ゴム材料の変形挙動予測装置及びゴム材料の変形挙動予測方法
【課題】ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造有するゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析できるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法を提供する。
【解決手段】ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料をFIB−SEM装置11により表面観測して複数のスライス画像を取得し、該取得された各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換し、該2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成し、生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与し、該構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析し、該解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定することによりゴム材料の変形挙動を予測する。
【解決手段】ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料をFIB−SEM装置11により表面観測して複数のスライス画像を取得し、該取得された各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換し、該2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成し、生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与し、該構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析し、該解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定することによりゴム材料の変形挙動を予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムとカーボンブラックやシリカ等の充填剤とを配合したゴム材料の変形挙動予測装置及びゴム材料の変形挙動予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴムにカーボンブラック、シリカ等の充填剤を配合すると補強効果があることが知られており、ゴムに充填剤を配合したゴム材料がタイヤ、コンベア等のゴム製品に広く用いられている。
このようなゴム材料では、力が加わった際の変形挙動等を実験によって測定し、測定結果を評価して充填剤の配合量の設計が行われている。
【0003】
一方、最近では、有限要素法(FEM)等の数値解析手法や計算機環境の発達により、ゴム材料の充填剤領域及びゴム領域の3次元モデルを作成して変形挙動等を解析する方法が各種提案されている。
例えば、ゴム材料の充填剤領域を剛体球を見立てた3次元モデルを作成し、ゴム材料を伸張した際に発生する応力と歪みを有限要素法により解析することが記載されており、解析結果は、ゴム材料に配合された充填剤の体積効果による弾性率の増加を示すグース(GUTH)の式、並びに実験結果と一致することが見い出されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、ゴム材料の充填剤領域の形状を球からロッド状に替えた3次元モデルを作成し、有限要素法による解析を行うことが記載されており、これにより充填剤のまわりのミクロレベルでの歪み及び応力分布を解析することが可能となっている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
ところで、実際のゴム材料内の充填剤の構造は、複数の充填剤が連なった複雑なネットワーク構造を形成していることが知られており、ゴム材料の充填剤領域を球やロッド状と見立てた単純な3次元モデルでは、実際のゴム材料内のゴム領域及び充填剤領域の変形挙動をミクロレベルで精密に解析することができないものである。
【0006】
このため、例えば、CTスキャナ(コンピュータ・トモグラフィ・スキャナ)によってゴム材料を所定間隔でスライスしたスライス画像を取得し、スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて各スライス画像に含まれるゴム部分や充填剤部分を判別し、各スライス画像をスライス位置の順序に積層して各スライス画像を構成する各画素をそれぞれ格子領域とする3次元モデルを作成し、当該3次元モデルを用いてゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析することが考えられている。
しかしながら、このような3次元モデルを用いて解析を行った場合、ゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析できるものの3次元モデルの格子領域数が膨大な数となるため、解析に時間がかかる、という問題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、ゴム材料の変形挙動を精密に解析できると共に、解析時間を短縮することができるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法として、実際のゴム材料の充填剤の配置を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、得られたデータを計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元基本モデルに再構成し、有限要素法(FEM)によりゴム材料の変形挙動を予測する技術を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の透過型電子顕微鏡(TEM)と、計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元基本モデルを用いたゴム材料の変形挙動を予測する技術は、今までにない技術として優れたものであるが、透過型電子顕微鏡(TEM)では、−60度から+60度の範囲等で所定角度(例えば、2度間隔)ずつ相対的に回転移動させつつスキャンすることによりゴム材料の連続傾斜画像を撮影するものであり、図16に示すように、ゴム材料の厚さとして、数百nm程度が限界であり、一般的なゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造を精度よく表すことが困難であり、また、一次粒径が数百nmの充填剤の配置なども精度よく表すことができない点に若干の課題がある。
【非特許文献1】深堀美英、「設計のための高分子の力学」、技報堂、2000、P188、P340など。
【非特許文献2】J.Busfield and Alan Muhr、「Consilitutive Models for Rubber III」、Balkema、2003、P301など。
【特許文献1】特開2006−200937号公報(特許請求の範囲、第1の実施形態等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造有するゴム材料の変形挙動を精密に解析できると共に、解析時間を更に短縮することができるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題等について鋭意検討した結果、従来における透過型電子顕微鏡(TEM)と、計算機トモグラフィー法(CT法)による3次元基本モデルの構成を他の特定の手段により行うことにより、上記目的のゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(5)に存する。
(1) ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得する取得手段と、
該取得手段により取得された各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換する変換手段と、
該変換手段により変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段と、
該3次元モデル生成手段により生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与する付与手段と、
該付与手段により構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析する解析手段と、
該解析手段による解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定し、提示する提示手段とを備えたことを特徴とするゴム材料の変形挙動予測装置。
(2) エッチング処理が0.1〜100nmであることを特徴とする上記(1)記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
(3) 充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを用いた場合のエッチング処理が0.1〜30nmであることを特徴とする上記(2)記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
(4) 前記3次元モデルの変形挙動を、前記構成条件が付与された有限要素法を用いて解析することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
(5) ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得し、
該取得した各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換し、
該変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成し、
該生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与し、
前記構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析し、
該解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定して、ゴム材料の変形挙動を予測することを特徴とするゴム材料の変形挙動予測方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造を有するゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析できると共に、解析時間を更に短縮することができ、また、歪みによる物性変化も予測でき、これによりゴム材料の破断強度等の物性制御が可能となるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のゴム材料変形挙動予測装置の一例となるゴム材料変形挙動予測システムの構成図を示すものである。
このゴム材料変形挙動予測システム10は、集束イオンビーム(FIB)−走査型電子顕微鏡(SEM)装置11と、コンピュータ12とから構成されている。FIB−SEM装置11とコンピュータ12とはケーブル20により接続されている。
