説明

ゴム補強用合成繊維

【課題】高温において優れたゴム・合成繊維間接着を実現することが可能なゴム補強用合成繊維を提供すること。
【解決手段】ブロックポリイソシアネート及びエポキシを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であって、ブロックポリイソシアネートのブロック剤がジメチルピラゾールであることを特徴とする。また、ブロックポリイソシアネートのイソシアネート骨格がイソシアヌレートであることや、ブロックポリイソシアネートの官能基が3官能以上であり、ブロック剤の解離温度が140℃以下であること、エポキシの官能基が4官能以上であり、エポキシ当量が160〜200であること、エポキシ成分がソルビトール、グリセリン、エチレングリコールのいずれかのポリグリシジルエーテルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用合成繊維に関し、さらに詳しくは耐熱接着力に優れたゴム補強用合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート繊維に代表されるポリエステル繊維や、芳香族ポリアミド繊維等の合成繊維は、高強度、高ヤング率等の優れた物理的特性を有しており、これを活かしたタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用繊維として広く使用されている。しかし、これら合成繊維はその表面が比較的不活性であるため、そのままではゴムや樹脂等のマトリックスとの接着性が不十分であり、繊維の有する物理的特性を十分に発揮するまでにいたっていない。
【0003】
このため、繊維の表面を種々の薬品で処理する化学処理法、例えば特許文献1には、一浴に、皮膜形成温度が200℃以下のビニルハライド基を含有する化合物、ポリエポキシド化合物、及び/又はブロックドポリイソシアネート化合物を含む処理剤であって、該ビニルハライド基を含有する化合物の含有率が処理剤の固形分に対して3〜85重量%の範囲にある処理剤(1)により処理した後、さらに、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを含む処理剤(2)で処理することを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維の処理方法が開示されている。この方法では、接着剤付着量を劇的に減少させることが出来、経済的にも優れたものである。
【0004】
しかし、この処理方法では高温での剥離接着性が不十分であり、要求がシビアになる用途での使用が出来ないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−234275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、高温において優れたゴム・合成繊維間接着を実現することが可能なゴム補強用合成繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゴム補強用合成繊維は、ブロックポリイソシアネート及びエポキシを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であって、ブロックポリイソシアネートのブロック剤がジメチルピラゾールであることを特徴とする。
【0007】
また、ブロックポリイソシアネートのイソシアネート骨格がイソシアヌレートであることや、ブロックポリイソシアネートの官能基が3官能以上であり、ブロック剤の解離温度が140℃以下であること、エポキシの官能基が4官能以上であり、エポキシ当量が160〜200であること、エポキシ成分がソルビトール、グリセリン、エチレングリコールのいずれかのポリグリシジルエーテルであることが好ましい。
【0008】
そして、接着処理剤がブロックポリイソシアネートを含むものであることや、接着処理剤が芳香族ポリエポキシド化合物を含むものであること、前処理剤がゴムラテックスを含むものであることや、ゴムラテックスがビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスであること、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスのスチレン成分含有比が全体重量の20〜40重量%であることが好ましい。さらに前処理剤が界面活性剤を0.2〜5.0重量%含有するものであることや、界面活性剤がジオクチルスルホコハク酸の塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温において優れたゴム・合成繊維間接着を実現することが可能なゴム補強用合成繊維が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴム補強用合成繊維としては、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などを挙げることが出来る。より具体的には、例えばポリエステル繊維としては、テレフタル酸、又は、ナフタレンジカルボン酸を主たる酸成分とし、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール又は、テトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルからなる繊維が好ましく用いられる。また、芳香族ポリアミド繊維の代表例としては、ポリパラアミノベンズアミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタルアミド、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等、もしくはこれらの共重合体からなる繊維を挙げることができる。
【0011】
