説明

サイクロン分離器

【課題】本体容器の長さを抑制することができると共に、分離対象物を確実に分離することができるサイクロン分離器を提供する。
【解決手段】中心軸が垂直に設置される円筒状の本体容器1と、本体容器1の軸方向上端側に、本体容器の円周壁面に対して接線方向に設けられ、分離対象物が含まれる流体を導入する流入管7と、分離対象物が分離された流体が流出される流出管10と、本体容器1の軸方向下端側に、本体容器1の円周壁面に対して接線方向に設けられ、分離対象物を排出させる排出管9と、本体容器1内に本体容器1と同軸に設けられ、上端側に開口部6cが下端側に流出管10が夫々設けられると共に、下端側が流出管10と連結される筒状のサイクロンエレメント6とを備え、サイクロンエレメント6の外表面には軸方向上側にいくほど大径のテーパ面が形成され、このテーパ面にリング状の突出部6dが設けられており、分離対象物が外表面に沿って上昇することを抑制可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流入管から流入された分離対象物を含む流体から分離対象物を除去して流出するためのサイクロン分離器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるサイクロン分離器は、多様な産業分野で用いられている。例えば、化学プラントや食品プラントにおける反応生成物、未反応物、晶析の後工程で、固体と液体の分離を行う場合に必要である。また、火力、水力、原子力発電や、製鉄、化学、製紙などの産業、上下水処理、廃棄物リサイクル、農業における水処理では、水から異物を分離除去する場合に必要である。
【0003】
また、空気中の粉塵除去は、工場における製造される製品の品質の面や、作業環境を良好に維持するという面で要求され、気体(空気)と固体あるいは液体との分離が製造工程において必要となる。更に、空気やガス中の固体と液体の分離は、燃焼、化学反応、粉砕、輸送工程において必要である。また、環境保全のために空気中あるいは液体中の粉塵除去、原材料純度向上、加工に障害となる微粉末除去などのために気液分離が必要となる。更に、空気やガス中における固体や液体の分離は、燃焼、化学反応、粉砕、輸送工程で必要となってくる。
【0004】
以上のように、気体や液体(これらは流体に相当)から分離対象物を分離することを目的とした装置として、サイクロン分離器が知られている。この装置は、旋回流を発生させて遠心力により、分離対象物を流体から分離するように構成されている。
【0005】
かかるサイクロン分離器の一例として、下記特許文献1に示すサイクロン分離器がある。この装置は、ガス流中に浮遊する微粉状物質を分離するものであり、垂直軸線を備えた円筒状のチャンバと、チャンバの底部において下向きにテーパを有する沈殿物質の出口と、チャンバの頂部に設けられたガスの中央出口と、ガス流をチャンバの側壁の上方部分に導入する接線方向に配置された入口ダクトと、ガス流を下向きに変える偏向力を与える手段を備えている。
【0006】
また、下記特許文献2に開示されるサイクロン式のオイル分離装置は、ガス流に含まれるオイルを分離除去することを目的とし、円筒状の本体容器と、円筒状の本体容器の上部に配置されるテーパ管と、このテーパ管の近傍に配置され、本体容器の接線方向からガスを流入するための流入管と、本体容器の下部に設けられた下向きにテーパを有する部分と、本体容器の最下部に配置される収集ホッパと、本体容器の上部に設けられたガス出口管とを備えている。
【0007】
さらに、下記特許文献3に開示される液体サイクロン形分離装置は、液体中の固形異物を遠心力により分離することを目的とし、円筒状の本体容器と、この本体容器の下部に配置されるテーパ部と、本体容器の上端部に設けられる流入管と、テーパ部の下端に設けられた異物流出口と、本体容器の上端中央に設けられた流出管とを備えている。
【0008】
【特許文献1】特許2690319号公報
【特許文献2】特表2002−540338号公報
【特許文献3】特開平1−176464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術における課題について説明する。これら特許文献1,2,3においては、本体容器の下部に下向きにテーパを有するテーパ容器部分(逆円錐形部分)が設けられており、その最下部の尖端から遠心分離した分離対象物を下降させて排出させているが、かかる構成はテーパ容器部分を長くしなければならないという問題点を有している。流入管から流入した流体は旋回しながら下降し、分離対象物は遠心力により分離されながら下降するが、上記逆円錐形のテーパ角度が大きいと、その容器壁面位置を旋回する分離された分離対象物がテーパに沿って上昇(逆流)しようとする力が作用するためである。