説明

ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線

【課題】 生産性を損なわず、また、伸線加工性を劣化させることなく、Co塩を配合しないゴムとの接着性に優れ、かつ時間が経過しても接着強度の劣化が少ない、ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線を提供する。
【解決手段】 極細鋼線の表面に複層めっきを設けた極細めっき鋼線であって、線径が0.1〜0.4mmであり、前記複層めっきは、前記鋼線の表面に設けた平均厚さ20〜500nmの被覆Cuめっきと、最表層に設けた平均厚さ10〜50nmの接着Cuめっきと、前記被覆Cuめっきと前記接着Cuめっきとの間に設けた拡散防止層とからなるゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。拡散防止層は、平均厚さ2〜25nmのNiめっき、Coめっき、Crめっきのいずれか1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードなど、タイヤを始めとする各種ゴム製品の補強材に使用される、表面にめっき処理が施された極細鋼線であって、ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム補強材、例えば、タイヤの補強材として使用されているスチールコードの表面には、ブラスめっきが形成されている。このスチールコードを、未硫化ゴムに埋め込み、加硫することにより、スチールコードとゴムとを接着させる。なお、加硫は、ゴム製品を製造する際の最終工程であり、150〜200℃に20〜40分加圧、加熱する工程である。加硫によって、ゴムの架橋とともにスチールコードのブラスめっきとゴムとの界面に接着層が生成する。この接着層は、ブラスめっきのCu及びZnとゴムに含まれるS(硫黄)との反応によって形成された硫化物である。
【0003】
このように、スチールコードとゴムとは、加硫時に生成する硫化物によって接着される。そのため、ゴム中には、硫化物の生成を促進する触媒としてCoを含む有機コバルト塩が配合されることがある。Coは、スチールコードとゴムとの初期の接着強度を確保するためには有用である。しかし、タイヤなどを高温、高湿環境で使用すると、ブラスめっきのCu及びZnとゴムに含まれるSとの反応が進行する。その結果、接着層が厚くなり、硫化物の組成が変化し、スチールコードとゴムとの接着強度が低下する。
【0004】
さらに、有機コバルト塩は、ゴム分子の二重結合を切断し、ゴムを劣化させるという問題がある。また、CuとSとの加硫反応の触媒として作用するCoは希少金属であり、ゴムにCoを含有させると、コストが非常に高くなる。そのため、タイヤなどのゴムから有機コバルト塩を削減することが望まれている。
【0005】
このような問題に対して、CoやNiを含むブラスめっきを設けたスチールコードが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、ブラスめっき中にNiやCoを含む場合、めっき層が硬くなり伸線加工性が悪化するという問題が生じる。また、ブラスめっきの表層のみにCoやNiを含有させる方法は、製造工程が複雑であり、コストの上昇が懸念される。
【0006】
さらに、ブラスめっきにCoやNiを含有させることなく、接着性及び伸線加工性を両立させる方法として、めっきの組成やめっき厚を最適化する技術が提案されている(例えば、特許文献4、5参照)。しかし、厚さを調整したCuとZnの多層めっきを行った後、拡散熱処理を施す方法では、ブラスめっきの組成の制御が難しい。また、めっきの工程が増えるため、コストも高くなる。一方、ブラスめっき線を伸線加工後にショトブラストを行い、めっき厚を薄くする方法では、めっき厚の均一性を確保することが難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−98632号公報
【特許文献2】特開2003−94108号公報
【特許文献3】特開2002−13085号公報
【特許文献4】特開2009−248102号公報