本発明の合成繊維は、ヤーン、コード、不織布、織編物等種々の繊維集合形態が含まれるが、特には撚糸を行ったコードであることが、その合成繊維の持つ強度をより有効に発揮するためには好ましい。合成繊維のデニール、フィラメント数、断面形状、繊維物性、微細構造や、ポリマー性状(末端カルボキシル基濃度、分子量等)、ポリマー中の添加剤の有無等には、特に限定は無く、さまざまな形状のものが含まれるが、強度を有効に活用するためには円形の断面形状を有することが好ましい。
【0012】
さて、本発明のゴム補強用合成繊維は、ブロックポリイソシアネート及びエポキシを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系のいわゆるRFL接着剤が付着しているゴム補強用繊維であるが、このとき前処理剤中のブロックイソシアネートのブロック剤がジメチルピラゾールであることを必須とする。
【0013】
前処理剤としては、ブロックドポリイソシアネート化合物(A)やポリエポキシド化合物(B)に加えて、さらにはゴムラテックス(L)や表面張力を下げる界面活性剤(S)を含むものであることが好ましい。
【0014】
ブロックドポリイソシアネート化合物とは、一般にポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加反応生成物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生ぜしめるものである。ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネートがあるが、本発明では、3官能以上のポリイソシアネートが好ましく、さらにはイソシアヌレートであることが好ましく、高温での接着性がより改善される。
【0015】
ブロックドポリイソシアネート化合物は、上記のようなポリイソシアネートを活性水素原子を1個以上有する化合物によってブロックされているものであるが、本発明においては、ブロック化剤としてジメチルピアゾールを用いることを必須とする。一般には、活性水素原子を1個以上有する化合物として、フェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン、ジメチルピラゾール等の芳香族第2級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等が例示されるが、本発明ではそれらに比して解離温度が低いジメチルピラゾールを用いることにより、より高温での接着性を向上させることが可能となった。さらには、ブロックイソシアネートのブロック剤の解離温度が140℃以下であることが好ましく、高温接着性の向上に有効である。
【0016】
より高温での接着性を維持するためには、ブロックポリイソシアネートの官能基が3官能以上の多官能の架橋剤であることが好ましく、より接着剤層の物理的な強度が高温においても維持されることとなる。さらに三官能のイソシアヌレート構造は、架橋密度が高いだけでなく、環状の構造が極性を有し、繊維との親和性が高いためより好ましく、特に高い性能を有する。従来汎用的に用いられてきた、たとえば二官能のメチレンジフェニルジイソシアネートでは架橋密度が不足し、高温での接着性を高いレベルで満足させることができないのである。
【0017】
また、接着剤層の高い架橋密度を実現するためには、ゴムとの加熱条件下で効率的に架橋反応が進むことが要求され、その意味でも、いわゆる低温解離型のブロック剤を使用することが好ましい。より好ましくは140℃以下の解離温度を有するブロック剤を使用した場合、合成繊維に処理液を含浸するディップ過程の乾燥過程においても、ブロック剤の解離がすでに始まっており、より高い反応効率が期待できる。
【0018】
本発明でブロック基として用いられるジメチルピラゾールは、120℃と低い温度で解離するとともに、解離後に副反応を生じないため、ゴム補強用の合成繊維の表面処理剤としてその意味においても最適である。
【0019】
本発明の前処理剤はエポキシを含むことを必須とするが、ここでいうエポキシとはポリエポキシド化合物(B)であり、特には、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を該化合物1kg当り2g当量以上含有する化合物であることが好ましい。具体的なエポキシの例としては、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸又は過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシド、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。これらのうち、特にエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。
【0020】
本発明では前処理剤にゴムラテックス(L)を含むことが好ましい。ここでいうゴムラテックス(L)としては、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス単独、もしくは、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン・コポリマーラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロブレンゴムラテックス、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーラテックス等の併用であることが好ましい。また併用して用いる場合、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックスの割合はラテックス成分のうちの30重量%以上であることが好ましい。さらにビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスを用いている場合には、そのスチレン成分含有比が全体重量の20〜40重量%である場合が好ましい。
【0021】
