説明

ゴム物品補強用スチールコードおよびタイヤ

【課題】複撚り構造コードにおける、一部フィラメントの先行破断を回避してコード強力の低下を抑制した、十分な耐久性能を発揮し得るスチールコードおよびこのコードを用いた耐久性に優れるタイヤを提案する。
【解決手段】複数本のフィラメントを撚り合わせたコアストランドのまわりに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランドの複数本を配置した複撚り構造コードにおいて、コアストランドおよびシースストランドの少なくとも一方は、1本または複数本のフィラメントによるコアのまわりに、複数本のフィラメントによるシースの1層または複数層を撚り合わせた構造とし、その最外側シースを構成するフィラメントを、その内側のいずれか少なくとも1つの層を構成するフィラメントよりも太径とすることによって、一部のフィラメントの先行破断を回避してスチールコードの

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として使用されるスチールコードに関し、特に耐久性の向上をはかろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の典型例である空気入りタイヤ、中でも建設車両用タイヤは、例えば大規模土木工事現場や鉱石採掘場で供用される大型ダンプカーなどに装着され、荒れた地表上で重い負荷の下に苛酷な稼働条件が課される。この種のタイヤは、1対のビードコア間にわたりトロイド状をなして跨がるカーカスを骨格として、さらにカーカスの径方向外側に多層のベルトを配置して補強する構造が、一般的である。
【0003】
上記使途の建設車両用タイヤは、特に凹凸の激しい不整地で重い荷重の下に走行されるため、そのトレッドは大きな変形を受ける結果、大きな圧縮力が繰り返し加わることになる。そこで、この種のタイヤのベルトやカーカスの補強材として使用されるスチールコードには、コード径当りの切断荷重を大きくするとともに、良好な耐疲労性を与えるために、複数本のフィラメントを撚り合わせたストランドの複数本を撚り合わせて成る、例えば7×(3+9+15)構造などの複撚り構造が採用されている。
【0004】
この7×(3+9+15)構造コードは、図1に示すように、3本のフィラメントによるコア10aのまわりに、コア10aと同径の複数本のフィラメントによるシース10bおよび10cの2層を配置したコアストランド10を中心として、そのまわりに同様の構造のシースストランド11の6本を撚り合わせて成る。なお、12はラッピングフィラメントである。
【0005】
ところで、複数本のフィラメントを撚り合わせた単撚り構造や層撚り構造のコードでは、その構成要素であるフィラメントの強力の総和がコード強力とはならず、撚り合わせによって各フィラメントがコード軸に対して傾く(撚り角)分、僅かに減少することになる。
これは、上記した複撚り構造のコードにおいても同様であるが、複撚り構造のコード、特に高強力のフィラメントからなる複撚り構造のコードの場合、コード強力がフィラメント強力の総和に比べて、撚り角に起因した減少では説明されないほど減少することが問題になっていた。つまり、複撚り構造のコードを高強力のフィラメントから構成しても、所期したコード強力の向上は達成されなかったのである。
【0006】
すなわち、この発明で対象とする複撚り構造のコードでは、コアストランドがコードの中心部でほぼ直線状に延び、そのまわりの全てのシースストランドから締めつけを受けるため、それらのストランドが相互に接する部分に、コード内の締めつけに起因した応力集中を招き易い。さらに、在来の複撚り構造コードは、図1に示したように、単一径のフィラメントからなる構造である。
【0007】
このような複撚りコードを高張力のフィラメントで構成すると、コードに張力が負荷された際に、各シースストランドがコアストランドに向かって締めつけることに起因する応力の集中が大きくなり、コード破断に至る前に、一部のフィラメントが破断することが確認されている。換言すると、コードに張力が負荷されると、ストランド間接触部にあたる最外側シースフィラメントは、引張り荷重を受けながら、フィラメントの軸を横切る向きに圧縮荷重も受けている状態に晒されることになる。その結果、フィラメント内部に発生する剪断応力が原因で、フィラメントの破断に到るのである。そのため、複撚り構造コードでは、特にコアストランド、シースストランドの最外側のシースにおいて、フィラメントの破断が早期に発生し易く、一部のフィラメントが先行破断する結果、コードを構成するフィラメント強力の総和に対して、実際のコード強力が撚り角に起因した減少では説明されないほど低くなってしまうのである。この現象は、フィラメントに高強力材を使用した場合に、特に顕著である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、複撚り構造コードにおける、一部フィラメントの先行破断を回避してコード強力の低下を抑制した、十分な耐久性能を発揮し得るスチールコードおよびこのコードを用いた耐久性に優れるタイヤを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の課題を解決する方途について鋭意究明したところ、コードに張力が負荷された際に、ストランド間の接触部となる最外側シース内のフィラメントに加わる、フィラメントの軸を横切る向きの圧縮荷重の影響を軽減すること、そのためには最外側シース内フィラメントの太径化が有効であることを知見し、この発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、この発明の要旨構成は、次の1〜12に示すとおりである。