【特許文献5】特開平5−278147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼線の表面のめっきを薄くした場合、めっきを施す前の鋼線の表面は凹凸を有しているため、めっき後の鋼線の表面には、局所的に鉄が露出した部分(Fe露出部)が存在する。このFe露出部が大きくなると、ゴムとの接着が不十分になり、時間の経過により酸素と水分が浸透し、鉄錆が発生する。鉄錆が生じると体積膨張に起因して、接着強度が著しく低下する。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、生産性を損なわず、また、伸線加工性を劣化させることなく、Co塩を配合しないゴムとの接着性に優れ、かつ時間が経過しても接着強度の劣化が少ない、ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、極細鋼線の表面から順に、極細鋼線の凹凸を被覆して表面を平滑にする被覆Cuめっき(第1層)、伸線加工性を確保しつつ、第1層からのCuの拡散を防止する拡散防止層(第2層)、接着強度の経年劣化を抑制する、平均厚さが10〜50nmの接着Cuめっき(第3層)を有する、線径が0.1〜0.4mmの極細めっき鋼線であって、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1) 極細鋼線の表面に複層めっきを設けた極細めっき鋼線であって、線径が0.1〜0.4mmであり、前記複層めっきは、前記鋼線の表面に設けた平均厚さ20〜500nmの被覆Cuめっきと、最表層に設けた平均厚さ10〜50nmの接着Cuめっきと、前記被覆Cuめっきと前記接着Cuめっきとの間に設けた拡散防止層とからなることを特徴とするゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。
(2) 拡散防止層が、平均厚さ2〜25nmのNiめっき、Coめっき、Crめっきのいずれか1種であることを特徴とする上記(1)に記載のゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。
【発明の効果】
【0012】
本発明の極細めっき鋼線によれば、スチールコードなどの極細めっき鋼線とゴムとの接着強度が、加硫直後から良好であり、かつ、タイヤの使用時などの高温及び多湿の環境で時間が経過しても接着強度の劣化が小さく、優れたゴムとの接着性を確保することができる。さらに、ゴムに有機Co塩を含有させる必要がなく、めっきを合金化させる拡散処理も不要となり、伸線加工性も悪化しないため製造コストの削減が可能となり、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の鋼線のめっき層の断面の模式図で、(a)は横断面図、(b)は縦断面図である。
【図2】本発明のめっき線製造のプロセスの例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
タイヤを使用する際には、タイヤの発熱による温度の影響で、時間の経過とともに、スチールコードの表面に設けたブラスめっきに含まれるCuがゴム側へ拡散して接着層が厚くなる。また、接着層中のCuはゴム側に拡散し、Cu硫化物のCu硫化物の組成はCuSに近づくため、接着強度が低下する。接着強度は、Cu硫化物の組成に依存し、CuSに近いほど接着強度が高く、CuSに近い組成では接着強度は低下すると考えられている。
【0015】
本発明者らは、スチールコードのブラスめっきの厚みが、ゴムとの接着強度の経年劣化に及ぼす影響について検討を行った。まず、ブラスめっきが薄い場合は、スチールコードとゴムとの接着強度が高く、ゴムとの界面に生成する接着層は、厚みが薄く、また、組成がCuSに近いCu硫化物であることがわかった。一方、ブラスめっきが厚い場合は、接着強度が低く、接着層は厚く、組成はCuSに近いことがわかった。
【0016】
