリの駆除は、薬剤あるいは粘着シートのようなそ
れに類するような材料を用いて行われるのが普通であり、設備機器や機器部材
あるいはその構成材料そのものにゴキブリを殺虫したり忌避したりする機能を
付与しそれによって駆除することはなかった。
【0015】
最近は、種々の材料の中に、細菌類の繁殖を抑制する抗菌機能を付与した材
料が見受けられる。金属材料においても、前述したAgやCuだけでなく、特許文
献3にはステンレス鋼中にCuを含有させた抗菌ステンレス鋼が、特許文献4に
は同じくステンレス鋼中にAgを含有させた抗菌ステンレス鋼が提案されている

【0016】
【特許文献3】特開平08−060302号
【特許文献4】特開平11−264057号
【0017】
また、特許文献5、6に示したように、多孔質セラミックスを分散めっきで
めっき層の表面に付着せしめそこに無機系や有機系の抗菌剤を担持させること
で、いかなる金属にも抗菌性を付与できることが開示されている
【0018】
【特許文献3】特開平6−010191号
【特許文献4】特開平7−228999号
【0019】
しかし、これらの抗菌性を有する金属材料は、前述したAgやCuと同様、細菌
やバクテリアに対する抗菌機能は相応に認められるものの、細菌などに比べる
と大型であるゴキブリに対しては忌避効果や殺虫効果は認められない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、薬剤を保持する構造や噴霧するような構造を形成することなく、
材料そのものでゴキブリ忌避性を有する金属材料を提供することにある。また
、機器の筐体や構造物を構成する際、薬剤を保持するような構造面で特別な配
慮をすることなく、ゴキブリを忌避する環境を作り得る金属材料を提供するこ
とである。
【0021】
一般に金属材料は、他の物質を金属表面だけで保持することはほとんど不可
能である。もちろん、その物質あるいは同じ機能を有する物質が金属あるいは
金属表面に必然的に存在する酸化物と反応したり結合することで、表面に付着
せしめることは可能性として否定はできないが、付与しようとする機能を有す
る物質が金属ないし金属酸化物と反応できる可能性は極めて小さく、例え、反
応が可能であったとしても反応の結果特性が変化して所望の機能を発揮できな
くなる可能性は高い。結果として、反応によって機能性物質を金属表面に付与
したり付着せしめることは極めて希でしかない。
【0022】
構造面で、薬剤の受け皿のような構造を取れば、ゴキブリ忌避性を有する薬
剤をそこにためることで所期の効果が期待できるが、かしめ内部のようなゴキ
ブリの生息しやすい狭い場所では不可能である。厨房機器や電気機器、通信機
器では必ずしも不可能とはいえないが、それだけ機器が大きくならざるを得な
いし、構造面での自由度はなくなりデザイン面でも制限を受けるなど、解決す
べき課題は多い。
【課題を解決するための手段】
【0023】
ゴキブリを忌避する金属材料のために特殊な金属種を選択することは、ゴキ
ブリ忌避性を重視するあまり構造材料としての側面を軽視することになるか、
あるいは機能の低いゴキブリ忌避性に甘んずることになると予想されることか
ら、この考えは適切ではないと判断した。そこで、既存の金属材料と最適なゴ
キブリ忌避性を有する薬剤等との複合化を指向した。
ゴキブリ忌避性を有する薬剤等は、揮発性の液体であることが多い。前述し
たとおり液体の物質を金属表面に長期間にわたって保持することは不可能であ
る。また、表面の金属ないし不可避的に表面に存在する酸化物と化学反応によ
って結合させることは、全く不可能とはいえないものの、どんな薬剤あるいは
金属でも可能であるとはいえない。
【0024】
そこで本発明者らは、金属中に液状物質を保持可能な多孔質粒子を分散配置
し、その粒子の孔内に液状の薬剤を担持させることを想起した。液状物質の付
着あるいは吸着は、当然のことながら、金属表面にも起こる。しかし、金属の
表面の面積はマクロ面積と大差がなく、吸着面積としては少ない上に表面の摩
耗によって脱落する可能性が高い。従って、液状物質を長時間保持できないこ
とが予想される。しかし、金属中に分散配置した多孔質微粒子に吸着させるこ
とによって、多量の物質を保持させると同時に、摩耗などによる脱落の懸念が
大きく減少し、長期間の保持が可能となる。
【0025】