1.複数本のフィラメントを撚り合わせたコアストランドのまわりに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランドの複数本を配置したスチールコードであって、 シースストランドは、1本または複数本のフィラメントによるコアのまわりに、複数本のフィラメントによるシースの2層を撚り合わせて成り、シースストランドの最外側シースを構成するフィラメントの直径をφs(mm)および該最外側シースの全てのフィラメントが内接する外接円の直径をΦ(mm)としたとき、 0.55≦Φ/6.14φs≦0.90の関係を満足し、かつコアストランドの最外側シースを構成するフィラメントの直径をφc(mm)としたとき、 φs≦φcの関係を満足することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0011】
2.上記1において、シースストランドは最外側のシースを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0012】
3.上記1において、シースストランドはコアを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0013】
4.上記1において、コアストランドは最外側のシースを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0014】
5.上記1において、コアストランドはコアを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0015】
6.上記1において、コアストランドを構成する全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0016】
7.上記1において、シースストランドの最外側シースを構成するフィラメントの径が0.20〜0.50mmであることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0017】
8.上記1において、フィラメントの引張強さが3000MPa以上であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0018】
9.上記1において、1本のコアストランドのまわりに6本のシースストランドを配置したコード構造を有し、各ストランドが3本のフィラメントによるコアのまわりに複数本のフィラメントによるシースの2層を配置した構造を有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0019】
10.上記1において、シースストランドの最外側シースの撚り方向がシースストランドの撚り方向と同じであることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0020】
11.上記1において、コードの外周に沿ってらせん状に巻き付けたラッピングフィラメントを有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0021】
12.1対のヒード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側に複数層のベルトをそなえるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのいずれか少なくとも一方に、上記1に記載のスチールコードを適用したことを特徴とするタイヤ。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、複撚り構造コードにおける一部フィラメントの先行破断を回避してコード強力の低下が抑制されるから、十分な耐久性能を有するスチールコードおよびこのコードを用いた耐久性能に優れるタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の撚り構造7×(3+9+15)+1構造コードの断面図である。
【図2】この発明に従う、コアストランドが3+8構造のコードの断面図である。
【図3】この発明に従う、コアストランドが3+8+13構造のコードの断面図である。
【図4】この発明に従う、撚り構造7×(3+8)構造コードの断面図である。