ブラスめっきの厚みによって、スチールコードとゴムとの界面に生成する接着層の厚み及び組成が変化するメカニズムについては、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。加硫時には、ブラスめっきとゴムとの界面で、ブラスめっき中のCuとゴム中のSが反応し、CuSが形成される。ブラスめっきが薄い場合は、めっきからのCuの供給が少ないためCuの拡散が抑制され、接着層が成長せず、組成も変化し難い。一方、ブラスめっきが厚い場合は、めっきからのCuの供給が多いためCuの拡散が促進され、接着層が成長し、また、接着層からゴムへのCuの拡散によって、組成がCuSに近くなる。
【0017】
ブラスめっきとゴムとの界面の接着層の厚さについては、ある一定の厚さ以上になると接着強度が飽和すると考えられる。したがって、ブラスめっきを薄くすることによって、接着強度の経年劣化が抑制される理由は、接着層の組成がCuSに近い状態で維持されるためであると考えられる。なお、Zn硫化物も接着強度を発現するものの、その接着強度はCu硫化物の50〜70%程度である。さらに、ブラスめっきでは、Cu濃度が低下し、Zn濃度が高くなるため、耐食性が低下し、酸化膨張によってめっきと接着層との接着強度も低下する。
【0018】
これらの結果に基づいて、本発明者らは、スチールコードなどの極細めっき鋼線とゴムとの接着強度の経年劣化を抑制する方法を検討した。まず、極細めっき鋼線とゴムとの接着強度を高めるためには、接着層の組成をCuSにする必要がある。そのため、ゴムと接触するめっきの組成は、Cu濃度が高いほど好ましい。また、通常、ブラスめっきは、Cuめっき及びZnめっきを行った後、拡散熱処理を施して形成される。しかし、Znは、接着強度の向上には寄与しないため、Znを含有する必要はなく、Cuめっきを行った後、そのまま、伸線加工を施すことが好ましい。
【0019】
次に、ゴムと接触するCuめっきは薄いほど好ましいが、単にめっきを薄くすると、極細鋼線の表面の凹凸に起因して生じる、局所的に鉄が露出した部分(Fe露出部)が大きくなり、接着強度が低下する。そのため、極細鋼線の表面には、凹凸を被覆できる程度の厚みを有し、表面が平滑な層を設けることが必要である。また、めっきが厚い場合は、めっきにも伸線加工性が要求されるため、軟質であるCuめっきが好ましい。
【0020】
したがって、極細鋼線の表面には、Cuめっきを設けることが好ましい。しかし、Cuめっきが薄いとFe露出部が大きくなって接着強度が低下し、厚いと接着層が成長して組成がCuSに近くなり、接着強度の経年劣化を防止することができない。そこで、本発明者らは、表面に複層めっきを設けた極細めっき鋼線について検討を行い、本発明を完成させた。
【0021】
即ち、図1(a)、(b)に示すように、本発明は、極細鋼線1の表面に、3層の複層めっきを設けた極細めっき鋼線である。極細鋼線1と接触する第1層は、極細鋼線の凹凸を被覆するために必要な厚みを有する、平均厚さが20〜500nmの被覆Cuめっき2である。次に、ゴムと接触する第3層は、極細めっき鋼線の最表層であって、接着強度の経年劣化を抑制するために薄くした、平均厚さが10〜50nmの接着Cuめっき3である。
【0022】
そして、第1層と第3層の間の第2層は、加硫時及び使用時に、第1層からのCuの拡散及び第3層からのSの拡散を防止する拡散防止層4である。第2層である拡散防止層は、電気めっきが可能であるCu以外の金属めっきであればよいが、Niめっき、Coめっき、Crめっきのいずれかが好ましい。さらに、Niめっき、Coめっき、Crめっきは硬質であり、伸線加工性を確保するために、平均厚さを2〜25nmとすることが好ましい。なお、本発明においては鋼線の成分は限定されるものではない。
【0023】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0024】
極細めっき鋼線の線径は、しなやかさを得るために、0.4mm以下とする。これは、線径が0.4mmを超えて太くなると、しなやかさが低下し、タイヤのゴム補強材に使用した場合に、自動車の乗り心地が低下するためである。また、線径が太くなると、伸線加工による加工強化が小さくなり、十分な補強効果が得られない。したがって、極細めっき鋼線の線径は0.4mmを上限とする。一方、線径を細くすると、製造工程が長くなり、最終製品の生産性も低下するために製造に時間とコストがかかる。このため、極細めっき鋼線の線径の下限を0.1mm以上とする。極細めっき鋼線の線径は、より好ましくは0.17〜0.34mmである。
