説明

ゴム補強用繊維

【課題】高温にさらされた後でもゴムと繊維との高い接着性を保つゴム補強用繊維を提供することにある。
【解決手段】繊維表面に過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する表面処理剤が付着しているゴム補強用繊維。さらには、層状複水酸化物が二価金属と三価金属を含有するものであることや、表面処理剤がレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤(RFL接着剤)を含有するものであることまたは表面処理剤がエポキシ化合物を含有するものであること、繊維の少なくとも一部がポリエステル繊維であることが好ましい。また層状複水酸化物が、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+より成る群から選ばれた少なくとも1種の二価金属を含有するものであることや、層状複水酸化物が、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+より成る群から選ばれた少なくとも1種の三価金属を含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用繊維に関し、さらに詳しくはゴム繊維複合体に好適に用いられる、高温で長時間さらされた後の接着性に優れたゴム補強用繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維は、高強度、高ヤング率等の優れた物理的特性を有しており、これを活かしたタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用繊維として使用されている。しかし、これら繊維はその表面が比較的不活性であることが多く、そのままではゴムや樹脂等のマトリックスとの接着性が不十分であり、繊維の物理的特性を十分に発揮することはできていない。
【0003】
このため、繊維の表面を種々の薬品で処理する化学処理法、例えば、脂肪族エポキシ化合物や、エチレン尿素、ブロックドイソシアネート化合物等の反応性の強い化学薬品で処理して接着性を付与した後に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)で処理する、いわゆる2浴処理方法が提案され実用化されている(例えば、特許文献1など)。しかし従来からの伝統的なこの処理方法では、100℃以上の高温での剥離接着性が不十分であり、要求がシビアになる用途での使用が出来ない状況にある。
【0004】
一方特許文献2には、繊維を構成する高分子に対する相容性が良好なクロロフェノール化合物をキャリアとして用い、高温での接着性を改善する手法が開示されている。しかし単純にクロロフェノール化合物を用いた場合、クロロフェノール化合物の縮合が起こり、処理剤からなる表面皮膜が硬くなるという問題があった。結果的に処理コードの柔軟性が低下し、接着性や疲労性などが悪くなる原因となっていたのである。
【0005】
また別の手法として、接着剤層中に物質透過性が低い成分を添加し、アミンの透過を抑える手法も考案されている。例えば特許文献3では、一浴剤中にポリ塩化ビニルを添加する処方が提案されている。しかしこの方法は、接着剤付着量が少ない場合にはコード硬さが低く疲労性などの特性は良好になるものの、アミノリシスに対する耐性はまだ十分ではなく、高温での接着耐久性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−73994号公報
【特許文献2】特開2006−322083号公報
【特許文献3】特開2000−234275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、高温にさらされた後でもゴムと繊維との高い接着性を保つゴム補強用繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のゴム補強用繊維は、繊維表面に過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する表面処理剤が付着していることを特徴とする。
さらには、層状複水酸化物が二価金属と三価金属を含有するものであることや、表面処理剤がレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤(RFL接着剤)を含有するものであることまたは表面処理剤がエポキシ化合物を含有するものであること、繊維の少なくとも一部がポリエステル繊維であることが好ましい。
【0009】
また層状複水酸化物が、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+より成る群から選ばれた少なくとも1種の二価金属を含有するものであることや、層状複水酸化物が、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+より成る群から選ばれた少なくとも1種の三価金属を含有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温にさらされた後でもゴムと繊維との高い接着性を保つゴム補強用繊維が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に使用される繊維としては特に制限はないが、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などの合成繊維に特に好ましく用いられる。特に本発明はポリエステル繊維に対して有効であり、全繊維に対しポリエステル繊維が少なくともその一部に含まれるものであることが好ましい。ここでポリエステル繊維としては、テレフタル酸、または、ナフタレンジカルボン酸を主たる酸成分とし、エチレングリコール、1,3−プロパンジオールまたはテトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルからなる繊維が好ましく用いられる。繊維のデニール、フィラメント数、断面形状、繊維物性、微細構造や、ポリマー性状(末端カルボキシル基濃度、分子量等)、ポリマー中の添加剤の有無等には、なんら限定を受けるものではない。
