説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

低比重でヒステリシスロスないし損失正接を低減させたゴム組成物、及び、該ゴム組成物を用いた低発熱性で耐久性と転動抵抗に優れたタイヤを提供する。 ゴム成分100質量部と0.1〜10質量部のフラーレン類とを配合してなるゴム組成物において、該フラーレン類が、燃焼法により製造された物であり、且つ(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするゴム組成物、及び、上記のゴム組成物をゴム部材として用いて製造されたことを特徴とするタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン類を配合した、各種ゴム製品への適用に有用なゴム組成物、及び該ゴム組成物をゴム部材として用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
60で代表されるフラーレンは、60個の炭素が正六角形20個と正五角形12個からなる球状の切頭正二十面体を構成する炭素化合物として、1985年にH.W.KrotoとR.E.Smalley等によって発見された新規な化学物質である。このフラーレン型の炭素材は、従来、知られていたグラファイトやアモルファスカーボン、ダイヤモンドとは異なる新しい炭素物質として注目されている。その理由は、フラーレンが従来の炭素物質とは異なる特異な構造と物性を示すためであり、例えば、C60やC70に代表されるフラーレンは、多数の炭素原子が球状の籠型に配置された分子構造を構成し、しかも炭素物質でありながらベンゼン等の有機溶媒に良く溶ける性質があるので、その精製及び分離も容易である。
【0003】
上記フラーレンは、C60やC70以外にも多数の種類が知られており、超伝導体や半導体としての性質を示すことが知られ、さらに光官能効果が高く、電子写真感光材料や、光デバイスとしての応用も考えられている。また、内部に異種の元素を閉じこめたり、外部に多種の化学官能基を付与させることで、機能性材料として有効な物性を発現することも判明してきた。この様にフラーレンを分子内に基本骨格として有するフラーレン誘導体は、フラーレンの化学的性質や物理的性質を制御したり、光学的性質を出現させたりする上で、重要な物質として認識されており、様々なフラーレン誘導体が考案されている。
【0004】
また、フラーレンの炭素骨格は、歪を有するsp炭素混成軌道どうしの共有結合により閉じた三次元的な中空球殻状構造を有する炭素同素体であり、その分子構造は5角形と6角形より成る多面体である。この様な特殊構造を含むフラーレン又はその誘導体をゴム組成物に用いることにより、従来のものより低比重でありながら、新規な或いは強力な補強効果が発揮される可能性、並びに新たな架橋形態に関与する可能性等が考えられる。
【0005】
なお、フラーレンの製造或いは応用に関しては、例えば、下記の特許文献1〜4に開示されており、また総説記事として、例えば、下記の非特許文献1に詳しく掲載されている。
【0006】
この様なフラーレン型の炭素をゴム組成物及びタイヤへ適用した例として、例えば、下記の特許文献5が挙げられる。この文献においては、ジエン系エラストマーとフラーレン炭素、カーボンブラック及び沈降シリカの少なくとも1種、から構成されるゴム組成物及びタイヤが開示され、比重が小さくて転がり抵抗及びトレッドの耐摩耗性のバランスが優れると記載されている。
【0007】
また、2層型ソリッド製ゴルフボールにおいて、コア用のゴム組成物にフラーレン又はその誘導体を用いることが開示され(例えば、特許文献6参照。)、優れた反発性能及び飛行性能を有し、かつ打球感を向上させ得ると記載されている。
【0008】
しかしながら、ゴム組成物及び各種ゴム製品への適用例は未だ極めて少なく、フラーレン型炭素類の特徴をよく把握した上での適切な応用事例は今後の研究に待たれている。
【特許文献1】米国特許第5,273,729号明細書
【特許文献2】米国特許第5,281,653号明細書
【特許文献3】米国特許第5,292,813号明細書
【特許文献4】米国特許第5,372,798号明細書
【特許文献5】特開平10−168238号公報
【特許文献6】特開2002−253703号公報
【非特許文献1】「Scientific American」(1990年、10月号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における上記の事情に鑑み、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、
本発明は、新規な補強材ないし機能材としてのフラーレン類の特質を把握し、その結果、特定の物質、特定の配合量の範囲において、該フラーレン類を配合することにより得られる低比重のゴム組成物を提供し、従来困難とされてきた、ヒステリシスロスないし損失正接の抑制と機械的強度ないし耐久性の向上を両立させたゴム組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、走行発熱が低く、且つ、高耐久寿命を有し、転がり抵抗の小さい優れたタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、下記の通りである。即ち、
