サイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性測定方法
【課題】試料中のサイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質またはその部分ペプチドに対するリン酸化酵素活性の測定方法を提供する。
【解決手段】サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されるRBタンパク質のリン酸化を、リン酸化状態を識別しうる抗体によって免疫学的な手法により評価し、RBタンパク質に対するサイクリン/CDK複合体のリン酸化活性を測定する方法、およびサイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性を測定する方法を提供する。この測定方法を応用し、これらの酵素活性を調整する化合物のスクリーニングが可能。
【解決手段】サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されるRBタンパク質のリン酸化を、リン酸化状態を識別しうる抗体によって免疫学的な手法により評価し、RBタンパク質に対するサイクリン/CDK複合体のリン酸化活性を測定する方法、およびサイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性を測定する方法を提供する。この測定方法を応用し、これらの酵素活性を調整する化合物のスクリーニングが可能。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性、あるいは脱リン酸化酵素活性の測定方法、サイクリン/CDK複合体の阻害剤もしくは促進剤のスクリーニング方法、並びにそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は増殖する際に、そのゲノムDNAを複製し、娘細胞へ均等に分配した後分裂するという過程を周期的に繰り返す。このような周期は細胞周期と呼ばれている。細胞周期はG1期(DNA合成準備期)、S期(DNA合成期)、G2期(分裂準備期)、M期(分裂期)に分けることができ、各段階を順番に経て細胞は分裂する。細胞周期の進行は数多くの分子により精緻な調節を受け、不必要な細胞の増殖を制御している。これまでに細胞周期の進行に関与する分子のクローニングや機能解析が数多く行われ、多くの癌においてこれらの細胞周期の進行に関する分子の異常が報告され、それが発癌の原因となっていると考えられている。
【0003】
たとえば、G1期からS期への進行に際しては、RBタンパク質(retinoblastoma protein)のリン酸化が重要であることが明らかにされている。RBタンパク質は非リン酸化型において、E2F/DPと結合し、不活性状態におくことでS期への進行を抑制している。E2F/DPは、S期の進行に必要なジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)やDNAポリメラーゼなどの遺伝子の発現を誘導する転写因子である。サイクリンD/CDK4、サイクリンD/CDK6、あるいはサイクリンE/CDK2の作用によってリン酸化されたRBタンパク質は、E2F/DPを遊離する。ここでCDK(サイクリン依存性キナーゼ;Cyclin-dependent kinase)は、サイクリンと複合体を形成することによってリン酸化活性を発現する酵素タンパク質である。すなわち、G1期からS期への進行はRBのリン酸化によって調節されている(実験医学別冊・BioScience用語ライブラリー「細胞周期」,p62-93,1995,羊土社発行(非特許文献1))。
【0004】
多くの癌症例において、RBタンパク質リン酸化の調節がうまく機能していないことが示され、このことが、不必要なS期への進行、すなわち細胞増殖を促進し、結果的に発癌に関与するものと考えられている。たとえば、サイクリン/CDK複合体の阻害因子であるp21の転写誘導に働くp53機能異常(欠失、点突然変異)は様々な腫瘍において高頻度に認められる。このような症例においてはp21が正常に産生されないために、サイクリン/CDK複合体によるRBタンパク質のリン酸化が異常に亢進され、結果的に発癌につながるのではないかと考えられる。また、p15、p16といったサイクリン/CDK複合体の阻害因子の欠損が、多くの腫瘍で報告されている。この場合も、RBタンパク質のサイクリン/CDK複合体による異常なリン酸化が癌化の要因となっているものと考えられる。さらに、サイクリンD1の発現亢進も、同様な理由で、発癌に関わっているものと考えられている。
【0005】
このような背景からサイクリン/CDK複合体は抗癌剤開発の標的分子となっており、サイクリン/CDK複合体活性を調整する化合物のスクリーニングシステムを開発することは有用である。このようなスクリーニングには現状ではラジオアイソトープ(以下RIと省略する)標識化合物を用いた方法が一般的である。しかしRIの使用には、常に危険性や廃棄の問題が伴うことから、非RI標識によって実施することができるシステムが望まれていた。
【0006】
他方、リン酸化酵素活性の簡便な測定方法として、PKAやPKCの活性測定方法が実用化されている。この方法は、PSペプチドと呼ばれる合成ペプチドを基質として用い、その酵素的なリン酸化を、リン酸化されたPSペプチドを認識する抗体によって検出することによって、リン酸化酵素活性を測定している(T.Yano et al.Peptide Chemistry A.Suzuki(Ed): 293-298,1991(非特許文献2))。しかしこの方法において基質ペプチドとなるPSペプチドは、RBタンパク質のリン酸化酵素であるサイクリン/CDK複合体の基質とならない。更に、この方法で用いられているリン酸化の程度を検出するための抗体は、リン酸化されたRBタンパク質を認識するものではないためRBタンパク質のリン酸化酵素活性の測定には利用することができない。リン酸化RBタンパク質を認識する抗体は公知であるが、これらの抗体を用いてRBタンパク質のリン酸化酵素活性が測定可能なことは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】実験医学別冊・BioScience用語ライブラリー「細胞周期」,p62-93,1995,羊土社発行
【非特許文献2】T.Yano et al.Peptide Chemistry A.Suzuki(Ed): 293-298,1991
【発明の概要】
【0008】
本発明は、RBタンパク質をリン酸化する酵素であるサイクリン/CDK複合体の活性測定方法、あるいはこれらのリン酸化酵素の作用によってリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化活性の測定方法の提供を課題とする。また、本発明は、サイクリン/CDKのリン酸化活性を制御することができる化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。また本発明は、RBタンパク質を基質としたサイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性を制御することができる化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。更に本発明は、単にこれらのリン酸化酵素活性を測定することのみならず、複数のサイクリン/CDK複合体が共存する試料におけるサイクリン/CDK複合体のリン酸化活性を個別に把握することができる測定方法の提供を課題とする。本発明は、これらの活性測定方法、あるいはスクリーニング方法として、RI標識化合物の使用を避けることができる新たなシステムの提供を課題とする。加えて本発明は、これら測定方法やスクリーニング方法のためのキットの提供を課題とする。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化される基質としてRBタンパク質を用い、RBタンパク質のリン酸化のレベルの変化を、免疫学的に測定することによって、サイクリン/CDK複合体のリン酸化活性の把握が可能なのではないかと考えた。RBタンパク質は先に述べたとおり発癌との関連性が多く報告されていることから、基質タンパク質として好適である。本発明者らは、RBタンパク質の被リン酸化部位の中でも、特に356位のスレオニン残基、612位のセリン残基、780位のセリン残基、あるいは807位のスレオニン残基等におけるリン酸化状態が、サイクリン/CDK複合体のリン酸化活性の評価に特に有用であると考えた。そして、これらの被リン酸化部位のリン酸化状態を識別しうる抗体を利用することにより、簡便に基質のリン酸化レベルの評価が可能であることを見出した。さらに、本発明者らはこれらの抗体を利用することにより、酵素活性によるRBタンパク質のリン酸化や脱リン酸化を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニングが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下のサイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性測定方法、脱リン酸化酵素活性測定方法、ならびにこれらの測定方法に基づくサイクリン/CDK複合体の、リン酸化酵素や脱リン酸化酵素の活性を調整する化合物のスクリーニング方法に関する。
〔1〕次の工程を含む、試料中のサイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質またはその部分ペプチドに対するリン酸化酵素活性の測定方法。
(a)RBタンパク質基質と試料とを、リン酸化酵素によるリン酸化反応に必要な条件下で接触させる工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
〔2〕以下の工程を含む、サイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質に対するリン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)サイクリン/CDK複合体、およびRBタンパク質基質とを、被検化合物の存在下、リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の非存在下における基質のリン酸化のレベルと比較して、基質のリン酸化のレベルの変化を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程
〔3〕以下の工程を含む、試料中のリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性の測定方法であって、前記リン酸化されたRBタンパク質が、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたものである方法。
(a)リン酸化されたRBタンパク質基質と試料とを、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
〔4〕以下の工程を含む、リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)前記リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素、およびリン酸化されたRBタンパク質基質を、被検化合物の存在下、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質の脱リン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の被存在下における基質の脱リン酸化のレベルと比較して、基質の脱リン酸化レベルの変化を低下もしくは増加させる化合物を選択する工程
〔5〕サイクリンが、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、およびサイクリンEで構成される群から選択されるいずれかのサイクリンである、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6〕CDKが、CDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6で構成される群から選択されるいずれかのCDKである、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔7〕サイクリン/CDK複合体が、以下の群から選択されるいずれかの組み合わせからなる〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
サイクリンA/CDK1、
サイクリンA/CDK2、
サイクリンB/CDK1、
サイクリンD1/CDK4、
サイクリンD1/CDK6、
サイクリンD2/CDK4、
サイクリンD2/CDK6、
サイクリンD3/CDK4、
サイクリンD3/CDK6、および
サイクリンE/CDK2
〔8〕リン酸化酵素がサイクリンD1/CDK4であり、抗体がRBタンパク質の780位セリンのリン酸化状態を識別しうるものである〔7〕に記載の方法。
〔9〕リン酸化状態を識別することができる抗体が、そのリン酸化部位を識別しうるものであり、異なる部位をリン酸化する複数のサイクリン/CDK複合体が共存する試料に含まれるサイクリン/CDK複合体の活性を個別に測定する〔1〕に記載の方法。
〔10〕抗体が、リン酸化されていないRBタンパク質基質よりも、リン酸化されたRBタンパク質基質との反応性が高いものである〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕抗体が、リン酸化されたRBタンパク質基質よりも、リン酸化されていないRBタンパク質基質との反応性が高いものである〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕RBタンパク質基質が標識されている、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕RBタンパク質基質が固相化されている、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕抗体が標識されている、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔15〕RBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価をELISA法により行う、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕〔2〕に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素の活性調整剤。
〔17〕〔4〕に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化されたタンパク質に対する脱リン酸化酵素の活性調整剤。
〔18〕天然由来である、〔16〕または〔17〕のいずれかに記載の活性調整剤。
〔19〕RBタンパク質、またはヒト以外の種におけるそのホモログの被リン酸化部位を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法に用いるための抗体作成用免疫原。
〔20〕被リン酸化部位がリン酸化されている〔19〕に記載の免疫原。
〔21〕被リン酸化部位が、ヒトRBタンパク質における356位のスレオニン、612位のセリン、780位のセリン、および807位のスレオニンからなる群から選択される少なくとも1つである〔19〕または〔20〕のいずれかに記載の免疫原。
〔22〕被リン酸化部位が、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、および配列番号:8のいずれかからなるアミノ酸配列から選択される〔21〕に記載の免疫原。
〔23〕RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別する抗体を含む、〔1〕−〔4〕に記載のいずれかの方法のためのキット。
【0011】
なお、本発明において「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合により結合した化合物を指し、その鎖長は問わない。従って、タンパク質もまた本発明における「ペプチド」に含まれる。
【0012】
本発明で測定の対象としているサイクリン/CDK複合体を構成するサイクリンとしては、たとえばサイクリンA、サイクリンB、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、およびサイクリンEが知られている。一方CDKには、たとえばCDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6が公知である。これらのタンパク質を構成するアミノ酸配列や、それをコードするDNAの塩基配列も明らかにされている。サイクリンとCDKの組み合わせとしては、たとえば次の組み合わせが報告されている。しかし、本発明のサイクリン/CDK複合体は、これらの公知の組み合わせに限定されない。
サイクリンA/CDK1、
サイクリンA/CDK2、
サイクリンB/CDK1、
サイクリンD1/CDK4、
サイクリンD1/CDK6、
サイクリンD2/CDK4、
サイクリンD2/CDK6、
サイクリンD3/CDK4、
サイクリンD3/CDK6、および
サイクリンE/CDK2
【0013】
複合体を構成するサイクリンとCDKは、ヒト組織に由来する天然の酵素の他、それをコードする遺伝子を適当な発現系で発現させることによって得ることができる組み換え体であっても良い。また、酵素の由来は、ヒトに限定されずに、他の脊椎動物や、微生物におけるホモログであることができる。更に、天然の酵素タンパク質と同一のアミノ酸配列を持つ酵素のみならず、その酵素活性の発現を支える領域(キナーゼ領域)のみで構成される変異体、あるいはこの領域を他のタンパク質と融合させた融合タンパク質等、本質的に同じ酵素活性を持つ酵素タンパク質は、いずれも本発明によるリン酸化酵素活性の測定方法の対象とすることができる。
【0014】
本発明は、第一にサイクリン/CDK複合体によってリン酸化されるRBタンパク質基質に特異的に結合する抗体を利用した、サイクリン/CDK複合体のリン酸化活性の測定方法に関する。より具体的には、次の工程(a)および(b)を含む測定方法である。
(a)RBタンパク質基質と試料とを、リン酸化酵素によるリン酸化反応に必要な条件下で接触させる工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【0015】
本発明において、RBタンパク質基質とは、ヒトRBタンパク質、他の種におけるRBタンパク質のホモログ、並びにこれらのタンパク質の少なくとも被リン酸化部位を含む部分ペプチドを意味する。更に被リン酸化部位とは、少なくともリン酸化されるアミノ酸の前後1アミノ酸を含む3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を言う。基質となるRBタンパク質やそのホモログは、天然のもの、遺伝子組換え技術を利用して調製されたもの、合成ペプチドのいずれであることもできる。RBタンパク質(Nature 329,6140,642-645,1987; GenBank Acc.No. M28419)やそのホモログであるp107(Cell 66,1155-1164, 1991; Genes Dev. 7/7A,1111-1125,1993;GenBank Acc.No. L14812)やp130(Genes Dev.7/12A,2366-2377,1993; GenBank Acc.No. X76061)の構造は公知であり、それをコードするDNAの塩基配列も明らかにされている。ペプチドの精製を容易にする目的で他のペプチド(例えば、グルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ)と融合されていてもよい。RBタンパク質基質は、予想される酵素活性に対して十分な量で使用する。例えばある基質濃度でリン酸化反応を行ったときに、基質の大部分がリン酸化されるような場合は、基質が不足する心配がある。このようなケースでは、基質濃度を高める、あるいは試料の希釈等によって、基質のリン酸化酵素活性に対する相対濃度を上げることが望まれる。
