説明

サイトカイン媒介疾患の治療方法

【課題】サイトカイン媒介疾患の治療方法を提供すること。
【解決手段】Sema7A及びVLA-1相互作用を抑制する組成物の治療有効量を患者に投与することを特徴とするサイトカイン媒介疾患の治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSema7AとVLA-1の相互作用を抑制することによるサイトカイン媒介疾患の治療組成物及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セマフォリンファミリーは多数の系統的に保存された可溶性タンパク質及び膜貫通タンパク質からなり、これらの多くがアキソンガイダンス、器官形成、血管形成、血管新生、腫瘍形成及び免疫応答に多様な役割を果たす(1-3)。Sema7A(その発現が神経系及び免疫系の両方で観察される)は、唯一のGPIアンカーセマフォリンであり、それは初期にウイルスによりコードされたセマフォリンの脊椎動物同族体に関する研究で同定された。Sema7Aはプレキシン-C1を結合すると示されていたが(5)、Sema7Aはプレキシン-C1依存様式でβ1-インテグリンによりアキソン外殖を促進することが最近示唆されていた(6)。しかしながら、Sema7Aが免疫応答に関係する方法及び程度は明らかではないままである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
それ故、本発明の目的は患者にSema7A-VLA-1相互作用を抑制する組成物を投与することによる、炎症性疾患の治療方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は(1) Sema7Aタンパク質及びVLA-1タンパク質を含む細胞を推定の調節(putative regulatory)化合物と接触させ、そして(2)VLA-1とのSema7Aの相互作用を抑制する推定の調節化合物の能力を評価することを特徴とする、細胞中のVLA-1活性とのSema7Aの相互作用を制御する化合物の同定方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は細胞中のVLA-1活性とのSema7Aの相互作用を制御する組成物を提供することであり、その組成物は炎症性疾患を治療するのに治療上有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
第一の一般実施態様において、患者にSema7AとVLA-1の相互作用を抑制する組成物を投与することによる、サイトカイン媒介疾患の治療方法が提供される。
本発明者らはSema7A(これは活性化T細胞の細胞表面で発現される)がヒト単球の活性化に重大に関係することを同定した。図1に示されるように、ヒトIgG1のFc部分と融合されたマウスSema7A(Sema7A-Fc)がマウス骨髄由来マクロファージだけでなく、ヒト単球中で炎症性サイトカインの生成を誘導した。Sema7A-Fcはまたこれらの細胞中でサイトカインのLPS誘導生成を増進した(マウスとヒトのSema7Aの間のアミノ酸同一性は90%である)。加えて、ヒト単球へのSema7Aの結合は坑β1Ab及び/又は坑α1Abだけでなく、可溶性α1β1-インテグリンにより抑制された(図2)。更に、Sema7Aにより誘導されるIL-6の生成がAbにより有意にブロックされた(図2)。総合すると、本発明者らの知見は免疫系中のSema7Aの役割を示すだけでなく、単球の活性化におけるSema7Aの受容体としてのα1β1-インテグリン(VLA-1)の関与を同定する。それ故、Sema7Aとα1β1-インテグリン(VLA-1)の間の相互作用が種々の炎症性疾患に関する潜在的な治療標的であろう。
図1はSema7Aが単球の強力な刺激物質であることを示す。(A)及び(B)ヒト単球又はマウス骨髄由来マクロファージを24時間にわたってLPS(100ng/ml)を用いて、又は用いずにSema7A-Fc被覆プレート又はヒトIgG1被覆プレートで培養した。培養上澄み中の示されたサイトカインの生成をELISAにより測定した。結果は3回反復測定の平均であった。
方法:ロセットセプ(RosseteSep)ヒト単球濃縮カクテル(ステムセル・テクノロジイズ)を使用することによりヒト単球をボランテアの末梢血から単離した。マウス骨髄由来マクロファージをG-CSF(50ng/ml;ペプロテク)の存在下で骨髄細胞の5日培養から得た。細胞を示された濃度のSema7A-Fc又はヒトIgG1(10%のFCSで補給されたRPMI1640培地200μl中の1x105細胞/ウェル)で被覆された平底96ウェルプレートに塗布し、24時間インキュベートした。培養上澄み中のサイトカインの濃度をELISAキット(R&Dシステムズ)により測定した。
