説明

ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】 スチールコード等の金属補強材との初期の接着性、及び耐熱接着性を損うことなく、長時間の使用、或いは環境ストレスが加えられ後でもその接着力の低下を殆ど起こさない接着耐久性を有し、耐老化性に優れたゴム組成物、及びそのゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】 金属補強材に被覆接着させるゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対して、m−位のジオール系芳香族化合物と有機酸とのエステル化物0.1〜3.0質量部、及び2個のtert−butyl基を有するビスフェノール系化合物0.5〜8.0質量部を配合してなるものであり、上記のゴム組成物−金属補強材が空気入りタイヤのカーカス層、又はベルト層の少なくとも一層に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びその組成物を使用した空気入りタイヤに関するものであり、特に、スチール製の金属補強材との接着耐久性に優れ、且つ金属補強材に対して安定した初期接着性、熱接着性、及び耐老化性を示すゴム組成物であって、例えばタイヤ等のスチールコードの被覆接着用ゴム組成物として使用されるゴム組成物、及び環境ストレスを与えた後に十分な接着耐久性を有する空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の足廻りを支える空気入りタイヤに限らず、ベルト、ホース等のゴム製品にはスチール製の金属補強材が必要に応じて使用されている。このようなゴム製品にあっては、その補強材とゴム組成物との接着性が問題にされることがしばしばある。
従来、金属補強材とゴム組成物との接着性を高める方法としては、金属補強材を種々の接着剤で処理した後、その補強材とゴム組成物とを接着する方法、ゴム組成物の加工工程中に各種配合剤と共に、接着剤を配合して未加硫状態の接着性ゴム組成物を調製し、このゴム組成物と補強材とを加硫接着する方法等が知られている。
これらのうち、後者の方法は、補強材を接着剤で処理していなくても強固に加硫接着することができるとされ広く採用されている。
【0003】
ところで、近年、自動車用タイヤに要求される性能は益々厳しくなってきており、タイヤの耐久性の更なる改良が望まれている。このため、空気入りタイヤにあっては、スチールコードとコードを被覆するゴム組成物との接着性を確保することが重要となっている。接着性の低下はカーカス及びベルトの耐久性を低下させ、タイヤの耐久性に問題を生じさせる。このため、上述のような金属補強材とゴム組成物との接着性を改良する様々な検討がなされている。
【0004】
このようなゴム組成物の検討にあっては、従来から硫黄や有機コバルト塩を配合する接着ゴム組成物が提案されており、このような接着ゴム組成物は初期接着性に優れている。
またレゾルシン、又はレゾルシンとホルムアルデヒドとを縮合して得られるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂(RF樹脂)を配合する接着ゴム組成物が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。レゾルシン及びRF樹脂を配合することで、スチールコードとゴム組成物との耐湿熱接着性及び接着耐久性を向上させるとしている。
また、ゴム組成物に、所定量の硫黄とともに、加硫促進剤としてN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを特定の範囲内で併用するスチールコード被覆用ゴム組成物が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。このようなスチールコード被覆用ゴム組成物はスチール/ゴムの接着耐久性を向上させるものとして注目されている。
【特許文献1】特開2001−234140号公報
【特許文献2】特開平4−53845号公報
【0005】
しかしながら、硫黄及び有機コバルトを多量にゴム組成物に配合した場合には初期接着性は十分に確保されるが接着耐久性や耐老化性を低下させる。また、レゾルシン、RFなどの添加することで耐湿劣化性が確保されるが、これらの直接使用は加工時にブルームを生じ易くし、初期接着性や耐熱接着性を低下させる。