【0012】
本発明の処理に供される繊維の形態としては、ヤーン、コード、不織布、織編物等種々の繊維集合形態が含まれるが、特には撚糸を行ったコードであることが、その繊維の持つ強度をより有効に発揮するためには好ましい。
【0013】
そして本発明のゴム補強用繊維は、その繊維の表面に過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する表面処理剤が付着していることを必須とする。ここで層状複水酸化物とは、主骨格が複水酸化物よりなる層状構造をとるものであり、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、鉄などの元素の水酸化物が結晶化した鉱物である。本発明に用いられる過塩素酸イオン型の層状複水酸化物は、例えば下記一般式(1)にて表されるハイドロタルサイト類化合物を挙げることができる。
[M2+1−x3+(OH)x+[ClO・mHO] (1)
(式中、M2+は、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnなどの二価金属イオンを、M3+は、Al、Fe、Cr、Co、及びInなどの三価金属イオンを表し、xは、0<x≦0.33、mは0≦mの範囲である。)
【0014】
そして上記のように層状複水酸化物が、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+より成る群から選ばれた少なくとも1種の二価金属を含有するものであることや、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+より成る群から選ばれた少なくとも1種の三価金属を含有するものであることが好ましい。特にはその安定性などから二価金属がマグネシウム、三価金属がアルミニウムであることが好ましい。また天然もしくは合成のハイドロタルサイトであることが好ましいが、本発明においては層間陰イオンとして、過塩素酸イオンが含まれていることが必要である。
【0015】
このような本発明に用いられる過塩素酸イオン型の層状複水酸化物は、層状構造をした金属イオンの水酸化物シートの層構造の中に過塩素酸イオンが取り込まれている。そしてこの過塩素酸イオンが、層の中に入り込める大きさの分子とのみ反応し、効果を発揮するものである。つまりこの層状複水酸化物中の過塩素酸塩が、接着の劣化を誘起する有害な有機物のみを選択的に酸化分解するのであると考えられる。なお、一般の単なる過塩素酸塩化合物を表面処理剤中に添加した場合には、表面処理剤中の他の有効成分も分解されるために接着力がかえって低下し、本発明のゴム補強用繊維のような効果を発揮することはできない。
【0016】
そして本発明にて用いられる過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する表面処理剤としては、特に制限されるものではなく、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤(RFL接着剤)を含有するものであることや、エポキシ化合物を含有するものであることが好ましい。
【0017】
また、これらの表面処理剤中における、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物の含有量としては、その他の接着剤等の固型分重量に対し、0.01wt%〜5wt%の範囲が好ましく、さらには0.03wt%〜3wt%の範囲であることが好ましい。層状複水酸化物の添加量が低すぎると、アミン等の有害有機物の吸着、分解能が低下し、十分な性能向上効果を得られにくい傾向にある。逆に添加量が多すぎる場合、他の接着剤等の分散状態が悪化し、加工しにくいばかりか接着性能も低下する傾向にある。
【0018】
さらに本発明にて用いられる表面処理剤について詳細に述べると、いわゆるゴム・繊維用の一浴接着処理の処理液や二浴接着処理の二浴目の処理液として用いられる表面処理剤では、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤(RFL接着剤)を、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物とともに含有するものであることが好ましい。また、二浴接着処理の一浴目の処理液として用いられる表面処理剤では、RFL接着剤を含まない表面処理剤中に、エポキシ化合物を、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物とともに含有するものであることが好ましい。さらには、RFL接着剤を含まない一浴目と、RFL接着剤を含む2浴目との両方の表面処理剤に、層状複水酸化物を含有することが好ましい。
【0019】
二浴接着処理の一浴目の表面処理剤に過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する場合、この表面処理剤となる前処理液中にはエポキシ化合物を含有することが好ましいが、さらにはイソシアネート化合物及び/またはゴムラテックスを含有することが好ましい。
【0020】
好ましく用いられるエポキシ化合物としては、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を該化合物1kg当り2g当量以上含有する化合物が好ましい。具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ピス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸または過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシド、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。これらのうち、特に多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物、すなわち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。