【0005】
図2はα1β1インテグリン/VLA-1がSema7Aの機能性受容体であることを示す。
(A)Sema7A被覆プレートへの、ヒト単球細胞系である、THP-1細胞の付着を坑β1インテグリンAb及び坑α1インテグリンAbの両方でブロックした。THP-1細胞を示された抗体(25μg/ml)とともにプレインキュベートし、付着アッセイにかけた。Sema7A被覆ウェルに付着された細胞の数を既に記載されたように(6,7)定量した。
(B)固定Sema7AへのTHP-1細胞の付着を可溶性α1β1インテグリンタンパク質の存在下で抑制した。Sema7A被覆ウェルを示された可溶性インテグリンタンパク質とともにプレインキュベートし、その後にTHP-1細胞を適用した。
(C)ヒト単球によるSema7A誘導サイトカイン生成を坑β1インテグリンAb及び坑α1インテグリンAbにより抑制した。ヒト単球を10μg/mlの示されたAbで前処理し、次いでSema7A被覆プレートに接種した。培養上澄み中のIL-6の生成をELISAにより測定した。
方法:組織培養プレート(96ウェル、懸濁培養処理、スミロン)を一夜にわたって100μl/ウェルの10nM融合タンパク質溶液で被覆し、続いてPBS緩衝液(200μl/ウェル)中の10mg/mlのBSAでブロックした。細胞をタイロード緩衝液(135mM NaCl、5.4mM KCl、1.0mM MgCl2、5mM NaOH-Hepes(pH7.4)、10mMグルコース、10mg/mlのBSA)200μl中で5x104細胞/ウェルで加え、室温で1時間にわたって付着させた。次いでウェルを前もって温めたPBS緩衝液中で3回洗浄した。付着細胞の数をCyQUANT細胞増殖アッセイキット(モレキュラー・プローブ)により測定した。抗体ブロッキングアッセイについて、THP-1細胞を氷の上で30分間にわたってタイロード緩衝液中の25μg/mlの示された坑インテグリン抗体とともにインキュベートした。インテグリンタンパク質の可溶性形態をタイロード緩衝液中1μMでSema7A-Fc被覆ウェルの前処理に使用し、プレートを室温で30分間インキュベートした。
【0006】
本発明の一実施態様は(1)細胞を推定の調節化合物と接触させ(その細胞はSema7Aタンパク質及びVLA-1タンパク質を含む)、そして(2)VLA-1とのSema7Aの相互作用を抑制する推定の調節化合物の能力を評価することを特徴とする、細胞中のVLA-1活性とのSema7Aの相互作用を制御する化合物の同定方法に関する。その評価工程はSema7AへのTHP-1細胞の付着を研究すること又は当業界で知られている均等方法を伴うことが好ましい。
“調節する”という用語は分子の活性及び/又は生物学的機能を制御すること、例えば、このような活性又は機能を増進又は減少することを表す。
“患者”という用語はヒト及び非ヒト哺乳類の両方を含む。
“治療する”又は“治療”という用語は患者の症状の治療を意味し、
(i)特に、このような患者がその症状について遺伝的又はそれ以外に予知されるが、それを有すると未だ診断されていなかった場合に、症状が患者に生じることを予防し、
(ii)患者の症状を抑制又は回復し、即ち、その発生を静止又は遅延し、又は
(iii)患者の症状を軽減し、即ち、症状の回帰又は治癒を生じることを含む。
本発明の更に別の実施態様はSema7A、VLA-1又はこれらのフラグメントを結合する抗体又は抗体結合部位に関する。本発明の実施態様は更にポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む。本発明の好ましい実施態様はモノクローナル抗体、例えば、坑VLA-1モノクローナル抗体を含む。Sema7A又はVLA-1を結合する上記抗体又は抗体結合部位はVLA-1によるSema7Aの結合を抑制する。
本発明の更に別の実施態様はSema7AもしくはVLA-1タンパク質又はこれらのフラグメントを含むバイオ治療薬に関するものであり、そのバイオ治療薬は炎症性疾患を治療するのに有益である。
【0007】
本明細書に言及される“組成物”という用語は推定化合物、又はSema7A及びVLA-1もしくはこれらのフラグメントから選ばれた実質的に純粋なタンパク質、Sema7A、VLA-1又はこれらのフラグメントをコードする発現ベクターに対する、Sema7A及びVLA-1又はこれらのフラグメントを結合する抗体又は抗体結合部位、Sema7A、VLA-1又はこれらのフラグメントを含む融合タンパク質を含む。抗体結合部位実施態様において、抗体結合部位はSema7A及びVLA-1からなる群から選ばれた成熟タンパク質と特異的に免疫反応性であってもよく;精製され、又は組換え生成されたヒト又はマウスSema7A又はVLA-1に対し産生されてもよく;モノクローナル抗体、Fab、又はF(Ab)2中にあってもよく;変性された抗原と免疫反応性であってもよく;又は標識された抗体中にあってもよい。或る実施態様において、抗体結合部位はSema7A又はVLA-1についてアフィニティーを有する結合剤を生物学的サンプルと接触させ;結合剤を生物学的サンプルとともにインキュベートして結合剤:Sema7A又はVLA-1タンパク質複合体を生成し;複合体を検出する方法により生物学的サンプル中で検出される。好ましい実施態様において、生物学的サンプルはヒトであり、また結合剤は抗体である。