従って、このような接着性ゴム組成物の提案にもかかわらず、接着処理製品、特にタイヤ等のゴム・スチールコード複合体においては、環境ストレス、例えば、高速走行時、又は荷重走行時における接着低下が問題となることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、スチールコード等の金属補強材との初期の接着性、及び耐熱接着性を損うことなく、長時間の使用、或いは環境ストレスが加えられ後でもその接着力の低下を殆ど起こさない接着耐久性を有し、耐老化性に優れたゴム組成物、及びそのゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、m位−ジオール系芳香族化合物、例えば、レゾルシン、ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3−ナフタレンジオール等の還元性を有する芳香族化合物と有機酸とのエステル化物をゴム組成物に配合することにより、優れた加工性を維持しながらゴム組成物の接着耐久性及び耐老化性を向上させること、またエステル化物の配合に応じて硫黄、有機酸コバルト塩等の配合量を抑えて、2個のtert−butyl基を有した特定のビスフェノール系化合物を併用することにより、初期接着性、耐熱接着性、耐老化性、及び接着耐久性の全てが向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係るゴム組成物及び空気入りタイヤは、以下の(1)乃至(8)に記載される構成或いは手段を特徴とするものである。
(1)金属補強材に被覆接着させるゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対して、m−位のジオール系芳香族化合物と有機酸とのエステル化物0.1〜3.0質量部、及び2個のtert−butyl基を有するビスフェノール系化合物0.5〜8.0質量部を配合してなるゴム組成物。
【0009】
(2)上記のm−位のジオール芳香族化合物がレゾルシンである上記(1)記載のゴム組成物。
(3)上記の有機酸が炭素数2〜18の範囲にある脂肪族ジカルボン酸化合物又は芳香族ジカルボン酸化合物である上記(1)記載のゴム組成物。
(4)上記ビスフェノール系化合物は、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする上記(1)〜(3)に記載のゴム組成物。
【化2】

(式中、X1及びX2は水素、又は炭素数1乃至3のアルキル基であり、nは1乃至3の整数であり、またY1及びY2は炭素数1乃至10の整数であり、tBuはtert−butyl基である。)
(5)上記ゴム成分100質量部に対して、硫黄が7.0質量部以下で3.0質量部以上、有機酸コバルト塩が1質量部以下で0.05質量部以上配合されることを特徴とする上記(1)〜(4)に記載のゴム組成物。
(6)上記ゴム成分100質量部に対して、シリカが1.0〜8.0質量部の範囲で配合されることを特徴とする上記(1)〜(5)に記載のゴム組成物。
【0010】
(7)上記(1)〜(6)に記載されるゴム組成物と、該ゴム組成物で被覆されるスチールコードとからなることを特徴とするゴム−金属補強材。
(8)トレッド部、一対のサイドウォール部、ビード部、タイヤ子午線方向への実質平行に配置されたコードにより補強されたカーカス層、及び該カーカス層のタイヤ半径方向外方に配置され、実質平行に配置されたコードにより補強されたベルト層を有するタイヤであって、上記カーカス層、又はベルト層の少なくとも一層が上記(7)記載のゴム−金属補強材からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム組成物は、金属補強材、例えばタイヤのスチールコードなどを被覆するものとして好適に使用する。本発明のゴム組成物をスチールコードに被覆して加硫処理するとゴム組成物とスチールコードとの接着性が良くなる。即ち、ゴム組成物にm位−ジオール系芳香族化合物と有機酸とのエステル化物及び2個のtert−butyl基を有するビフェニール系化合物を所定量配合することにより、スチールコードとゴムとの間の初期接着性、耐熱接着性、接着耐久性、耐老化性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る好ましい実施の形態を添付図面を参照して詳述する。尚、本発明は以下の実施形態及び実施例に限るものではない。
図1は、本発明に係る空気入りタイヤの半部分断面概略図である。
【0013】
本発明に係るゴム組成物は、スチールコード等のスチール製のゴムの補強材に加硫接着させる接着性のゴム組成物である。
本発明に係るゴム組成物のゴム成分は特に限定されないが、後述するタイヤ等のスチールコード等に使用することができる。
ゴム組成物のゴム成分は天然ゴム、及び合成ゴムから選択される。両者を混合使用しても良い。合成ゴムは、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、特に、ジエン系ゴムが好ましく、中でもスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びブチルゴムから少なくとも1種を適宜選択することが好ましい。
ゴム組成物は、天然ゴムを主成分として用いることが望ましく、天然ゴムの割合は耐破壊性や補強材(スチールコード)との接着性の点でゴム分率(質量%)の50乃至100質量%であることが好ましく、特に60乃至100質量%が好ましく、更には100質量%であることが好ましい。上記天然ゴム以外の合成ゴムは50質量%以下の割合でブレンド使用することが望ましく、50質量%を超える使用は耐破壊性やスチールコードとの接着を低下させる。