【図5】この発明に従う、撚り構造7×(3+8+13)構造コードの断面図である。
【図6】この発明に従う、撚り構造7×(3+9+12)+1構造のコードの断面図である。
【図7】この発明に従う、撚り構造7×(3+9+13)+1構造のコードの断面図である。
【図8】この発明に従う、撚り構造(3+9+15)+6×(3+9+12)+1構造コードの断面図である。
【図9】この発明に従う、撚り構造(3+9+15)+8×(3+9+8)+1構造コードの断面図である。
【図10】この発明のコードを適用するのに好適なタイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
さて、この発明に従うゴム物品補強用スチールコードは、上述した7×(3+9+15)構造や、7×(3+8)、7×(3+9+12)および7×(3+8+13)構造などの複撚りコードにおいて、そのコアストランドおよびシースストランドの少なくとも一方は、最外側シースを構成するフィラメントが、その内側のいずれか少なくとも1つの層を構成するフィラメントよりも太径であることを特徴とする。
【0025】
上述したように、複撚り構造のコードにおいて、そのコードを構成するフィラメント強力の総和に対して、実際のコード強力が撚り角に起因した減少では説明されないほど低くなるのは、コードに張力が負荷された際に、各シースストランドがコアストランドに向かって締めつけられる結果、ストランドの最外側シースフィラメントに応力の集中が生じるからである。従って、この応力が集中する最外側シースフィラメントの径を、その内側のいずれかの層を構成するフィラメント径より太くすることが最外側シースフィラメントの先行破断を抑制するのに、極めて有効な手だてとなる。
以下、ストランドの最外側シースを構成するフィラメントを、その内側のいずれか少なくとも1つの層を構成するフィラメントよりも太径とした、種々のコード構造について、個別に説明する。
【0026】
まず、複撚りコードのコアストランドにおいて、最外側シースを構成するフィラメントが、その内側のいずれか少なくとも1つの層を構成するフィラメントよりも太径とした場合について、図2および図3を参照して具体的に説明する。すなわち、図2および図3に、この発明に従って、タイヤなどに適用するスチールコードの断面を、撚り構造7×(3+8)および7×(3+8+13)について、それぞれ示す。
【0027】
まず、図2に示すスチールコードは、3本のフィラメントによるコア1aのまわりに、8本のフィラメントによるシース1bを撚り合わせて成る、コアストランド1を中心に、そのまわりに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランド2の複数本を撚り合わせてなる。なお、この例では、シースストランド2の構造は特に限定されず、さらにコード外周に沿ってラッピングフィラメントをらせん状に巻き付けることも可能である。
【0028】
また、図3に示すスチールコードは、3本のフィラメントによるコア1aのまわりに、8本のフィラメントによる第1シース1bを撚り合わせ、さらに第1シース1bのまわりに、13本のフィラメントによる第2シース1cを撚り合わせて成る、コアストランド1を中心に、そのまわりに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランド2の複数本を撚り合わせてなる。なお、この例では、シースストランド2の構造は特に限定されず、さらにコード外周に沿ってラッピングフィラメントをらせん状に巻き付けることも可能である。
【0029】
ここで、コアストランド1において、最外側シースを構成するフィラメントが、その内側のいずれか少なくとも1つの層を構成するフィラメントよりも太径であることが肝要であり、とりわけ各シースを構成するフィラメントが、その内側の層を構成するフィラメントよりも太径であることが好ましい。すなわち、図2に示した2層構造のコアストランドにおいて、シース1bを構成するフィラメントは、その内側のコア1aを構成するフィラメントよりも太径であることが肝要である。
【0030】
同様に、図3に示した3層構造のコアストランドにおいて、第2シース1cを構成するフィラメントは、その内側の第1シース1bを構成するフィラメントおよび/またはコア1aを構成するフィラメントよりも太径であることが肝要である。好ましくは、図示例のように、第2シース1cを構成するフィラメントは、その内側の第1シース1bを構成するフィラメントよりも太径であること、そして第1シース1bを構成するフィラメントは、その内側のコア1aを構成するフィラメントよりも太径であること、が有利である。
【0031】
なぜなら、上記した最外側シースフィラメントの先行破断を抑制する効果に加えて、コアストランドにおいて内層より外層のフィラメントを太径にすると、従来の同径フィラメントによる場合に比較して、各層間、さらには各ストランド間でのフィラメント同士の接触面積が増大し、コードに張力が加わった際に、各層間、さらには各ストランド間のフィラメントが協働して張力を負担する結果、応力集中による先行破断が抑制されるからである。
