説明

サスペンションシステム

【課題】4つの車輪が菱形の頂点にそれぞれ配置された車両用の実用性の高いサスペンションシステムを提供する。
【解決手段】サスペンションシステム10は、各車輪12をそれぞれ回転可能に保持する4つのキャリア16と、4つのキャリアをそれぞれ車体に回動可能に保持する4つのサスペンションアーム18と、4つのサスペンションアームにそれぞれ対応して設けられた4つのサスペンションスプリング20と、前輪12Fから左輪12MLおよび右輪12MRの一方に向かって延びる姿勢で車体に回転可能に保持されたトーションバーを有し、そのトーションバーから延び出して前輪側に連結された前輪側アーム、および、前輪側アームとは反対方向に延び出して左右輪の一方の側に連結された中間輪側アームを有するトーションスプリング26とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のサスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下記特許文献に記載の車両、つまり、車幅方向中央に1つの前輪と1つの後輪とがそれぞれ配設され、それら前輪と後輪との間において1つの左輪と1つの右輪とがそれぞれ配設された車両が開発されている。つまり、この車両は、4つの車輪が菱形の頂点にそれぞれ配置された車両(以下、「車輪菱形配置車両」と言う場合がある)となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許公告1304237号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記車輪菱形配置車両は、従来の車両、つまり、車両の前方および後方で左右に車輪がそれぞれ配置された車両とは車輪の配置が異なるため、走行中の車体と各車輪との相対動作が従来の車両とは異なる。そのため、従来の車両に用いられてきたサスペンションシステムとは異なるサスペンションシステム、つまり、車輪菱形配置車両により適したサスペンションシステムを開発することによって、車輪菱形配置車両用のサスペンションシステムの実用性を向上させることができると考えられる。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車輪菱形配置車両用のサスペンションシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のサスペンションシステムは、菱形の頂点にそれぞれ配置された前輪,後輪,左輪,右輪をそれぞれ回転可能に保持する4つのキャリアと、4つのキャリアをそれぞれ車体に回動可能に保持する4つのサスペンションアームと、4つのサスペンションアームにそれぞれ対応して設けられた4つのサスペンションスプリングと、前輪から左右輪の一方に向かって延びる姿勢で車体に回転可能に保持されたトーションバーを有し、そのトーションバーから延び出して前輪に対応するキャリアとサスペンションアームとの一方に連結された前輪側アーム、および、前輪側アームとは反対方向に延び出してその左右輪の一方に対応するキャリアとサスペンションアームとの一方に連結された中間輪側アームを有するトーションスプリングとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のサスペンションシステムによれば、車両の制動中に、車体の前方へのピッチ動作によって、トーションバーが捩れて弾性力を発生する。そのため、車体の前方へのピッチ動作によって、前輪における接地荷重だけでなく、トーションスプリングの連結される左中間輪と右中間輪との一方における接地荷重を増加させることができる。したがって、車両の制動中に、左中間輪と右中間輪との一方は走行面に対して滑り難くなり、その車輪に対応して備えられたブレーキによる制動力を向上させることができる。また、本サスペンションシステムによれば、車体が前方にピッチ動作する際、前輪に対応して設けられたサスペンションスプリングの縮み量が抑えられ、車体のピッチ剛性が高くなる。したがって、本発明のサスペンションシステムは実用性の高いサスペンションシステムとなる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。そして、請求可能発明の態様のうちのいくつかのものが、特許請求の範囲に記載した請求項に係る発明に相当する。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項と(4)項とをあわせたものが請求項3にそれぞれ相当する。