多孔質粒子を金属表面に配置する方法は、特に限定するものではないが、そ
の方法の一つとして金属めっきを行う際にめっき液中に多孔質粒子を分散させ
めっき被膜中に取込付着させる分散めっきが挙げられる。通常のめっきでも、
わずかにめっき液中に混入した微細な粒状不純物がめっき金属被膜中に埋め込
んだ状態で付着することがあり、一般にはこのような現象はめっき欠陥として
忌避されてきた。本発明の具現化方法の一つは、従来忌避されてきたこの現象
を積極的に活用することである。
【0026】
請求項1の発明によれば、基材金属の表面にめっき金属をめっきした金属材
料であって、最大径が50μm以下の無機材料からなる多孔質微細粒子が、めっき
金属の表面に対して面積率で1%以上30%以下でめっき金属に分散されており、
多孔質微細粒子の孔内にゴキブリ忌避性を有する薬剤あるいは精油を担持せし
めたことを特徴とする、ゴキブリ忌避性を有する金属材料が提供される。
好ましくは、前記薬剤あるいは精油が、植物抽出成分または主成分として植
物由来の成分と同じ化学式で示される成分を含む薬剤あるいは精油である(請
求項2)。
また、前記金属材料を用いて成形した箱状の構造物あるいは筐体において、
ゴキブリ忌避性薬剤を担持した面を内面側に配置した箱状の構造物あるいは筐
体が提供される(請求項3)。更に、前記金属材料を用いて曲げ加工で成形す
る構造物おいて、ゴキブリ忌避性薬剤を担持した面を内面側にして曲げ加工を
行った構造物が提供される(請求項4)。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、液状物質であるゴキブリ忌避性薬剤を多孔質微細粒子に担
持させ、該多孔質微細粒子をめっき金属に分散させることとしたので、基材金
属に安定してゴキブリ忌避性薬剤を保持することが可能となり、また、多孔質
微細粒子が、めっき金属の表面に対して面積率で1%以上30%以下でめっき金属
に分散されているので、質感等金属の本来の性質を保持しつつゴキブリ忌避性
を有効に発揮する金属材料が提供されることとなる。更に、前記多孔質微細粒
子の最大径が50μm以下であるので、曲げ等金属材料を加工した場合に、めっ
きに亀裂を発生したり、多孔質微細粒子が脱落することが無く、金属の有する
加工性を保持する金属材料が提供されることとなる。
また、ゴキブリ忌避性薬剤が、無機質材料である多孔質微細粒子に担持され
るので、該粒子と反応することがなく、従来から公知の薬剤や精油がそのまま
利用可能であると言う効果も有する。
このようにして、本発明により、金属表面にゴキブリ忌避性薬剤を保持せし
めることが可能となった。金属材料の表面ににゴキブリ忌避機能を付与できる
ことから、構造物の外部から噴霧などによってゴキブリ忌避機能を付与する場
合に比べて、構造物の隅々までかつ均一にその機能を発揮せしめることが可能
である。例えば、ゴキブリの生息しやすい隙間部分やかしめの内側部分などは
、ゴキブリ忌避剤を噴霧したり塗布することは困難である。ところが、本発明
によるゴキブリ忌避性を付与した金属材料を使用した場合、隙間の内部もかし
めの内側部分もゴキブリ忌避性を発揮することになる。
【0028】
本発明の金属材料は、殺虫効果を示すものではなく忌避効果を示すものであ
ることから、ゴキブリが本発明による金属材料を使用した機器や構造物の内部
で死んで死骸が残留するような不衛生なことも起こりにくい。本発明材料の内
、ゴキブリ忌避性の薬剤に植物由来の成分を利用した材料では、安全性の問題
も少なく、厨房や食品展示用ケースなどの食品に関連する機器や構造物への使
用も可能である。また本発明による金属材料は、殺虫剤散布や噴霧の場合に懸
念されるアレルギー症状の発症や服毒の危険も極めて少ない材料である。
【0029】
本発明のゴキブリ忌避性を有する金属材料は、例えば分散めっきの様な金属
の被覆処理が必要ではあるが、鋼をはじめいかなる金属材料にも適用可能であ
ることから、構造物の成型加工において従来の技術や方法を何ら変える必要が
ない。むしろ、加工に当たっては、ゴキブリ忌避性の有無を意識する必要がな
い利点がある。
以上示したとおり、本発明により衛生面でのより厳しい注意が必要な食品産
業や外食産業への効果は大きい。さらに、安全で衛生的な生活の確保が容易に