【0032】
特に、コアストランドの内層より外層のフィラメントを太径にするに当り、コアストランドが図2に示すような2層構造の場合は、シース1bを構成するフィラメントの外接円の面積に対する、コアストランドを構成する全てのフィラメントの断面積の総和の比(以下、フィラメント占有比と示す)を、0.715以上とすることが、好ましい。すなわち、フィラメント占有比を0.715以上にすることによって、フィラメント間の隙間が小さくなり、張力負担時にフィラメントの接触応力を各層内でも分散することが可能になり、応力集中による先行破断の抑制をより確実なものにする。
同様に、コアストランドが図3に示すような3層構造の場合は、第2シース1cを構成するフィラメントの外接円を基準にしたフィラメント占有比を、0.730以上とすることが、好ましい。
【0033】
従って、これらのフィラメント占有比になるように、ストランドの内層および外層のフィラメント径を設定するとよい。
具体的には、ストランドの各層におけるスチールフィラメント相互の間隔が0.014mm以下とすることが、応力集中による先行破断を抑制するのに、より有効である。
【0034】
また、図2および3に示したコードでは、コアストランドのみに内層より外層のフィラメントを太径にする構造を適用したが、図4および図5に示すように、コアストランド1に加えて、そのまわりのシースストランド2についても、内層より外層のフィラメントを太径にする構造を適用することが可能である。すなわち、コードを構成する全てのストランドにおいて、内層より外層のフィラメントを太径にすることによって、コードを構成する全てのストランドに上記した作用効果が及ぶために、コードの強力保持をさらに確実なものにすることができる。
【0035】
ここに、図2〜5に示したコードでは、この発明を適用するストランドの構造を3+8または3+8+13構造としたが、この他にも、3+7や3+7+12構造のストランドにも、この発明を適用することができる。その際、ストランドが2層撚りの場合の最外層はフィラメント本数を8本以下に、そしてストランドが3層撚りの場合の最外層はフィラメント本数を13本以下にすることが、先行破断を抑制するのに好ましい。
【0036】
同様に、コード構造としては、1本のコアストランドのまわりに、シースストランドの6本を撚り合わせた図示例に限らず、例えば、コアストランドとは異径のシースストランドを用いて、1本のコアストランドのまわりにシースストランドの7、8または9本を撚り合わせた構造とすることも可能である。さらに、コードの外周にラッピングフィラメントを巻き付けることも可能である。
【0037】
さらに、コードを構成するフィラメントには、ゴム物品の強度を確保するために、炭素含有量が0.80〜0.85重量%の高抗張力鋼を用いることが好ましい。
この発明のコードは、以上に示した事例に限らないことは既に述べたとおりであるが、その他の事例として、撚り構造7×(3+9+12)+1および7×(3+9+13)+1について、以下に具体的に説明する。
すなわち、図6および図7に、この発明に従って、タイヤなどに適用するスチールコードの断面を、撚り構造7×(3+9+12)+1および7×(3+9+13)+1について、それぞれ示す。
【0038】
まず、図6に示すスチールコードは、3本のフィラメントによるコア1aのまわりに、9本のフィラメントによる第1シース1bを撚り合わせ、さらに第1シース1bのまわりに、12本のフィラメントによる第2シース1cを撚り合わせて成る、コアストランド1を中心に、そのまわりに、同様の構造を有するシースストランド2の6本を撚り合わせてなる。さらに、図示例では、コード外周に沿ってラッピングフィラメント3をらせん状に巻き付けてあるが、このラッピングフィラメント3は省略可能である。
【0039】
また、図7に示すスチールコードは、3本のフィラメントによるコア1aのまわりに、9本のフィラメントによる第1シース1bを撚り合わせ、さらに第1シース1bのまわりに、13本のフィラメントによる第2シース1cを撚り合わせて成る、コアストランド1を中心に、そのまわりに、同様の構造を有するシースストランド2の6本を撚り合わせてなる。さらに、図示例では、コード外周に沿ってラッピングフィラメント3をらせん状に巻き付けてあるが、このラッピングフィラメント3は省略可能である。
【0040】
ここで、コアストランド1およびシースストランド2の少なくとも一方は、最外側シースを構成するフィラメントが、その内側のいずれか少なくとも1つの層を構成するフィラメントよりも太径であることが肝要であり、図6および図7に示した事例では、コアストランド1およびシースストランド2において、最外側のシースを構成するフィラメントが、その内側の層を構成するフィラメントよりも太径である。
【0041】
