説明

ゴム補強用セルロースディップコード

【課題】
タイヤコード用として適している応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコードを提供する。
【解決手段】
少なくとも2本のリヨセルマルチフィラメントからなるリヨセル生コードをディッピング液に浸漬し、硬化させて製造されたリヨセルディップコードであって、(a)乾燥状態で測定されたリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し;(b)1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し;(c)4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコードを提供する。このようなリヨセルディップコードは、産業用および特にタイヤコード用繊維として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2本のリヨセルマルチフィラメントからなるリヨセル生コードをディッピング液に浸漬し、硬化させて製造されたリヨセルディップコードであって、(a)乾燥状態で測定されたリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し;(b)1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し;そして(c)4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコードに関する。本発明に係るディップコードは、好ましくはタイヤコード用として適している高強力および高モジュラスリヨセルディップコードにすることができ、また、セルロースをN−メチルモルホリンN−オキシド(以下、NMMO)/水に溶解させた後、適切に設けられた紡糸ノズルを介して紡糸する方法で製造することができる。
【背景技術】
【0002】
一般的にタイヤ内部を形成している骨格としてタイヤコードが多量に用いられているが、これはタイヤ形態の保持や乗車感において重要な要素となり、現在、用いられているコード素材はポリエステル、ナイロン、アラミド、レーヨンおよびスチールまで様々な種類があるが、タイヤコードに求められている多様な機能を完全に満足させることはできない。このようなタイヤコード素材に必要な基本性能としては、(1)強度、初期モジュラスが大きいこと(2)耐熱性があり、乾湿熱において臭化されないこと(3)耐疲労性(4)形態安全性(5)ゴムとの接着性に優れていること等を挙げることができる。したがって、各コード素材の固有物性に応じてその用途を定めて用いられている。
【0003】
このうち、レーヨンタイヤコードの最も大きい長所は、耐熱性と形態安全性であり、高温でも弾性係数が保持される。したがって、このような低い収縮率と優れた形態安全性のために乗用車などの高速走行用ラジアルタイヤに主に用いられてきた。しかし、レーヨンタイヤコードは、強度およびモジュラスが低く、吸湿しやすい化学的、物理的な構造によって吸湿に伴う強力低下が現れる欠点を有している。
【0004】
一方、セルロースからなる人造繊維であるリヨセル繊維は、レーヨン繊維に比べて伸度と熱収縮が低く、強度およびモジュラスは高く、形態安全性に優れるだけでなく、水分率も低いため、湿潤時にも強力保持率とモジュラス保持率が80%以上で高いという特徴を有している。したがって、レーヨン(60%)に比べて、相対的に形態変化が少ないという長所を有しているが、前記要求に対する代案と考えることができるが、タイヤコード用としての紡糸性および低い伸度と高い結晶化度による低い耐疲労性が問題となって、まだこれを用いたタイヤコードは存在していない現状である。しかし、NMMOによるリヨセル繊維の製造方法は、溶媒の全量回収と再使用による無公害工程という点と、製造された繊維とフィルムなどが高い機械的強度を有するという利点によって、セルロースを素材とした製品の製造工程に多く用いられている。
【0005】
本発明では、上記の通り多くの長所を有するリヨセル製造工程によって得られたフィラメントをダイレクト撚糸機を用いて生コードを製造し、また通常のRFL処理工程を介してディップコードを製造し、タイヤコードに適している力−伸長曲線を有するリヨセルディップコードを提供しようとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、タイヤコード用に適している応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコードを提供するにある。
【0007】
本発明は、既存のビスコースレーヨンタイヤコードが有する低い強度と低い初期モジュラスという問題点を解決するために、NMMO水和物を、溶媒を用いて直接セルロースを溶解させ、前記溶液の紡糸、水洗、油剤処理、および、乾燥条件を適切に調節することによって、産業用リヨセルフィラメントを得、これを用いて撚糸および熱処理を実施することによって、特にタイヤコード用として適している応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコードを提供することをその目的とする。
【0008】