なることから、国民の快適な生活向上への効果も大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明者らは、液状のゴキブリ忌避性を有する薬剤等を担持可能な多孔質粒
子を金属表面に多数配置する手段として、その粒子を分散保持する金属被膜の
被覆を想起した。もちろん皮膜ではなく金属全体に分散している場合でも同じ
効果を期待できるが、内部に埋まっている粒子は本発明の薬剤等の担持には効
果がなく無駄となることから、表面層にのみ分散配置することとした。この考
えに基づき、ゴキブリ忌避性を有する薬剤あるいは精油を担持せしめた多孔質
微細粒子をめっき金属に分散させることとした。
【0031】
多孔質微細粒子は、めっき金属や基材の金属との間で異種金属接触腐食を起
こす懸念はのぞく必要があることから、非電導性の無機材料からなる多孔質セ
ラミックスとした。該無機材料は、自然鉱物であってもよく、人工合成鉱物で
あっても良い。ゴキブリ忌避性を示す薬剤等を多量に担持しやすいミクロ表面
積の大きいものであれば、その種類や構造は問わないが、例えば、ゼオライト
に代表される天然または人工合成の複合酸化物や、シリカゲル、カオリナイト
、マグネシア、アルミナ、チタニア、ジルコニア、炭化珪素、活性炭などが、
またシリカ−アルミナに代表されるようなこれらの複合体が挙げられる。
【0032】
多孔質微細粒子のサイズは、表面の露出面積で径が50μmを超えると、金属を
曲げたり塑性加工を実施した際、そこを基点として亀裂を発生したり剥離を起
こす懸念が生ずる上に、わずかな加工によって脱落して効果がなくなることか
ら、上限とした。サイズのきわめて小さい微粒子の場合、被覆金属に覆われや
すい欠点はあるものの、薬剤等の担持には何ら悪影響がないことから、そのサ
イズの下限は特に限定されないが、好ましくは、100nm以上である。あまり小さ
いと、めっき金属に覆われやすくなってしまい、めっき金属表面に露出しない
こととなったり、あまりに小さい故めっき金属内で凝集してしまい、分散配置
されず、機能を発揮してしなくなってしまう可能性があるためである。
【0033】
めっき金属の表面に露出する多孔質微細粒子の面積率(めっき金属の表面に
対する多孔質微細粒子の面積の比率)は、安定して機能を発揮するためには極
めて重要な品質指標である。そのレベルは、ゴキブリ忌避性を示す薬剤等の種
類や材料の使用場所などで下限が異なるものであるが、少なくとも露出部分の
面積率で1%以上でないと担持した効果が現れない。担持する薬剤等によるゴ
キブリ忌避性の発揮は、露出する多孔質微細粒子の面積率が大きければ大きい
ほど、効果が大きくなると推測されるが、30%を超えると、金属めっき被膜が
金属としての特徴である加工性を劣化せしめるだけでなく、金属としての質感
を阻害することから、30%を上限とした。
【0034】
多孔質微細粒子を分散保持する金属めっき被膜は、本発明では何ら限定され
るものではないが、一般的に広く利用されているNi、Cr、Cu、Zn、Sn、Pbの単
一金属のめっきないしこれらの内1種または1種以上を主成分とする合金めっ
きが例示される。また、Cu-Sn合金の中でBiやAgを適量含むPbフリーはんだ合金
めっきでも本発明の効果が認められる。
【0035】
めっき層の厚さは、多孔質微細粒子を担持できる厚さであればよいことから
、分散させたい多孔質微細粒子の最大サイズ以上の厚さがあれば問題がない。
もちろん多孔質微細粒子の最大サイズ以下の厚さでも多孔質粒子の保持は可能
で本発明の効果は認められるが、大きな多孔質微細粒子が脱落しやすい欠点が
残る。
【0036】
ゴキブリ忌避性を有する薬剤等は、公知の薬剤のほとんどが適用可能である
。尚、後述のように、植物抽出成分または主成分として植物由来の成分と同じ
化学式で示される成分を含む薬剤あるいは精油であることが好ましい。
多孔質微粒子への担持の方法も、従来から実施されている公知の方法で実施
可能である。例えば、多孔質粒子を分散めっきした金属材料をゴキブリ忌避性
を有する液状の薬剤中に浸漬したり、その蒸気中に放置することで可能である
。また、分散めっきの前に粉末の状態で担持させることも、めっき後に金属め
っき面で担持させることも可能である。
【0037】
分散めっきあるいはゴキブリ忌避性を有する薬剤等の担持する部位は、その
用途や要求される効能のレベルに応じて自由に選択可能である。すなわち、金