従って、テーパ容器部分のテーパ角度は小さくする必要があり、その結果、テーパ容器部分の長さが長くなるという問題点が生じる。従って、大きな能力が必要とされるサイクロン分離器の設置に際して、屋内天井高さの制約がある場合や屋内設置が困難な場合は、長さの長い配管や能力の大きなポンプ、送風機の設置が必要となり、動力損失の多大なものとなっている。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、本体容器の長さを抑制することができると共に、分離対象物を確実に分離することができるサイクロン分離器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明に係るサイクロン分離器は、
中心軸が垂直に設置される円筒状の本体容器と、
本体容器の軸方向上端側に、本体容器の円周壁面に対して接線方向に設けられ、分離対象物が含まれる流体を導入する流入管と、
分離対象物が分離された流体が流出される流出管と、
本体容器の軸方向下端側に、本体容器の円周壁面に対して接線方向に設けられ、分離対象物を排出させる排出管と、
本体容器内に本体容器と同軸に設けられ、上端側に開口部が下端側に前記流出管が夫々設けられると共に、下端側が前記流出管と連結される筒状のサイクロンエレメントとを備え、
このサイクロンエレメントの外表面には軸方向上側にいくほど大径のテーパ面が形成されており、このテーパ面にリング状の突出部が設けられており、分離対象物が前記外表面に沿って上昇することを抑制可能に構成したことを特徴とするものである。
【0012】
この構成によるサイクロン分離器の作用・効果を説明する。円筒状の本体容器を有しており、軸方向上端側に、本体容器の円周壁面に対して接線方向に設けられる流入管を備える。接線方向から流入されるため、流体は本体容器の内部で旋回流を形成する。本体容器と同軸にサイクロンエレメントが設けられており、その外表面にはテーパ面が形成される。このテーパ面は、軸方向上側ほど大径であるため、流入管から導入された流体がこのテーパ面に衝突すると、流体は本体容器の軸方向下側へと偏向される。このテーパ面の作用により、流体は旋回しながら本体容器の下方向、すなわち、排出管の設けられている方向へと移動する。また、この旋回時の遠心力の作用により、流体に含まれる分離対象物(流体よりも高比重の液体あるいは固体)は、本体容器の内壁面に凝集された状態で排出管の方向へ移動していく。排出管は、本体容器の軸方向下端側に円周壁面に対して接線方向に取り付けられており、内壁面に凝集された異物は、旋回流の旋回力により排出管から流体と共に排出される。サイクロンエレメントはその上端側に開口部が設けられ、この開口部の位置は流入管の位置よりも上方である。従って、流入管から流入した流体は、直接この開口部に向かうのではなく、いったんテーパ面により下方に偏向されて分離対象物が除去されてから、開口部内に入り、サイクロンエレメントと接続された流出管から分離対象物が除去された形で流出されることになる。
【0013】
一方、旋回流の性質について説明すると、流入管から流入した直後では、本体容器の内壁面に近い位置が最も高速に旋回する強制渦となっており、テーパ面の作用で旋回流が軸方向下側に移動するほど自然渦に近くなっていく。自然渦は、強制渦とは逆に渦中心が高速で中心から離れるほど低速になる。従って、流入管の近傍では強制渦であるが、下方に向かうほど自然渦と強制渦の複合したランキン渦となり、より下方に向かうほど自然渦の性質が強くなる。圧力の大きさの面で比較すると、内壁面の近傍では、上記渦の性質の違いにより上方が高圧で下方が低圧となる。従って、流体はこの圧力差によっても下方に移動しようとする。逆に渦中心でみると、本体容器の開口部では自然渦に近づくため、下方が高圧で上方が低圧の状態となる。従って、渦中心で見れば、流体は上方に向かおうとし、分離対象物も上方へ移動しようとするが、実際には渦の中心にはサイクロンエレメントが存在しているため、自然渦による弊害、すなわち、分離対象物が上方へ移動しようとする状態を緩和することができる。
【0014】
更に、仮に除去し切れなかった分離対象物がサイクロンエレメントの外表面に沿って上昇しようとしたとしても、サイクロンエレメントのテーパ面には、リング状の突出部が設けられており、分離対象物が上昇する時の障壁として機能する。これにより、分離対象物の分離確率をより高めることができる。また、本発明の構成によれば、本体容器の下部にさらにテーパ状の容器を設ける必要がなく、分離対象物を確実に分離除去することが可能である。その結果、本体容器の長さを抑制することができると共に、分離対象物を確実に分離することができるサイクロン分離器を提供することができる。
【0015】