このようにコアストランド1およびシースストランド2のいずれか少なくとも一方の最外側のシースを構成するフィラメントの径を、その内側の層を構成するフィラメントよりも太くした場合において、シースストランド2の外接円の直径をΦ(mm)とし、その最外側のシース、つまり第2シース1cを構成するフィラメントの直径をφs(mm)としたとき、0.55≦Φ/6.14φs≦0.90なる関係式を満たし、かつコアストランドの最外側シースで構成するフィラメントの直径をφc(mm)として、φs≦φcなる関係式を満足するような構造であることが好ましい。
【0042】
なぜなら、従来コードのコアストランドとシースストランドにおいて先行して破断する最外層のフィラメントを太径化することによって、この先行破断が回避され、結果としてコード強力の低下が防止されるからである。
すなわち、Φ/6.14φsが0.90を越えると、上記した効果を得ることが難しく、一方0.55未満では、耐疲労性に悪い影響を与えることになる。また、コアストランドの最外層フィラメントは、シースストランドの最外層フィラメントに比し同等か、やや厳しい応力集中の状態におかれているため、シースストランド最外層の場合と同等以上の太径化が好ましい。
【0043】
なお、図6および図7に示した例では、第2シース1cを構成するフィラメントをその内層のフィラメントに比し太径とし、第1シース1bおよびコア1aのフィラメントは同径としたが、第1シース1bおよびコア1aについても第1シース1bを構成するフィラメントがコア1aを構成するフィラメントより太径とすることも可能である。この場合は、最外側のフィラメントを太径化して、先行破断の発生を抑制するとともに、その次に応力集中の度合いが大きいと思われる、1つ内側の層のフィラメントの先行破断を抑制する結果、コードの強力の低下を防止する効果が一層期待される。
【0044】
ここに、図6または7に示したコードでは、この発明を適用するストランドの構造を3+9+12または3+9+13構造としたが、この他にも、図8に示す(3+9+15)+6×(3+9+12)構造や(3+9+15)+6×(3+9+13)構造のストランドにも、この発明を適用することができる。この場合は、シースストランドに比してコアストランドの外接円の径が大きい構造となるため、シースストランド同士の間に隙間が確保できるという利点がある。これにより、コードをゴム物品内に埋設する際に、コード内部へのゴムの侵入を助長する効果が得られる。
【0045】
同様に、コード構造としては、1本のコアストランドのまわりに、シースストランドの6本を撚り合わせた図示例が好適であるが、その他にも、例えば、コアストランドとは異径のシースストランドを用いて、1本のコアストランドのまわりにシースストランドの7、8または9本を撚り合わせた構造とすることも可能である。ここに、1+8構造の典型例を、図9に示す。さらに、コードの外周にラッピングフィラメントを巻き付けることも可能である。
【0046】
なお、シースストランドの最外側のシースを構成するフィラメントの径は0.20〜0.50mmであることが有利である。なぜなら、フィラメント径が0.20mm未満では、フィラメントの太径化による上述の効果を得ることが難しくなり、一方0.50mmをこえるとフィラメントの引張強さが低くなる結果、高強力コードを得ることが難しくなる。
【0047】
そして、この発明に従うコードには、引張強さが3000MPa以上であるフィラメントを適用することが有意義である。なぜなら、引張強さが3000MPa以上のフィラメントを用いたときに、上述したフィラメントの総強力に対するコード強力の低下が著しいからである。
【0048】
さらに、シースストランドの最外側のシースの撚り方向が、コアストランドに対するシースストランドの撚り方向と同じにすることによって、隣接するストランド間での最外側フィラメント同士を線接触により近い状態にさせることができ、応力の局部集中を軽減するのに有利である。
なお、ラッピングフィラメントは、コードのばらけ防止に有効であり、特に工場での作業性の向上に寄与する。
【0049】
ちなみに、上記したコードは、その多数本を所定の間隔で互いに並行に揃えてゴムシートに埋設してなるプライを、タイヤのベルトまたはカーカスに適用して、タイヤの補強に供する。ここで、タイヤは、例えば図10に示す、建設車両用空気入りタイヤが有利に適合する。このタイヤは、1対のビードコア20間でラジアル方向にトロイド状に延びるスチールコードのプライからなるカーカス21、このカーカス21のクラウン部のタイヤ径方向外側に配置した、少なくとも4層、通常は6層のベルト22およびこのベルト22のタイヤ径方向外側に配置したトレッド23から成る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
〔実施例1〕
表1に示す構造のスチールコードについて、そのフィラメント占有比およびコード強力発揮率を調査した。なお、フィラメント占有比は、上述したとおり、最外側シースを構成するフィラメントの外接円の面積に対する、ストランドを構成する全てのフィラメントの断面積の総和の比であり、またコード強力発揮率は、コードを構成する真直フィラメントの引張り強さの総和に対する、コード切断荷重の比を百分率で表示した。その測定結果を、表1に併記する。
