ゴム物品補強用スチールコードおよびそれを用いたタイヤ
【課題】コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、タイヤ重量を増加させることなく、耐カット性が向上したゴム物品補強用スチールコード、およびそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランド１の周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせた複数本のシースストランド２を撚り合わせてなる複撚り構造を有するゴム物品補強用スチールコード１０である。シースストランド２が２層撚り構造を有するストランドと３層撚り構造を有するストランドからなる。
【解決手段】複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランド１の周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせた複数本のシースストランド２を撚り合わせてなる複撚り構造を有するゴム物品補強用スチールコード１０である。シースストランド２が２層撚り構造を有するストランドと３層撚り構造を有するストランドからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明はゴム物品補強用スチールコード（以下、単に「スチールコード」とも称する）およびそれを用いたタイヤに関し、詳しくは、コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、タイヤ重量を増加させることなく、耐カット性が向上したゴム物品補強用スチールコード、およびそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【０００２】
建設車両用タイヤは大規模土木工事現場や鉱石採掘場で供用される大型ダンプカーなどに装着され、荒れた地表上で重い負荷の下に過酷な稼働条件が課される。すなわち、荒れ地走行を使命とする建設車両用タイヤは、路面からの入力が大きい上、元来重荷重が負荷されるため、そのカーカスやベルトなどの各補強層に使用するスチールコードには高い引張り強さ(切断荷重)が要求される。
【０００３】
そのため、これら補強層には複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランドの周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランド数本を撚り合わせてなる、例えば、７×（３＋９）構造や７×（３＋９＋１５）構造など、いわゆる複撚り構造のスチールコードが広く用いられている。
【０００４】
また、建設車両用タイヤは、荒れた地表面に対し重い負荷が課せられる結果として、外傷を受ける機会が多く、これに対し補強材としてのコードには太い径のものを用いるか、単位面積当りのコード引張り破断強力を高くする、いわゆる高抗張力鋼を適用するなど、コード軸方向の引張り破断強度を高くする対応がなされている。
【０００５】
ところが、複数本のストランドを撚り合わせた複撚りコードでは、フィラメントの強力の総和に比べて撚り角に起因した減少では説明できないほどのコード強力の低下を招き、このことが問題となっていた。この問題の対策として、特許文献１には一部フィラメントの先行破断を回避してコード軸方向の強力の低下を抑制する手法が提案されている。また、特許文献２には、重量および厚みを増加することなしにタイヤに対する耐カット性能の向上を実現した複撚り構造のスチールコードが提案されている。さらに、特許文献３には、コード軸方向の強力を低下させることなく、タイヤに対する耐カット性を向上した複撚り構造のスチールコードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００６】
【特許文献１】ＷＯ２００１／０３４９００号公報
【特許文献２】特開２００２−３３９２７７号公報
【特許文献３】特開２００６−２２４４０号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
しかしながら、これまでの重荷重用タイヤの補強材としてのスチールコードは、次のような状況下において、必ずしも満足の得られるものではなかった。
【０００８】
すなわち、荒地走行を強いられる重荷重用タイヤのベルト層、特にインナー側に最も近いベルト層は比較的鈍的な突起物を踏んだ場合、大きく曲げられ、補強用スチールコードはコード軸方向引張り入力で先行的にコード破断をきたすことが多く見られた。一方、比較的鋭的な突起物を踏んだ場合には、局所的に曲げられ、突起物からのせん断力により、特にトレッド側に最も近いベルト補強層より、やはりコード破断をきたすことが多く見られた。このようなことから、建設車両用タイヤに補強材として適用するスチールコードには、コードの軸方向の引張り強さと、せん断方向の強さの両方が求められている。
【０００９】
また、ベルト層が厚い場合、突起物を踏んだ時の曲げられる時、インナー側のベルトコードは曲げの外側に位置するので、切断伸度に至る引張り入力が容易に入り易くなるため、ベルト層をできるだけ薄くすることが求められている。