<1>ゴム成分100質量部と0.1〜10質量部のフラーレン類とを配合してなるゴム組成物において、該フラーレン類が、燃焼法により製造された物であり、且つ(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン、(2)燃焼法により製造されるフラーレンの製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするゴム組成物。
<2>さらに、20〜70質量部のカーボンブラックを配合してなることを特徴とする上記<1>に記載のゴム組成物。
<3>前記フラーレン類が、(2)燃焼法により製造されるフラーレンの製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、及び/又は(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、を含有することを特徴とする上記<1>又は上記<2>に記載のゴム組成物。
<4>ゴム成分100質量部と、燃焼法により製造されたフラーレン類であって、(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン、(2)燃焼法により製造されるフラーレンの製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類0.1〜10質量部とを、含有するゴム組成物をゴム部材として用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明に依れば、新規な補強材としての燃焼法により製造された特定のフラーレン類を配合した低比重のゴム組成物、特に、ヒステリシスロスないし損失係数(tanδ)が抑制され、且つ、機械的強度ないし耐久性が向上した優位性のある物性のゴム組成物を提供しうる。さらに、このゴム組成物をゴム部材に適用することにより、低発熱性で転動抵抗に優れたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部と0.1〜10質量部のフラーレン類とを配合してなるゴム組成物であって、該フラーレン類が、燃焼法により製造された物であり、且つ(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明のゴム組成物は、上記に加えて、20〜70質量部のカーボンブラックを配合してなることが好ましい形態である。この様に、新規な補強材として燃焼法により製造されたフラーレン類を、ゴム成分に対して上記の範囲内で配合することにより、本発明のゴム組成物は、低比重という特質を有し、ヒステリシスロスもしくは損失正接(tanδ)を抑制して、機械的強度や耐久性に優れた物性を保有する。
【0015】
尚、本発明の上記ゴム組成物には、目的ないし必要に応じて、さらに、他の補強材や充填材、プロセスオイル、硫黄、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、酸化防止剤、及びその他の各種添加剤等を配合することができる。
【0016】
また、上記のゴム組成物をゴム部材或いは部材の一部として用いて製造された本発明のタイヤは、軽量で低発熱性であり且つ転がり抵抗が小さく耐久性に優れたタイヤである。
【0017】
以下、本発明のゴム組成物及びタイヤについて、詳細に説明する。
【0018】
(フラーレン類及びその製法)
フラーレンは、コアアヌレン環構造もしくはコアアヌレン環構造を含む部位を有する同素体形炭素(C)2nであり、ここで該nは約16〜960の範囲の整数が可能であり、好ましくは約24〜240の範囲、より好ましくは約30〜80の範囲であり、特に好ましくは約30〜40の範囲の整数である。これらは少くとも12個の五角形と少くとも20個の六角形の頂点に配置されて、閉じた籠構造の炭素原子構造を形成している。この様なフラーレン若しくはフラーレン炭素は、その中空分子構造に起因して、約1.2〜約1.7の範囲の極めて低い比重を持つという特徴を有する。
【0019】
新しい炭素素材として注目されている上記フラーレンの経済的で効率の良い大量製造方法が、引き続き盛んに研究され、少しずつ実用化されている。
【0020】
本発明のゴム組成物に用いるフラーレン類は、炭素含有物質を不完全燃焼させて生じた凝縮物(煤)から抽出する方法、いわゆる燃焼法によって製造されたフラーレン類であり、その製造コストや品質安定性及び量産供給能力の面で利点を有している。この燃焼法によるフラーレン類の基本的な製造方法については、例えば、米国特許5,273,729号明細書及び特表平6−507879号公報等に詳細に記載されている。
【0021】