【0014】
このFIB−SEM装置11は、透過型電子顕微鏡と試料台とを内蔵している。FIB−SEM装置11は、試料台に載置された解析対象のゴム材料を集束イオンビーム(FIB)でエッチング処理、透過型電子顕微鏡により撮影を繰り返しながら行うものである。そして、FIB−SEM装置11は、所定間隔で撮影したスライス画像データを生成する。
【0015】
コンピュータ12は、解析を行う際の各種条件を入力するためのキーボード15と、予め記憶された処理プログラムに従ってゴム材料の変形挙動を解析するコンピュータ本体13と、コンピュータ本体13の演算結果等を表示するディスプレイ14とから構成されている。コンピュータ12は、FIB−SEM装置11により生成されたスライス画像データを用いてゴム材料の変形挙動等の解析を実施する。
また、コンピュータ本体13には、記録媒体としてのフレキシブルディスク(以下、FDという。)16が挿抜可能なフレキシブルディスクドライブユニット(以下、FDUという。)18を備えている。
【0016】
次に、図2を参照しながら、コンピュータ12の電気系の要部構成を説明する。
コンピュータ12は、装置全体の動作を司るCPU(中央処理装置)40と、コンピュータ12を制御する制御プログラムを含む各種プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM42と、各種データを一時的に記憶するRAM48と、ケーブル20に接続されたコネクタ59に接続され、コネクタ59を介してFIB−SEM装置11からスライス画像データを取得する外部I/O制御部60と、取得したスライス画像データを記憶するHDD(ハードディスクドライブ)56と、FDU18に装着されたFD16とのデータの入出力を行うフレキシブルディスクI/F部52と、ディスプレイ14への各種情報の表示を制御するディスプレイドライバ44と、キーボード15へのキー操作を検出する操作入力検出部46とを備えている。
【0017】
また、CPU40、RAM48、ROM42、HDD56、外部I/O制御部60、フレキシブルディスクI/F部52、ディスプレイドライバ44、及び操作入力検出部46は、システムバスBUSを介して相互に接続されている。従って、CPU40は、RAM48、ROM42、HDD56へのアクセス、フレキシブルディスクI/F部52を介してのFDU18に装着されたFD16へのアクセス、外部I/O制御部60を介したデータの送受信の制御、ディスプレイドライバ44を介したディスプレイ14への各種情報の表示を各々行うことができる。また、CPU40は、キーボード15に対するキー操作を常時把握できる。
【0018】
なお、後述する3次元モデル生成処理プログラム、解析処理プログラム、スライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別する濃度値のデータ、及び3次元モデル等は、FDU18を用いてFD16に対して読み書き可能である。従って、後述する3次元モデル生成処理プログラム、解析処理プログラム、濃度値のデータ、及び3次元モデル等は予めFD16に記録しておき、FDU18を介してFD16に記録された各処理プログラムを実行してもよい。また、FD16に記録された各処理プログラムをHDD56へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、記録テープ、CD−ROMやDVD等の光ディスクや、MD,MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記FDU18に代えてまたはさらに対応する読み書き装置を用いればよい。
【0019】
次に、本発明の第1実施の形態の係るゴム材料の変形挙動装置で予測を行う際の動作を詳述する。
本発明の第1実施形態では、ユーザよって解析対象のゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を試料台に載置し、FIB−SEM装置11に対して処理開始の所定操作が行われると後述するスライス画像生成処理が実行される。
この第1実施形態に係るFIB−SEM装置11は、試料となる所定形状のゴム材料Sに集束イオンビームを照射する機能と、集束イオンビームによって加工された試料断面に電子ビームを照射して走査電子顕微鏡像を観察することができるSEM機能とを備えたものである。
図3は、本第1実施形態に用いるFIB−SEM装置11の一例(概略)を示しており、11aはFIBのカラム、11bはSEMのカラムである。FIBカラム11aの中には、イオン銃11cと、イオン銃11cから発生し加速されたイオンビームを集束する集束レンズ11d、対物レンズ11e、イオンビームを2次元的に走査するための偏向器11fが設けられている。なお、イオンビーム用の集束レンズ11d、対物レンズ11eは主に静電レンズが使用される。
【0020】
イオン銃11cから発生したイオンビームは、集束レンズ11d、対物レンズ11eによって試料である所定形状のゴム材料S上に細く集束されると共に、該試料Sに照射されるイオンビームの照射位置は、偏向器11fによって走査できるように構成されている。これら集束レンズ11d、対物レンズ11e、偏向器11fはFIB制御部11gによって制御される。
例えば、所定形状のゴム材料Sに照射されるイオンビームの電流量を変化させる場合には、FIB制御部11gによって集束レンズ11d、対物レンズ11eを制御し、各レンズの強度を制御してイオンビームの集束度合いを変化させ、イオンビームの光路中に設けられた絞り(図示せず)を通過するイオンビームの量を制御する。また、イオンビームを試料上で2次元的あるいはライン状に走査する場合には、FIB制御部11gから偏向器11fに走査信号が供給される。
【0021】
SEMカラム11bの中には、電子銃11hと、電子銃11hから発生した電子ビームを集束する集束レンズ11i、対物レンズ11j、電子ビームを2次元的に走査するための偏向器11kが設けられている。
電子銃11hから発生した電子ビームは、集束レンズ11i、対物レンズ11jによって試料S上に細く集束されると共に、試料Sに照射される電子ビームの照射位置は、偏向器11kによって走査できるように構成されている。これら集束レンズ11i、対物レンズ11j、偏向器11kはSEM制御部11lによって制御される。なお、電子ビーム用の集束レンズ11i、対物レンズ11jは主に電磁レンズが使用される。
【0022】
例えば、試料Sに照射される電子ビームの電流量を変化させる場合には、SEM制御部11lによって集束レンズ11i、対物レンズ11jを制御し、各レンズの強度を制御して電子ビームの集束度合いを変化させ、電子ビームの光路中に設けられた絞り(図示せず)を通過する電子ビームの量を制御する。また、電子ビームを試料S上で2次元的あるいはライン状に走査する場合には、SEM制御部11lから偏向器11kに走査信号が供給される。なお、SEM制御部11lとFIB制御部11gは、制御コンピュータ11mによってコントロールされる。この制御コンピュータ11mはホストとなるコンピュータ12によってコントロールされる。
【0023】
試料となる所定形状のゴム材料への電子ビームあるいはイオンビームの照射によって試料から発生した2次電子は、2次電子検出器11nによって検出される。検出器11nによって検出された信号は、増幅器11oによって増幅された後、制御コンピュータ11mを介して陰極線管11pに供給され、陰極線管11pにはスライス部分の走査電子顕微鏡像が得られる。
試料となる所定形状のゴム材料Sはステージ11q上に載せられている。ステージ11qはステージ制御部11rにより、水平方向の2次元移動、回転、傾斜ができるように構成されている。ステージ制御部11rは、制御コンピュータ11mによってコントロールされる。なお、FIB制御部11g、ステージ制御部11rを調整することにより、試料である所定形状のゴム材料は任意の深さ、角度等に調整でき、数nm単位で断面表層の縦方向、ヨコ方向への加工を行うことができるものである。
【0024】
このように構成されるFIB−SEM装置11は、まず、FIBによる試料である所定形状のゴム材料Sの加工が行われる。この試料の加工は、FIBカラム1内のイオン銃11cからイオンビームを発生させ、このイオンビームを集束レンズ11d、対物レンズ11eによって試料S上に細く集束すると共に、イオンビームを偏向器11fによってライン状に走査する。この集束イオンビームは、イオン源からのイオンビームを細く集束し、加工試料Sに照射して試料の任意の表面等をエッチング加工し、加工終了後、試料の移動なしに直ぐにそのエッチング加工された断面をSEM像で観察するものである。このFIB−SEM装置11では、通常、試料Sの上からイオンビームを当ててエッチングし、その断面に試料面から30°の角度で電子ビームを当てて、その断面の構造を観察するものである。イオンビームで加工された試料Sは、試料面に垂直な断面を作り、その断面は、イオンビームの電流量、プローブ径に依存するが、ほとんど試料面に垂直に切り出される。なお、このFIB−SEM装置11では、FIBによる加工後すぐに試料の移動なしにSEM観察できるというメリットだけではなく、同時にFIBによる加工の進行状況や加工面の深度の状況がSEMにおいてモニタリングすることができる。
【0025】
このFIB−SEM装置11では、試料となる所定形状のゴム材料Sを集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面に電子ビームを照射して走査型電子顕微鏡により表面観測してゴム材料の連続画像(複数のスライス画像)を取得するものとなる。本実施形態では、従来の透過型電子顕微鏡(TEM)に較べ1回の測定で、例えば、3μm×3μm×0.2μmという広い範囲を把握でき、位置決めも容易となるものである。
ここで、本実施形態の試料Sである所定形状のゴム材料は、天然ゴム及び/又は合成ゴム等のゴム成分と、カーボンブラックやシリカ等の充填剤とが配合されたゴム材料であり、このゴム材料中には、一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造を有するものであるため、該ネットワーク構造を精査するためには、好ましくは、エッチング処理は0.1〜100nmに調整することが望ましく、更に好ましくは、0.1〜50nmが望ましく、特に好ましくは、0.1〜30nmである。
更に、充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを用いた場合のエッチング処理は、0.1〜30nmであることが好ましくは、更に好ましくは、0.1〜20nmが望ましく、特に好ましくは、0.1〜10nmである。
このエッチング処理が0.1nm未満では、調整が難しくなり、一方、100nmを越えると、充填剤等の複雑なネットワーク構造を得ることができないことがあり、好ましくない。
【0026】
このように構成されるFIB−SEM装置11では、図4(a)及び(b)に示すように、撮影した画像の画像データ(本実施の形態では、150枚の画像の画像データ)を用い、各面に平行な所定間隔でスライスしたスライス画像S1を生成し、後述するように3次元モデルが生成されることとなる。この生成されたスライス画像データはケーブル20を介してコンピュータ12へ出力される。コンピュータ12は、ケーブル20を介して取得したスライス画像データをHDD56に記憶する。
【0027】