また本発明の前処理剤は、界面活性剤(S)を含むことが好ましく、処理段階で表面張力を下げることが可能となる。界面活性剤(S)の含有量としては0.2〜5.0重量%であることが好ましい。ここでいう表面張力を下げる界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ジオクチルスルホコハク酸の塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等が好ましく用いられるが、特にジオクチルスルホコハク酸の塩が好ましく用いられる。
【0022】
本発明で合成繊維の表面に付着した前処理剤は、一般には溶液として合成繊維に処理される。このとき前処理剤の溶液(1)が前記のように、ブロックドポリイソシアネート化合物(A)、ポリエポキシド化合物(B)、ゴムラテックス(L)及び、表面張力を下げる界面活性剤を含むものである場合、それらの構成成分中の、ポリエポキシド化合物(B)、ブロックドポリイソシアネート化合物(A)、ゴムラテックス(L)の各成分の配合重量比に関しては、(A)/(B)が5/5〜1/9、(L)/{(A)+(B)}が1/5〜10/1となるようにして使用されることが好ましい。特に、前記の(A)/(B)を5/5〜1/9の範囲とすることにより、高温での接着性がより改善される。
【0023】
また、前記の(L)/{(B)+(A)}を1/5以上とすることにより、処理した繊維を柔軟に保つことができ、コードが硬くなることによる耐疲労性の低下を防止すると共に、その後に付与する接着剤のラテックス及び被着体であるゴムとの共加硫を促進させることにより、接着性が向上する。一方この比率が高くなりすぎ、例えば(L)/{(B)+(A)}が10/1を超える場合には、ポリエステル繊維側への親和性が不十分となることから逆に接着性が低下する傾向となる。
【0024】
本発明に用いられる前処理剤の溶液(1)への界面活性剤の添加量は、前処理剤の溶液に対し0.2%〜5.0%の範囲であることが好ましい。0.2%以上の添加を行うことにより、前処理剤の繊維に対する表面張力が低下し、合成繊維表面への濡れ性が向上するため、高温接着性の改善に特に効果的である。但し5.0%より多い場合には、繊維表面に界面活性剤が吸着され、初期接着力が低下する傾向にある。
【0025】
このような前処理剤の溶液(1)を合成繊維に付着せしめるには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、又は、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、該合成繊維に対する固形分付着量は、1〜30重量%の範囲が例示され、好ましくは、2〜15重量%の範囲にあるものがよい。合成繊維に対する固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0026】
本発明のゴム補強用合成繊維は、上記のようなブロックポリイソシアネート及びエポキシを含む前処理剤に加えて、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているものである。
【0027】
本発明の接着剤は溶液(2)として合成繊維に付与されることが好ましいが、そのとき使用されるレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)接着剤の溶液(2)としては、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が、1:0.8〜1:5の範囲にあるものが好ましく、さらには1:1〜1:4の範囲であることがより好ましい。ホルムアルデヒドの添加量が少なすぎるとレゾルシン・ホルマリンの縮合物の架橋密度が低下すると共に分子量の低下を招くため、接着剤層凝集力が低下することにより接着性が低下するおそれがあり、また、該ホルムアルデヒドの添加量が多すぎると架橋密度上昇によりレゾルシン・ホルマリン縮合物が硬くなり、被着体ゴムとの共加硫時にRFLとゴムとの相溶化が阻害され、接着性が低下すると共に処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する問題が出てくる傾向にある。
【0028】
また、本発明で用いられる接着処理剤にはブロックドポリイソシアネート化合物を含むものであることが好ましい。接着処理剤に対するブロックドポリイソシアネート化合物の添加率は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)全量に対して0.5〜30重量%であることが好ましく、さらには1.0〜20重量%の範囲であるものが好ましい。添加量が少なすぎると接着力向上効果が少なく、また添加量が多すぎる場合には接着剤の粘度が著しく上昇して繊維の処理作業が困難になると共に、処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0029】
かかる接着処理剤の溶液(2)におけるレゾルシン・ホルマリンとゴムラテックスとの最適な配合比率は、前記のブロックドポリイソシアネート化合物の添加割合によっても変化するが、固形分量比で、レゾルシン・ホルマリン:ゴムラテックス(RFL)が1:3〜1:12の範囲にあるものが好ましく、特には1:3〜1:6の範囲にあるものが好ましい。ゴムラテックスの比率が少なすぎると処理されたポリエステル繊維が硬くなって耐疲労性が低下する傾向に有り、また、前処理剤の溶液(1)中のラテックス及び被着体であるゴムとの共加硫が不十分となり、接着性が低くなるおそれがある。逆に、接着剤中のゴムラテックスの比率が多すぎると接着剤皮膜として強度が低下し、接着力やゴム付着率が低下する傾向にある。
【0030】