【００１０】
そこで、本発明の目的は、コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、径方向の厚みを増すことなく、すなわち、タイヤ重量を増加させることなく、鈍的および鋭的な突起物を踏んだ場合に、切り目および穿孔などいわゆるカット性に対する耐久を向上させたゴム物品補強用スチールコード、およびこのゴム物品補強用スチールコードを補強材として適用したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
本発明者は、上記課題を解決するために、複撚り構造のスチールコードの構造につき鋭意検討した結果、シースストランドを所定の構造とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【００１２】
すなわち、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランドの周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせた複数本のシースストランドを撚り合わせてなる複撚り構造を有するゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記シースストランドが２層撚り構造を有するストランドと３層撚り構造を有するストランドからなることを特徴とするものである。
【００１３】
本発明においては、前記２層撚り構造を有するストランドの径と前記３層撚り構造を有するストランドの径とが同一であることが好ましく、また、前記シースストランドの総本数が偶数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドとが同数であるか、または、前記シースストランドの総本数が奇数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドのいずれか一方が他方よりも１本多いことが好ましく、さらにまた、前記シースストランドの総本数は６〜９本であることが好ましく、さらにまた、前記ゴム物品補強用スチールコードの径は５．０ｍｍ以上であることが好ましい。
【００１４】
本発明のタイヤは、本発明のゴム物品補強用スチールコードを補強材として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【００１５】
本発明によれば、コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、タイヤ重量を増加させることなく、耐カット性が向上したゴム物品補強用スチールコード、およびそれを用いたタイヤを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【００１６】
【図１】本発明の一実施の形態に係るスチールコードの概略断面図である（実施例１）。
【図２】本発明の他の実施の形態に係るスチールコードの概略断面図である（実施例２）。
【図３】比較例に係るスチールコードの概略断面図である。
【図４】従来例に係るスチールコードの概略断面図である。
【図５】本発明のタイヤの一実施の形態に係る建設車両用タイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１７】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図１は、本発明のスチールコードの一好適実施の形態の概略断面図である。本発明のスチールコード１０は、複数本（図示例では２７本）のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランド１の周りに、複数本（図示例では２７本）のフィラメントを撚り合わせた複数本（図示例では６本）のシースストランドを撚り合わせてなる層撚り構造を有している。本発明においては、図示はしないが、スチールコード１０の外周にはラッピングフィラメントがコード外周に沿って螺旋状に巻回されていてもよい。また、図示例においては、コアストランド１は（３＋９＋１５）構造の層撚り構造を有しているが、単撚り構造であってもよい。
【００１８】
本発明においては、シースストランド２が２層撚り構造を有するストランド２ａと３層撚り構造を有するストランド２ｂとからなる。２層撚り構造を有するストランド２ａによりせん断強さを確保し、また、３層撚り構造を有するストランド２ｂにより引張り強さを確保することで、両者の利点を持ち合わせたスチールコードとなる。
【００１９】
本発明においては、２層撚り構造を有するストランド２ａの径と３層撚り構造を有するストランド２ｂの径とが同一であることが好ましい。ストランド２ａとストランド２ｂとの径を同一にすることによって、すなわち、ストランド２ａを構成するフィラメントの径を太くすることによって、カット入力時の耐せん断性を良好に向上させることができる。一方、ストランド２ａとストランド２ｂの径とが同一でない場合は、引張り強さとせん断強さの両立が困難となる場合がある。