なお、本発明において、本体容器の上端側及び下端側という用語を使用しているが、本体容器を高さ方向の真ん中で水平線により2つの領域に分けて、この水平線より上側を上端側とし水平線より下側を下端側であると定義する。
【0016】
本発明において、サイクロンエレメントは前記テーパ面の上側及び/又は下側に円筒面が設けられていることが好ましい。
【0017】
例えば、サイクロンエレメントのテーパ面の上側に円筒面を設ける。テーパ面のみの構成に比べて円筒面を追加して設けることで、強制渦となる領域を増やすことができる。前述したように、旋回流の性質は下方に行くほど強制渦から自然渦へと移行していくわけであるが、円筒面を上側に設けることで、強制渦の領域が増えるため、特に、分離対象物の比重と流体の比重の差が少ないような場合であっても、あるいは、分離対象物の粒径が小さい場合であっても、確実に分離させることができる。
【0018】
また、サイクロンエレメントのテーパ面の下側に円筒面を設けることで、テーパ面の角度を小さくする(より垂直に近くなる)ことなく、本体容器の下部の容積比率を高くすることができる。従って、例えば、多量の分離対象物が発生する場合、すなわち、流体中の分離対象物の濃度が高い場合には効率よく異物を排出管から排出させることができる。また、上記構成によれば、テーパ面の角度を大きく取れることにより、流入管から流入した流体を下方向に強く偏向することができ、分離対象物の量が多かったり、濃度が高い場合には確実に分離することができる。
【0019】
本発明において、サイクロンエレメントの上側に、テーパ管が設けられ、このテーパ管は軸方向上側に行くほど大径の第2テーパ面が形成されており、
テーパ管の下端側とサイクロンエレメントの上端側に間に形成される隙間を介して分離対象物が除去された流体がサイクロンエレメントの内部から流出管へと移動するように構成し、かつ、第2テーパ面に対して流入管が向かい合うように配置されていることが好ましい。
【0020】
かかるテーパ管をサイクロンエレメントとは別に、サイクロンエレメントの上端側に設ける。テーパ管に形成されているテーパ面の作用により、流入管から流入した流体は下方へと偏向される。かかるテーパ管を設けることで、流入管から流入した流体が旋回することなく、直接サイクロンエレメントの上方の開口部から流出管へと向かうことを抑制することができる。また、サイクロンエレメントよりも大径のテーパ管であることから、流入した流体を下方及び内壁面側に偏向させることができ、分離対象物の分離効率を高めることができる。
【0021】
本発明において、本体容器と流入管の接合部に、流入管内壁面から張り出す張り出し手段を設け、この張り出し手段により、流入される流体がサイクロンエレメントに向かうことを抑制することが好ましい。
【0022】
かかる張り出し手段を設けることで、流入した流体のより多くを本体容器の内壁面側に向かわせることができる。また、流入口の面積を絞ることになるため、流入速度を上げることができる。これにより、旋回流の旋回速度をより高めることができ、分離対象物の分離効率を高めることができる。
【0023】
本発明において、サイクロンエレメントの上側内部に流体の旋回を規制する旋回規制手段を設けたことが好ましい。
【0024】
かかる旋回規制手段を設けることで、サイクロンエレメント内部での旋回を規制することができるため、エレメントの上部の開口部で剪断速度差が発生し、流体の流入を抑止する作用を行う。また、流体と分離対象物の比重差が小さいため両者を分離することが困難な場合に、サイクロンエレメントの容積を大きくする場合に有効である。すなわち、サイクロンエレメントを大きくした場合に、旋回規制手段を設けることで振動防止を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係るサイクロン分離器の好適な実施形態を図面を用いて説明する。
【0026】
<第1実施形態>
<構成>
図1は、第1実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図である。図1(a)は正面図(軸線に垂直な方向の断面図を含む)であり、(b)は側面図(軸線方向に沿った断面図を含む)である。この実施形態は、土砂(分離対象物に相当)の混じった土木工事現場における汚濁水から土砂を除去する目的で使用される。
【0027】
本体容器1は円筒状に形成され、その軸線yは垂直な状態(縦置き)で設置される。本体容器1の上端側にはフランジ1aが設けられており、容器蓋2がボルト・ナット3により結合される。本体容器1の下端側にもフランジ1bが設けられ、底蓋4がボルト・ナット5により結合される。本体容器1は、好ましくは、SS400などの鋼により製作される。本体容器1の内壁面には、防食や摩耗を防止するために、軟質ゴムのライニングが施される。容器蓋2の中央部には排気口3aが設けられており、運転開始時に本体容器1内部の空気をこの排気口3aを介して排出させる。