【0014】
ゴム組成物にはm位−ジオール系芳香族化合物と有機酸とのエステル化物が配合される。
m位−ジオール系芳香族化合物は、具体的にレゾルシン、ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3−ナフタレンジオール等がある。特に、汎用性のあるレゾルシンが好ましい。
有機酸は、脂肪酸或いは芳香族酸であり、ゴム組成物に配合する有機酸としては脂肪酸が好ましい。また、有機酸は2個のジオール系芳香族化合物と結合するジカルボン酸類であることが好ましく、例えば、有機酸が炭素数2〜18の範囲にある脂肪族ジカルボン酸化合物又は芳香族ジカルボン酸化合物である。
【0015】
脂肪族ジカルボン酸の炭素数0〜16の脂肪族基(ここでは、炭素数が0も脂肪族ジカルボン酸とする。)は、直鎖、分岐鎖、シクロ環でも良く、また、二重結合を含んでも良い。具体的には、例えばアジピン酸などが好ましい。脂肪族ジカルボン酸とm−位ジオール系芳香族化合物とのエステル化物は、ゴム組成物の混練時において安定する。一方、加硫時には還元性の高いm−位ジオール芳香族が遊離してくる。また芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環類等を挙げることができる。
【0016】
ゴム組成物は添加物を分散させるため混練がされる。エステル化物はその混練時の分解が少なく、レゾルシンなどの還元性ジオール系芳香族化合物は安定した状態でゴム組成物内に存在する。一方、補強材などに塗布した後のゴム組成物を加硫する際にはエステル化物は分解し、レゾルシンなどが加硫中のゴム組成物に作用する。タイヤなどのスチールコードにゴム組成物を使用した場合、ゴム組成物が内部に埋め込まれた状態で加硫されるため、分解してきたレゾルシンなどは内部保持され、スチールコードとゴムとの耐湿熱劣化性、接着耐久性を向上させる。また、このような事から、大量の硫黄や有機酸コバルト塩の使用を抑え、耐老化性も向上する。
従って、ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対してm位−ジオール系芳香族化合物と有機酸とのエステル化物を0.1〜3.0質量部の範囲で含む。特に好ましくは、0.5〜2.5質量部の範囲である。上記範囲未満の配合では、上記効果が生じない。上記の範囲を超える過剰な配合量では耐熱接着性を低下させる。
【0017】
ゴム組成物は、2個のtert−butyl基を有するビスフェノール系化合物が含まれる。特に、下記一般式(1)で示されるビスフェノール系化合物であることが好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
式中、X1及びX2は水素、又は炭素数1乃至3のアルキル基であり、nは1乃至3の整数であり、またY1及びY2は炭素数1乃至10の整数であり、tBuはtert−butyl基である。
特に、上記ビスフェノール系化合物としては、式中、X1及びX2は水素で、nは1乃至3の整数である、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−プロピレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等が製造及び入手容易なことから好ましい。
【0020】
上記ビスフェノール系化合物は上記ゴム成分100質量部に対して、0.5乃至8.0質量部の範囲で配合され、特に1.0乃至3.0質量部の範囲で配合されることが好ましい。
上記ビスフェノール系化合物は、上記エステル化物の配合による耐熱接着性の低下を抑え、上記範囲内にあれば、加硫直後のゴム組成物とスチール製部材との接着性である初期接着性能、及び耐熱接着性を十分に維持し、環境ストレスを付与した後の接着耐久性を十分に高める。上記ビスフェノール系化合物の量が0.5質量部未満であると、その加硫ゴムに初期接着性及び耐熱接着性の改善が見られない。一方、上記ビスフェノール系化合物が8.0質量部を超えると、耐老化性を低下させる。
【0021】
ゴム組成物はゴム成分100質量部に対して硫黄を7.0質量部以下に配合することが好ましい。特に、3.0〜7.0質量部の範囲、更に好ましくは4.0〜6.0質量部の範囲である。硫黄を7.0質量部以上配合すると、上述したように耐老化性が低下する。硫黄を3.0質量部未満の範囲で配合すると、初期接着性が不十分になる。
ゴム組成物はゴム成分100質量部に対して有機酸コバルト塩を1.0質量部以下に配合することが好ましい。特に、0.05〜1.0質量部の範囲、更に好ましくは0.3〜〜0.8質量部の範囲である。有機酸コバルト塩を1.0質量部以上配合すると、上述したように耐老化性が低下する。有機酸コバルト塩を0.05質量部未満の範囲で配合すると、初期接着性が不十分になる。