【００２０】
また、本発明においては、図１に示す様に、シースストランド２の総本数が偶数の場合、２層撚り構造を有するストランド２ａと３層撚り構造を有するストランド２ｂとが同数であるか、または、図２に示す様に、シースストランド２の総本数が奇数の場合、２層撚り構造を有するストランド２ａと３層撚り構造を有するストランド２ｂのいずれか一方が他方よりも１本多いことが好ましい。これにより、せん断強さと引張り強さとをバランス良く向上させることができる。
【００２１】
シースストランドの総本数が偶数の場合において、３層撚り構造を有するストランド２ｂが２層撚り構造を有するストランド２ａより多くなるとストランドを構成するフィラメントが細くなり、抗張力が高くなり引張り強度は得られるものの、カット入力時に細いフィラメントが先行破壊し必要な耐せん断性が得難くなる。一方、２層撚り構造を有するストランド２ａが３層撚り構造を有するストランド２ｂより多くなるとカット入力時に太いフィラメントが十分な耐せん断性を発揮するものの、抗張力が低くなるため必要な引張り強度が得られない場合がある。シースストランドの総本数が奇数の場合も、同様である。
【００２２】
さらに、本発明においては、シースストランド２の総本数が６〜９本であることが好ましい。シースストランド２の総本数が６本未満の場合、スチールコード断面積に対して充分な引張り強力が得難くなる場合がある。一方、シースストランド２の総本数が１０本以上になると、コアストランド１を構成するフィラメント径が極端に太くなるため、スチールコード１０の曲げ剛性が高くなり、タイヤ等のゴム物品に適用した場合、フィラメントの表面歪みが増加して十分な耐疲労性を得難くなる場合がある。
【００２３】
さらにまた、本発明においては、スチールコード１０の径が５．０ｍｍ以上であることが好ましい。スチールコード１０のコード径が５．０ｍｍ未満であると、十分なせん断強さと引張り強さを得ることができない場合がある。
【００２４】
本発明においては、コアストランド１とシースストランド２は、それぞれストランド内を線接触とし応力集中による破断を避けるため、同方向撚り構造が好ましい。また、ゴム物品の強度を確保するために、使用するフィラメントには炭素含有量０．８〜１．００質量％のいわゆる高抗張力鋼を用いることが好ましい。
【００２５】
本発明のスチールコード１０は、上記複撚り構造のスチールコードにおいて上記条件を満足するものであれば、使用するフィラメントのフィラメント径、撚りピッチ等については、特に制限されるものではなく、所望に応じ適宜選定することが可能である。
【００２６】
本発明のタイヤは、本発明のスチールコード１０を補強材として用いたものであり、輸送車両または建造機械のような重車両に適用することができる。例えば、図５に示す建設車両用タイヤを好適に挙げることができる。この建設車両用タイヤは、１対のビードコア２０間でラジアル方向に延びるスチールコードのプライからなるカーカス２１と、このカーカス２１のクラウン部のタイヤ径方向外側に、並置配列したスチールコードを積層間で交差させた少なくとも４層、（図示例では６層）のベルト２２と、このベルト２２のタイヤ径方向外側に配置したトレッド２３とを具備する。
【００２７】
本発明においては、本発明のスチールコードを、例えば、少なくとも２層のベルトのベルトコードに適用することができる。これにより、タイヤ重量を増加させることなく耐久性に優れたタイヤを得ることができる。本発明のタイヤにおいては、上記本発明のスチールコードを補強材として用いる以外の点については特に制限されるものではなく、常法に従い適宜構成することが可能である。
【実施例】
【００２８】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
（実施例１、２、比較例および従来例）
下記の表１に示す種々のスチールコードを製作した。これらのスチールコードのコード軸に直交する断面構造について図１〜４にそれぞれ示す。図１は実施例１、図２は実施例２、図３は比較例、図４は従来例にそれぞれ対応する。なお、スチールコードに使用したフィラメントは炭素含有量０．８２質量％の高抗張力鋼である。
【００２９】
＜耐せん断性＞
得られたスチールコードについてシャルピー衝撃試験機を用い、耐せん断破壊性を評価した。得られた結果を、従来例のスチールコードを１００として指数表示した。この数値が大なる程、結果が良好である。得られた結果を表１に併記する。
【００３０】
＜タイヤ重量＞
得られたスチールコードを用いて、タイヤサイズ５３Ｒ６３の建設車両用タイヤのベルト層に補強材として適用し、重量測定を行った。得られた結果を、従来例のタイヤの重量を１００として指数表示した。数値が小なる程、結果が良好である。得られた結果を表１に併記する。
【００３１】
＜カット受傷数＞
得られたスチールコードをサイズ５３Ｒ６３の建設車両用タイヤのベルト層に補強材として適用した。なお、各タイヤはスチールコードの重量が同等となるように設計した。各タイヤを、ＪＡＴＭＡ規格の標準リムに組み込み建設車両に装着して平均車両速度４０ｋｍ／ｈで１０００時間走行後に、各タイヤの周方向の１／５相当の部分において、スチールコードを適用した各層に達したカット個数を数えた。得られた結果を表１に併記する。