コンピュータ12は、ユーザによりキーボード15を介して3次元モデル生成開始の所定操作が行われると後述する3次元モデル生成処理を実行することとなる。後述する3次元モデル生成処理では、HDD56に記憶されたスライス画像データに基づいてゴム材料の3次元モデルが生成される。その後、コンピュータ12は、3次元モデル生成処理を実行して生成された3次元画像に基づいてゴム材料を示す3次元モデルを生成する。生成された3次元モデルはHDD56に記憶される。
更に、コンピュータ12は、ユーザによりキーボード15を介して解析対象とする3次元モデルと解析条件とが指定され、解析開始の所定操作が行われると、後述する解析処理を実行して解析が行なわれることとなる。
本実施形態に係る解析処理では、解析条件として、3次元モデルを変化させる方向と、その方向へ3次元モデルを伸張又は圧縮やせん断変化させる変化率を指定することができる。解析処理では、ゴム材料の3次元モデルを解析条件として指定されて方向へ伸張又は圧縮やせん断した場合の3次元モデルの歪み、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値を解析して解析結果をディスプレイ14に表示することができる。
【0028】
なお、本実施形態に係る解析処理では、3次元モデルのゴム領域の構成条件として、歪と応力の関係を定めた一般化、MOONEY−RIVLIN方程式の1次項までを用いている。また、充填剤はゴムよりも十分に硬いため、3次元モデルの充填剤領域の構成条件として、予め実験等により充填剤の硬さを測定して求めた実測値、又は、充填剤の結晶部とアモルファス部の比率から計算した推定値(10[GPa]から100[GPa]程度の値)を用いる。なお、3次元モデルの充填剤領域の構成条件として、ゴム領域で指定された構成条件より求まるヤング率(弾性率)の所定倍(本実施の形態では、1000倍)のヤング率を用いてもよい。
また、3次元モデルのゴム領域の構成条件として、一般化OGDEN方程式、及び本出願人が開示(特開2005−345413号公報)した下記の式(1)に示す弾性率の温度及び歪依存性を表す構成方程式を用いてもよい。
【0029】
【数1】
【0030】
但し、Gはヤング率を表し、Sはゴム変形時のエントロピー変化を表し、P及びQは弾性率と関係する係数を表し、I1は歪の不変量を表し、Tは絶対温度を表す。βは1/(kΔT)に等しく、kはボルツマン定数、ΔTはゴムのガラス転移温度からの差分を表す。
【0031】
次に、図5を参照しながら、FIB−SEM装置11により実行されるスライス画像生成処理の作用を詳細に説明する。図5は、スライス画像生成処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
図5のステップ100では、初期処理として所定形状のゴム材料が載置された試料台と走査型電子顕微鏡とを相対的に移動させて位置関係を初期位置とする。次のステップ102では、数nmのエッチング処理により、試料表面のクリーニングを行った後、走査型電子顕微鏡によりゴム材料の撮影を行いゴム材料の画像を取得する。
【0032】
次のステップ104では、イオンビームにより設定した深さ(0.1〜100nm、本実施形態では、20nm)でエッチング処理し、走査型電子顕微鏡によりゴム材料の撮影を行いゴム材料の画像を取得する。このステップでは、走査型電子顕微鏡での撮影が完了したか否かを判定し、肯定判定の場合は、設定した深さとなるまでエッチング処理、走査型電子顕微鏡によりゴム材料の撮影を所定回数繰り返し行い、終了後はステップ108へ移行し、否定判定の場合は、再度ゴム材料の撮影を行う。本実施形態では、各エッチング処理は20nmで、撮影回数150回である。
一方、ステップ108では、設定した撮影が完了しているので、撮影によって得られた画像データからCT法により3次元基本モデルを生成する。
【0033】
次のステップ110では、生成した3次元基本モデルを所定間隔毎にスライスしたときの内部構造を含む断面形状を表す複数枚(本実施の形態では、150枚)のスライス画像を生成する。次のステップ112では、生成したスライス画像のスライス画像データをケーブル20を介してコンピュータ12へ出力する。なお、この所定間隔は、ゴム材料に配合される充填剤により変更可能である。
【0034】
ここで、図6は、本実施形態に係るFIB−SEM装置11により生成された1枚のスライス画像の一例が示されている。
図6に示されるスライス画像では、ゴム材料を構成するゴムと充填剤とで物質的に輝度が異なるため、充填剤部分が濃く(濃度値が大きく)、ゴム部分が薄く(濃度値が小さく)示されている。なお、本実施形態に係るゴム材料は、充填剤としてシリカが配合されている。図6に示されるように、スライス画像では、シリカとゴム成分も物質的に輝度が異なるため、ゴム成分と充填剤部分は異なる濃度として示される。よって、スライス画像の各画素の濃度に基づいてスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別することができる。このスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別することができる濃度値は、予め実験等により定めることができる。
【0035】
次に、図7を参照しながら、コンピュータ12により実行される3次元モデル生成処理の作用を詳細に説明する。なお、図7は、3次元モデル生成処理プログラムの流れを示すフローチャ−トである。
図7のステップ150では、実験等により予め定められているスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別する濃度値をしきい値hとして設定する。次のステップ152では、カウンタnに1を設定する。次のステップ154では、HDD58からn枚目のスライス画像を示すスライス画像データを読み込みを行う。次のステップ156では、読み込んだスライス画像データにより示されるスライス画像の各画素の濃度値をしきい値hと比較して各画素を2値化した2値化画像の2値化画像データを生成する。図8には、図6に示されるスライス画像を2値化した2値化画像が示されている。
【0036】
なお、スライス画像生成処理では、ゴム材料内の充填剤と他に配合された部材とを区別して充填剤部分をより的確に抽出するため、スライス画像の各画素の濃度値をしきい値hと比較して、濃度値がしきい値h以上の画素が上下左右で所定個数(例えば、5個以上)連続している部分の各画素を黒とし、その他の画素を白とした2値化画像の2値化画像データを生成する。
【0037】
次のステップ158では、2値化画像データに対して2値化画像の黒の部分の画素の値を「1」、その他の画素の値を「0」とした2値化画像データにフォーマット変換する。図8には、図6に示される2値化画像の各画像を数値に変換した2値化画像データがその配列を含めたイメージとして示されている。
そして、次のステップ160では、全てのスライス画像データ(本実施の形態では、150枚のスライス画像の各スライス画像データ)に対して読み込みからフォーマット変換までの処理が終了したか否かを判定しており、肯定判定の場合はステップ164へ移行し、否定判定の場合はステップ162へ移行する。ステップ162では、カウンタnを1カウントアップしてステップ154へ移行し、次のスライス画像データの読み込みを行う。
【0038】
一方、ステップ164では、フォーマット変換した各2値化画像データに基づき、2値化画像を各スライス画像のスライス位置の順序でかつ上述した所定間隔で積層して3次元の構造とする。そして、各2値化画像における各画素を単一要素とするメッシュ(格子領域)と定めた3次元モデルを生成する。この3次元モデルでは、画素の値が「1」の部分は充填剤部分、画素の値が「0」の部分はゴム部分となっている。次のステップ166では、生成したゴム材料の3次元モデルの3次元モデルデータをHDD56に記憶する。
【0039】
次のステップ168では、上記ステップ164で生成された3次元モデルについて、各2値化画像の間で同一値の画素を同一の要素として統合した3次元領域を形成する画像処理を行い、ゴム材料の計算上の立体像を生成し、当該立体像をディスプレイ14に表示する。
【0040】
ここで、図9には、ディスプレイ14に表示される立体像の一例が示されている。図9に示されるように、充填剤はゴム材料の内部でネットワーク構造を形成しており、複雑な3次元構造となっている。なお、図9に示す立体像は、スライス画像として取得したゴム材料の範囲内で再構築を行っているので、取得したスライス画像の境界までのゴム材料が表示される。このため、ゴム材料がスライス画像をまたいで連続する場合、境界部分は、所定の平面で切断されたようになる。本実施の形態では、その切断面について充填剤が存在する場合、充填剤の内部に向かうほど濃い濃度となると仮定し、その差異を示した。
【0041】
次に、図10を参照しつつ、コンピュータ12により実行される解析処理の作用を詳細に説明する。なお、図10は、解析処理プログラムの流れを示すフローチャ−トである。
ステップ200では、本処理を遂行するための初期処理を行う。まず、ユーザにより指定された3次元モデルを解析対象の3次元モデルとして設定する。次に、本解析処理における解析条件を設定する。解析条件は、解析対象の3次元モデルに付与するエネルギーの種類、エネルギーの付与の方法、エネルギー付与後に変動または発生する構造や状態の種類、その取得方法、など何れかが対応する。
【0042】
本実施の形態では、付与するエネルギーの種類として、圧縮または伸張のための圧力や応力を対応させると共にその付与方向も対応させる。また、エネルギー付与後の変動として、圧力分布や応力分布を対応させる。これらの設定は、予めユーザーによる入力で実施してもよいし、予めプログラム上で規定してもよい。これにより、解析条件として、3次元モデルを変化させる方向、3次元モデルを伸張又は圧縮変化させる圧力や応力、そして変化量や変化率、それらの分布を設定することができる。なお、解析条件では、3次元モデルのゴム部分の構成条件を上述した一般化MOONEY−RIVLIN方程式の1次項とすること設定することを含んでいる。また、充填剤部分のメッシュの構成条件として上記実測値、又は推定値より求まるヤング率を設定することも含んでいる。
【0043】
ステップ202では、ステップ200において設定した解析対象の3次元モデルの3次元モデルデータをHDD56から読み込む。
次に、ステップ204では、HDD56から読み込んだ3次元モデルデータにより示される3次元モデルのゴム部分及び充填剤部分の各メッシュの構成条件として、ステップ200において設定した解析条件を付与し、3次元モデルデータを再構成する。
次のステップ206では、再構成した3次元モデルデータを用いてステップ200において設定した構成条件で3次元モデルを変化させた際の3次元モデルの歪み、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値を有限要素法により解析する。
【0044】
次のステップ208では、解析により求まった3次元モデルの歪み状態、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値をディスプレイ14に表示して処理終了となる。
図11、図12には、第1実施形態に係る解析処理による解析結果の一例が示されている。なお、図11、図12は、3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をZ方向へ10%伸張させる解析を行った際の歪状態及び応力分布の解析結果である。応力分布は応力値が高い部分ほど濃い濃度として表している。
【0045】