本発明では、まず商業的に用いられるビスコースレーヨンの生コードおよびディップコードの応力−歪みプロフィールを分析した(比較例1)。そして、ビスコースレーヨンの低い強度と低い初期モジュラスとを改善するために、既存のビスコース工程と区別されるNMMOによってセルロースを溶解させる方法を用いてリヨセルマルチフィラメントを製造し、その後、ディップコードの重合度の変化、油剤量、密度などの条件を変化させることによって、ビスコースレーヨンが有する低い強度と低い初期モジュラスとを改善しようする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るリヨセルディップコードは、少なくとも2本のリヨセルマルチフィラメントからなるリヨセル生コードをディッピング液に浸漬し、硬化させて製造されたリヨセルディップコードであって、(a)乾燥状態で測定されたリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し;(b)1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し;そして(c)4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記リヨセルディップコードの重合度(DP)の低下率が3.0%以下であることが好ましい。
【0011】
また、前記リヨセルディップコードは、250〜550TPMの撚数を有することが好ましい。
【0012】
また、前記リヨセルディップコードは、強力が16.0〜30.0kgfであることが好ましい。
【0013】
また、前記リヨセルディップコードは、1.48〜1.52g/cm3の密度を有することが特徴である。
【0014】
また、前記リヨセルマルチフィラメントは、0.80以上の結晶配向度を有することが特徴である。
【0015】
また、前記リヨセルマルチフィラメントは、0.2〜0.6の動摩擦係数を有することが好ましい。
【0016】
また、前記リヨセル生コードは、リヨセルマルチフィラメントを2本または3本で撚糸して製造される。
【0017】
また、前記リヨセルディップコードを含むタイヤを提供する。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明において、(a)乾燥状態で測定されたリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し、(b)1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し、(c)4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコードを提供することによって、既存のビスコースレーヨンが有していた低い強度と低い初期モジュラスという問題点を改善し、優れたサイズ安全性と耐熱性を有するリヨセルタイヤコードを提供することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の産業用高強力繊維、特にタイヤコード用として用いられるリヨセルディップコードに高い形態安全性を付与するためには、リヨセルディップコードの応力−歪み曲線を調節することが重要である。この時、乾燥状態で測定されたリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し;1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し;4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有することが好ましい。
【0020】
タイヤ製造の際、加硫工程において高い形態安全性を保持するためには、リヨセルディップコードの高い初期モジュラスが必要である。このような理由で、本発明のリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有することが好ましいが、ディップコードが1.0g/dの初期応力に1%を超過して伸長すれば、タイヤの製造後の形態安全性が低く、外部変形による抵抗性が低くなってタイヤに激しい変形を招くようになり、乗車感の低下および操縦性能の低下をもたらすようになる。また、本発明のリヨセルディップコードは、1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長することが好ましいが、6%を超過して伸長すれば、形態安全性が低下し、外部変形による抵抗性が低くなってタイヤの変形を引き起こすことがある。
【0021】
また、エネルギー節約型自動車を設計するためには、タイヤの重量を最小化することが好ましいが、これを実現するために高強力タイヤコード紙が必要である。本発明のリヨセルディップコードは、4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有することが好ましいが、これは4.0g/dの引張強度からディップコードが切断されるまで1%未満伸長すれば、ディップコードの最大引張荷重の吸収力が不足してタイヤ当たりのコード紙の重量を減らし難く、耐疲労性が急激に下がる。
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