本明細書に言及される推定化合物として、例えば、合理的薬物設計の生成物である化合物、天然産物及び部分的に特定されたシグナル伝達調節特性を有する化合物が挙げられる。推定化合物はタンパク質をベースとする化合物、炭水化物をベースとする化合物、脂質をベースとする化合物、核酸をベースとする化合物、天然有機化合物、合成により誘導される有機化合物、坑イディオタイプ抗体及び/又は触媒抗体、或いはこれらのフラグメントであってもよい。推定の調節化合物は、例えば、天然化合物又は合成化合物のライブラリー、特に化学ライブラリー又はコンビナトリアルライブラリー(即ち、配列又はサイズを異にするが、同じビルディングブロックを有する化合物のライブラリー;例えば、Rutter及びSantiの米国特許第5,010,175号及び同第5,266,684号(これらが参考として本明細書にそのまま含まれる)を参照のこと)から得られ、或いは合理的薬物設計により得られる。
【0008】
合理的薬物設計操作では、シグナル伝達分子の如き、化合物の三次元構造が、例えば、核磁気共鳴(NMR)又はX線結晶学により分析し得る。次いでこの三次元構造が、例えば、コンピュータモデリングにより推定の調節化合物の如き、潜在的化合物の構造を予測するのに使用し得る。次いで予測された化合物構造が、例えば、化学合成、組換えDNA技術により、又は天然源(例えば、植物、動物、細菌及びカビ)からのミメトープ(mimetope)を単離することにより生成し得る。潜在的調節化合物はまた、例えば、PCT公開番号WO 91/19813; WO 92/02536及びWO 93/03172(これらが参考として本明細書にそのまま含まれる)に記載されたようなSELEX技術を使用して同定し得る。
特に、天然産細胞内シグナル伝達分子がその構造及び機能の分析に基づいて修飾されて好適な調節化合物を生成し得る。例えば、Sema7A又はVLA-1を調節することができる化合物はそれらの夫々の結合ドメイン中のアミノ酸残基と同様の構造を有する化合物を含み得る。このような化合物はペプチド、ポリペプチド又は小有機分子を含み得る。
推定の調節化合物はまたSema7A又はVLA-1と干渉するように設計された分子を含み得る。例えば、Sema7Aとのタンパク質のカップリングと干渉するVLA-1の変異体がつくられる。推定の調節化合物はSema7A又はVLA-1のアゴニスト及びアンタゴニストを含み得る。このようなアゴニスト及びアンタゴニストがこれらのタンパク質への天然産リガンドの構造に基づいて選ばれる。
モノクローナル抗体を生成するための技術は公知である。一般に、不死細胞系(典型的にはミエローマ細胞)が所定の抗原、例えば、Sema7A又はVLA-1を発現する全細胞で免疫された哺乳類からのリンパ球(典型的には脾臓細胞)に融合され、得られるハイブリドーマ細胞の培養上澄みが抗原に対する抗体についてスクリーニングされる。一般に、Kohlerら, 1975, Nature 265: 295-497,“前もって特定された特異性の抗体を分泌する融合細胞の連続培養物”を参照のこと。
【0009】
免疫化は通常の操作を使用して達成し得る。単位用量及び免疫化養生法は免疫される哺乳類の種、その免疫状態、哺乳類の体重等に依存する。典型的には、免疫された哺乳類が採血され、夫々の血液サンプルからの血清が適当なスクリーニングアッセイを使用して特別な抗体についてアッセイされる。例えば、坑インテグリン抗体がインテグリン発現細胞からの125I標識細胞溶解産物の免疫沈殿により同定し得る。例えば、坑VLA-1抗体を含む、抗体がまたフローサイトメトリーにより、例えば、VLA-1分子を認識すると考えられる抗体とともにインキュベートされた抗体発現細胞の蛍光染色を測定することにより同定し得る。ハイブリドーマ細胞の生成に使用されるリンパ球は典型的には血清がこのようなスクリーニングアッセイを使用して坑VLA-1抗体の存在について陽性と既に試験された免疫された哺乳類から単離される。