図11は、3次元モデルを生成する際に積層された2値化画像の1つの面(XY面)での歪状態及び当該面を構成する各メッシュでの応力分布を示している。図12は、3次元モデルの2値化画像の面と直交する方向の断面(XZ面)での歪状態、及び当該断面を構成する各メッシュでの応力分布を示している。
【0046】
このように、上記実施形態によれば、実際のゴム材料から生成した3次元モデルを用いることによりミクロレベルでの応力及び歪状態の解析が可能となった。このミクロレベルでの応力及び歪状態の解析により、ゴム材料における充填剤の配合量等の最適化が可能となり、ゴム材料のより高い精度での性能コントロールが可能となった。
【0047】
一方、図13は、3次元モデルデータを用いてZ方向への伸張率を変化させて解析を行った際の伸張率と3次元モデル全体の応力値とを関係を示している。図13の線Aは、充填剤が配合されたゴム材料の3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をZ方向へ10%、20%、30%それぞれ伸張させた際の伸張率と解析結果の応力値との関係を示している。また、図13の線Bは、充填剤が配合されていないゴム材料の3次元モデルデータ(すなわち、3次元モデルの全てメッシュをゴム部分。)を用いて3次元モデル全体をZ方向へ1%〜30%まで伸張させた際の伸張率と解析結果の応力値との関係を示している。
【0048】
また、図14は、図13を伸張率[%]とヤング率(=応力/伸張率)[MPa]の関係として示している。
この実施形態に係る解析処理によれば、図13、図14に示されるように、ゴム材料に充填剤が配合されたことによる応力及びヤング率(弾性率)の増大効果を解析結果においても再現することができた。
【0049】
一方、図15には、実際のゴム材料の伸張率とヤング率とを実験によって測定した結果(図15の線D参照)と、当該ゴム材料に対して本実施の形態に係るゴム材料変形挙動予測システム10を用いて解析を行った結果(図15の線C参照)とが示されている。なお、図14の線Cは、ゴム材料から生成した3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をZ方向へ10%、20%、30%それぞれ伸張させた際の解析結果の応力値からヤング率(=応力/伸張率)を求めた結果である。
【0050】
図15に示されるように、実験による測定結果の応力歪曲線(図15の線D)と解析結果の応力歪曲線(図15の線C)には約20%程度の差が認められるが、解析結果はゴム部分の構成条件として付与したMOONEY−RIVLIN方程式の1次項までを用いた近似範囲でほぼ測定結果を表していると考えられる。
【0051】
一方、下記表1には、ゴム材料A、ゴム材料B及びゴム材料Cに対して本実施の形態に係るゴム材料変形挙動予測システム10を用いてそれぞれ解析処理を行った結果の応力分布から求まるゴム部分の応力の最大値と、当該ゴム材料A、ゴム材料B及びゴム材料Cに対して摩擦実験を行った際の摩耗速度とが示されている。
【表1】
なお、応力の最大値と摩耗速度は、ゴム材料Aを基準とした相対値で示されている。このゴム材料A、ゴム材料B及びゴム材料Cは、同一ゴム及び充填剤を同じ量だけ配合しており、材料の構成が同一となっている。ゴム材料Cは3つの中で最も充填剤の分散の良く(充填剤が一様に分布している)、ゴム材料Bは3つの中で充填剤の分散が悪い(充填剤の分布が偏っている)。
【0052】
ゴム材料は、応力分布の最大値が大きいとゴム部分に亀裂等が生じやすくなるため消耗が早くなると考えられる。従って、3つの中で充填剤の分散が悪いゴム材料Bの方が、ゴム材料Cと同じ構成であっても、早く消耗すると予測される。これは、上記表1に示される摩擦実験の実験結果と一致し、解析処理により求まる応力分布の最大値からゴム材料の摩耗速度を予測することができる。
【0053】
以上のように本実施形態によれば、コンピュータ12は、集束イオンビーム(FIB)によって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により表面観測して取得したゴム材料の複数のスライス画像データをケーブル20を介して外部I/O制御部60から取得する。CPU40は、3次元モデル生成処理が実行されると、スライス画像の各画素の濃度値としいき値hとに基づいて各スライス画像を2値化画像に変換する。また、CPU40は、3次元モデル生成処理において、変換した複数の2値化画像を各スライス画像のスライス位置の順序でかつ所定間隔で積層し、当該2値化画像における各画素を単一要素とするメッシュと定めた3次元モデルを生成する。CPU40は、解析処理が実行されると、生成された3次元モデルのメッシュに対してゴムあるいは充填剤の歪と応力の関係を定めた構成条件を付与し、変形挙動を解析を行う。これにより、実際のゴム材料のゴム部分及び充填剤部分の変形挙動をミクロレベルで精密に解析することができるものとなる。また、歪みによる物性変化も予測でき、これによりゴム材料の破断強度等の物性制御が可能となる。
【0054】
本発明のゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法は、上記実施形態に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の形態で変更することができる。
例えば、上記実施形態では、生成された3次元モデルの全ての領域において解析処理を行ったが、例えば、実際にゴム材料に配合された充填剤の体積比率をキーボード15から入力し、解析処理において充填剤部分の体積比率が実際の充填剤の体積比率となる3次元モデルの領域を解析対象の領域としてもよい。これにより、実際のゴム材料の充填剤の体積比率の領域の3次元モデルを用いて解析を行うことができるため、実際の充填剤の配合量に応じた弾性率及び応力分布を適切に解析することができる。
【0055】
また、上記実施形態で説明したFIB−SEM装置11及びコンピュータ12の構成は、一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
更に、上記実施形態で説明したスライス画像生成処理、3次元モデル生成処理、解析処理の処理の流れ(図5、図7、図10参照)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
更にまた、本実施形態では、コンピュータ12はケーブル20でFIB−SEM装置11と接続してスライス画像データを取得する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、記録テープ、MO、メモリーカード、CD−ROM等の記録媒体を介して取得する構成としてもよい。これらを用いるときには、コンピュータ12に対応する読み書き装置を備えるようにすればよい。
【0056】
このように構成される本発明では、従来の透過型電子顕微鏡(TEM)に較べ、広い範囲の画像が取得でき、積層の際にも位置決めが容易となるものであり、ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造有するゴム材料の変形挙動を精密に解析できると共に、解析時間を更に短縮することができるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法が提供されるものとなる。
また、FIB−SEM装置11により実際のゴム材料を撮影して得られたスライス画像をしきい値hに基づいて2値化し、2値化画像の各画素をメッシュとした3次元モデルを生成しているため、実際のゴム材料の構造に近い構造の3次元モデルを生成することができる。
更に、実際のゴム材料の構造に近い構造の3次元モデルを用いて有限要素法により解析を行うことにより、ゴム材料の内部の弾性率及び応力分布を精密に解析することができ、ゴム材料に含まれる充填剤の分布度合いに応じた摩耗速度を予測することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のゴム材料変形挙動予測装置(システム)の一例を示す全体構成図である。
【図2】本発明のゴム材料変形挙動予測装置に用いるコンピュータの電気系の構成の一例を示す構成図である。
【図3】本発明に用いるFIB−SEM装置の一例を示す概略図である。
【図4】スライス画像生成処理を説明する説明図であり、(a)はスライス画像を積層した状態を示す概略図、(b)は3次元モデルの概略立体透過図である。
【図5】スライス画像生成処理プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図6】スライス画像の一例を示す図である。
【図7】3次元モデル生成処理プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図8】スライス画像を2値化した2値化画像を示す図である。
【図9】3次元モデルの一例を示す図である。
【図10】解析処理プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図11】ディスプレイに表示される解析結果の断面画像の一例を示す図である。
【図12】ディスプレイに表示される解析結果の側面側からの断面画像の一例を示す図である。
【図13】3次元モデル全体の伸長率と応力値との関係を示す図である。
【図14】図13に示される関係を伸長率とヤング率の関係を示す図である。
【図15】実際のゴム材料の伸長率とヤング率とを実験によって測定した結果と、当該ゴム材料を用いて3時限モデルを生成して解析を行った結果を示す図である。
【図16】従来の透過型電子顕微鏡(TEM)と計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元モデルを構成する概要を示す概略図である。
【符号の説明】
【0058】
10 ゴム材料変形挙動予測システム
11FIB−SEM装置
12 コンピュータ(変形挙動予測装置)
40 CPU(判別手段、3次元画像生成手段、3次元モデル生成手段、条件付与手段、解析手段)
60 外部I/O制御部(取得手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムとカーボンブラックやシリカ等の充填剤とを配合したゴム材料の変形挙動予測装置及びゴム材料の変形挙動予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴムにカーボンブラック、シリカ等の充填剤を配合すると補強効果があることが知られており、ゴムに充填剤を配合したゴム材料がタイヤ、コンベア等のゴム製品に広く用いられている。
このようなゴム材料では、力が加わった際の変形挙動等を実験によって測定し、測定結果を評価して充填剤の配合量の設計が行われている。
【0003】
一方、最近では、有限要素法(FEM)等の数値解析手法や計算機環境の発達により、ゴム材料の充填剤領域及びゴム領域の3次元モデルを作成して変形挙動等を解析する方法が各種提案されている。
例えば、ゴム材料の充填剤領域を剛体球を見立てた3次元モデルを作成し、ゴム材料を伸張した際に発生する応力と歪みを有限要素法により解析することが記載されており、解析結果は、ゴム材料に配合された充填剤の体積効果による弾性率の増加を示すグース(GUTH)の式、並びに実験結果と一致することが見い出されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、ゴム材料の充填剤領域の形状を球からロッド状に替えた3次元モデルを作成し、有限要素法による解析を行うことが記載されており、これにより充填剤のまわりのミクロレベルでの歪み及び応力分布を解析することが可能となっている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