【0016】
RBタンパク質基質として、RBタンパク質やそのホモログの被リン酸化領域を含む部分アミノ酸配列で構成されるペプチド断片を利用することもできる。たとえばヒトRBタンパク質のアミノ酸配列から選択した、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、あるいは配列番号:8として示したアミノ酸配列のいずれかを含むペプチドは、RBタンパク質基質として利用することができる。また、これらのペプチドの被リン酸化部位がリン酸化されたペプチドは、本発明におけるリン酸化ペプチドとして利用することができる。
【0017】
本発明においてRBタンパク質基質は、サイクリン/CDK複合体によるリン酸化が可能な条件下で試料と接触させられる。リン酸化が可能な条件とは、目的とするサイクリン/CDK複合体の活性の維持に必要なpHを与える反応媒体中で、RBタンパク質基質とともに反応に必要な成分の存在下、適切な反応温度でインキュベートすることを意味する。反応に必要な成分としては、リン酸化反応に必要なリン酸基を供給する基質、リン酸化反応物を保護する目的で添加するフォスファターゼ阻害剤等が挙げられる。リン酸基を供給する基質には、一般にアデノシン3リン酸(以下ATPと省略する)等が用いられ、フォスファターゼ阻害剤としてはβ‐グリセロリン酸等が用いられる。本発明において用いられるリン酸化反応のための緩衝液として、次の組成からなるサイクリン/CDK用反応バッファーを示すことができる。
サイクリン/CDK用反応バッファー:
50mM HEPES
15mM MgCl2
1mM DTT
0.02% Triton X
1mM EGTA
5mM ATP
【0018】
本発明では、リン酸化されたRBタンパク質基質は、そのリン酸化状態を識別することができる抗体との免疫学的な反応によって、リン酸化のレベルが評価される。本発明において、リン酸化のレベルとは、RBタンパク質基質に占めるリン酸化RBタンパク質基質の割合のみならず、RBタンパク質基質上のリン酸化の程度を意味する用語として用いる。したがって、たとえばRBタンパク質基質のリン酸化レベルの上昇とは、リン酸化された基質の割合が増大する状態、あるいは基質上のリン酸化部位が増大する状態のいずれをも意味する。
【0019】
本発明に用いるリン酸化状態を識別しうる抗体とは、リン酸化の有無によりRBタンパク質基質との反応性が変化する抗体を意味する。具体的には、リン酸化されたRBタンパク質基質に対する反応性が、リン酸化されていない状態に対する反応性よりも大きい(または小さい)抗体を示すことができる。RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別しうる抗体は公知である。同様の抗体は、当業者に公知の方法(例えば、細胞工学 別冊 抗ペプチド抗体実験プロトコール 1994年 秀潤社、B.M.Turner and G.Fellows,Eur.J.Biochem.179,131-139,1989、S.Muller et al.Molecular Immunology Vol 24,779-789,1987、Pfeffer,U.,Ferrari,N.and Vidali,G.J.Bio.Chem.261,2496-2498,1986)により調製することができる。抗体としては、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。
【0020】
たとえばリン酸化RBタンパク質基質特異的なポリクローナル抗体は、リン酸化ペプチドで免疫することによって得た抗血清から、非リン酸化ペプチドカラム(非特異反応抗体吸収用カラム)やリン酸化ペプチドカラム(特異抗体精製用カラム)を用いて精製することが可能である。あるいはリン酸化ペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞から樹立したハイブリドーマから、特異抗体を産生するものをスクリーニングすることによって、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをクローニングすることができる。スクリーニングは、培養上清の非リン酸化ペプチドやリン酸化ペプチドに対する反応性をELISA法により調べ、リン酸化ペプチドに対して反応性の高いクローンを選択することにより行う。クローニングされたハイブリドーマを培養すれば、必要なモノクローナル抗体を培養上清や腹水から精製することができる。
【0021】
本発明で用いる抗体を作製するための免疫原は、ヒトRBタンパク質の被リン酸化部位を構成するアミノ酸配列を含むペプチドを用いて作成することができる。したがって、たとえば配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、あるいは配列番号:8として示したようなヒトRBタンパク質の被リン酸化部位を持つ部分アミノ酸配列を含む領域を選択することにより、本発明の免疫原とすることができる。被リン酸化部位とは、少なくともリン酸化されるアミノ酸の前後1アミノ酸を含む3アミノ酸残基からなる。なお本発明の免疫原を構成するペプチドのアミノ酸配列は、ヒトRBタンパク質に限定されない。すなわち、他の種におけるRBタンパク質のホモログを構成するアミノ酸配列から、前記被リン酸化部位を構成するアミノ酸配列を含む領域を選択し本発明の免疫原とすることができる。RBタンパク質のホモログとしては、p107やp130が公知である。これらのホモログのアミノ酸配列に基づいて調製された免疫原によって、ヒトのRBタンパク質のリン酸化を識別することができる抗体を得ることができる。
【0022】
免疫原に用いるペプチドの被リン酸化部位におけるリン酸化の有無により、抗体の反応性が左右される。すなわち、リン酸化したペプチドを用いれば、リン酸化RBに対する反応性が高い抗体が、逆にリン酸化されていなければ非リン酸化RBタンパク質に対する反応性が高い抗体を得ることができる。免疫原を構成するペプチドは、たとえば化学的に合成されたものや、遺伝子組み換え体、あるいは天然のRBタンパク質やそのホモログ、並びにそれらの断片として得ることができる。これらのペプチドを目的とする部位において特異的にリン酸化する方法も公知である。ペプチドは、キャリアータンパク質と共有結合させることで免疫原性を高めることができる。キャリアータンパク質には、一般にキーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin)等が利用される。キャリアータンパク質との共有結合のための架橋物質としてはm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステルが利用できる。このようにして得られた免疫原には、さらに公知のアジュバントを配合することができる。
【0023】
本発明の望ましい実施態様においては、単にリン酸化状態を識別しうるのみならず、RBタンパク質基質の被リン酸化部位の周囲を含めた構造の相違を認識することができる抗体に基づいた測定方法が提供される。サイクリン/CDK複合体は必ずしもRBタンパク質基質の同じ部分をリン酸化するわけではない。たとえば、サイクリンD1/CDK4は、RBタンパク質の780位のセリン残基、795位のセリン残基、811位のスレオニン残基を中心にとしてリン酸化が進行する。一方、サイクリンB/CDK2は、主たるリン酸化部位は356位のスレオニン残基、821位のスレオニン残基である。両者の特異性を表1にまとめた。なお本発明においては、アミノ酸を示すコード(1文字または3文字)の後に、RBタンパク質におけるN末端から数えたそのアミノ酸残基の位置を表示することによりアミノ酸を特定する。たとえば、S780は、780位のセリンを意味する。
【0024】
【表1】
【0025】
したがって、たとえば780位セリンのリン酸化状態を識別しうる抗体を利用すれば、サイクリンD1/CDK4複合体のリン酸化酵素活性を特異的に測定することができる。このように、被リン酸化部位を特異的に認識する抗体を利用することによって、サイクリンD1/CDK4によるリン酸化と、サイクリンB/CDK2によるリン酸化とを区別して評価することができる。すなわち本発明は、複数のサイクリン/CDK複合体が共存する可能性のある試料を用い、個々のリン酸化活性を独立して把握することができる測定方法を提供する。
【0026】
RBタンパク質基質と抗体との反応は、公知のイムノアッセイの原理を利用して検出することができる。一般的には、RBタンパク質基質と抗体のいずれかを固相化した状態で用いることにより、未反応成分との分離を容易に行うことができる。タンパク質やペプチド、あるいは抗体を固相化する方法は公知である。たとえばRBタンパク質基質や抗体は、化学結合や物理吸着によって固相に直接固定できる。またRBタンパク質基質をビオチン化しておけば、ストレプトアビジンを感作した固相に捕捉し間接的に固相化することができる。一般的に、RBタンパク質基質を固定化する場合には、タンパク質の担体への吸着が飽和する条件で行われる。この場合、ビオチン化したRBタンパク質基質の固相化は、試料との接触前、接触後、あるいは接触と同時等、任意のタイミングで行うことができる。更に、互いに親和性を有する組み合わせであれば、アビジン−ビオチン系以外でも本発明に適用することができる。たとえば、RBタンパク質基質を適当な抗原性物質との接合体としておき、この抗原性物質に対する抗体を感作した固相を利用してRBタンパク質基質の捕捉が可能である。
【0027】
本発明において、RBタンパク質基質や抗体を固定化するための固相としては、反応容器の内壁、粒子状担体、あるいはビーズ状担体など、一般的に固相として利用されているものを利用することができる。その素材についても、一般にタンパク質の物理吸着や化学結合に利用されているものを利用することができる。具体的には、ポリスチレン製のマイクロタイタープレート等が利用される。
【0028】
本発明において、リン酸化のレベルの変化をイムノアッセイの原理に基づいて評価するとき、RBタンパク質基質と抗体とは、そのいずれかを標識しておくことにより、簡便な操作を実現できる。標識としては、検出可能な感度を有すれば特に制限はなく、例えば、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、アセチルコリンエステラーゼなどの酵素標識、デルフィニウムなどの蛍光標識、放射標識などを用いることが可能である。また直接標識のみならず、該抗体と特異的に結合する物質、例えば、二次抗体、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G(AとGの融合タンパク質)などを標識する、いわゆる間接標識系を利用することもできる。
【0029】
RBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価は、抗体の特異性と上記標識に応じて当業者に公知の方法で行うことができる(例えば、超高感度酵素免疫測定法 石川榮治著 学会出版センター (1993) 参照)。すなわち、リン酸化されたRBタンパク質基質との反応性を持つ抗体を標識したRBタンパク質と組み合わせて利用する場合には、抗体と反応した標識RBタンパク質基質に由来するシグナルの大きさがリン酸化活性に比例する。逆に、リン酸化されないRBタンパク質との反応性を持つ抗体を用いれば、シグナルの大きさはリン酸化活性と逆比例することになる。リン酸化レベルは、リン酸化レベルが判明しているRBタンパク質基質を標準試料として予め作成した検量線に基づいて定量化することができる。あるいは、リン酸化酵素活性フリーの試料を対照として、定性的な比較を行うこともできる。
【0030】
本発明によるリン酸化酵素活性の測定方法は、サイクリン/CDK複合体の存在が疑われるあらゆる試料を対象とすることができる。代表的な試料としては、ヒトや非ヒト動物に由来する組織、各種培養細胞の抽出液およびその抽出物、細胞の培養上清、血液、尿、体液、汗、唾液、母乳などの分泌物等を示すことができる。
【0031】
本発明は、リン酸化酵素活性のみならず、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたRBタンパク質基質に対する脱リン酸化酵素活性の測定方法をも提供する。本発明に基づく脱リン酸化酵素活性の測定方法は、以下の工程(a)および(b)を含む。
(a)リン酸化されたRBタンパク質基質と試料とを、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【0032】
RBタンパク質基質のリン酸化は、前記リン酸化が可能な条件下で、サイクリン/CDK複合体によってRBタンパク質を処理することによって得ることができる。
【0033】
脱リン酸化酵素活性の測定に用いる、RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別しうる抗体とは、先に述べたものと同じ抗体を利用することができる。また、イムノアッセイに基づくRBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価方法も、先に述べたのと同様の原理に基づいて実施することができる。ただし、脱リン酸化酵素活性における標識RBタンパク質基質(あるいは標識抗体)に由来するシグナルの大きさと、測定すべき酵素活性の大きさの関係が逆になる点のみが相違する。
【0034】
現在のところ、ヒトの生体内でサイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたタンパク質の脱リン酸化酵素として機能しているタンパク質は同定されていない。しかし組織抽出液、細胞抽出液中等に含まれるトータルプロテインフォスファターゼ活性を測定するという測定系となりうる。
【0035】
本発明の脱リン酸化酵素活性の測定方法は、リン酸化酵素活性の測定方法と同様に、その存在が疑われるあらゆる試料を測定対象とすることができる。たとえば、抽出液中に含まれる脱リン酸化酵素の精製を試みようとする場合、各画分に見出される脱リン酸化酵素活性は、酵素の精製の指標として有用である。
【0036】
本発明に基づくリン酸化酵素、あるいは脱リン酸化酵素活性の測定方法は、それぞれリン酸化酵素、あるいは脱リン酸化酵素の阻害剤もしくは促進剤のスクリーニングに利用することができる。すなわち本発明は、リン酸化酵素、あるいは脱リン酸化酵素の活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、これらの酵素活性を阻害、あるいは促進する化合物を総称して酵素活性を調整する化合物と呼ぶ。
【0037】
本発明に基づくリン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法は、以下の工程(a)−(c)を含む。
(a)サイクリン/CDK複合体、およびRBタンパク質基質とを、被検化合物の存在下、リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の非存在下における基質のリン酸化のレベルと比較して、基質のリン酸化のレベルの変化を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程
【0038】
サイクリン/CDK複合体とRBタンパク質基質との接触、およびRBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価は、上記のリン酸化酵素活性の測定方法と同様に行うことができる。その結果、被検化合物の非存在下でRBタンパク質基質のセリン残基またはスレオニン残基に結合しているリン酸基の検出量が低下すれば、スクリーニングに用いた被検化合物は、リン酸化酵素の活性を促進すると判定される。
【0039】
本発明によるスクリーニングに用いるリン酸化酵素には、天然のサイクリン/CDKのみならず、組み換え体として得られる酵素タンパク質を利用することができる。また天然の酵素と同じアミノ酸配列を持つもののみならず、そのキナーゼ領域のみからなる酵素断片を用いることもできる。キナーゼ領域のみを用いることにより、発現生成物を小さくすることができ、その結果として組み換え体としてより多量の酵素タンパク質を容易に得ることができる。
【0040】
一方、本発明に基づく脱リン酸化酵素活性を阻害する、もしくは促進する化合物のスクリーニング方法は、以下の工程の(a)−(c)を含む。
(a)前記リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素、およびリン酸化されたRBタンパク質基質を、被検化合物の存在下、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質の脱リン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の被存在下における基質の脱リン酸化のレベルと比較して、基質の脱リン酸化レベルの変化を低下もしくは増加させる化合物を選択する工程
【0041】
これらのスクリーニング方法において用いられる被検化合物としては、例えば、ペプチド(タンパク質を含む)、合成低分子化合物、動植物や細菌の細胞抽出物、細胞培養上清などが用いられるが、これらに制限されない。また、脱リン酸化酵素としては、例えば、大腸菌アルカリフォスファターゼ、牛小腸アルカリフォスファターゼ、ならびにヒトCdc25、Cdc14等のプロテインフォスファターゼ等を用いることができる。
【0042】
脱リン酸化酵素とリン酸化されたRBタンパク質基質との接触、およびRBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価は、上記の脱リン酸化酵素活性の検出方法と同様に行うことができる。その結果、被検化合物の非存在下でRBタンパク質基質のセリン残基および/またはスレオニン残基に結合しているリン酸基を検出した場合(対照)と比較して、RBタンパク質のセリン残基および/またはスレオニン残基に結合しているリン酸基の検出量が増加していれば、スクリーニングに用いた被検化合物は、脱リン酸化酵素の活性を阻害すると判定される。逆に、RBタンパク質のセリン残基および/またはスレオニン残基に結合しているリン酸基の検出量が低下していれば、スクリーニングに用いた被検化合物は、脱リン酸化酵素の活性を促進すると判定される。
【0043】
これら本発明のスクリーニング方法において、被検化合物として、動植物や細菌の細胞抽出物、細胞培養上清などを用いた場合には、当業者に公知の方法(例えば、各種クロマトグラフィー)によりこれらを分画して、それぞれ検出を行うことにより、リン酸化(または脱リン酸化)酵素の活性を阻害する単一の化合物を最終的に特定することが可能である。これらスクリーニングにより単離されたリン酸化酵素および脱リン酸化酵素の活性を阻害もしくは促進する化合物は、これらの酵素活性の活性調整剤として利用することができる。これらの化合物は、特に癌治療薬やリウマチ治療薬の候補化合物として有用である。本発明のスクリーニング法により単離される化合物を、リン酸化酵素活性、あるいは脱リン酸化酵素活性の活性調整剤として用いる場合には、公知の製剤学的製造法により製剤化して用いることも可能である。例えば、薬理学上許容される担体または媒体(生理食塩水、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤など)とともに患者に投与される。投与は、化合物の性質に応じて、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、静脈内、または経口的に行われる。投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することが可能である。
【0044】
加えて本発明は、上記測定方法、またはスクリーニングに用いる、RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別することができる抗体を含むキットに関する。本発明のキットは、リン酸化酵素活性の検出に用いる場合には、前記抗体以外に、例えばRBタンパク質基質および緩衝液等で構成される。また、脱リン酸化酵素活性の検出に用いる場合には、前記抗体以外に、リン酸化されたRBタンパク質基質および緩衝液で構成される。これら酵素の活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニングに用いる場合には、さらにリン酸化酵素(あるいは脱リン酸化酵素)を組み合わせる。RBタンパク質基質、あるいは前記抗体のいずれかは、上記のような標識を付与することができ、他方を固相化しておくことができる。