本発明のようなリヨセルフィラメントを製造するためには、セルロースの純度が高いパルプを用いなければならず、高品質のセルロース系繊維を製造するためには、α−セルロース含量が高いものを用いることが好ましい。このような理由は、重合度が高いセルロース分子を用いて高配向構造および高結晶化させることによって高い強度と高い初期モジュラスとを期待することができるためである。したがって、本発明で用いられたセルロースは、DP1,200、α−セルロース含量93%以上の針葉樹パルプ(soft wood pulp)である。
【0024】
NMMOは、セルロースに対する溶解力が優れ,毒性のない溶媒として知られており、本発明におけるNMMOは、約87%の水準に調節された水和物を用いるが、これは結晶性の高いセルロースの細孔(pore)を開いて溶解力を有するために、水の存在が必須である。このようなNMMOの水和物の熱分解を抑制し、セルロース溶液の安全性のために、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸プロピルエステル(trihydroxybenzoic acid propyl ester、以下、没食子酸プロピル(propyl gallate)と称する)を微量添加した。
【0025】
セルロースをNMMOに溶解させるために剪断力(shear force)のような物理的な力が必要であり、本発明では2軸押出機を介してセルロースを溶解させた。以上のようなセルロース溶液をオリフィスの直径が100〜200μm、オリフィスの長さは200〜1,600μmとして、オリフィスの直径と長さの比が2〜8倍程度であるノズルを介して紡糸した後、図1に示す工程を通してリヨセルフィラメントを得ることができる。図1に示したリヨセルフィラメント製造工程は下記の通りである。
【0026】
紡糸ノズル1から圧出された溶液は、垂直方向にエアーギャップ(air gap)を通過して凝固浴2で凝固する。エアーギャップは、緻密で均一な繊維を得、また、円滑な冷却効果を与えるために10〜300mmの長さであることが適切である。
【0027】
凝固浴2を通過したフィラメントは、水洗槽3を通過するようになる。凝固浴2と水洗槽3との温度は、急激な脱溶媒による繊維組織内の孔隙等の形成による物性の低下を防ぐために、10〜25℃程度に調節することが好ましい。
【0028】
水洗槽3を通過した繊維は、水分除去のためにスクイジング(squeezing)ローラー4を通過した後、1次油剤処理装置5を通過する。
【0029】
以後、1次油剤処理装置5を通過したフィラメント糸は、乾燥装置6を経ながら乾燥される。この時、乾燥温度と乾燥方式、そして乾燥張力などは、フィラメントの後工程および物性に大きい影響を及ぼすようになる。本発明では、工程における水分率が7〜13%になることができるように乾燥温度を調節した。
【0030】
乾燥装置6を通過したフィラメントは、2次油剤処理装置7を経て最終的に巻取機8で巻き取られる。
【0031】
巻取機8で巻き取られたリヨセルフィラメントの繊度については特に制限されないが、短糸繊度は0.01〜10デニールであることが好ましい。リヨセルフィラメントの高強力特性を保持するためには、短糸繊度は0.5〜10デニールであることが好ましく、さらに好ましくは0.7〜3デニールであることであり、最も好ましくは0.7〜2デニールであることである。また、総繊度は、特に制限されないが、通常的に5〜30,000デニールであり、そして産業資材用としては100〜5,000デニールであることが好ましい。
【0032】
製造されたフィラメント原糸をダイレクト撚糸機で撚糸して生コードを製造し、通常のレゾルシノール−ホルマリン−ラテックス(RFL)溶液に浸漬して熱処理することによって、「ディップコード(Dip Cord)」を製造した。
【0033】
本発明の産業用高強力コード、特にタイヤコード用として用いられるリヨセルディップコードは、リヨセルディップコードの応力−歪み曲線を調節して高い形態安全性を付与する。本発明のリヨセルディップコードの応力−歪み曲線は、リヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し;1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し;4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長することが好ましい。
【0034】
本発明の前記応力−歪み曲線に影響を与える因子としてディップコード重合度(DP)の低下率がある。ディップコードの重合度の低下率(%)は、熱処理を実施する前の生コードのDP(D0)を測定し、熱処理を実施した後、ディップコードのDP(D1)を測定して、式(1)によって低下率を計算する。
【0035】
(数1)
DP低下率(%)=(D0−D1)/D0×100 (1)
【0036】
本発明における好ましいディップコードの重合度(DP)の低下率は3%以下である。重合度の低下率が3%を超過すれば、ディップコードの機械的物性が急激に減少し、本発明で達成しようとするタイヤコード用としての好ましいディップコードの応力−歪み曲線を得られない。前記ディップコードDPの低下率(%)に影響を与える因子には様々なものがある。第一は、ディッピング工程で熱処理時間および温度を適切に調節してDPの低下率を最小化することができる。第二は、リヨセルマルチフィラメントの緻密性である。リヨセルマルチフィラメント内に孔隙が多く存在したり、スキン−コア構造へ過度に発達したりすれば、ディッピング工程でディップコードの重合度が急激に減少する。
【0037】
