説明

ゴム組成物及びそれを用いた往復動軸用オイルシール

【課題】往復動軸用オイルシールに用いられるゴム組成物において、耐摩耗性に優れ、かつ軸を摩耗させるおそれのないゴム組成物を提供する。
【解決手段】NBR100重量部に対して、酸化クロム1〜60重量部とグラファイト5〜60重量部とを含有させる。この場合、グラファイトとしては平均粒径が1μm〜120μm、好ましくは4〜20μmのものが用いられる。また、酸化クロムとグラファイトとのブレンド比を重量部で1:9〜9:1の範囲とすることで、より良好な耐摩耗性を有する往復動軸用オイルシールが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性のゴム組成物及びこのゴム組成物を用いた往復動軸用オイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車輌の懸架用のショックアブソーバ等においては、作動油の漏洩を防止するための往復動軸用オイルシールが内蔵されている。この往復動軸用オイルシールは、例えば図1に示すように構成されている。すなわち、オイルシール1は断面が略U字の環状のシール本体2をもって形成されており、このシール本体2は、ゴム組成物からなる弾性材料3内に断面略L字形の金属製の補強環4を一体成型することにより製せられている。
【0003】
そして、このオイルシール1はシール本体2の外周部分からなる装着部分5をハウジング(図示せず)の内周面や溝等に嵌合させるとともに、シール本体2の内周部分であって弾性材料3により形成されたシールリップ6をその外周部に装着したスプリング7による緊迫力によって往復動軸8に密着するように摺接させることで作動油の漏洩防止を図り、さらにダストリップ9を軸8に密着するように摺接させて防塵を図っている。
【0004】
従来、このような往復動軸用オイルシールの弾性材料に用いられる耐摩耗性のゴム組成物として、特許文献1にはNBRにカーボンブラック及び酸化クロムを含有させたゴム組成物が提案されている。
【特許文献1】特公平6−74352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このゴム組成物をオイルシールのリップに適用すると、酸化クロムの硬度が高いため、相手側の軸の表面を研磨する状態となって軸を摩耗させてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、往復動軸用オイルシールの弾性材料に用いられるゴム組成物において、耐摩耗性に優れ、かつ軸を摩耗させるおそれのないゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前述した目的を達成するために鋭意研究した結果、NBR100重量部に対して、酸化クロム1〜60重量部とグラファイト5〜60重量部とを含有させてなるゴム組成物で往復動軸用オイルシールを形成することにより、リップの耐摩耗性が向上すると共に、相手側の軸を摩耗させることのない往復動軸用オイルシールができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、NBR100重量部に対して、酸化クロム1〜60重量部を含有させたことによりリップの耐摩耗性が向上し、さらにグラファイト5〜60重量部を含有させたことにより潤滑性が良好となるため、相手側の軸を摩耗させるおそれがなく、また軸の摺動抵抗も低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ここで往復動軸用オイルシールの弾性材料として用いるゴム組成物は、ベースゴムにNBRを用い、これに対し所定量の活性剤、加硫剤及び促進剤、促進助剤を含有させる他に、耐摩耗性剤として所定量の酸化クロムとカーボンブラックに加えて、潤滑剤として所定量のグラファイトを含有させるとよい。
【0010】
ベースゴムとしてのNBRは、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体であり、カルボキシル基含有NBRや水素化NBRや部分架橋型NBRを含む。ここでは、ニトリル量の調整などでニトリル量の異なるNBRをブレンドしてもよいし、あるいは、耐熱性、耐薬品性、耐候性などの向上目的で、水素化NBRやカルボキシル基含有NBRなどをブレンドしてもよい。
【0011】
本発明では耐摩耗性向上のため、このNBRに酸化クロムが添加される。ここで酸化クロムの含有量は、NBR100重量部に対して、1〜60重量部、好ましくは5〜45重量部がよい。この場合、酸化クロムの含有量が1重量部未満では耐摩耗性の改善効果が認められず、また60重量部を越える含有量ではコストが高くなる上にゴムの加工性が悪くなるなどの弊害があるので好ましくない。
【0012】
これに加えてさらに耐摩耗性剤として、カーボンブラックが添加される。このカーボンブラックの含有量は、NBR100重量部に対して、3〜120重量部、好ましくは50〜90重量部がよい。この場合、カーボンブラックの含有量が3重量部未満では充分な耐摩耗性効果が得られず、また100重量部を越える使用は、ゴム硬度が硬くなるとともにゴムの混練り性が悪くなるので好ましくない。
【0013】
そしてさらに本発明では、これに潤滑剤としてグラファイトを添加する。このグラファイトとしては人造黒鉛が好適に用いられ、その他にも鱗片状黒鉛や塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛を用いることもできる。ここでグラファイトは、平均粒径が1〜120μm、好ましくは4〜20μmのものが用いられる。グラファイトの粒径が1μm未満では潤滑効果が得られず、また粒径が120μmを越えるものはゴムの耐摩耗性に悪影響を及ぼすからである。またこのグラファイトの含有量は、NBR100重量部に対して、5〜60重量部、好ましくは10〜45重量部がよい。この場合、グラファイトの含有量が5重量部未満では充分な潤滑効果が認められず、また60重量部を越える含有量ではゴムの強度が低下するなどの弊害があるので好ましくない。
またこの場合の配合では、前記酸化クロムと前記グラファイトとのブレンド比を、重量部で1:9〜9:1とすることが好ましい。
【実施例】
【0014】
本発明の具体的な実施例を比較例と共に表1に示す。
【表1】