【0009】
(1)車体の前方側で車幅方向中央に設けられた前輪と、車体の後方側で車幅方向中央に設けられた後輪と、それら前輪と後輪との中間において車体の左側および右側にそれぞれ設けられた左中間輪および右中間輪を有する車両に備えられたサスペンションシステムであって、
前記前輪,前記左中間輪,前記右中間輪,前記後輪をそれぞれ回転可能に保持する4つのキャリアと、
前記4つのキャリアをそれぞれ支持し、車体にそれぞれ回動可能に設けられた4つのサスペンションアームと、
それら4つのサスペンションアームにそれぞれ対応して設けられ、車体を弾性的に支持する4つのサスペンションスプリングと、
(a)前記前輪から前記左中間輪と前記右中間輪との一方に向かって延びる姿勢で車体に回転可能に保持されたトーションバーと、(b)そのトーションバーの前記前輪側の端部から延び出して前記前輪に対応する前記キャリアと前記サスペンションアームとの一方に自身の先端部が連結された前輪側アームと、(c)前記トーションバーの前記左中間輪と前記右中間輪との一方の側の端部から前記前輪側アームとは反対方向に延び出して前記左中間輪と前記右中間輪との一方に対応する前記キャリアと前記サスペンションアームとの一方に自身の先端部が連結された中間輪側アームとを有するトーションスプリングと
を備えたサスペンションシステム。
【0010】
本項に記載の「トーションスプリング」では、トーションバーから延び出す2つのアームの方向が、車体のロールを抑制するために用いられるスタビライザ用のトーションスプリングとは異なっている。スタビライザ用のトーションスプリングは、2つのアームがトーションバーから同じ方向に延び出すように構成されている。つまり、スタビライザ用のトーションスプリングは、トーションスプリングの連結された2つの車輪において、トーションバーが発生する弾性力がトーションバーの回りに逆相に、つまり、2つの車輪の一方においてバウンド方向に、他方においてリバウンド方向に作用するように構成されている。一方、本項に記載のトーションスプリングは、2つのアームがトーションバーから反対方向に延び出すように構成されている。つまり、本項に記載のトーションスプリングは、トーションスプリングの連結された2つの車輪の両方において、トーションバーが発生する弾性力がトーションバーの回りに同相に、つまり、バウンド方向またはリバウンド方向のいずれかに作用するように構成されている。なお、本項に記載の「反対方向」とは、トーションバーの径方向において中間輪側アームの延び出す方向が、前輪側アームの延び出す方向の反対方向であればよい。
【0011】
本車両では、上記のように構成されたトーションスプリングのトーションバーが、前輪から左中間輪および右中間輪の一方に向かって延びる姿勢で、つまり、前輪から左中間輪および右中間輪の一方に向かって延びる直線に概して平行な姿勢で車体に回転可能に保持されている。そのため、例えば、本車両が制動されて車体が前方にピッチ動作すると、トーションスプリングの連結されたキャリアまたはサスペンションアームに対応する左中間輪および右中間輪の一方(以下、「スプリング連結中間輪」と言う場合がある)がほとんど変位しない状態で、前輪はバウンド方向に変位し、トーションバーは車体とともに前下りとなる。つまり、車体が前方にピッチ動作すると、前輪側アームおよび中間輪側アームのトーションバー回りの相対位置が変化し、トーションバーでは弾性力が発生する。その弾性力によって、前輪およびスプリング連結中間輪には、ともにリバウンド方向の力が作用する。つまり、本サスペンションシステムによれば、車体を前方にピッチ動作させるように発生する慣性モーメントに起因する力を、前輪だけではなく、スプリング連結中間輪にも作用させることができる。換言すれば、慣性モーメントに起因する力を、前輪とスプリング連結中間輪とに分担して作用させることができるのである。
【0012】