【0025】
極細めっき鋼線の強度は、補強効果を得るため、3200MPa以上であること好ましい。鋼線の成分は必ずしも限定はされないが、強度を確保するため、C含有量を、0.6〜1.0質量%とすることが好ましい。また、極細鋼線の金属組織は、強度を確保するため、伸線加工されたパーライトであることが好ましい。
【0026】
極細鋼線の表面には、3層からなる複層めっきを設ける。第1層の被覆Cuめっきは、鋼線の地鉄とめっきの密着性を高め、鋼線の表面の凹凸を平滑化し、特に、凸部での局部的な鉄の露出を抑制し、粗大なFe露出部の生成を防止するもので、Cuめっきが最適である。第2層の拡散防止層は、第1層から第3層へのCuの拡散、第3層から第1層へのSの拡散を防止するものである。第3層の接着Cuめっきは、最表層であって、ゴムと接触し、加硫によってCu硫化物を形成するものである。
【0027】
第1層の被覆Cuめっきは、Fe露出部の生成を防止抑制し、粗大なFe露出部の生成をするため、平均厚さを20nm以上とする。一方、被覆Cuめっきは厚くなりすぎるとめっき密着性が低下することから、平均厚さの上限を500nm以下とする。
【0028】
第1層の被覆Cuめっきの外側には、拡散防止層(第2層)を有する。第2層は、第3層へのCuの拡散を抑制し、第3層から第1層へのSの拡散を防止するものである。特に、接着強度の経年劣化を抑制するためには、Cuの拡散を防止することが必要である。そのため、拡散防止層は、伸線加工による発熱でCuと反応し難く、合金層の形成が抑制されるものであることが好ましい。
【0029】
Cuとの合金化を抑制するためには、第2層である拡散防止層が、伸線加工時の発熱によって溶融しないことが好ましい。伸線時の加工発熱は、伸線速度、ダイス形状、潤滑性能により大きく異なるものの、500℃程度にまで達する可能性がある。そのため、拡散防止層は、融点が600℃以上の金属めっきであることが好ましい。拡散防止層の融点の上限については、特に限定はないが、融点が高すぎると伸線加工時に軟化せず、割れが発生する可能性が高くなるため、1000℃以下が好ましい。
【0030】
拡散防止層は、めっきの容易性、安定性、耐食性を考慮し、Niめっき、Coめっき、Crめっきが好ましい。これらは、融点以下の固相でのCu、Sの拡散係数が小さく、Cu、Sが拡散し難い。そのため、第1層から最表層へのCuの供給が抑制され、ゴムから第1層へのSの拡散を防止することができる。また、Ni、Co、Crの融点は600℃以上であるから、伸線加工のような短時間では、Niめっき、Coめっき又はCrめっきとCuとの合金化の反応が起きにくい。Niめっき、Coめっき、Crめっきは、硬質であり、めっき後の鋼線の伸線加工性を確保するためには、平均厚さを25nm以下にすることが好ましい。また、Cu、Sの拡散を防止するには、Niめっき、Coめっき、Crめっきの平均厚さを2nm以上にすることが好ましい。
【0031】
第2層の拡散防止層の外側には、ゴムと反応して接着層を生成する接着Cu層(第3層を有する。第3層は最表層であり、加硫によってCu硫化物からなる接着層を形成する接着Cuめっきである。接着Cuめっきは、使用中の接着層へのCuの供給を抑制して、接着強度の経年劣化を抑制ため、平均厚さを50nm以下とする。一方、加硫時に十分な厚さの接着層を形成するためには、接着Cuめっきの平均厚さを10nm以上にすることが必要である。
【0032】
なお、極細めっき鋼線の被覆Cuめっきの平均厚さ、接着めっきの平均厚さ、Niめっき、Coめっき、Crめっきの平均厚さは、めっきを溶解除去した前後の質量変化から計算して求める(めっき溶解法)。最表層の接着Cuめっき層の厚さは7%アンモニア水溶液に25g/lのトリクロロ酢酸を混合したアルカリ溶液に浸漬して溶解した質量から求める。被覆Cuめっき及び拡散防止層のCo、Ni、Crは、同時に電解処理によって溶解して求める。即ち、溶解した溶液をICP(誘導結合プラズマ発光分光分析)あるいは原子吸光分析により被覆Cuめっきと拡散防止層に含まれる元素の濃度を求め、各元素のめっき質量から、以下の式で各元素のめっきの平均厚さを求める。
【0033】
めっき厚t=w/(A×ρ)
