説明

サイクリン依存性キナーゼ阻害剤及びその用法

開示した本発明は、健康な細胞をDNA損傷性薬剤による損傷から防護する方法と組成物に関する。特に、本発明は、DNA損傷に曝露された、又は曝露される虞のある患者に投与された選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤の保護的作用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年5月13日出願の米国特許出願61/177,724に基づく優先権を主張し、本明細書にはその全体が取り込まれている。
本発明は、米国国立保健研究所から助成金番号2R01AG024379-06の援助を国立加齢研究所を通して受けた。従って、合衆国連邦政府は本発明に一定の権利を有する。
この発明は、DNA損傷から健康な細胞を防護し、増殖因子などの毒性低下剤の効力を増大させるための方法と組成物に関する。更に、この発明は、特定の免疫細胞の増殖を妨害して自己免疫疾患を治療するための方法と組成物に関する。特に、この発明は、哺乳類患者中の特定の幹細胞及び前駆細胞の薬理学的静止を誘導するための、選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療においては、しばしばDNA損傷性薬剤や電離放射線などのDNA損傷性手段が使用されている。これらの治療は非特異的であり、特に多量に使用した場合、正常で活発に分裂する細胞に対して毒性がある可能性が有る。このことは、癌治療を受ける患者に様々な副作用をもたらしている。
【0003】
骨髄における血液生産の重篤な減少である骨髄抑制はこのような副作用の1つである。これは、骨髄抑制(貧血症、好中球減少症、顆粒球減少症、及び血小板減少症)及びリンパ球減少症の両者により特徴付けられる。好中球減少症は、循環好中球数の選択的減少及びバクテリア感染に対する感受性の増加により特徴付けられる。赤血球(erythrocyteとも表現)数、ヘモグロビン量又は赤血球濃縮液の体積(ヘマクリット測定により特徴付けられる)の減少である貧血症は、米国において、化学療法を受ける癌患者の約67%に影響を及ぼしている(非特許文献1)。血小板減少症は、血小板数を減少させ、より出血し易くさせる。リンパ球減少症は、循環するリンパ球(T及びB細胞)の数の減少により特徴付けられる化学療法の一般的な副作用である。リンパ球減少症は、多くの種類の感染を受けやすくする。
【0004】
従って、医者は、異常増殖細胞を破壊するために、正常細胞に対する毒性効果を伴いながら、化学療法と放射線療法のバランスをとる。そのため、化学療法と放射線療法の治療指数は狭くなり、しばしば腫瘍の減少が不十分になり、腫瘍が再発し、腫瘍量が増加し、化学療法と放射線療法に耐性の腫瘍を誘発するという結果をもたらしている。
正常細胞の損傷を減らすために多くの治療方法が開発されているが、未だにDNA損傷性薬剤の投与が続いている。電離放射線については、小線源照射療法、分割照射及び超分割照射、複雑な投与スケジュールとデリバリーシステム、線形加速器を用いた高圧治療等の治療法が有る。しかし、これらの技術は、照射による治療効果と望ましくない効果のバランスをとることを試みているにすぎず、完全な治療効果は達成されていない。
【0005】
ある種の化学療法化合物の副作用の幾つかを減らすために、低分子が用いられてきた。例えば、ロイコボリンは、骨髄細胞及び胃腸粘膜細胞へのメトレキサートの影響を緩和するために用いられてきた。アミホスチンはアルキル化剤又は白金含有化学療法薬剤を受ける患者の、好中球減少症関連発熱及び粘膜炎の発生を減らすために用いられてきた。また、デクスラゾキサンは、アントラサイクリン抗癌化合物からの心臓防護を提供するために用いられてきた。不幸なことに、デクスラゾキサン及びアミノホスチンのような、多くの化学防護剤は、同時に投与する化学療法の効果を減じることがあるという懸念がある。
【0006】
特に貧血症及び好中球減少症に関連する化学療法は、増殖因子の使用を含む。造血増殖因子は、組み換えタンパク質として、市場で入手可能である。これらのタンパク質としては、好中球減少症の治療のために、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びこれ等の誘導体、及び貧血の治療のために、赤血球生成促進因子(EPO, エリスロポイエチン)及びこの誘導体が含まれる。しかしながら、増殖因子は幾つかの種類の血液細胞リネージ(造血系細胞へ分化する細胞)の回復を早めることができるが、血小板、マクロファージ、T細胞又はB細胞の抑制を処置する治療は存在しない。
【0007】
非選択的キナーゼ阻害剤スタウロスポリンは、幾つかの培養細胞種において、DNA損傷作用物からの防護を行うことが示された(非特許文献2、3)。スタウロスポリンは天然産物であり、及び大部分の哺乳類キナーゼに高親和性で結合する非選択的キナーゼ阻害剤である(非特許文献4)。スタウロスポリン処理は、細胞種類、薬剤濃度、及び処理時間に応じて、アポトーシス、細胞周期停止及び細胞周期チェックポイント失効を含む一連の細胞応答を誘導することができる。例えば、スタウロスポリンは、G2チェックポイント応答の失効を含む幾つかの主張されたメカニズムにより、電離放射線及び化学療法のようなDNA損傷作用物に対する細胞の感受性を高めることが示された(非特許文献5〜15)。幾つかの培養細胞腫においてスタウロスポリン処理がDNA損傷作用物からの防護を提供するメカニズムははっきりしないが、幾つかの可能なメカニズムとして、タンパク質キナーゼCの阻害、又はCDK4タンパク質レベルの減少が示唆されている(非特許文献16,17)。スタウロスポリンは、造血前駆細胞に効果が無いことが示され、DNA損傷作用物曝露後充分後のスタウロスポリン使用は、防護を示さなかった。スタウロスポリンの非選択的キナーゼ阻害は、哺乳類へのin vivo投与後、細胞周期への効果に無関係の顕著な毒性(例えば、高血糖症)をもたらすことが示され、これらの毒性は、スタウロスポリンの臨床的使用を不可能にした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】BioWorld Today, page 4, July 23, 2002
【非特許文献2】Chen et al., J. Natl. Cancer Inst., 92, 1999-2008 (2000)
【非特許文献3】Ojeda et al., Int. J. Radiat. Biol., 61, 663-667 (1992)
【非特許文献4】Karaman et al., Nat. Biotechnol., 26, 127-132 (2008)
【非特許文献5】Bernhard et al., Int. J. Radiat. Biol., 69, 575-584 (1996)
【非特許文献6】Teyssier et al., Bull. Cancer, 86, 345-357 (1999)
【非特許文献7】Hallahan et al., Radiat. Res., 129, 345-350 (1992)
【非特許文献8】Zhang et al., J. Neurooncol., 15, 1-7 (1993)
【非特許文献9】Guo et al., Int. J. Radiat. Biol., 82, 97-109 (2006)
【非特許文献10】Bucher and Britten, Br. J. Cancer, 98, 523-528 (2008)
【非特許文献11】Laredo et al., Blood, 84, 229-237 (1994)
【非特許文献11】Luo et al., Neoplasia, 3, 411-419 (2001)
【非特許文献13】Wang et al., Yao Xue Xue Bao, 31, 411-415 (1996)
【非特許文献14】Chen et al., J. Natl. Cancer Inst., 92, 1999-2008 (2000)
【非特許文献15】Hirose et al., Cancer Res., 61, 5843-5849 (2001))
【非特許文献16】Chen et al., J. Natl. Cancer Inst., 92, 1999-2008 (2000)
【非特許文献17】Ojeda et al., Int. J. Radiat. Biol., 61, 663-667 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、DNA損傷性薬剤及び/又は事象への曝露並びに毒性低下剤の効力を増大させる方法を、受ける予定がある、受ける危険が有る、又は既に受けた患者を防護するための実際的方法が継続的に必要とされている。更に、免疫細胞の増殖を妨害して自己免疫疾患を治療するための方法と組成物が継続的に必要とされている。
本発明の目的は、患者に有効量の選択的CDK4/6阻害化合物を投与することにより、患者の健康な細胞をDNA損傷性化合物の影響から防護する方法を提供することである。
上記の目的は、本発明により全体的に又は部分的に達せられる。また、明細書及び図面が以下に最善に開示するに従って、この他の目的も明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者における毒性低下剤の効力を増大させる方法であって、
(a)DNA損傷性薬剤又は事象に曝露された、これから曝露される、又は曝露される虞のある患者を提供する段階、
(b)この患者に毒性低下剤を投与する段階、及び
(c)この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階
から成る方法を提供する。
幾つかの態様において、この毒性低下剤は化学療法毒性低下剤である。幾つかの態様において、この毒性低下剤は放射線毒性低下剤である。
幾つかの態様において、この毒性低下剤は、増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化されたG-CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン、ペグ化されたエリスロポイエチン、インターロイキン(IL)−12、スティール因子、ケラチン合成細胞増殖因子、又はこれらの誘導体から成る群から選択される少なくとも1種から成る。
【0011】
幾つかの態様において、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、患者の少なくとも一つの細胞の薬理学的静止を誘導する。幾つかの態様において、この少なくとも一つの細胞は、血液細胞、血液幹細胞及び血液前駆細胞から成る群から選択される少なくとも1種の細胞である。
幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前に、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されていると同時に、又は患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後で、患者に投与される。幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後約24〜約48時間の間に患者に投与される。
【0012】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の非血液細胞又は組織がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前又は後に、治療を必要とする患者の非血液細胞又は組織におけるDNA損傷を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
幾つかの態様において、この非血液細胞又は組織は、腎臓、腸、心臓、肝臓、脳、甲状腺、皮膚、腸粘膜、耳、肺、膀胱、卵巣、子宮、副腎、胆嚢、膵臓、膵島、胃、血管、骨、及びこれらの組合せから成る群から選択される。
【0013】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の記憶T細胞の増殖を減少させる又は阻害する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
幾つかの態様において、この患者は、自己免疫疾患又はアレルギー症に罹患している又はその虞のある患者である。幾つかの態様において、この自己免疫疾患又はアレルギー症は、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫性関節炎、強皮症、溶血性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性顆粒球減少症、タイプ1糖尿病、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性結腸炎、接触性皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、ブドウ膜炎、免疫性肺臓炎、自己免疫性肝炎、免疫性腎炎、免疫性糸球体腎炎、多発性硬化症、自己免疫性虚血性神経症、白斑、円板状エリテマトーデス、ウェゲネル肉芽腫症、ヘーノホ‐シェーンライン紫斑病、硬化性胆管炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性脈管炎、皮膚筋炎、外因性及び内因性の反応性気管支病(喘息)、重症筋無力症、自己免疫性卵巣機能不全、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性上皮小体機能減退症、及びその他の不適当な細胞免疫応答の症候群から成る群から選択される。
【0014】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者のB細胞前駆体の増殖を減少させる又は阻害する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
幾つかの態様において、この患者は、自己免疫疾患又はアレルギー症に罹患している又はその虞のある患者である。幾つかの態様において、この自己免疫疾患又はアレルギー症は、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、強皮症、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血友病の後天性阻害、グッドパスチュア症候群、寒冷及び温暖凝集素症、クリオグロブリン血症、及びその他の不適当な抗体産生の症候群から成る群から選択される。
【0015】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の自己免疫疾患又はアレルギー症を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成り、この化合物は、記憶T細胞の増殖、B細胞前駆体の増殖、又は記憶T細胞とB細胞前駆体の両方の増殖を減少させる又は阻害する方法である。
幾つかの態様において、この自己免疫疾患又はアレルギー症は、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫性関節炎、強皮症、溶血性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性顆粒球減少症、タイプ1糖尿病、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性結腸炎、接触性皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、ブドウ膜炎、免疫性肺臓炎、自己免疫性肝炎、免疫性腎炎、免疫性糸球体腎炎、多発性硬化症、自己免疫性虚血性神経症、白斑、円板状エリテマトーデス、ウェゲネル肉芽腫症、ヘーノホ‐シェーンライン紫斑病、硬化性胆管炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性脈管炎、皮膚筋炎、外因性及び内因性の反応性気管支病(喘息)、重症筋無力症、自己免疫性卵巣機能不全、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性上皮小体機能減退症、その他の不適当な細胞免疫応答の症候群、グッドパスチュア症候群、寒冷及び温暖凝集素症、クリオグロブリン血症、及びその他の不適当な抗体産生の症候群から成る群から選択される。
【0016】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の癌を治療する方法であって、この癌は、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)活性のレベルが増加すること、又は網膜芽細胞腫の腫瘍抑制タンパク質若しくは網膜芽細胞腫ファミリーに属するタンパク質の発現が抑制されることを特徴とするものであって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、癌細胞の薬理学的静止を誘導しない。幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、癌細胞のDNA損傷性薬剤に対する選択性を増加させる。幾つかの態様において、この選択性の増加は、癌細胞の死を増加させる。
【0017】
幾つかの態様において、このCDK2活性のレベルが増加することは、MYC癌原遺伝子の増幅又は過剰発現を伴う。幾つかの態様において、このCDK2活性のレベルが増加することは、サイクリンE1、サイクリンE2又はサイクリンAの過剰発現を伴う。幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与することは、DNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることに伴う血液毒性を軽減させる。幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与することは、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることによってひき起こされた2次的悪性腫瘍と脊髄異形成のような長期毒性を軽減する。
幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前に、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されていると同時に、又は患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後で、患者に投与される。幾つかの態様において、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後約24〜約48時間の間に患者に投与される。
【0018】
幾つかの態様において、本発明は、患者の血液臓器又は非血液臓器において、化学療法又は放射線療法によってひき起こされた2次的悪性腫瘍を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。幾つかの態様において、1次的悪性腫瘍を治療するために患者が化学療法又は放射線療法を受ける前、又は受けると同時に、このCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物が患者に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】CDK4/6阻害は、DNA損傷後の、エリスロポイエチン(EPO)を介した赤血球系細胞リネージの回復の効率を増す。放射線照射(6.5 Gy)された野生型マウス(FVB/n)の集団(マウス8匹/集団)に、CDK4/6阻害剤(PD0332991)、エリスロポイエチン(EPO)、DK4/6阻害剤とエリスロポイエチンの組み合わせ(PD0332991+EPO)又は偽薬を与えた。照射の17日後に血液採取と血液カウントを行い、赤血球、種々の白血球関連血球、及び血小板の数を求めた。血小板の結果を図の左上に示し、赤血球(RBC)の結果を右上に示し、ヘモグロビン(Hb)の結果を左下に示し、ヘマトクリット(HCT)の結果を右下に示す。エラーバーは+/-平均値の標準誤差(SEM)を示す。
【0020】
【図2A】CDK4/6阻害は、一次正常ヒト腎近位上皮細胞にG1休止を誘導する。この細胞を種々の濃度のPD0332991で16時間処理し、細胞周期の分析を行った代表的ヒストグラムを示す。細胞を回収し、固定し、染色し、フローサイトメトリーで分析した。データはソフトウェアMod-Fit(R) from Verity (Verity Software House, Topsham, Maine, USA)で処理した。CDK4/6阻害剤の濃度が上がると共に、クリーンなG1休止期部分が増加し、細胞毒性は見られなかった。
【図2B】CDK4/6阻害は、一次正常ヒト腎近位上皮細胞にG1休止を誘導する。この細胞を種々の濃度のPD0332991で16時間処理し、細胞周期の分析を行った。細胞を回収し、固定し、染色し、フローサイトメトリーで分析した。データはソフトウェアMod-Fit(R) from Verity (Verity Software House, Topsham, Maine, USA)で処理した。図中に、G1期(ダイアモンド形)、G2/M期(四角形)及びS期(三角形)における細胞の割合(%)を示す。
【0021】
【図3】CDK4/6阻害は、一次正常ヒト腎近位上皮細胞の増殖を阻害する。この細胞は種々の濃度のPD0332991で72時間処理された。インキュベート後、CellTiter-Glo(R) (Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)を用いて細胞増殖を定量した。データは4回の繰り返し実験の平均を示す(相対発光量(RLU)、+/-標準偏差)。