【0045】
キットには、リン酸化酵素(あるいは脱リン酸化酵素)の活性や、測定系そのものの検定のために、酵素標品やRBタンパク質基質標品を組み合わせることができる。これらの標品や、前記抗体には、安定化などのための他の成分を加えることができる。例えば、1%程度のBSA、および終濃度0.2〜10%(好ましくは1%)のシュークローズ、フルクトースなどのポリオール類を、標品中に凍結乾燥後のタンパク質変性防止剤として添加することができる。以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、ELISA法によるRB各部位のリン酸化反応測定結果について示した図である。各グラフには、測定に用いたモノクローナル抗体の名称とそれが認識するリン酸化部位を示した。また図中、D1/4はCyclin D1/ CDK4、E/2はCyclin E/ CDK2、A/2はCyclin A/ CDK2、B/1はCyclin B/CDK1の組み合わせをそれぞれ示す。
【図2】図2は、Cyclin B/CDK1を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(R)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図3】図3は、Cyclin A/CDK2を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(R)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図4】図4は、Cyclin E/CDK2を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(R)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図5】図5は、Cyclin D1/CDK4を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(O)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図6】図6は、Cyclin B/CDK1を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図7】図7は、Cyclin A/CDK2を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図8】図8は、Cyclin E/CDK2を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図9】図9は、Cyclin D1/CDK4を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図10】図10は、ELISA法とRI法との感度比較の結果を示した図である。実線はELISA法、破線はRI法を示す。
【図11】図11は、Cyclin/CDK活性に対する阻害剤Olmoucineの阻害効果をELISA法とRI法で比較した結果を示す図である。
【図12】図12は、Cyclin/CDK活性に対する阻害剤Rosocovitineの阻害効果をELISA法とRI法で比較した結果を示す図である。
【図13】図13は、Cyclin/CDK活性に対する阻害剤Olmoucine-isomerの阻害効果をELISA法とRI法で比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
〔実施例1〕 抗リン酸化ペプチド抗体の作製
(1) 免疫原の作製
(a) ペプチドの作製
リン酸化サイトとして報告されたヒトRBタンパク質の356位のスレオニン、612位のセリン、780位のセリン、807位のセリンをそれぞれ含む以下の8本のペプチドを、ペプチド合成機を用いて作製した。
phospho-pRB-T356 : SFETQRT(p)PRKSNLC (配列番号:1)
pRB-T356 : SFETQRTPRKSNLC (配列番号:2)
phospho-pBR-S612 : YLSPVRS(p)PKKKGSC (配列番号:3)
pRB-S612 : YLSPVRSPKKKGSC (配列番号:4)
phospho-pRB-S780 : TRPPTLS(p)PIPHIPC (配列番号:5)
pRB-S780 : TRPPTLSPIPHIPC (配列番号:6)
phospho-pRB-S807 : GGNIYIS(p)PLKSPYKIC (配列番号:7)
pRB-S807 : GGNIYISPLKSPYKIC (配列番号:8)
上記アミノ酸配列は1文字表記で、アミノ末端からカルボキシル末端方向に記した。S(p)、T(p)はそれぞれリン酸化セリン残基、リン酸化スレオニン残基を示す。90%以上の純度であることをHPLCにより確認した。phospho-pRB-T356はヒトRBタンパク質の350番目から362番目までの、phospho-pBR-S612は606番目から618番目までの、phospho-pRB-S780は774番目から786番目までの、そしてphospho-pRB-S807は801番目から815番目までのアミノ酸配列に相当する。全てのペプチドのカルボキシル末端のシステイン残基は、ペプチドをキャリアータンパク質に共有結合させるために導入した。
【0048】
(b) ペプチドのキャリアータンパク質への結合
免疫原とするために、リン酸化ペプチド(phospho-pRB-T356、-S612、-S780、および-S807)をそれぞれキャリアータンパク質であるキーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin (KLH))と共有結合させた。これらのペプチドとKLHの結合にはm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester (MBS))を架橋物質として用いた。等量のKLHとペプチドを架橋した。このペプチド-KLHを免疫原として使用した。
【0049】
(c) 免疫原の調製と免疫方法
キャリアータンパク質KLHとそれに結合したペプチド(ペプチド−KLH)10μg (100μl)をマウスの1回あたりの免疫原として用いた。1.5 mlチューブで、100μlのフロイント完全アジュバントとペプチド−KLH(各100μl)を1mlシリンジと21ゲージ注射針を用いて、完全にエマルジョン化するまで混合した。
マウス(Balb/c)に対し、腹腔に各リン酸化ペプチドとアジュバントのエマルジョンを26ゲージ注射針を使用して注射した。免疫は1週間ごとに1回、合計4回行った。4回目の免疫の際、抗体力価をチェックするため、マウスの眼下静脈蒼より50〜100μl採血し、ELISA法により抗体力価を確認した。
【0050】
(2) phospho-pRB-T356、phospho-pRB-S612、phospho-pRB-S780、およびphospho-pRB-S807に対するモノクローナル抗体の作成
(a) ハイブリドーマの作製
十分な抗体力価の確認後、マウスより脾臓を摘出し、ポリエチレングリコールを用いてミエローマ細胞と細胞融合させた。ハイブリドーマの選別はHAT(hypoxanthine, aminoprerin, thymidine)セレクションで行った。ハイブリドーマの培養上清を用いたELISA法により、非リン酸化ペプチド(pRB-T356、pRB-S612、pRB-S780、pRB-S807)よりもリン酸化ペプチド(phospho-pBR-T356、phospho-pRB-S612、phospho-pRB-S780、phospho-pRB-S807)に対して反応性の高いクローンのスクリーニングを行った。
【0051】
(b) 腹水の取得と抗体の精製
限界希釈法により得られたハイブリドーマクローンを75cm2フラスコで培養した後、マウスの腹腔に注射した。ハイブリドーマを注射する10日前に1mlの、3日前に0.5 mlのプリスタン(Sigma)をマウスに注射しておいた。1〜2週間後にマウスの状態を見ながら腹水を採取した。腹水に終濃度50%になるように硫安を添加し、4℃で1時間以上攪拌した。高速遠心によりその沈澱を回収した。最小限の純水で沈澱を完全に溶解後、透析膜を用いてPBSに対して透析した。完全にPBSに平衡化させた後、protein Aセファロース(ファルマシア社製)と複合体を形成させた。最後にprotein Aセファロースから抗体を溶出させた。
【0052】
(3) 抗体力価および特異性の検定
ペプチドを10μg/mlになるようにPBSに溶かし、ELISA用マイクロタイタープレートに1ウェルあたり50μlづつ分注して、4℃で一晩感作した。感作後、ペプチド溶液を除き、1%BSA−0.1% Tween 20-PBSを1ウェルあたり200μlづつ分注して、室温で1時間以上ブロッキングした。
精製した抗体を0.1% Tween 20-PBSで必要に応じて希釈した。希釈したそれらのサンプルを感作プレート1ウェルあたり100μl添加し、室温に1時間静置した(一次反応)。一次反応後、洗浄瓶を用いて、各ウェルをPBSで4回以上、十分に洗浄した。0.1% Tween 20-PBSで3000倍希釈した西洋ワサビ ペルオキシダーゼ (HRP)標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)抗体(MBL社製330)を各ウェルに100μlづつ分注し、室温に1時間静置した(二次反応)。二次反応後同様に、PBSで洗浄した後、750μM TMB (Tetramethylbenzidine)溶液を1ウェルあたり100μl添加し、30℃で5〜20分間発色させた(発色反応)。1.5 N H3PO4を100μlづつ加え発色反応を停止させ、マイクロタイタープレートリーダーを用いて、450 nmにおける吸光度を測定した。
【0053】
〔実施例2〕 組み換えサイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1の作製
(1) PCR法によるサイクリン、CDKのcDNA単離
(a) 各サイクリン、CDK増幅用プライマーの設定
各サイクリン、CDKの全長cDNAを増幅するため、以下に示すプライマーを作製した。各サイクリンおよびCDKのcDNAの塩基配列は次のアクセッションナンバーでGenBankに登録されている。
サイクリンD1:X59798
サイクリンE:M73812, M74093
サイクリンB:M25753
CDK1:X05360
CDK2:X61622, X62071
CDK4:NM_000075
【0054】
<サイクリンD1増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hcy-D1 F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GAA CAC CAG CTC CTG TGC-3'(配列番号:9)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素Bam HIサイト。)
リバースプライマー(hcy-D1 R1): 5'-ATA CTC GAG GAT GTC CAC GCT CCG CAC GTC-3'(配列番号:10)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
【0055】
<サイクリンE増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hcy-E F1): 5'-ATA AGA TCT ATG AAG GAG GAC GGC GGC GCG-3'(配列番号:11)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(AGA TCT)は制限酵素Bgl IIサイト。)
リバースプライマー(hcy-E R1): 5'-ATA CTC GAG CGC CAT TTC CGG CCC GCT GCT-3'(配列番号:12)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素Xho Iサイト。)
【0056】
<サイクリンB増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hcy-B F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GCG CTC CGA GTC ACC AGG-3'(配列番号:13)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
リバースプライマー(hcy-B R1): 5'-ATA CTC GAG CAC CTT TGC CAC AGC CTT GGC-3'(配列番号:14)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素Xho Iサイト。)
【0057】
<CDK1増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hCDK1 F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GAA GAT TAT ACC AAA ATA-3'(配列番号:15)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素Bam HIサイト。)
リバースプライマー(hCDK1 R1): 5'-ATA CTC GAG ACT CTT CTT AAT CTG ATT GTC-3'(配列番号:16)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
【0058】
<CDK2増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hCDK2 F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GAG AAC TTC CAA AAG GTG-3'(配列番号:17)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素Bam HIサイト。)
リバースプライマー(hCDK2 R1): 5'-ATA CTC GAG TCA GAG TCG AAG ATG GGG TAC-3'(配列番号:18)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
【0059】
<CDK4増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hCDK4 F1): 5'-CAT GGA TCC ATG GCT ACC TCT CGA TAT GAG-3'(配列番号:19)(5’側3つの塩基(CAT)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5’側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素BamHIサイト。)
リバースプライマー(hCDK4 R1): 5'-CAT GTC GAC CTC CGG ATT ACC TTC ATC CTT-3'(配列番号:20)(5’側3つの塩基(CAT)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5’側4番目から9番目(GTC GAC)は制限酵素SalIサイト。)
【0060】
(b) 鋳型DNAの調製
サイクリン、 CDKの全長cDNAをPCR法で増幅するための鋳型として、ヒト乳癌由来のZR75-1細胞のcDNAを用いた。まず、cDNAを作製するため、ZR75-1細胞よりフェノール−チオシアン酸グアニジン法(ニッポンジーン、ISOGEN)を用いて全RNAを抽出、精製した。抽出した全RNAを基にオリゴdTまたはオリゴランダムプライマーを用いてcDNAを合成した(逆転写反応)。
【0061】
(c) PCR反応の条件
PCR反応は以下の3段階の条件で行った。
1; 95℃5分間(変性)、52℃1分間(アニール)、72℃2分間(伸長)を1サイクル
2; 94℃30秒間(変性)、62℃30秒間(アニール)、72℃2分間(伸長)を35サイクル
3; 72℃10分間を1サイクル
【0062】
(d) ベクターへのクローニングと組み換えバキュロウイルス液の調製
増幅された各PCR産物をそれぞれ対応する制限酵素で消化した。制限酵素消化DNAをアガロースゲルで電気泳動した後、Geneclean (BIO101社製)で精製した。精製DNAを予めPCR産物の両末端と同じ制限酵素により消化したpFASTBACHTベクター(GIBCO BRL社製)へライゲーションした後、「Molecular Cloning (Sambrook et al., 第二版 (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)」の方法に従って大腸菌(DH5α)株を形質転換し、複数のシングルコロニーを取得した。シングルコロニーから採取した、精製したpFASTBACHTベクター(pFASTBAC-n6his-hcyD、pFASTBAC-n6hishcyE、pFASTBAC-n6his-hcyB、pFASTBAC-n6his-hCDK1、pFASTBAC-n6his-hCDK2、pFASTBAC-n6his-hCDK4)を大腸菌(DH10BAC株)へトランスフォーメーションし、Luria 寒天プレート (10g/L ペプトン、5g/L 酵母抽出物、10g/L NaCl、12g/L寒天、200μg/ml X-Gal、40μg/ml IPTG、10μg/ml テトラサイクリン、7μg/ml ゲンタマイシン、50μg/ml カナマイシン)上で生育させた。DH10BAC内では、部位特異的トランスポジションによって、pFASTBACHT内の発現カセットがバクミド DNAへ転移する。転移の起きたシングルの白いコロニーから組み換えバクミドDNAを精製した。組み換えバクミドDNAをCELL FECTIN (GIBCO BRL)を用いてSf9細胞のトランスフェクションを行った。組み換えバキュロウイルスは培養液中に産出されるので、約1週間後に培養液を遠心分離し、その上清をウイルス液とした。以上の操作は基本的にBAC-TO-BAC Baculovirus Expression System (GIBCO BRL社製)により行った。
【0063】
(e) 塩基配列の確認
「Molecular Cloning(前記)」の方法に従い、pFASTBAC-n6his-hcyD、pFASTBAC-n6his-hcyE、pFASTBAC-n6his-hcyB、pFASTBAC-n6his-hCDK1、pFASTBAC-n6his-hCDK2、pFASTBAC-n6his-hCDK4)を精製した。それらのインサートDNAの塩基配列の決定をサンガー法に基づき、オートシークエンサーで行った。インサートDNAの配列とデータベース上に公開されている配列を比較し、クローニングされたcDNAがそれぞれ、サイクリンD1、サイクリンB、サイクリンE、CDK1、CDK2、CDK4であることを確認した。
【0064】
(f) 組み換えタンパク質の精製