上記コバルト有機酸塩としては、ナフテン酸コバルト、ロジン酸コバルト、或いは炭素数が5乃至20程度の直鎖状或いは分岐鎖のモノカルボン酸コバルト塩等を挙げることができる。
また、硫黄分の配合量の減少を補うために、ゴム成分100質量部に対してシリカを1〜8質量部の範囲で加えることが好ましく、シリカを接着プロモーターとして用いることができる。
【0022】
本発明に係るゴム組成物にあっては、上記ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックが40質量部以上、更には40乃至100質量部、特に、50乃至100質量部配合させることが好ましい。カーボンブラックの量が少なくなると、弾性率が低下する。また、カーボンブラックの量が多くなると加硫ゴム組成物の低発熱性が低下する。
上記カーボンブラックは、通常ゴム業界で用いられるものから適宜選択することができ、例えば、SRF、GPF、FER、HAF、ISAF等を挙げることができるが、中でもGPF、HAFが物性とコストのバランスの面から好ましい。
【0023】
本発明に係る接着性ゴム組成物は、上述した配合剤の他に、他の配合剤、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の無機充填剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、軟化剤などを添加することができる。
【0024】
以上の如く構成されるゴム組成物にあっては、その加硫後、金属補強材との間の接着力が従来と同様に十分に維持されるだけでなく、環境ストレスを与えた後も、例えば、高温、高湿条件に長時間晒した後もゴムと金属補強材との間の接着性が十分に維持されるものである。
【0025】
本発明に係るゴム組成物は例えば、バンバリーミキサー等の密閉式混練機、オープンロール等の混練機を用いて混練することによって得られ、成形加工後、加硫を行い、上記特性を必要とするタイヤ並びに各種工業用品に用いることができ、特に、以下に示すタイヤのベルトコーティング用ゴム、つまり、スチールコードコーティング用ゴムとして好適に使用すると、その走行時或いは荷重付加走行時等にタイヤに発熱が生じても上述のような耐環境ストレス接着性能を発揮することができる。
【0026】
本発明に係るゴム−金属補強材は、上記ゴム組成物と、スチール部材とからなることを特徴とする。具体的には、本発明に係るゴム組成物でスチール部材を被覆してなるものである。
上記スチール部材は、そのゴム製品によってその形状を異ならせることができ、特に制限されるものではなく、例えば、後述するタイヤにあってはスチールコード、特に、ブラスコートされ、加硫ゴムとの接着性が高められたスチールコードへの適用が好適である。スチールコード処理の方法は特に制限されず、通常用いる方法を適宜用いることができ、例えば、メッキ処理法、各種CVD法、PVD法などを挙げることができる。
【0027】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部、一対のサイドウォール部、一対のビード部、実質平行に配置されたコードにより補強された補強層を有する。そして、上記カーカス層及び補強層を構成するプライの少なくとも一層を構成するゴム組成物が本発明のゴム組成物よりなる。ここでいう補強層とは、ラジアルタイヤにおいてはベルト層、バイアスタイヤにおいてはブレーカー層と呼ばれるものである。
【0028】
次に、本発明に係る空気入りタイヤの1例について図1に従って簡単に説明する。
即ち、図1に示す実施態様の重用車用タイヤ1にあっては、ビードコア2が埋設された一対のビード部3と、これらビード部3からほぼ半径方向外側に向かって延びる一対のサイドウォール部4と、これらサイドウォール部4の半径方向外端同士を連ねるトレッド部5とを有している。タイヤ1は一方のビード部3から他方のビード部3まで延びるカーカス層8によって補強されている。
また、トレッドの内側にはベルト層13が配設されている。カーカス層8はタイヤの子午線方向に実質平行に配された有機繊維コードで補強されたプライの一層からなり、ベルト層13は実質平行に配置されたスチールコードで補強され、本発明のゴム組成物で被覆されたプライの2層からなる。
【0029】
このように構成される本発明に係る空気入りタイヤにあっては、ベルトプライのスチールコードの被覆用ゴム組成物として上記のゴム組成物を用いているため、スチールコードに対する接着性能が高くなる。また、環境ストレス(高温、高湿)によっても接着性能が低下しない。このため、タイヤの耐ヒートセパレーション性の問題が解消され、また耐ヒートセパレーション性を低下させることもない。このようなことから、タイヤは走行中、荷重走行中等にバースト等を起こす虞がない。尚、本発明の空気入りタイヤの内部には空気のほかに、窒素等の不活性ガスを充填することができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例、比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制約されるものではない。