属材料の全面を実施しても、あるいは局所的であっても問題はない。例えば電
気機器のような場合、ゴキブリが機器内部に生息し糞や死骸が残ることでショ
ートなどの事故や故障に至るので、好ましくはないが機器の外側にゴキブリが
徘徊することは必ずしも問題ではないことが多い。従って、そのような用途に
は機器の内部だけゴキブリ忌避性を付与した材料を使用することで目的が達成
できる。
【0038】
ところで、ゴキブリ忌避性を有する薬剤等は、その種類によっては一部の人
間や小動物にアレルギー症状などの影響を及ぼす危険性が生ずる。人間や小動
物との接触がほとんどなく、隔離されているような機器の場合、担持させるゴ
キブリ忌避性を示す薬剤を自由に幅広く選択できる。しかし、本発明材料では
その表面から常時揮発し存在することとなるので、できる限り人間や小動物は
もちろん周辺の機器類への影響が少ないことが望ましい。衛生面での注意が必
要な厨房機器や外食産業の用途や、家庭用機器向けの用途では、特に留意する
必要がある。
この点に鑑み、ゴキブリ忌避性を示す薬剤等に、太古の昔より存在し相応に
安全性の確認されている植物から抽出された薬剤や植物に由来する成分を主成
分とする薬剤等を利用することで、安全で交換の高い材料が提供される。すな
わち、多孔質微細粒子に担持させるゴキブリ忌避性を有する薬剤あるいは精油
が、植物抽出成分または主成分として植物由来の成分と同じ化学式で示される
成分を含む薬剤あるいは精油であることが好ましい。
【0039】
ゴキブリ忌避性を示す植物抽出成分としては、前述したマツ科植物の精油成
分、ヒノキ針葉から抽出した精油、スギ針葉からの抽出成分および多くの樹木
に含まれるフェンチルアルコールが公知であり、本発明に適用可能である。ま
た、植物由来の成分と同じ化学式で示される成分でゴキブリ忌避性を示す薬剤
または精油としては、Δカレン、ミルセン、αテルピネン等が公知であり、や
はり本発明への適用が可能である。本発明では、これらを単独ないし混合して
担持させ具現化したが、薬剤等はこれらに限るものではない。
また、ゴキブリ忌避性に直接効果が無くとも、例えば、香りを付ける要望が
有れば、その香りを発する薬剤や精油等を合わせて担持させることは何ら問題
ない。
【0040】
本発明のゴキブリ忌避性を有する金属材料は、表面に担持したゴキブリ忌避
性を有する薬剤の揮発によって効果を示す。従って、本発明の金属材料を通風
の良い部位に使用することは最適ではない。むしろ通風が悪く、空気がよどむ
部分に適用することで、揮発したゴキブリ忌避性を有する薬剤が濃化残存する
こととなり、効果が大きく現れる。すなわち、上述の金属材料を用いて成形し
た箱状の構造物あるいは筐体において、ゴキブリ忌避性薬剤を担持した面を内
面側に配置した箱状の構造物あるいは筐体が好ましく、また、上述の金属材料
を用いて曲げ加工で成形する構造物おいて、ゴキブリ忌避性薬剤を担持した面
を内面側にして曲げ加工を行った構造物が好ましい。
電気機器や通信機器のような場合、機器内にゴキブリが生息して種々の故障
の原因となる。従って、機器内部へのゴキブリ侵入を防止する必要があり、機
器の内部を主体にゴキブリ忌避性を付与することが望ましい。このような用途
には、本発明の金属材料を用い、薬剤を担持させた面を機器の内面側にして箱
状の構造物や筐体を成形すれば、通風の良くない筐体の内部に揮発した薬剤が
残存濃化して、ゴキブリ忌避性を一層効果的に発揮することができる。
ゴキブリは、隙間部分などの狭い部分に生息することが多い。従って、ゴキ
ブリの駆除には、かしめ部分のように曲げ加工によって成形した閉塞的な部位
にゴキブリが侵入しないよう注意予防することが望ましい。このような用途に
は、本発明の金属材料を用い、薬剤を担持させた面を機器の内面側にして曲げ
ることで、通風の良くないかしめ内部のような曲げ内面に揮発した薬剤が残存
濃化して、ゴキブリ忌避性を一層効果的に発揮することができる。
【実施例】
【0041】
実施例1〜6、比較例1〜4:
0.5mm厚さのステンレス鋼板に厚さ約5μmのNiめっきを施した。その際、めっ
き液中に公称で最頻値が5〜50μmのゼオライト微細粒子を分散させ、分散めっ
きした。分散面積は、ゼオライト微細粒子の量を制御することにより狙い値で