【００３２】
【表１】
【００３３】
表１より、本発明のスチールコードを用いたタイヤは、タイヤ重量を増加させることなく、耐せん断性、耐カット性に優れたものであることがわかる。
【符号の説明】
【００３４】
１ コアストランド
２ シースストランド
２ａ ２層撚り構造を有するストランド
２ｂ ３層撚り構造を有するストランド
１０ スチールコード
２０ ビードコア
２１ カーカス
２２ ベルト
２３ トレッド
【技術分野】
【０００１】
本発明はゴム物品補強用スチールコード（以下、単に「スチールコード」とも称する）およびそれを用いたタイヤに関し、詳しくは、コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、タイヤ重量を増加させることなく、耐カット性が向上したゴム物品補強用スチールコード、およびそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【０００２】
建設車両用タイヤは大規模土木工事現場や鉱石採掘場で供用される大型ダンプカーなどに装着され、荒れた地表上で重い負荷の下に過酷な稼働条件が課される。すなわち、荒れ地走行を使命とする建設車両用タイヤは、路面からの入力が大きい上、元来重荷重が負荷されるため、そのカーカスやベルトなどの各補強層に使用するスチールコードには高い引張り強さ(切断荷重)が要求される。
【０００３】
そのため、これら補強層には複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランドの周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランド数本を撚り合わせてなる、例えば、７×（３＋９）構造や７×（３＋９＋１５）構造など、いわゆる複撚り構造のスチールコードが広く用いられている。
【０００４】
また、建設車両用タイヤは、荒れた地表面に対し重い負荷が課せられる結果として、外傷を受ける機会が多く、これに対し補強材としてのコードには太い径のものを用いるか、単位面積当りのコード引張り破断強力を高くする、いわゆる高抗張力鋼を適用するなど、コード軸方向の引張り破断強度を高くする対応がなされている。
【０００５】
ところが、複数本のストランドを撚り合わせた複撚りコードでは、フィラメントの強力の総和に比べて撚り角に起因した減少では説明できないほどのコード強力の低下を招き、このことが問題となっていた。この問題の対策として、特許文献１には一部フィラメントの先行破断を回避してコード軸方向の強力の低下を抑制する手法が提案されている。また、特許文献２には、重量および厚みを増加することなしにタイヤに対する耐カット性能の向上を実現した複撚り構造のスチールコードが提案されている。さらに、特許文献３には、コード軸方向の強力を低下させることなく、タイヤに対する耐カット性を向上した複撚り構造のスチールコードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００６】
【特許文献１】ＷＯ２００１／０３４９００号公報
【特許文献２】特開２００２−３３９２７７号公報
【特許文献３】特開２００６−２２４４０号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
しかしながら、これまでの重荷重用タイヤの補強材としてのスチールコードは、次のような状況下において、必ずしも満足の得られるものではなかった。
【０００８】
すなわち、荒地走行を強いられる重荷重用タイヤのベルト層、特にインナー側に最も近いベルト層は比較的鈍的な突起物を踏んだ場合、大きく曲げられ、補強用スチールコードはコード軸方向引張り入力で先行的にコード破断をきたすことが多く見られた。一方、比較的鋭的な突起物を踏んだ場合には、局所的に曲げられ、突起物からのせん断力により、特にトレッド側に最も近いベルト補強層より、やはりコード破断をきたすことが多く見られた。このようなことから、建設車両用タイヤに補強材として適用するスチールコードには、コードの軸方向の引張り強さと、せん断方向の強さの両方が求められている。
【０００９】
また、ベルト層が厚い場合、突起物を踏んだ時の曲げられる時、インナー側のベルトコードは曲げの外側に位置するので、切断伸度に至る引張り入力が容易に入り易くなるため、ベルト層をできるだけ薄くすることが求められている。
【００１０】
そこで、本発明の目的は、コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、径方向の厚みを増すことなく、すなわち、タイヤ重量を増加させることなく、鈍的および鋭的な突起物を踏んだ場合に、切り目および穿孔などいわゆるカット性に対する耐久を向上させたゴム物品補強用スチールコード、およびこのゴム物品補強用スチールコードを補強材として適用したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