【0015】
〔実施例1〕
ベースゴムとしてNBR(本実施例では日本ゼオン株式会社製:ニポールDN212)を100重量部、活性剤として亜鉛華を5重量部、軟化剤としてDOSを10重量部、加硫剤として硫黄を1重量部、促進剤としてテトラメチルチウラムジサルファイドを2重量部及びN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドを1重量部、促進助剤としてステアリン酸を1重量部、耐摩耗性剤としてMAFカーボンを60重量部及び酸化クロム(本実施例では日本化学工業株式会社製の酸化クロム5G)を5重量部、そして潤滑剤としてグラファイト(本実施例ではオリエンタル産業株式会社製の人造黒鉛AT−No.20:平均粒径8μm)を45重量部の割合で混合し、これを周知のゴム練りロールで混練りした後、通常のゴム成型手法によって図1に示す如きオイルシールのテストピースを作製した。
【0016】
〔実施例2〕
実施例1の材料中、酸化クロムを15重量部、グラファイトを35重量部にそれぞれ変更した。
【0017】
〔実施例3〕
実施例1の材料中、酸化クロムを25重量部、グラファイトを25重量部にそれぞれ変更した。
【0018】
〔実施例4〕
実施例1の材料中、酸化クロムを35重量部、グラファイトを15重量部にそれぞれ変更した。
【0019】
〔実施例5〕
実施例1の材料中、酸化クロムを45重量部、グラファイトを5重量部にそれぞれ変更した。
【0020】
〔実施例6〕
実施例1の材料中、酸化クロムを3重量部、グラファイトを47重量部にそれぞれ変更した。
【0021】
〔実施例7〕
実施例1の材料中、酸化クロムを50重量部、グラファイトを5重量部にそれぞれ変更した。
【0022】
〔実施例8〕
実施例2の材料中、グラファイトを平均粒径3μmのものに変更した。
【0023】
〔実施例9〕
実施例4の材料中、グラファイトを平均粒径3μmのものに変更した。
【0024】
〔実施例10〕
実施例2の材料中、グラファイトを平均粒径30μmのものに変更した。
【0025】
〔実施例11〕
実施例4の材料中、グラファイトを平均粒径30μmのものに変更した。
【0026】
〔比較例1〕
前記実施例1で含有させた酸化クロムの含有量を50重量部とし、グラファイトの含有量を0とした。
【0027】
〔比較例2〕
前記実施例1で含有させた酸化クロムの含有量を0とし、グラファイトの含有量を50重量部とした。
【0028】
〔比較例3〕
前記実施例1で含有させた酸化クロムとグラファイトの含有量を何れも0とした。
【0029】
〔特性試験内容〕
鋼の表面にハードクロムメッキを施した往復動軸に前記各実施例および比較例からなるオイルシールを外嵌させ、往復動距離=10mm、往復動頻度=8回/秒、加振波形=サイン波、ショックアブソーバの反力=98N(ショックアブソーバの伸び切り位置より2mm圧縮した状態)および作動時間48時間の条件下で乾燥摩擦試験を行い、リップの摩耗状態と相手側の軸の摩耗状態とを顕微鏡で測定し、A,B,C,D,Eの5段階で評価した。ここでAは摩耗が極めて少ない状態、Bは摩耗が少ない状態、Cは摩耗が中くらいの状態、Dは摩耗が多い状態、Eは摩耗が非常に多い状態を示し、A及びBが実際の使用に耐え得るレベルである。
【0030】
〔結果〕
表1に示す評価結果から明らかなように、本発明の実施例1〜11はリップの摩耗と軸の摩耗ともに殆どがA評価で、一部にB評価があるものの全てが実用に耐え得るレベルであったのに対し、比較例1〜3はリップの摩耗と軸の摩耗の何れか一方または両方が実用に耐え得ないC以下の評価であった。
【0031】
また、ここで酸化クロムとグラファイトとのブレンド比について見ると、当該ブレンド比が1:9〜9:1の範囲内にある実施例1〜5では全てがA評価であったのに対し、当該ブレンド比が前記範囲外である実施例6〜7では一部に1段階低いB評価があった。この結果から、酸化クロムとグラファイトとのブレンド比を1:9〜9:1の範囲とすることで、より良好な耐摩耗性を有する往復動軸用オイルシールを得ることができることがわかった。
【0032】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明によるゴム組成物を用いた往復動軸用オイルシールの一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 オイルシール
3 弾性材料(ゴム組成物)
6 シールリップ
8 往復動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NBR100重量部に対して、酸化クロム1〜60重量部とグラファイト5〜60重量部とを含有させたことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記グラファイトは、平均粒径が1μm〜120μmであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記酸化クロムと前記グラファイトとのブレンド比が、重量部で1:9〜9:1であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
往復動軸に摺接するリップを備えてなる往復動軸用オイルシールにおいて、請求項1〜3の何れか1項に記載のゴム組成物によって前記リップが形成されていることを特徴とする往復動軸用オイルシール。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−65203(P2010−65203A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262247(P2008−262247)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000143307)株式会社荒井製作所 (100)
【Fターム(参考)】