Sf9細胞を75cm2のフラスコにほぼコンフルエントな状態にまで培養し、その培養液に組み換えバキュロウイルス液を加えた。感染後3〜4日目に細胞を氷冷PBSに懸濁し、遠心洗浄を行った。細胞をHGNバッファー(-DTT)に懸濁し、氷冷しながら超音波処理を行った。続いて遠心分離を行い、得られた上清を可溶性画分とし精製に用いた。pFASTBACHTベクターの発現カセットではN末端側に6つのHis残基(6xHis)が付加される。抽出液の一部を用いてウエスタンブロットを行った後、抗5xHis抗体(GIAGEN社製)によりタンパク質の発現を確認した。可溶性分画をNi-キレーティングセファロースカラム(Pharmacia社製)に通し、6xHis-Tagを介して組換えタンパク質をカラムに吸着させた。6xHis-TagはNi2+と錯体を形成するため、カラムのNi2+に組み換えタンパク質が吸着する。カラムをHGNバッファー(-DTT)で洗浄した後、組み換えタンパク質をエリューションバッファー(50mM〜1 Mイミダゾール、0.5M NaCl、20mM Tris-HCl pH7.9)で溶出した。その際のイミダゾールの濃度は、10mM、25mM、50mM、100mM、250mM、500mM、1Mと段階的に変化させて溶出を行った。
各イミダゾール画分について、ウエスタンブロットで抗5xHis抗体により検出される組み換えタンパク質が存在する画分を透析液(50mM HEPES (pH7.5)、1mM DTT、1mM EDTA (pH8.0)、50%グリセロール)に対して一晩透析した。
透析後のサンプルをMonoQカラム(Pharmacia社製)に通した。FPLC(Pharmacia社製)を用いて吸着されたタンパク質を、0〜1M NaClを含む10mM Tris-HCl (pH7.5)、1mM DTT、10%グリセロールで濃度勾配をかけながら溶出させた。ウエスタンブロットで抗5xHis抗体により検出された組み換えタンパク質が存在する画分について透析液に対して透析を行った。
【0065】
〔実施例3〕 ELISAによるサイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1活性測定系
(1) 活性測定用基質の作製
サイクリン/CDK複合体の基質として様々な分子が知られているが発癌との関係で最も興味深いRBタンパク質を基質として選択した。ヒトRBタンパク質のアミノ酸配列307aa-405aa、540aa-645aa、および723aa-833aaをコードするcDNA配列を、発現ベクターpGEXに組み込み、大腸菌内でグルタチオン‐s‐トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させた。発現させたそれぞれの産物を、アミノ酸配列順にGST-pRB1、GST-pRB2、GST-pRB3と名付けた。
pGEXベクターでは、組み換えタンパク質は、GSTとの融合タンパク質として作られる。このGST酵素がグルタチオン(GSH)に対してアフィニティーを持っていることを利用して、組み換えタンパク質の精製を行った。組み換えタンパク質の発現を確認した後、その菌体を1%Tween20-PBSに懸濁後、超音波処理により菌体を破砕した。高速遠心後、上清を組み換えタンパク質を含む可溶性分画とした。この可溶性分画をGSH-セファロース4Bカラム(Pharmacia社製)に通し、GST-p53(1-99)タンパク質をカラムに吸着させた。カラムをWEバッファー(10mM 2-メルカプトエタノール、2mM MgCl2、20mM Tris-HCl pH7.5)で洗浄後、組み換えタンパク質をGバッファー(10mM GSH、50mM Tris-HCl pH9.6)を用いて溶出した。溶出された各発現蛋白は50mM Tris-HCl (pH 8.0)、50%グリセリンに対して透析した。
【0066】
(2) 基質感作プレートの作製
GST-pRB1、GST-pRB2、GST-pRB3を20μg/mlになるようにPBSで希釈し、ELISA用マイクロタイタープレートに1ウェルあたり50μlづつ分注して、4℃で一晩感作した。感作後、1%BSA-0.1% Tween20-PBSを1ウェルあたり200μlずつ分注し、室温で1時間以上ブロッキングを行った。
【0067】
(3) リン酸化反応
サイクリン/CDK用反応バッファー(50mM HEPES、15mM MgCl2、1mM DTT、0.02% Triton X、1mM EGTA、5mM ATP)中に各酵素(組み換えサイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1)を1アッセイあたり約100ngとなるように加え固相プレートに分注(50μl/ウェル)。30℃で1時間、インキュベーションした。
【0068】
(4) 抗原抗体反応
一次反応: PBSで5回洗浄後、各50倍希釈した抗リン酸化モノクローナル抗体T356 (1C2)、S612 (3C12)、S780 (2C4)、S812 (5H12)をウェルあたり100μlずづ分注し、室温で1時間インキュベーションした。
二次反応: PBSで10回洗浄後、40000倍希釈したHRP標識抗マウスIgG (Immunotech社製)をウェルあたり100μlずつ分注し、室温で1時間インキュベーションした。
発色: PBSで5回洗浄後、TMB(Tetramethylbentidine)をウェルあたり100μlずつ分注し、室温で30分間発色させた後、1.5N H3PO4をウェルあたり100μlずつ分注し反応を停止させた。
【0069】
(5) 測定結果
表2で示すように、発現させた各サイクリン/CDK複合体の活性を感度よく検出することが可能であった。
【0070】
【表2】
【0071】
〔実施例4〕Cyclin D1/CDK 阻害剤スクリーニングシステムの構築
<ELISA法>
1)抗体感作条件
抗リン酸化RBモノクロナル抗体には、クローン1C12 (Thr356特異的)、クローン4E4 (Ser612 特異的)、クローン2C4 (Ser780 特異的)を用いた。各抗リン酸化RB抗体をPBSで10μg/mlに希釈し、マイクロプレート各ウェルに100μlづつ添加し、4℃で15時間インキュベーションした。抗体溶液を振り払った後、2.5%BSAを含むPBS(5% sucrose, 0.1%NaN3)中で、4℃、24時間ブロッキングした。風乾の後測定に供した。
【0072】
2)リン酸化反応
基質には、RBアミノ酸配列301aa-928aaを大腸菌内でGST fusion 蛋白として発現させ、グルタチオンセファロース、フォスフォセルロース(P11)を用いて精製したものを用いた(RB301)。Cyclin/CDKには、Cyclin D1/CDK4、Cyclin A/CDK2、Cyclin E/CDK2、Cyclin B/CDK1各々バキュロバイラスを用いて、sf9内で発現させ、コバルトカラム、フォスフォセルロース(P11)を用いて精製したものを用いた。
リン酸化バッファー(50mM HEPES, 0.05% triton X, 15mM MgCl2, 2mM EGTA, 200μg/ml BSA)にRB301(10μg/ml)、100μM ATP、Cyclin/CDKを添加し(最終容量 180μl)、30℃で30分反応させた後、PBS(10%スキムミルク、350mM NaCl, 50mM EDTA)を各アッセイあたり180μl加えて反応を停止させた。
【0073】
3)反応
リン酸化反応終了後、反応液を100μlづつ抗体感作プレートに添加し、室温で1時間インキュベーションした(一次反応)。洗浄ビンで5回洗浄(洗浄液/PBS (500mM NaCl, 0.1% Tween20)の後、0.5μg/ml 抗GSTポリクロナル抗体をマイクロプレートの各ウェルに100μl づつ添加し、室温で1時間インキュベーションした(二次反応)。洗浄ビンで5回洗浄(洗浄液/PBS (500mM NaCl, 0.1% Tween20)の後、20000倍希釈HRP標識抗ラビットIgG抗体をマイクロプレートの各ウェルに100μlづつ添加し、室温で30分インキュベーションした(三次反応)。その後、TMB(Tetramethylbentidine)を用いて、室温で30分発色させた(発色反応)。
【0074】
<RI法>
上記ELISA法と同様に0.3μciγ-32P-ATPによるリン酸化反応を行った後、10%TCA、0.2%ピロリン酸ナトリウムで反応を停止させた。不溶化した基質をグラスフィルターに吸着させ、2%TCA, 0.02%ピロリン酸ナトリウムで洗浄の後、放射線量をカウントした。
図1にELISA法によるリン酸化反応測定結果について示す。いずれの酵素、リン酸化サイトの組み合わせにおいても、酵素の量に依存したOD値を上昇を認め、その反応曲線はなめらかなシグモイドカーブを描いた。このことから、本発明で構築したELISA系は、Cyclin/CDKのリン酸化活性を良好に測定できるものと考えられた。精製した4種類の酵素の間で、各サイトに対するリン酸化活性を比較すると、酵素によってリン酸化サイトに対する選択性のあることが示された。Cyclin A/CDK2, Cyclin E/CDK2はThr356, Ser612に、Cyclin D1/CDK4はSer780に選択性がみられた。また、Cyclin B/CDK1はSer612に選択性がみられた。RI法との間で、感度の比較を行ったところ、RI法と同等以上であることが示された(図10)。特に、Cyclin A/CDK2, Cyclin E/CDK2においてはELISA法はRI法に比較して、10倍程度感度が高いものと考えられた。
次に本ELISA系を用いて、阻害剤の阻害効果の判定が可能であるかどうか市販の薬剤を使って検討した。
薬剤としては、cdc2, cdk2 選択的阻害剤である Olomoucine(IC50=7μM)、Roscovitine(IC50=700nM)、リン酸化酵素全般的な阻害剤であるK252a(PKCに対するKi=25nM)、MEKに対する阻害剤U0126(IC50=55nM/ cdk2,4 に対しては>10μM)、Olomoucine-isomer(Olomoucineに対する陰性コントロール)の5種類を使用した。
図2〜図5にK252a、Olomoucine、Roscovitineの阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した。いずれの阻害剤を用いた場合においても阻害剤添加濃度依存的にOD値の低下をみた。Olomoucine、RoscovitineのIC50は公示の値ではそれぞれ7μM、700nMであるが、本発明における検討では、この値より10倍近く高くなった。
これは、これら阻害剤がATP拮抗剤であるため、アッセイ系に用いるATP濃度によって値が異なるためと考えられる。論文上の報告(Inhibition of cyclin-dependent kinases by prine analogues. Vesely J., Havliek L., Stnad M., Blow JJ., Donella-Deana A., Pinna L., Letham DS., Kato J., Detivaud L., Leclerc S., et al. Eur. J. Biochem. 1994 Sep. 1 224:2 771-86 )では、ATPの濃度が15μM、使用している基質がhistoneH1であるのに対し、本発明において検討したELISA系ではATP濃度が100μM、基質がRBであることも原因ではないかと考えられる。
またOlomoucine、Roscovitineはcdc2、cdk2選択的阻害剤で、cdk4に対しては阻害効果が著しく弱いことが報告されている (Biochemical and cellular effect of roscovitine,, a potent and selective inhibitor of the cyclin-dependent kinases cdc2, cdk2 and cdk5. Meijer L., Borgne A., Mulner O., Chong JP., Blow JJ., Inagaki M., Delcros JG., Moulipoux JP., Eur J. Biochem. 1997 Jan 15 243:1 -2 527-39)。本発明における検討結果はこの報告を反映したものとなった(Cyclin D1/CDK4に対する阻害効果は他の3種類に比べて低い)。また、阻害効果の期待できないOlomoucine-isomer、U0126においては、検討した濃度の範囲内では、ほとんど、OD値の低下はみられなかった(図6〜図9)。
さらに、RI法と同様な阻害効果の判定が可能かどうか、Olomoucine、Roscovitine、Olomoucine-isomerを用いて、ELISA法と、RI法の間で阻害効果の判定について比較したところ、図11〜13に示すように、ほぼ同様の阻害曲線を得ることができた。
以上のことから、本発明で構築したELISAのシステムは、阻害剤のスクリーニング方法として有用であることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
実施例に示したように、抗リン酸化ペプチド特異抗体を用いたELISA法によって、サイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1の酵素活性を測定することができた。これまでこれら酵素の活性測定では、RIである32Pで標識されたγ-32P-ATPを用いるために、廃液の処理といった手続きや特別な施設等を必要とした。これに対して本発明による測定方法ではRIを使用せず、しかも十分な感度を持った測定方法を実現することができる。加えて本発明は、リン酸化部位を特異的に認識する抗体の利用により、複数種のサイクリン/CDK複合体が共存する試料に含まれる、特定の複合体の活性のみを特異的に測定することを可能とした。
またこの測定方法をサイクリン/CDK複合体の活性調整剤のスクリーニング方法に応用すれば、簡便で迅速なスクリーニングを通常の実験室で行うことが可能である。更に、本発明に基づくスクリーニング方法は、各種の化学合成物質、細胞や細菌の抽出液、あるいは培養上清のような、幅広い候補化合物に対して適用することができる。したがって、本発明のスクリーニング方法は、サイクリン/CDK複合体の酵素活性を調整する化合物のスクリーニングにおいて、きわめて有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性、あるいは脱リン酸化酵素活性の測定方法、サイクリン/CDK複合体の阻害剤もしくは促進剤のスクリーニング方法、並びにそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は増殖する際に、そのゲノムDNAを複製し、娘細胞へ均等に分配した後分裂するという過程を周期的に繰り返す。このような周期は細胞周期と呼ばれている。細胞周期はG1期(DNA合成準備期)、S期(DNA合成期)、G2期(分裂準備期)、M期(分裂期)に分けることができ、各段階を順番に経て細胞は分裂する。細胞周期の進行は数多くの分子により精緻な調節を受け、不必要な細胞の増殖を制御している。これまでに細胞周期の進行に関与する分子のクローニングや機能解析が数多く行われ、多くの癌においてこれらの細胞周期の進行に関する分子の異常が報告され、それが発癌の原因となっていると考えられている。
【0003】
たとえば、G1期からS期への進行に際しては、RBタンパク質(retinoblastoma protein)のリン酸化が重要であることが明らかにされている。RBタンパク質は非リン酸化型において、E2F/DPと結合し、不活性状態におくことでS期への進行を抑制している。E2F/DPは、S期の進行に必要なジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)やDNAポリメラーゼなどの遺伝子の発現を誘導する転写因子である。サイクリンD/CDK4、サイクリンD/CDK6、あるいはサイクリンE/CDK2の作用によってリン酸化されたRBタンパク質は、E2F/DPを遊離する。ここでCDK(サイクリン依存性キナーゼ;Cyclin-dependent kinase)は、サイクリンと複合体を形成することによってリン酸化活性を発現する酵素タンパク質である。すなわち、G1期からS期への進行はRBのリン酸化によって調節されている(実験医学別冊・BioScience用語ライブラリー「細胞周期」,p62-93,1995,羊土社発行(非特許文献1))。
【0004】
多くの癌症例において、RBタンパク質リン酸化の調節がうまく機能していないことが示され、このことが、不必要なS期への進行、すなわち細胞増殖を促進し、結果的に発癌に関与するものと考えられている。たとえば、サイクリン/CDK複合体の阻害因子であるp21の転写誘導に働くp53機能異常(欠失、点突然変異)は様々な腫瘍において高頻度に認められる。このような症例においてはp21が正常に産生されないために、サイクリン/CDK複合体によるRBタンパク質のリン酸化が異常に亢進され、結果的に発癌につながるのではないかと考えられる。また、p15、p16といったサイクリン/CDK複合体の阻害因子の欠損が、多くの腫瘍で報告されている。この場合も、RBタンパク質のサイクリン/CDK複合体による異常なリン酸化が癌化の要因となっているものと考えられる。さらに、サイクリンD1の発現亢進も、同様な理由で、発癌に関わっているものと考えられている。
【0005】
このような背景からサイクリン/CDK複合体は抗癌剤開発の標的分子となっており、サイクリン/CDK複合体活性を調整する化合物のスクリーニングシステムを開発することは有用である。このようなスクリーニングには現状ではラジオアイソトープ(以下RIと省略する)標識化合物を用いた方法が一般的である。しかしRIの使用には、常に危険性や廃棄の問題が伴うことから、非RI標識によって実施することができるシステムが望まれていた。
【0006】
他方、リン酸化酵素活性の簡便な測定方法として、PKAやPKCの活性測定方法が実用化されている。この方法は、PSペプチドと呼ばれる合成ペプチドを基質として用い、その酵素的なリン酸化を、リン酸化されたPSペプチドを認識する抗体によって検出することによって、リン酸化酵素活性を測定している(T.Yano et al.Peptide Chemistry A.Suzuki(Ed): 293-298,1991(非特許文献2))。しかしこの方法において基質ペプチドとなるPSペプチドは、RBタンパク質のリン酸化酵素であるサイクリン/CDK複合体の基質とならない。更に、この方法で用いられているリン酸化の程度を検出するための抗体は、リン酸化されたRBタンパク質を認識するものではないためRBタンパク質のリン酸化酵素活性の測定には利用することができない。リン酸化RBタンパク質を認識する抗体は公知であるが、これらの抗体を用いてRBタンパク質のリン酸化酵素活性が測定可能なことは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】実験医学別冊・BioScience用語ライブラリー「細胞周期」,p62-93,1995,羊土社発行
【非特許文献2】T.Yano et al.Peptide Chemistry A.Suzuki(Ed): 293-298,1991
【発明の概要】
【0008】
本発明は、RBタンパク質をリン酸化する酵素であるサイクリン/CDK複合体の活性測定方法、あるいはこれらのリン酸化酵素の作用によってリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化活性の測定方法の提供を課題とする。また、本発明は、サイクリン/CDKのリン酸化活性を制御することができる化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。また本発明は、RBタンパク質を基質としたサイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性を制御することができる化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。更に本発明は、単にこれらのリン酸化酵素活性を測定することのみならず、複数のサイクリン/CDK複合体が共存する試料におけるサイクリン/CDK複合体のリン酸化活性を個別に把握することができる測定方法の提供を課題とする。本発明は、これらの活性測定方法、あるいはスクリーニング方法として、RI標識化合物の使用を避けることができる新たなシステムの提供を課題とする。加えて本発明は、これら測定方法やスクリーニング方法のためのキットの提供を課題とする。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化される基質としてRBタンパク質を用い、RBタンパク質のリン酸化のレベルの変化を、免疫学的に測定することによって、サイクリン/CDK複合体のリン酸化活性の把握が可能なのではないかと考えた。RBタンパク質は先に述べたとおり発癌との関連性が多く報告されていることから、基質タンパク質として好適である。本発明者らは、RBタンパク質の被リン酸化部位の中でも、特に356位のスレオニン残基、612位のセリン残基、780位のセリン残基、あるいは807位のスレオニン残基等におけるリン酸化状態が、サイクリン/CDK複合体のリン酸化活性の評価に特に有用であると考えた。そして、これらの被リン酸化部位のリン酸化状態を識別しうる抗体を利用することにより、簡便に基質のリン酸化レベルの評価が可能であることを見出した。さらに、本発明者らはこれらの抗体を利用することにより、酵素活性によるRBタンパク質のリン酸化や脱リン酸化を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニングが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下のサイクリン/CDK複合体のリン酸化酵素活性測定方法、脱リン酸化酵素活性測定方法、ならびにこれらの測定方法に基づくサイクリン/CDK複合体の、リン酸化酵素や脱リン酸化酵素の活性を調整する化合物のスクリーニング方法に関する。