典型的には、不死細胞系(例えば、ミエローマ細胞系)はリンパ球と同じ哺乳類種に由来する。好ましい不死細胞系はヒポキサンチン、アルニノプテリン(arninopterin)及びチミジンを含む培地(“HAT培地”)に感受性であるマウスミエローマ細胞系である。典型的には、HAT感受性マウスミエローマ細胞が1500の分子量のポリエチレングリコール(“PEG1500”)を使用してマウス脾臓細胞に融合される。次いで融合から得られるハイブリドーマ細胞がHAT培地(これは未融合ミエローマ細胞及び非増殖性融合ミエローマ細胞を死滅する)を使用して選択される(未融合脾臓細胞は数日後に死滅する。何とならば、それらは形質転換されないからである)。所望の抗体を生成するハイブリドーマがハイブリドーマ培養上澄みをスクリーニングすることにより検出される。例えば、坑VLA-1抗体を生成するように調製されたハイブリドーマは組換えVLA-1発現細胞系に結合する能力を有する分泌された抗体についてハイブリドーマ培養上澄みを試験することによりスクリーニングされてもよい。
【0010】
例えば、無傷免疫グロブリンである、坑VLA-1抗体同族体を含む、本発明の範囲内である抗体同族体を生成するために、このようなスクリーニングアッセイで陽性と試験されたハイブリドーマ細胞を、ハイブリドーマ細胞がモノクローナル抗体を培地に分泌することを可能にするのに充分な条件及び時間にわたって栄養培地中で培養した。ハイブリドーマ細胞に適した組織培養技術及び培地は公知である。調整されたハイブリドーマ培養上澄みが集められてもよく、坑VLA-1抗体が必要により更に公知の方法により精製されてもよい。
また、所望の抗体がハイブリドーマ細胞を未免疫マウスの腹腔に注射することにより生成されてもよい。ハイブリドーマ細胞が腹腔中で増殖し、腹水として蓄積する抗体を分泌する。抗体は腹水をシリンジで腹腔から取り出すことにより回収されてもよい。
例えば、Sema7A又はVLA-1の完全ヒトモノクローナル抗体同族体が本発明の方法で抗原をブロックし得る別の好ましい結合剤である。それらの無傷形態で、これらはBoernerら, 1991, J. Immunol. 147:86-95,“in vitro感作されたヒト脾臓細胞からの抗原特異性ヒトモノクローナル抗体の生成”に記載されたように、in vitro感作されたヒト脾臓細胞を使用して調製されてもよい。
また、それらはPerssonら, 1991, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 88:2432-2436,“レパートリークローニングによる多様な高アフィニティーヒトモノクローナル抗体の生成”並びにHuang及びStollar, 1991, J. Immunol. Methods 141:227-236,“in vitro刺激を用いないヒト末梢血リンパ球からの代表的な免疫グロブリン可変領域CDNAライブラリーの構築”に記載されたようなレパートリークローニングにより調製されてもよい。米国特許第5,798,230号(1998年8月25日、“ヒトモノクローナル抗体の調製方法及びそれらの使用”)はヒトB細胞からのヒトモノクローナル抗体の調製を記載している。この方法によれば、ヒト抗体産生B細胞がエプスタイン-バールウイルス、又はエプスタイン-バールウイルス核抗原2(EBNA2)を発現する、その誘導体による感染により不死化される。EBNA2機能(これは不死化に必要とされる)が、続いて停止され、これが抗体生成の増大をもたらす。
【0011】
完全ヒト抗体を生成するための更に別の方法において、米国特許第5,789,650号(1998年8月4日、“異種抗体を生成するためのトランスジェニック非ヒト動物”)は異種抗体を生成することができるトランスジェニック非ヒト動物及び不活化された内因性免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を記載している。内因性免疫グロブリン遺伝子はアンチセンスポリヌクレオチド及び/又は内因性免疫グロブリンに対し誘導される坑血清により抑制される。異種抗体は非ヒト動物のその種のゲノム中に通常見られない免疫グロブリン遺伝子によりコードされる。未転位異種ヒト免疫グロブリンH鎖の配列を含む一種以上の導入遺伝子が非ヒト動物に導入され、それによりトランスジェニック免疫グロブリン配列を機能的に転位し、ヒト免疫グロブリン遺伝子によりコードされた種々のイソ型の抗体のレパートリーを生成することができるトランスジェニック動物を形成する。このような異種ヒト抗体はB細胞中で生成され、その後にこれらが、例えば、ミエローマの如き不死化細胞系と融合することにより、又はこのようなB細胞をその他の技術により操作して異種の、完全ヒトモノクローナル抗体同族体を生成することができる細胞系を永続化することにより不死化される。