最大35%程度まで変えた。めっき後、約150℃にて加熱した後、表1に示した種
々のゴキブリ忌避機能を有する薬剤ないし精油を塗布することでゼオライトの
微細孔内にこれらの薬剤を吸着させた。塗布後表面をエタノールで洗浄し、表
面に残留した薬剤を払拭した。比較に用いた非分散のNiめっき鋼板(比較例1
)も同じ手順の作業を実施した。加工性は、めっき面を外側にしたt/2曲げを行
い、曲げ頂点の状況を肉眼および低倍率の光学顕微鏡で観察して評価した。
【0042】
ゴキブリ忌避性は、2室に分かれその間を2本の通路で連結したクロゴキブ
リの飼育室内で、通路の一方に試験材他方に比較材を置き、ゴキブリの通過の
有無の比率で評価した。比較材の置かれた通路を通過したゴキブリの数と試験
材の置かれた通路を通過したゴキブリの数の差をゴキブリの通過総数で除した
比率をゴキブリ忌避性とした。
【0043】
【数1】

【0044】
この評価方法では、ゴキブリ忌避性の値が+の場合は忌避性有りと評価され
、−の場合はむしろ誘引性ありと評価される。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜6より、ゴキブリ忌避性が優秀であるのに加えて、曲げ加工を行
っても良好な金属材料が得られることが分かった。
一方、比較例2より、多孔質微細粒子の最大径が50μmを越えると、加工性
が劣ることが分かった。また、比較例3より、多孔質微細粒子の、めっき金属
の表面に対する面積率が1%未満だと、忌避率が劣ることが分かり、30%超だ
と、加工性が劣ることが分かった。
【0047】
実施例8、比較例5:
実施例2および比較例1の金属材料を用い、曲げおよびビス留め加工によっ
て、各辺が約50mmの立方体の筐体を作成した。曲げ加工に当たっては、薬剤の
担持処理面を内側にしたものと外側にしたものの両方を作成した。ただし、立
方体の1面は金属材料ではなく透明塩ビを用いて観察できるようにした。塩ビ
面の対面と交わる面の内、1つの面の端部に約10mm×50mmのポスト状の穴をあ
けた。なお、素材である本発明による金属材料は、担持処理後1ヶ月間大気中
の室内に放置し、その後加工に供した。
この筐体の内部に、ゴキブリの餌を置き、クロゴキブリの生息する飼育箱の
中に設置し、約1時間観察した。その結果、比較例1の金属を使用した筐体には
すぐにゴキブリが侵入したが、実施例2の金属で薬剤担持面を内側にして曲げ
加工した筐体にはゴキブリは侵入せず、ゴキブリ忌避性が確認できた。実施例
2の金属で薬剤担持面を外側にして曲げ加工した筐体にははじめはゴキブリが
近寄らず侵入もしなかったが、時間の経過とともに侵入するゴキブリが出現し
はじめ、筐体内部はゴキブリ忌避性がないか不十分であることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材金属の表面にめっき金属をめっきした金属材料であって、
最大径が50μm以下の無機材料からなる多孔質微細粒子が、めっき金属の表面
に対して面積率で1%以上30%以下でめっき金属に分散されており、多孔質微細
粒子の孔内にゴキブリ忌避性を有する薬剤あるいは精油を担持せしめたことを
特徴とする、ゴキブリ忌避性を有する金属材料。
【請求項2】
前記薬剤あるいは精油が、植物抽出成分または主成分として植物由来の成分
と同じ化学式で示される成分を含む薬剤あるいは精油である、請求項1記載の
ゴキブリ忌避性を有する金属材料。
【請求項3】
請求項1または2記載の金属材料を用いて成形した箱状の構造物あるいは筐
体において、ゴキブリ忌避性薬剤を担持した面を内面側に配置した箱状の構造
物あるいは筐体。
【請求項4】
請求項1または2記載の金属材料を用いて曲げ加工で成形する構造物おいて
、ゴキブリ忌避性薬剤を担持した面を内面側にして曲げ加工を行った構造物。


【公開番号】特開2007−153780(P2007−153780A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349203(P2005−349203)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(591186718)高砂鐵工株式会社 (12)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】