ところで、実際のゴム材料内の充填剤の構造は、複数の充填剤が連なった複雑なネットワーク構造を形成していることが知られており、ゴム材料の充填剤領域を球やロッド状と見立てた単純な3次元モデルでは、実際のゴム材料内のゴム領域及び充填剤領域の変形挙動をミクロレベルで精密に解析することができないものである。
【0006】
このため、例えば、CTスキャナ(コンピュータ・トモグラフィ・スキャナ)によってゴム材料を所定間隔でスライスしたスライス画像を取得し、スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて各スライス画像に含まれるゴム部分や充填剤部分を判別し、各スライス画像をスライス位置の順序に積層して各スライス画像を構成する各画素をそれぞれ格子領域とする3次元モデルを作成し、当該3次元モデルを用いてゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析することが考えられている。
しかしながら、このような3次元モデルを用いて解析を行った場合、ゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析できるものの3次元モデルの格子領域数が膨大な数となるため、解析に時間がかかる、という問題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、ゴム材料の変形挙動を精密に解析できると共に、解析時間を短縮することができるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法として、実際のゴム材料の充填剤の配置を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、得られたデータを計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元基本モデルに再構成し、有限要素法(FEM)によりゴム材料の変形挙動を予測する技術を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の透過型電子顕微鏡(TEM)と、計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元基本モデルを用いたゴム材料の変形挙動を予測する技術は、今までにない技術として優れたものであるが、透過型電子顕微鏡(TEM)では、−60度から+60度の範囲等で所定角度(例えば、2度間隔)ずつ相対的に回転移動させつつスキャンすることによりゴム材料の連続傾斜画像を撮影するものであり、図16に示すように、ゴム材料の厚さとして、数百nm程度が限界であり、一般的なゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造を精度よく表すことが困難であり、また、一次粒径が数百nmの充填剤の配置なども精度よく表すことができない点に若干の課題がある。
【非特許文献1】深堀美英、「設計のための高分子の力学」、技報堂、2000、P188、P340など。
【非特許文献2】J.Busfield and Alan Muhr、「Consilitutive Models for Rubber III」、Balkema、2003、P301など。
【特許文献1】特開2006−200937号公報(特許請求の範囲、第1の実施形態等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造有するゴム材料の変形挙動を精密に解析できると共に、解析時間を更に短縮することができるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題等について鋭意検討した結果、従来における透過型電子顕微鏡(TEM)と、計算機トモグラフィー法(CT法)による3次元基本モデルの構成を他の特定の手段により行うことにより、上記目的のゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(5)に存する。
(1) ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得する取得手段と、
該取得手段により取得された各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換する変換手段と、
該変換手段により変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段と、
該3次元モデル生成手段により生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与する付与手段と、
該付与手段により構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析する解析手段と、
該解析手段による解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定し、提示する提示手段とを備えたことを特徴とするゴム材料の変形挙動予測装置。
(2) エッチング処理が0.1〜100nmであることを特徴とする上記(1)記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
(3) 充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを用いた場合のエッチング処理が0.1〜30nmであることを特徴とする上記(2)記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
(4) 前記3次元モデルの変形挙動を、前記構成条件が付与された有限要素法を用いて解析することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
(5) ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得し、
該取得した各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換し、
該変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成し、
該生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与し、
前記構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析し、
該解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定して、ゴム材料の変形挙動を予測することを特徴とするゴム材料の変形挙動予測方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造を有するゴム材料の変形挙動をミクロレベルで精密に解析できると共に、解析時間を更に短縮することができ、また、歪みによる物性変化も予測でき、これによりゴム材料の破断強度等の物性制御が可能となるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のゴム材料変形挙動予測装置の一例となるゴム材料変形挙動予測システムの構成図を示すものである。
このゴム材料変形挙動予測システム10は、集束イオンビーム(FIB)−走査型電子顕微鏡(SEM)装置11と、コンピュータ12とから構成されている。FIB−SEM装置11とコンピュータ12とはケーブル20により接続されている。
【0014】
このFIB−SEM装置11は、透過型電子顕微鏡と試料台とを内蔵している。FIB−SEM装置11は、試料台に載置された解析対象のゴム材料を集束イオンビーム(FIB)でエッチング処理、透過型電子顕微鏡により撮影を繰り返しながら行うものである。そして、FIB−SEM装置11は、所定間隔で撮影したスライス画像データを生成する。
【0015】
コンピュータ12は、解析を行う際の各種条件を入力するためのキーボード15と、予め記憶された処理プログラムに従ってゴム材料の変形挙動を解析するコンピュータ本体13と、コンピュータ本体13の演算結果等を表示するディスプレイ14とから構成されている。コンピュータ12は、FIB−SEM装置11により生成されたスライス画像データを用いてゴム材料の変形挙動等の解析を実施する。
また、コンピュータ本体13には、記録媒体としてのフレキシブルディスク(以下、FDという。)16が挿抜可能なフレキシブルディスクドライブユニット(以下、FDUという。)18を備えている。
【0016】
次に、図2を参照しながら、コンピュータ12の電気系の要部構成を説明する。
コンピュータ12は、装置全体の動作を司るCPU(中央処理装置)40と、コンピュータ12を制御する制御プログラムを含む各種プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM42と、各種データを一時的に記憶するRAM48と、ケーブル20に接続されたコネクタ59に接続され、コネクタ59を介してFIB−SEM装置11からスライス画像データを取得する外部I/O制御部60と、取得したスライス画像データを記憶するHDD(ハードディスクドライブ)56と、FDU18に装着されたFD16とのデータの入出力を行うフレキシブルディスクI/F部52と、ディスプレイ14への各種情報の表示を制御するディスプレイドライバ44と、キーボード15へのキー操作を検出する操作入力検出部46とを備えている。
【0017】
また、CPU40、RAM48、ROM42、HDD56、外部I/O制御部60、フレキシブルディスクI/F部52、ディスプレイドライバ44、及び操作入力検出部46は、システムバスBUSを介して相互に接続されている。従って、CPU40は、RAM48、ROM42、HDD56へのアクセス、フレキシブルディスクI/F部52を介してのFDU18に装着されたFD16へのアクセス、外部I/O制御部60を介したデータの送受信の制御、ディスプレイドライバ44を介したディスプレイ14への各種情報の表示を各々行うことができる。また、CPU40は、キーボード15に対するキー操作を常時把握できる。
【0018】
なお、後述する3次元モデル生成処理プログラム、解析処理プログラム、スライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別する濃度値のデータ、及び3次元モデル等は、FDU18を用いてFD16に対して読み書き可能である。従って、後述する3次元モデル生成処理プログラム、解析処理プログラム、濃度値のデータ、及び3次元モデル等は予めFD16に記録しておき、FDU18を介してFD16に記録された各処理プログラムを実行してもよい。また、FD16に記録された各処理プログラムをHDD56へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、記録テープ、CD−ROMやDVD等の光ディスクや、MD,MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記FDU18に代えてまたはさらに対応する読み書き装置を用いればよい。
【0019】
次に、本発明の第1実施の形態の係るゴム材料の変形挙動装置で予測を行う際の動作を詳述する。
本発明の第1実施形態では、ユーザよって解析対象のゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を試料台に載置し、FIB−SEM装置11に対して処理開始の所定操作が行われると後述するスライス画像生成処理が実行される。