したがって、本発明のサスペンションシステムによれば、車両の制動中に、車体の前方へのピッチ動作によって、前輪における接地荷重だけでなく、スプリング連結中間輪における接地荷重を増加させることができる。したがって、本サスペンションシステムによれば、車両の制動中に、スプリング連結中間輪における接地荷重が増加し、スプリング連結中間輪が走行面に対して滑り難くなる。そのため、スプリング連結中間輪に対応して備えられたブレーキによる制動力を向上させることができる。また、本サスペンションシステムによれば、車体が前方にピッチ動作する際、先の慣性モーメントに起因する力が、スプリング連結中間輪に作用する分だけ前輪に作用しないため、前輪に対応して設けられたサスペンションスプリングの縮み量、つまり、車体の前方へのピッチ量が抑えられることになる。換言すれば、本サスペンションシステムによって車体のピッチ剛性が高くなっている。したがって、本発明のサスペンションシステムは実用性の高いサスペンションシステムとなっている。
【0013】
(2)前記左中間輪および前記右中間輪の各々が電動モータによって駆動される車両に備えられた(1)項に記載のサスペンションシステム。
【0014】
本車両では、左中間輪および右中間輪の回転によって、電動モータにおいて電力を発生させることができる。したがって、電動モータにおいて発生する抵抗力が左中間輪および右中間輪の回転を制止するように本サスペンションシステムを備えた車両を構成することができる。つまり、本車両では、電動モータを利用した回生ブレーキを構成することができる。本サスペンションシステムを備えた車両は、前述のように、車両の制動中、スプリング連結中間輪が走行面に対して滑り難い。そのため、電動モータによって車両を効果的に減速させることができ、また、本車両で電動モータを利用した回生ブレーキが構成されている場合には、電動モータで電力を効果的に発生させることができる。
【0015】
(3)前記トーションスプリングを1つだけ有する(1)項または(2)項に記載のサスペンションシステム。
【0016】
本サスペンションシステムでは、トーションスプリングが、前輪と左中間輪および右中間輪の一方とにだけ設けられており、他方とには設けられていない。そのため、左中間輪および右中間輪のどちらか一方だけにおいて、前述のように、車両の制動中にその車輪における接地荷重が増加することになる。例えば、運転席が車体の左右に偏って設けられている車両において、運転者だけがこの車両に乗車している場合には、車体の重量配分は左右で等しくならないことがある。したがって、車体の重量による接地荷重が左中間輪と右中間輪とで異なることになる。このような車両で、重量配分の小さい方の左中間輪または右中間輪に対応して設けられたキャリアまたはサスペンションアームにトーションスプリングを連結すれば、車両の制動中に、左中間輪の接地荷重と右中間輪の接地荷重との差を小さくすることができる。それにより、左中間輪における制動力と右中間輪における制動力との差を小さくすることができる。
【0017】
また例えば、上記の車両、つまり、運転者だけがこの車両に乗車している場合に、車体の重量配分が左右で等しくならない車両では、重量配分の大きい方に車体が傾いている可能性ががある。その傾きを補正するため、トーションスプリングを重量配分の大きい方の左中間輪または右中間輪に対応して設けられたキャリアまたはサスペンションアームにトーションスプリングを連結してもよい。その場合、車両の制動中に、トーションスプリングからの反力によって、重量配分の大きい方の左中間輪または右中間輪において車体が持ち上げられることになる。したがって、車体の傾きを補正する力を車体に作用させて車体の姿勢を矯正することができる。
【0018】
(4)当該車両の運転席が車体の左右に偏って設けられており、前記トーションバーが、前記運転席の設けられている方の前記左中間輪または前記右中間輪に向かって延びる(3)項に記載のサスペンションシステム。
【0019】
本車両では、前述のように、運転者だけがこの車両に乗車している際、車体の重量配分は左右で等しくなっていないと考えられ、そのため、重量配分の大きい方に車体が傾いていると考えられる。したがって、本サスペンションシステムによれば、この車両の制動中に、トーションスプリングからの反力によって、車体の傾きを補正する力を車体に作用させ、車体の姿勢を矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例のサスペンションシステムが搭載された車両の側面図である。