本発明の細胞が、例えば、混合により推定の調節化合物と接触される条件は、このような活性と干渉するその他の調節化合物が実質的に存在しない場合に、細胞がSema7A又はVLA-1活性を示し得る条件である。このような条件を得ることは当業者の範囲内であり、細胞がSema7A又はVLA-1活性を示し得るように細胞が培養し得る有効な培地を含む。例えば、哺乳類細胞について、有効な培地は典型的には10%のウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地を含む水性培地である。
本発明の細胞は組織培養フラスコ、試験管、ミクロタイタ皿、及びペトリ皿を含むが、これらに限定されない種々の容器中で培養し得る。培養は細胞に適した温度、pH及び二酸化炭素含量で行なわれる。このような培養条件はまた当業者の範囲内である。例えば、ラモス細胞について、培養が37℃で5%のCO2環境中で行ない得る。
【0012】
細胞を有効な様式で推定の調節化合物と接触させるのに許されるプロトコルは接触される容器当りの細胞の数、細胞に投与される一種以上の推定の調節化合物の濃度、細胞と一緒の推定の調節化合物のインキュベーション時間、リガンド及び/又は細胞に投与される細胞内イニシエーター分子の濃度、並びに細胞と一緒のリガンド及び/又は細胞内イニシエーター分子のインキュベーション時間を含む。このようなプロトコルの決定は容器のサイズ、容器中の液体の容積、試験される細胞の型及び試験される推定の調節化合物の化学組成(即ち、サイズ、電荷等)の如き変数に基づいて当業者により行ない得る。
本発明の方法の一実施態様において、好適な数の細胞が培地中で96ウェル組織培養皿に加えられる。細胞の好ましい数は本発明の検出方法(以下に詳しく記載される)を使用してVLA-1又はSema7A活性の変化を検出することを可能にする細胞の数を含む。細胞の更に好ましい数は96ウェル組織培養皿のウェル当り約1〜1x106の細胞を含む。細胞を組織培養皿に加えた後に、細胞が約0時間〜約24時間にわたって37℃で5%のCO2でプレインキュベートし得る。
培地中に懸濁された好適な量の一種以上の推定の調節化合物が細胞中のSema7A又はVLA-1タンパク質の活性を調節するのに充分である細胞に添加され、その結果、調節が本発明の検出方法を使用して検出可能である。推定の一種以上の調節化合物の好ましい量は96ウェルプレートのウェル当り推定の一種以上の調節化合物約1nM〜約10mMを含む。細胞は推定の調節化合物が細胞に入り、Sema7A又はVLA-1タンパク質と相互作用することを可能にするのに適した時間の長さにわたってインキュベートされる。好ましいインキュベーション時間は約1分〜約48時間である。
本発明の方法の別の実施態様において、本発明における使用に適した細胞が本発明のSema7A又はVLA-1タンパク質に結合することができる刺激物質で刺激されてシグナル伝達経路を開始し、細胞応答を生じる。細胞が細胞との推定の調節化合物の接触後に刺激分子で刺激されることが好ましい。好適な刺激分子として、例えば、Sema7A又はVLA-1タンパク質に特異的に結合する抗体が挙げられる。細胞に加えるのに適した刺激分子の量は使用されるリガンドの型(例えば、単量体又は多量体;透過性、等)及びSema7A又はVLA-1タンパク質の存在量の如き因子に依存する。約1.0nM〜約1mMのリガンドが細胞に加えられることが好ましい。
【0013】
本発明の方法は組成物がSema7A又はVLA-1タンパク質活性化を調節することができるかどうかを測定することを含む。このような方法として、方法の節に詳しく記載されたアッセイが挙げられる。本発明の方法は毒性試験を行なって組成物の毒性を測定する工程を更に含み得る。
本発明の別の局面は細胞中のSema7A又はVLA-1タンパク質活性を調節することができる組成物を同定するためのキットを含む。このようなキットは、(1)Sema7A又はVLA-1タンパク質を含む細胞、及び(2)Sema7A又はVLA-1タンパク質の調節を検出するための手段を含む。Sema7A又はVLA-1タンパク質の調節を検出するためのこのような手段として、当業者に知られている方法及び試薬が挙げられ、例えば、VLA-1タンパク質活性が、例えば、以下に記載される活性化アッセイを使用して検出し得る。Sema7A又はVLA-1タンパク質の調節を検出するための手段として、当業者に知られている方法及び試薬がまた挙げられる。本発明のキットと一緒の使用に適した細胞として、本明細書に詳しく記載された細胞が挙げられる。キットと一緒の使用に好ましい細胞として、ヒト細胞が挙げられる。
【0014】
治療上の使用の方法
上記のように、本発明者らはSema7Aが免疫系に役割を有することを見出し、また単球の活性化におけるSema7Aの受容体としてのα1β1-インテグリン(VLA-1)の関与を同定した。それ故、Sema7Aとα1β1-インテグリン(VLA-1)の相互作用がサイトカインにより媒介される種々の疾患、例えば、炎症性疾患に関する潜在的な治療標的であろう。