【0031】
実施例1〜4、比較例1〜4
天然ゴム(NR)、カーボンブラック(LS−HAFN)、シリカ、酸化亜鉛、3HPAD(レゾルシンとアジピン酸とのエステル化物)、老化防止剤(N−フェニール−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン:大内新興化学工業(株)製、商品名、ノクラック6C)、加硫促進剤(DZ:N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、硫黄、コバルト脂肪酸塩(商品名、マノボンドC22.5:コバルト含有量=22.5質量%、ローディア社製)、及びビスフェノール系化合物(2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)を使用して、下記表1に示す各組成の質量部を2200ccのバンバリーミキサーを使用して混練りし、未加硫のゴム組成物を得、以下の方法でのゴム組成物の加硫後の特性を評価した。尚、3HPADは以下の方法にて製造した。
【0032】
3HPADの製造(レゾルシンとアジピン酸とのエステル化物)
レゾルシン330.6g(3.0mol)をピリジン600.0gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これに塩化アジポイル54.9g(0.30mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置して反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物に水1200gを加えて氷冷すると沈殿が析出した。析出した沈殿をろ過、水洗し、得られた湿体を減圧乾燥して、白色〜淡黄色の粉体84gを得た。この粉体を分取用装置を備えた液体クロマトグラフィーで下記の条件で処理し、主たる成分を含む溶離液を分取した。この溶離液を濃縮し、析出した結晶をろ過して回収し、減圧乾燥して融点140〜143℃の結晶を得た。分析の結果、この結晶はアジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルであった。
【0033】
分取用のHPLC条件は下記の通りである。
カラム :Shim−pack PREP−ODS(島津製作所製)
カラム温度 :25℃
溶離液 :メタノール/水混合溶剤(85/15(w/w%))
溶離液の流速:流量3ml/分
検出器 :UV検出器(254nm)
【0034】
尚、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの同定データは下記の通りである。
MSスペクトルデータ
EI(Pos.) m/z=330
IRスペクトルデータ
3436cm−1 : 水酸基
2936cm−1 : アルキル
1739cm−1 : エステル
NMRスペクトルデータを表2−1および表2−2に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
試験評価の方法は以下のとおりである。
(1)初期接着性
黄銅のブラス鍍金(Cu:63wt%、Zn:37wt%)したスチールコード(1×5×0.25mm(素線径))を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から各ゴム組成物でコーティングして各サンプルを作製した。各サンプルを温度160℃×10分間の条件で加硫し、ASTM−D−2229に準拠して各サンプルからスチールコードを引き抜き、引き抜かれたスチールコード表面のうち、ゴムで被覆されている表面積の割合を目視で求めた。数値が大きい程、接着力が大きく、良好であることを示す。
(2)耐熱接着性
黄銅のブラス鍍金(Cu:63wt%、Zn:37wt%)したスチールコード(1×5×0.25mm(素線径))を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から各ゴム組成物でコーティングして各サンプルを作製した。各サンプルを温度160℃×300分間の条件で加硫し、ASTM−D−2229に準拠して各サンプルからスチールコードを引き抜き、引き抜かれたスチールコード表面のうち、ゴムで被覆されている表面積の割合を目視で求めた。数値が大きい程、接着力が大きく、良好であることを示す。
【0038】
(3)接着耐久性
供試タイヤを100℃、相対湿度95%RHに保持した恒温恒湿槽中に5週間放置した後、タイヤからベルト層を取り出し、ベルト層中のスチールコードを引張試験機により50mm/minの速度で引張り、露出したスチールコードのゴムの被覆状態を目視で観察し、その被覆率を0〜100%で表示して湿熱接着性の指標とした。数値が大きい程、接着性が高く良好である。
(4)耐老化性
加硫条件(160℃×14分間)で加硫したゴム組成物について、JIS K6301−1995(3号試験片)に準拠して測定する。100℃×24時間で空気中に放置劣化させた後のEBをJIS K6301−1995(3号試験片)に準拠して測定する。