〔1〕次の工程を含む、試料中のサイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質またはその部分ペプチドに対するリン酸化酵素活性の測定方法。
(a)RBタンパク質基質と試料とを、リン酸化酵素によるリン酸化反応に必要な条件下で接触させる工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
〔2〕以下の工程を含む、サイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質に対するリン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)サイクリン/CDK複合体、およびRBタンパク質基質とを、被検化合物の存在下、リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の非存在下における基質のリン酸化のレベルと比較して、基質のリン酸化のレベルの変化を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程
〔3〕以下の工程を含む、試料中のリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性の測定方法であって、前記リン酸化されたRBタンパク質が、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたものである方法。
(a)リン酸化されたRBタンパク質基質と試料とを、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
〔4〕以下の工程を含む、リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)前記リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素、およびリン酸化されたRBタンパク質基質を、被検化合物の存在下、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質の脱リン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の被存在下における基質の脱リン酸化のレベルと比較して、基質の脱リン酸化レベルの変化を低下もしくは増加させる化合物を選択する工程
〔5〕サイクリンが、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、およびサイクリンEで構成される群から選択されるいずれかのサイクリンである、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6〕CDKが、CDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6で構成される群から選択されるいずれかのCDKである、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔7〕サイクリン/CDK複合体が、以下の群から選択されるいずれかの組み合わせからなる〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
サイクリンA/CDK1、
サイクリンA/CDK2、
サイクリンB/CDK1、
サイクリンD1/CDK4、
サイクリンD1/CDK6、
サイクリンD2/CDK4、
サイクリンD2/CDK6、
サイクリンD3/CDK4、
サイクリンD3/CDK6、および
サイクリンE/CDK2
〔8〕リン酸化酵素がサイクリンD1/CDK4であり、抗体がRBタンパク質の780位セリンのリン酸化状態を識別しうるものである〔7〕に記載の方法。
〔9〕リン酸化状態を識別することができる抗体が、そのリン酸化部位を識別しうるものであり、異なる部位をリン酸化する複数のサイクリン/CDK複合体が共存する試料に含まれるサイクリン/CDK複合体の活性を個別に測定する〔1〕に記載の方法。
〔10〕抗体が、リン酸化されていないRBタンパク質基質よりも、リン酸化されたRBタンパク質基質との反応性が高いものである〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕抗体が、リン酸化されたRBタンパク質基質よりも、リン酸化されていないRBタンパク質基質との反応性が高いものである〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕RBタンパク質基質が標識されている、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕RBタンパク質基質が固相化されている、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕抗体が標識されている、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔15〕RBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価をELISA法により行う、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕〔2〕に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素の活性調整剤。
〔17〕〔4〕に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化されたタンパク質に対する脱リン酸化酵素の活性調整剤。
〔18〕天然由来である、〔16〕または〔17〕のいずれかに記載の活性調整剤。
〔19〕RBタンパク質、またはヒト以外の種におけるそのホモログの被リン酸化部位を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む、〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法に用いるための抗体作成用免疫原。
〔20〕被リン酸化部位がリン酸化されている〔19〕に記載の免疫原。
〔21〕被リン酸化部位が、ヒトRBタンパク質における356位のスレオニン、612位のセリン、780位のセリン、および807位のスレオニンからなる群から選択される少なくとも1つである〔19〕または〔20〕のいずれかに記載の免疫原。
〔22〕被リン酸化部位が、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、および配列番号:8のいずれかからなるアミノ酸配列から選択される〔21〕に記載の免疫原。
〔23〕RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別する抗体を含む、〔1〕−〔4〕に記載のいずれかの方法のためのキット。
【0011】
なお、本発明において「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合により結合した化合物を指し、その鎖長は問わない。従って、タンパク質もまた本発明における「ペプチド」に含まれる。
【0012】
本発明で測定の対象としているサイクリン/CDK複合体を構成するサイクリンとしては、たとえばサイクリンA、サイクリンB、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、およびサイクリンEが知られている。一方CDKには、たとえばCDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6が公知である。これらのタンパク質を構成するアミノ酸配列や、それをコードするDNAの塩基配列も明らかにされている。サイクリンとCDKの組み合わせとしては、たとえば次の組み合わせが報告されている。しかし、本発明のサイクリン/CDK複合体は、これらの公知の組み合わせに限定されない。
サイクリンA/CDK1、
サイクリンA/CDK2、
サイクリンB/CDK1、
サイクリンD1/CDK4、
サイクリンD1/CDK6、
サイクリンD2/CDK4、
サイクリンD2/CDK6、
サイクリンD3/CDK4、
サイクリンD3/CDK6、および
サイクリンE/CDK2
【0013】
複合体を構成するサイクリンとCDKは、ヒト組織に由来する天然の酵素の他、それをコードする遺伝子を適当な発現系で発現させることによって得ることができる組み換え体であっても良い。また、酵素の由来は、ヒトに限定されずに、他の脊椎動物や、微生物におけるホモログであることができる。更に、天然の酵素タンパク質と同一のアミノ酸配列を持つ酵素のみならず、その酵素活性の発現を支える領域(キナーゼ領域)のみで構成される変異体、あるいはこの領域を他のタンパク質と融合させた融合タンパク質等、本質的に同じ酵素活性を持つ酵素タンパク質は、いずれも本発明によるリン酸化酵素活性の測定方法の対象とすることができる。
【0014】
本発明は、第一にサイクリン/CDK複合体によってリン酸化されるRBタンパク質基質に特異的に結合する抗体を利用した、サイクリン/CDK複合体のリン酸化活性の測定方法に関する。より具体的には、次の工程(a)および(b)を含む測定方法である。
(a)RBタンパク質基質と試料とを、リン酸化酵素によるリン酸化反応に必要な条件下で接触させる工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【0015】
本発明において、RBタンパク質基質とは、ヒトRBタンパク質、他の種におけるRBタンパク質のホモログ、並びにこれらのタンパク質の少なくとも被リン酸化部位を含む部分ペプチドを意味する。更に被リン酸化部位とは、少なくともリン酸化されるアミノ酸の前後1アミノ酸を含む3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を言う。基質となるRBタンパク質やそのホモログは、天然のもの、遺伝子組換え技術を利用して調製されたもの、合成ペプチドのいずれであることもできる。RBタンパク質(Nature 329,6140,642-645,1987; GenBank Acc.No. M28419)やそのホモログであるp107(Cell 66,1155-1164, 1991; Genes Dev. 7/7A,1111-1125,1993;GenBank Acc.No. L14812)やp130(Genes Dev.7/12A,2366-2377,1993; GenBank Acc.No. X76061)の構造は公知であり、それをコードするDNAの塩基配列も明らかにされている。ペプチドの精製を容易にする目的で他のペプチド(例えば、グルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ)と融合されていてもよい。RBタンパク質基質は、予想される酵素活性に対して十分な量で使用する。例えばある基質濃度でリン酸化反応を行ったときに、基質の大部分がリン酸化されるような場合は、基質が不足する心配がある。このようなケースでは、基質濃度を高める、あるいは試料の希釈等によって、基質のリン酸化酵素活性に対する相対濃度を上げることが望まれる。
【0016】
RBタンパク質基質として、RBタンパク質やそのホモログの被リン酸化領域を含む部分アミノ酸配列で構成されるペプチド断片を利用することもできる。たとえばヒトRBタンパク質のアミノ酸配列から選択した、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、あるいは配列番号:8として示したアミノ酸配列のいずれかを含むペプチドは、RBタンパク質基質として利用することができる。また、これらのペプチドの被リン酸化部位がリン酸化されたペプチドは、本発明におけるリン酸化ペプチドとして利用することができる。
【0017】
本発明においてRBタンパク質基質は、サイクリン/CDK複合体によるリン酸化が可能な条件下で試料と接触させられる。リン酸化が可能な条件とは、目的とするサイクリン/CDK複合体の活性の維持に必要なpHを与える反応媒体中で、RBタンパク質基質とともに反応に必要な成分の存在下、適切な反応温度でインキュベートすることを意味する。反応に必要な成分としては、リン酸化反応に必要なリン酸基を供給する基質、リン酸化反応物を保護する目的で添加するフォスファターゼ阻害剤等が挙げられる。リン酸基を供給する基質には、一般にアデノシン3リン酸(以下ATPと省略する)等が用いられ、フォスファターゼ阻害剤としてはβ‐グリセロリン酸等が用いられる。本発明において用いられるリン酸化反応のための緩衝液として、次の組成からなるサイクリン/CDK用反応バッファーを示すことができる。
サイクリン/CDK用反応バッファー:
50mM HEPES
15mM MgCl2
1mM DTT
0.02% Triton X
1mM EGTA
5mM ATP
【0018】
本発明では、リン酸化されたRBタンパク質基質は、そのリン酸化状態を識別することができる抗体との免疫学的な反応によって、リン酸化のレベルが評価される。本発明において、リン酸化のレベルとは、RBタンパク質基質に占めるリン酸化RBタンパク質基質の割合のみならず、RBタンパク質基質上のリン酸化の程度を意味する用語として用いる。したがって、たとえばRBタンパク質基質のリン酸化レベルの上昇とは、リン酸化された基質の割合が増大する状態、あるいは基質上のリン酸化部位が増大する状態のいずれをも意味する。
【0019】
本発明に用いるリン酸化状態を識別しうる抗体とは、リン酸化の有無によりRBタンパク質基質との反応性が変化する抗体を意味する。具体的には、リン酸化されたRBタンパク質基質に対する反応性が、リン酸化されていない状態に対する反応性よりも大きい(または小さい)抗体を示すことができる。RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別しうる抗体は公知である。同様の抗体は、当業者に公知の方法(例えば、細胞工学 別冊 抗ペプチド抗体実験プロトコール 1994年 秀潤社、B.M.Turner and G.Fellows,Eur.J.Biochem.179,131-139,1989、S.Muller et al.Molecular Immunology Vol 24,779-789,1987、Pfeffer,U.,Ferrari,N.and Vidali,G.J.Bio.Chem.261,2496-2498,1986)により調製することができる。抗体としては、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。
【0020】
たとえばリン酸化RBタンパク質基質特異的なポリクローナル抗体は、リン酸化ペプチドで免疫することによって得た抗血清から、非リン酸化ペプチドカラム(非特異反応抗体吸収用カラム)やリン酸化ペプチドカラム(特異抗体精製用カラム)を用いて精製することが可能である。あるいはリン酸化ペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞から樹立したハイブリドーマから、特異抗体を産生するものをスクリーニングすることによって、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをクローニングすることができる。スクリーニングは、培養上清の非リン酸化ペプチドやリン酸化ペプチドに対する反応性をELISA法により調べ、リン酸化ペプチドに対して反応性の高いクローンを選択することにより行う。クローニングされたハイブリドーマを培養すれば、必要なモノクローナル抗体を培養上清や腹水から精製することができる。
【0021】
本発明で用いる抗体を作製するための免疫原は、ヒトRBタンパク質の被リン酸化部位を構成するアミノ酸配列を含むペプチドを用いて作成することができる。したがって、たとえば配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、あるいは配列番号:8として示したようなヒトRBタンパク質の被リン酸化部位を持つ部分アミノ酸配列を含む領域を選択することにより、本発明の免疫原とすることができる。被リン酸化部位とは、少なくともリン酸化されるアミノ酸の前後1アミノ酸を含む3アミノ酸残基からなる。なお本発明の免疫原を構成するペプチドのアミノ酸配列は、ヒトRBタンパク質に限定されない。すなわち、他の種におけるRBタンパク質のホモログを構成するアミノ酸配列から、前記被リン酸化部位を構成するアミノ酸配列を含む領域を選択し本発明の免疫原とすることができる。RBタンパク質のホモログとしては、p107やp130が公知である。これらのホモログのアミノ酸配列に基づいて調製された免疫原によって、ヒトのRBタンパク質のリン酸化を識別することができる抗体を得ることができる。
【0022】
免疫原に用いるペプチドの被リン酸化部位におけるリン酸化の有無により、抗体の反応性が左右される。すなわち、リン酸化したペプチドを用いれば、リン酸化RBに対する反応性が高い抗体が、逆にリン酸化されていなければ非リン酸化RBタンパク質に対する反応性が高い抗体を得ることができる。免疫原を構成するペプチドは、たとえば化学的に合成されたものや、遺伝子組み換え体、あるいは天然のRBタンパク質やそのホモログ、並びにそれらの断片として得ることができる。これらのペプチドを目的とする部位において特異的にリン酸化する方法も公知である。ペプチドは、キャリアータンパク質と共有結合させることで免疫原性を高めることができる。キャリアータンパク質には、一般にキーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin)等が利用される。キャリアータンパク質との共有結合のための架橋物質としてはm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステルが利用できる。このようにして得られた免疫原には、さらに公知のアジュバントを配合することができる。
【0023】
本発明の望ましい実施態様においては、単にリン酸化状態を識別しうるのみならず、RBタンパク質基質の被リン酸化部位の周囲を含めた構造の相違を認識することができる抗体に基づいた測定方法が提供される。サイクリン/CDK複合体は必ずしもRBタンパク質基質の同じ部分をリン酸化するわけではない。たとえば、サイクリンD1/CDK4は、RBタンパク質の780位のセリン残基、795位のセリン残基、811位のスレオニン残基を中心にとしてリン酸化が進行する。一方、サイクリンB/CDK2は、主たるリン酸化部位は356位のスレオニン残基、821位のスレオニン残基である。両者の特異性を表1にまとめた。なお本発明においては、アミノ酸を示すコード(1文字または3文字)の後に、RBタンパク質におけるN末端から数えたそのアミノ酸残基の位置を表示することによりアミノ酸を特定する。たとえば、S780は、780位のセリンを意味する。
【0024】
【表1】
【0025】