【0021】
同じく好ましく用いられるイソシアネート化合物は、特にはイソシアネート基がブロックされたブロックドポリイソシアネート化合物であることが好ましい。このブロックドポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生じるものである。
【0022】
より具体的に述べると、ポリイソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネート、あるいはこれらポリイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えばトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(−NCO)とヒドロキシル基(−OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリオールアダクトポリイソシアネート等が挙げられる。特にトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートの如き芳香族ポリイソシアネートが優れた性能を発現するので好ましい。
【0023】
ブロックドポリイソシアネート化合物のブロック化剤としては、例えばフェノール,チオフェノール,クレゾール,レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類,フタル酸イミド類、カプロラクタム,バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0024】
さらに二浴接着処理の一浴目の表面処理剤用の前処理液には、上記のポリエポキシド化合物および/またはブロックドイソシアネート化合物に加えて、ゴムラテックスを含有させることが好ましい。ゴムラテックスの存在により、被着体であるゴムとの共加硫がおこり、例えばこのことは、剥離テスト時に高いゴム付きが実現されることからも確認される。
【0025】
好ましく用いられるゴムラテックスとしては、例えば天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエン系ゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス等があり、これらを単独または併用して使用する。なかでも、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを単独使用または併用使用するのが好ましい。併用使用の場合には、ポリ塩化ビニルラテックスも含めた全ラテックス重量の1/3量以上使用した場合に特に優れた性能を示す。
【0026】
このような上記表面処理剤は、各成分を、通常乳化液、水分散液、あるいは水溶液として組成物に配合された前処理液として用いることができる。剤成分を乳化液または水分散液にするには、例えばその化合物を、そのままあるいは必要に応じて少量の溶媒に溶解した後、公知の乳化剤、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化または分散させればよい。
【0027】
本発明において用いられる表面処理剤のマトリックス成分を水分散物として用いる際の分散剤、すなわち界面活性剤の適当な量は、表面処理剤の全固型分に対し、0〜15wt%、好ましくは10wt%以下であり、上記範囲を超えると接着性が低下する傾向にある。アルキレングリコールや水溶性シリコーンなどの表面張力低下剤の添加も有効であり、これらの添加により加工時の濡れ性が向上するため、低濃度で処理した場合の性能が向上する。
【0028】
また、かかる表面処理剤を繊維に付着せしめるには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、または、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、ゴム補強用繊維に対する固形分付着量は、0.1〜3重量%の範囲が好ましい。繊維に対する固形分付着量を制御するためには、前記と同様に、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0029】
また本発明において、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する表面処理剤が一浴接着処理の処理液や二浴接着処理の二浴目の処理液にて用いられる場合、表面処理剤がレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤(RFL接着剤)を含有するものであることが好ましい。
【0030】
この表面処理剤に好ましく用いられる接着剤成分であるレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)は、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が、1:0.8〜1:5の範囲にあるものが好ましく使用され、より好ましくは、1:1〜1:4の範囲で用いられる。ホルムアルデヒドの添加量が少なすぎるとレゾルシン・ホルマリンの縮合物の架橋密度が低下すると共に分子量の低下を招くため、接着剤層凝集力が低下することにより接着性が低下するおそれがあり、また、ホルムアルデヒドの添加量が多すぎると架橋密度上昇によりレゾルシン・ホルマリン縮合物が硬くなり、被着体ゴムとの共加硫時にRFLとゴムとの相溶化が阻害され、接着性が低下すると共に処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する問題が出てくる傾向にある。
【0031】