【0028】
本体容器1と同軸にサイクロンエレメント6が設けられ、テーパ部6aと円筒部6bとが連結された形状に製作されている。テーパ部6aは、上側に行くほど大径となっており、その上端部には開口部6cが形成されている。サイクロンエレメント6は、その円筒部6bが底板4に溶接されることで固定される。サイクロンエレメント6は、本体容器1と同じ金属材料で製作することができる。また、サイクロンエレメント6のテーパ部6aには、リング状の突出部6dが一体的に取り付けられている。突出部6dは、テーパ部6aの下部寄りに取り付けられている。突出部6dの詳細は後述するが、土砂がサイクロンエレメント6の外表面に沿って上昇することを抑制し、確実に排出管9から土砂を排出させる。
【0029】
流入管7は、本体容器1の軸方向一端側(上端側)に、本体容器1の円周壁面に対して接線方向に設けられており、分離対象物である土砂が含まれる水が導入される。流入管7の取り付け高さは、サイクロンエレメント6の開口部6cの高さよりも少し低い位置に設定されている。本体容器1と流入管7の接合部に、堤8(張り出し手段に相当)が設けられており、流入管7から流入した水がサイクロンエレメント6のテーパ部6aに直接向かうことを抑制し、円周壁面の方向に向かわせる。これにより、より強い旋回流を生じさせる。堤8の内面8aは、本体容器1の内壁面と同じ円筒内面を形成している。
【0030】
本体容器1の軸方向他端側(下端側)には、水に含まれる土砂を水と共に排出させるための排出管9が設けられている。排出管9は、本体容器1の円周壁面に対して接線方向に取り付けられている。この接線方向は流入管7と同様に旋回流の順方向に相当し、旋回力を利用して土砂をスムーズに排出させることができる。
【0031】
底板4の中心部には流出管10が取り付けられており、土砂が除去された水が流出される。流出管10はサイクロンエレメント6の円筒部6bと連結されているか、円筒部6bと一体化されている。流入管7、流出管10、排出管9も本体容器1と同じ金属材料で製作することができる。
【0032】
<作用>
流入管7から異物である土砂を含む水が導入されると、流入管7が本体容器1に対して接線方向に取り付けられているため、本体容器1内で旋回流が発生する。また、堤8の作用により、流入された水は、本体容器1の内壁面の方向に偏向させられる。また、堤8により、僅かに下方向にも流れを偏向させられるような形状(例えば、先端部の向きを傾斜させる)に堤8が形成されている。高速の旋回流を発生させるためには、流入される水の流速は1.5m/s以上が必要であるが、流入管7を接線方向にするだけでなく堤8を設けることで、かかる目的を達成可能となる。
【0033】
流入管7内の流速は臨界レイノルズ数を上回る速度となり、従って、乱流状態となるため、流入管7の流入部分での流速分布はほぼ均一となる。この乱流状態の水の運動量をサイクロンエレメント6のテーパ部6aの作用により、強制渦に変換させると共に、下方向への水の流れを発生させる。すなわち、流入管7から流入された水は旋回しながら下方向へ移動していくことになる。この旋回流による遠心力により、水に含まれる土砂は本体容器1の内壁面に濃縮されていく。また、土砂は水よりも高比重であるため、重力の作用と共に、土砂は旋回流により旋回しながら徐々に下方向へと沈降していく。下方向へ移動した土砂は、水の旋回力により、排出管9から水と共に排出される。なお、排出管9は常時開放常態にしておく必要はなく、適宜のタイミングで開放して土砂等の分離対象物を除去するようにしてもよい。
【0034】
また、旋回流は流入管7の近傍では強制渦であるが、下方向に行くに従い自然渦に近づいていく。強制渦は、渦中心から離れるほど高速の旋回流であるが、逆に自然渦は中心が高速となる。従って、本体容器1の底部においては、ランキン渦あるいは自然渦に近い形になっており、水の流速の差により生じる圧力により、底部においてはサイクロンエレメント6の外表面に沿って上昇しようとする流れが生じる。
【0035】
底部においては中心に行くほど高速の旋回流であるため、仮に土砂が中心方向に移動してきた場合は、サイクロンエレメント6の円筒部6bの外表面に遠心力により押し付けられる形となり、上昇はしにくい。サイクロンエレメント6をテーパ部6aと円筒部6bにより構成することで、テーパ部のみで構成した場合に比べて、テーパ部6aのテーパ角度を小さくしすぎないように(垂直に近い方向になりすぎないように)することができる。所定以上のテーパ角度を確保することにより、流入管7から導入された水に対して下方向への偏向力を与えることができる。また、円筒部6bを設けることで、本体容器1の底部における容積を確保することができ、土砂のような高濃度の分離対象物を除去しようとする場合には有用である。