W:金属種毎のめっき質量
A:鋼線表面積
t:平均めっき厚さ
ρ:めっき金属種の比重
【0034】
他にXPS(X線光電子分光分析)、AES(オージェ電子分光法)等の表面分析が可能な機器分析により、表面から元素のデプスプロファイルを測定しても推定可能である。ただし、機器分析では、鋼線の円周方向、長手方向での測定部位によって、めっき厚が変動するため、測定箇所が少ないと正確なめっき厚さを評価できない可能性がある。めっき溶解法によって平均めっき厚さを求めることが好ましい。
【0035】
本発明の極細めっき鋼線の被覆Cuめっき、拡散防止層、接着めっきの平均厚さは、伸線加工前の被覆Cuめっき、拡散防止層、接着めっきの平均厚さと、加工度によって制御することができる。また、線加工前の被覆Cuめっき、拡散防止層、接着めっきの平均厚さは、電気めっきの電流密度及び通線速度によって調整することができる。
【0036】
従来のブラスめっきでは、接着強度の経年劣化を抑制するために、Cu濃度を低くして、Cuの供給を抑制する必要があった。これに対して、本発明では最表面の薄いCuめっきのみがゴム中のSとの反応に関与し、拡散防止層によってCuの供給が抑制されるため、純Cuをめっきすることが可能である。ブラスめっきの場合、CuとSとの反応をZnが抑制するため、加硫時のCu硫化物の形成を促進する必要があり、ゴム中に触媒として有機コバルト塩を配合している。しかし、本発明では、加硫時にはCuとSとの反応を阻害する元素が存在しないので、ゴムにCo塩を添加しなくとも、短時間で、厚さが十分で、組成がCuSに近い接着層が形成され、接着強度を確保することができる。
【0037】
次に、本発明の極細めっき鋼線の製造工程の例について説明する。図2に示すように、まず、熱間圧延によって製造した線径が3〜5.5mmの鋼線5を、デスケーリング6して、これを線径1〜3mmまで伸線加工(乾式伸線)7して、コイルに巻き取る8。次に、コイルから繰り出した9線径1〜3mmの鋼線に、必要に応じてパテンティング熱処理10を行い、酸洗、脱脂等のめっき前処理11施して、極細鋼線の凹凸を被覆して表面を平滑にする被覆Cuめっき(第1層)12、第1層からのCuの拡散を防止する拡散防止層(第2層)としてNi、Co、Crのいずれかのめっき13、および接着強度の経年劣化を抑制する接着Cuめっき(第3層)14を順次湿式めっきにより施し、コイルに巻き取る15。次いで、コイルから繰り出して16極細めっき鋼線の線径が0.1〜0.4mmになるように伸線加工(湿式伸線)17を行う。極細めっき鋼線の引張強さは、伸線加工の加工度によって調整する。スチールコードとするには、極細めっき鋼線に撚り加工18を施して、スチールコードとして巻き取る18。
【0038】
めっき工程は、主に湿式めっきによって行う。線径1〜3mmの鋼線に熱処理を施し、伸線加工などの影響を除去し、酸洗、脱脂などの前処理を行い、その後、湿式で、被覆Cuめっきを行い、次に、拡散防止層を形成し、更に、接着Cuめっきを行う。拡散防止層は、Niめっき、Coめっき又はCrめっきの1種であることが好ましい。湿式Cuめっきは安全性とめっき密着性を確保するために、ピロリン酸銅めっきにより実施することが好ましい。伸線加工前の被覆Cuめっき、拡散防止層、接着めっきの平均厚さは、電気めっきの電流密度及び通線速度によって調整することができる。
【0039】
めっき密着性を確保するためには、伸線加工前の被覆Cuめっきの平均厚さを100nm以上にすることが必要である。また、湿式伸線加工でのめっき剥離を防止するには、伸線加工前の被覆Cuめっきの平均厚さの上限を1μm以下とすることが必要である。
【0040】
拡散防止層がNiめっき、Coめっき、Crめっきのいずれかである場合、極細めっき鋼線とゴムとの接着強度の経年劣化を防止するため、伸線加工前のNiめっき、Coめっき又はCrめっきの平均厚さを10nm以上とすることが好ましい。一方、Niめっき、Coめっき、Crめっきは、いずれも硬質であり、伸線加工性を確保するため、薄くすることが好ましい。伸線加工前のNiめっき、Coめっき又はCrめっきの平均厚さの好ましい上限は、50nm以下である。なお、第1層の被覆Cu層の表面は平滑であるため、第2層を薄くしても、不めっき部など、欠陥の生成は抑制される。