前記応力−歪み曲線に影響を与える他の因子としては、リヨセルフィラメント−フィラメント間の動摩擦係数がある。好ましい動摩擦係数の値は0.01〜3.0であり、より好ましくは0.1〜2.5、さらに好ましくは0.2〜0.6である。動摩擦係数の値が0.01未満であれば撚り工程でスリップが発生し、3.0より大きければ撚り工程でコードに損傷を提供して、強力および耐疲労性が低下する。前記動摩擦係数の調節のためにフィラメントの表面に油剤を塗布することができる。油剤の塗布量は、繊維重量に対して0.1〜7重量%にすることが好ましく、より好ましくは0.2〜4重量%、さらに好ましくは0.4〜1.5重量%である。繊維に対する油剤の塗布量が0.1重量%未満であれば撚り工程でコードに損傷が発生して強力および耐疲労性が低下し、7重量%超過すれば撚り工程でスリップが発生する。
【0038】
本発明で用いられる油剤に対しては特別な制限はないが、以下の化合物(1)〜(3)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を必須成分とし、必須成分の合計量を油剤全体の重量の30〜100重量%にすることが好ましい。
【0039】
(1)分子量300〜2,000のエステル化合物
(2)鉱物油
(3)分子量300〜2,000のエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体
【0040】
本発明の応力−歪み曲線に影響を与えるまた他の因子は、リヨセルマルチフィラメントの結晶配向度である。結晶配向度は、0.80以上が好ましく、より好ましくは0.90以上である。結晶配向度が0.80未満であれば、分子鎖配向の不充分でリヨセルマルチフィラメントの強力低下によって、ディップコードが4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有することが不可能である。結晶配向度に影響を与える工程因子としては、NMMO溶媒に対するセルロースの濃度、オリフィスの長さ/直径比の冷却条件および凝固浴の温度などがある。このような様々な工程因子を適切に調節することによって、コードの結晶配向度を0.80以上で調節することができる。
【0041】
本発明の応力−歪み曲線に影響を与えるまた他の因子はコードの密度である。RFLを除去したディップコードの密度は、1.48〜1.54g/cm3であることが好ましく、より好ましくは1.50〜1.52g/cm3である。ディップコード内に孔隙が多く存在したり、スキン−コア構造へ過度に発達したりすれば、ディップコードの密度が1.48g/cm3未満になって、緻密性および強力の不足によって、本発明に係る応力−歪み曲線を有することができなくなる。1.54g/cm3超過すればコードの伸度が過度に減少して応力−歪み曲線は4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%未満伸長して耐疲労性が下がる。
【0042】
以下、本発明の撚糸、製織および熱処理工程をさらに詳しく説明する。
【0043】
本発明の撚糸工程をさらに詳細に説明すれば、前記方法によって製造されたリヨセルマルチフィラメント2本または3本を加撚および合撚が同時進行されるダイレクト撚糸機で撚糸してタイヤコード用「生コード」を製造する。生コードは、リヨセルマルチフィラメントに下撚(Ply Twist)を加えた後、上撚(Cable Twist)を加えて合撚することで製造され、一般的に上撚と下撚は同じ撚数あるいは必要に応じて異なる撚数を加えるようになる。
【0044】
一般的にマルチフィラメントに与えられる撚りの水準(撚数)によりコードの強伸度、中伸度および耐疲労度などの物性が変化する。通常、撚りが高い場合、強力は減少し、中伸と切伸は増加する傾向を帯びるようになる。耐疲労度は撚りの増加により向上する傾向を見せるようになる。本発明で製造したリヨセルタイヤコードの撚数は、上/下撚同時に250/250TPM〜550/550TPMで製造したが、上撚と下撚を同じ数値として付与することは、製造されたタイヤコードが回転や撚りなどをせず、一直線上を保持しやすいようにして物性の発現を最大にするためである。この時、250/250TPM未満である場合には生コードの切伸が減少して耐疲労度が低下しやすく、550/550TPM超過の場合には強力低下が大きくてタイヤコード用として適切ではない。
【0045】
製造された生コードは、製織機(weaving machine)を用いて製織され、得られた織物をディッピング液に浸漬した後、硬化して生コードの表面に樹脂層が塗布されたタイヤコード用「ディップコード(Dip Cord)」として製造される。
【0046】
本発明のディッピング工程をさらに詳細に説明すれば、ディッピングは繊維の表面にRFL(Resorcinol-Formaline-Latex)と呼ばれる樹脂層を含浸させる工程からなる。本来、ゴムとの接着性に欠けるタイヤコード用繊維の短所を改善するために実施する。通常のレーヨン繊維またはナイロンは1浴ディップを行うのが普通であり、PET繊維を用いる場合、PET繊維表面の反応基がレーヨン繊維やナイロン繊維に比べて少ないため、PET表面をまず活性化した後に接着処理を行うようになる(2浴ディップ)。
【0047】
本発明に係るリヨセルマルチフィラメントは1浴ディップを用いて製造された。ディッピング浴は、タイヤコードのために公知されたディッピング浴を用いる。
【実施例】
【0048】