【図2】実施例のサスペンションシステムを示す斜視図である。
【図3】実施例のサスペンションシステムのトーションスプリングを上から見た状態を示す図である。
【図4】実施例のサスペンションシステムにおいて発生する力を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0022】
≪車両の構成≫
図1は、実施例のサスペンションシステム10を搭載する車両を模式的に示しており、図2は、本車両の車輪およびサスペンションシステム10を模式的に示している。本車両は、4つの車輪12、具体的には、車体の前方で車幅方向中央に設けられた前輪12Fと、車体の後方で車幅方向中央に設けられた後輪12Rと、それら前輪12Fと後輪12Rとの中間において車体の左右にそれぞれ設けられた左中間輪12MLおよび右中間輪12MRを有している。つまり、本車両は、4つの車輪が菱形の頂点にそれぞれ配置された車輪菱形配置車両となっており、これら4つの車輪12は、サスペンションシステム10によって車体に回転可能に保持されている。なお、以下の説明におけるいくつかの構成要素が、4つの車輪のいずれかに対応して示される場合には、前輪,後輪,左中間輪,右中間輪に対応して、それぞれ、添え字「F」,「R」,「ML」,「MR」を付すことがある。
【0023】
4つの車輪12のうち、前輪12F,後輪12Rは、それぞれ、本車両における転舵輪とされている。詳しい説明は省略するが、前輪12Fには転舵装置が設けられており、その転舵装置は、本車両に設けられたステアリングホイール14を運転者が転舵操作すると、前輪12Fを転舵させるように構成されている。一方、後輪12Rは、車体に対して回転可能なキャスタとなっており、車両の進行方向の変化に応じて、車体に対して自在に回転するように構成されている。また、左中間輪12MLおよび右中間輪12MRは、本車両における駆動輪とされている。左中間輪12MLおよび右中間輪12MRの各々には、駆動源としての電動モータを有する駆動装置が設けられている。詳しい説明は省略するが、駆動装置は、運転者のアクセル操作に応じたモータ力により、左中間輪12MLおよび右中間輪12MRを駆動させるように構成されている。
【0024】
また、図示は省略するが、4つの車輪12には、それぞれディスクブレーキが設けられており、運転者のブレーキ操作に応じて、各車輪12の回転は制止させられる。なお、本車両は、ブレーキ操作の際、左中間輪12MLの回転および右中間輪12MRの回転によって対応する電動モータをそれぞれ回転させ、それらの電動モータで電力を発生させるように構成されている。その発電の際、各電動モータの回転に対して発生する抵抗力は、左中間輪12MLおよび右中間輪12MRの各々の回転の制止に利用される。また、発生した電力は、本車両のバッテリーに充電され、各電動モータが駆動するためのエネルギーとして利用されることになる。つまり、本車両は、各電動モータを利用した回生ブレーキを有している。
【0025】
なお、図示は省略するが、本車両には、運転席と助手席とが、本車両の前後方向におけるほぼ中間において、車幅方向に並んで設けられている。それらの座席のうち、運転席は、車幅方向右側に偏った位置、つまり、右中間輪12MRの方に偏った位置に配設されている。
【0026】
≪サスペンションシステムの構成≫
サスペンションシステム10は、4つの車輪12をそれぞれ回転可能に保持する4つのキャリア16と、それら4つのキャリア16をそれぞれ支持し、車体にそれぞれ回動可能に設けられた4つのサスペンションアーム18と、それら4つのサスペンションアーム18にそれぞれ対応して設けられ、車体を弾性的に支持する4つのサスペンションスプリング20とを含んで構成されている。したがって、各車輪12および各キャリア16は、各サスペンションアーム18の回動によってバウンド方向またはリバウンド方向に移動可能となっている。4つのサスペンションスプリング20の各々は、一般的なコイルスプリングとなっており、各車輪12の近傍において車体を弾性的に支持している。なお、図2では、前輪12Fと右中間輪12MRに対応して設けられたサスペンションスプリング20の記載が省略されている。また、図では示されていないが、各サスペンションアーム18と車体との間には、各サスペンションスプリング20と並列してショックアブソーバーが設けられており、そのショックアブソーバーによって車体と各車輪12との相対振動が減衰される。