【図4】CDK4/6阻害は、エトポシドによって引き起こされた一次正常ヒト腎近位上皮細胞のDNA損傷を排除する。この細胞をPD0332991で16時間処理し、続いてエトポシド(Etop)で8時間処理した。細胞を回収し、固定し、抗γH2AX FITCで染色し、フローサイトメトリーで分析した。データをFlowJo(Treestar, Inc., Ashland, Oregon, USA)で処理した。図に、γH2AX陽性細胞の割合(%)を示す。
【0022】
【図5】CDK4/6阻害は、一次正常ヒト腎近位上皮細胞を細胞死から保護する。PD0332991は、化学療法によって引き起こされる細胞毒性を抑制し、その抑制は投与量に依存する。この細胞を、30nM又は100nMのPD0332991と共に16時間インキュベートした。そして、この細胞を2.5μMのエトポシド(etop)で8時間処理した。インキュベートの後で、培地を新しい培地と交換し、細胞を更に7日間インキュベートした。7日目にCellTiter-Glo(R) (Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)を用いて、細胞増殖を調べた。エラーバーは+/-標準偏差を示す。
【図6】CDK4/6阻害は、シスプラチンで処理したマウスの腎臓にEdUが取り込まれることを阻止する。マウスは、シスプラチン(10mg/kg)のIP注射の1時間前に、経口でPD0332991(150mg/kg)を与えられた。24時間毎にEdU(100μg/マウス)のIP注射が与えられ、その後安楽死させた。腎臓を回収し、単一細胞を隔離し、EdUの取り込みを調べるために、染色された。増殖をフフローサイトメトリーで調べた。データは、無処理、シスプラチン処理、シスプラチン/PD0332991処理について、EdUの染色を%で示す。
【0023】
【図7】CDK4/6阻害は、シスプラチンで処理したマウスの腎機能を保護する。マウスの集団を、シスプラチン(10mg/kg IP)のみで処理(四角形)、PD0332991(150mg/kg PO)のみで処理(ひし形)、又はシスプラチン(10mg/kg)処理直前にPD0332991(150mg/kg PO)で処理(三角形)した。7日目に腎機能を、血液尿素窒素(BUN、mg/dL)及び血清クレアチニン(SrCr、mg/dL)を定量することにより分析した。データは1集団あたり6匹の平均+/-標準偏差を示す。
【図8】CDK4/6阻害はRB欠失細胞の細胞増殖を増強する。RB欠失ヒト肺小細胞癌細胞株(H69, H82, H209, H345)又は無傷RBを有する肺小細胞癌(SCLC)細胞株(H417)を、PD0332991と共に、24時間インキュベートした。インキュベーションの後で、培地を交換し、細胞を7日間増殖させた。細胞増殖をWST-1試薬で調べた。各データは4の平均+/-標準偏差を示す。CDK4/6阻害はRB欠失細胞株の細胞増殖を増やす。
【0024】
【図9】CDK4/6阻害は、RB欠失乳癌のマウスモデルにおける化学療法の効果を増強する。マウスは、PD0332991(150mg/kg PO)のみ、カルボプラチン(90mg/kg IP)のみ、PD0332991と組み合わせたカルボプラチン(90mg/kg IP)で、7日ごとに3週間処理した。データは、腫瘍容積の変化(%)で表し、1集団あたり少なくとも15匹の平均+/-標準偏差を示す。
【図10】CDK4/6阻害は、RB欠失乳癌のマウスモデルにおける化学療法の効果を増強する。マウスは、カルボプラチン(90mg/kg IP)のみ(黒い四角形)、又はPD0332991と組み合わせたカルボプラチン(90mg/kg IP、灰色の四角形)で、7日ごとに3週間処理した。データは、腫瘍の容積の変化(%)で表し、1集団あたり少なくとも15匹の平均+/-標準偏差を示す。
【0025】
【図11A】急な薬理学的CDK4/6阻害は、マウスにおける記憶T細胞の恒常的増殖を抑制する。マウスをPD033299で処理した(150mg/kg経口投与)。T細胞の増殖を、BrdUとフローサイトメトリーで評価した。
【図11B】図11Aに示したT細胞の増殖データをグラフ化したものである。
【図11C】急な薬理学的CDK4/6阻害は、選択的にマウスにおける胚中心の形成を抑制する。マウスをPD033299で処理した(150mg/kg経口投与)。胚中心の形成を、Ki67発現で評価した。
【図12】ヒト免疫抑制剤としてのCDK4/6阻害剤を評価するための実験スキームを示す。
【0026】
【図13】CDK4/6阻害剤は、記憶及びナイーブ細胞の両方において、TCR経路の刺激によるT細胞の増殖を抑制することを示す。ヒト末梢血T細胞をAutomacs(R)を用いてCD3陽性により精製し、CDK4/6阻害剤で処理し、その後、PMA及びイノマイシン(inomycin)で48時間刺激した。PMA及びイノマイシン(inomycin)により刺激の後、記憶T細胞(CD45RA+)又はナイーブT細胞(CD45RA-)の増殖を、BrdU+又はKi67+細胞を染色して、蛍光活性化セルソーター(FACS)で調べた。図は、阻害の割合(%)を示す。これは、ナイーブ細胞よりも、記憶細胞の阻害がより大きいことを示している。
【図14】CDK4/6阻害剤は、TCR経路の刺激によるT細胞の増殖を抑制することを示す。T細胞は、TCR経路による刺激により、より活性に増殖するが、これはCDK4/6阻害により破壊された。同様の阻害が、CD8+細胞にも観察された。増殖はBrdUの取り込みとKi67の発現で評価した。L4Dは2BrICを示す。エラーバーは、+/-平均値の標準誤差(SEM)を示す。
【0027】
【図15】CDK4/6阻害後の、CD4+細胞の構成の変化を示す。CDK4/6阻害剤は、TCR経路の刺激によるT細胞の増殖を抑制する。中枢性記憶T細胞(CCR7-CD45RA-)、エフェクター記憶T細胞(CCR7+CD45RA+)、ナイーブT細胞(CCR7+CD45RA+)及び末端分化T細胞(CCR7-CD45RA+)を示す。BrdU取り込みにより測定された記憶T細胞と末端分化T細胞部分は、CDK4/6阻害により減少した。L4Dは2BrICを示す。同様の結果が、CD8+細胞にも観察された。
【図16】CDK4/6阻害後の、CD4+細胞の構成の変化を示す。CDK4/6阻害剤は、TCR経路の刺激によるT細胞の増殖を抑制する。中枢性記憶T細胞(CM)(CCR7-CD45RA-)、エフェクター記憶T細胞(EM)(CCR7+CD45RA+)、ナイーブT細胞(CCR7+CD45RA+)及び末端分化T細胞(TD)(CCR7-CD45RA+)を示す。Ki67染色により測定された記憶T細胞と末端分化T細胞部分は、CDK4/6阻害により減少した。L4Dは2BrICを示す。同様の結果が、CD8+細胞にも観察された。
【0028】
【図17A】CD4+細胞の記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)の優先的阻害を示す。中枢性記憶T細胞(CM)(CCR7-CD45RA-)、エフェクター記憶T細胞(EM)(CCR7+CD45RA+)、ナイーブT細胞(CCR7+CD45RA+)及び末端分化T細胞(TD)(CCR7-CD45RA+)を示す。図中に示す処理(媒体(DMSO)、PD033299、又は2BrIC)の代表的フロードットプロットを示す。
【図17B】CD4+細胞の記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)の優先的阻害を示す。図17Aに示したデータの、ナイーブT細胞に対する記憶T細胞の比率を示す。CDK4/6阻害後、記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)は減少した。L4Dは2BrICを示す。エラーバーは、+/-平均値の標準誤差(SEM)を示す。
【図17C】CD4+細胞の記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)の優先的阻害を示す。図17Aに示したデータの、T細胞の割合(%)を示す。CDK4/6阻害後、記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)は減少した。エラーバーは、+/-平均値の標準誤差(SEM)を示す。図中、NVはナイーブT細胞、CMは中枢性記憶T細胞、EMはエフェクター記憶T細胞、TDは末端分化T細胞を示す。
【図18】CD8+細胞の記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)の優先的阻害を示す。中枢性記憶T細胞(CM)(CCR7-CD45RA-)、エフェクター記憶T細胞(EM)(CCR7+CD45RA+)、ナイーブT細胞(CCR7+CD45RA+)及び末端分化T細胞(TD)(CCR7-CD45RA+)を示す。CDK4/6阻害後、記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)は減少した。L4Dは2BrICを示す。
【0029】
【図19】記憶T細胞と末端分化T細胞(TD)の優先的阻害を示す。CDK4/6阻害剤は、PMA及びイノマイシン(inomycin)によるT細胞の活性化を阻害する。CDK4/6阻害剤を用いる場合と用いない場合で、PMA及びイノマイシン(inomycin)を用いて、精製されたヒト末梢T細胞を刺激した。刺激により活性化されたT細胞(CD25+)の割合を蛍光活性化セルソーター(FACS)で調べた。CDK4/6阻害後、T細胞の活性化は減少したことが観察された。L4Dは2BrICを示す。
【図20】CDK4/6阻害剤は、B細胞受容体(BCR)を通じて刺激した後、B細胞の増殖を阻害した。B細胞をAutomacs(R)を用いてCD19陽性により精製した。抗IgM抗体による刺激の後、CDK4/6阻害剤の処理を行う場合と行わない場合について、精製したヒト末梢B細胞のBrdUの取り込みを調べた。L4D(=2BrIC)による阻害後、B細胞の増殖は、約10倍減少した。
【0030】
【図21】CDK4/6阻害がT細胞及びB細胞の増殖を阻害することを示す。動物をCDK4/6阻害剤(PD033299、白棒)又は媒体(vehicle、黒棒)で24時間処理し、安楽死させた。脾臓細胞を単離し、T細胞及びB細胞用マーカーで染色した。適度な細胞数に限定した後、増殖及びS期(DNA合成期)の指標であるKi67で染色した。エラーバーは、+/-平均値の標準誤差(SEM)を示す。
【図22】CDK4/6阻害がB細胞増殖を阻害することを示す。動物をCDK4/6阻害剤(毎日150mg/kgの経口投与)又は媒体(vehicle)で4日間処理し、3日間BrdUを含む飲用水を与えた。BrdUの処理後、動物を安楽死させた。脾臓細胞を単離し、B細胞用マーカーで染色した。適度な細胞数に限定した後、増殖の指標であるBrdU染色を行った。
【図23】CDK4/6阻害がチモポイエシス(thymopoiesis)を阻害することを示す。動物をCDK4/6阻害剤(毎日150mg/kgの経口投与)又は媒体(vehicle)で4日間処理し、二重陰性(CD4-CD8-)、二重陽性(CD4+CD8+)、一重陽性(CD4+又はCD8+)について、フローサイトメトリーでリンパ球数を数えた。CDK4/6阻害は、新規二重陽性(CD4+CD8+)細胞の生産量の顕著な減少をもたらしたが、二重陰性(CD4-CD8-)と一重陽性(CD4+又はCD8+)については穏やかな影響しかなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
代表的実施形態を示す実施例を参考にして、本明細書で本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、異なる形式に具体化することができる、また本明細書に記載された実施形態に制限されると考えるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が充分であり完全であり、及び当業者にとって実施形態の範囲を完全に伝達するために提供されている。
もし、別なやり方で定義しなければ、本明細書に用いる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を持つ。本明細書で述べた全ての出版物、特許出願、特許、及び他の参照をその全体について参考文献として取り込む。
明細書及び特許請求の範囲を通して、与えられた化学式、又は化学名は、全ての光学的、及び立体的異性体、及びこれらの異性体及び混合物が存在するラセミ体を包含する。
【0032】
本明細書で用いる略語は次の意味である:
℃=摂氏、%=パーセント、μL=マイクロリットル、μM=マイクロモル(数)、2BrIC=2-ブロモ-12,13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]-カルバゾール-5,6-ジオン、BM=骨髄、BM-MNC=骨髄単核細胞、BrdU=5-ブロモ-2-デオキシウリジン、BUN=血液尿素窒素、CAFC=敷石状領域形成細胞(Cobblestone Area Forming Cell)、CBC=全血球計数、CDK=サイクリン依存性キナーゼ、CDK4/6=サイクリン依存性キナーゼ4 及び/又はサイクリン依存性キナーゼ 6、CLP=リンパ球共通前駆細胞、CMP=骨髄共通前駆細胞、CNS=中枢神経、DMEM=Dulbeccoの改変Eagle培地、DMSO=ジメチルスルホキシド、DNA=デオキシリボ核酸、DOX=ドキソルビシン、EPO=エリスロポイエチン(赤血球生成促進因子)、Etop=エトポシド、FACS=蛍光活性化セルソーター、FBS=仔牛胎児血清、g=グラム、GC=胚中心、G-CSF=顆粒球コロニー刺激因子、GEMM=遺伝子工学によって改良されたマウスモデル、GM-CSF=顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、GMP=顆粒球単球前駆細胞、Gy=グレイ、h=時間、HPLC=高速液体クロマトグラフィー、HSC=造血幹細胞、HSPC=造血幹細胞及び前駆細胞、IC50=50% 阻害濃度、IHC=免疫組織化学、IL=インターロイキン、IP=腹腔内部、IR=電離放射線、ITP=特発性血小板減少性紫斑病、kg=キログラム、LT-HSC=長期造血幹細胞、MEP=赤芽球系前駆細胞、mg=ミリグラム、MPP=多分化能前駆細胞、nM=ナノモル(濃度)、NP-CGG=ニトロフェニルアセチル−チキンガンマグロブリン、PD=6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991とも呼ばれる)、RA=慢性関節リウマチ、RB=網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質、RLU=相対的光単位、SEM=平均値の標準誤差、SLE=全身性エリテマトーデス、ST-HSC=短期造血幹細胞、Sv=シーベルト、tHDF=不死化ヒト二倍体繊維芽細胞、TTP=血栓性血小板減少性紫斑病
【0033】
I.定義
以下の用語は、当業者により良く理解されると信ずるが、以下の定義は本発明の説明を円滑にするために示すものである。
長年の特許法慣習に従い用語"a(1つ、ある)"、"an(1つ、ある)"及び"the(その、この)"は、請求の範囲を含めて本申請で用いる際"1以上"を表す。従って、例えば、"a compound(ある化合物)"又は"a cell(ある細胞)"に関しては、複数のこのような化合物又は細胞等々を含む。
【0034】
用語"comprising(から成る)"は、"including(含む)"、"containing(含む)又は"characterized by(により特徴付けられる)"と同様に、包含的又は制約が無く、付加的な、非列挙の要素又は方法段階を排除しない。"comprising(から成る)"は、名付けられた要素は必須であるが、他の要素も加えることが可能であり、それでも特許請求の範囲の構成物を形成することができることを意味する技術用語である。
用語"consisting of(のみから成る)"は、請求の範囲に明記してない全ての要素、段階又は内容物を除外する。成句"consist of(のみから成る)"が、プレアンブルに直ちに続かないで、請求の範囲の本体に現れる場合、示された要素のみに限定されるが、他の要素は、全体として請求の範囲から排除されない。
用語"consisting essentially of(本質的に、から成る)"は、請求範囲を、明記した材料又は段階に限定して、さらに請求範囲の発明事項の基本的及び新規の特徴に実質的に影響しない材料又は段階を限定する。
用語"comprising(から成る)"、"consisting of(のみから成る)"及び"consisting essentially of(本質的に、から成る)"に関して、これらの3種の用語の1種が本明細書で用いられた時、本発明は、他の2種の用語のいずれかの使用を含めることができる。
【0035】
2個の項目又は条件の記載に用いる場合、例えば、CDK4及び/又はCDK6、用語"及び/又は"は、両項目又は条件が存在する又は適用可能である状況に対して、及び両項目又は条件の1つだけが存在する、又は適用可能である状況を表す。従って、CDK4及び/又はCDK6阻害剤は、CDK4及びCDK6の両者を阻害する化合物であること、CDK4のみを阻害する化合物、又はCDK6のみを阻害する化合物であってもよい。
【0036】
"健康な細胞"又は"正常な細胞"は、疾病(癌又は他の増殖性疾患)の症候又はマーカーを示さない患者のいかなる細胞をも意味する。幾つかの態様において、健康な細胞は、造血幹細胞又は造血前駆細胞である。前駆細胞としては、長期造血幹細胞(LT-HSCs)、短期造血幹細胞(ST-HSCs)、多分化能前駆細胞(MPPs)、骨髄共通前駆細胞(CMPs)、リンパ球共通前駆細胞(CLPs)、顆粒球単球前駆細胞(GMPs)、及び赤芽球系前駆細胞(MEPs)を含むことができるが、これらに制限されない。前駆細胞は、造血幹細胞から誘導された成熟エフェクター細胞を含み、赤血球、血小板、顆粒球、マクロファージ、T細胞及びB細胞を含むがこれらに限定されない。
幾つかの態様において、健康な細胞は、腎臓、腸、心臓、肝臓、脳、甲状腺、皮膚、腸粘膜、耳、肺、膀胱、卵巣、子宮、副腎、胆嚢、膵臓、膵島、胃、血管、骨等の非造血組織中の細胞であるがこれらに限定されない。
【0037】
"DNA損傷性薬剤又は事象"は、DNA損傷性の化学化合物とその他のDNA損傷性のエフェクター(例えば、電離放射線)の両方を意味する。従って、"DNA損傷性薬剤又は事象"は、特定の目的に提供される化学療法及び放射線治療を含み、これは医療目的(例えば、癌その他の細胞の過剰増殖による疾患を治療する目的)に限定されない。更に、"DNA損傷性薬剤又は事象"は、予期しない環境的曝露(例えば、化学品の漏れ、化学的又は放射線廃棄物の不適切な廃棄や取り扱い、DNA損傷性薬剤又は放射線を使用する際の安全対策及び/又は個人保護具の失敗、テロリストによる攻撃、戦争、又は産業事故及び/又は原子力発電所の事故などにより、仕事場その他の環境において)などによって誤ってDNA損傷性薬剤及び/又はその他の薬剤に曝露されることにも関する。
【0038】
"電離放射線"は、細胞又は組織に吸収された時、一般的に活性酸素種及びDNA損傷の生成を誘発する、充分なエネルギーの放射線を表す。電離放射線は、X線、ガンマ線、及び粒子照射(例えば、中性子線、電子線、プロトン、中間子、及び他)を含むことができて、及び医学的検査及び治療、化学的目的、産業上の検査、生産及び殺菌、及び武器及び武器開発を含むが、これらに制限されない、目的のために使用される。放射線は、一般的に、ラド又はグレイ(Gy)のような、吸収線量単位、又はレム又はシーベルト(Sv)のような、等価線量単位で測定される。
【0039】
"DNA損傷性薬剤又は事象に曝露される虞がある"は、将来DNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることが予定されていること(例えば、放射線治療又は化学療法)又は将来誤ってDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される可能性のあることを意味する。誤ってDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることには、事故により又は計画していなかった環境で又は仕事場での曝露(例えば、放射線武器や化学的武器を用いたテロリストによる攻撃、化学品や放射線の漏れ、又は戦場において放射線武器や化学的武器に曝露されること)を含む。
【0040】
"癌"は、制御不能な細胞分裂、転移能を持つ、又は他の部位に新増殖を樹立できる細胞により引き起こされる疾患を表す。"悪性"、"新生物"、"腫瘍"及びこれ等の類似語は、癌細胞又は癌細胞群に関する。
癌の特異な種類としては、皮膚癌、結合組織癌、脂肪腫瘍、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮癌、肛門性器癌、腎臓癌、膀胱癌、結腸癌、前立腺癌、頭頚部癌、脳腫瘍、中枢神経(CNS)癌、網膜癌、血液癌、及びリンパ球癌などがあるが、これらに制限されない。
【0041】
幾つかの態様において、癌はCDK2活性レベルの増加又は網膜芽細胞腫抑制タンパク質若しくはp107やp130等(但し、これらに限定されない)の網膜芽細胞腫ファミリーのタンパク質の発現の減少という特徴を示すことがある。このCDK2活性レベルの増加又は網膜芽細胞腫抑制タンパク質若しくは網膜芽細胞腫ファミリーのタンパク質の発現の減少は、例えば、正常細胞と比較することによりその増減を知ることができる。
幾つかの態様において、CDK2活性レベルの増加は、MYC癌原遺伝子の増幅や過剰発現を伴う(例えば、この結果生じる又はこれと同時に観察される)ことがある。幾つかの態様において、CDK2活性のレベルの増加は、サイクリンE1、サイクリンE2又はサイクリンAの過剰発現を伴うことがある。
【0042】
