説明

ゴム補強用合成繊維

【課題】高温において優れたゴム・合成繊維間接着を実現することが可能なゴム補強用合成繊維を提供すること。
【解決手段】ブロックポリイソシアネート、エポキシ及びゴムラテックスを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であって、ゴムラテックスがソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスであることを特徴とするゴム補強用合成繊維。さらには、接着処理剤がブロックポリイソシアネートを含有するものであることや、 前処理剤がビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスを含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用合成繊維に関し、さらに詳しくは高温での耐熱接着力に優れたゴム補強用合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート繊維に代表されるポリエステル繊維や、芳香族ポリアミド繊維等の合成繊維は、高強度、高ヤング率等の優れた物理的特性を有しており、これを活かしたタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用繊維として広く使用されている。しかし、これら合成繊維はその表面が比較的不活性であるため、そのままではゴムや樹脂等のマトリックスとの接着性が不十分であり、繊維の有する物理的特性を十分に発揮するまでにいたっていない。
【0003】
このため、繊維の表面を種々の薬品で処理する化学処理法、例えば特許文献1には、一浴に、皮膜形成温度が200℃以下のビニルハライド基を含有する化合物、ポリエポキシド化合物、及び/又はブロックドポリイソシアネート化合物を含む処理剤であって、該ビニルハライド基を含有する化合物の含有率が処理剤の固形分に対して3〜85重量%の範囲にある処理剤(1)により処理した後、さらに、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを含む処理剤(2)で処理することを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維の二浴処理方法が開示されている。この方法では、接着剤付着量を劇的に減少させることが出来、経済的にも優れたものである。
【0004】
しかし、この処理方法では高温での剥離接着性が不十分であり、要求がシビアになる用途での使用が出来ないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−234275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、高温において優れたゴム・合成繊維間接着を実現することが可能なゴム補強用合成繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゴム補強用合成繊維は、ブロックポリイソシアネート、エポキシ及びゴムラテックスを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であって、ゴムラテックスがソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスであることを特徴とする。
【0007】
さらには、接着処理剤がブロックポリイソシアネートを含有するものであることや、 前処理剤がビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスを含有するものであることが好ましい。また、エポキシ成分がソルビトール、グリセリン、エチレングリコールのいずれかのポリグリシジルエーテルであることや、合成繊維がポリエステル繊維であることも好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温において優れたゴム・合成繊維間接着を実現することが可能なゴム補強用合成繊維が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゴム補強用合成繊維としては、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などを挙げることが出来る。より具体的には、例えばポリエステル繊維としては、テレフタル酸、またはナフタレンジカルボン酸を主たる酸成分とし、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、またはテトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルからなる繊維が好ましく用いられる。また、芳香族ポリアミド繊維の代表例としては、ポリパラアミノベンズアミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタルアミド、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等、もしくはこれらの共重合体からなる繊維を挙げることができる。
【0010】
本発明の合成繊維は、ヤーン、コード、不織布、織編物等種々の繊維集合形態が含まれるが、特には撚糸を行ったコードであることが、その合成繊維の持つ強度をより有効に発揮するためには好ましい。合成繊維のデニール、フィラメント数、断面形状、繊維物性、微細構造や、ポリマー性状(末端カルボキシル基濃度、分子量等)、ポリマー中の添加剤の有無等には、特に限定は無く、さまざまな形状のものが含まれるが、強度を有効に活用するためには円形の断面形状を有することが好ましい。
【0011】
さて、本発明のゴム補強用合成繊維は、ブロックポリイソシアネート、エポキシ及びゴムラテックスを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であるが、このとき前処理剤中のゴムラテックスがソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスであることを必須とする。
【0012】
そして本発明で用いられるブロックポリイソシアネートとは、一般にポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加反応生成物であるところのブロックドポリイソシアネート化合物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生ぜしめるものである。ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネートを挙げることが出来る。本発明で用いられるブロックドポリイソシアネート化合物は、上記のようなポリイソシアネートを活性水素原子を1個以上有する化合物によってブロックされているものであるが、活性水素原子を1個以上有する化合物としては、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等がある。