さらに、上記燃焼法によるフラーレン類の製造方法に関して、フラーレン組成を最適化し、収率を向上させる為に、火炎条件及び製造パラメータ(例えば、炭素源、触媒、炭素/酸素比、供給法、供給速度、加熱方式、ガス速度、圧力、温度、滞留時間、希釈度、回収法、精製法など)を選択的に制御する各種の技法が、特開平5−070115号、特開平5−116921号、特開平5−116923号、特開平5−124807号、特開平5−193921号、特開平5−238717号、特開平5−238718号、特開平5−238719号、特開平6−183712号、特開平6−122513号、特開平6−056414号、特開平6−032606号、特開平6−024721号、特開平6−024722号、特開平7−237912号、特開平7−257916号、特開平8−067508号、特開平8−217431号、特開平8−239210号、特開平9−309713号、特開平10−87310号、特開平11−255794号、特開2000−109309号、特開2001−158611号、特開2002−234713号等の公報に開示されている。
【0022】
本発明のゴム組成物に用いるフラーレン類としては、目的と必要に応じて、上記の技法を適用して製造したフラーレン類も好適に使用できる。
【0023】
本発明のゴム組成物に用いるフラーレン類は、燃焼法により製造された物であり、且つ、(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン炭素そのもの、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、及び(3)該煤からフラーレン類を抽出した後の残滓、の何れをも使用することができ、また、これら(1)乃至(3)のフラーレン類は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用することも出来る。
【0024】
上記の中でも、費用対効果の観点より、特に、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、及び/又は、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、を使用することが好ましい。
【0025】
また、例えば、アーク法や燃焼法などの製造方法によって、得られるフラーレン炭素そのものの構造は変わるものではないが、同じ原料を用いた場合でも、得られるフラーレン炭素を含む組成は、製造方法の影響を大きく受け、さらにフラーレンの製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、及び該煤からフラーレン類を抽出した後の残滓に関しては、製造方法の相違により異なる内部構造を有するものが得られる。
【0026】
特に、燃焼法によるフラーレンの製造過程における煤からフラーレン類を抽出した後の残滓は、CuKα線を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で、最も強いピークが10〜18°の範囲に存在し、回折角26〜27°にピークが存在せず、同時に、励起波長5145Åでのラマンスペクトルの測定結果において、バンドG1590±20cm−1とバンドD1340±40cm−1にピークを有し、それぞれのバンドのピーク強度をI(G)及びI(D)とした時、該ピーク強度比I(D)/I(G)が0.4〜1.0の範囲であるという、炭素材料として従来全く知られていない特殊な構造を有するものである。即ち、バンドGは通常、規則的なグラファイト構造に起因するピークであり、ピーク強度比I(D)/I(G)は一般に炭素科学ではR値と称され、黒鉛化度の指標に用いられる。この値が1以下ということは、グラファイト構造が発達していることを意味する。ところが、本炭素材料である残滓はX線回折測定において、グラファイトの層構造に起因する回折角26〜27°のピークが存在せず、回折角14°に新たなピークが存在する。これらの分析結果より、本炭素材料(残滓)は、グラファイトの規則構造とは全く異なる規則構造を有する新規な炭素材料であると推定される。
【0027】
本発明では、このような特殊な構造を有するフラーレン類を用いることで、ゴム組成物の物性の改良を達成したことから、効果の観点からは、本発明のゴム組成物に用いるフラーレン類としては、アーク法等で得られる物よりは、燃焼法により製造されたフラーレン類が好ましく用いられる。
【0028】
なお、本発明のゴム組成物においては、ヒステリシスロスないし損失正接特性と強度物性等を両立させて改善する目的で、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部の上記フラーレン類を配合して使用する。配合量は0.3〜8質量部が好ましく、0.5〜5質量部が最も好ましい。上記フラーレン類の配合量が、0.1質量部に満たない場合は、フラーレン類の添加によるゴム組成物の特性の改善効果が不十分であり、また該配合量が10質量部を越えて配合しても、改善効果は飽和する傾向にあり、また、却って強度が低下することもあるので、過剰の添加は好ましくない。
【0029】
(ゴム組成物)
本発明に用いるゴム成分には特に限定はなく、従来公知のゴム配合に使用される天然ゴム及び各種合成ゴムを用いることができる。
【0030】
上記天然ゴムとしては、シートゴムでもブロックゴムでもよく、RSS#1〜#5(「天然ゴム各種等級品の国際品質包装基準」による分類)の総てを用いることができる。