【0041】
また、加硫時に、十分な厚さの接着層を形成するためには、伸線加工前の接着Cuめっきの平均厚さを50nm以上とすることが必要である。一方、ゴム補強材の最表層の接着Cuめっきが厚いと、接着強度の経年劣化を抑制することができないため、伸線加工前の接着Cuめっきの平均厚さの上限を100nmとする。なお、本発明では、第1層の表面が平滑であり、第2層を形成した後も平滑性が維持されるため、第3層を薄くしても 不めっき部など、欠陥の生成は抑制される。
【0042】
本発明の極細めっき鋼線をタイヤに適用する場合は、タイヤの走行性能にあわせて適宜複数本撚り合わせ、ゴムとカーボンブラック、硫黄、酸化亜鉛、その他各種添加剤を配合した原材料を練ったシート状ゴムに挟み込まれ、補強ベルト構造とする。その後、タイヤ構成部材を貼り合わせてグリーンタイヤとしたものを加硫機にセットし、プレス、加熱し、ゴムの強度を発現するための架橋と同時にゴムと極細めっき鋼線との接着を行う。
【実施例1】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例に記載の内容により本発明の内容は制限されない。
【0044】
表1に示す成分を有する鋼材を熱間圧延し、線径が5.5mmの熱間圧延線材を製造した。得られた熱間圧延線材を酸洗し、スケールを除去した後、石灰処理を行い、ステアリン酸Naを主体とした乾式潤滑剤を用いて1.0〜3.0mmまで伸線加工した。この伸線材を950℃に加熱して75s保持し、金属組織をオーステナイトにした後、570℃の鉛浴に20s浸漬するパテンティング処理を行った。
【0045】
【表1】

【0046】
パテンティング処理を行った鋼線に、連続して、硫酸による電解酸洗とアルカリ溶液による電解脱脂を施し、ピロリン酸銅めっき、Co、Ni、Crのいずれかのめっき、続いてピロリン酸銅めっきを行い、巻き取った。巻き取り後、試料を採取し、マイクロメーターを用いて、めっき線径を測定した。
【0047】
さらに、めっき後の鋼線に拡散熱処理を施すことなく、そのまま湿式潤滑剤を用いた湿式伸線により線径が0.1〜0.4mmになるように伸線加工を行い、極細めっき鋼線を製造した。比較のために、Cuめっき及びZnめっきと拡散熱処理によって、平均厚さが230nmであり、Cu濃度が63%であるブラスめっき設けた極細めっき鋼線を製造した。伸線加工性は、ダイス寿命断線発生率によって評価し、ブラスめっき鋼線を100とし、これに対する指数を極細めっき鋼線の伸線加工性として評価した。
【0048】
極細めっき鋼線から試料を採取し、レーザー式非接触線径測定装置によって極細めっき鋼線の線径を測定した。また、接着Cuめっきの平均厚さは7%アンモニア水溶液に25g/lのトリクロロ酢酸を混合したアルカリ溶液に浸漬して溶解した質量から求めた。被覆Cuめっき、拡散防止層は電解液中でめっきを溶解し、溶解前後の質量変化とめっき液をICPで元素分析を行い、Cu、Ni、Co、Crの濃度から計算して求めた。表2に、伸線加工前のめっき線径、伸線加工後の極細めっき鋼線の線径、拡散防止層の種類、被覆Cuめっき、拡散防止層、接着Cuめっきの平均厚さを示す。
【0049】
【表2】

【0050】
次に、極細めっき鋼線の引張試験を行い、引張強さを測定し、従来のブラスめっき鋼線の引張強さを100とした指数で評価した。極細めっき鋼線4本を、5mmのピッチで撚り合わせてコードとし、金型にセットして、表3に示すゴム組成物に埋め込み、160℃で、30分加熱するホットプレスにより加硫処理を行い、接着性評価用試料を製造した。この試料を用いて、初期の接着強度(初期接着強度)及び接着強度の経時による劣化(経年劣化)を評価した。初期接着強度は、引張試験装置でコードをゴムから引き抜いた時の引抜力を測定し、最大引抜力で評価した。また、接着強度の経年劣化は、試料を80℃の水に3日浸漬した後、初期接着強度と同様にして、コードをゴムから引き抜いた時の最大引抜力として評価した。なお、初期接着強度及び経年劣化は、比較のために製造したブラスめっき鋼線の初期接着強を100とし、これに対する指数で評価した。
【0051】
【表3】

【0052】