"化学療法"は、細胞毒性化合物(例えば、DNA損傷性化合物、但しこれに限定されない)を用いて、癌細胞のような、しかしこれに制限されない、望ましくない細胞の成長又は増殖を減らす、又は除くために、治療することを表す。従って、本明細書で用いるように、"化学療法化合物"は、癌を治療するために用いられる細胞毒性化合物を表す。化合物の細胞毒性効果は、核酸インターカレーション、又は結合、DNA又はRNAアルキル化、RNA又はDNA合成の阻害、他の核酸関連活性(例えば、タンパク質合成)の阻害、又はすべての他の細胞毒性効果の中の1以上の結果であることが可能である。
【0043】
従って"細胞毒性化合物"は、"抗癌剤"又は"化学療法薬剤"としても記載された如何なる1つ又は如何なる組合せの化合物もあることができる。このような化合物としては、DNA損傷性化合物及び細胞を殺すことができる他の化学物質があるが、これらに制限されない。"DNA損傷性化合物"としては、アルキル化剤、DNAインターカレーター、タンパク質合成阻害剤、DNA又はRNA合成阻害剤、DNA塩基類似体、トポイソメラーゼ阻害剤、及びテロメラーゼ阻害剤又はテロメアDNA結合化合物があるが、これらに制限されない。例えば、アルキル化剤は、ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファンのようなアルキルスルホン酸塩;ベンゾジゼパ、カルボコン、メツレデパ、及びウレデパのようなアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、及びトリメチロールメラミンのような、エチレンイミン及びメチルメラミン;クロランブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニマスチン、トロホスファミド、及びウラシルマスタードのようなナイトロジェンマスタード;及びカルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチンのようなニトロソウレアを含む。
【0044】
癌の治療に用いられる抗生物質としては、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ブレオマイシン硫酸塩、マイトマイシン、プリカマイシン、及びストレプトゾシンがある。化学治療のための抗代謝物質としては、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン、フルダラビンリン酸塩、フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン、シタラビン、ペントスタチン、メトレキサート及びアザチオプリン、アシクロビル、アデニンβ−1−D-アラビノシド、アメトプテリン、アミノプテリン、2−アミノプリン、アフィジコリン、8−アザグアニン、アザセリン、6−アザウラシル、2'−アジド−2'−デオキシヌクレオシド、5−ブロモデオキシシチジン、シトシン、β−1−D−アラビノシド、ジアゾオキシノルロイシン、ジデオキシヌクレオシド、5−フルオロデオキシシチジン、5−フルオロデオキシウリジン、及びヒドロキシウレアを含む。
【0045】
化学療法タンパク質構成阻害剤は、アブリン、アウリントリカルボン酸、クロランフェニコール、コリシンE3,シクロヘキシミド、ジフテリア毒素、エデインA,エメチン、エリスロマイシン、エチオニン、フッ化物、5−フルオロトリプトファン、フシジン酸、グアニリルメチレンジホスホネート、及びグアニリルイミド2リン酸塩、カナマイシン、カスガマイシン、キロマイシン、及びO−メチルスレオニンを含む。更なる、タンパク質合成阻害剤は、モデシン、ネオマイシン、ノルバリン、パクタマイシン、パロモマイシン、ピューロマイシン、リシン、シガ毒素、ショウドマイシン、スパルソマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、チオストレプトン、及びトリメトプリムを含む。DNA合成阻害剤は、硫酸ジメチル、マイトマイシンC,ナイトロジェン及びスルファマスタードのようなアルキル化剤、アクリジン色素、アクチノマイシン、アドリアマイシン、アントラセン、ベンゾピレン、臭化エチジウム、2ヨウ化プロピジウム−インタートウィニングのようなインターカレート薬剤;及びジスタマイシン、ネトロプシンのような他の薬剤が含まれる。クメルマイシン、ナリジクス酸、ノボビオシン、及びオキソリン酸のようなトポイソメラーゼ阻害剤;コルセミド、コルヒチン、ビンブラスチン、及びビンクリスチンのような細胞分裂阻害剤;及びアクチノマイシンD,α−アマニチン、及び他の菌類のアマトキシン、コルジセピン(3'−デオキシアデノシン)、ジクロロリボフラノシル・ベンズイミダゾール、リファンピシン、ストレプトバリシンを含むRNA合成阻害剤を含み、及びストレプトリジギンもまたDNA損傷性化合物である。
【0046】
従って、その毒性が本明細書で開示した選択的CDK4/6阻害剤で緩和することができる、現在の化学療法化合物として、アドリアマイシン、5−フッ化ウラシル(5FU)、エトポシド、カンプトテシン、アクチノマイシン−D、マイトマイシン、シスプラチン、過酸化水素、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロランブシル、ビスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、タモキシフェン、タキソール、トランスプラチナ、ビンブラスチン、及びメトレキサート、等々が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
"毒性低下剤"は、DNA損傷性薬剤又は事象など(但し、これらに限定されない)の薬剤又は事象の細胞毒性を低下させるために用いられる化合物やその他の薬剤を意味する。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、1以上のサイクリン依存性キナーゼを選択的に阻害する化合物以外の化合物である。この毒性低下剤は、DNA損傷性薬剤又は事象で治療された又はその他の方法でこれらに曝露された細胞、組織又は患者におけるDNAの損傷を防止する又は低下させることのできる薬剤である。この毒性低下剤によってDNA損傷が防止又は低下されることは、患者のある細胞(例えば、健康な細胞)には影響を与えるが、患者のその他の細胞(例えば、病気の細胞及び/又は腫瘍細胞)には如何なる影響も与えないことができる。従って、この毒性低下剤を使用することは、患者のある細胞を保護し、病気治療の間DNA損傷性薬剤をより頻繁に又はより多量に使用することを可能にする。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、化学療法薬剤を使用することによる望ましくない細胞毒性を減少させる。また幾つかの態様において、この毒性低下剤は、放射線照射による望ましくない細胞毒性を減少させることができる。
幾つかの態様において、この毒性低下剤は、増殖因子、又はその他の天然化合物、又はこれらの誘導体である。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化された(即ち、ポリエチレングリコールを結合させた)G-CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン、ペグ化されたエリスロポイエチン、インターロイキン(IL)−12、スティール因子、ケラチン合成細胞増殖因子、又はこれらの誘導体(例えば、これらに基づくアルキル化化合物やエステル化化合物などの化学的に変性された化合物)から成る群から選択される。
【0048】
"毒性低下剤の効力を増大させる"ことは、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物の毒性低下剤の効力を増大させる能力に関する。従って、この用語は、毒性低下剤とCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物とを組み合わせて使用することに関する。例えば、この組み合わせを使用することは、毒性低下剤(又は、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物)のみを与えられた患者が持つ許容度よりも、患者がDNA損傷性薬剤又は事象をより頻繁に又はより多量に使用することに対してより高い許容度を持つことを可能にする。この組み合わせを使用することは、DNA損傷性事象によって引き起こされる副作用から高いレベルで保護することを可能にする(例えば、骨髄抑制の大幅な減少、又は2次的悪性腫瘍の発生可能性の低下、但しこれらに限定されない)。またこの組み合わせを使用することは、DNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることによる広範囲の副作用から保護すること、及び/又は患者の様々な細胞や組織を保護することを可能にする。例えば、幾つかの態様において、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を、増殖因子と組み合わせて使用した場合には、DNA損傷性薬剤又は事象から様々な造血系細胞を保護するために相乗効果を発揮することができる。
【0049】
"化合物の薬学的有効量"は、患者に有効な結果を効果的に生じさせる量を意味する。例えば、DNA損傷性薬剤又は事象(例えば、患者の健康な造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)中の細胞毒性化合物に対する化学療法、その他の曝露又は放射線照射)による毒性を低下又は除去するに十分効果的な量であってもよい。幾つかの態様において、この有効量は患者における造血幹細胞の増殖を一時的に(例えば、数時間又は数日)妨げる(例えば、造血幹細胞に静止状態を誘導する)のに必要な量である。
幾つかの態様において、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、オフターゲット効果(標的以外への非特異的な作用)が無い(からフリーである)。この"〜が無い(からフリーである)"は、in vivo又は細胞をベースとした検定による検査で好ましくない、又はオフターゲット効果を持たない、選択的CDK4/6阻害化合物を表すことができる。従って、"〜が無い(からフリーである)"は、長期毒性、抗酸化効果、エストロゲン様作用、チロシンキナーゼ阻害効果、CDK4/6以外のCDKへの阻害効果、及びCDK4/6非依存性細胞における細胞周期停止のような、しかしこれらに制限されない、オフターゲット効果を持たない、選択的CDK4/6阻害剤を表すことができる。
【0050】
オフターゲット効果"から実質的にフリーな"CDK4/6阻害剤は、幾つかの軽微なオフターゲット効果を持つことができるCDK4/6阻害剤であり、このオフターゲット効果は、CDK4/6依存性細胞を細胞毒性化合物から防護する阻害剤の防護能を妨害しない。例えば、オフターゲット効果"から実質的にフリーな"CDK4/6阻害剤は、この阻害剤がCDK4/6依存性細胞の選択的G1期停止をもたらす限り、他のCDKに対する幾つかの軽微な阻害効果(例えば、CDK1又はCDK2に対するIC50が、>0.5μM;>1.0μM;又は>5.0μM)を持つことができる。
【0051】
"減少した"又は"妨げた"又はこれらの文法的同義語は、それぞれ、その効果を低下させる、又はその効果が完全に発生しないように保つことである。"軽減する"は減少させる及び/又は防止することに関してもよい。
"薬理学的静止"は細胞周期の一時的な停止を意味する。
"自己免疫疾患又はアレルギー症に罹患する虞のある"は、例えば、自己免疫疾患に関係する1以上の遺伝標識を有すること、自己免疫疾患の家族歴を有すること、及び/又は自己免疫疾患の発病の誘因と疑われる環境的薬剤に曝露されたこと等の理由(但しこれらに限定されない)により、自己免疫疾患に罹患する可能性があると疑われている患者に関する。この用語は、以前自己免疫疾患と診断されたが、現在では寛解した及び/又はその症状が無い患者にも適用される。
幾つかの態様において、本発明で治療される患者はヒトであることが望ましいが、ここで開示される方法は全ての種類の脊椎動物(例えば、哺乳類、鳥類など)に対して有効であり、これらが用語"患者"に含まれることが意図されている。
【0052】
より詳細には、本明細書に、ヒト及び、絶滅の危機にある重要な哺乳類(例えば、シベリアトラ)、ヒトに対し経済的に重要な哺乳類(ヒトにより消費されるために農場で飼育されている動物)及び/又は、例えば、ヒト以外の肉食動物(例えば、ネコ及びイヌ、)ブタ類(ブタ、去勢ブタ、及びヨーロッパイノシシ)、反芻動物(畜牛、去勢ウシ、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、及びラクダのような)及びウマのように、ヒトに対し社会的に重要な哺乳類(ペットとして、又は動物園で飼われている動物)のような哺乳類の治療が含まれている。従って、本明細書に記載した本方法の態様は、家畜性ブタ類(ブタ及び去勢ブタ)、反芻動物、馬、家禽類等々の治療を含むが、これらに制限されない。
【0053】
"アルキル基"は、線型(即ち、直鎖)、分枝型、又は環状、飽和、又は少なくとも部分的に飽和、及び幾つかの場合完全に不飽和型(即ち、アルケニル基及びアルキニル基)炭化水素鎖を含むC1〜20を表わし、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ブタジエニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、及びアレニル基が含まれる。"分枝型"は、メチル基、エチル基又はプロピル基のような低級アルキル基が線型アルキル鎖に付加したアルキル基を表す。"低級アルキル基"は、1から8炭素原子(即ち、C1〜8アルキル基)例えば、1,2,3,4,5,6,7又は8炭素原子、を有するアルキル基を表す。"高級アルキル基"は、約10から約20炭素原子、例えば、10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,又は20炭素原子、を有するアルキル基を表す。ある態様において、"アルキル基"は特に、C1〜8直鎖アルキル基を表す。他の態様において、"アルキル基"は特に、C1〜8分枝鎖アルキル基を表す。
【0054】
アルキル基を、任意に1個以上の、同一又は異なる、アルキル基置換基により置換することができる("置換アルキル基")。用語"アルキル基置換基"はアルキル基、置換アルキル基、ハロ基、アリールアミノ基、アシル基、ヒドロキシル基、アリールオキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルオキシル基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基及びシクロアルキル基を含むが、これらに制限されない。アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子又は置換窒素原子又は非置換窒素原子を挿入することができて、ここで、窒素置換基は、水素原子、低級アルキル基(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表す)又はアリール基である。
【0055】
従って、"置換アルキル基"は、本明細書で定義したように、アルキル基を含み、ここでアルキル基の1以上の原子又は官能基が他の原子又は官能基に置き換えられ、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基が含まれる。
【0056】
"アリール基"は、単一芳香族環、又は互いに融合した、又は共有結合で連結した、又はメチレン基又はエチレン基部分のような、しかしこれらに制限されない、一般的な置換基に結合した芳香族部分を表す。一般的な連結基はまた、ベンゾフェノンにおける様なカルボニル基、又はジフェニルエーテルにおける様な酸素原子、又はジフェニルアミンにおける様な窒素原子であってもよい。用語"アリール基"は、とりわけ複素環式芳香族化合物を含む。この芳香族環(複数もあり)は、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルアミン基及びベンゾフェノン基を含むことができる。特別の実施形態において、用語"アリール基"は、約5から約10炭素原子、即ち5,6,7,8,9又は10炭素原子を含む環状芳香族基を意味し、及び5−及び6−員環の炭化水素、及び複素環式芳香族環を含む。
【0057】
アリール基は、任意に、1以上の同一又は異なる、アリール基置換基と置き換えることができて("置換アリール基")、ここで"アリール基置換基は"アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アシル基、ハロ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、アシルオキシル基、アシルアミノ基、アロイルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキレン基及びNR'R"を含み、ここでR'及びR"は、夫々独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、及びアラルキル基である。
【0058】
従って、"置換アリール基"は、本明細書で定義したように、アリール基を含み、ここでアリール基の1以上の原子又は官能基は、他の原子又は官能基と置き換えられ、官能基としては、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基が含まれる。
アリール基の特別な例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、フラン基、チオフェン基、ピロール基、ピラン基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、イソチアゾール基、イソクサゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、トリアジン基、ピリミジン基、キノリン基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基等々が含まれるが、これらに制限されない。
用語"ヘテロアリール基"は、芳香族環又は芳香族環類の骨格の少なくとも1原子が、炭素以外の原子である、アリール基を表す。従って、ヘテロアリール基は、窒素、酸素、イオウ原子を含むが、これらに制限されない、群から選択された1以上の非炭素原子を有する。
【0059】
"アシル基"は、有機カルボン酸基を表し、ここでカルボキシル基の−OHは他の置換体(即ち、RCO−で表せるように、ここでRは、アルキル基、又は本明細書で定義されたアリール基である)で置換される。従って、用語"アシル基"は、特に、アセチルフラン基及びフェナシル基のような、アリールアシル基を含む。アシル基の特別な例として、アセチル基及びベンゾイル基が含まれる。
【0060】
"環状"及び"シクロアルキル基"は、約3から約10個の炭素原子、例えば、3,4,5,6,7,8,9又は10炭素原子の、非芳香属性単環式又は多環式環状システムを表す。このシクロアルキル基は、任意に、部分的に不飽和であってもよい。シクロアルキル基は、任意に、本明細書で定義したように、オキソ基及び/又はアルキレン基のような、アルキル基置換体により置換されてもよい。環状アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素、硫黄、又は置換した又は非置換の窒素原子を挿入することができて、ここで、窒素置換基は、水素、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、又は置換アリール基であり、従って、複素環式置換基を提供する。代表的な単環式シクロアルキル環は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基を含む。多環式シクロアルキル環は、アダマンチル、オクタヒドロナフチル基、デカリン、樟脳、カンファン、及びノラダマンチルを含む。
【0061】
"複素環"又は"複素環式基"は、環状環の1以上の骨格炭素原子が、ヘテロ原子(例えば、窒素、硫黄、又は酸素原子)により置き換えられたシクロアルキル基(即ち、本明細書に記載された非芳香環、環状基)を表す。複素環の例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、ジオキサン、ピペリジン、ピペラジン、及びピロリジンが含まれるが、これらに制限されない。
"アルコキシル基"又は"アルコキシ基"は、アルキル−O−基を表し、ここでアルキル基は、既述の通りである。本明細書の用語"アルコキシル基"は、例えば、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、イソプロポキシル基、ブトキシル基、t−ブトキシル基、及びペントキシル基と表すことができる。用語"オキシアルキル基"は、"アルコキシル基"と互換的に用いることができる。
【0062】
"アリールオキシル基"又は"アリールオキシ基"は、アリール−O−基を表し、ここでアリール基は、置換アリール基を含み、既述の通りである。本明細書で用いる用語"アリールオキシル基"は、フェニルオキシル基又はヘキシルオキシル基、及びアルキル基、置換アルキル基、ハロ、又はアルコキシル置換フェニルオキシル基又はヘキシルオキシル基と表すことができる。
"アラルキル基"は、アリール−アルキル基を表し、ここでアリール基及びアルキル基は既述通りであり、また置換アリール基及び置換アルキル基を含む。アラルキル基の例として、ベンジル基、フェニルエチル基、及びナフチルメチル基が含まれる。
"アラルキルオキシル基"又は"アラルキルオキシ基"は、アラルキル−O−基を表し、ここでアラルキル基は既述通りである。アラルキルオキシル基の例として、ベンジルオキシル基がある。
【0063】