【0031】
合成ゴムとしては、各種ジエン系合成ゴム、ジエン系共重合体ゴム及び特殊ゴムや変性ゴム等を使用できる。具体的には、例えば、ポリブタジエン(BR)、ブタジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体(例えばSBR、NBRなど)、ブタジエンと他のジエン系化合物との共重合体等のブタジエン系重合体;ポリイソプレン(IR)、イソプレンと芳香族ビニル化合物との共重合体、イソプレンと他のジエン系化合物との共重合体等のイソプレン系重合体;クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR);エチレン−プロピレン系共重合体ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体ゴム(EPDM)及びこれらの任意のブレンド物等が挙げられる。
【0032】
また、これらのゴム成分は、適宜に窒素、スズ、珪素等のヘテロ原子を含む変性ゴムであってもよい。
【0033】
本発明のゴム組成物には、前述のゴム成分及びフラーレン類に加えて、補強材ないし充填材としてカーボンブラックを配合することが好ましい。ゴム成分100質量部に対して、20〜70質量部のカーボンブラックを配合することにより、ヒステリシスロス或いは損失係数の悪化を招くことなく、破壊強度や耐摩耗性及び弾性率等をさらに向上できる。尚、該カーボンブラックの配合量は、上記物性の向上効果を十分に得るという観点からは、30〜60質量部の範囲がより好ましく、特に40〜60質量部のカーボンを配合することが最も好ましい。
【0034】
配合するカーボンブラックとしては特に制限はなく、具体的には例えば、N110(SAF)、N115、N120、N121、N125、N134、N135、S212、N220(ISAF−HM)、N231(ISAF−LM)、N234、N293、N299、S315、N326(ISAF−LS)、N330(HAF)、N335、N339、N343、N347(HAF−HS)、N351、N356、N358、N375、N539、N550(FEF)、N582、N630、N642、N650、N660(GPF)、N683(APF)、N754、N762(SRF−LM)、N765、N772、N774(SRF−HM)、N787、N907、N908、N990(MT)、N991(MT)カーボン等がを用いることができる。ここで、括弧内の記号は、従来からのカーボンブラックの慣用分類名を示す。
【0035】
上記のカーボンブラックの中でも、前述のフラーレン類と併用して、ヒステリシスロス特性と破壊強度を両立させて向上させる観点より、N110(SAF)、N220(ISAF−HM)、N231(ISAF−LM)、N326(ISAF−LS)、N330(HAF)、N347(HAF−HS)、N550(FEF)、N660(GPF)カーボンが好ましく、特にN330(HAF)とN347(HAF−HS)カーボンが好ましい。
【0036】
上記のカーボンブラックは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0037】
また本発明のゴム組成物には、補強材ないし充填材としてシリカを配合することもできる。該シリカとしては特に制限はなく、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも耐破壊特性の改良効果、ウェットグリップ性及び低転がり抵抗性の両立効果が最も顕著である湿式シリカが好ましい。
【0038】
シリカを充填材として用いた場合、補強性をさらに向上させるために、配合時にシランカップリング剤を用いることが好ましく、そのシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド,ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド等が挙げられる。
【0039】
また、さらにカーボンナノファイバー(中実品、中空品など)やアルミナ類、炭酸カルシウム、クレー等の無機充填剤を用いることもできる。
【0040】
これらの実施の形態においては、(i)フラーレン類とカーボンブラック及び/又はシリカの全配合量は、ゴム成分100質量部に対して10〜90質量部が好ましく、20〜80質量部がより好ましく、特に30〜60質量部が好ましい。また、(ii)フラーレン類のカーボンブラック及び/又はシリカに対する割合は0.3〜50質量%が好ましく、0.5〜40質量%がより好ましく、特に1〜30質量%が好ましい。
【0041】
さらに、本発明のゴム組成物には、加硫剤、加硫促進剤、プロセス油、を添加してもよい。
【0042】
上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、その配合量はゴム成分100重量部に対して硫黄分として0.1重量部から10重量部が好ましく、さらに好ましくは1重量部から5重量部である。
【0043】