またこの接着剤中のレゾルシン・ホルマリンとゴムラテックスとの配合比率は、固形分量比で、レゾルシン・ホルマリン:ゴムラテックス(RFL)が1:3〜1:20の範囲にあるものが好ましく使用され、特に、1:5〜1:15の範囲にあるものが好ましく使用される。ゴムラテックスの比率が少なすぎると処理されたポリエステル繊維が硬くなって耐疲労性が低下しやすくなり、また、被着体であるゴムとの共加硫が不十分となり、接着性が低くなるおそれがあり、逆に、ゴムラテックスの比率が多すぎると接着剤皮膜として充分な強度を得ることが出来ないため、満足な接着力やゴム付着率が得られないおそれがあるだけで無く、処理コードの粘着性が著しく高くなりディップ処理工程の汚れや、製品製造工程での汚れの原因となる傾向にある。
【0032】
またこのレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤を含有する表面処理剤には、架橋剤を併用することも好ましい。好ましく添加される架橋剤としては、アミン、エチレン尿素、ブロックドポリイソシアネート化合物などが例示されるが、処理剤の経時安定性、一浴目の前処理剤との相互作用などを踏まえ、ブロックドポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。
【0033】
この表面処理剤におけるブロックドポリイソシアネート化合物などの架橋剤の添加率は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)に対して0.5〜40重量%、好ましくは、10〜30重量%の範囲であるものが好ましい。添加量を増やすことにより通常は接着力が向上するが、逆に添加量が多すぎると表面処理剤のゴムに対する相容性が低下し、ゴムとの接着力が低下すると共に、処理後の繊維が著しく硬くなり、強力及び疲労性が低下する傾向にある。
【0034】
RFL接着剤を含む表面処理剤の繊維への付与前の総固形分濃度としては、1〜30重量%の範囲にあるものが好ましい。付与前の表面処理剤の総固形分濃度が、前記の範囲よりも低い場合には、処理剤の表面張力が増加し、繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、固形分付着量が低下することにより接着性が低下する傾向にあり、逆に、総固形分濃度が前記の範囲よりも高い場合には、処理剤の粘度が高くなるため、固形分付着量が多くなりすぎ、ディップ処理工程や製品の製造工程において汚れの原因になるだけでなく、処理コードが硬くなり、耐疲労性が低下する傾向にある。
【0035】
この表面処理剤を繊維に付着させるためには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、または、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、繊維に対する固形分付着量は、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは1.0〜5.0重量%の範囲にあるものがよい。繊維に対する固形分付着量を制御するためには、前記と同様に、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことが出来、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0036】
さらに本発明のゴム補強用繊維においては、表面処理剤が、ポリ塩化ビニルラテックスを含有するものであることが好ましい。表面処理剤にポリ塩化ビニルラテックスを添加することにより、アミンの透過性を防ぐ能力を付与することが可能となり、本発明の効果をさらに高めることが可能となる。ゴム中に存在するアミンが接着剤層を通過して起こるアミノリシスをさらに抑制し、ゴム・繊維複合体が高温にさらされた後に起こる接着低下を防ぐとともに、初期接着性においても十分な性能を発現することが可能となるのである。
【0037】
本発明のゴム補強用繊維は、上記のような表面処理剤を付着させた繊維を加熱乾燥して得ることができる。加熱乾燥の条件としては50℃以上で、繊維の融点より10℃以上低い温度の範囲で乾燥・熱処理することが好ましい。より好ましくは、220〜270℃の温度範囲で、0.5〜5分間、さらに好ましくは、1〜3分間乾燥・熱処理する。一般にこの乾燥・熱処理温度が低すぎるとゴム類との接着が不十分となる傾向にあり、また、乾燥・熱処理温度が高すぎると繊維が溶融、融着するなどにより、強度低下を起こす傾向にある。
【0038】
このような本発明のゴム補強用繊維は、耐熱性に優れるためタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用繊維として、特に高温状態でも高い性能を維持し、好ましく用いられるものとなる。
【0039】
本発明のゴム補強用繊維が好ましい効果を発揮するメカニズムは明確ではない。だが、本発明にて必須成分である過塩素酸イオン型の層状複水酸化物は、層状構造をした金属イオンの水酸化物シートの層構造の中に過塩素酸イオンが取り込まれており、その過塩素酸イオンが層の中に入り込める分子とのみ反応するという特徴を有している。そして表面処理剤中の他の接着剤等の成分は層の中には入り込まず、接着を劣化させるアミン類のみが層中にて補足、分解されて、耐久性が向上するという効果をもたらすものと考えられる。
【0040】
特に繊維補強したゴムを高温にさらした状態で長時間放置した場合、ゴム中に含まれる添加剤(特にアミン化合物)により、接着界面が劣化し、接着が低下する機構が考えられているが、本発明のゴム補強用繊維を用いた場合、層状複水酸化物中の過塩素酸塩が有機物を酸化分解するため、特に還元能の高いアミン類は容易に補足、分解されるため、特に耐熱耐久性に優れたものとなる。
【実施例】
【0041】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明する。なお各種特性は下記の方法により測定した。
【0042】
(1) 初期剥離接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。コードを30本/2.54cm(1inch)で引きそろえ、0.5mm厚の天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシートで挟みつける。これらのシートを、直行するように重ねあわせ、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力で加硫し、次いで、コード方向に沿って短冊状に切り出す。作成したサンプルの短冊に沿った方のシートをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/2.54cm(1inch)で示したものである。なおこの初期剥離接着力は室温にて測定したものである。