それ故、本発明はSema7A及びVLA-1相互作用を抑制する組成物を患者に投与することによる、サイトカイン媒介疾患の治療方法を提供する。
Sema7AとVLA-1の相互作用をブロックする組成物は細胞からの炎症性サイトカイン生成をブロックするであろう。サイトカイン生成の抑制は過剰のサイトカイン生成と関連する種々のサイトカイン媒介疾患又は症状、例えば、炎症、自己免疫応答又は骨吸収を伴う疾患及び病的状態を予防し、治療するのに魅力的な手段である。こうして、組成物は下記のものを含む疾患及び症状の治療に有益である:
骨関節炎、アテローム硬化症、接触皮膚炎、骨多孔症を含む骨吸収疾患、再潅流障害、喘息、多発性硬化症、ギラン-バレー症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、移植片対宿主病、全身エリテマトーデス及びインスリン依存性真性糖尿病、慢性関節リウマチ、トキシックショック症候群、アルツハイマー病、糖尿病、炎症性腸疾患、急性及び慢性の痛みだけでなく、炎症の症候及び心血管疾患、卒中、心筋梗塞(単独又は血栓溶解治療後の)、熱損傷、成人呼吸困難症候群(ARDS)、トラウマに二次的な多発性臓器障害、急性腎炎、急性炎症成分による皮膚炎、急性化膿性脳膜炎又はその他の中枢神経系障害、血液透析と関連する症候群、ロイコフェリシス(leukopherisis)、顆粒球輸注関連症候群、及び壊死性全腸炎、経皮経腔冠血管形成後の再狭窄を含む合併症、外傷性関節炎、敗血症、慢性閉塞性肺疾患並びに鬱血性心不全。前記組成物はまた血液凝固阻止薬又は血栓溶解治療薬(そしてこのような治療に関連する疾患又は症状)に有益であり得る。
坑サイトカイン活性は当業界で知られている方法を使用することにより実証し得る。例えば、Brangerら, (2002) J Immunol. 168: 4070-4077、及びその中に引用された46の文献(夫々が参考として本明細書にそのまま含まれる)を参照のこと。
本発明の組成物はまた癌疾患を治療するのに有益であろう。これらの疾患として、充実性腫瘍、例えば、乳癌、呼吸道の癌、脳の癌、生殖器の癌、消化道の癌、尿道の癌、眼の癌、肝臓癌、皮膚癌、頭部及び首部の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌及びそれらの遠位転移が挙げられるが、これらに限定されない。これらの障害としてまた、リンパ種、肉腫、及び白血病が挙げられる。
【0015】
乳癌の例として、侵食腺管癌、侵食小葉癌、in situ腺管癌、及びin situ小葉癌が挙げられるが、これらに限定されない。
呼吸道の癌の例として、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌だけでなく、気管支腺腫及び胸膜肺芽腫並びに中皮腫が挙げられるが、これらに限定されない。
脳の癌の例として、脳幹、眼及び眼下のグリオーム、小脳及び大脳の星状細胞腫、髄芽細胞腫、上衣細胞腫だけでなく、下垂体、神経外胚葉及び松果体の腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
末梢神経系腫瘍の例として、神経芽細胞腫、神経節神経芽細胞腫、及び末梢神経鞘腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
内分泌系及び外分泌系の腫瘍の例として、甲状腺癌、副腎皮質癌、褐色細胞腫、及び類癌腫が挙げられるが、これらに限定されない。
男性生殖器の腫瘍として、前立腺癌及び精巣癌が挙げられるが、これらに限定されない。
女性の生殖器の腫瘍として、子宮内膜、子宮頸部、卵巣、膣、及び外陰部の癌だけでなく、子宮の肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。
消化道の腫瘍として、肛門、結腸、結腸直腸、食道、胆嚢、胃、膵臓、直腸、小腸、及び唾液腺の癌が挙げられるが、これらに限定されない。
尿道の腫瘍として、膀胱、陰茎、腎臓、腎盤、尿管、及び尿道の癌が挙げられるが、これらに限定されない。
眼の癌として、眼内メラノーマ及び網膜芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。
肝臓癌の例として、肝細胞癌(繊維層変異体を含み、又は含まない肝臓細胞癌)、肝芽細胞腫、胆管癌(肝臓内胆管癌)、及び混合肝細胞胆管癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
皮膚癌として、扁平上皮癌、カポジ肉腫、悪性メラノーマ、メルケル細胞皮膚癌、及び非メラノーマ皮膚癌が挙げられるが、これらに限定されない。