本発明者は、上記課題を解決するために、複撚り構造のスチールコードの構造につき鋭意検討した結果、シースストランドを所定の構造とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【００１２】
すなわち、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランドの周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせた複数本のシースストランドを撚り合わせてなる複撚り構造を有するゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記シースストランドが２層撚り構造を有するストランドと３層撚り構造を有するストランドからなることを特徴とするものである。
【００１３】
本発明においては、前記２層撚り構造を有するストランドの径と前記３層撚り構造を有するストランドの径とが同一であることが好ましく、また、前記シースストランドの総本数が偶数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドとが同数であるか、または、前記シースストランドの総本数が奇数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドのいずれか一方が他方よりも１本多いことが好ましく、さらにまた、前記シースストランドの総本数は６〜９本であることが好ましく、さらにまた、前記ゴム物品補強用スチールコードの径は５．０ｍｍ以上であることが好ましい。
【００１４】
本発明のタイヤは、本発明のゴム物品補強用スチールコードを補強材として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【００１５】
本発明によれば、コード軸方向の強力を低下させることなく、かつ、タイヤ重量を増加させることなく、耐カット性が向上したゴム物品補強用スチールコード、およびそれを用いたタイヤを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【００１６】
【図１】本発明の一実施の形態に係るスチールコードの概略断面図である（実施例１）。
【図２】本発明の他の実施の形態に係るスチールコードの概略断面図である（実施例２）。
【図３】比較例に係るスチールコードの概略断面図である。
【図４】従来例に係るスチールコードの概略断面図である。
【図５】本発明のタイヤの一実施の形態に係る建設車両用タイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１７】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図１は、本発明のスチールコードの一好適実施の形態の概略断面図である。本発明のスチールコード１０は、複数本（図示例では２７本）のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランド１の周りに、複数本（図示例では２７本）のフィラメントを撚り合わせた複数本（図示例では６本）のシースストランドを撚り合わせてなる層撚り構造を有している。本発明においては、図示はしないが、スチールコード１０の外周にはラッピングフィラメントがコード外周に沿って螺旋状に巻回されていてもよい。また、図示例においては、コアストランド１は（３＋９＋１５）構造の層撚り構造を有しているが、単撚り構造であってもよい。
【００１８】
本発明においては、シースストランド２が２層撚り構造を有するストランド２ａと３層撚り構造を有するストランド２ｂとからなる。２層撚り構造を有するストランド２ａによりせん断強さを確保し、また、３層撚り構造を有するストランド２ｂにより引張り強さを確保することで、両者の利点を持ち合わせたスチールコードとなる。
【００１９】
本発明においては、２層撚り構造を有するストランド２ａの径と３層撚り構造を有するストランド２ｂの径とが同一であることが好ましい。ストランド２ａとストランド２ｂとの径を同一にすることによって、すなわち、ストランド２ａを構成するフィラメントの径を太くすることによって、カット入力時の耐せん断性を良好に向上させることができる。一方、ストランド２ａとストランド２ｂの径とが同一でない場合は、引張り強さとせん断強さの両立が困難となる場合がある。
【００２０】
また、本発明においては、図１に示す様に、シースストランド２の総本数が偶数の場合、２層撚り構造を有するストランド２ａと３層撚り構造を有するストランド２ｂとが同数であるか、または、図２に示す様に、シースストランド２の総本数が奇数の場合、２層撚り構造を有するストランド２ａと３層撚り構造を有するストランド２ｂのいずれか一方が他方よりも１本多いことが好ましい。これにより、せん断強さと引張り強さとをバランス良く向上させることができる。
【００２１】