【0013】
さらに本発明の前処理剤はエポキシを含むことを必須とするが、ここでいうエポキシとはポリエポキシド化合物であり、特には、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を該化合物1kg当り2g当量以上含有する化合物であることが好ましい。具体的なエポキシの例としては、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸又は過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシド、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。これらのうち、特にエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。
【0014】
本発明では前処理剤にソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスを含有することが必須である。ここでソープフリーとは、溶媒中に分散させる手法として低分子量の界面活性剤を用いていないことを意味し、乳化剤を使用しない場合だけではなく、高分子量の界面活性剤を用いたラテックスを包含する。なかでも量産化に適したソープフリーアクリロニトリル・ゴムラテックスとしては、通常の低分子量界面活性剤に代えて、オリゴマータイプのアクリル系アルカリ可溶性樹脂を用いて乳化重合した日本ゼオン(株)製、ニポールSXシリーズなどを挙げることが出来る。
【0015】
通常用いられる低分子量の各種界面活性剤は、疎水物質の表面に吸着し、表面の極性を上げる働きをする。そのため、界面での反応や密着性に影響を与え、本発明のように繊維とゴムとの接着を必須とする製品においては、マイナスの影響を与えることが多い。本発明で用いられるラテックスは、このような低分子量の界面活性剤を含まずにポリマー極性を改善することにより乳化を行ったものであり、接着を阻害しないのである。
【0016】
また本発明では、このソープフリーラテックスとしては、アクリロニトリル・ブタジエンラテックスであることが必要である。アクリロニトリル・ブタジエンゴムは、高温において物性低下が少なく、本発明の目的である高温暴露時の接着性改善において、接着剤皮膜の物性低下が少なく、繊維、ゴム間の接着性低下を最小限に抑える働きをしているのである。また、ニトリル基の極性により各種極性基との相互作用が良好であり、初期状態における接着性も良好な性能を有する。このようにソープフリーかつアクリロニトリル・ブタジエンラテックスであることにより、初期から高温暴露時のいずれの状態においても高い接着性を発揮しうる。
【0017】
前処理剤中のラテックス成分としては、上記のようなアクリロニトリル・ブタジエンラテックスに加えて、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン・コポリマーラテックス、クロロブレンゴムラテックス、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーラテックス等を併用することも好ましい。特に高い接着性能が要求される場合には、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックスを併用することが最適である。ただし、併用して用いる場合には、上記のアクリロニトリル・ブタジエンラテックスの割合は、前処理剤中の全ラテックス成分のうち20重量%以上であることが好ましく、最適な範囲は20〜50重量%である。ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスの存在量が少なすぎる場合には、高温下での接着性が低下する傾向にある。一方逆に高すぎる場合には被着体のゴムとの相溶性が低下し、初期接着が低下する傾向にある。
【0018】
本発明で合成繊維の表面に付着した前処理剤は、一般には溶液として合成繊維に処理される。このとき前処理剤の溶液が前記のように、ブロックドポリイソシアネート化合物(A)、ポリエポキシド化合物(B)、及びゴムラテックス(L)を含むものである場合、それらの構成成分中の、ポリエポキシド化合物(B)、ブロックドポリイソシアネート化合物(A)、ゴムラテックス(L)の各成分の配合重量比に関しては、(A)/(B)が5/5〜1/9、(L)/{(A)+(B)}が1/100〜10/1、さらには1/5〜1/2となるようにして使用することが好ましい。特に、(A)/(B)を5/5〜1/9の範囲とすることにより、高温での接着性がより改善される。
【0019】
また、前記の(L)/{(A)+(B)}を1/100以上とすることにより、処理した繊維を柔軟に保つことができ、コードが硬くなることによる耐疲労性の低下を防止すると共に、その後に付与する接着剤のラテックス及び被着体であるゴムとの共加硫を促進させることにより、接着性が向上する。一方この比率が高くなりすぎ、例えば(L)/{(A)+(B)}が10/1を超える場合には、高温における接着剤膜物性が低下し、高温での接着性が低下する傾向となる。
【0020】
このような前処理剤の溶液を合成繊維に付着せしめるには、ローラーとの接触、若しくはノズルからの噴霧による塗布、または溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、該合成繊維に対する固形分付着量は、1〜30重量%の範囲が例示され、好ましくは、2〜15重量%の範囲にあるものがよい。合成繊維に対する固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0021】
本発明のゴム補強用合成繊維は、上記のようなブロックポリイソシアネート、エポキシ及びゴムラテックスを含む前処理剤に加えて、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が表面に付着しているものである。
【0022】