以下、具体的な実施例および比較例をもって本発明の構成および効果を詳細に説明するが、これらの実施例は、単に本発明をより明確に理解できるようにさせるものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
実施例および比較例において、セルロース溶液およびフィラメントなどの特性は、下記のような方法でその物性を評価した。
【0050】
(a)タイヤコード強力(kgf)、強度(g/d)および初期モジュラス(g/d)
表面にRFL液がコーティングされたリヨセルディップコードを107℃で2時間乾燥した後、インストロン社の低速伸長型引張試験機を用いて、試料長250mm、引張速度300m/minで測定する。引張試験の初期に加えられる初荷重は0.05g/dを基準として加えられ、細部試験方法はASTM D885に準じて実施した。初期モジュラスは降伏点以前のグラフの傾きを示す。リヨセルディップコードの繊度は試料長600mm、初荷重は0.05g/dで測定する。強力は繊度と強度によって求められる。
【0051】
(b)DPU(dipping pick up)
3gのディップコードを30±5℃で保持する71±1%の硫酸で溶解させた後、ガラスフィルタ(Glass Filter)で濾過させて乾燥した後、重さを測定する。
【0052】
(数2)
DPU(%)=乾燥した残渣の重さ/(乾燥した試料の重さ−乾燥した残渣の重さ)×100 (2)
【0053】
(c)動摩擦係数の測定方法
摩擦係数の測定は、スイスのノスチャイルド社の摩擦係数測定装置を用い、これは繊維がプーリー(pulley、直線運動を回転運動に変える装置)を通過する時、プーリー表面と繊維との間の摩擦力を克服することができる程の張力が増加するという原理を利用したものであって、200m/minで繊維を移動させながら、送出張力と巻取張力との値を張力計を用いて測定して関係式に代入することによって求められる。
【0054】
(数3)
μ(摩擦係数)=ln(巻取張力/送出張力)/θ(接触角) (3)
【0055】
(d)結晶配向度測定方法(WAXD)
マルチフィラメントの結晶化度を測定するために、次のように広角X線回折法を用いた。X−ray発生装置:リガク社製、X線源:CuKα(Niフィルタ使用)、出力:50KV 200mA、測定範囲:2Θ=5〜45°
【0056】
(e)密度測定方法
熱処理条件を同じように適用してRFL液に浸漬しないディップコードを巻き取った後、試片を2〜3mmで切断して、約0.01gを採取した後、ASTM D1505に準じて製作された密度勾配管に投入した後、24時間程度放置して安定化させてから密度値を測定した。
【0057】
(f)乾熱収縮率(%、Shrinkage)
25℃、65%RHで24時間放置した後、0.05g/dの静荷重で測定した長さ(L0)と150℃で30分間0.05g/dの静荷重で処理した後の長さ(L1)との比を用いて乾熱収縮率を示す。
【0058】
(数4)
S(%)=(L0−L1)/L0×100 (4)
【0059】
(g)ディップコード重合度(DP)の低下率(%)
溶解したセルロースの固有粘度[IV]は、ウッベローデ粘度計を用いてASTM D539−51Tによって作られた0.5M銅エチレンジアミンヒドロキシド溶液で25±0.01℃で0.1〜0.6g/dlの濃度範囲で測定した。固有粘度は比粘度を濃度に応じて外挿して求め、これを下のマーク・ホウィンクの式に代入して重合度を求める。
【0060】
(数5)
[IV]=0.98×10−2DP0.9 (5)
【0061】
まず、熱処理を実施する前の生コードのDP(D0)を測定し、熱処理を実施した後にディップコードのDP(D1)を測定し、下式によって低下率を計算する。
【0062】
(数6)
DP低下率(%)=(D0−D1)/D0×100 (1)
【0063】
(h)油剤含有量(OPU)の測定方法
生コード試片を10〜15mに切断し、約5.0gを採取した後、107℃乾燥器で2時間乾燥した後、重さを測定し(W0)、CCl4に2時間浸漬させて油剤を除去した後、前記乾燥条件で乾燥し、重さを測定(W1)して油剤含有量を計算する。
【0064】
(数7)
油剤含有量(OPU、%)=(W0−W1)/W1×100 (6)
【0065】
[実施例1〜12]
重合度(DPW)が1200(α−セルロース含量;97%)であるバッカイ(Buckeye)社のV−81パルプとNMMO・1H2O、そして没食子酸プロピルを溶液対比0.045wt%を用いて製造したセルロース溶液を用いた。この時、セルロースの濃度は9〜14%にし、オリフィス数を1,000にし、オリフィスの直径は120〜200μmまで変化させて用いた。オリフィスの直径と長さとの比(L/D)は4〜8、外径100mmφの紡糸ノズルから吐き出された溶液をエアーギャップ30〜100mmの長さをもって冷却され、紡糸速度は90〜150m/minに変化させて行い、最終フィラメント繊度が1,500デニールになるようにした。凝固液温度は10〜25℃、濃度は水80%、NMMO20%で調整し、凝固液の温度と濃度は屈折計を用いて連続的にモニターした。凝固浴を取り出したフィラメントは、残存NMMOを水洗工程を通して除去し、1次油剤処理装置を経た後に乾燥させ、以後2次油剤処理をして巻き取った。巻き取られた原糸フィラメントのOPUは、0.1〜0.6%に調節した。紡糸条件および変数を表1に示す。前記得られたフィラメントをダイレクト撚糸機を用いて、上/下撚同時に350〜470回/mの撚数を加えて2プライ(ply)生コードを製造し(実施例1〜6)、また上/下撚同時に260〜400回/mの撚数を加えて3プライ生コードを製造した(実施例7〜12)。以後、全体熱処理工程の張力は1.0〜3.0%に加えてDPUが3.0〜6.0%に合わせたディップコードを製造した。この時、100〜120℃の温度で生コードにある水分を乾燥した後、RFL液にディッピングを実施するようになるが、ディッピング後の処理温度と滞留時間はセルロースのDP低下に影響を及ぼすようになる。本実施例ではRFL液にディッピング後、処理温度は140〜200℃で実施し、ディッピング後の処理工程内の滞留時間は50〜200秒になるようにした。