【0036】
高比重の土砂は本体容器1の底部に設けられた排出管9から排出され、土砂が除去された水はサイクロンエレメント6の外表面に沿って上昇しようとする。土砂のような高比重の分離対象物は、排出管9から排出されるが、水との比重差が小さく粒径の小さな分離対象物は残っていることがあり、水と共に外表面に沿って上昇していこうとする。しかし、途中に突出部6dが設けられており、かかる分離対象物は突出部6dの存在により上昇する時の障壁となり、サイクロンエレメント6の開口部6cへと到達することは困難である。これにより、より効果的に水に含まれる分離対象物を分離することができる。
【0037】
本実施形態にかかるサイクロン分離器を土木工事現場の凝集沈殿処理の前工程に用いて土砂を除去する目的で使用した。このサイクロン分離器で土砂を除去することができ、凝集沈殿処理の負荷を軽くすることができた。従って、小さな沈殿設備で大量の汚水処理をすることができた。また、凝集沈殿剤の使用量を少なくすることができ、沈殿処理廃棄物が少なくなるため、産業廃棄物の処理費を安価にすることができる。
【0038】
<第2実施形態>
図2は、第2実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図である。図1に示す構造と同じ機能をする部分には同じ符号を付与し、図1と異なる部分を中心に説明する。この点は、その他の実施形態に関しても同様である。この実施形態は、メッキ工程で酸洗浄に使用する塩酸中に含まれる異物(鉄板の表面酸化物、鉄中のシリカ、炭素などの反応物やスラッジなど)を除去する目的で使用される。
【0039】
<構成>
本実施形態において、本体容器1、フランジ1c,1d、流入管7、流出管10、排出管9は、ガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂(昭和高分子社製のリポキシH600)を使用して製作した。この材料は耐酸性に優れているという特徴がある。また、サイクロンエレメント6は、超高分子量ポリエチレン(日本ポリペンコ社製のポリペンコU−PE100)の棒材を切削加工することで製作される。この材料は、耐薬品性、耐摩耗性、機械的強度、耐疲労性に優れているという特徴がある。
【0040】
本体容器1は製作を容易にするため上部本体部1Aと下部本体部1Bにより構成され、両者をフランジ1c,1dにおいてボルト・ナット11により結合する。本体容器1の上面は球面に形成されており、その中央部に排気口3aが設けられている。本体容器1の下面も球面に形成されており、その中央部に流出管10が取り付けられている。流入管7と本体容器1の境界部分には堤8が形成されている。堤8の先端部の向きは垂直であり、流れを下向きに変更させる作用はしない。また、本体容器1の底部にはリング状の凹部1fが形成されている。
【0041】
サイクロンエレメント6は、その外表面の全体がテーパ部となっており、上端から下端にかけて緩やかなテーパ角度が形成されている。サイクロンエレメント6の上下方向のほぼ中央部にリング状の突出部6dが取り付けられている。サイクロンエレメント6の下端側は、下部本体部1Bの底部に形成された嵌合凹部1eに嵌入することで、サイクロンエレメント6が本体容器1に対して固定される。
【0042】
<作用>
流入管7から導入された流体(塩酸溶液)は、堤8の作用により本体容器1の内壁面の方向に偏向され旋回流が発生する。サイクロンエレメント6の外表面のテーパ部の作用により、乱流状態の流体は強制渦に変換され、旋回流による遠心力により、流体に含まれる流体よりも高比重の分離対象物は、本体容器1の内壁面に濃縮され、旋回しながら下方向へと沈降していく。第1実施形態に比べると、サイクロンエレメント6のテーパ部の角度が緩いため、下向きの流れの速度は比較的に遅くなっている。下方向へ移動した分離対象物は、流体と共に排出管9から排出される。
【0043】
サイクロンエレメント6の外表面に沿って上昇しようとする分離対象物は、突出部6dの作用により上昇をする時の障壁となるため、開口部6cに到達することは困難である。また、テーパ角度を緩くしているため、上昇しようとする力も第1実施形態に比べると弱くなっている。これにより、効果的に分離対象物を流体から分離させることができる。
【0044】
本実施形態にかかるサイクロン分離器を鋼板メッキ工程の酸洗浄の塩酸中の異物除去に使用した。異物を効率よく除去することで、汚染による塩酸の消費を減少することができた。これにより、メッキ品質の向上にも寄与することができた。
【0045】
<第3実施形態>
図3は、第3実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図である。この実施形態は、圧縮空気供給設備の圧縮機(コンプレッサー)空気中の霧状水滴(ミスト)と油を除去する目的で使用される。空気が流体に相当する。