また、接着処理剤には芳香族ポリエポキシド化合物を含むものであることも好ましい。好ましい接着処理剤の溶液(2)におけるブロックドポリイソシアネート化合物(C)、芳香族ポリエポキシド化合物(D)及び、レゾルシン・ホルマリン:ゴムラテックス(RFL)の各成分の配合重量比:((C)+(D))/(RFL)は、4/6〜1/9の範囲であり、特に5/5〜2/8の範囲にあることが好ましい。配合重量比が、前記の範囲より大きい場合には処理後の合成繊維が硬くなって耐疲労性の低下を招くおそれがあり、一方、配合重量比が、前記範囲より小さい場合には、接着性が低下する傾向にある。また、芳香族ポリエポキシド化合物(D)/ブロックドポリイソシアネート化合物(C){以下、(D)/(C)のように記載する}は、8/2〜1/9の範囲が例示され、特に8/2〜4/6の範囲にあるものが好ましい。
【0031】
該芳香族ポリエポキシド化合物(D)とブロックドポリイソシアネート化合物(C)の割合が、前記の範囲を外れるとポリエステル繊維へのゴム付着性が低下する傾向にあり好ましくない。また、{(D)+(C)}/(RFL)が、前記の範囲より大きい場合には、処理後のポリエステル繊維が硬くなって耐疲労性の低下を招くおそれがあり、一方、前記の範囲より小さい場合には、接着性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0032】
本発明の接着処理剤として処理される溶液(2)は、総固形分濃度としては、1〜30重量%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、2〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%となるようにして使用することが出来る。接着処理剤の溶液(2)の総固形分濃度が、前記の範囲よりも低い場合には、接着剤溶液の表面張力が増加し、ポリエステル繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、固形分付着量が低下することにより接着性が低下し、逆に、該総固形分濃度が前記の範囲よりも高い場合には、固形分付着量が多くなりすぎるために硬くなり、耐疲労性が低下しやすい。
【0033】
また、かかる接着処理剤の溶液(2)を合成繊維に付着せしめるには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、又は、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、該合成繊維に対する固形分付着量は、0.1〜10重量%の範囲が例示され、好ましくは、0.2〜7重量%の範囲が、さらに好ましくは、0.5〜6重量%の範囲にあるものがよい。合成繊維に対する固形分付着量を制御するためには、前記と同様に、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0034】
本発明のゴム補強用合成繊維を得るためには、上記のような溶液(1)および溶液(2)を使用して合成繊維を処理した後、50℃以上で、合成繊維の融点より10℃以上低い温度の範囲で乾燥・熱処理する。より好ましくは例えば繊維がポリエステル繊維の場合には、220〜250℃の温度範囲で、0.5〜5分間、好ましくは、1〜3分間乾燥・熱処理する。この乾燥・熱処理温度が、低すぎるとゴム類との接着が不十分となりやすく、また、該乾燥・熱処理温度が高すぎると合成繊維が溶融、融着するなどにより、繊維の強度低下を起こす場合が有る。
【0035】
このようにして得られた本発明のゴム補強用合成繊維は、耐熱性に優れるためタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用合成繊維として、特に熱的にシビアな状態でも高い性能を維持するので、好ましく用いられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例における特性は下記の測定法によりおこなった。
【0037】
(1)初期剥離接着力、耐熱剥離接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシート表層近くに7本のコードを埋め、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力(初期剥離接着力)、又は、180℃の温度で40分間、50kg/cmのプレス圧力(耐熱剥離接着力)で加硫し、次いで室温にて両端のコードを残し3本のコードをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/3本で示し、初期剥離接着力および耐熱剥離接着力としたものである。
【0038】
(2)高温剥離接着力
上記、初期接着力測定用に作成したサンプルを、上記と同様の測定条件にて、但し測定雰囲気温度のみを150℃に変更して測定を行い、高温剥離接着力とした。
【0039】
[実施例1]
前処理剤の溶液(処理剤(1))として、ソルビトール系ポリエポキシド化合物(ナガセケムテックス社製、EX614B)、ジメチルピラゾールブロックイソシアヌレート(三官能、Baxsenden社製、TrixeneBI7987)、及び、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーゴムラテックス(日本エーアンドエル社製、Pyratex)をそれぞれ固形分で10重量%、10重量%、80重量%の割合で混合した、総固形分量:10重量%の配合液を得た(処理剤(1))。これにジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩(第一工業製薬社製、ネオコールSW)を接着剤液に対し1重量%添加した。
【0040】