ここで用いられるラテックス成分としては、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン・コポリマーラテックス、クロロブレンゴムラテックス、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーラテックス等を挙げることが出来るが、さらにはソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスが併用されていることがより好ましい。もっとも好ましくは、ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスと、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックスが併用されていることである。併用して用いる場合のアクリロニトリル・ブタジエンラテックスの割合は、接着処理剤中の全ラテックス成分のうちの20〜50重量%であることが好ましい。ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスの存在量が少なすぎる場合には、高温下での接着性が低下する傾向にある。一方逆に高すぎる場合には被着体のゴムとの相溶性が低下し、初期接着が低下する傾向にある。
【0023】
本発明の接着剤は溶液として合成繊維に付与されることが好ましいが、そのとき使用されるレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)接着剤の溶液としては、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が、1:0.8〜1:5の範囲にあるものが好ましく、さらには1:1〜1:4の範囲であることがより好ましい。ホルムアルデヒドの添加量が少なすぎるとレゾルシン・ホルマリンの縮合物の架橋密度が低下すると共に分子量の低下を招くため、接着剤層凝集力が低下することにより接着性が低下するおそれがあり、また、該ホルムアルデヒドの添加量が多すぎると架橋密度上昇によりレゾルシン・ホルマリン縮合物が硬くなり、被着体ゴムとの共加硫時にRFLとゴムとの相溶化が阻害され、接着性が低下すると共に処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する問題が出てくる傾向にある。
【0024】
また、本発明で用いられる接着処理剤にはブロックドポリイソシアネート化合物を含むものであることが好ましい。接着処理剤に対するブロックドポリイソシアネート化合物の添加率は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)全量に対して0.5/9.5〜4/6の範囲にあるもの、特に、1/9〜3/7の範囲にあるものが好ましく使用される。添加量が少なすぎると接着力向上効果が少なく、また添加量が多すぎる場合には接着剤の粘度が著しく上昇して繊維の処理作業が困難になると共に、処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0025】
かかる接着処理剤の溶液におけるレゾルシン・ホルマリンとゴムラテックスとの最適な配合比率は、前記のブロックドポリイソシアネート化合物の添加割合によっても変化するが、固形分量比で、レゾルシン・ホルマリン:ゴムラテックス(RFL)が1:3〜1:12の範囲にあるものが好ましく、特には1:3〜1:6の範囲にあるものが好ましい。ゴムラテックスの比率が少なすぎると処理されたポリエステル繊維が硬くなって耐疲労性が低下する傾向に有り、また、前処理剤の溶液中のラテックス及び被着体であるゴムとの共加硫が不十分となり、接着性が低くなるおそれがある。逆に、接着剤中のゴムラテックスの比率が多すぎると接着剤皮膜として強度が低下し、接着力やゴム付着率が低下する傾向にある。
【0026】
本発明の接着処理剤として処理される溶液は、総固形分濃度としては、1〜30重量%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、2〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%となるようにして使用することが出来る。接着処理剤の溶液の総固形分濃度が、前記の範囲よりも低い場合には、接着剤溶液の表面張力が増加し、ポリエステル繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、固形分付着量が低下することにより接着性が低下し、逆に、該総固形分濃度が前記の範囲よりも高い場合には、固形分付着量が多くなりすぎるために硬くなり、耐疲労性が低下しやすい。
【0027】
また、かかる接着処理剤の溶液を合成繊維に付着せしめるには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、又は、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、該合成繊維に対する固形分付着量は、0.1〜10重量%の範囲が例示され、好ましくは、0.2〜7重量%の範囲が、さらに好ましくは、0.5〜6重量%の範囲にあるものがよい。合成繊維に対する固形分付着量を制御するためには、前記と同様に、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0028】
本発明のゴム補強用合成繊維を得るためには、上記のような前処理剤の溶液および接着剤の溶液を使用して合成繊維を処理した後、50℃以上で、合成繊維の融点より10℃以上低い温度の範囲で乾燥・熱処理する。より好ましくは例えば繊維がポリエステル繊維の場合には、220〜250℃の温度範囲で0.5〜5分間、好ましくは1〜3分間乾燥・熱処理する。この乾燥・熱処理温度が、低すぎるとゴム類との接着が不十分となりやすく、また、該乾燥・熱処理温度が高すぎると合成繊維が溶融、融着するなどにより、繊維の強度低下を起こす場合が有る。
【0029】
このようにして得られた本発明のゴム補強用合成繊維は、耐熱性に優れるためタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用合成繊維として、特に熱的にシビアな状態でも高い性能を維持するので、好ましく用いられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例における特性は下記の測定法によりおこなった。
【0031】
(1)コード剥離接着力I