したがって、たとえば780位セリンのリン酸化状態を識別しうる抗体を利用すれば、サイクリンD1/CDK4複合体のリン酸化酵素活性を特異的に測定することができる。このように、被リン酸化部位を特異的に認識する抗体を利用することによって、サイクリンD1/CDK4によるリン酸化と、サイクリンB/CDK2によるリン酸化とを区別して評価することができる。すなわち本発明は、複数のサイクリン/CDK複合体が共存する可能性のある試料を用い、個々のリン酸化活性を独立して把握することができる測定方法を提供する。
【0026】
RBタンパク質基質と抗体との反応は、公知のイムノアッセイの原理を利用して検出することができる。一般的には、RBタンパク質基質と抗体のいずれかを固相化した状態で用いることにより、未反応成分との分離を容易に行うことができる。タンパク質やペプチド、あるいは抗体を固相化する方法は公知である。たとえばRBタンパク質基質や抗体は、化学結合や物理吸着によって固相に直接固定できる。またRBタンパク質基質をビオチン化しておけば、ストレプトアビジンを感作した固相に捕捉し間接的に固相化することができる。一般的に、RBタンパク質基質を固定化する場合には、タンパク質の担体への吸着が飽和する条件で行われる。この場合、ビオチン化したRBタンパク質基質の固相化は、試料との接触前、接触後、あるいは接触と同時等、任意のタイミングで行うことができる。更に、互いに親和性を有する組み合わせであれば、アビジン−ビオチン系以外でも本発明に適用することができる。たとえば、RBタンパク質基質を適当な抗原性物質との接合体としておき、この抗原性物質に対する抗体を感作した固相を利用してRBタンパク質基質の捕捉が可能である。
【0027】
本発明において、RBタンパク質基質や抗体を固定化するための固相としては、反応容器の内壁、粒子状担体、あるいはビーズ状担体など、一般的に固相として利用されているものを利用することができる。その素材についても、一般にタンパク質の物理吸着や化学結合に利用されているものを利用することができる。具体的には、ポリスチレン製のマイクロタイタープレート等が利用される。
【0028】
本発明において、リン酸化のレベルの変化をイムノアッセイの原理に基づいて評価するとき、RBタンパク質基質と抗体とは、そのいずれかを標識しておくことにより、簡便な操作を実現できる。標識としては、検出可能な感度を有すれば特に制限はなく、例えば、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、アセチルコリンエステラーゼなどの酵素標識、デルフィニウムなどの蛍光標識、放射標識などを用いることが可能である。また直接標識のみならず、該抗体と特異的に結合する物質、例えば、二次抗体、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G(AとGの融合タンパク質)などを標識する、いわゆる間接標識系を利用することもできる。
【0029】
RBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価は、抗体の特異性と上記標識に応じて当業者に公知の方法で行うことができる(例えば、超高感度酵素免疫測定法 石川榮治著 学会出版センター (1993) 参照)。すなわち、リン酸化されたRBタンパク質基質との反応性を持つ抗体を標識したRBタンパク質と組み合わせて利用する場合には、抗体と反応した標識RBタンパク質基質に由来するシグナルの大きさがリン酸化活性に比例する。逆に、リン酸化されないRBタンパク質との反応性を持つ抗体を用いれば、シグナルの大きさはリン酸化活性と逆比例することになる。リン酸化レベルは、リン酸化レベルが判明しているRBタンパク質基質を標準試料として予め作成した検量線に基づいて定量化することができる。あるいは、リン酸化酵素活性フリーの試料を対照として、定性的な比較を行うこともできる。
【0030】
本発明によるリン酸化酵素活性の測定方法は、サイクリン/CDK複合体の存在が疑われるあらゆる試料を対象とすることができる。代表的な試料としては、ヒトや非ヒト動物に由来する組織、各種培養細胞の抽出液およびその抽出物、細胞の培養上清、血液、尿、体液、汗、唾液、母乳などの分泌物等を示すことができる。
【0031】
本発明は、リン酸化酵素活性のみならず、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたRBタンパク質基質に対する脱リン酸化酵素活性の測定方法をも提供する。本発明に基づく脱リン酸化酵素活性の測定方法は、以下の工程(a)および(b)を含む。
(a)リン酸化されたRBタンパク質基質と試料とを、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【0032】
RBタンパク質基質のリン酸化は、前記リン酸化が可能な条件下で、サイクリン/CDK複合体によってRBタンパク質を処理することによって得ることができる。
【0033】
脱リン酸化酵素活性の測定に用いる、RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別しうる抗体とは、先に述べたものと同じ抗体を利用することができる。また、イムノアッセイに基づくRBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価方法も、先に述べたのと同様の原理に基づいて実施することができる。ただし、脱リン酸化酵素活性における標識RBタンパク質基質(あるいは標識抗体)に由来するシグナルの大きさと、測定すべき酵素活性の大きさの関係が逆になる点のみが相違する。
【0034】
現在のところ、ヒトの生体内でサイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたタンパク質の脱リン酸化酵素として機能しているタンパク質は同定されていない。しかし組織抽出液、細胞抽出液中等に含まれるトータルプロテインフォスファターゼ活性を測定するという測定系となりうる。
【0035】
本発明の脱リン酸化酵素活性の測定方法は、リン酸化酵素活性の測定方法と同様に、その存在が疑われるあらゆる試料を測定対象とすることができる。たとえば、抽出液中に含まれる脱リン酸化酵素の精製を試みようとする場合、各画分に見出される脱リン酸化酵素活性は、酵素の精製の指標として有用である。
【0036】
本発明に基づくリン酸化酵素、あるいは脱リン酸化酵素活性の測定方法は、それぞれリン酸化酵素、あるいは脱リン酸化酵素の阻害剤もしくは促進剤のスクリーニングに利用することができる。すなわち本発明は、リン酸化酵素、あるいは脱リン酸化酵素の活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、これらの酵素活性を阻害、あるいは促進する化合物を総称して酵素活性を調整する化合物と呼ぶ。
【0037】
本発明に基づくリン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法は、以下の工程(a)−(c)を含む。
(a)サイクリン/CDK複合体、およびRBタンパク質基質とを、被検化合物の存在下、リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の非存在下における基質のリン酸化のレベルと比較して、基質のリン酸化のレベルの変化を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程
【0038】
サイクリン/CDK複合体とRBタンパク質基質との接触、およびRBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価は、上記のリン酸化酵素活性の測定方法と同様に行うことができる。その結果、被検化合物の非存在下でRBタンパク質基質のセリン残基またはスレオニン残基に結合しているリン酸基の検出量が低下すれば、スクリーニングに用いた被検化合物は、リン酸化酵素の活性を促進すると判定される。
【0039】
本発明によるスクリーニングに用いるリン酸化酵素には、天然のサイクリン/CDKのみならず、組み換え体として得られる酵素タンパク質を利用することができる。また天然の酵素と同じアミノ酸配列を持つもののみならず、そのキナーゼ領域のみからなる酵素断片を用いることもできる。キナーゼ領域のみを用いることにより、発現生成物を小さくすることができ、その結果として組み換え体としてより多量の酵素タンパク質を容易に得ることができる。
【0040】
一方、本発明に基づく脱リン酸化酵素活性を阻害する、もしくは促進する化合物のスクリーニング方法は、以下の工程の(a)−(c)を含む。
(a)前記リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素、およびリン酸化されたRBタンパク質基質を、被検化合物の存在下、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質の脱リン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の被存在下における基質の脱リン酸化のレベルと比較して、基質の脱リン酸化レベルの変化を低下もしくは増加させる化合物を選択する工程
【0041】
これらのスクリーニング方法において用いられる被検化合物としては、例えば、ペプチド(タンパク質を含む)、合成低分子化合物、動植物や細菌の細胞抽出物、細胞培養上清などが用いられるが、これらに制限されない。また、脱リン酸化酵素としては、例えば、大腸菌アルカリフォスファターゼ、牛小腸アルカリフォスファターゼ、ならびにヒトCdc25、Cdc14等のプロテインフォスファターゼ等を用いることができる。
【0042】
脱リン酸化酵素とリン酸化されたRBタンパク質基質との接触、およびRBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価は、上記の脱リン酸化酵素活性の検出方法と同様に行うことができる。その結果、被検化合物の非存在下でRBタンパク質基質のセリン残基および/またはスレオニン残基に結合しているリン酸基を検出した場合(対照)と比較して、RBタンパク質のセリン残基および/またはスレオニン残基に結合しているリン酸基の検出量が増加していれば、スクリーニングに用いた被検化合物は、脱リン酸化酵素の活性を阻害すると判定される。逆に、RBタンパク質のセリン残基および/またはスレオニン残基に結合しているリン酸基の検出量が低下していれば、スクリーニングに用いた被検化合物は、脱リン酸化酵素の活性を促進すると判定される。
【0043】
これら本発明のスクリーニング方法において、被検化合物として、動植物や細菌の細胞抽出物、細胞培養上清などを用いた場合には、当業者に公知の方法(例えば、各種クロマトグラフィー)によりこれらを分画して、それぞれ検出を行うことにより、リン酸化(または脱リン酸化)酵素の活性を阻害する単一の化合物を最終的に特定することが可能である。これらスクリーニングにより単離されたリン酸化酵素および脱リン酸化酵素の活性を阻害もしくは促進する化合物は、これらの酵素活性の活性調整剤として利用することができる。これらの化合物は、特に癌治療薬やリウマチ治療薬の候補化合物として有用である。本発明のスクリーニング法により単離される化合物を、リン酸化酵素活性、あるいは脱リン酸化酵素活性の活性調整剤として用いる場合には、公知の製剤学的製造法により製剤化して用いることも可能である。例えば、薬理学上許容される担体または媒体(生理食塩水、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤など)とともに患者に投与される。投与は、化合物の性質に応じて、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、静脈内、または経口的に行われる。投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することが可能である。
【0044】
加えて本発明は、上記測定方法、またはスクリーニングに用いる、RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別することができる抗体を含むキットに関する。本発明のキットは、リン酸化酵素活性の検出に用いる場合には、前記抗体以外に、例えばRBタンパク質基質および緩衝液等で構成される。また、脱リン酸化酵素活性の検出に用いる場合には、前記抗体以外に、リン酸化されたRBタンパク質基質および緩衝液で構成される。これら酵素の活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニングに用いる場合には、さらにリン酸化酵素(あるいは脱リン酸化酵素)を組み合わせる。RBタンパク質基質、あるいは前記抗体のいずれかは、上記のような標識を付与することができ、他方を固相化しておくことができる。
【0045】
キットには、リン酸化酵素(あるいは脱リン酸化酵素)の活性や、測定系そのものの検定のために、酵素標品やRBタンパク質基質標品を組み合わせることができる。これらの標品や、前記抗体には、安定化などのための他の成分を加えることができる。例えば、1%程度のBSA、および終濃度0.2〜10%(好ましくは1%)のシュークローズ、フルクトースなどのポリオール類を、標品中に凍結乾燥後のタンパク質変性防止剤として添加することができる。以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、ELISA法によるRB各部位のリン酸化反応測定結果について示した図である。各グラフには、測定に用いたモノクローナル抗体の名称とそれが認識するリン酸化部位を示した。また図中、D1/4はCyclin D1/ CDK4、E/2はCyclin E/ CDK2、A/2はCyclin A/ CDK2、B/1はCyclin B/CDK1の組み合わせをそれぞれ示す。
【図2】図2は、Cyclin B/CDK1を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(R)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図3】図3は、Cyclin A/CDK2を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(R)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図4】図4は、Cyclin E/CDK2を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(R)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図5】図5は、Cyclin D1/CDK4を用いたときの、阻害剤K252a(K)、Olomoucine(O)、Roscovitine(O)各々の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図6】図6は、Cyclin B/CDK1を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図7】図7は、Cyclin A/CDK2を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図8】図8は、Cyclin E/CDK2を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図9】図9は、Cyclin D1/CDK4を用いたときの、阻害剤Olomoucine-isomer(Oi)及びU0126(U)の阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した図である。
【図10】図10は、ELISA法とRI法との感度比較の結果を示した図である。実線はELISA法、破線はRI法を示す。
【図11】図11は、Cyclin/CDK活性に対する阻害剤Olmoucineの阻害効果をELISA法とRI法で比較した結果を示す図である。
【図12】図12は、Cyclin/CDK活性に対する阻害剤Rosocovitineの阻害効果をELISA法とRI法で比較した結果を示す図である。
【図13】図13は、Cyclin/CDK活性に対する阻害剤Olmoucine-isomerの阻害効果をELISA法とRI法で比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
〔実施例1〕 抗リン酸化ペプチド抗体の作製
(1) 免疫原の作製
(a) ペプチドの作製
リン酸化サイトとして報告されたヒトRBタンパク質の356位のスレオニン、612位のセリン、780位のセリン、807位のセリンをそれぞれ含む以下の8本のペプチドを、ペプチド合成機を用いて作製した。
phospho-pRB-T356 : SFETQRT(p)PRKSNLC (配列番号:1)
pRB-T356 : SFETQRTPRKSNLC (配列番号:2)
phospho-pBR-S612 : YLSPVRS(p)PKKKGSC (配列番号:3)
pRB-S612 : YLSPVRSPKKKGSC (配列番号:4)
phospho-pRB-S780 : TRPPTLS(p)PIPHIPC (配列番号:5)
pRB-S780 : TRPPTLSPIPHIPC (配列番号:6)
phospho-pRB-S807 : GGNIYIS(p)PLKSPYKIC (配列番号:7)
pRB-S807 : GGNIYISPLKSPYKIC (配列番号:8)
上記アミノ酸配列は1文字表記で、アミノ末端からカルボキシル末端方向に記した。S(p)、T(p)はそれぞれリン酸化セリン残基、リン酸化スレオニン残基を示す。90%以上の純度であることをHPLCにより確認した。phospho-pRB-T356はヒトRBタンパク質の350番目から362番目までの、phospho-pBR-S612は606番目から618番目までの、phospho-pRB-S780は774番目から786番目までの、そしてphospho-pRB-S807は801番目から815番目までのアミノ酸配列に相当する。全てのペプチドのカルボキシル末端のシステイン残基は、ペプチドをキャリアータンパク質に共有結合させるために導入した。
【0048】
(b) ペプチドのキャリアータンパク質への結合
免疫原とするために、リン酸化ペプチド(phospho-pRB-T356、-S612、-S780、および-S807)をそれぞれキャリアータンパク質であるキーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin (KLH))と共有結合させた。これらのペプチドとKLHの結合にはm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester (MBS))を架橋物質として用いた。等量のKLHとペプチドを架橋した。このペプチド-KLHを免疫原として使用した。
【0049】
(c) 免疫原の調製と免疫方法
キャリアータンパク質KLHとそれに結合したペプチド(ペプチド−KLH)10μg (100μl)をマウスの1回あたりの免疫原として用いた。1.5 mlチューブで、100μlのフロイント完全アジュバントとペプチド−KLH(各100μl)を1mlシリンジと21ゲージ注射針を用いて、完全にエマルジョン化するまで混合した。
マウス(Balb/c)に対し、腹腔に各リン酸化ペプチドとアジュバントのエマルジョンを26ゲージ注射針を使用して注射した。免疫は1週間ごとに1回、合計4回行った。4回目の免疫の際、抗体力価をチェックするため、マウスの眼下静脈蒼より50〜100μl採血し、ELISA法により抗体力価を確認した。
【0050】
(2) phospho-pRB-T356、phospho-pRB-S612、phospho-pRB-S780、およびphospho-pRB-S807に対するモノクローナル抗体の作成
(a) ハイブリドーマの作製
十分な抗体力価の確認後、マウスより脾臓を摘出し、ポリエチレングリコールを用いてミエローマ細胞と細胞融合させた。ハイブリドーマの選別はHAT(hypoxanthine, aminoprerin, thymidine)セレクションで行った。ハイブリドーマの培養上清を用いたELISA法により、非リン酸化ペプチド(pRB-T356、pRB-S612、pRB-S780、pRB-S807)よりもリン酸化ペプチド(phospho-pBR-T356、phospho-pRB-S612、phospho-pRB-S780、phospho-pRB-S807)に対して反応性の高いクローンのスクリーニングを行った。