この第1実施形態に係るFIB−SEM装置11は、試料となる所定形状のゴム材料Sに集束イオンビームを照射する機能と、集束イオンビームによって加工された試料断面に電子ビームを照射して走査電子顕微鏡像を観察することができるSEM機能とを備えたものである。
図3は、本第1実施形態に用いるFIB−SEM装置11の一例(概略)を示しており、11aはFIBのカラム、11bはSEMのカラムである。FIBカラム11aの中には、イオン銃11cと、イオン銃11cから発生し加速されたイオンビームを集束する集束レンズ11d、対物レンズ11e、イオンビームを2次元的に走査するための偏向器11fが設けられている。なお、イオンビーム用の集束レンズ11d、対物レンズ11eは主に静電レンズが使用される。
【0020】
イオン銃11cから発生したイオンビームは、集束レンズ11d、対物レンズ11eによって試料である所定形状のゴム材料S上に細く集束されると共に、該試料Sに照射されるイオンビームの照射位置は、偏向器11fによって走査できるように構成されている。これら集束レンズ11d、対物レンズ11e、偏向器11fはFIB制御部11gによって制御される。
例えば、所定形状のゴム材料Sに照射されるイオンビームの電流量を変化させる場合には、FIB制御部11gによって集束レンズ11d、対物レンズ11eを制御し、各レンズの強度を制御してイオンビームの集束度合いを変化させ、イオンビームの光路中に設けられた絞り(図示せず)を通過するイオンビームの量を制御する。また、イオンビームを試料上で2次元的あるいはライン状に走査する場合には、FIB制御部11gから偏向器11fに走査信号が供給される。
【0021】
SEMカラム11bの中には、電子銃11hと、電子銃11hから発生した電子ビームを集束する集束レンズ11i、対物レンズ11j、電子ビームを2次元的に走査するための偏向器11kが設けられている。
電子銃11hから発生した電子ビームは、集束レンズ11i、対物レンズ11jによって試料S上に細く集束されると共に、試料Sに照射される電子ビームの照射位置は、偏向器11kによって走査できるように構成されている。これら集束レンズ11i、対物レンズ11j、偏向器11kはSEM制御部11lによって制御される。なお、電子ビーム用の集束レンズ11i、対物レンズ11jは主に電磁レンズが使用される。
【0022】
例えば、試料Sに照射される電子ビームの電流量を変化させる場合には、SEM制御部11lによって集束レンズ11i、対物レンズ11jを制御し、各レンズの強度を制御して電子ビームの集束度合いを変化させ、電子ビームの光路中に設けられた絞り(図示せず)を通過する電子ビームの量を制御する。また、電子ビームを試料S上で2次元的あるいはライン状に走査する場合には、SEM制御部11lから偏向器11kに走査信号が供給される。なお、SEM制御部11lとFIB制御部11gは、制御コンピュータ11mによってコントロールされる。この制御コンピュータ11mはホストとなるコンピュータ12によってコントロールされる。
【0023】
試料となる所定形状のゴム材料への電子ビームあるいはイオンビームの照射によって試料から発生した2次電子は、2次電子検出器11nによって検出される。検出器11nによって検出された信号は、増幅器11oによって増幅された後、制御コンピュータ11mを介して陰極線管11pに供給され、陰極線管11pにはスライス部分の走査電子顕微鏡像が得られる。
試料となる所定形状のゴム材料Sはステージ11q上に載せられている。ステージ11qはステージ制御部11rにより、水平方向の2次元移動、回転、傾斜ができるように構成されている。ステージ制御部11rは、制御コンピュータ11mによってコントロールされる。なお、FIB制御部11g、ステージ制御部11rを調整することにより、試料である所定形状のゴム材料は任意の深さ、角度等に調整でき、数nm単位で断面表層の縦方向、ヨコ方向への加工を行うことができるものである。
【0024】
このように構成されるFIB−SEM装置11は、まず、FIBによる試料である所定形状のゴム材料Sの加工が行われる。この試料の加工は、FIBカラム1内のイオン銃11cからイオンビームを発生させ、このイオンビームを集束レンズ11d、対物レンズ11eによって試料S上に細く集束すると共に、イオンビームを偏向器11fによってライン状に走査する。この集束イオンビームは、イオン源からのイオンビームを細く集束し、加工試料Sに照射して試料の任意の表面等をエッチング加工し、加工終了後、試料の移動なしに直ぐにそのエッチング加工された断面をSEM像で観察するものである。このFIB−SEM装置11では、通常、試料Sの上からイオンビームを当ててエッチングし、その断面に試料面から30°の角度で電子ビームを当てて、その断面の構造を観察するものである。イオンビームで加工された試料Sは、試料面に垂直な断面を作り、その断面は、イオンビームの電流量、プローブ径に依存するが、ほとんど試料面に垂直に切り出される。なお、このFIB−SEM装置11では、FIBによる加工後すぐに試料の移動なしにSEM観察できるというメリットだけではなく、同時にFIBによる加工の進行状況や加工面の深度の状況がSEMにおいてモニタリングすることができる。
【0025】
このFIB−SEM装置11では、試料となる所定形状のゴム材料Sを集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面に電子ビームを照射して走査型電子顕微鏡により表面観測してゴム材料の連続画像(複数のスライス画像)を取得するものとなる。本実施形態では、従来の透過型電子顕微鏡(TEM)に較べ1回の測定で、例えば、3μm×3μm×0.2μmという広い範囲を把握でき、位置決めも容易となるものである。
ここで、本実施形態の試料Sである所定形状のゴム材料は、天然ゴム及び/又は合成ゴム等のゴム成分と、カーボンブラックやシリカ等の充填剤とが配合されたゴム材料であり、このゴム材料中には、一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造を有するものであるため、該ネットワーク構造を精査するためには、好ましくは、エッチング処理は0.1〜100nmに調整することが望ましく、更に好ましくは、0.1〜50nmが望ましく、特に好ましくは、0.1〜30nmである。
更に、充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを用いた場合のエッチング処理は、0.1〜30nmであることが好ましくは、更に好ましくは、0.1〜20nmが望ましく、特に好ましくは、0.1〜10nmである。
このエッチング処理が0.1nm未満では、調整が難しくなり、一方、100nmを越えると、充填剤等の複雑なネットワーク構造を得ることができないことがあり、好ましくない。
【0026】
このように構成されるFIB−SEM装置11では、図4(a)及び(b)に示すように、撮影した画像の画像データ(本実施の形態では、150枚の画像の画像データ)を用い、各面に平行な所定間隔でスライスしたスライス画像S1を生成し、後述するように3次元モデルが生成されることとなる。この生成されたスライス画像データはケーブル20を介してコンピュータ12へ出力される。コンピュータ12は、ケーブル20を介して取得したスライス画像データをHDD56に記憶する。
【0027】
コンピュータ12は、ユーザによりキーボード15を介して3次元モデル生成開始の所定操作が行われると後述する3次元モデル生成処理を実行することとなる。後述する3次元モデル生成処理では、HDD56に記憶されたスライス画像データに基づいてゴム材料の3次元モデルが生成される。その後、コンピュータ12は、3次元モデル生成処理を実行して生成された3次元画像に基づいてゴム材料を示す3次元モデルを生成する。生成された3次元モデルはHDD56に記憶される。
更に、コンピュータ12は、ユーザによりキーボード15を介して解析対象とする3次元モデルと解析条件とが指定され、解析開始の所定操作が行われると、後述する解析処理を実行して解析が行なわれることとなる。
本実施形態に係る解析処理では、解析条件として、3次元モデルを変化させる方向と、その方向へ3次元モデルを伸張又は圧縮やせん断変化させる変化率を指定することができる。解析処理では、ゴム材料の3次元モデルを解析条件として指定されて方向へ伸張又は圧縮やせん断した場合の3次元モデルの歪み、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値を解析して解析結果をディスプレイ14に表示することができる。
【0028】
なお、本実施形態に係る解析処理では、3次元モデルのゴム領域の構成条件として、歪と応力の関係を定めた一般化、MOONEY−RIVLIN方程式の1次項までを用いている。また、充填剤はゴムよりも十分に硬いため、3次元モデルの充填剤領域の構成条件として、予め実験等により充填剤の硬さを測定して求めた実測値、又は、充填剤の結晶部とアモルファス部の比率から計算した推定値(10[GPa]から100[GPa]程度の値)を用いる。なお、3次元モデルの充填剤領域の構成条件として、ゴム領域で指定された構成条件より求まるヤング率(弾性率)の所定倍(本実施の形態では、1000倍)のヤング率を用いてもよい。
また、3次元モデルのゴム領域の構成条件として、一般化OGDEN方程式、及び本出願人が開示(特開2005−345413号公報)した下記の式(1)に示す弾性率の温度及び歪依存性を表す構成方程式を用いてもよい。
【0029】
【数1】
【0030】
但し、Gはヤング率を表し、Sはゴム変形時のエントロピー変化を表し、P及びQは弾性率と関係する係数を表し、I1は歪の不変量を表し、Tは絶対温度を表す。βは1/(kΔT)に等しく、kはボルツマン定数、ΔTはゴムのガラス転移温度からの差分を表す。
【0031】
次に、図5を参照しながら、FIB−SEM装置11により実行されるスライス画像生成処理の作用を詳細に説明する。図5は、スライス画像生成処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
図5のステップ100では、初期処理として所定形状のゴム材料が載置された試料台と走査型電子顕微鏡とを相対的に移動させて位置関係を初期位置とする。次のステップ102では、数nmのエッチング処理により、試料表面のクリーニングを行った後、走査型電子顕微鏡によりゴム材料の撮影を行いゴム材料の画像を取得する。
【0032】
次のステップ104では、イオンビームにより設定した深さ(0.1〜100nm、本実施形態では、20nm)でエッチング処理し、走査型電子顕微鏡によりゴム材料の撮影を行いゴム材料の画像を取得する。このステップでは、走査型電子顕微鏡での撮影が完了したか否かを判定し、肯定判定の場合は、設定した深さとなるまでエッチング処理、走査型電子顕微鏡によりゴム材料の撮影を所定回数繰り返し行い、終了後はステップ108へ移行し、否定判定の場合は、再度ゴム材料の撮影を行う。本実施形態では、各エッチング処理は20nmで、撮影回数150回である。
一方、ステップ108では、設定した撮影が完了しているので、撮影によって得られた画像データからCT法により3次元基本モデルを生成する。
【0033】
次のステップ110では、生成した3次元基本モデルを所定間隔毎にスライスしたときの内部構造を含む断面形状を表す複数枚(本実施の形態では、150枚)のスライス画像を生成する。次のステップ112では、生成したスライス画像のスライス画像データをケーブル20を介してコンピュータ12へ出力する。なお、この所定間隔は、ゴム材料に配合される充填剤により変更可能である。