【0043】
(2) 耐熱接着力
加硫条件を、180℃で40分間(耐熱条件)にて行うこと以外、(1)の剥離接着力と同様にサンプルを作成し、室温にて剥離接着力を測定し、耐熱接着力とした。
【0044】
[実施例1]
ソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するポリエポキシド化合物(デナコール EX−614B ナガセケムテックス株式会社製)、メチルエチルケトオキシムブロック ジメチルジフェニルジイソシアネート構造を有するブロックドポリイソシアネート(DM−6400 明成化学工業株式会社製)、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(ニッポール 2518FS 日本ゼオン株式会社製)、PVCラテックス(VYCar 460X104 日本ルーブリゾール株式会社製)および過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製、アルカマイザー5、マグネシウムアルミニウムヒドロキシ過塩素酸ハイドロタルサイト)を固形分で6.0重量部,4重量部、45重量部、45重量部、0.1重量部の割合で混合し、総固形分濃度を10.0重量%とした。得られた配合液を、第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(1))とした。
【0045】
レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6、固形分濃度が65重量%である初期縮合物をアルカリ条件下溶解し9重量%水溶液とする。これを、41%ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターボリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)と水を上記9%レゾルシン・ホルマリン水溶液 57重量部に対し、それぞれ99重量部、87重量部添加する。この液にホルマリン3重量部、33重量%アセトキシムブロックドジフエニルメタンジイソシアネート分散体(明成化学工業株式会社製 DM6011)を30重量部添加し、48時間熟成した固形分濃度20重量%の第二浴処理用の接着処理液を得た(表面処理剤(2))。
【0046】
固有粘度が0.95のポリエチレンテレフタレートからなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に40T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて40T/cmで上撚りを施して3340dtex/768フィラメントのコードを得た。
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記の表面処理剤(1)に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、240℃の温度で1分間の熱処理を行い、続いて、表面処理剤(2)に浸漬した後に、170℃の温度で2分間乾燥し、引続いて、240℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られたタイヤコードには、処理剤の固形分として、表面処理剤(1)由来の剤が1.4重量%、表面処理剤(2)由来の剤が2.5重量%付着していた。得られた処理コードを、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴム中に埋め込み、加硫後に前記の方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2及び3]
実施例1の表面処理剤(1)中の過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイトの添加量を0.1重量部(実施例1、剤(1))から、1.0重量部(実施例2、剤(1’))及び0.05重量部(実施例3、剤(1’’))に変更した以外は、実施例1と同様の処理を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0048】
[実施例4]
実施例1で用いた、第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(1))から、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイトを抜いた配合である総固形分濃度10.0重量%の第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(3))を調液した。
次に同じく実施例1にて用いた48時間熟成した固形分濃度20重量%の第二浴処理用の接着処理液(表面処理剤(2))に対し、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製、アルカマイザー5)を固形分比率で0.1重量%になるように添加し、第二浴処理用の接着処理液(表面処理剤(4))を得た。
実施例1の表面処理剤(1)の代わりに表面処理剤(3)を第一浴処理用の前処理液として用い、実施例1の表面処理剤(2)の代わりに表面処理剤(4)を第二浴処理用の接着処理液として用いた以外は、実施例1と同様の処理を行った。評価結果を表2に示す。
【0049】
[実施例5及び6]
実施例4の表面処理剤(4)中の過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイトの添加量を0.1重量部(実施例4、剤(4))から、1.0重量部(実施例5、剤(4’))及び0.05重量部(実施例6、剤(4’’))に変更した以外は、実施例4と同様の処理を行った。評価結果を表2に併せて示す。