【0051】
(b) 腹水の取得と抗体の精製
限界希釈法により得られたハイブリドーマクローンを75cm2フラスコで培養した後、マウスの腹腔に注射した。ハイブリドーマを注射する10日前に1mlの、3日前に0.5 mlのプリスタン(Sigma)をマウスに注射しておいた。1〜2週間後にマウスの状態を見ながら腹水を採取した。腹水に終濃度50%になるように硫安を添加し、4℃で1時間以上攪拌した。高速遠心によりその沈澱を回収した。最小限の純水で沈澱を完全に溶解後、透析膜を用いてPBSに対して透析した。完全にPBSに平衡化させた後、protein Aセファロース(ファルマシア社製)と複合体を形成させた。最後にprotein Aセファロースから抗体を溶出させた。
【0052】
(3) 抗体力価および特異性の検定
ペプチドを10μg/mlになるようにPBSに溶かし、ELISA用マイクロタイタープレートに1ウェルあたり50μlづつ分注して、4℃で一晩感作した。感作後、ペプチド溶液を除き、1%BSA−0.1% Tween 20-PBSを1ウェルあたり200μlづつ分注して、室温で1時間以上ブロッキングした。
精製した抗体を0.1% Tween 20-PBSで必要に応じて希釈した。希釈したそれらのサンプルを感作プレート1ウェルあたり100μl添加し、室温に1時間静置した(一次反応)。一次反応後、洗浄瓶を用いて、各ウェルをPBSで4回以上、十分に洗浄した。0.1% Tween 20-PBSで3000倍希釈した西洋ワサビ ペルオキシダーゼ (HRP)標識ヤギ抗マウスIgG (H+L)抗体(MBL社製330)を各ウェルに100μlづつ分注し、室温に1時間静置した(二次反応)。二次反応後同様に、PBSで洗浄した後、750μM TMB (Tetramethylbenzidine)溶液を1ウェルあたり100μl添加し、30℃で5〜20分間発色させた(発色反応)。1.5 N H3PO4を100μlづつ加え発色反応を停止させ、マイクロタイタープレートリーダーを用いて、450 nmにおける吸光度を測定した。
【0053】
〔実施例2〕 組み換えサイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1の作製
(1) PCR法によるサイクリン、CDKのcDNA単離
(a) 各サイクリン、CDK増幅用プライマーの設定
各サイクリン、CDKの全長cDNAを増幅するため、以下に示すプライマーを作製した。各サイクリンおよびCDKのcDNAの塩基配列は次のアクセッションナンバーでGenBankに登録されている。
サイクリンD1:X59798
サイクリンE:M73812, M74093
サイクリンB:M25753
CDK1:X05360
CDK2:X61622, X62071
CDK4:NM_000075
【0054】
<サイクリンD1増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hcy-D1 F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GAA CAC CAG CTC CTG TGC-3'(配列番号:9)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素Bam HIサイト。)
リバースプライマー(hcy-D1 R1): 5'-ATA CTC GAG GAT GTC CAC GCT CCG CAC GTC-3'(配列番号:10)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
【0055】
<サイクリンE増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hcy-E F1): 5'-ATA AGA TCT ATG AAG GAG GAC GGC GGC GCG-3'(配列番号:11)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(AGA TCT)は制限酵素Bgl IIサイト。)
リバースプライマー(hcy-E R1): 5'-ATA CTC GAG CGC CAT TTC CGG CCC GCT GCT-3'(配列番号:12)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素Xho Iサイト。)
【0056】
<サイクリンB増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hcy-B F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GCG CTC CGA GTC ACC AGG-3'(配列番号:13)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
リバースプライマー(hcy-B R1): 5'-ATA CTC GAG CAC CTT TGC CAC AGC CTT GGC-3'(配列番号:14)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素Xho Iサイト。)
【0057】
<CDK1増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hCDK1 F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GAA GAT TAT ACC AAA ATA-3'(配列番号:15)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素Bam HIサイト。)
リバースプライマー(hCDK1 R1): 5'-ATA CTC GAG ACT CTT CTT AAT CTG ATT GTC-3'(配列番号:16)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
【0058】
<CDK2増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hCDK2 F1): 5'-ATA GGA TCC ATG GAG AAC TTC CAA AAG GTG-3'(配列番号:17)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素Bam HIサイト。)
リバースプライマー(hCDK2 R1): 5'-ATA CTC GAG TCA GAG TCG AAG ATG GGG TAC-3'(配列番号:18)(5’側3つの塩基(ATA)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5'側4番目から9番目(CTC GAG)は制限酵素XhoIサイト。)
【0059】
<CDK4増幅用プライマー>
フォワードプライマー(hCDK4 F1): 5'-CAT GGA TCC ATG GCT ACC TCT CGA TAT GAG-3'(配列番号:19)(5’側3つの塩基(CAT)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5’側4番目から9番目(GGA TCC)は制限酵素BamHIサイト。)
リバースプライマー(hCDK4 R1): 5'-CAT GTC GAC CTC CGG ATT ACC TTC ATC CTT-3'(配列番号:20)(5’側3つの塩基(CAT)は制限酵素処理を円滑に行わせるためのもの。5’側4番目から9番目(GTC GAC)は制限酵素SalIサイト。)
【0060】
(b) 鋳型DNAの調製
サイクリン、 CDKの全長cDNAをPCR法で増幅するための鋳型として、ヒト乳癌由来のZR75-1細胞のcDNAを用いた。まず、cDNAを作製するため、ZR75-1細胞よりフェノール−チオシアン酸グアニジン法(ニッポンジーン、ISOGEN)を用いて全RNAを抽出、精製した。抽出した全RNAを基にオリゴdTまたはオリゴランダムプライマーを用いてcDNAを合成した(逆転写反応)。
【0061】
(c) PCR反応の条件
PCR反応は以下の3段階の条件で行った。
1; 95℃5分間(変性)、52℃1分間(アニール)、72℃2分間(伸長)を1サイクル
2; 94℃30秒間(変性)、62℃30秒間(アニール)、72℃2分間(伸長)を35サイクル
3; 72℃10分間を1サイクル
【0062】
(d) ベクターへのクローニングと組み換えバキュロウイルス液の調製
増幅された各PCR産物をそれぞれ対応する制限酵素で消化した。制限酵素消化DNAをアガロースゲルで電気泳動した後、Geneclean (BIO101社製)で精製した。精製DNAを予めPCR産物の両末端と同じ制限酵素により消化したpFASTBACHTベクター(GIBCO BRL社製)へライゲーションした後、「Molecular Cloning (Sambrook et al., 第二版 (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)」の方法に従って大腸菌(DH5α)株を形質転換し、複数のシングルコロニーを取得した。シングルコロニーから採取した、精製したpFASTBACHTベクター(pFASTBAC-n6his-hcyD、pFASTBAC-n6hishcyE、pFASTBAC-n6his-hcyB、pFASTBAC-n6his-hCDK1、pFASTBAC-n6his-hCDK2、pFASTBAC-n6his-hCDK4)を大腸菌(DH10BAC株)へトランスフォーメーションし、Luria 寒天プレート (10g/L ペプトン、5g/L 酵母抽出物、10g/L NaCl、12g/L寒天、200μg/ml X-Gal、40μg/ml IPTG、10μg/ml テトラサイクリン、7μg/ml ゲンタマイシン、50μg/ml カナマイシン)上で生育させた。DH10BAC内では、部位特異的トランスポジションによって、pFASTBACHT内の発現カセットがバクミド DNAへ転移する。転移の起きたシングルの白いコロニーから組み換えバクミドDNAを精製した。組み換えバクミドDNAをCELL FECTIN (GIBCO BRL)を用いてSf9細胞のトランスフェクションを行った。組み換えバキュロウイルスは培養液中に産出されるので、約1週間後に培養液を遠心分離し、その上清をウイルス液とした。以上の操作は基本的にBAC-TO-BAC Baculovirus Expression System (GIBCO BRL社製)により行った。
【0063】
(e) 塩基配列の確認
「Molecular Cloning(前記)」の方法に従い、pFASTBAC-n6his-hcyD、pFASTBAC-n6his-hcyE、pFASTBAC-n6his-hcyB、pFASTBAC-n6his-hCDK1、pFASTBAC-n6his-hCDK2、pFASTBAC-n6his-hCDK4)を精製した。それらのインサートDNAの塩基配列の決定をサンガー法に基づき、オートシークエンサーで行った。インサートDNAの配列とデータベース上に公開されている配列を比較し、クローニングされたcDNAがそれぞれ、サイクリンD1、サイクリンB、サイクリンE、CDK1、CDK2、CDK4であることを確認した。
【0064】
(f) 組み換えタンパク質の精製
Sf9細胞を75cm2のフラスコにほぼコンフルエントな状態にまで培養し、その培養液に組み換えバキュロウイルス液を加えた。感染後3〜4日目に細胞を氷冷PBSに懸濁し、遠心洗浄を行った。細胞をHGNバッファー(-DTT)に懸濁し、氷冷しながら超音波処理を行った。続いて遠心分離を行い、得られた上清を可溶性画分とし精製に用いた。pFASTBACHTベクターの発現カセットではN末端側に6つのHis残基(6xHis)が付加される。抽出液の一部を用いてウエスタンブロットを行った後、抗5xHis抗体(GIAGEN社製)によりタンパク質の発現を確認した。可溶性分画をNi-キレーティングセファロースカラム(Pharmacia社製)に通し、6xHis-Tagを介して組換えタンパク質をカラムに吸着させた。6xHis-TagはNi2+と錯体を形成するため、カラムのNi2+に組み換えタンパク質が吸着する。カラムをHGNバッファー(-DTT)で洗浄した後、組み換えタンパク質をエリューションバッファー(50mM〜1 Mイミダゾール、0.5M NaCl、20mM Tris-HCl pH7.9)で溶出した。その際のイミダゾールの濃度は、10mM、25mM、50mM、100mM、250mM、500mM、1Mと段階的に変化させて溶出を行った。
各イミダゾール画分について、ウエスタンブロットで抗5xHis抗体により検出される組み換えタンパク質が存在する画分を透析液(50mM HEPES (pH7.5)、1mM DTT、1mM EDTA (pH8.0)、50%グリセロール)に対して一晩透析した。
透析後のサンプルをMonoQカラム(Pharmacia社製)に通した。FPLC(Pharmacia社製)を用いて吸着されたタンパク質を、0〜1M NaClを含む10mM Tris-HCl (pH7.5)、1mM DTT、10%グリセロールで濃度勾配をかけながら溶出させた。ウエスタンブロットで抗5xHis抗体により検出された組み換えタンパク質が存在する画分について透析液に対して透析を行った。
【0065】
〔実施例3〕 ELISAによるサイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1活性測定系
(1) 活性測定用基質の作製
サイクリン/CDK複合体の基質として様々な分子が知られているが発癌との関係で最も興味深いRBタンパク質を基質として選択した。ヒトRBタンパク質のアミノ酸配列307aa-405aa、540aa-645aa、および723aa-833aaをコードするcDNA配列を、発現ベクターpGEXに組み込み、大腸菌内でグルタチオン‐s‐トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させた。発現させたそれぞれの産物を、アミノ酸配列順にGST-pRB1、GST-pRB2、GST-pRB3と名付けた。
pGEXベクターでは、組み換えタンパク質は、GSTとの融合タンパク質として作られる。このGST酵素がグルタチオン(GSH)に対してアフィニティーを持っていることを利用して、組み換えタンパク質の精製を行った。組み換えタンパク質の発現を確認した後、その菌体を1%Tween20-PBSに懸濁後、超音波処理により菌体を破砕した。高速遠心後、上清を組み換えタンパク質を含む可溶性分画とした。この可溶性分画をGSH-セファロース4Bカラム(Pharmacia社製)に通し、GST-p53(1-99)タンパク質をカラムに吸着させた。カラムをWEバッファー(10mM 2-メルカプトエタノール、2mM MgCl2、20mM Tris-HCl pH7.5)で洗浄後、組み換えタンパク質をGバッファー(10mM GSH、50mM Tris-HCl pH9.6)を用いて溶出した。溶出された各発現蛋白は50mM Tris-HCl (pH 8.0)、50%グリセリンに対して透析した。
【0066】
(2) 基質感作プレートの作製
GST-pRB1、GST-pRB2、GST-pRB3を20μg/mlになるようにPBSで希釈し、ELISA用マイクロタイタープレートに1ウェルあたり50μlづつ分注して、4℃で一晩感作した。感作後、1%BSA-0.1% Tween20-PBSを1ウェルあたり200μlずつ分注し、室温で1時間以上ブロッキングを行った。
【0067】
(3) リン酸化反応
サイクリン/CDK用反応バッファー(50mM HEPES、15mM MgCl2、1mM DTT、0.02% Triton X、1mM EGTA、5mM ATP)中に各酵素(組み換えサイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1)を1アッセイあたり約100ngとなるように加え固相プレートに分注(50μl/ウェル)。30℃で1時間、インキュベーションした。
【0068】
(4) 抗原抗体反応
一次反応: PBSで5回洗浄後、各50倍希釈した抗リン酸化モノクローナル抗体T356 (1C2)、S612 (3C12)、S780 (2C4)、S812 (5H12)をウェルあたり100μlずづ分注し、室温で1時間インキュベーションした。
二次反応: PBSで10回洗浄後、40000倍希釈したHRP標識抗マウスIgG (Immunotech社製)をウェルあたり100μlずつ分注し、室温で1時間インキュベーションした。
発色: PBSで5回洗浄後、TMB(Tetramethylbentidine)をウェルあたり100μlずつ分注し、室温で30分間発色させた後、1.5N H3PO4をウェルあたり100μlずつ分注し反応を停止させた。
【0069】
(5) 測定結果
表2で示すように、発現させた各サイクリン/CDK複合体の活性を感度よく検出することが可能であった。
【0070】
【表2】
【0071】
〔実施例4〕Cyclin D1/CDK 阻害剤スクリーニングシステムの構築
<ELISA法>
1)抗体感作条件
抗リン酸化RBモノクロナル抗体には、クローン1C12 (Thr356特異的)、クローン4E4 (Ser612 特異的)、クローン2C4 (Ser780 特異的)を用いた。各抗リン酸化RB抗体をPBSで10μg/mlに希釈し、マイクロプレート各ウェルに100μlづつ添加し、4℃で15時間インキュベーションした。抗体溶液を振り払った後、2.5%BSAを含むPBS(5% sucrose, 0.1%NaN3)中で、4℃、24時間ブロッキングした。風乾の後測定に供した。
【0072】
2)リン酸化反応
基質には、RBアミノ酸配列301aa-928aaを大腸菌内でGST fusion 蛋白として発現させ、グルタチオンセファロース、フォスフォセルロース(P11)を用いて精製したものを用いた(RB301)。Cyclin/CDKには、Cyclin D1/CDK4、Cyclin A/CDK2、Cyclin E/CDK2、Cyclin B/CDK1各々バキュロバイラスを用いて、sf9内で発現させ、コバルトカラム、フォスフォセルロース(P11)を用いて精製したものを用いた。
リン酸化バッファー(50mM HEPES, 0.05% triton X, 15mM MgCl2, 2mM EGTA, 200μg/ml BSA)にRB301(10μg/ml)、100μM ATP、Cyclin/CDKを添加し(最終容量 180μl)、30℃で30分反応させた後、PBS(10%スキムミルク、350mM NaCl, 50mM EDTA)を各アッセイあたり180μl加えて反応を停止させた。
【0073】
3)反応
リン酸化反応終了後、反応液を100μlづつ抗体感作プレートに添加し、室温で1時間インキュベーションした(一次反応)。洗浄ビンで5回洗浄(洗浄液/PBS (500mM NaCl, 0.1% Tween20)の後、0.5μg/ml 抗GSTポリクロナル抗体をマイクロプレートの各ウェルに100μl づつ添加し、室温で1時間インキュベーションした(二次反応)。洗浄ビンで5回洗浄(洗浄液/PBS (500mM NaCl, 0.1% Tween20)の後、20000倍希釈HRP標識抗ラビットIgG抗体をマイクロプレートの各ウェルに100μlづつ添加し、室温で30分インキュベーションした(三次反応)。その後、TMB(Tetramethylbentidine)を用いて、室温で30分発色させた(発色反応)。
【0074】
<RI法>
上記ELISA法と同様に0.3μciγ-32P-ATPによるリン酸化反応を行った後、10%TCA、0.2%ピロリン酸ナトリウムで反応を停止させた。不溶化した基質をグラスフィルターに吸着させ、2%TCA, 0.02%ピロリン酸ナトリウムで洗浄の後、放射線量をカウントした。