"アミノ基"は、-NR'R''基を表し、ここでR'及びR''は夫々独立に、H原子、置換及び非置換アルキル基、シクロアルキル基、複素環式基、アラルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基を含む群から選択される。幾つかの態様において、このアミノ基は-NH2である。"アミノアルキル基"及び"アミノアリール基"は、-NR'R''基を表し、ここでR'はアミノ基に対して定義されたものであり、及びR''は、夫々、置換又は非置換のアルキル基、又はアリール基である。
"アシルアミノ基"は、アシル−NH−基を表し、ここでアシル基は、既述の通りである。
"カルボニル基"は-(C=O)-又は前に名付けた親置換基の炭素原子に付加した2重結合酸素置換体を表す。
"カルボキシル基"は、-COOH基を表す。
"ハロ"、"ハロゲン化物"又は"ハロゲン"は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基を表す。
"ヒドロキシル基"及び"ヒドロキシ基"は、-OH基を表す。
"オキソ基"は本明細書に既載の化合物を表し、炭素原子が、酸素原子に置き換えられる。
"シアノ基"は、-CN基を表す。
"ニトロ基"は、-NO2基を表す。
"チオ基"は、本明細書に記載の化合物を表し、炭素原子又は酸素原子が、イオウ原子に置き換えられる。
【0064】
II.DNA損傷性薬剤又は事象から保護する化合物と方法
組織特異的幹細胞又は固有の増殖細胞のサブセットは、自己再生能があり、これは成熟した哺乳類の一生を通して制御された複製により、これらの細胞自体を置き換える能力があることを意味する。さらに、幹細胞は、非対称的に分裂して、与えられた器官の様々な構成要素を次々に産生する"子孫"又は"前駆"細胞を作り出す。例えば、造血システムにおいて、造血幹細胞は、次々に血液中の全ての分化した構成要素(例えば、白血球、赤血球、リンパ球及び血小板)を産生する前駆細胞を産み出す。
【0065】
本発明は、部分的に、成熟哺乳類の初期の造血幹細胞/前駆細胞(HSPC)及びその他の増殖細胞の特異的生化学的要求に関する。特に、HSPCのような特定の増殖細胞は、細胞複製のために、増殖キナーゼであるサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)の酵素活性を要求する。対照的に、成熟哺乳類の大部分の増殖細胞は、CDK4及び/又はCDK6(即ちCDK4/6)の活性を要求しない。これらの分化した細胞は、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)又はサイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)のような、他の増殖性キナーゼを用いて、CDK4/6活性無しに増殖することができる。従って、哺乳類を選択的CDK4/6阻害剤で処理すると非常に制限されたHSPCのような幹細胞及び前駆構成要素の増殖阻害(即ち、薬理学的静止(PQ))をもたらすことができる。例えば、PD0332991(選択的CDK4/6阻害剤)を用いた一時的な(例えば、48, 24, 20, 16, 12, 10, 8, 6, 4, 2又は1時間以下に渡る、但しこれに限定されない)処置は、造血幹細胞及びこれに関係する造血前駆細胞を静止させる。静止状態の細胞は、増殖中の細胞よりも、DNA損傷性薬剤又は事象の細胞毒性に対してより耐性であると考えられている。
【0066】
従って、幾つかの態様において、本発明は、非毒性の選択的CDK4/6阻害剤(例えば、少なくとも約48,24,20,16,12,10,8,6,4,2,又は1時間より短い間、但しこれらに限定されない)の一時的処理(例えば、経口摂取可能、非毒性CDK4/6阻害剤、但しこれらに限定されない)により、造血幹細胞及び前駆細胞を静止状態に誘導することにより、化学療法化合物の急性及び慢性毒性から哺乳類を防護する方法を提供する。静止期の間、患者の造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)は、化学療法化合物の効果から防護される。阻害剤処理が止まった後、造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)は、一時的静止期間から回復して、その後正常に機能する。従って、選択的CDK4/6阻害剤を用いた化学療法抵抗性は、著しい骨髄防護を提供し、及び化学療法及び/又は放射線治療の後、末梢血液数(ヘマクリット、血小板、リンパ球、及び骨髄細胞)のより急速な回復をもたらすことができる。
【0067】
Davisらの米国特許第6,369,086号(本明細書では、以後「086特許」という。)は、選択的CDK阻害剤は細胞毒性薬剤の毒性を制限する上で重要であり、化学療法誘導性脱毛症から防護するために使用できることを記載する。特に、この086特許は、特異的CDK2阻害剤としてオキシインドール化合物を記載する。関係する雑誌文献(Davis et al., Science, 291, 134-137 (2001))は、CDK2阻害は、細胞周期停止をもたらし、細胞周期活性抗腫瘍薬剤に対する上皮細胞の感受性を減少させ、化学療法誘導性脱毛症を防護することができることを記載するようである。しかしながら、この雑誌文献は後に結果に再現性がないという理由で撤回された。雑誌論文の撤回により疑問が生じた、噂で言われるこれらの選択的CDK2阻害剤の防護的効果と反対に、幾つかの態様において、本発明は、造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)の防護に関係し及び血液学的毒性からの防護に関係する。
【0068】
幹細胞/前駆細胞の防護能は、癌の治療及び、細胞毒性化学物質、放射線照射又はその他のDNA損傷性薬剤への偶然の曝露又は過剰投与効果の緩和の両者において望ましい。阻害剤の前処理(即ち、DNA損傷性薬剤への曝露が計画されている、又は曝露の危険性がある、患者に対するCDK4/6阻害剤の前処理)、CDK4/6阻害剤及び細胞毒性化合物の同時処理、又はCDK4/6阻害剤の後処理(DNA損傷性薬剤への曝露後に、CDK4/6阻害剤の処理)を通して、選択的CDK4/6阻害剤の防護的効果を、患者に提供することができる。従って、幾つかの態様において、本発明の方法は、化学療法化合物による治療を受けつつある、又は受けようとする患者に対する化学療法抵抗を提供するための、また患者を細胞毒性化合物及び/又は放射線照射に対する他の曝露から防護するための、選択的CDK4/6阻害化合物の使用に関する。
【0069】
本明細書では、用語"選択的CDK4/6阻害化合物"とは、CDK4及びCDK6の少なくとも1つを選択的に阻害する化合物、又はその主な作用がCDK4及び/又はCDK6の阻害によるものである化合物を表す。従って、選択的CDK4/6阻害剤は、一般的に、CDK4及び/又はCDK6に対して、他のキナーゼに対する50%阻害濃度(IC50)より低いIC50を有する化合物である。また幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤は、CDK4及び/又はCDK6に対して、他のCDK(例えば、CDK1及び CDK2)に対する化合物のIC50より、少なくとも2,3,4,5,6,7,8,9又は10倍低いIC50を有することができる。また幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤は、CDK4及び/又はCDK6に対して、他のCDKに対する化合物のIC50より、少なくとも20,30,40,50,60,70,80,90又は100倍低いIC50を有することができる。また幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤は、CDK4及び/又はCDK6に対して、他のCDKに対する化合物のIC50より100倍又は1000倍を超えて低いIC50を有することができる。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、CDK4及びCDK6の両者を選択的に阻害する化合物である。幾つかの態様において、CDK4/6阻害剤は、天然化合物(例えば、イソフラボン)ではない。幾つかの態様において、CDK4/6阻害剤は、1以上のチロシンキナーゼに対して劣る阻害剤である(例えば、>1μM インビトロIC50)。幾つかの態様において、CDK4/6阻害剤は、セリン及び/又はトレオニンキナーゼに高度に有効な阻害剤である。幾つかの態様において、CDK4/6阻害剤は、CDK1阻害剤として劣る(例えば、>1μM インビトロIC50)。幾つかの態様において、CDK4/6阻害剤は、CDK1に比べてCDK4又はCDK6に対して10倍、50倍又は100倍有効な阻害性を持つことを特徴とする。
【0070】
幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤は、CDK4/6依存性細胞の選択的G1期停止を誘導する(例えば、細胞をベースとしたin vitro検定で測定されたように)ことができる化合物である。従って、本発明の方法に従い選択的CDK4/6阻害剤を用いて処理した場合、G1期におけるCDK4/6依存性細胞の割合は増加するが、G2/M期及びS期のCDK4/6依存性細胞の割合は減少する。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤は、CDK4/6依存性細胞の、実質的に純粋な(即ち、"きれいな")G1細胞周期停止を誘導する化合物である(例えば、選択的CDK4/6阻害剤を用いた処理は、細胞の大部分が、標準的方法(例えば、ヨウ化プロピジウム(PI)染色又は他の方法)で定義されたG1期停止するように細胞周期停止を誘導し、G2/M期及びS期を合わせた周期にある細胞集団が、全細胞集団の中、20%、15%、12%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満である。)。
【0071】
非特異的キナーゼ阻害剤である、スタウロスポリンは、幾つかの種類の細胞においてG1期停止を間接的に誘導すると報告されているが(Chen et al., J. Nat. Cancer Inst., 92, 1999-2008 (2000))、選択的CDK4/6阻害剤は、造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)の特定の部分のような細胞におけるG1細胞周期停止を直接及び選択的に誘導することができ、長期の毒性が少なく、かつDNA損傷化合物への曝露前に阻害剤を用いた長期にわたる(例えば、48時間又はより長期)治療の必要無しに、化学的防護及び放射線防護を提供することができる。特に、幾つかの非選択的キナーゼ阻害剤が、CDK4タンパク質レベルを低下させることにより、幾つかの種類の細胞においてG1期停止を起こすことができるが、本発明の方法の利点は、いかなる理論に束縛されることなく、造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)において細胞内濃度を減らすことなく、CDK4/6のキナーゼ活性を直接阻害する、選択的CDK4/6阻害剤の持つ阻害能に少なくとも部分的によると信じられる。
【0072】
幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、実質的にオフターゲット効果(特にCDK4及び/又はCDK6以外のキナーゼの阻害に関係する)がない化合物である。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、CDK4/6以外のCDK(例えば、CDK1 及びCDK2)について阻害剤として劣る(例えば、>1μM IC50)。幾つかの態様において、CDK4/6阻害化合物は、選択的CDK4/6非依存性細胞の細胞周期停止を誘導しない。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、チロシンキナーゼの阻害剤として劣る(例えば、>1μM IC50)。さらに、好ましくないオフターゲット効果として、長期毒性、抗酸化効果、及びエストロゲン様効果がある、がこれらに制限されない。
【0073】
抗酸化効果は、当業者に既知の標準的検定で測定することができる。例えば、最早顕著な抗酸化効果を持たない化合物は、酸素ラジカルのような、フリーラジカルを顕著に捕捉しない。化合物の抗酸化効果は、ゲニステインのような、既知の抗酸化活性を持つ化合物と比較することができる。従って、顕著な抗酸化活性を持たない化合物は、ゲニステインに比べると、抗酸化活性が約2,3,5,10,30,又は100倍低い化合物である。エストロゲン様活性もまた、既知の検定により測定することができる。例えば、非エストロゲン様化合物は、エストロゲン受容体と顕著に結合せず、及びこの受容体を活性化しない化合物である。実質的にエストロゲン様効果フリーである化合物は、エストロゲン様活性を持つ化合物、例えば、ゲニステイン、と比較して、エステロゲン様活性が約2,3,5,10,20,又は100倍低い化合物である。
【0074】
本発明の方法に従って用いることができる選択的CDK4/6阻害剤は、全ての既知の低分子(例えば、<1000ダルトン、<750ダルトン又は<500ダルトンより低分子である)、選択的CDK4/6阻害剤、又はこれらの医薬的に許容された塩を含む。幾つかの態様において、その阻害剤は非天然化合物(即ち、自然界に見出されない化合物)である。幾つかの種類の化学化合物がCDK4/6阻害能を持つとして報告された(例えば、無細胞型検定において)。本発明法において有用な選択的CDK4/6阻害剤は、ピリド[2,3-d]ピリミジン(例えば、ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン、及び2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オン)、トリアミノピリミジン、アリール[a]ピロロ[3,4-d]カルバゾール、窒素含有ヘテロアリール置換尿素、5-ピリミジニルl-2-アミノチアゾール、ベンゾチアジアジン、アクリジンチオン、及びイソキノロンを含むが、これらに制限されない。
【0075】
幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジンは、ピリド[2,3-d]ピリミジノンである。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジノンは、ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンである。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、アミノアリール基又はアミノヘテロアリール基により置換される。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、アミノピリジン基により置換される。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、2-(2-ピリジニル)アミノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンである。例えば、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン化合物は、その全体が参照文献として取り込まれているBarvianらの米国特許公開2007/0179118に記載の化学式(II)の構造であってもよい。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン化合物は、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(即ち、PD 0332991)又はこの医薬的に許容可能な塩である(Toogood et al., J. Med. Chem., 2005, 48, 2388-2406)。
幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジノンは、2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オンである。2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オンを含む選択的CDK4/6阻害剤は、例えば、Tu等により開示されている(Tu et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2006, 16, 3578-3581)。
【0076】
本明細書の"トリアミノピリミジン"は、ピリミジン環の少なくとも3個の炭素が、化学式-NR1R2を持つ置換基で置き換えられているピリミジン化合物であり、ここでR1及びR2は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、複素環、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から独立に選択される。各R1及びR2のアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、複素環、アリール基、及びヘテロアリール基は、さらに1以上の水酸基、ハロ基、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、複素環式基、アリール基、又はヘテロアリール基により置換されてもよい。幾つかの態様において、アミノ基の少なくとも1個は、構造-NHRを持つアルキルアミノ基であり、ここでRは、C1〜C6アルキル基である。幾つかの態様において、少なくとも1つのアミノ基は、化学式-NHRを持つシクロアルキルアミノ基、又は水酸基により置換されたシクロアルキルアミノ基であり、ここでRは、水酸基により置換された、又は非置換の、C3〜C7シクロアルキル基である。幾つかの態様において、少なくとも1個のアミノ基は、ヘテロアリール基−置換アミノアルキル基であり、ここでヘテロアリール基は、さらに、アリール基置換体により置換されてもよい。
【0077】
アリール[a]ピロロ[3,4-d]カルバゾールは、ナフチル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、インドロ[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、キノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール及びイソキノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールを含むが、これらに制限されない(Engler et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 2261-2267; Sanchez-Martinez et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 3835-3839; Sanchez-Martinez et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 3841-3846; Zhu et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 1231-1235; 及びZhu et al., J. Med Chem., 2003, 46, 2027-2030)。適切な、アリール[a]ピロロ[3,4-d]カルバゾールはまた、米国特許公開2003/0229026及び2004/0048915に開示されている。
【0078】
含窒素ヘテロアリール置換尿素は、尿素の窒素原子の1個が、含窒素ヘテロアリール基により置換されている、尿素部分を含む化合物である。含窒素ヘテロアリール基は、少なくとも1個の窒素原子を含む5から10員のアリール基を含むが、これらに制限されない。従って、含窒素ヘテロアリール基は、例えば、ピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、チアゾール、イソクサゾール、ピラゾール、イソチアゾール、ピラジン、トリアゾール、テトラゾール、ピリミジン、ピリダジン、プリン、キノリン、イソキノリン、キノクサリン、シンノリン、キナゾリン、ベンズイミダゾール、フタリミド、等々を含む。幾つかの態様において、この含窒素ヘテロアリール基は、1個以上のアルキル基、シクロアルキル基、複素環式基、アラルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシル基、ハロ基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシル基、又はアミノ基により置換されてもよい。幾つかの態様において、含窒素ヘテロアリール置換尿素は、ピラゾール-3-イル尿素である。ピラゾールはさらに、シクロアルキル基又は複素環式基により置換されてもよい。
【0079】
幾つかの態様において、このピラゾール-3-イル尿素は:
【化1】

である(Ikuta, et al., J. Biol. Chem., 2001, 276, 27548-27554)。本発明に従い使用することができる更なる尿素としては、米国特許公開2007/0027147に記載された化学式(I)のビアリール尿素化合物である。また、Honma et al., J. Med. Chem., 2001, 44, 4615-4627; 及び Honma et al., J. Med. Chem., 2001, 44, 4628-4640を参照されたい。
【0080】
適切な5-ピリミジニル-2-アミノチアゾールCDK4/6阻害剤は、Shimamura等により開示載されている(Shimamura et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2006, 16, 3751-3754)。幾つかの態様において、この5-ピリミジニル2-アミノチアゾールは:
【化2】

の構造を有する。
【0081】