この時、ディップコードの物性結果を表2に示す。
【0066】
[比較例]
現在、商業化されてレーヨンタイヤコードとして用いられているスーパー(Super)-IIIのディップコードと上記の条件以外の条件を用いてリヨセルを製造し、実施例のような方法で評価を実施した。この結果も表1、2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表2の実施例1〜12に示すように、本発明で製造されたリヨセルディップコードは80〜200g/dの初期モジュラス値を有し、16kgf以上の高い強力を有するようになり、このようにして既存のビスコースレーヨンが有していた低い強度と低い初期モジュラスの問題点とを改善することによって、優れたサイズ安全性と耐熱性を有するリヨセルタイヤコードを提供する。
【0070】
本発明は、記載された具体例に対してのみ詳細に記述しているが、本発明の技術思想の範囲内において多様な変形および修正が可能であることは当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が添付された特許請求範囲に属することは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のタイヤコード用高強度リヨセルフィラメント製造のための紡糸工程の実施例を実現する装置を示す図面である。
【図2】本発明を介して製造されたリヨセル生コードを通常の方法にてレゾルシノール−ホルマリン−ラテックス(RFL)処理して得られたディップコードの応力−歪み(Stress-Strain)曲線の例を示すグラフである。
【図3】本発明の比較例として提示されたビスコースレーヨン(Super-III)ディップコードの応力−歪み曲線の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 紡糸ノズル
2 凝固浴
3 水洗槽
4 絞りローラー
5 1次油剤処理装置
6 乾燥装置
7 2次油剤処理装置
8 巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本のリヨセルマルチフィラメントからなるリヨセル生コードをディッピング液に浸漬し、硬化させて製造されたリヨセルディップコードであって、
(a)乾燥状態で測定されたリヨセルディップコードが1.0g/dの初期応力において1.2%以下伸長し、80〜200g/dの初期モジュラス値を有し;(b)1.0g/dから4.0g/dまでの応力区間で6%以下伸長し;(c)4.0g/dの引張強度から糸が切断されるまで1%以上伸長する応力−歪み曲線を有するリヨセルディップコード。
【請求項2】
前記リヨセルディップコードの重合度(DP)の低下率が3.0%以下であることを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項3】
前記リヨセルディップコードは、1.48〜1.52g/cm3の密度を有することを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項4】
前記リヨセル生コードは、リヨセルマルチフィラメントを2本または3本で撚糸して製造されることを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項5】
前記リヨセルマルチフィラメントは、0.80以上の結晶配向度を有することを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項6】
前記リヨセルマルチフィラメントは、0.2〜0.6の動摩擦係数を有することを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項7】
前記リヨセルディップコードは、250〜550TPMの撚数を有することを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項8】
前記リヨセルディップコードは、強力が16.0〜30.0kgfであることを特徴とする請求項1記載のリヨセルディップコード。
【請求項9】
請求項1記載のリヨセルディップコードを含むタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−297761(P2007−297761A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222921(P2006−222921)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(503434298)ヒョスング コーポレーション (22)
【Fターム(参考)】