【0046】
<構成>
この実施形態では、本体容器1、フランジ1a、流入管7、排出管9、流出管10、サイクロンエレメント6はステンレス鋼(SUS410)により製作される。容器蓋2は上部が球面状に突出した形状となっている。また、底蓋4は、本体容器1内に球面状に突出した形状となっている。本体容器1は円筒状に形成され軸線が垂直になるように設置される。
【0047】
サイクロンエレメント6は、上端から下端にかけてテーパ部が形成されており、その下端部は底蓋4に溶接することで取り付けられる。サイクロンエレメント6の上下方向のほぼ中央部にリング状の突出部6dが取り付けられている。本体容器1の上部には、テーパ管12が取り付けられており、上端側に行くほど大径のテーパ面(第2テーパ面に相当)が形成されている。テーパ管12の下端側には開口部12aが形成されており、その大きさはサイクロンエレメント6の開口部6cよりも大きな径となっている。また、テーパ管12の下端部とサイクロンエレメント6の上端部はほぼ同じ高さに位置しており、2つの開口部6c,12aの間に形成される隙間から分離対象物が除去された空気が入り込むことができる。流入管7の取り付け位置は、ちょうどテーパ管12のテーパ面と向かい合う位置にある。テーパ管12のテーパ面の角度は、サイクロンエレメント6のテーパ面よりも角度が大きくなるように設定されている。
【0048】
<作用>
流入管7から導入された分離対象物を含む空気は、テーパ管12のテーパ面に衝突し、本体容器1の内壁面の方向に偏向されると共に、本体容器1の下方向にも偏向される。高速の旋回流を発生させるためには、流入管7の入口部における流速が10m/s以上であることが必要であり、テーパ管12を設けることで、この目的を達成することができる。テーパ管12の作用により、乱流状態の空気の運動量を効果的に強制渦に変換することができる。
【0049】
分離対象物を含む空気は下方向に向かい、また、旋回流による遠心力により、空気よりも高密度の水滴や油滴は、本体容器1の内壁面に衝突して、水と油の混合した膜が形成される。この水膜や油膜は、重力や空気の下向きの流れに伴い本体容器1の底部に到達する。本体容器1の底部には、旋回流の順方向に排出管9が設けられており、水と油を含む分離対象物が空気と共に本体容器1の外部へ排出される。
【0050】
また、本体容器1の底部において、サイクロンエレメント6の外表面に沿った上昇流が形成される。この外表面に沿って分離対象物が除去された空気が上昇していくことになる。そして一度内壁面に付着した水膜や油膜が旋回流による剪断力により再度、水滴や油滴に戻ることがあり、この水滴や油滴が本体容器1の底部付近でサイクロンエレメント6の外表面に付着することがあり、上昇流により空気とともに上昇しようとする。しかしながら、突出部6dが設けられているため、それ以上の上昇は阻止され、サイクロンエレメント6の開口部6cに到達することは困難である。これにより、効果的に空気に含まれる分離対象物を分離させることができる。
【0051】
本実施形態にかかるサイクロン分離器を化学会社の空気圧制御、輸送用の圧縮空気供給設備で使用した。そして、ゼオライト式脱湿機の前段処理に使用した。サイクロン分離器を用いた予備脱水により、脱湿空気の露点を下げることができた。さらに、オイルミストの除去により、ゼオライトの長寿命化を果たすことができた。
【0052】
<第4実施形態>
図4は、第4実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図である。この実施形態は、圧縮空気と共に糠(ぬか)付きの米を導入して分離対象物としての米を糠から分離するものである。精米後の米の空気輸送工程において糠を除去するために用いられる。この実施形態では排出管から米が圧縮空気と共に排出され、流出管からは糠が圧縮空気と共に流出される。ただし、製品として(後工程に)必要なのは排出管9から排出される米の方である。
【0053】
<構成>
本体容器1の構成は第1実施形態とほぼ同じである。本体容器1、フランジ1a、流入管7、排出管9、流出管10、サイクロンエレメント6はステンレス鋼であるSUS304により製作される。サイクロンエレメント6の下端部は、溶接により底板4に固定される。また、サイクロンエレメント6の上部の中心軸には棒6fが設けられ、容器蓋2に固定される。この棒6fを設けることで、サイクロンエレメント6の振動を抑制することができる。
【0054】
サイクロンエレメント6は、円筒部6bとテーパ部6aにより構成されており、円筒部6bの方が上方に位置している。流入管7の中心は、円筒部6bとテーパ部6aの境界部分に位置している。円筒部6bの上端側の内部には、旋回規制手段として機能する羽根6eが円周方向に沿って6箇所設けられている。