上記加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、好ましくはM(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアジルジサルファイド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)等のチアゾール系、DPG(ジフェニルグアジニン)等のグアジニン系の加硫促進剤が挙げられ、その使用量は、主に必要とされるゴムの加硫速度で決定される。一般的にゴム成分100重量部に対して0.1重量部から7重量部が好ましく、さらに好ましくは1重量部から5重量部である。
【0044】
上記プロセス油としては、例えば、パラフィン系,ナフテン系,芳香族系等が挙げられ、引張強度,耐摩耗性の向上を重視する用途には芳香族系が、ヒステリシスロス、低温特性の向上を重視する用途にはナフテン系又はパラフィン系が用いられる。その使用量は、ゴム成分100重量部に対して0重量部から100重量部が好ましく、100重量部を越えると加硫ゴムの引張強度、低発熱性が悪化する傾向がある。
【0045】
本発明のゴム組成物には、これら以外にもゴム工業で通常使用されている老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤等の添加剤を適宜に配合することができる。
【0046】
本発明のゴム組成物は、ロールなどの開放式混練機やバンバリーミキサーなどの密閉式混練機等の混練り機械を用いて混練りすることによって得られ、成形加工後に加硫を行ない、各種ゴム製品に適用可能である。例えば、タイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ用途を始め、防振ゴム、防舷材、免振ゴム、ベルト、ホース、その他の工業用品等の用途に用いることができるが、特にタイヤのトレッド、アンダートレッド、サイドウォール用ゴムとして好適に使用される。
【0047】
本発明のゴム組成物は、上述のように、タイヤのトレッド、アンダートレッド、サイドウォールなどのゴム部材として好適に使用され、このようなゴム部材を用いた本発明の空気入りタイヤは、破壊強度、ウェットスキッド抵抗性、ドライスキッド性(ドライグリップ性)、耐摩耗性、及び低燃費性等において優れた性能を得ることができる。このタイヤに充填する気体としては、空気、又は窒素などの不活性ガスが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明のゴム組成物の実施例について具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、本実施例中の「部」及び「%」は全て、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0049】
[実施例1〜9及び比較例1]
下記の表1の上段に示す配合処方に基づき、通常の手順に従って、500mLのラボプラストミルを用いて混練りして、実施例1〜9及び比較例1の各ゴム組成物のシート物を作製した。次いで、温度150℃で、加硫反応によるトルクの上昇が全体の90%に達するまでの時間(t90)の1.5倍にあたる加硫時間で加硫して、下記の物性測定用の供試サンプルを得た。
【0050】
ここで、本実施例に用いたフラーレン類は下記の通りである。
・フラーレン(煤)………フラーレン炭素を含む煤で、予備混合型水冷バーナが減圧チャンパに設置された装置を使用し、系内を真空ポンプで排気しつつ、原料(ベンゼン)と酸素を予備混合してバーナへ供給し、安定な層流火炎を生成させ、C/O比を0.995、燃焼室圧力を20torr、ガス流速を49cm/sec、希釈アルゴン濃度を10モル%の条件で燃焼を行い、生成した煤を燃焼室トップ及び壁面より採取した。
・フラーレン(炭素)………上記燃焼で生成した煤に15倍量の1,2,4−トリメチルベンゼン(TMB)を加えて攪拌し抽出し濾過を行い、さらにTMBにて洗浄と濾過を3回繰り返した後、減圧濃縮を行い、イソプロピルアルコール(IPA)を加えて析出させ、濾過後に減圧乾燥を行った。得られたフラーレン炭素中、C60は63質量%でC70は22質量%の組成であった。
・フラーレン(残滓)………フラーレン炭素を抽出した後の残滓で、上記フラーレン炭素の抽出及び除去の操作を行った濾過固形分を減圧下、温度100℃次いで190℃で1昼夜かけて減圧乾燥を行って得られたもの。この残滓はCuKα線を使用したX線回折の測定結果において、回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが14°に存在し、回折角26〜27°にはピークが存在しなかった。また同時に励起波長5145Åでのラマンスペクトルの測定結果において、バンドG1590±20cm−1とバンドD1340±40cm−1にヒークを有し、それぞれのバンドのピーク強度をI(G)及びI(D)とした時、該ピーク強度比I(D)/I(G)が0.63であった。
【0051】
さらに、表1の配合成分の仕様(スペック)は下記の通りである。
・SBR1500………JSR(株)製のスチレン−ブタジエン共重合体。
・カーボンブラック(HAF)………旭カーボン(株)製の「旭#70」。