頭部及び首部の癌として、喉頭/下咽頭/鼻咽頭/口咽頭の癌、及び唇の癌並びに口腔癌が挙げられるが、これらに限定されない。
リンパ腫として、AIDS関連リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、及び中枢神経系のリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。
肉腫として、軟組織の肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性繊維性組織球腫、リンパ肉腫、血管肉腫、及び黄紋筋肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。白血病として、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、及びヘアリー・セル白血病が挙げられるが、これらに限定されない。
プラズマ細胞悪液質として、多発性ミエローマ、及びワルデンストレームマクログロブリン血症が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの障害は男性で良く特性決定されていたが、またその他の哺乳類で同様の病因で存在し、本発明の医薬組成物により治療し得る。
治療上の使用について、組成物はあらゆる通常の様式であらゆる通常の投薬形態で投与されてもよい。投与の経路として、静脈内、筋肉内、皮下、滑液包内、注入、舌下、経皮、経口、局所又は吸入が挙げられるが、これらに限定されない。投与の好ましい様式は経口及び静脈内である。
組成物は単独で投与されてもよく、又はインヒビターの安定性を高め、或る実施態様においてそれらを含む医薬組成物の投与を促進し、増大された溶解又は分散を与え、抑制活性を増大し、補助治療を与える等のアジュバント(その他の活性成分を含む)と組み合わせて投与されてもよい。有利には、このような組み合わせ治療薬は低用量の通常の治療薬を利用し、こうしてこれらの薬剤が単一治療薬として使用される場合に誘発される可能な毒性及び不利な副作用を避ける。上記組成物は単一医薬組成物へと通常の治療薬又はその他のアジュバントと物理的に合わされてもよい。有利には、組成物はその後に単一投薬形態で一緒に投与されてもよい。或る実施態様において、組成物のこのような組み合わせを含む医薬組成物は少なくとも約5%(w/w)、更に好ましくは少なくとも約20%の組成物又はその組み合わせを含む。本発明の組成物の最適%(w/w)は変化してもよく、当業者の範囲内である。また、組成物は別々に(逐次又は平行に)投与されてもよい。別々の投薬は投薬養生法の一層大きい融通性を可能にする。
【0017】
上記のように、本明細書に記載された組成物の投薬形態は医薬上許される担体及び当業者に知られているアジュバントを含む。これらの担体及びアジュバントとして、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、緩衝剤物質、水、塩又は電解質及びセルロースをベースとする物質が挙げられる。好ましい投薬形態として、錠剤、カプセル、カプレット、液体、溶液、懸濁液、エマルション、ロゼンジ、シロップ、再生可能な粉末、顆粒、座薬及び経皮パッチが挙げられる。このような投薬形態の調製方法が知られている(例えば、H.C. Ansel及びN.G. Popovish,“医薬投薬形態及び薬物送出系”, 第5編, Lea and Febiger (1990)を参照のこと)。投薬レベル及び要件は当業界で良く認められており、特別な患者に適した利用可能な方法及び技術から当業者により選ばれてもよい。或る実施態様において、投薬レベルは70kgの患者について約1-1000mg/投薬の範囲である。毎日1回の投薬が充分であるかもしれないが、毎日5回までの投薬が施されてもよい。経口投薬について、2000mg/日までが必要とされるかもしれない。当業者が認めるように、一層低いか、又は高い用量が特別な因子に応じて必要とされるかもしれない。例えば、特別な用量及び治療養生法は患者の全般の健康プロフィール、患者の障害の重度及び経過又はその気質、及び治療医師の判断の如き因子に依存するであろう。
本明細書に引用された全ての文献(文献及び特許の両方)は、参考として本明細書にそのまま含まれる。
【0018】
文献
1) Kolodkin, A. L., Matthes, D. J., and Goodman, C. S. (1993). The semaphorin genes encode a family of transmembrane and secreted growth cone guidance molecules. Cell 75, 1389-1399.