【0034】
ここで、図6は、本実施形態に係るFIB−SEM装置11により生成された1枚のスライス画像の一例が示されている。
図6に示されるスライス画像では、ゴム材料を構成するゴムと充填剤とで物質的に輝度が異なるため、充填剤部分が濃く(濃度値が大きく)、ゴム部分が薄く(濃度値が小さく)示されている。なお、本実施形態に係るゴム材料は、充填剤としてシリカが配合されている。図6に示されるように、スライス画像では、シリカとゴム成分も物質的に輝度が異なるため、ゴム成分と充填剤部分は異なる濃度として示される。よって、スライス画像の各画素の濃度に基づいてスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別することができる。このスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別することができる濃度値は、予め実験等により定めることができる。
【0035】
次に、図7を参照しながら、コンピュータ12により実行される3次元モデル生成処理の作用を詳細に説明する。なお、図7は、3次元モデル生成処理プログラムの流れを示すフローチャ−トである。
図7のステップ150では、実験等により予め定められているスライス画像のゴム部分と充填剤部分とを判別する濃度値をしきい値hとして設定する。次のステップ152では、カウンタnに1を設定する。次のステップ154では、HDD58からn枚目のスライス画像を示すスライス画像データを読み込みを行う。次のステップ156では、読み込んだスライス画像データにより示されるスライス画像の各画素の濃度値をしきい値hと比較して各画素を2値化した2値化画像の2値化画像データを生成する。図8には、図6に示されるスライス画像を2値化した2値化画像が示されている。
【0036】
なお、スライス画像生成処理では、ゴム材料内の充填剤と他に配合された部材とを区別して充填剤部分をより的確に抽出するため、スライス画像の各画素の濃度値をしきい値hと比較して、濃度値がしきい値h以上の画素が上下左右で所定個数(例えば、5個以上)連続している部分の各画素を黒とし、その他の画素を白とした2値化画像の2値化画像データを生成する。
【0037】
次のステップ158では、2値化画像データに対して2値化画像の黒の部分の画素の値を「1」、その他の画素の値を「0」とした2値化画像データにフォーマット変換する。図8には、図6に示される2値化画像の各画像を数値に変換した2値化画像データがその配列を含めたイメージとして示されている。
そして、次のステップ160では、全てのスライス画像データ(本実施の形態では、150枚のスライス画像の各スライス画像データ)に対して読み込みからフォーマット変換までの処理が終了したか否かを判定しており、肯定判定の場合はステップ164へ移行し、否定判定の場合はステップ162へ移行する。ステップ162では、カウンタnを1カウントアップしてステップ154へ移行し、次のスライス画像データの読み込みを行う。
【0038】
一方、ステップ164では、フォーマット変換した各2値化画像データに基づき、2値化画像を各スライス画像のスライス位置の順序でかつ上述した所定間隔で積層して3次元の構造とする。そして、各2値化画像における各画素を単一要素とするメッシュ(格子領域)と定めた3次元モデルを生成する。この3次元モデルでは、画素の値が「1」の部分は充填剤部分、画素の値が「0」の部分はゴム部分となっている。次のステップ166では、生成したゴム材料の3次元モデルの3次元モデルデータをHDD56に記憶する。
【0039】
次のステップ168では、上記ステップ164で生成された3次元モデルについて、各2値化画像の間で同一値の画素を同一の要素として統合した3次元領域を形成する画像処理を行い、ゴム材料の計算上の立体像を生成し、当該立体像をディスプレイ14に表示する。
【0040】
ここで、図9には、ディスプレイ14に表示される立体像の一例が示されている。図9に示されるように、充填剤はゴム材料の内部でネットワーク構造を形成しており、複雑な3次元構造となっている。なお、図9に示す立体像は、スライス画像として取得したゴム材料の範囲内で再構築を行っているので、取得したスライス画像の境界までのゴム材料が表示される。このため、ゴム材料がスライス画像をまたいで連続する場合、境界部分は、所定の平面で切断されたようになる。本実施の形態では、その切断面について充填剤が存在する場合、充填剤の内部に向かうほど濃い濃度となると仮定し、その差異を示した。
【0041】
次に、図10を参照しつつ、コンピュータ12により実行される解析処理の作用を詳細に説明する。なお、図10は、解析処理プログラムの流れを示すフローチャ−トである。
ステップ200では、本処理を遂行するための初期処理を行う。まず、ユーザにより指定された3次元モデルを解析対象の3次元モデルとして設定する。次に、本解析処理における解析条件を設定する。解析条件は、解析対象の3次元モデルに付与するエネルギーの種類、エネルギーの付与の方法、エネルギー付与後に変動または発生する構造や状態の種類、その取得方法、など何れかが対応する。
【0042】
本実施の形態では、付与するエネルギーの種類として、圧縮または伸張のための圧力や応力を対応させると共にその付与方向も対応させる。また、エネルギー付与後の変動として、圧力分布や応力分布を対応させる。これらの設定は、予めユーザーによる入力で実施してもよいし、予めプログラム上で規定してもよい。これにより、解析条件として、3次元モデルを変化させる方向、3次元モデルを伸張又は圧縮変化させる圧力や応力、そして変化量や変化率、それらの分布を設定することができる。なお、解析条件では、3次元モデルのゴム部分の構成条件を上述した一般化MOONEY−RIVLIN方程式の1次項とすること設定することを含んでいる。また、充填剤部分のメッシュの構成条件として上記実測値、又は推定値より求まるヤング率を設定することも含んでいる。
【0043】
ステップ202では、ステップ200において設定した解析対象の3次元モデルの3次元モデルデータをHDD56から読み込む。
次に、ステップ204では、HDD56から読み込んだ3次元モデルデータにより示される3次元モデルのゴム部分及び充填剤部分の各メッシュの構成条件として、ステップ200において設定した解析条件を付与し、3次元モデルデータを再構成する。
次のステップ206では、再構成した3次元モデルデータを用いてステップ200において設定した構成条件で3次元モデルを変化させた際の3次元モデルの歪み、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値を有限要素法により解析する。
【0044】
次のステップ208では、解析により求まった3次元モデルの歪み状態、内部応力分布、3次元モデル全体で応力値をディスプレイ14に表示して処理終了となる。
図11、図12には、第1実施形態に係る解析処理による解析結果の一例が示されている。なお、図11、図12は、3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をZ方向へ10%伸張させる解析を行った際の歪状態及び応力分布の解析結果である。応力分布は応力値が高い部分ほど濃い濃度として表している。
【0045】
図11は、3次元モデルを生成する際に積層された2値化画像の1つの面(XY面)での歪状態及び当該面を構成する各メッシュでの応力分布を示している。図12は、3次元モデルの2値化画像の面と直交する方向の断面(XZ面)での歪状態、及び当該断面を構成する各メッシュでの応力分布を示している。
【0046】
このように、上記実施形態によれば、実際のゴム材料から生成した3次元モデルを用いることによりミクロレベルでの応力及び歪状態の解析が可能となった。このミクロレベルでの応力及び歪状態の解析により、ゴム材料における充填剤の配合量等の最適化が可能となり、ゴム材料のより高い精度での性能コントロールが可能となった。
【0047】
一方、図13は、3次元モデルデータを用いてZ方向への伸張率を変化させて解析を行った際の伸張率と3次元モデル全体の応力値とを関係を示している。図13の線Aは、充填剤が配合されたゴム材料の3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をZ方向へ10%、20%、30%それぞれ伸張させた際の伸張率と解析結果の応力値との関係を示している。また、図13の線Bは、充填剤が配合されていないゴム材料の3次元モデルデータ(すなわち、3次元モデルの全てメッシュをゴム部分。)を用いて3次元モデル全体をZ方向へ1%〜30%まで伸張させた際の伸張率と解析結果の応力値との関係を示している。
【0048】
また、図14は、図13を伸張率[%]とヤング率(=応力/伸張率)[MPa]の関係として示している。
この実施形態に係る解析処理によれば、図13、図14に示されるように、ゴム材料に充填剤が配合されたことによる応力及びヤング率(弾性率)の増大効果を解析結果においても再現することができた。
【0049】
一方、図15には、実際のゴム材料の伸張率とヤング率とを実験によって測定した結果(図15の線D参照)と、当該ゴム材料に対して本実施の形態に係るゴム材料変形挙動予測システム10を用いて解析を行った結果(図15の線C参照)とが示されている。なお、図14の線Cは、ゴム材料から生成した3次元モデルデータを用いて3次元モデル全体をZ方向へ10%、20%、30%それぞれ伸張させた際の解析結果の応力値からヤング率(=応力/伸張率)を求めた結果である。
【0050】
図15に示されるように、実験による測定結果の応力歪曲線(図15の線D)と解析結果の応力歪曲線(図15の線C)には約20%程度の差が認められるが、解析結果はゴム部分の構成条件として付与したMOONEY−RIVLIN方程式の1次項までを用いた近似範囲でほぼ測定結果を表していると考えられる。
【0051】
一方、下記表1には、ゴム材料A、ゴム材料B及びゴム材料Cに対して本実施の形態に係るゴム材料変形挙動予測システム10を用いてそれぞれ解析処理を行った結果の応力分布から求まるゴム部分の応力の最大値と、当該ゴム材料A、ゴム材料B及びゴム材料Cに対して摩擦実験を行った際の摩耗速度とが示されている。
【表1】
なお、応力の最大値と摩耗速度は、ゴム材料Aを基準とした相対値で示されている。このゴム材料A、ゴム材料B及びゴム材料Cは、同一ゴム及び充填剤を同じ量だけ配合しており、材料の構成が同一となっている。ゴム材料Cは3つの中で最も充填剤の分散の良く(充填剤が一様に分布している)、ゴム材料Bは3つの中で充填剤の分散が悪い(充填剤の分布が偏っている)。
【0052】
ゴム材料は、応力分布の最大値が大きいとゴム部分に亀裂等が生じやすくなるため消耗が早くなると考えられる。従って、3つの中で充填剤の分散が悪いゴム材料Bの方が、ゴム材料Cと同じ構成であっても、早く消耗すると予測される。これは、上記表1に示される摩擦実験の実験結果と一致し、解析処理により求まる応力分布の最大値からゴム材料の摩耗速度を予測することができる。
【0053】
以上のように本実施形態によれば、コンピュータ12は、集束イオンビーム(FIB)によって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により表面観測して取得したゴム材料の複数のスライス画像データをケーブル20を介して外部I/O制御部60から取得する。CPU40は、3次元モデル生成処理が実行されると、スライス画像の各画素の濃度値としいき値hとに基づいて各スライス画像を2値化画像に変換する。また、CPU40は、3次元モデル生成処理において、変換した複数の2値化画像を各スライス画像のスライス位置の順序でかつ所定間隔で積層し、当該2値化画像における各画素を単一要素とするメッシュと定めた3次元モデルを生成する。CPU40は、解析処理が実行されると、生成された3次元モデルのメッシュに対してゴムあるいは充填剤の歪と応力の関係を定めた構成条件を付与し、変形挙動を解析を行う。これにより、実際のゴム材料のゴム部分及び充填剤部分の変形挙動をミクロレベルで精密に解析することができるものとなる。また、歪みによる物性変化も予測でき、これによりゴム材料の破断強度等の物性制御が可能となる。