保持率=100×(劣化後のEB)/(劣化前のEB)とし、数値が大きいほど耐老化性が高く良好である。
(5)ベルト端クラック長さ
各ゴム組成物でスチールコードを被覆してなるベルト層とベルト端部の補強層間に厚み0.5mm、幅15mmのゴムを挿入したタイヤ(サイズ:185/70R14)についてリム組みし、酸素充填後60℃にて2週間加熱処理後、ドラムを速度60km/h、スリップアングル:±2°、荷重:480kg、内圧:220kPaで20000km走行後、ベルト端部のクラック長さを測定する。数値が小さい程クラックの進展が少ない。
以上の評価結果を表3に示した。
【0039】
【表3】

【0040】
表3の結果が示すように、上述したエステル化物とビスフェノール系化合物を添加することにより、初期接着性を十分に維持しながら耐熱接着性に優れている。また、発熱及び高湿等の環境ストレスを与えた後も接着耐久性が十分であると共に耐老化性も十分であることが判る。更に、タイヤ走行におけるクラックなどが抑えられる。一方、比較例1〜4に示されるように、ビスフェノール系化合物を配合しないと、その老化接着性が十分に発揮されなくなることが判る。また比較例1及び2に示すように3HPADが配合されないと初期接着性及び接着耐久性が改善されないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のゴム組成物、それを用いたスチール補強材、及びタイヤにあっては、金属補強材とゴムとの間の初期接着性、耐熱接着性、及び環境ストレスを与えた後の接着耐久性、更には耐老化性が優れ、タイヤ、その他のゴム製品に使用しできる産業上の利用可能性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明に係る空気入りタイヤの半部分断面概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 タイヤ
2 ビードコア
3 ビード部
4 サイドウォール部
5 トレッド部
8 カーカス層
13 ベルト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属補強材に被覆接着させるゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対して、m−位のジオール系芳香族化合物と有機酸とのエステル化物0.1〜3.0質量部、及び2個のtert−butyl基を有するビスフェノール系化合物0.5〜8.0質量部を配合してなるゴム組成物。
【請求項2】
上記のm−位のジオール芳香族化合物がレゾルシンである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
上記の有機酸が炭素数2〜18の範囲にある脂肪族ジカルボン酸化合物又は芳香族ジカルボン酸化合物である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項4】
上記ビスフェノール系化合物は、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れかの項に記載のゴム組成物。
【化1】

(式中、X1及びX2は水素、又は炭素数1乃至3のアルキル基であり、nは1乃至3の整数であり、またY1及びY2は炭素数1乃至10の整数であり、tBuはtert−butyl基である。)
【請求項5】
上記ゴム成分100質量部に対して、硫黄が7.0質量部以下で3.0質量部以上、有機酸コバルト塩が1質量部以下で0.05質量部以上配合されることを特徴とする請求項1〜4の何れかの項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
上記ゴム成分100質量部に対して、シリカが1.0〜8.0質量部の範囲で配合されることを特徴とする請求項1〜5の何れかの項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載されるゴム組成物と、該ゴム組成物で被覆されるスチールコードとからなることを特徴とするゴム−金属補強材。
【請求項8】
トレッド部、一対のサイドウォール部、ビード部、タイヤ子午線方向への実質平行に配置されたコードにより補強されたカーカス層、及び該カーカス層のタイヤ半径方向外方に配置され、実質平行に配置されたコードにより補強されたベルト層を有するタイヤであって、上記カーカス層、又はベルト層の少なくとも一層が上記請求項7記載のゴム−金属補強材からなることを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−211152(P2007−211152A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33266(P2006−33266)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】