有用なベンゾチアジアジン及びアクリジンチオン化合物は、例えば、Kubo等により開示された化合物を含む(Kubo et al., Clin. Cancer Res. 1999, 5, 4279-4286 及びその全体が参考文献に取り込まれている米国特許公開2004/0006074)。幾つかの態様において、このベンゾチアジアジンは、1個以上のハロ基、ハロアリール基、又はアルキル基により置換される。幾つかの態様において、このベンゾチアジアジンは、4-(4-フルオロベンジルアミノ)-1,2,3-ベンゾチアジアジン-1,1-ジオキシド、3-クロロ-4-メチル-4H-ベンゾ[e][1,2,4]チアジアジン1,1-ジオキシド、及び3-クロロ-4-エチル-4H-ベンゾ[e][1,2,4]チアジアジン-1,1-ジオキシドからなる群より選択される。幾つかの態様において、このアクリジンチオンは、1個以上のアミノ基又はアルコキシ基により置換される。幾つかの態様において、このアクリジンチオンは、3-アミノ-10H-アクリドン-9-チオン (3ATA)、9(10H)-アクリジンチオン、1,4-ジメトキシ-10H-アクリジン-9-チオン、及び2,2'-ジフェニルジアミン-bis-[N,N'-[3-アミド-N-メチルアミノ]-10H-アクリジン-9-チオン]]からなる群から選択される。
【0082】
幾つかの態様において、本発明の方法の患者は、細胞増殖性の疾患に対する治療の間に、DNA損傷性薬剤の曝露を受けた、曝露を受けている途中である、又は曝露される予定である患者である。このような疾患は、癌性の又は非癌性の増殖性疾病である。例えば、本発明の化合物は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、皮膚癌、肺癌、結腸癌、脳腫瘍(即ち、神経膠腫)及び腎臓癌を含むが、これらに制限されない、幅広い種類の腫瘍の化学療法治療の間に、健康な造血幹細胞及び前駆細胞を防護する上で有効であると信じられている。
【0083】
理想的には、選択的CDK4/6阻害剤は、それ自体が、癌細胞の増殖を停止させることにより、DNA損傷性薬剤の有効性を失効させないことが好ましい。大部分の癌は、増殖性キナーゼ類を無差別に用いることができる(例えば、CDK1/2/4/又は6を用いることができる)、又はCDKにより不活性化される網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)機能を欠失しているので、増殖に対して、CDK4/6の活性に依存しないようである。従って、CDK4/6単独の阻害は、大部分の癌のDNA損傷性薬剤応答に反対の影響を及ぼすはずがない。当業者は理解するように、ある種の腫瘍のCDK4/6阻害に対する潜在的な感受性は、腫瘍の種類及び分子遺伝学に基づいて推量することができる。CDK4/6の阻害の影響を受けないと予想される癌は、CDK1又はCDK2の活性増加、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)の喪失又は不在、高いMYC発現、サイクリンE(例えば、E1又はE2)の増加及びサイクリンAの増加、又は網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)不活性化タンパク質(例えば、HPVコード化E7)の発現を含む、がこれらに制限されない、群の1以上により特徴付けられる癌である。このような癌としては、肺小細胞癌、網膜芽腫、子宮頸癌、及びある種の頭頚部癌のようなHPV陽性悪性腫瘍、Burkittsリンパ腫のようなMYC増幅腫瘍、及びトリプルネガティブ乳癌;ある種の肉腫、ある種の非肺小細胞癌、ある種のメラノーマ、ある種の膵臓癌、ある種の白血病、ある種のリンパ腫、ある種の脳腫瘍、ある種の大腸癌、ある種の前立腺癌、ある種の卵巣癌、ある種の子宮癌、ある種の甲状腺及び他の内分泌組織癌、ある種の唾腺癌、ある種の胸腺腫、ある種の腎臓癌、ある種の膀胱癌、及びある種の睾丸癌が含まれる、がこれらに制限されない。
【0084】
例えば、幾つかの態様において、癌は、肺小細胞癌、網膜芽腫、及びトリプルネガティブ(ER/PR/Her2陰性)又は基底膜細胞型(basal-like)乳癌から選択される。肺小細胞癌及び網膜芽腫は、殆ど常に、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)を不活性化しており、従って、増殖のためにCDK4/6活性を要求しない。従って、CDK4/6阻害剤処理は、骨髄及び他の正常宿主の薬理学的静止(PQ)に影響するであろうが、腫瘍の薬理学的静止(PQ)には影響しないであろう。トリプルネガティブ(基底膜細胞型)乳癌もまた、殆ど常に、遺伝学的に又は機能的に、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)-ヌルである。また、ある種のウィルス誘発性癌(例えば、子宮頸癌、及び頭頚部癌の一部)はウィルスタンパク質(E7)を発現し、これは網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)を不活性化しこれらの腫瘍を機能的にRB-ヌルにする。幾つかの肺癌はまた、HPVにより引き起こされると信じられている。当業者に理解されるように、CDK4/6阻害剤により影響を受けないと予想される癌(例えば、RB-ヌルの癌、ウィルスタンパク質E7を発現する癌、又はMYCを過剰発現する癌)は、DNA解析、免疫染色、Westernブロット解析、及び遺伝子発現プロファイリングを含む、がこれらに制限されない、方法により決定される。
【0085】
選択的CDK4/6阻害剤を、非癌性増殖性疾患における異常組織への化学療法薬剤治療の間、健康な造血幹細胞及び前駆細胞を防護する上でも用いることができるが、非癌性増殖性疾患としては、新生児の多発性血管腫症、二次的進行性多発性硬化症、慢性進行性骨髄萎縮症、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨のPaget病、乳房線維嚢胞病、Perony及びDuputren線維症、再発狭窄症、及び肝硬変が含まれるが、これらに制限されない。さらに、選択的CDK4/6阻害剤は、化学事故による曝露又は過剰投与(例えば、メトレキサート過剰投与)におけるDNA損傷性薬剤の影響を改善するために用いることができる。従って、本明細書に開示した方法は、化学プラントや原子力発電所の作業者、科学研究者、及び例えば、化学物質や放射線の流出のような、職業上の曝露からの救急報告者、を防護するために用いることができる。
【0086】
本発明に従い、選択的CDK4/6阻害剤が、DNA損傷性薬剤の投与前、投与中、又は投与後に投与される限り、DNA損傷性薬剤を、治療の所定の進行と一致した如何なる計画でも、及び如何なる投与量でも、患者に対して投与することができる。一般的に、選択的CDK4/6阻害剤は、DNA損傷性薬剤への曝露の24時間前から曝露24時間後までの範囲の時間内に患者に投与される。しかしながら、この時間期間は、DNA損傷性薬剤への曝露前24時間より前の時間に延ばすことができる(化合物が適切な血漿濃度に達するに要する時間及び/又は化合物の血漿内での半減期に基づいて)。さらに、CDK4/6阻害剤のより遅い投与が、少なくとも幾らかの防護効果をもたらす限り、この時間期間は、化学療法化合物又は他のDNA損傷性化合物に対する曝露後24時間より長く伸ばすことができる。このような、曝露後治療は、事故による曝露又は過剰投与の場合特に有用であることができる。
【0087】
幾つかの態様において、この選択的CDK4/6阻害剤を、DNA損傷性薬剤の投与前のある時間期間に患者に投与することができて、その結果選択的CDK4/6阻害剤の血漿レベルは、DNA損傷性薬剤の投与時にピークとなる。もし都合良ければ、治療投薬計画を簡単にするために、この選択的CDK4/6阻害剤を、DNA損傷性薬剤と同時に投与することができる。幾つかの態様において、化学防護剤及びDNA損傷性薬剤を、単一処方物として提供することができる。
必要ならば、選択的CDK4/6阻害剤の多数回投与を患者に行うことができる。あるいは、患者は、単回の選択的CDK4/6投与を受けることができる。
【0088】
幾つかの態様において、DNA損傷性薬剤又は事象の望ましくない効果を低減させるために、選択的CDK4/6阻害剤を他の化合物又は処置と共に使用することができる。
例えば、幾つかの態様において、本発明は、その治療を必要とする患者における毒性低下剤の効力を増大させる方法であって、DNA損傷性薬剤又は事象に曝露された、これから曝露される、又は曝露される虞のある患者を提供する段階、この患者に毒性低下剤を投与する段階、及びこの患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
この毒性低下剤は如何なる公知の毒性低下剤であってもよい。理想的には、この毒性低下剤はCDK4/6阻害活性を持たない。
幾つかの態様において、この毒性低下剤は、化学治療薬の使用又は曝露に関係した望ましくない細胞毒性/副作用を低減させる能力を持つために使用されている又は持つことが知られている薬剤である。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、放射線照射の使用又は曝露に関係した望ましくない毒性/副作用を低減させる能力を持つために使用されている又は持つことが知られている薬剤である。従って、幾つかの態様において、この毒性低下剤は、化学防護剤又は放射線防護剤である。
【0089】
幾つかの態様において、この毒性低下剤は、癌又は他の増殖性疾患の治療を受けている患者が化学治療又は放射線のより高い量を許容できるように使用される薬剤である。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、癌又は他の増殖性疾患の治療を受けている患者が化学治療又は放射線をより頻繁に受けられるように使用される。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、吐き気、嘔吐、脱毛、貧血、疲労、末梢神経症、出血、下痢、便秘等のような、但しこれらに限定されないDNA損傷性薬剤の使用に伴う副作用を低減又は防止するために使用される。
幾つかの態様において、この毒性低下剤は、増殖因子又はその他の天然化合物若しくはその誘導体である。幾つかの態様において、この毒性低下剤は、増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化されたG-CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン(EPO)、ペグ化されたエリスロポイエチン、インターロイキン(IL)−12、スティール因子、ケラチン合成細胞増殖因子、又はこれらの誘導体(例えば、これらに基づくアルキル化化合物やエステル化化合物などの化学的に変性された化合物)又はこれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0090】
幾つかの態様において、この毒性低下剤と選択的CDK4/6阻害剤を使用することは、DNA損傷性薬剤又は事象から相乗的に防護する効果を持つことができる。幾つかの態様において、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物は、患者の1以上の細胞に薬理学的静止(PQ)を誘導する。例えば、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を用いた一時的な(例えば、48時間以下)処置は、患者の1以上の細胞に薬理学的静止(PQ)を一時的に誘導することができる。幾つかの態様において、この一時的に薬理学的静止(PQ)を誘導された1以上の細胞は、例えば、血液細胞、血液幹細胞、及び/又は血液前駆細胞である。従って、幾つかの態様において、増殖因子と選択的CDK4/6阻害剤を、DNA損傷性薬剤又は事象から種々の造血細胞を保護する相乗的効果を提供する方法に使用することができる。
【0091】
幾つかの態様において、電離放射線照射や化学療法などのDNA損傷性薬剤又は事象から種々の非血液組織を保護するために、選択的CDK4/6阻害剤と毒性低下剤を組み合わせて使用することができる。この非血液組織には、腎臓、腸、心臓、肝臓、脳、甲状腺、皮膚、腸粘膜、耳、肺、膀胱、卵巣、子宮、副腎、胆嚢、膵臓、膵島、胃、血管、骨、及びこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
この毒性低下剤とCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を共に投与することもできるが(例えば、同じ処方で、又は別の処方を同時に)、異なる時に投与することもできる。この毒性低下剤とCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物の一方又は両方を、単回投与又は複数回投与により与えてもよい。幾つかの態様において、この毒性低下剤とCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物の一方を、DNA損傷性薬剤又は事象の曝露の前に投与して、他方をDNA損傷性薬剤又は事象の曝露の間又は曝露の後に投与することができる。幾つかの態様において、この毒性低下剤とCDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物の両方を、DNA損傷性薬剤又は事象の曝露の間に(例えば、化学療法又は照射線療法に間に)投与することができる。その代わりに、両方をDNA損傷性薬剤又は事象の曝露の前又は後に投与することができる。幾つかの態様において、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物はDNA損傷性薬剤又は事象の曝露後約24〜約48時間の間(例えば、24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47又は48時間)に投与される。
【0093】
幾つかの態様において、本発明は、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物が、DNA損傷性薬剤又は事象から非血液細胞又は組織を保護する能力に関する。従って、幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の非血液細胞又は組織がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前又は後に、治療を必要とする患者の非血液細胞又は組織におけるDNA損傷を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4/6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
【0094】
幾つかの態様において、この非血液細胞又は組織には、腎臓、腸、心臓、肝臓、脳、甲状腺、皮膚、腸粘膜、耳、肺、膀胱、卵巣、子宮、副腎、胆嚢、膵臓、膵島、胃、血管、骨、及びこれらの組合せからの細胞又は組織が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの態様において、このDNA損傷性薬剤は、カナマイシン、イホスファミド(isofamide)、カンプトセシン、シクロホスファミド、L-アスパラギナーゼ、ドキソルビシン、ダウノルビシン、メトトレザト、イリノテカン、シスプラチン、ストレプトゾトシン、6-メルカプチプリン、ブレオマイシン、ブーサルファン、ビンクリスチン、又はこれらの組み合わせなどの、但しこれらに限定されない、化学療法剤である。従って、例えば、本発明の方法は、化学療法により引き起こされた上皮細胞の損傷から腎臓細胞を保護するために、CDK4/6阻害剤を使用することに関する。
【0095】
選択的CDK4/6阻害剤は、一次免疫応答と二次免疫応答において異なる効果を持つことが明らかになった。幾つかの態様において、本発明は、選択的CDK4/6阻害剤が、固有T細胞の増殖に比べて記憶T細胞の増殖を選択的に低減させることを発見したことに関する。従って、幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の記憶T細胞の増殖を減少させる又は阻害する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4/6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。
【0096】
幾つかの態様において、この患者は、自己免疫疾患又はアレルギー症を発病している又は発病する虞があり、この自己免疫疾患又はアレルギー症は、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫性関節炎、強皮症、溶血性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性顆粒球減少症、タイプ1糖尿病、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性結腸炎、接触性皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、ブドウ膜炎、免疫性肺臓炎、自己免疫性肝炎、免疫性腎炎、免疫性糸球体腎炎、多発性硬化症、自己免疫性虚血性神経症、白斑、円板状エリテマトーデス、ウェゲネル肉芽腫症、ヘーノホ‐シェーンライン紫斑病、硬化性胆管炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性脈管炎、皮膚筋炎、外因性及び内因性の反応性気管支病(喘息)、重症筋無力症、自己免疫性卵巣機能不全、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性上皮小体機能減退症、及びその他の不適当な細胞免疫応答の症候群であり、但しこれらに限定されない。この患者は、また記憶T細胞の望ましくない増殖に関連する他の病状を発病している又は発病する虞があってもよい。
【0097】
選択的CDK4/6阻害剤は、また記憶B細胞の生成に含まれる工程である胚中心(GC)の形成を抑制することができる。従って、幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者のB細胞前駆体の増殖を減少させる又は阻害する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法である。幾つかの態様において、この患者は、また記憶B細胞の望ましくない増殖に関連する他の病状を発病している又は発病する虞があってもよい。幾つかの態様において、この自己免疫疾患又はアレルギー症は、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、強皮症、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血友病の後天性阻害、グッドパスチュア症候群、寒冷及び温暖凝集素症、クリオグロブリン血症、及びその他の不適当な抗体産生の症候群であるが、これらに限定されない。
【0098】
幾つかの態様において、本発明は、治療を必要とする患者の自己免疫疾患又はアレルギー症を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、CDK4/6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成り、この化合物が、記憶T細胞の増殖、B細胞前駆体の増殖、又は記憶T細胞とB細胞前駆体の両方の増殖を減少させる又は阻害する方法を提供する。幾つかの態様において、この自己免疫疾患又はアレルギー症は、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫性関節炎、強皮症、溶血性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性顆粒球減少症、タイプ1糖尿病、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性結腸炎、接触性皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、ブドウ膜炎、免疫性肺臓炎、自己免疫性肝炎、免疫性腎炎、免疫性糸球体腎炎、多発性硬化症、自己免疫性虚血性神経症、白斑、円板状エリテマトーデス、ウェゲネル肉芽腫症、ヘーノホ‐シェーンライン紫斑病、硬化性胆管炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性脈管炎、皮膚筋炎、外因性及び内因性の反応性気管支病(喘息)、重症筋無力症、自己免疫性卵巣機能不全、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性上皮小体機能減退症、その他の不適当な細胞免疫応答の症候群、グッドパスチュア症候群、寒冷及び温暖凝集素症、クリオグロブリン血症、及びその他の不適当な抗体産生の症候群から成る群から選択されるが、これらに限定されない。
【0099】
幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤を、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)活性のレベルが増加すること、又は網膜芽細胞腫の腫瘍抑制タンパク質若しくは網膜芽細胞腫ファミリーに属するタンパク質(例えば、p107及びP130、しかしこれらに限定されない)の発現が抑制されることを特徴とする癌を治療する方法に使用することができる。この方法は、患者に、薬学的有効量の、CDK4及び/又はCDK6を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る。このCDK2活性のレベルの増加は、MYC癌原遺伝子の増幅又は過剰発現、及び又はサイクリンE1、サイクリンE2又はサイクリンAの過剰発現を伴う。この選択的CDK4/6阻害剤は、これらのタイプの癌細胞の薬理学的静止を誘導するとは考えられていない。しかし、本願発明は、選択的CDK4/6阻害剤が、ある種の癌細胞のDNA損傷性薬剤(例えば、化学療法化合物や放射線照射)に対する感応性を増加させることができるという確信に基づいている。従って、幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤を使用することが、ある種の癌細胞のDNA損傷性薬剤(例えば、化学療法化合物や放射線照射)に対する感応性を増加させ、その結果、癌細胞の死を増加させる。従って、幾つかの態様において、DNA損傷性薬剤と選択的CDK4/6阻害剤を組み合わせて用いて治療する場合には、DNA損傷性薬剤のみを用いて治療する場合に比べて、腫瘍量を大きく減らすことができる。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害剤の投与は、化学療法化合物や放射線照射などのDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることに伴う血液毒性を軽減することができる。幾つかの態様において、この血液毒性は、脊髄異形成のような、但しこれに限定されない長期毒性である。選択的CDK4/6阻害剤の投与は、またDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることに伴う、血液又は非血液の2次的悪性腫瘍のような血液毒性及び非血液毒性の両方を含む、他の長期毒性に対する防護をも提供することができる。
【0100】
患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前、曝露されている間、又は曝露された後にいずれの時においても、選択的CDK4/6阻害剤を投与してもよい。幾つかの態様において、患者にこの選択的CDK4/6阻害剤は、DNA損傷性薬剤又は事象の曝露後約24〜約48時間の間(例えば、24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47又は48時間)に投与される。
放射線療法や化学療法による癌の治療を受けている患者は、最初の癌治療が最初の(即ち、1次的)癌を成功裏に除去した又は他の処置(例えば、腫瘍量の減少)を行った場合であっても、更なる癌を発症する可能性が高いことが分かっている(例えば、最初の位置から広がった癌や新規の癌などの2次的悪性腫瘍)。この2次的悪性腫瘍は、例えば、白血病又はその他の血液又は非血液の癌であってもよい。これらの2次的悪性腫瘍は、しばしば、最初の癌が治療された後長年後(例えば、1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 15, 20, 25, 30年又はそれ以上後)に起こることがあり、これは最初の癌治療の長期毒性に関係することが有りうる。
幾つかの態様において、本発明は、患者の血液臓器又は非血液臓器において、化学療法又は放射線療法によってひき起こされた2次的悪性腫瘍を軽減する方法を提供する。幾つかの態様において、この方法は、患者に、薬学的有効量の選択的CDK4/6阻害剤を投与する段階から成る。幾つかの態様において、この選択的CDK4/6阻害剤は、1次的悪性腫瘍を治療するために患者が化学療法又は放射線療法を受ける前、又は受けると同時に、患者に投与される。
【0101】
III.活性化合物、塩、及び処方物
用語"活性化合物"は、選択的CDK4/6阻害剤化合物、そのプロドラッグ(例えば、インビボ又はインビトロで選択的CDK4/6阻害剤を形成することができる他の誘導体、但しこれらに限定されない)、溶媒和物(例えば、水和物、但しこれに限定されない)及び/又はこれらの医薬的に許容された塩に関する。活性化合物を、いかなる適切な方法でも患者に投与することができる。投与された活性化合物の量及びタイミングは、勿論、治療される患者、患者が被爆中の、被爆した、又は被爆すると予想されるDNA損傷性化合物の投与量、投与の方法、活性化合物の薬物動力学的特徴、及び処方する医師の判断に依存する。従って、患者が多様なので、以下の投与量は、ガイドラインであり、及び医師が患者に対して適切と考える治療するために、医師は化合物の投与量を徐々に増量することができる。望ましい治療を考えて、医師は、年齢、患者の体重、既往症の存在、及び他の疾患の存在のような様々な因子をバランスすることができる。医薬処方物は、以下により詳細に考察するように、経口、静脈内、又は噴霧剤投与を含むが、これらに制限されない、いかなる投与ルートに対しても調製することができる。
【0102】
この使用が本明細書の態様の範囲内である、特定の活性化合物の治療上有効な投与量は、化合物から化合物、患者によって幾らか異なってもよく、患者の状態及び投与経路により異なってもよい。一般的提案として、約0.1から約200mg/kgの投与量は、治療上の有効性を持ち、ここで全ての重さは、活性化合物の重さに基づいて計算され、塩を用いる場合を含む。幾つかの態様において、投与量は、活性化合物の血清濃度が約1及び5μMの間まで、又はより高い濃度を提供するに必要な化合物の量であってもよい。より高い濃度における毒性が心配ならば、静脈内投与量を、約10mg/kgまでのような、より低レベルに制限してもよく、ここで全ての重さは、活性化合物の重さに基づいて計算され、塩を用いる場合を含む。経口投与の場合、約10mg/kgから約50mg/kgまでの投与量を用いることができる。一般的に、約0.5mg/kgから5mg/kgまでの投与量を筋肉内注射に用いることができる。幾つかの態様において、投与量は約1μmol/kgから約50μmol/kgであってもよく、又は、任意に、静脈内又は経口投与に対して、約22μmol/kg及び約33μmol/kgであってもよい。
【0103】
本発明の方法に従い、本明細書に記載した医薬的に活性な化合物を、固体又は液体として経口的に、又は溶液、懸濁物又は乳濁液として、筋肉内、静脈内、又は吸入により投与することができる。幾つかの態様において、この化合物又は塩を、リポソーム懸濁液として、吸入、静脈内、又は筋肉内に投与することができる。吸入を通して投与する際、この活性化合物又は塩は、約0.5から約5μmの、任意に約1から約2μmまでの粒子サイズを持つ、複数の固体粒子又はドロップ状であってもよい。
【0104】
医薬処方物は、全ての医薬的に許容された担体中の、本明細書に記載した活性化合物又はこの化合物の医薬的に許容された塩を含むことができる。溶液を望む場合、水溶性の化合物又は塩に関しては、水が選択される担体である。水溶性の化合物又は塩に関して、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物のような有機媒体が適切である。後者の場合、有機媒体は、かなりの量の水を含むことができる。どちらの場合の溶液も、当業者が既知の適切な処方で滅菌することができて、及び一般的には0.22μmフィルターを通す。滅菌の後、この溶液を、ピロゲンを除いたガラスバイアルのような、適切な容器に分配することができる。この分配を、任意に無菌的方法で行うことができる。滅菌的密封をガラスバイアルに施し、必要なら、バイアルの内容物を凍結乾燥することができる。
【0105】
活性化合物又はその塩に加えて、医薬処方物は、pH調節添加物のような、他の添加物を含むことができる。特に、有用なpH調節試薬は、塩酸のような酸、塩基、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、又はグルコン酸ナトリウムのような緩衝剤を含む。さらに、この処方物は、抗菌保存剤を含むことができる。有用な抗菌保存剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びベンジルアルコールがある。抗菌保存剤は、一般的に、処方物が、複数回投与使用のためにデザインされたバイアルに置かれる際に用いられる。本明細書に記載した医薬処方物は、当業者に既知の方法で、凍結乾燥できる。
【0106】
経口投与のために、医薬組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末等々の形をとることができる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムのような様々な賦形剤を含む錠剤が、ポリビニルピロリドン、砂糖、ゼラチン、及びアカシアのような結合剤と共に、澱粉、(例えば、ジャガイモ、又はタピオカ澱粉)及びある種の複合ケイ酸塩のような錠剤分解物質と共に用いられる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石のような潤滑剤が錠剤作成目的に非常に有用である。同様の種類の固体組成物がまた、硬軟に調合したジェラチンカプセルの充填物として用いられる。これに関連する材料としてまた、ラクトース又はミルク砂糖及び高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。経口投与のために、水性の懸濁物及び/又はエリクシルを好む場合、本発明の化合物を様々な甘味料、芳香剤、着色剤、乳化剤、及び/又は懸濁化剤、及び水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン及びこれらの類似の組合せのような稀釈剤と組み合わせることができる。
【0107】
本明細書に記載した発明の他の態様において、本明細書で記載した活性化合物、又はこの塩を、密閉した容器内に単位投与量の形で含む、注射可能な、安定な、滅菌した処方物を提供する。この化合物又は塩は、適切な医薬的に許容可能な担体とともに再構成し、患者へのこの化合物の注射に適した液体処方物を作成することができる、凍結乾燥物の形で提供される。この化合物又は塩が、実質的に非水溶性の場合、医薬的に許容された、充分量の乳化剤を充分量使って、水溶性担体中の化合物又は塩を乳化することができる。特に有用な乳化剤は、ホスファチジルコリン及びレシチンである。
【0108】
本明細書で提供された他の態様は、本明細書に開示した活性化合物のリポソーム処方物を含む。リポソーム懸濁液の作成法は、当業者に既知である。化合物が水溶性の塩である時、従来のリポソーム技術を用いて、脂質小胞にこの化合物を取り込むことができる。このような例として、活性化合物が水に溶解度があるので、活性化合物は実質的に親水性中心又はリポソームのコアに取り込まれる。用いられる脂質層は、全ての従来の組成であることができて、及びコレステロールを含むことができるか、又はコレステロールフリーであってもよい。当該の活性化合物が、水に不溶な場合、再び従来のリポソーム作成技術を用いて、塩を、リポソームの構造をとる実質的に疎水性脂質2重層に取り込むことができる。どちらの場合も標準的超音波処理及び均一化技術を用いて、作成するリポソームはサイズを小さくできる。本明細書に開示した活性化合物を含むリポソーム処方物を、凍結乾燥して、凍結乾燥物とさせ、水のような医薬的に許容された担体を用いて再構成して、リポソーム懸濁物を再構成することができる。
【0109】
吸入による噴霧物としての投与に適した医薬処方物がまた提供される。これらの処方物は、本明細書に記載した所望の化合物又はこの塩の溶液又は懸濁液、又はこの化合物又は塩の複数の固体粒子を含む。所望の処方物を小チャンバーに入れて噴霧化する。噴霧化は、圧縮空気又は超音波エネルギーにより行い、この化合物又は塩を含む複数の液滴又は固体粒子を形成することができる。この液滴又は固体粒子は、約0.5から約10μm、任意に約0.5から約5μmの粒子サイズの範囲に有るべきである。この固体粒子は、微粉化のような、当業者に既知のいかなる適切な方法によってでも、固体化合物又はこの塩を加工して得ることができる。任意に、固体粒子又は液滴のサイズは、約1μmから約2μmであってもよい。この点に関して、この目的を達成するために市販の噴霧器を用いることができる。この化合物を、その開示全体が本明細書の参考文献に取り込まれている米国特許第5,628,984号に示された方法で、吸入できる粒子の煙霧状の懸濁物を通して投与してもよい。
投与に適した煙霧剤としての医薬処方物が液体状の場合、この処方物は、水を含む担体中の水溶性活性化合物を含むことができる。処方物の表面張力を充分低下させ、噴霧器で使われた時、所定のサイズ範囲内の液滴を作ることができる、界面活性剤は存在してもよい。
【0110】
指摘したように、水溶性及び非水溶性活性化合物が提供される。本明細書で用いるように、用語"水溶性"は、約50mg/mLより多量に水に可溶な全ての組成物を定義することを意味する。また、本明細書で用いるように、用語"非水溶性"は、約20mg/mL未満の水への溶解度を持つ全ての組成物を定義することを意味する。幾つかの態様において、水溶性化合物又は塩は、好ましいが、他の態様において、非水溶性化合物又は塩は同様に好ましい。
【0111】
本明細書の用語"医薬的に許容される塩"は、充分な医学的判定の範囲で、過度な毒性、炎症、アレルギー反応、等々無しに、患者(例えば、ヒト患者)と接触した使用に適し、合理的な利点/危険性比と釣り合い、意図した使用に有効であり、さらに本発明の化合物のできたら両性イオンの型である塩を表す。
従って、用語"塩"は、本発明の化合物の相対的に非毒性の、無機酸及び有機酸の付加塩を表す。これらの塩を、化合物の最終的分離と精製の間in situで製造することができる、又は塩基フリーの形に精製した化合物を適切な有機酸又は無機酸と別々に反応させ、及びこのように作成した塩を単離して製造してもよい。本発明の化合物が塩基性化合物である限り、様々な無機酸及び有機酸と反応して広く様々な異なる塩を形成してもよい。このような塩は、動物に投与するためには、医薬的に許可されなければならないが、実際上、最初、反応混合物から塩基性化合物を医薬的に許可されない塩として分離し、その後アルカリ性試薬との処理で、フリー塩基化合物に変換し、その後、このフリー塩基を医薬的に許可される酸付加塩に変換することがしばしば望ましい。塩基性化合物の酸付加塩は、従来の方法で塩を作成するために、フリー塩基型を十分量の所定の酸と接触させて調製する。このフリー塩基型は、塩型を塩基と接触させ、フリー塩基を従来の方法で単離して、産生できる。このフリー塩基型は、夫々の塩型と、極性溶媒への溶解度のようなある種の物理的特徴において幾らか異なるが、他の点で、本発明の目的のために、塩は夫々のフリー塩基と等価である。
【0112】
医薬的に許可される塩基付加塩は、アルカリ及びアルカリ土金属水酸化物のような金属又はアミンと共に、又は有機アミンの形で作成される。カチオンとして用いられる金属の例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、等々を含む、がこれらに制限されない。適切なアミンの例として、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン及びプロカインが含まれる、がこれらに制限されない。
酸性化合物の塩基付加塩は、従来の方法で塩を作成するために、フリー酸型を十分な量の所定の塩基と接触させて調製する。フリー酸型は、塩型を酸と接触させ、及び従来の方法でフリー酸を単離して産生してもよい。フリー酸型は、それぞれの塩型と、極性溶媒への溶解度のようなある種の物理的特徴において幾らか異なるが、他の点で、本発明の目的のために、塩は夫々のフリー酸と等価である。
【0113】
塩を、塩化水素の、硝酸の、リン酸の、硫酸の、臭化水素の、ヨウ化水素の、リン酸の、等々のような、無機酸硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸1水素塩、リン酸2水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物から作成してもよい。代表的塩としては、臭化水素塩、塩化水素塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシラート、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩メシラート、グルコヘプタン酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリルスルホン酸塩及びイセチオン酸塩、等々を含む。塩はまた、脂肪族モノー、及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸、他、等々のような有機酸から作成される。代表的塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソブチル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、等々を含む。医薬的に許容される塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、等々のような、アルカリ及びアルカリ土金属をベースとしたカチオン、及び非毒性アンモニウム、第四級アンモニウム、及びアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等々を含む、がこれらに制限されない、アミンカチオンを含むことができる。アルギニン塩、グルコン酸塩、ガラクツロン酸塩等々のアミノ酸塩もまた検討される。参考文献に取り込まれている、Berge et al., J. Pharm. Sci., 1977, 66, 1-19を参照されたい。
【実施例】
【0114】
以下の実施例は、例証となる実施形態を提供するものであり、如何なる方法によっても本願発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明及び当業者の一般的レベルを考えて、以下の実施例は例証のみを意図しており、当業者は、本発明の範囲から離れることなく、無数の変更、修正、及び変更を行うことができることを理解することができる。
本願発明の実施は、特記しない限り、タンパク質化学、生化学、DNA組み換え技術及び薬理の分野における技術の範囲内の通常の方法を用いる。このような技術は多くの文献に完全に開示されている。例えば、T.E. Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W.H. Freeman and Company, 1993); A.L. Lehninger, Biochemistry (Worth Publishers, Inc., current edition); Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition, 1989); Methods in Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan eds., Academic Press, Inc.); Remington's Pharmaceutial Sciences, 18th Edition (Easton, Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1990); Carey and Sundberg, Advanced Organic Chemistry 3rd Ed. (Plenum Press) Vols A and B (1992)を参照されたい。
【0115】
実施例1
PDの合成
【化3】

【0116】
反応機構1:PD合成
PDを、反応機構1(化3)に示すように合成した。反応機構1(化3)に示す反応は、化合物Dの化合物Eへの変換、及び化合物Fの化合物Gへの変換反応を除いて、一般的に以前に報告された経路に従う(VandelWel et al., J. Med Chem., 48, 2371-2387 (2005); and Toogood et al., J. Med. Chem., 48, 2388-2406 (2005))。
【0117】
化合物Dの化合物Eへの変換:
【化4】

化合物D(40g、169mmol)を無水THF(800mL)に窒素下で溶かし、及びこの溶液を氷槽で冷却し、ここにMeMgBrをゆっくり加え(エーテル中3M、160mL、480mmol)及び1時間攪拌した。水とEtOAcに分配する飽和NH4Cl水溶液を加えて反応を休止した。有機層を分離し、及び水層をEtOAcで抽出した。混合した有機層を塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。濃縮して中間産物をオイルとして得た(41.9g,98%)。
上記中間産物(40g、158mmol)を乾燥CHCl3(700mL)に溶かした。MnO2(96g、1.11mol)を加え、混合物を18時間攪拌しつつ加熱乾留し、再度のMnO2(34g、395mmol)を加え、4時間乾留を続けた。Celiteパッドを通して濾過し、固体をCHCl3で洗浄した。濾過物を濃縮し、黄色固体化合物E(35g、88%)、Mp:75.8〜76.6℃。
【0118】
化合物Fの化合物Gへの変換
【化5】

化合物F(5g、18.2mmol)を無水DMF(150mL)に溶かし、及びNBS(11.3g、63.6mmol)を加えた。反応混合物を3.5時間、室温で攪拌し、H2O(500mL)に注ぎ、沈殿物を濾過し、H2Oで洗浄した。固体をEtOHから再結晶化し、化合物Gを白色固体(5.42g、80.7%)として得た。mp:210.6〜211.3℃。
【0119】
PDの特徴付けデータ
LC-MS: 448.5 (ESI, M+H). 純度: 〜99%
1H NMR(300MHz, D2O): 9.00(s, 1H), 8.12 (dd, J = 9.3 Hz, 2.1Hz, 1H), 7.81(d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.46(d, J = 9.6Hz, 1H), 5.80-5.74 (m, 1H), 3.57-3.48(m, 8H), 2.48(s, 3H), 2.37(s, 3H), 2.13-1.94(m, 6H), 1.73-1.71(m, 2H).