【0054】
本発明のゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法は、上記実施形態に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の形態で変更することができる。
例えば、上記実施形態では、生成された3次元モデルの全ての領域において解析処理を行ったが、例えば、実際にゴム材料に配合された充填剤の体積比率をキーボード15から入力し、解析処理において充填剤部分の体積比率が実際の充填剤の体積比率となる3次元モデルの領域を解析対象の領域としてもよい。これにより、実際のゴム材料の充填剤の体積比率の領域の3次元モデルを用いて解析を行うことができるため、実際の充填剤の配合量に応じた弾性率及び応力分布を適切に解析することができる。
【0055】
また、上記実施形態で説明したFIB−SEM装置11及びコンピュータ12の構成は、一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
更に、上記実施形態で説明したスライス画像生成処理、3次元モデル生成処理、解析処理の処理の流れ(図5、図7、図10参照)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
更にまた、本実施形態では、コンピュータ12はケーブル20でFIB−SEM装置11と接続してスライス画像データを取得する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、記録テープ、MO、メモリーカード、CD−ROM等の記録媒体を介して取得する構成としてもよい。これらを用いるときには、コンピュータ12に対応する読み書き装置を備えるようにすればよい。
【0056】
このように構成される本発明では、従来の透過型電子顕微鏡(TEM)に較べ、広い範囲の画像が取得でき、積層の際にも位置決めが容易となるものであり、ゴム材料中に存在している一次粒径が数十nmの充填剤が数十個以上連なった複雑なネットワーク構造有するゴム材料の変形挙動を精密に解析できると共に、解析時間を更に短縮することができるゴム材料の変形挙動予測装置及びその変形挙動予測方法が提供されるものとなる。
また、FIB−SEM装置11により実際のゴム材料を撮影して得られたスライス画像をしきい値hに基づいて2値化し、2値化画像の各画素をメッシュとした3次元モデルを生成しているため、実際のゴム材料の構造に近い構造の3次元モデルを生成することができる。
更に、実際のゴム材料の構造に近い構造の3次元モデルを用いて有限要素法により解析を行うことにより、ゴム材料の内部の弾性率及び応力分布を精密に解析することができ、ゴム材料に含まれる充填剤の分布度合いに応じた摩耗速度を予測することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のゴム材料変形挙動予測装置(システム)の一例を示す全体構成図である。
【図2】本発明のゴム材料変形挙動予測装置に用いるコンピュータの電気系の構成の一例を示す構成図である。
【図3】本発明に用いるFIB−SEM装置の一例を示す概略図である。
【図4】スライス画像生成処理を説明する説明図であり、(a)はスライス画像を積層した状態を示す概略図、(b)は3次元モデルの概略立体透過図である。
【図5】スライス画像生成処理プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図6】スライス画像の一例を示す図である。
【図7】3次元モデル生成処理プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図8】スライス画像を2値化した2値化画像を示す図である。
【図9】3次元モデルの一例を示す図である。
【図10】解析処理プログラムの処理の流れを示すフローである。
【図11】ディスプレイに表示される解析結果の断面画像の一例を示す図である。
【図12】ディスプレイに表示される解析結果の側面側からの断面画像の一例を示す図である。
【図13】3次元モデル全体の伸長率と応力値との関係を示す図である。
【図14】図13に示される関係を伸長率とヤング率の関係を示す図である。
【図15】実際のゴム材料の伸長率とヤング率とを実験によって測定した結果と、当該ゴム材料を用いて3時限モデルを生成して解析を行った結果を示す図である。
【図16】従来の透過型電子顕微鏡(TEM)と計算機トモグラフィー法(CT法)により3次元モデルを構成する概要を示す概略図である。
【符号の説明】
【0058】
10 ゴム材料変形挙動予測システム
11FIB−SEM装置
12 コンピュータ(変形挙動予測装置)
40 CPU(判別手段、3次元画像生成手段、3次元モデル生成手段、条件付与手段、解析手段)
60 外部I/O制御部(取得手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得する取得手段と、
該取得手段により取得された各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換する変換手段と、
該変換手段により変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段と、
該3次元モデル生成手段により生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与する付与手段と、
該付与手段により構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析する解析手段と、
該解析手段による解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定し、提示する提示手段とを備えたことを特徴とするゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項2】
エッチング処理が0.1〜100nmであることを特徴とする請求項1記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項3】
充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを用いた場合のエッチング処理が0.1〜30nmであることを特徴とする請求項2記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項4】
前記3次元モデルの変形挙動を、前記構成条件が付与された有限要素法を用いて解析することを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項5】
ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得し、
該取得した各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換し、
該変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成し、
該生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与し、
前記構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析し、
該解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定して、ゴム材料の変形挙動を予測することを特徴とするゴム材料の変形挙動予測方法。
【請求項1】
ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得する取得手段と、
該取得手段により取得された各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換する変換手段と、
該変換手段により変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段と、
該3次元モデル生成手段により生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与する付与手段と、
該付与手段により構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析する解析手段と、
該解析手段による解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定し、提示する提示手段とを備えたことを特徴とするゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項2】
エッチング処理が0.1〜100nmであることを特徴とする請求項1記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項3】
充填剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを用いた場合のエッチング処理が0.1〜30nmであることを特徴とする請求項2記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項4】
前記3次元モデルの変形挙動を、前記構成条件が付与された有限要素法を用いて解析することを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のゴム材料の変形挙動予測装置。
【請求項5】
ゴムと充填剤とが配合された所定形状のゴム材料を集束イオンビームによって所定間隔毎に表面をエッチング処理し、各エッチング処理した表面を走査型電子顕微鏡により表面観測して複数のスライス画像を取得し、
該取得した各スライス画像を構成する各画素の濃度値に基づいて当該各スライス画像に含まれるゴム部分と充填剤部分とを判別するための2値化画像に変換し、
該変換した複数の2値化画像を所定間隔で積層し、3次元モデルを生成し、
該生成された3次元モデルの各格子領域に対して前記2値化された値に基づいてゴム又は充填剤の歪みと応力の関係を定めた構成条件を付与し、
前記構成条件が付与された前記3次元モデルを用いて変形挙動を解析し、
該解析結果により、歪み分布若しくは応力分布を算出し、歪み若しくは応力の分布領域を区別し、各領域の位置を特定して、ゴム材料の変形挙動を予測することを特徴とするゴム材料の変形挙動予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【公開番号】特開2010−2314(P2010−2314A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161782(P2008−161782)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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