【0027】
また、サスペンションシステム10は、前輪12Fに対応して設けられているサスペンションアーム18Fに一端部22が連結され、右中間輪12MRに対応して設けられているサスペンションアーム18MRに他端部24が連結されたトーションスプリング26、および、そのトーションスプリング26を車体に対して回転可能に保持する2つの保持具28,30を有している。図3は、これらトーションスプリング26,保持具28,30を上から見た状態を示す図である。トーションスプリング26は、前輪12Fから右中間輪12MRに向かって延びる姿勢で車体に回転可能に保持されたトーションバー32と、トーションバー32の前輪12F側の端部から延び出して先端部が一端部22となっている前輪側アーム34と、トーションバーの右中間輪12MR側の端部から前輪側アーム34とは反対方向に延び出して先端部が他端部24となっている中間輪側アーム36とによって構成されている。また、トーションスプリング26の一端部22および他端部24には、それぞれ、連結ロッド38,40が回転自在に連結されており、それら連結ロッド38,40を介して、一端部22および他端部24は、サスペンションアーム18F,18MRにそれぞれ連結されている。なお、連結ロッド38,40は、それぞれ、サスペンションアーム18F,18MRに対しても回転自在となっている。
【0028】
2つの保持具28,30は同じ構造とされており、それぞれ、トーションバー32の両端に比較的近い位置でトーションバー32を回転可能に保持している。保持具28,30の各々は、車体に固定される保持具本体42と、その保持具本体42とトーションバー32との間に配置された軸受部44とを有している。軸受部44は、トーションバー32の保持具本体42に対する回転を許容するように構成されている。
【0029】
したがって、トーションスプリング26では、トーションバー32を軸として回転すると、一端部22および他端部24が、上下方向において互いに逆向きに移動することになる。別の言い方をすれば、トーションスプリング26は、一端部22のトーションバー32に対する相対位置と、他端部24のトーションバー32に対する相対位置とが上下方向において同じ方向に変位するように前輪側アーム34および中間輪側アーム36がそれぞれ回転すると、トーションバー32が捩じれて変形するように構成されている。つまり、その場合に、トーションバー32では、捩れ変形による弾性力が発生することになる。この弾性力は、トーションスプリング26の連結された前輪12Fおよび右中間輪12MRの両方において、トーションバー32の回りに同相に、つまり、バウンド方向またはリバウンド方向のいずれかに作用する。また、2つの保持具28,30では、トーションバー32の発生する弾性力の反力が作用することになる。
【0030】
なお、サスペンションシステム10では、前輪12Fと左中間輪12MLとを連結するトーションスプリングは設けられていない。つまり、サスペンションシステム10では、トーションスプリング26が1つだけ設けられており、そのトーションスプリング26が連結するサスペンションアーム12MRに対応する右中間輪12MRは、サスペンションシステム10におけるスプリング連結中間輪となっている。
【0031】
≪サスペンションシステムで発生する力≫
図4は、本車両の車体から各サスペンションスプリング20およびトーションバー32に作用する力と、各車輪12の接地荷重とを模式的に示している。なお、図4では、これらの力や接地荷重の理解を容易にするため、左中間輪12ML、それに対応するサスペンションスプリング20ML等に作用する力が省略されている。また、図4では、トーションスプリング26は、捩れ変形により弾性力を発生させるトーションバー32がサスペンションスプリング20と同様のコイルスプリングとなって示されており、また、そのトーションバー32が4箇所で支持されるように示されている。つまり、それら4箇所のうち、トーションバー32を車体で支持する2箇所によって、トーションスプリング26が保持具28,30の各々によって保持されていることを示しており、一方、トーションバー32をサスペンションスプリング20F,20Mの各々の下方で支持する2箇所によって、トーションスプリング26の一端部22および他端部24がそれぞれサスペンションアーム18F,18MRにそれぞれ連結していることを示している。また、図4では、前輪側アーム34の長さと中間輪側アーム36の長さとが等しいものとして示されており、トーションバー32の発生する弾性力は、前輪12F側の2箇所と右中間輪12MR側とで等しくなるように示されている。