2) Pasterkamp, R. J., and Kolodkin, A. L. (2003). Semaphorin junction: making tracks toward neural connectivity. Curr Opin Neurobiol 13, 79-89.
3) Kikutani, H., and Kumanogoh, A. (2003). Semaphorins in interactions between T cells and antigen-presenting cells. Nat Rev Immunol 3, 159-167.
4) Xu, X., Ng, S., Wu, Z. L., Nguyen, D., Homburger, S., Seidel-Dugan, C., Ebens, A. and Luo, Y. (1998). Human semaphorin K1 is glycosylphosphatidylinositol-linked and defines a new subfamily of viral-related semaphorins. J Biol Chem 273, 22428-22434.
5) Tamagnone, L., Artigiani, S., Chen, H., He, Z., Ming, G. I., Song, H., Chedotal, A., Winberg, M. L., Goodman, C. S., Poo, M. et al. (1999). Plexins are a large family of receptors for transmembrane, secreted, and GPI-anchored semaphorins in vertebrates. Cell 99, 71-80.
6) Pasterkamp, R. J., Peschon, J. J., Spriggs, M. K., and Kolodkin, A. L. (2003). Semaphorin 7A promotes axon outgrowth through integrins and MAPKs. Nature 424, 398-405.
7) Hanayama R, Tanaka M, Miwa K, Shinohara A, Iwamatsu A, Nagata S (2002) Identification of a factor that links apoptotic cells to phagocytes. Nature 417 182-7.
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒトIgG1のFc部分と融合されたマウスSema7A(Sema7A-Fc)はマウス骨髄由来マクロファージだけでなく、ヒト単球中で炎症性サイトカインの生成を誘導した。
【図2】ヒト単球へのSema7Aの結合が坑β1Ab及び/又は坑α1Abだけでなく、可溶性α1β1-インテグリンにより抑制された。AbによりブロックされたSema7Aにより誘導されるIL-6の生成がまた示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sema7A及びVLA-1相互作用を抑制する組成物の治療有効量を患者に投与することを特徴とするサイトカイン媒介疾患の治療方法。
【請求項2】
(1) Sema7Aタンパク質及びVLA-1タンパク質を含む細胞を推定の調節化合物と接触させ、そして(2)VLA-1とのSema7Aの相互作用を抑制する推定の調節化合物の能力を評価することを特徴とする、細胞中のVLA-1活性とのSema7Aの相互作用を抑制する化合物の同定方法。
【請求項3】
Sema7AもしくはVLA-1又はこれらのフラグメントを有効に結合する抗体又は抗体結合部位であって、抗体又は抗体結合部位がVLA-1によるSema7Aの結合を抑制することを特徴とする抗体又は抗体結合部位。
【請求項4】
治療有効量のSema7AもしくはVLA-1タンパク質又はこれらのフラグメントを含むことを特徴とするサイトカイン媒介疾患を治療するためのバイオ治療組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308466(P2007−308466A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−161547(P2006−161547)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年12月14日 「特定非営利活動法人 日本免疫学会」主催の「第35回日本免疫学会総会・学術集会」における発表
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】