シースストランドの総本数が偶数の場合において、３層撚り構造を有するストランド２ｂが２層撚り構造を有するストランド２ａより多くなるとストランドを構成するフィラメントが細くなり、抗張力が高くなり引張り強度は得られるものの、カット入力時に細いフィラメントが先行破壊し必要な耐せん断性が得難くなる。一方、２層撚り構造を有するストランド２ａが３層撚り構造を有するストランド２ｂより多くなるとカット入力時に太いフィラメントが十分な耐せん断性を発揮するものの、抗張力が低くなるため必要な引張り強度が得られない場合がある。シースストランドの総本数が奇数の場合も、同様である。
【００２２】
さらに、本発明においては、シースストランド２の総本数が６〜９本であることが好ましい。シースストランド２の総本数が６本未満の場合、スチールコード断面積に対して充分な引張り強力が得難くなる場合がある。一方、シースストランド２の総本数が１０本以上になると、コアストランド１を構成するフィラメント径が極端に太くなるため、スチールコード１０の曲げ剛性が高くなり、タイヤ等のゴム物品に適用した場合、フィラメントの表面歪みが増加して十分な耐疲労性を得難くなる場合がある。
【００２３】
さらにまた、本発明においては、スチールコード１０の径が５．０ｍｍ以上であることが好ましい。スチールコード１０のコード径が５．０ｍｍ未満であると、十分なせん断強さと引張り強さを得ることができない場合がある。
【００２４】
本発明においては、コアストランド１とシースストランド２は、それぞれストランド内を線接触とし応力集中による破断を避けるため、同方向撚り構造が好ましい。また、ゴム物品の強度を確保するために、使用するフィラメントには炭素含有量０．８〜１．００質量％のいわゆる高抗張力鋼を用いることが好ましい。
【００２５】
本発明のスチールコード１０は、上記複撚り構造のスチールコードにおいて上記条件を満足するものであれば、使用するフィラメントのフィラメント径、撚りピッチ等については、特に制限されるものではなく、所望に応じ適宜選定することが可能である。
【００２６】
本発明のタイヤは、本発明のスチールコード１０を補強材として用いたものであり、輸送車両または建造機械のような重車両に適用することができる。例えば、図５に示す建設車両用タイヤを好適に挙げることができる。この建設車両用タイヤは、１対のビードコア２０間でラジアル方向に延びるスチールコードのプライからなるカーカス２１と、このカーカス２１のクラウン部のタイヤ径方向外側に、並置配列したスチールコードを積層間で交差させた少なくとも４層、（図示例では６層）のベルト２２と、このベルト２２のタイヤ径方向外側に配置したトレッド２３とを具備する。
【００２７】
本発明においては、本発明のスチールコードを、例えば、少なくとも２層のベルトのベルトコードに適用することができる。これにより、タイヤ重量を増加させることなく耐久性に優れたタイヤを得ることができる。本発明のタイヤにおいては、上記本発明のスチールコードを補強材として用いる以外の点については特に制限されるものではなく、常法に従い適宜構成することが可能である。
【実施例】
【００２８】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
（実施例１、２、比較例および従来例）
下記の表１に示す種々のスチールコードを製作した。これらのスチールコードのコード軸に直交する断面構造について図１〜４にそれぞれ示す。図１は実施例１、図２は実施例２、図３は比較例、図４は従来例にそれぞれ対応する。なお、スチールコードに使用したフィラメントは炭素含有量０．８２質量％の高抗張力鋼である。
【００２９】
＜耐せん断性＞
得られたスチールコードについてシャルピー衝撃試験機を用い、耐せん断破壊性を評価した。得られた結果を、従来例のスチールコードを１００として指数表示した。この数値が大なる程、結果が良好である。得られた結果を表１に併記する。
【００３０】
＜タイヤ重量＞
得られたスチールコードを用いて、タイヤサイズ５３Ｒ６３の建設車両用タイヤのベルト層に補強材として適用し、重量測定を行った。得られた結果を、従来例のタイヤの重量を１００として指数表示した。数値が小なる程、結果が良好である。得られた結果を表１に併記する。
【００３１】
＜カット受傷数＞
得られたスチールコードをサイズ５３Ｒ６３の建設車両用タイヤのベルト層に補強材として適用した。なお、各タイヤはスチールコードの重量が同等となるように設計した。各タイヤを、ＪＡＴＭＡ規格の標準リムに組み込み建設車両に装着して平均車両速度４０ｋｍ／ｈで１０００時間走行後に、各タイヤの周方向の１／５相当の部分において、スチールコードを適用した各層に達したカット個数を数えた。得られた結果を表１に併記する。
【００３２】
【表１】
【００３３】
表１より、本発明のスチールコードを用いたタイヤは、タイヤ重量を増加させることなく、耐せん断性、耐カット性に優れたものであることがわかる。
【符号の説明】
【００３４】
１ コアストランド
２ シースストランド
２ａ ２層撚り構造を有するストランド
２ｂ ３層撚り構造を有するストランド
１０ スチールコード
２０ ビードコア
２１ カーカス
２２ ベルト
２３ トレッド
【特許請求の範囲】
【請求項１】