13C NMR (75MHz, D2O): 203.6, 159.0, 153.5, 153.3, 152.2, 139.9, 139.4, 139.2, 133.1, 129.0, 118.7, 113.8, 107.4, 51.8, 42.2, 40.0, 28.0, 25.2, 22.6, 10.8.
【0120】
実施例2
インビトロ及びインビボの研究のための一般的方法
化合物: 実施例1に従ってPD0332991を合成した。
細胞、細胞周期分析、フローサイトメトリーによるγ-H2AX検定、細胞増殖評価及び細胞毒性: 一次正常ヒト腎近位上皮細胞(American Type Culture Collection (ATCC), Manassas, Virginia, USA)を、製造者の推奨に従って腎上皮細胞培養キットを添加した腎上皮細胞基礎培地で培養した。細胞周期分析は、製造者のプロトコルに従って、BrdU (BD Biosciences Pharmingen, San Diego, California)又はEdU (Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA)及びヨウ化プロピジウムを用いて行った。γ-H2AX検定のために、細胞を固定し、透過し、γ-H2AXフローキット(Millipore, Billerica, Massachusetts, USA)に従って抗γ-H2AX抗体で染色した。γ-H2AXのレベルはフローサイトメトリーで評価した。細胞増殖は、100μLの増殖培地を加えた96ウェル組織培養プレートに、ウェルあたり1×103細胞を蒔種して評価した。細胞を指示されたようにCDK4/6阻害剤とエトポシドを用いて処理した。この処理に続いて、細胞を一般的増殖培地で7日間回復させた。この回復期間の最後に、CellTiter-Glo(R) (Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)又はWST-1試薬(TaKaRa Bio USA, Madison, Wisconsin, USA)を用いて、細胞数を定量した。細胞毒性は、アデニレートキナーゼの培養培地への放出を定量することにより細胞崩壊を測定するToxilight(R)バイオアッセイキット(Lonza, Basel, Switzerland)を用いて評価した。簡単に記すと、様々な濃度のPD0332991で処理された細胞の96ウェルプレートの各ウェルから、20μlを吸引し、これにToxilight(R)試薬を100μl加え、5分間インキュベートし、1秒/ウェルで照度計を読んだ。
【0121】
動物: 全ての動物実験はUNC Institutional Animal Care and Use Committeeに従って行った。若い成年C57Bl/6及びFVBマウスを137Cs AECL GammaCell 40 放射線装置(Atomic Energy of Canada Ltd., Mississauga, Ontario, Canada)を用いて照射した。分析に用いたマウスは、特記しない限り、Jackson Labs (Bar Harbor, Maine, USA)から購入した若い成年(年齢:8-12週間)バージン雌C57Bl/6及びFVBマウスである。
このC3-Tagマウスは、基底細胞様乳癌(basal-like breast cancer)のモデルである。このC3-Tagマウスは、シミアンウイルス40初期領域形質転換配列(SV40 ラージT抗原)を発現する組換え遺伝子を含み、これはp53とRbの両方を不活性化することが示されている。このMMTV-c-neuモデルは、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーターによりc-neu(ヒトHER2のマウスオルソロガス)を発現し、HER2+乳癌のモデルである。腫瘍の大きさが〜0.2cm2である場合、動物は記載されるように処理され、毎日その大きさが測定される。
【0122】
薬剤の準備と投与: PD0332991を、最終濃度が15 mg/mlになるように乳酸ナトリウム緩衝液(pH 4.0)に溶解させた。マウスにPD0332991 150mg/kgの投与を行った。2BrIC(「L4D」ともいう。)をDMSOに溶解し、DMSOが0.1%より小さい最終濃度になるように、これを細胞に添加した。
BrdU取り込みの解析: 腎増殖実験のために、マウスにPD0332991(150mg/kgの経口投与)の単回投与又は媒体対照で処理し、続いてシスプラチン(10 mg/kg IP)で処理した。増殖は、6時間毎にBrdU(1mg IP注射)により24時間評価し、殺処分した、又は24時間毎にEdU(0.1mg IP注射)により3日間評価し、殺処分した。
フローサイトメトリーによるEdU取り込みの解析: マウスから腎臓を取り出し、gentleMACS(R)C 組織分離機(Miltinyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を用いて、細胞を単離した。簡単に記すと、腎臓を小片に裁断し、gentleMACS(R)C チューブ(Miltinyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)中の10mlのコラゲナーゼ(1mg/ml)に入れた。製造者の推奨に従って組織を分離した。次に、細胞をACK緩衝液中で5分間インキュベートして、赤血球を溶解させ、ろ過し、ペレット化した。細胞を4%パラホルムアルデヒドに再懸濁し、4℃で一晩保存した。EdU取り込みの定量のために、製造者の指示書に従って(Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA)、この細胞を固定化し、透過し、APC EdUフローキットを用いて染色した。フローサイトメトリー解析は、CyAn ADP (Dako, Glostrup, Denmark)を用いて行った。各サンプルについて少なくとも500,000の細胞を分析し、そのデータをFlowJoソフトウェア(Tree Star, Inc., Ashland, Oregon, USA)を用いて解析した。
【0123】
骨髄抑制検定:毎週の全血球計数: 放射線保護実験において、放射線(6.5 Gy)に曝露する1時間前に、マウスをPD0332991 150mg/kgの経口強制給餌又は媒体対照で処理した。放射線曝露後3日目に、エリスロポイエチン(4000単位/日)を与え、非連続の3日間続けた。
薬剤投与前に、マウスのサブセットのベースライン全血球計数(CBC)分析を行った。薬剤投与(化学療法/放射線照射 +/- CDK4/6阻害剤/エリスロポイエチン又は対照)に続いて、処理後10及び17日目にCBC分析を行った。CBC分析をK2E(K2EDTA)の入ったBD Microtainerチューブを用いて行い、尾静脈ニックにより40μLの血液を採取した。血液をHemavet CBC-Diff Veterinary Hematology System (Drew Scientific Inc., Dallas, Texas, USA)を用いて分析した。CBC分析は、白血球、リンパ球、顆粒球、単球、ヘマトクリット、赤血球、ヘモグロビン、血小板及びその他の一般的な血液パラメーターの測定を含む。
統計的分析: 特記しない限り、多重比較のBonferroni補正を備えた一方向ANOVAを用いて比較を行った。エラーバーは、示されるように平均(SEM)又は標準偏差の+/-標準誤差である。
【0124】
実施例3
CDK4/6阻害による増殖因子の効果の増加
FVB野生型マウスの集団(cohort)に、サブ致死量の照射線照射(6.5 Gy)を受ける前に、CDK4/6阻害剤(PD0332991 150mg/kgの経口強制給餌)又は偽薬を与えた。照射線照射の72、96及び120時間後に、3回の通常塩水(対照)又はエリスロポイエチン(EPO)100単位を皮下注射した。処理集団は、全部で4つであった(即ち、PD0332991+塩水、PD0332991+EPO、EPO+塩水、塩水+塩水)。各集団のサンプルサイズは、対称が7、EPOが8、PD0332991が8、PD/EPOが6であった。血液採取を、ベースライン、照射の10日後、及び照射の17日後に行った。全血球計数(CBC)を測り、赤血球、種々の白血球関連血球、及び血小板の数を求めた。
【0125】
EPO単独又はEPOとPD0332991の組み合わせは、血小板又はその他の非赤血球系細胞リネージについて効果が無かったが(図1)、PD0332991を用いた両方の集団は、血小板又はその他の非赤血球系細胞リネージについて効果があった(図1)。EPO単独では赤血球系細胞リネージを改善することはできなかった。EPOは、赤血球前駆体がDNA損傷を細胞周期に潜ませ、その結果アポトーシスを起こすことを促進するため、如何なる理論に囚われることなく、このことは信じられる。しかし、PD0332991をEPOと組み合わせてマウスを処理すると、赤血球(RB)、ヘモグロビン(Hb)及びヘマトクリット(HCT)の値が改善しており、赤血球機能が顕著に改善していることを示している。再度強調するが、如何なる理論に囚われることなく、PD0332991が、赤血球前駆体が放射線照射によるDNA損傷を修復し、引き続くEPO処理がその前駆体が赤血球の更新をすることを促進すると考えられる。結論として、放射線療法や化学療法のようなDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後、CDK4/6阻害剤が、増殖因子が種々の造血量を回復させる効果を促進させることが明らかになった。従って、例えば、化学療法に基づく癌治療の一部として、増殖因子が、骨髄幹細胞又は前駆細胞がDNA損傷を修復することにより、骨髄抑制を助けるために、増殖因子の投与を始める前に、DNA損傷時あたりにCDK4/6阻害剤を使用することができる。更に、病を生き延びた癌患者に増殖因子を使用することに関連して、CDK4/6阻害は、長期(例えば、化学療法後3年以上)の骨髄毒性(例えば、脊髄異形成)を軽減させる。
【0126】
DNA損傷性曝露時あたりのCDK4/6阻害は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)やその誘導体(例えば、ペグ化されたG-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)やその誘導体、トロンボポイエチンやその誘導体、エリスロポイエチンやその誘導体(例えば、ペグ化されたエリスロポイエチン)、インターロイキン(IL)−12、スティール因子、ケラチン合成細胞増殖因子のような、但しこれらに限定されない、増殖因子の効果を増大させることができる。これらの薬剤、特に、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びエリスロポイエチンやその誘導体は、癌患者の治療において化学療法や放射線照射の毒性を軽減させるために、臨床的に使用されている。DNA損傷性曝露時あたりのCDK4/6阻害による薬理学的静止は、その後(例えば、増殖因子の投与は、通常DNA損傷性治療の24-72時間後に始まる。)のこれらの薬剤の効果を増大させることができる。
【0127】
実施例4
CDK4/6阻害による非血液組織及び細胞の保護
PD0332991のような有効で選択的なCDK4/6阻害剤は、一次正常ヒト腎近位上皮細胞にG1休止を誘導する。図2Aと2Bを参照されたい。投与量が増えると共に、細胞周期のG0/G1期部分が増加し、G2/M期及びS期部分が減少することが観察される。こうすることによって、この細胞は薬理学的静止に入り、この静止から解放されるまでこの状態に保たれる。
一次正常ヒト腎近位上皮細胞は培養され、24時間後に0、10nM、30nM、100nM、300nM又は1μMの濃度のPD0332991に曝露される。この処理を16時間行った後、細胞を一般的方法により回収し、DNA染色までの間氷冷メタノール中に固定した。この細胞サンプルをプロセスし、そのDNAをヨウ化プロピジウム(PI)溶液で染色し、フローサイトメトリーで分析した。フローサイトメーターのFCSファイルを細胞周期分析用ソフトウェアMod-Fit(R) from Verity (Verity Software House, Topsham, Maine, USA)を用いて分析した。これは、細胞周期部分を全細胞数に対する割合(%)で表示する。
【0128】
CDK4/6阻害は、一次正常ヒト腎近位上皮細胞の増殖を阻害する。この細胞を96ウェルのプレートに蒔種し、37℃及び5% CO2の加湿インキュベーターで24時間インキュベートした。24時間後に、この細胞を広範囲の投与量の有効で選択的なCDK4/6阻害剤(PD0332991)に曝露した。PD0332991の投与量は0、10nM、30nM、100nM、300nM、1μM、3μMであった。この曝露の72時間後に、CDK4/6阻害細胞を、製造者の仕様に従ってCellTiter-Glo(R) (Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)で処理した。照度計でこのプレートを1秒/ウェルで読んだ。結果をMicrosoft Excel(R)で処理した。この阻害剤で72時間処理すると、対照(DMSO)に比べて、細胞増殖の阻害が投与量に依存するという結果が得られた(図3)。この結果は、図2Aと2Bの結果と合わせると、非血液細胞はCDK4/6に依存して薬理学的静止に入り、増殖が抑制されることを示している。
【0129】
CDK4/6阻害は、エトポシドによって引き起こされる一次正常ヒト腎近位上皮細胞のDNA損傷を排除する。細胞が培養中にDNA損傷性低分子又は電離放射線に曝露されると、その二重鎖DNAは直ちに破壊されて、H2AXはリン酸化される。H2AXのリン酸化は、二重鎖DNAの破壊に相当する。この細胞を蒔種し、24時間後に、0、100nM、300nM、1μMのPD0332991で処理した(図4)。16時間後に、これらの細胞サンプルを2.5μMのエトポシドで8時間処理した。次に、細胞サンプルを回収し、固定し、Millipore Corporation H2AXx Phosphorylation Assay Kit for Flow Cytometry (Millipore, Billerica, Massachusetts, USA)を用いてγH2AX検定のために染色した。サンプルをフローサイトメーターに入れ、その結果をFlowJo Flow Cytometry Analytical Software (Treestar, Inc., Ashland, Oregon, USA)で処理した。この結果は、薬理学的静止が、化学療法によって引き起こされるDNA損傷からの保護を提供し、この保護は投与量に依存することを示している。
【0130】
CDK4/6阻害は、エトポシドによって引き起こされる一次正常ヒト腎近位上皮細胞の細胞死を保護する。CDK4/6依存性非血液細胞に、有効で選択的なCDK4/6阻害剤を使用することにより、エトポシドのような、但しこれに限定されないDNA損傷性薬剤からの保護を提供することができることを示す(図5)。この細胞を蒔種し、その24時間後に、投与量を増加させながらこの細胞をCDK4/6阻害剤(PD0332991)で処理した。この処理の16時間後に、これらの細胞サンプルを2.5μMのエトポシドで8時間処理した。培地を除去し、新しい培地と交換した。細胞をこの培地に7日間保持し、製造者の仕様に従ってCellTiter-Glo(R) (Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)を用いて、細胞増殖に対する効果を調べた。照度計でこのプレートを1秒/ウェルで読んだ。結果をMicrosoft Excel(R)で処理し、分析した。投与量を増加させながらCDK4/6阻害剤(PD0332991)で処理した細胞は、エトポシドによって引き起こされる細胞死を保護し、その保護は投与量に依存していた。
【0131】
腎臓は腎障害が起こるまで比較的静止状態である。従って、腎細胞の増殖がCDK4/6活性に依存するかどうかを決定するために、雌FVB wtマウスを、腎毒性化学療法薬剤として公知のシスプラチンで処理して腎細胞の増殖を刺激した。0時間後、マウスの食事と共に1日当たり100mg/kgのPD0332991を与え、又は薬剤なしで食事だけ与えた。24時間後、マウスに、15mg/kgのシスプラチンのIP注射と、100mcgのEdUのIP注射を単回与えた。48時間後、全てのマウスに2度目の100mcgのEdUのIP注射を与えた。72時間後、マウスを安楽死させ、腎臓を回収した。gentleMACS(R)C 組織分離機(Miltinyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を用いて、この腎臓を粉砕し、腎細胞の単一細胞懸濁液を作成した。次に、この単一細胞懸濁液を用いて、フローサイトメトリーによるEdU取り込みの解析を行った。媒体対照にシスプラチンを加えて処理したマウスについては、EdUでラベルされたマウスは約17%であったが、シスプラチンとPD0332991で処理したマウスについてはEdUの取り込みが陽性と染色された細胞は僅かに2%であった(図6)。従って、CDK4/6阻害は、細胞増殖を88%減少させた。このことは、更に、腎細胞の増殖がCDK4/6活性に依存しているというインビトロの解析結果を確認した。
【0132】
DNA損傷時あたりのCDK4/6阻害が腎機能を保護するかどうかを調べるために、マウスを、ヒトの尿細管損傷の原因となる薬剤として公知のシスプラチンで処理した。マウスに、PD0332991 150mg/kg又は媒体対照を経口投与し、続いてシスプラチン 15mg/kgをIP注射した。72時間後、マウスを安楽死させ、心臓から血液を回収し、血液尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニン(SrCr)を分析した。血清BUN及びSrCrは腎機能及び腎臓の機能が急性に悪化すると急に上昇する血清レベルの一般的マーカーである。図7は、シスプラチンの投与後にBUN及びSrCrが急激に増加し、シスプラチンとPD0332991を共に投与すると、シスプラチンにより誘導される腎毒性が緩和されることを示す。
CDK4/6は、腎臓などのある種の非血液組織の細胞増殖に役割を果たしているように見える。従って、腎臓、腸、心臓、肝臓、脳、甲状腺、皮膚、腸粘膜、耳、肺、膀胱、卵巣、子宮、副腎、胆嚢、膵臓、膵島、胃、血管、及び骨にような非血液組織を、放射線や化学療法等のDNA損傷性薬剤又は事象から保護するために、CDK4/6阻害剤を使用することができる。
【0133】
実施例5
CDK4/6阻害によるDNA損傷性薬剤の効果の増強
無傷RBを有する肺小細胞癌(SCLC)細胞株(H417)、又はRB欠失ヒト肺小細胞癌細胞株(H69, H82, H209, H345)の増殖に対するCDK4/6阻害の効果を調べた。細胞をDMSO又はPD0332991 100nMで48時間処理し、細胞数をWST-1アッセイ(細胞呼吸の測定)により調べた。図8を参照されたい。無傷RBを有するSCLC細胞株(H417)においては、細胞増殖は減少したが、4つの全てのRB欠失細胞株(H69, H82, H209, H345)では、CDK4/6阻害により細胞増殖が増加した。
また、基底細胞様乳癌(basal-like breast cancer)のC3-タグトランスジェニックマウスモデルにおける、CDK4/6阻害の効果も調べた。このC3-タグモデルは、シミアンウイルス40初期領域形質転換配列(SV40 ラージT抗原)を発現する組換え遺伝子を含み、これはp53とRbの両方を不活性化する。マウスは、随意に水と餌がとれるような環境で、ケージあたり5匹で飼われた。腫瘍の容積を毎週測定した。腫瘍の容積は、次式で計算した。容積=[(幅)2×長さ]/2 腫瘍の容積が十分な大きさ(50-60mm3)になった後、マウスを腫瘍のサイズにより分類し、研究集団(無処理、標準食事中に毎日PD0332991 100mg/kg、化学療法に加えて媒体対照を週に一度3週間投与、化学療法に加えてPD0332991を週に一度3週間投与)ごとにランダムに割り振った。週に一度3週間の処理の集団において、化学療法をIP注射で投与し、PD0332991又は媒体対照を経口投与した。化学療法は、カルボプラチン 75mg/kgを週に一度3週間投与することから成る。これらの処理を0日目、7日目、14日目に行い、マウスが死ぬまで又は毒性若しくは腫瘍量によって安楽死させるまで、腫瘍の容積を毎週測定した。
【0134】
CDK4/6阻害剤であるPD0332991を毎日投与することは、21日目におけるC3-タグマウスモデルの腫瘍増殖に対して影響は無かったが(図9)、PD0332991 150mg/kgをカルボプラチン 75mg/kgと共に週に一度3週間投与することは、C3-タグマウスモデルの腫瘍応答を増大させる結果になった(図9)。更に、C3-タグマウスの長期追跡調査によれば、偽餌/カルボプラチン投与の集団に比べて、PD0332991/カルボプラチン投与の集団は、腫瘍の進行が遅れた(図10)。これらの結果を総合すると、細胞周期が深刻に混乱した腫瘍の処理において、CDK4/6阻害は、化学療法の効果を増強することができるといえる。