【0051】
【表1】

【0052】
〔実施例2〕
表2および3に示す構造のスチールコードについて、そのフィラメント占有比およびコード強力発揮率を調査した。なお、フィラメント占有比は、上述したとおり、最外側シースを構成するフィラメントの外接円の面積に対する、ストランドを構成する全てのフィラメントの断面積の総和の比であり、またコード強力発揮率は、コードを構成する真直フィラメントの引張り強さの総和に対する、コード切断荷重の比を百分率で表示した。その測定結果を、表2および3に併記する。なお、表2および3には、表毎に全て同じ撚り角の下に作製したコード群を示してある。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のフィラメントを撚り合わせたコアストランドのまわりに、複数本のフィラメントを撚り合わせたシースストランドの複数本を配置したスチールコードであって、 シースストランドは、1本または複数本のフィラメントによるコアのまわりに、複数本のフィラメントによるシースの2層を撚り合わせて成り、シースストランドの最外側シースを構成するフィラメントの直径をφs(mm)および該最外側シースの全てのフィラメントが内接する外接円の直径をΦ(mm)としたとき、 0.55≦Φ/6.14φs≦0.90の関係を満足し、かつコアストランドの最外側シースを構成するフィラメントの直径をφc(mm)としたとき、 φs≦φcの関係を満足することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
請求項1において、シースストランドは最外側のシースを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
請求項1において、シースストランドはコアを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
請求項1において、コアストランドは最外側のシースを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項5】
請求項1において、コアストランドはコアを構成するフィラメントを除く全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項6】
請求項1において、コアストランドを構成する全てのフィラメントの径が同一であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項7】
請求項1において、シースストランドの最外側シースを構成するフィラメントの径が0.20〜0.50mmであることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項8】
請求項1において、フィラメントの引張強さが3000MPa以上であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項9】
請求項1において、1本のコアストランドのまわりに6本のシースストランドを配置したコード構造を有し、各ストランドが3本のフィラメントによるコアのまわりに複数本のフィラメントによるシースの2層を配置した構造を有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項10】
請求項1において、シースストランドの最外側シースの撚り方向がシースストランドの撚り方向と同じであることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項11】
請求項1において、コードの外周に沿ってらせん状に巻き付けたラッピングフィラメントを有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項12】
1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側に複数層のベルトをそなえるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのいずれか少なくとも一方に、請求項1に記載のスチールコードを適用したことを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−1683(P2011−1683A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186476(P2010−186476)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2001−536813(P2001−536813)の分割
【原出願日】平成12年11月10日(2000.11.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】