【0050】
[比較例1]
実施例1で用いた、第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(1))の代わりに、実施例4で用いた、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイトを抜いた配合である前処理液(表面処理剤(3))を使用した以外は、実施例1と同様の接着処理を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
[実施例7]
実施例1のポリエチレンテレフタレート繊維に代えて、ポリエチレンナフタレート繊維を用いた以外は実施例1と同様の接着処理を行った。
すなわち繊維としては、固有粘度が0.76のポリエチレンナフタレートからなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該マルチフィラメント糸に35T/10cmで下撚りを施し、これを2本合わせて35T/cmで上撚りを施して3340dtex/768フィラメントの合成繊維コードを得た。
この剤を用いて処理を行う以外、実施例1と同様の処理を行い、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイトを含有する表面処理剤(1)が1.4重量%、表面処理剤(2)が2.6重量%付着していた。評価結果を表3に示す。
【0054】
[実施例8]
実施例4のポリエチレンテレフタレート繊維に代えて、実施例7で用いたポリエチレンナフタレート繊維を用いた以外は実施例4と同様の接着処理を行った。評価結果を表3に併せて示す。
【0055】
[比較例2]
実施例7で用いた、第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(1))の代わりに、実施例4で用いた、過塩素酸イオン型の層状複水酸化物であるハイドロタルサイトを抜いた配合である前処理液(表面処理剤(3))を使用した以外は、実施例7と同様の接着処理をポリエチレンナフタレート繊維に行った。評価結果を表3に併せて示す。
【0056】
【表3】

【0057】
[比較例3]
実施例1の第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(1))中の過塩素酸イオン型の層状複水酸化物の代わりに、同量の過塩素酸ナトリウムを添加した以外は、同じ配合の前処理液(表面処理剤(5))を得た。
しかし、この前処理液(表面処理剤(5))はゲル化し、繊維に処理することは出来なかった。
【0058】
[比較例4]
実施例4の第二浴処理用の接着処理液(表面処理剤(4))中の過塩素酸イオン型の層状複水酸化物の代わりに、同量の過塩素酸ナトリウムを添加した以外は、同じ配合の接着処理液(表面処理剤(6))を得た。
しかし、この接着処理液(表面処理剤(6))はゲル化し、繊維に処理することは出来なかった。
【0059】
[比較例5]
実施例1の第一浴処理用の前処理液(表面処理剤(1))中の過塩素酸イオン型の層状複水酸化物(対イオンはClO)の代わりに、対イオンがCO2−である合成ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製、DHT−4)を同量添加した以外は、同じ配合の前処理液(表面処理剤(7))を得た。前処理液として、表面処理剤(1)をこの表面処理剤(7)に変更する以外は実施例1と同様の処理を行った。評価結果を表4に示す。
【0060】
[比較例6]
実施例4の第二浴処理用の接着処理液(表面処理剤(4))中の過塩素酸イオン型の層状複水酸化物(対イオンはClO)の代わりに、対イオンがCO2−である合成ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製、DHT−4)を同量添加した以外は、同じ配合の接着処理液(表面処理剤(8))を得た。接着処理液として、表面処理剤(4)をこの表面処理剤(8)に変更する以外は実施例4と同様の処理を行った。評価結果を表4に併せて示す。
【0061】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に過塩素酸イオン型の層状複水酸化物を含有する表面処理剤が付着していることを特徴とするゴム補強用繊維。
【請求項2】
層状複水酸化物が、二価金属と三価金属を含有するものである請求項1記載のゴム補強用繊維。
【請求項3】
表面処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤(RFL接着剤)を含有するものである請求項1または2記載のゴム補強用繊維。
【請求項4】
表面処理剤が、エポキシ化合物を含有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項5】
層状複水酸化物が、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+より成る群から選ばれた少なくとも1種の二価金属を含有するものである請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項6】
層状複水酸化物が、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+より成る群から選ばれた少なくとも1種の三価金属を含有するものである請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項7】
繊維の少なくとも一部がポリエステル繊維である請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。

【公開番号】特開2012−154005(P2012−154005A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15317(P2011−15317)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】