その結果、例えば、CDK2活性が非常に高いレベル(例えば、MYC原型癌遺伝子の増幅の結果)又はRB腫瘍抑制タンパク質の欠如が特徴の癌のような、細胞周期が深刻に混乱したある種の癌の処理において、CDK4/6阻害が、DNA損傷性薬剤の効果を増強することができるということが明らかになった。これらの癌において、CDK4/6阻害剤は癌細胞の薬理学的静止を誘導しないが、その癌のDNA損傷性薬剤に対する感応性を増加させ、その結果腫瘍を殺す。CDK4/6阻害剤による処理は、同時に、DNA損傷性薬剤の宿主における血液毒性を(他の細胞に静止を誘導することにより)防止する。このRB-ヌル又はMYC増幅癌の腫瘍殺傷の増加は、宿主の毒性低下を伴う、このような癌の治療の許容幅を拡大し、このような腫瘍をより簡単に、かつ患者に対して低毒性で、治療することを可能にする。
【0135】
Her2増幅乳癌のような腫瘍タイプのサブセットは、CDK4/6阻害に対して感応性であることが予想され、従って、化学療法とCDK4/6阻害を共に投与することが、腫瘍からの保護になることは確実である。しかし、ほとんどの癌は、増殖キナーゼを無差別に使用していることが明らかになっている(例えば、CDK1/2/4又は6)。従って、ほとんどの癌においてCDK4/6のみの阻害は腫瘍増殖に影響を及ぼさず、CDK4/6阻害は、これらのタイプの腫瘍において、化学療法の効果に負の影響を与えることは無い。実際、上記のように、選択的低分子阻害剤を用いたCDK4/6阻害は、CDK4/6依存性ではない腫瘍における化学療法の効果を増大することが予想される。当業者は理解されるであろうが、このような腫瘍は、腫瘍タイプと分子遺伝学に基づいて推理され、例えば、CDK1又はCDK2の活性の増大、網膜芽細胞腫抑制タンパク質(RB)の欠失又は不存在、高レベルのMYC発現、サイクリンEの増大、及びサイクリンAの増大から成る群から選択される少なくとも1つの、但しこれらに限定されない、特徴を示す癌でありうる。このような癌としては、肺小細胞癌、網膜芽腫、子宮頸癌、及びある種の頭頚部癌のようなHPV陽性悪性腫瘍、Burkittsリンパ腫のようなMYC増幅腫瘍、及びトリプルネガティブ乳癌;ある種の肉腫、ある種の非肺小細胞癌、ある種のメラノーマ、ある種の膵臓癌、ある種の白血病、ある種のリンパ腫、ある種の脳腫瘍、ある種の大腸癌、ある種の前立腺癌、ある種の卵巣癌、ある種の子宮癌、ある種の甲状腺及び他の内分泌組織癌、ある種の唾腺癌、ある種の胸腺腫、ある種の腎臓癌、ある種の膀胱癌、及びある種の睾丸癌が含まれる、がこれらに制限されない。
【0136】
制限されない例として、この癌は、肺小細胞癌、網膜芽腫、及びトリプルネガティブ(ER/PR/Her2陰性)又は基底膜細胞型(basal-like)乳癌から選択される。肺小細胞癌及び網膜芽腫は、殆ど常に、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)を不活性化しており、従って、増殖のためにCDK4/6活性を要求しない。従って、CDK4/6阻害剤処理は、骨髄及び他の正常宿主の薬理学的静止(PQ)に影響するであろうが、腫瘍の薬理学的静止(PQ)には影響しないであろう。トリプルネガティブ(基底膜細胞型)乳癌もまた、殆ど常に、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)-ヌルである。また、ある種のウィルス誘発性癌(例えば、子宮頸癌、及び頭頚部癌の一部)はウィルスタンパク質(E7)を発現し、これは網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)を不活性化しこれらの腫瘍を機能的にRB-ヌルにする。幾つかの肺癌はまた、HPVにより引き起こされると信じられている。当業者に理解されるように、CDK4/6阻害剤により影響を受けないと予想される癌(例えば、RB-ヌルの癌、ウィルスタンパク質E7を発現する癌、又はMYCを過剰発現する癌)は、DNA解析、免疫染色、Westernブロット解析、及び遺伝子発現プロファイリングを含む、がこれらに制限されない、方法により決定される。
【0137】
実施例6
CDK4/6阻害によるT細胞増殖の阻害
急な薬理学的CDK4/6阻害は、リンパ球の増殖を抑制し、最も顕著には、マウスにおける記憶T細胞の恒常的増殖と胚中心の形成を抑制する。CDK4/6阻害が記憶細胞の生成と維持に影響を与えるかどうかを調べるために、マウスを選択的CDK4/6阻害剤PD0332991又は非関連の選択的CDK4/6阻害剤2BrICで処理した。2BrICはOTAVA Chemicals (Kiev, Ukraine)により合成されたものを用いた。2BrICはZhu et al., J. Med. Chem. 46, 2027-2030 (2003)に記載された方法で合成することができる。PD0332991又は2BrICによる急な薬理学的CDK4/6阻害は、ヒトとマウスの細胞の両方におけるBrdUの取り込みとKi67発現を調べたところ、ナイーブT細胞よりも記憶T細胞の恒常的増殖を抑制した。図11、17、18及び21を参照されたい。図11Aは、CD4+及びCD8+マウスT細胞のインビボのBrdUの取り込みに対するPD0332991の影響を示し、最も大きな影響がCD44+CD25+記憶細胞で観察された(図11Bはこれを定量化したものである。)。非刺激の脾T細胞について、Ki67発現を調べたところ、インビボの恒常的増殖に対して同様の効果が認められた(図21)。またCDK4/6活性の減少は、記憶B細胞の生成に関係する胚中心の形成をも抑制した。図11Cを参照されたい。これらのデータは、CDK4/6が記憶細胞のホメオスタシスにおいて一定の役割を持っていることを明らかにした。
【0138】
ヒトのリンパ球についても同様の結果が得られた。図12に、ヒト細胞において同様の問題点を特定するための実験スキームを示す。ヒトリンパ球を、T(CD3+)細胞とB(CD19+)細胞に選別し、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理し、その後、PMA及びイノマイシン(inomycin)(P+I)+OKT3(T細胞)又はIgM(B細胞)で刺激し、BrdUの取り込みとKi67の発現で増殖を評価し、CD25の発現で活性化を評価した。図13は、マウス細胞において観察されたように、CDK4/6阻害剤は、T細胞受容体(TCR)刺激(P+I)に応答する増殖を妨害し、これは低CD24RA記憶細胞においてより高い効果を示した。これらのデータを図14にグラフ化した。図15において、TCRの有り及び無しの、特定のT細胞部分に対する効果を評価した。その結果、CDK4/6阻害が、ナイーブ細胞に比べて、記憶細胞の増殖に対してより大きな効果があることを示している。同様の効果が、CD8+細胞にも観察された。図16は図15と同様のデータを示す。但し、増殖のマーカーとして、BrdUではなく、Ki67を使用している。これらの増殖に対する効果は、CD4+(図17A、17B及び17C)及びCD8+(図18)の相対的割合を変える。CDK4/6阻害剤は、ナイーブ細胞よりも、CD4+エフェクター記憶細胞の割合を遥かに減少させる。図17A及び17Cを参照されたい。同様の結果が、CD8+細胞にも観察された。これらの増殖に対する効果の結果、記憶細胞/ナイーブ細胞の比率は、CD4+細胞及びCD8+細胞の両方において、半分に減少した。図17B及び20を参照されたい。これらの増殖の変化は、CD25の発現により測定される、T細胞の活性化の減少を伴う。図19を参照されたい。
このT細胞の増殖を阻害する能力は、自己免疫疾患又はアレルギー症の治療に使用することができる。現在これらの症状は顕著に有害な種々の細胞毒性薬剤やステロイド剤を用いて治療されている。記憶T細胞は、既往免疫応答を弱めるために目標とすることが難しく、この細胞の増殖を減らすためにCDK4/6阻害剤を使用することは、己免疫疾患又はアレルギー症の治療に特に有用である。
【0139】
リンパ球分化
異なる段階(二重陰性(DN):CD4-CD8-、二重陽性(DP):CD4+CD8+、一重陽性(SP):CD4+又はCD8+)におけるリンパ球の割合と絶対数を蛍光活性化セルソーター(FACS)で調べて、リンパ球の展開に対するCDK4/6阻害の影響を評価した。二重陰性(CD4-CD8-)細胞は、二重陽性(CD4+CD8+)細胞に変化し、更に、一重陽性(CD4+又はCD8+)細胞に変化する。過渡的なCDK4/6阻害により、二重陽性(CD4+CD8+)細胞と一重陽性(CD4+又はCD8+)細胞は顕著に減少し、二重陰性(CD4-CD8-)細胞は、やや減少した。この結果は、新規ナイーブ細胞の生成のためのチモポイエシス(thymopoiesis)の間、CDK4/6の活性化が必要であることを示している。図23を参照されたい。
【0140】
実施例7
CDK4/6阻害によるB細胞増殖の阻害
図11のように、野生型マウスの集団を媒体(vehicle)又はCDK4/6阻害剤で処理した。リンパ節の胚中心をKi67で染色したところ、CDK4/6阻害により増殖が顕著に減少した。同様の結果が、脾臓CD45R+B細胞でも観察された。図21を参照されたい。刺激されていないマウスを、PD0332991で24時間処理し、適度な選択の後、恒常的B細胞増殖をKi67で染色した。恒常的B細胞増殖を調べるためにBrdUの取り込みも調べたが、同様の結果であった(図22)。ヒト細胞のB細胞受容体(BCR)刺激により、図12で記載したのと同様の実験を試みた。図20は、CDK4/6阻害がP+IによるB細胞の刺激を阻害することを示す。これらの結果は、マウスにおいてもヒトにおいても、恒常的な胚中心とB細胞受容体(BCR)誘導のB細胞増殖にはCDK4/6活性が必要であることを示している。
【0141】
実施例8
CDK4/6阻害による自己免疫疾患の進展の抑制
NOD(自発性自己免疫疾患)及びLyn-/-(ループス(lupus)状自己免疫疾患)マウスを含む数ラインの自己免疫疾患マウスモデルを作成した(Anderson and Bluestone, Annual Review of Immunology 23, 447-485 (2005)及びHibbs et al., Cell 83, 301-311 (1995)を参照されたい)。若いマウス(生後約6-8週)と老マウス(生後30週以上)の両方の集団を、偽薬又はCDK4/6阻害剤で一定期間処理し、自己免疫疾患の表現型を調べた。

ここに開示した発明の種々の詳細な点を、本発明の範囲から外れることなしに、変更することが可能であることは理解されよう。更に、以上の記載は、本発明を例証するためであって、本発明を制限することを目的としたものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者における毒性低下剤の効力を増大させる方法であって、
(a)DNA損傷性薬剤又は事象に曝露された、これから曝露される、又は曝露される虞のある患者を提供する段階、
(b)この患者に毒性低下剤を投与する段階、及び
(c)この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階
から成る方法。
【請求項2】
前記毒性低下剤が化学療法毒性低下剤である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記毒性低下剤が放射線毒性低下剤である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記毒性低下剤が、増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ペグ化されたG-CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポイエチン、エリスロポイエチン、ペグ化されたエリスロポイエチン、インターロイキン(IL)−12、スティール因子、ケラチン合成細胞増殖因子、又はこれらの誘導体から成る群から選択される少なくとも1種から成る請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、前記患者の少なくとも一つの細胞の薬理学的静止を誘導する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一つの細胞が、血液細胞、血液幹細胞及び血液前駆細胞から成る群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前に、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されていると同時に、又は患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後で、患者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後24〜48時間の間に患者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
治療を必要とする患者の非血液細胞又は組織がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前又は後に、治療を必要とする患者の非血液細胞又は組織におけるDNA損傷を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法。
【請求項10】
前記非血液細胞又は組織が、腎臓、腸、心臓、肝臓、脳、甲状腺、皮膚、腸粘膜、耳、肺、膀胱、卵巣、子宮、副腎、胆嚢、膵臓、膵島、胃、血管、骨、及びこれらの組合せから成る群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
治療を必要とする患者の記憶T細胞の増殖を減少させる又は阻害する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法。
【請求項12】
前記患者が、自己免疫疾患又はアレルギー症に罹患している又はその虞のある患者である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記自己免疫疾患又はアレルギー症が、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫性関節炎、強皮症、溶血性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性顆粒球減少症、タイプ1糖尿病、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性結腸炎、接触性皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、ブドウ膜炎、免疫性肺臓炎、自己免疫性肝炎、免疫性腎炎、免疫性糸球体腎炎、多発性硬化症、自己免疫性虚血性神経症、白斑、円板状エリテマトーデス、ウェゲネル肉芽腫症、ヘーノホ‐シェーンライン紫斑病、硬化性胆管炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性脈管炎、皮膚筋炎、外因性及び内因性の反応性気管支病(喘息)、重症筋無力症、自己免疫性卵巣機能不全、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性上皮小体機能減退症、及びその他の不適当な細胞免疫応答の症候群から成る群から選択される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
治療を必要とする患者のB細胞前駆体の増殖を減少させる又は阻害する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法。
【請求項15】
前記患者が、自己免疫疾患又はアレルギー症に罹患している又はその虞のある患者である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記自己免疫疾患又はアレルギー症が、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、強皮症、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血友病の後天性阻害、グッドパスチュア症候群、寒冷及び温暖凝集素症、クリオグロブリン血症、及びその他の不適当な抗体産生の症候群から成る群から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
治療を必要とする患者の自己免疫疾患又はアレルギー症を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成り、この化合物が、記憶T細胞の増殖、B細胞前駆体の増殖、又は記憶T細胞とB細胞前駆体の両方の増殖を減少させる又は阻害する方法。
【請求項18】
前記自己免疫疾患又はアレルギー症が、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ(RA)、自己免疫性関節炎、強皮症、溶血性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性顆粒球減少症、タイプ1糖尿病、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性結腸炎、接触性皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、ブドウ膜炎、免疫性肺臓炎、自己免疫性肝炎、免疫性腎炎、免疫性糸球体腎炎、多発性硬化症、自己免疫性虚血性神経症、白斑、円板状エリテマトーデス、ウェゲネル肉芽腫症、ヘーノホ‐シェーンライン紫斑病、硬化性胆管炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性脈管炎、皮膚筋炎、外因性及び内因性の反応性気管支病(喘息)、重症筋無力症、自己免疫性卵巣機能不全、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性上皮小体機能減退症、その他の不適当な細胞免疫応答の症候群、グッドパスチュア症候群、寒冷及び温暖凝集素症、クリオグロブリン血症、及びその他の不適当な抗体産生の症候群から成る群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
治療を必要とする患者の癌を治療する方法であって、この癌が、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)活性のレベルが増加すること、又は網膜芽細胞腫の腫瘍抑制タンパク質若しくは網膜芽細胞腫ファミリーに属するタンパク質の発現が抑制されることを特徴とするものであって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法。
【請求項20】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、癌細胞の薬理学的静止を誘導しない請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、癌細胞のDNA損傷性薬剤に対する感応性を増加させる請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記選択性の増加が、癌細胞の死を増加させる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記CDK2活性のレベルが増加することが、MYC癌原遺伝子の増幅又は過剰発現を伴う請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記CDK2活性のレベルが増加することが、サイクリンE1、サイクリンE2又はサイクリンAの過剰発現を伴う請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与することが、DNA損傷性薬剤又は事象に曝露されることに伴う血液毒性を軽減させる請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露される前に、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露されていると同時に、又は患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後で、患者に投与される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が、患者がDNA損傷性薬剤又は事象に曝露された後24〜48時間の間に患者に投与される請求項25に記載の方法。
【請求項28】
患者の血液臓器又は非血液臓器において、化学療法又は放射線療法によってひき起こされた2次的悪性腫瘍を軽減する方法であって、この患者に、薬学的有効量の、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物を投与する段階から成る方法。
【請求項29】
1次的悪性腫瘍を治療するために患者が化学療法又は放射線療法を受ける前、又は受けると同時に、前記サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害する化合物が患者に投与される請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2012−526850(P2012−526850A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511031(P2012−511031)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/034816
【国際公開番号】WO2010/132725
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】