一方接着処理剤の溶液(処理剤(2))として、レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6、固形分濃度が65重量%である初期縮合物をアルカリ条件下溶解し9重量%水溶液とする。これを、40.5%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターボリマーラテックス(日本エイアンドエル社製、Pyratex)と水を上記9%レゾルシン・ホルマリン水溶液57重量部に対し、それぞれ99重量部、104重量部添加する。この液にホルマリン3重量部、40重量%クレゾールノボラック型芳香族エポキシ化合物分散体(旭チバ製、ECN1400)を24重量部、33重量%アセトキシムブロックドジフエニルメタンジイソシアネート分散体(明成化学工業社製、DM6011)を12重量部添加し、48時間熟成した固形分濃度20重量%を得た(処理剤(2))。
【0041】
固有粘度が0.95のポリエチレンテレフタレートからなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に40T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて40T/cmで上撚りを施して3340dtex/768フィラメントのコードを得た。
【0042】
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記の処理剤(1)に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、240℃の温度で1分間の熱処理を行い、続いて、処理剤(2)に浸漬した後に、170℃の温度で2分間乾燥し、引続いて、240℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られたタイヤコードには、処理剤の固形分として、処理剤(1)が2.1重量%、処理剤(2)が2.2重量%付着していた。得られた処理コードを、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後に前記の方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
ブロックポリイソシアネートとしてジメチルピラゾールブロックイソシアヌレートに変えて、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業社製、S3)を用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0044】
[比較例2]
ソルビトール系ポリエポキシド化合物(ナガセケムテックス社製、EX614B)、及び、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーゴムラテックス(日本エーアンドエル社製、Pyratex)をそれぞれ固形分で20重量%、80重量%の割合で混合した、総固形分量:10重量%の配合液を得て、ジメチルピラゾールブロックイソシアヌレートを含有しない処理剤(1)とした。
この処理剤(1)を用いた以外は実施例1と同様に処理を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックポリイソシアネート及びエポキシを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であって、ブロックポリイソシアネートのブロック剤がジメチルピラゾールであることを特徴とするゴム補強用合成繊維。
【請求項2】
ブロックポリイソシアネートのイソシアネート骨格がイソシアヌレートである請求項1記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項3】
ブロックポリイソシアネートの官能基が3官能以上であり、ブロック剤の解離温度が140℃以下である請求項1または2記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項4】
エポキシの官能基が4官能以上であり、エポキシ当量が160〜200である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項5】
エポキシ成分がソルビトール、グリセリン、エチレングリコールのいずれかのポリグリシジルエーテルである請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項6】
接着処理剤がブロックポリイソシアネートを含むものである請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項7】
接着処理剤が芳香族ポリエポキシド化合物を含むものである請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項8】
前処理剤がゴムラテックスを含むものである請求項1〜7のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項9】
ゴムラテックスがビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスである請求項8記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項10】
ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスのスチレン成分含有比が全体重量の20〜40重量%である請求項9項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項11】
前処理剤が界面活性剤を0.2〜5.0重量%含有するものである請求項1〜8のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項12】
界面活性剤がジオクチルスルホコハク酸の塩である請求項11記載のゴム補強用合成繊維。

【公開番号】特開2009−299220(P2009−299220A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155160(P2008−155160)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】