表4に、ゴム組成物のCo塩の有無(ゴム種類)、極細めっき鋼線とゴムとの初期接着強度及び経年劣化の評価結果、伸線加工性の評価結果、極細めっき鋼線の引張強さ(極細鋼線の強度)を示す。本発明の極細めっき鋼線は、ナフテン酸コバルト塩を配合しない条件でも十分な初期接着強度が確保され、かつ経年劣化がブラスめっきに比べて小さいことがわかる。
【0053】
【表4】

【0054】
一方、従来のブラスめっきは、試験No.18のナフテン酸コバルトを配合したゴム組成(Co塩あり)の場合は加硫直後の初期接着性は高いものの、劣化処理後の接着性(経年劣化)は低下した。また、従来のブラスめっきは、試験No.17のナフテン酸コバルトの配合がないゴム組成(Co塩なし)では接着反応性が低下し、初期接着強度が低下している。なお、経年劣化も不十分ではあるものの、試験No.18に比べると、若干、良好である。
【0055】
試験No.8は、拡散防止層であるCoめっきが薄く、被覆CuめっきからのCuの拡散の抑制が不十分であり、経年劣化が生じた例である。一方、試験No.9は、拡散防止層であるNiめっきの厚さが厚く、伸線加工性が低下した例である。また、試験No.10は、拡散防止層を錫めっきとした例であり、伸線加工の際に合金化反応が進行して、一部がブロンズめっきとなり、経年劣化が生じた例である。
【0056】
試験No.11は、被覆Cuめっき厚が薄いため、伸線加工性が低下し、Fe露出部が大きくなった例である。一方、試験No.12は、被覆Cuめっきが厚いため、めっき密着性が低下し、伸線加工性が悪化し、めっきが剥離した例である。これらは、初期接着強度及び経年劣化も低下している。
【0057】
試験No.13は、最表層の接着Cuめっき層が薄く、初期接着強度が低下した例である。一方、試験No.14は、最表層の接着Cuめっきが厚く、経年劣化が発生した例である。試験No.15は、極細鋼線の線径が細いため、強度が上昇し、伸線加工性が低下した例である。試験No.16は、極細鋼線の線径が太く、強度が低下した例である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の極細めっき鋼線は、ゴムと補強材が強固に接着され、時間が経過してもその接着強度の低下が著しく小さいため、ゴム製品の強度を高く維持可能である。したがって、タイヤコード及びビードワイヤだけでなく、ゴムホースやベルトの補強材として使用することが可能であり、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0059】
1鋼線(地鉄)
2被覆Cuめっき
3接着Cuめっき
4拡散防止層(Ni、Co、Crめっき)
5線材
6デスケーリング
7乾式伸線
8巻き取り
9繰り出し
10パテンティング
11めっき前処理
12Cuめっき(第1層)
13Ni、Co、Crめっき(第2層)
14Cuめっき(第3層)
15巻き取り
16繰り出し
17湿式伸線
18撚り加工
19スチールコード巻き取り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細鋼線の表面に複層めっきを設けた極細めっき鋼線であって、線径が0.1〜0.4mmであり、前記複層めっきは、前記鋼線の表面に設けた平均厚さ20〜500nmの被覆Cuめっきと、最表層に設けた平均厚さ10〜50nmの接着Cuめっきと、前記被覆Cuめっきと前記接着Cuめっきとの間に設けた拡散防止層とからなることを特徴とするゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。
【請求項2】
拡散防止層が、平均厚さ2〜25nmのNiめっき、Coめっき、Crめっきのいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載のゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219836(P2011−219836A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92423(P2010−92423)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】