【0055】
<作用>
流入管7から導入された流体(糠の付着した米を含む圧縮空気)は、円筒部6bの作用により本体容器1の内壁面の方向に偏向され旋回流を発生させる。高速の旋回流を発生させるためには、流入管7から導入される時の流速が10m/s以上であることが必要であるが、上記円筒部6bを設けていることで、かかる目的を達成することができる。また、円筒部6bを設けることにより、乱流状態の流体の運動量を強制渦に変換する。
【0056】
高速旋回流により、圧縮空気に含まれている米同士が高速で衝突しながら回転する。この衝突により、米の表面に密着していた糠が剥離し、空気の流れに乗ることができる。導入された流体は旋回しながら下方向に移動していく。旋回流による遠心力により、空気よりも密度の高い米は、重力の作用により急速に下降していき、本体容器1の底部へ移動していく。高比重の米は、遠心力により本体容器1の内壁面の近傍に濃縮されて、旋回しながら下降し、排出管9から空気と共に排出される。
【0057】
また、本体容器1の底部においては、サイクロンエレメント6の外表面に沿った上昇流が形成され、空気と比重差の小さな糠は、米が除去された空気と共に上昇していく。圧縮空気に含まれる米の濃度が高い場合には、排出管9から排出し切れなかった米の一部が上記上昇流に乗って上昇していこうとするが、サイクロンエレメント6の外表面に設けられた突出部6dの作用により、それ以上の高さに上昇することの障壁となる。
【0058】
米と分離された糠は、圧縮空気と共にサイクロンエレメント6の内部を通って流出管10から流出される。サイクロンエレメント6の上部には羽根6eが設けられており、サイクロンエレメント6の内部(上部)における旋回流を抑制する。旋回流が抑制されることでサイクロンエレメント6の振動も抑制され、サイクロンエレメント6の内容積を大きくして処理能力を高めることができる。
【0059】
本実施形態にかかるサイクロン分離器を精米後の米の空気輸送工程で使用し、精米中における微量の残留糠を除去することができ、米の品質を向上させることができた。
【0060】
<別実施形態>
本実施形態について、4つの実施形態を説明してきたが、更に種々の実施形態を採用することができる。また、各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に対して採用することが可能である。また、各実施形態で導入する流体の種類については、各実施形態において説明したものに限定されるものではない。例えば、第1実施形態は、土砂を含む水を処理する例をあげて説明したが、第1実施形態の構造はかかる場合に限定されるものではなく、他の流体を導入する場合にも採用可能な構造である。この点は、他の実施形態に関しても同様である。
【0061】
流入管7からの流体が旋回する方向は、時計方向、反時計方向のいずれであってもかまわない。流入管7、流出管10、排出管9を本体容器1の接線方向(円周壁面上)に設ける場合、360゜のどの位相で設けてもよい。
【0062】
流入管7は、本体容器1の上端側に取り付けられるものであり、本体容器1の高さ方向の中心位置に引いた水平線よりも上側に設けられていればよい。排出管9は、本体容器1の下端側に取り付けられるものであり、上記水平線よりも下側に設けられていればよいが、排出効率を考慮すると底面近傍に配置することが好ましい。
【0063】
本体容器1、流入管7、流出管10、テーパ管12、排出管9等の材質については、金属や強化プラスチックを含む樹脂、セラミックスや種々の複合材を組み合わせて用いることができる。例えば、鋼(炭素鋼、ステンレスを含む合金鋼)、ニッケル、ニッケル合金(ハステロイ等)、銅、銅合金、チタン、チタン合金、アルミ、アルミ合金、クラッド鋼(鋼と鋼以外の金属を張り合わせた材料)が使用できる。樹脂としては、熱硬化性樹脂としての不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が使用でき、熱可塑性樹脂としてのPVC、ABS、PS、PPS、POM、アクリル樹脂(PMMA)、フッ素樹脂(PTFE等)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ナイロン樹脂(PA)、PPE樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリシクロペンタジエン樹脂が使用できる。繊維強化樹脂(FRP)として、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維との複合材を使用できる。
【0064】