図1にELISA法によるリン酸化反応測定結果について示す。いずれの酵素、リン酸化サイトの組み合わせにおいても、酵素の量に依存したOD値を上昇を認め、その反応曲線はなめらかなシグモイドカーブを描いた。このことから、本発明で構築したELISA系は、Cyclin/CDKのリン酸化活性を良好に測定できるものと考えられた。精製した4種類の酵素の間で、各サイトに対するリン酸化活性を比較すると、酵素によってリン酸化サイトに対する選択性のあることが示された。Cyclin A/CDK2, Cyclin E/CDK2はThr356, Ser612に、Cyclin D1/CDK4はSer780に選択性がみられた。また、Cyclin B/CDK1はSer612に選択性がみられた。RI法との間で、感度の比較を行ったところ、RI法と同等以上であることが示された(図10)。特に、Cyclin A/CDK2, Cyclin E/CDK2においてはELISA法はRI法に比較して、10倍程度感度が高いものと考えられた。
次に本ELISA系を用いて、阻害剤の阻害効果の判定が可能であるかどうか市販の薬剤を使って検討した。
薬剤としては、cdc2, cdk2 選択的阻害剤である Olomoucine(IC50=7μM)、Roscovitine(IC50=700nM)、リン酸化酵素全般的な阻害剤であるK252a(PKCに対するKi=25nM)、MEKに対する阻害剤U0126(IC50=55nM/ cdk2,4 に対しては>10μM)、Olomoucine-isomer(Olomoucineに対する陰性コントロール)の5種類を使用した。
図2〜図5にK252a、Olomoucine、Roscovitineの阻害効果についてELISA法で検討した結果を示した。いずれの阻害剤を用いた場合においても阻害剤添加濃度依存的にOD値の低下をみた。Olomoucine、RoscovitineのIC50は公示の値ではそれぞれ7μM、700nMであるが、本発明における検討では、この値より10倍近く高くなった。
これは、これら阻害剤がATP拮抗剤であるため、アッセイ系に用いるATP濃度によって値が異なるためと考えられる。論文上の報告(Inhibition of cyclin-dependent kinases by prine analogues. Vesely J., Havliek L., Stnad M., Blow JJ., Donella-Deana A., Pinna L., Letham DS., Kato J., Detivaud L., Leclerc S., et al. Eur. J. Biochem. 1994 Sep. 1 224:2 771-86 )では、ATPの濃度が15μM、使用している基質がhistoneH1であるのに対し、本発明において検討したELISA系ではATP濃度が100μM、基質がRBであることも原因ではないかと考えられる。
またOlomoucine、Roscovitineはcdc2、cdk2選択的阻害剤で、cdk4に対しては阻害効果が著しく弱いことが報告されている (Biochemical and cellular effect of roscovitine,, a potent and selective inhibitor of the cyclin-dependent kinases cdc2, cdk2 and cdk5. Meijer L., Borgne A., Mulner O., Chong JP., Blow JJ., Inagaki M., Delcros JG., Moulipoux JP., Eur J. Biochem. 1997 Jan 15 243:1 -2 527-39)。本発明における検討結果はこの報告を反映したものとなった(Cyclin D1/CDK4に対する阻害効果は他の3種類に比べて低い)。また、阻害効果の期待できないOlomoucine-isomer、U0126においては、検討した濃度の範囲内では、ほとんど、OD値の低下はみられなかった(図6〜図9)。
さらに、RI法と同様な阻害効果の判定が可能かどうか、Olomoucine、Roscovitine、Olomoucine-isomerを用いて、ELISA法と、RI法の間で阻害効果の判定について比較したところ、図11〜13に示すように、ほぼ同様の阻害曲線を得ることができた。
以上のことから、本発明で構築したELISAのシステムは、阻害剤のスクリーニング方法として有用であることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
実施例に示したように、抗リン酸化ペプチド特異抗体を用いたELISA法によって、サイクリンD1/CDK4、サイクリンE/CDK2、サイクリンB/CDK1の酵素活性を測定することができた。これまでこれら酵素の活性測定では、RIである32Pで標識されたγ-32P-ATPを用いるために、廃液の処理といった手続きや特別な施設等を必要とした。これに対して本発明による測定方法ではRIを使用せず、しかも十分な感度を持った測定方法を実現することができる。加えて本発明は、リン酸化部位を特異的に認識する抗体の利用により、複数種のサイクリン/CDK複合体が共存する試料に含まれる、特定の複合体の活性のみを特異的に測定することを可能とした。
またこの測定方法をサイクリン/CDK複合体の活性調整剤のスクリーニング方法に応用すれば、簡便で迅速なスクリーニングを通常の実験室で行うことが可能である。更に、本発明に基づくスクリーニング方法は、各種の化学合成物質、細胞や細菌の抽出液、あるいは培養上清のような、幅広い候補化合物に対して適用することができる。したがって、本発明のスクリーニング方法は、サイクリン/CDK複合体の酵素活性を調整する化合物のスクリーニングにおいて、きわめて有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む、試料中のサイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質またはその部分ペプチドに対するリン酸化酵素活性の測定方法。
(a)RBタンパク質基質と試料とを、リン酸化酵素によるリン酸化反応に必要な条件下で接触させる工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【請求項2】
以下の工程を含む、サイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質に対するリン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)サイクリン/CDK複合体、およびRBタンパク質基質とを、被検化合物の存在下、リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の非存在下における基質のリン酸化のレベルと比較して、基質のリン酸化のレベルの変化を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程
【請求項3】
以下の工程を含む、試料中のリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性の測定方法であって、前記リン酸化されたRBタンパク質が、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたものである方法。
(a)リン酸化されたRBタンパク質基質と試料とを、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【請求項4】
以下の工程を含む、リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)前記リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素、およびリン酸化されたRBタンパク質基質を、被検化合物の存在下、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質の脱リン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の被存在下における基質の脱リン酸化のレベルと比較して、基質の脱リン酸化レベルの変化を低下もしくは増加させる化合物を選択する工程
【請求項5】
サイクリンが、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、およびサイクリンEで構成される群から選択されるいずれかのサイクリンである、請求項1−4のいずれかに記載の測定方法。
【請求項6】
CDKが、CDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6で構成される群から選択されるいずれかのCDKである、請求項1−4のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
サイクリン/CDK複合体が、以下の群から選択されるいずれかの組み合わせからなる請求項1−4のいずれかに記載の測定方法。
サイクリンA/CDK1、
サイクリンA/CDK2、
サイクリンB/CDK1、
サイクリンD1/CDK4、
サイクリンD1/CDK6、
サイクリンD2/CDK4、
サイクリンD2/CDK6、
サイクリンD3/CDK4、
サイクリンD3/CDK6、および
サイクリンE/CDK2
【請求項8】
リン酸化酵素がサイクリンD1/CDK4であり、抗体がRBタンパク質の780位セリンのリン酸化状態を識別しうるものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リン酸化状態を識別することができる抗体が、そのリン酸化部位を識別しうるものであり、異なる部位をリン酸化する複数のサイクリン/CDK複合体が共存する試料に含まれるサイクリン/CDK複合体の活性を個別に測定する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗体が、リン酸化されていないRBタンパク質基質よりも、リン酸化されたRBタンパク質基質との反応性が高いものである請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
抗体が、リン酸化されたRBタンパク質基質よりも、リン酸化されていないRBタンパク質基質との反応性が高いものである請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
RBタンパク質基質が標識されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
RBタンパク質基質が固相化されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
抗体が標識されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
RBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価をELISA法により行う、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項2に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素の活性調整剤。
【請求項17】
請求項4に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化されたタンパク質に対する脱リン酸化酵素の活性調整剤。
【請求項18】
天然由来である、請求項16または17のいずれかに記載の活性調整剤。
【請求項19】
RBタンパク質、またはヒト以外の種におけるそのホモログの被リン酸化部位を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む、請求項1−4のいずれかに記載の方法に用いるための抗体作成用免疫原。
【請求項20】
被リン酸化部位がリン酸化されている請求項19に記載の免疫原。
【請求項21】
被リン酸化部位が、ヒトRBタンパク質における356位のスレオニン、612位のセリン、780位のセリン、および807位のスレオニンからなる群から選択される少なくとも1つである請求項19または20のいずれかに記載の免疫原。
【請求項22】
被リン酸化部位が、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、および配列番号:8のいずれかからなるアミノ酸配列から選択される請求項21に記載の免疫原。
【請求項23】
RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別する抗体を含む、請求項1−4に記載のいずれかの方法のためのキット。
【請求項1】
次の工程を含む、試料中のサイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質またはその部分ペプチドに対するリン酸化酵素活性の測定方法。
(a)RBタンパク質基質と試料とを、リン酸化酵素によるリン酸化反応に必要な条件下で接触させる工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【請求項2】
以下の工程を含む、サイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質に対するリン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)サイクリン/CDK複合体、およびRBタンパク質基質とを、被検化合物の存在下、リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の非存在下における基質のリン酸化のレベルと比較して、基質のリン酸化のレベルの変化を低下もしくは上昇させる化合物を選択する工程
【請求項3】
以下の工程を含む、試料中のリン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性の測定方法であって、前記リン酸化されたRBタンパク質が、サイクリン/CDK複合体によってリン酸化されたものである方法。
(a)リン酸化されたRBタンパク質基質と試料とを、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質のリン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
【請求項4】
以下の工程を含む、リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素活性を阻害もしくは促進する化合物のスクリーニング方法。
(a)前記リン酸化されたRBタンパク質に対する脱リン酸化酵素、およびリン酸化されたRBタンパク質基質を、被検化合物の存在下、脱リン酸化反応に必要な条件下で接触させインキュベートする工程
(b)RBタンパク質基質の脱リン酸化レベルの変化を、前記基質のリン酸化状態を識別しうる抗体との反応性の変化に基づいて検出する工程
(c)被検化合物の被存在下における基質の脱リン酸化のレベルと比較して、基質の脱リン酸化レベルの変化を低下もしくは増加させる化合物を選択する工程
【請求項5】
サイクリンが、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、およびサイクリンEで構成される群から選択されるいずれかのサイクリンである、請求項1−4のいずれかに記載の測定方法。
【請求項6】
CDKが、CDK1、CDK2、CDK4、およびCDK6で構成される群から選択されるいずれかのCDKである、請求項1−4のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
サイクリン/CDK複合体が、以下の群から選択されるいずれかの組み合わせからなる請求項1−4のいずれかに記載の測定方法。
サイクリンA/CDK1、
サイクリンA/CDK2、
サイクリンB/CDK1、
サイクリンD1/CDK4、
サイクリンD1/CDK6、
サイクリンD2/CDK4、
サイクリンD2/CDK6、
サイクリンD3/CDK4、
サイクリンD3/CDK6、および
サイクリンE/CDK2
【請求項8】
リン酸化酵素がサイクリンD1/CDK4であり、抗体がRBタンパク質の780位セリンのリン酸化状態を識別しうるものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リン酸化状態を識別することができる抗体が、そのリン酸化部位を識別しうるものであり、異なる部位をリン酸化する複数のサイクリン/CDK複合体が共存する試料に含まれるサイクリン/CDK複合体の活性を個別に測定する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗体が、リン酸化されていないRBタンパク質基質よりも、リン酸化されたRBタンパク質基質との反応性が高いものである請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
抗体が、リン酸化されたRBタンパク質基質よりも、リン酸化されていないRBタンパク質基質との反応性が高いものである請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
RBタンパク質基質が標識されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
RBタンパク質基質が固相化されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
抗体が標識されている、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
RBタンパク質基質のリン酸化レベルの評価をELISA法により行う、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項2に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素の活性調整剤。
【請求項17】
請求項4に記載のスクリーニング方法により単離することができる化合物を主成分として含む、サイクリン/CDK複合体のタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化されたタンパク質に対する脱リン酸化酵素の活性調整剤。
【請求項18】
天然由来である、請求項16または17のいずれかに記載の活性調整剤。
【請求項19】
RBタンパク質、またはヒト以外の種におけるそのホモログの被リン酸化部位を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む、請求項1−4のいずれかに記載の方法に用いるための抗体作成用免疫原。
【請求項20】
被リン酸化部位がリン酸化されている請求項19に記載の免疫原。
【請求項21】
被リン酸化部位が、ヒトRBタンパク質における356位のスレオニン、612位のセリン、780位のセリン、および807位のスレオニンからなる群から選択される少なくとも1つである請求項19または20のいずれかに記載の免疫原。
【請求項22】
被リン酸化部位が、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、および配列番号:8のいずれかからなるアミノ酸配列から選択される請求項21に記載の免疫原。
【請求項23】
RBタンパク質基質のリン酸化状態を識別する抗体を含む、請求項1−4に記載のいずれかの方法のためのキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−234720(P2011−234720A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127868(P2011−127868)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2001−515972(P2001−515972)の分割
【原出願日】平成12年8月3日(2000.8.3)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2001−515972(P2001−515972)の分割
【原出願日】平成12年8月3日(2000.8.3)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】
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