【0032】
図4(a)は、本車両が水平な走行面上で静止している状態を示している。本車両が静止している状態で、車体には重力による力FGが作用し、サスペンションスプリング20F,20MR,20Rに作用する。つまり、サスペンションスプリング20F,20MR,20Rで発生する弾性反力をそれぞれFF,FMR,FRとすれば、FG=FF+FMR+FRの関係が成り立つ。また、それらの弾性反力FF,FMR,FRは、それぞれ、対応する車輪12F,12MR,12Rにおける接地荷重LF,LMR,LRになる考えることができる。なお、本車両が水平な走行面上で静止している状態では、トーションバー32では、捩れがまったく発生しておらず、捩れ変形による弾性力は発生していない。
【0033】
また、車両がブレーキ操作によって制動させられる場合、慣性モーメントに起因する力(以下、「慣性力」と省略する場合がある)FMが発生する。この慣性力FMは、トーションスプリング26の設けられていない通常の車両の場合には、図4(b)に示すように、前輪12Fに対応するサスペンションスプリング20Fではバウンド方向に、後輪12Rに対応するサスペンションスプリング20Rではリバウンド方向に作用する。そのため、慣性力FMに応じた力FFMがサスペンションスプリング20Fに作用し、慣性力FMに応じた力FRMがサスペンションスプリング20Rに作用する。したがって、サスペンションスプリング20F,20Rの長さがそれぞれ変化し、車体は、水平な状態(図4において点線に示す状態)から前方にピッチ動作する。なお、この場合、車両前後方向のほぼ中間を回転中心として車体がピッチ動作するため、慣性力FMは、サスペンションスプリング20MRにはほとんど作用しないと考えることができる。したがって、前輪12Fにおける接地荷重はLF=FF+FFM、後輪12Rにおける接地荷重はLR=FR−FRMとなる。
【0034】
しかしながら、トーションスプリング26の設けられた本車両では、右中間輪12MRがほとんど変位しない状態でサスペンションスプリング20Fがバウンド方向に変形、つまり、前輪12Fがバウンド方向に変位すると、トーションバー32は車体とともに前下りとなる。つまり、車体が前方にピッチ動作すると、トーションスプリング26では、前輪側アーム34および中間輪側アーム36のトーションバー32回りの相対位置が変化し、トーションバー32は弾性力を発生させる。その弾性力によって、前輪12Fおよび右中間輪12MRには、ともにリバウンド方向の力が作用する。
【0035】
図4(c)は、トーションスプリング26が設けられた本車両がピッチ動作している状態での車体から各サスペンションスプリング20およびトーションバー32に作用する力と、各車輪12の接地荷重とを模式的に示している。この図が示すように、トーションバー32を示すコイルスプリングは、車体が前方にピッチ動作することで縮められ、弾性力FTを発生させる。この弾性力FTは、サスペンションスプリング20F,20MRがそれぞれリバウンドする方向に発生し、前述の4箇所、つまり、トーションスプリング26を車体で支持する2箇所と、トーションスプリング26がスペンションアーム18F,18MRに連結する2箇所とに作用する。したがって、トーションバー32を車体で支持する2箇所の各々では、弾性力FTの概ね半分、つまり、FT/2の力が車体に作用し、車体ではFT/2の力が反力として発生する。一方、トーションバー32をサスペンションスプリング20F,20MRの各々の下方で支持する2箇所の各々では、弾性力FTの半分、つまり、FT/2の力が作用する。つまり、慣性力FMによってトーションバー32が発生する弾性力FTは、前輪12Fだけでなく右中間輪12MRにも作用する。換言すれば、弾性力FTが、前輪12Fと右中間輪12MRとに分担して作用し、前輪12Fおよび右中間輪12MRにおいて、それぞれ、FT/2の力がリバウンド方向に作用する。
【0036】