複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランドの周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせた複数本のシースストランドを撚り合わせてなる複撚り構造を有するゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記シースストランドが２層撚り構造を有するストランドと３層撚り構造を有するストランドからなることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項２】
前記２層撚り構造を有するストランドの径と前記３層撚り構造を有するストランドの径とが同一である請求項１記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項３】
前記シースストランドの総本数が偶数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドとが同数である請求項１または２記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項４】
前記シースストランドの総本数が奇数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドのいずれか一方が他方よりも１本多い請求項１または２記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項５】
前記シースストランドの総本数が６〜９本である請求項１〜４のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項６】
前記ゴム物品補強用スチールコードの径が５．０ｍｍ以上である請求項１〜５のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項７】
請求項１〜６のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコードを補強材として用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項１】
複数本のフィラメントを撚り合わせた１本のコアストランドの周りに、複数本のフィラメントを撚り合わせた複数本のシースストランドを撚り合わせてなる複撚り構造を有するゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記シースストランドが２層撚り構造を有するストランドと３層撚り構造を有するストランドからなることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項２】
前記２層撚り構造を有するストランドの径と前記３層撚り構造を有するストランドの径とが同一である請求項１記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項３】
前記シースストランドの総本数が偶数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドとが同数である請求項１または２記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項４】
前記シースストランドの総本数が奇数であり、前記２層撚り構造を有するストランドと前記３層撚り構造を有するストランドのいずれか一方が他方よりも１本多い請求項１または２記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項５】
前記シースストランドの総本数が６〜９本である請求項１〜４のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項６】
前記ゴム物品補強用スチールコードの径が５．０ｍｍ以上である請求項１〜５のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項７】
請求項１〜６のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコードを補強材として用いたことを特徴とするタイヤ。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【公開番号】特開２０１１−１８４８４０（Ｐ２０１１−１８４８４０Ａ）
【公開日】平成２３年９月２２日（２０１１．９．２２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１０−５４１６９（Ｐ２０１０−５４１６９）
【出願日】平成２２年３月１１日（２０１０．３．１１）
【出願人】（０００００５２７８）株式会社ブリヂストン (11,469)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２３年９月２２日（２０１１．９．２２）
【国際特許分類】
【出願日】平成２２年３月１１日（２０１０．３．１１）
【出願人】（０００００５２７８）株式会社ブリヂストン (11,469)
【Ｆターム（参考）】
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