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。コードを30本/2.54cm(1inch)で引きそろえ、0.5mm厚の天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシートで挟みつける。これらのシートを、直行するように重ねあわせ、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力(初期値)、または180℃の温度で40分間、50kg/cm のプレス圧力(耐熱値)で加硫し、次いで、コード方向に沿って短冊状に切り出す。室温25℃の雰囲気下にて、短冊に沿った方のシートをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/2.54cm(1inch)で示したものである。
【0032】
(2)高温でのコード剥離接着力I
上記、初期接着力測定用に作成したサンプルを、上記と同様の測定条件にて、但し測定雰囲気温度のみを150℃に変更して測定を行い、高温でのコード剥離接着力Iとした。
【0033】
(3)コード剥離接着力II
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシート表層近くに7本のコードを埋め、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力(初期値)、または180℃の温度で40分間、50kg/cm のプレス圧力(耐熱値)で加硫し、次いで、室温25℃の雰囲気下にて、両端のコードを残し中心の3本のコードをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/3本で示したものである。
【0034】
(4)高温でのコード剥離接着力II
上記、初期接着力測定用に作成したサンプルを、上記と同様の測定条件にて、但し測定雰囲気温度のみを150℃に変更して測定を行い、高温でのコード剥離接着力IIとした。
【0035】
[実施例1]
ソルビトール系ポリエポキシド化合物(坂本薬品工業株式会社製 SR−SEP)、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)、及び、ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 SX1503)をそれぞれ固形分で80重量%、10重量%、10重量%の割合で混合した、総固形分量:10重量%の配合液を得た(前処理剤(1))。
【0036】
レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6、固形分濃度が65重量%である初期縮合物をアルカリ条件下溶解し9重量%水溶液とする。これを、41%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)と水を上記9%レゾルシン・ホルマリン水溶液57重量部に対し、それぞれ99重量部、104重量部添加する。この液にホルマリン3重量部、33重量%アセトキシムブロックドジフエニルメタンジイソシアネート分散体(明成化学工業株式会社製 DM6011)を30重量部添加し、48時間熟成した固形分濃度20重量%のRFL接着剤を得た(接着処理剤(1))。
【0037】
固有粘度が0.95のポリエチレンテレフタレートからなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に40T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて40T/cmで上撚りを施して3340dtex/768フィラメントの合成繊維コードを得た。
【0038】
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記の前処理剤(1)に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き240℃の温度で1分間の熱処理を行い、続いて接着処理剤(1)に浸漬した後に、170℃の温度で2分間乾燥し、引続いて240℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られたタイヤコードには、処理剤の固形分として、前処理剤(1)が2.1重量%、接着処理剤(1)が2.2重量%付着していた。得られた処理コードを、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後にコード剥離接着力I、高温でのコード剥離接着力Iの方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
実施例1の前処理剤(1)の代わりに、ソルビトール系ポリエポキシド化合物(坂本薬品工業株式会社製 SR−SEP)、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)、ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 SX1503)、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エーアンドエル株式会社製 Pyratex)のそれぞれを固形分で70重量%、10重量%、10重量%、10重量%の割合で混合した、総固形分量10重量%の配合液(前処理剤(2))を用いる以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に併せて示す。
【0040】
[比較例1]
実施例1の前処理剤(1)において、ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックスの代わりに、界面活性剤を含むアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 Nipol 1562)を用いた前処理剤(3)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に併せて示す。
【0041】
[比較例2]
実施例1の前処理剤(1)において、ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックスの代わりに、ソープフリースチレン・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 SX1105)を用いた前処理剤(4)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
[実施例3]
ソルビトール系ポリエポキシド化合物(ナガセケムテックス株式会社製 EX611)、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エーアンドエル株式会社製 Pyratex)、及びソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 SX1503)をそれぞれ固形分で10重量%、10重量%、50重量%、30重量%の割合で混合した、総固形分量:5重量%の配合液を得た(前処理剤(5))。