・プロセスオイル………スピンドル油。
・「ノクラック6C」………N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業(株)製の老化防止剤。
・「ノクセラーNS」………N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製の加硫促進剤。
【0052】
上記の各加硫ゴム試料につき、以下の様に評価試験を実施して、その結果を下記の表1の下段に示した。
【0053】
(I)引張試験
室温25℃において、JIS K6301−1995(3号試験片サンプル)に準拠して引張試験を行い、300%伸長時のモデュラスM300(MPa)、破壊強度Tb(MPa)及び破断伸び(%)Ebを測定した。
【0054】
(II)動的粘弾性試験
レオメトリックス(株)製の動的粘弾性測定試験機「ARES」を使用して、温度50℃、測定周波数15Hz、及び動的歪1%における貯蔵弾性率G′(MPa)及び損失正接(tanδ)を測定した。
【0055】


【0056】
上記の表1の結果より、フラーレン類を本発明の範囲に従って配合した実施例1〜9の貯蔵弾性率(G′)は、比較例1に比べて概ね同等或いはそれ以上に高く、損失正接(tanδ)はかなり小さいことが判明した。また、300%モデュラス(M300)も同等もしくは高く、破壊強度(Tb)は概ね同等或いはそれ以上に高かった。このことから、本発明のゴム組成物は、損失正接(tanδ)特性と強度物性等が両立していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部と0.1〜10質量部のフラーレン類とを含有するゴム組成物であって、
該フラーレン類が、燃焼法により製造された物であり、且つ、(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
さらに、20〜70質量部のカーボンブラックを配合してなることを特徴とする
請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記フラーレン類が、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、及び/又は、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、を含有することを特徴とする
請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記フラーレン類が、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、及び/又は、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、を含有することを特徴とする
請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記フラーレン類を、ゴム成分100質量部に対して、0.3〜8質量部配合することを特徴とする
請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
さらに、湿式シリカとシランカップリング剤とを配合してなることを特徴とする
請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項7】
フラーレン類とカーボンブラック及び/又はシリカの全配合量が、ゴム成分100質量部に対して10〜90質量部であることを特徴とする
請求項6記載のゴム組成物。
【請求項8】
フラーレン類のカーボンブラック及び/又はシリカに対する割合量が、0.3〜50質量%であることを特徴とする
請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項9】
ゴム成分100質量部と、燃焼法により製造されたフラーレン類であり、且つ、(1)C2n(該nは30以上の整数)で表される閉じた籠構造を有するフラーレン、(2)燃焼法により得られたフラーレン類の製造過程で発生するフラーレン類を含む煤、(3)該煤からフラーレン類を抽出した残滓、から選ばれる少なくとも1種のフラーレン類の0.1〜10質量部とを、含有するゴム組成物をゴム部材として用いてなることを特徴とするタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム部材が、タイヤのトレッド、アンダートレッド、サイドウォールから選択される1つ以上の部材であることを特徴とする
請求項9に記載のタイヤ。

【国際公開番号】WO2005/003227
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511373(P2005−511373)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009541
【国際出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(502236286)フロンティアカーボン株式会社 (33)
【Fターム(参考)】