また、本体容器1などの内壁面にゴムライニングを行う場合に用いるゴムとして、NRゴム、IRゴム、BRゴム、CRゴム、NBRゴム、EPDMゴム、KFMゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、SBRゴム、ニロリルゴム、ポリウレタン、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を使用できる。
【0065】
本発明に係るサイクロン分離器で処理対象となる流体及び分離対象物については、本実施形態で説明したものに限定されるものではなく、種々の流体や物質に対して適用できるものである。
【0066】
本実施形態では、サイクロンエレメントの構造に関してテーパ部の下部に円筒部が設けられる構成(第1実施形態)と、テーパ部の上部に円筒部が設けられる構成(第4実施形態)とを説明したが、テーパ部の上部と下部の両方に円筒部が設けられていてもよい。テーパ部や円筒部の上下方向の長さについては、適宜設定することができる。
【0067】
第4実施形態でも説明したように、分離したい物質を流出管から排出するか、排出管から排出するかについては、分離対象物や流体の比重などに基づいて決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】第1実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図
【図2】第2実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図
【図3】第3実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図
【図4】第4実施形態に係るサイクロン分離器の構成を示す図
【符号の説明】
【0069】
1 本体容器
2 容器蓋
6 サイクロンエレメント
6a テーパ部
6b 円筒部
6c 開口部
6d 突出部
6e 羽根
7 流入管
8 堤
9 排出管
10 流出管
12 テーパ管
12a 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸が垂直に設置される円筒状の本体容器と、
本体容器の軸方向上端側に、本体容器の円周壁面に対して接線方向に設けられ、分離対象物が含まれる流体を導入する流入管と、
分離対象物が分離された流体が流出される流出管と、
本体容器の軸方向下端側に、本体容器の円周壁面に対して接線方向に設けられ、分離対象物を排出させる排出管と、
本体容器内に本体容器と同軸に設けられ、上端側に開口部が下端側に前記流出管が夫々設けられると共に、下端側が前記流出管と連結される筒状のサイクロンエレメントとを備え、
このサイクロンエレメントの外表面には軸方向上側にいくほど大径のテーパ面が形成されており、このテーパ面にリング状の突出部が設けられており、分離対象物が前記外表面に沿って上昇することを抑制可能に構成したことを特徴とするサイクロン分離器。
【請求項2】
サイクロンエレメントは前記テーパ面の上側及び/又は下側に円筒面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサイクロン分離器。
【請求項3】
サイクロンエレメントの上側に、テーパ管が設けられ、このテーパ管は軸方向上側に行くほど大径の第2テーパ面が形成されており、
テーパ管の下端側とサイクロンエレメントの上端側に間に形成される隙間を介して分離対象物が除去された流体がサイクロンエレメントの内部から流出管へと移動するように構成し、かつ、第2テーパ面に対して流入管が向かい合うように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のサイクロン分離器。
【請求項4】
本体容器と流入管の接合部に、流入管内壁面から張り出す張り出し手段を設け、この張り出し手段により、流入される流体がサイクロンエレメントに向かうことを抑制することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のサイクロン分離器。
【請求項5】
サイクロンエレメントの上側内部に流体の旋回を規制する旋回規制手段を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のサイクロン分離器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−307475(P2007−307475A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138819(P2006−138819)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(302063400)
【Fターム(参考)】