【0044】
レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6、固形分濃度が65重量%である初期縮合物をアルカリ条件下溶解し9重量%水溶液とする。これを、41%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)と水を上記9%レゾルシン・ホルマリン水溶液57重量部に対し、それぞれ151重量部、488重量部添加する。この液にホルマリン3重量部、40重量%クレゾールノボラック型芳香族エポキシ化合物分散体(旭チバ株式会社製 ECN1400)を24重量部、33重量%アセトキシムブロックドジフエニルメタンジイソシアネート分散体(明成化学工業株式会社製 DM6011)を12重量部添加し、48時間熟成した固形分濃度20重量%のRFL接着剤を得た(接着処理剤(2))。
【0045】
固有粘度が0.95のポリエチレンテレフタレートからなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に40T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて40T/cmで上撚りを施して3340dtex/768フィラメントの合成繊維コードを得た。
【0046】
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記の前処理剤(5)に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、240℃の温度で1分間の熱処理を行い、続いて、接着処理剤(2)に浸漬した後に、170℃の温度で2分間乾燥し、引続いて240℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られたタイヤコードには、処理剤の固形分として、前処理剤(5)が2.1重量%、接着処理剤(2)が2.2重量%付着していた。得られた処理コードを、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後にコード剥離接着力II、高温でのコード剥離接着力IIの方法により評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
[実施例4]
実施例3の前処理剤(5)の代わりに、ソルビトール系ポリエポキシド化合物(ナガセケムテックス株式会社製 EX611)、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エーアンドエル株式会社製 Pyratex)、及びソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 SX1503)のそれぞれを固形分で60重量%、20重量%、10重量%、10重量%の割合で混合した、総固形分量10重量%の配合液(前処理剤(6))を用いる以外は、実施例3と同様に行った。結果を表2に併せて示す。
【0048】
[実施例5]
実施例3の接着処理剤(2)の代わりに、レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6、固形分濃度が65重量%である初期縮合物をアルカリ条件下溶解し9重量%水溶液とし、これを、41%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)、ソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製 SX1503)と水を上記9%レゾルシン・ホルマリン水溶液57重量部に対し、それぞれ99重量部、52重量部、48重量部添加する。この液にホルマリン3重量部、40重量%クレゾールノボラック型芳香族エポキシ化合物分散体(旭チバ株式会社製 ECN1400)を24重量部、33重量%アセトキシムブロックドジフエニルメタンジイソシアネート分散体(明成化学工業株式会社製 DM6011)を12重量部添加し、48時間熟成した固形分濃度20重量%のRFL接着剤(接着処理剤(3))を用いた以外は、実施例3と同様に行った。結果を表2に併せて示す。
【0049】
[比較例3]
実施例3の前処理剤(5)において、ソルビトール系ポリエポキシド化合物(ナガセケムテックス株式会社製 EX611)、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)、及びビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エーアンドエル株式会社製 Pyratex)のそれぞれを固形分で10重量%、10重量%、80重量%の割合で混合した、総固形分量5重量%の配合液(前処理剤(7))を用いる以外は、実施例3と同様に行った。結果を表2に併せて示す。
【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックポリイソシアネート、エポキシ及びゴムラテックスを含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤が付着しているゴム補強用合成繊維であって、ゴムラテックスがソープフリーアクリロニトリル・ブタジエンラテックスであることを特徴とするゴム補強用合成繊維。
【請求項2】
接着処理剤がブロックポリイソシアネートを含有するものである請求項1記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項3】
前処理剤がビニルピリジン・スチレン・ブタジエン・ターポリマーラテックスを含有するものである請求項1または2記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項4】
エポキシ成分がソルビトール、グリセリン、エチレングリコールのいずれかのポリグリシジルエーテルである請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。
【請求項5】
合成繊維がポリエステル繊維である請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用合成繊維。

【公開番号】特開2010−53480(P2010−53480A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219716(P2008−219716)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】