したがって、サスペンションシステム10によれば、トーションスプリング26が設けられているため、車両の制動中に、右中間輪12MRの接地荷重LMRを、FT/2の力の分だけ増加させることができる。そのため、右中間輪12MRは走行面に対して滑り難くなり、右中間輪12MRに対応して設けられたディスクブレーキおよび回生ブレーキによる制動力を向上させることができる。また、回生ブレーキの制動力の向上によって、右中間輪12MRに対応して設けられた電動モータで電力を効果的に発生させることができる。また、サスペンションシステム10によれば、車体が前方にピッチ動作する際、慣性力FMが右中間輪12MRに作用する分だけ、慣性力FMによってサスペンションスプリング20Fに作用する力FFMは、図4(b)のトーションスプリング26のない場合に比べて小さくなる。そのため、サスペンションスプリング20Fの縮み量、つまり、車体の前方へのピッチ量が抑えられることになる。換言すれば、サスペンションシステム10を備えた本車両では、車体のピッチ剛性が高くなっているのである。さらに、本車両では、トーションスプリング26が右中間輪12MRに対応するサスペンションアーム18MRに連結されているため、車両の制動中、トーションバー32の発生する弾性力によるFT/2の力によって、車体は運転席の設けられた位置において持ち上げられることになる。本車両では、運転席が車幅方向右側に偏っているため、車両に運転者だけが乗車していると、運転者の重量によって車体の重量配分が右側で大きくなり、車体が右側に若干傾いている。本サスペンションシステム10によれば、車両の制動中には、先の反力を車体の傾きを補正する力として車体に作用させ、車体の姿勢を矯正することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:サスペンションシステム 12:車輪 16:キャリア 18:サスペンションアーム 20:サスペンションスプリング 22:一端部 24:他端部 26:トーションスプリング 32:トーションバー 34:前輪側アーム 36:中間輪側アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前方側で車幅方向中央に設けられた前輪と、車体の後方側で車幅方向中央に設けられた後輪と、それら前輪と後輪との中間において車体の左側および右側にそれぞれ設けられた左中間輪および右中間輪を有する車両に備えられたサスペンションシステムであって、
前記前輪,前記左中間輪,前記右中間輪,前記後輪をそれぞれ回転可能に保持する4つのキャリアと、
前記4つのキャリアをそれぞれ支持し、車体にそれぞれ回動可能に設けられた4つのサスペンションアームと、
それら4つのサスペンションアームにそれぞれ対応して設けられ、車体を弾性的に支持する4つのサスペンションスプリングと、
(a)前記前輪から前記左中間輪と前記右中間輪との一方に向かって延びる姿勢で車体に回転可能に保持されたトーションバーと、(b)そのトーションバーの前記前輪側の端部から延び出して前記前輪に対応する前記キャリアと前記サスペンションアームとの一方に自身の先端部が連結された前輪側アームと、(c)前記トーションバーの前記左中間輪と前記右中間輪との一方の側の端部から前記前輪側アームとは反対方向に延び出して前記左中間輪と前記右中間輪との一方に対応する前記キャリアと前記サスペンションアームとの一方に自身の先端部が連結された中間輪側アームとを有するトーションスプリングと
を備えたサスペンションシステム。
【請求項2】
前記左中間輪および前記右中間輪の各々が電動モータによって駆動される車両に備えられた請求項1に記載のサスペンションシステム。
【請求項3】
前記トーションスプリングを1つだけ有し、
当該車両の運転席が車体の左右に偏って設けられており、前記トーションバーが、前記運転席の設けられている方の前記左中間輪または前記右中間輪に向かって延びる請求項1または請求項2に記載のサスペンションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71646(P2013−71646A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212871(P2011−212871)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】