説明

サドル構造体と緊張用ケーブル

【課題】内管内に収納されたマルチケーブルの一括被覆の端部における止水性を向上できるサドル構造体とそのマルチケーブルとして用いる緊張用ケーブルを提供する。
【解決手段】橋梁の主塔に対して固定される内管10と、内管の内部に貫通されるマルチケーブルと、内管内に充填され、マルチケーブル30の内管貫通箇所を覆って、その貫通箇所を内管10に固定させる充填剤(グラウト40)とを備えるサドル構造体1である。マルチケーブル30は、複数の被覆PC鋼撚り線30wの撚合体と、この撚合体の外周に設けられた一括被覆30cとを有する。マルチケーブル30の内管貫通箇所は、一括被覆30cが除去された露出部30eと、この露出部30eに隣接されて一括被覆30cが残る被覆部30jと、充填剤に含まれる水分と接触することで膨張して被覆部30jの端部を止水する水膨張性シーリング剤とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜張橋やエクストラドーズド橋などの主塔に設けられるサドル構造体と、その構造体に用いられる緊張用ケーブルに関するものである。特に、複数の被覆PC(プレストレストコンクリート)鋼撚り線の撚合体の外周に一括被覆を設けたマルチケーブルを利用したサドル構造体において、マルチケーブルと内管の付着の為に、内管に収納された箇所のみ除去されたマルチケーブルの一括被覆の端部における止水性を向上できるサドル構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幹線道路や鉄道線路に設けられる橋梁として、斜張橋やエクストラドーズド橋が知られている。これら斜張橋やエクストラドーズド橋は、主桁に垂直に配置された主塔から斜めに延びる複数のケーブルにより主桁を支持するように構成されている。
【0003】
上記のような斜張橋やエクストラドーズド橋の主塔において、サドル構造体が利用されている。サドル構造体は、主桁に両端部が固定されるケーブルの中間部を主塔部分で保持するように構成したものである。このようなサドル構造体としては、マルチケーブルを用いたサドル構造体が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
マルチケーブルは、複数の被覆PC鋼撚り線の撚合体と、この撚合体の外周に設けられた一括被覆とを有するケーブルである。各被覆PC鋼撚り線は、複数の素線からなる撚り線に防食被覆が設けられている。
【0005】
このケーブルを用いたサドル構造体は、鉄筋コンクリートで構成される主塔内に埋設される外管と、この外管の内部に配置される内管とを主たる構成要素とする。外管と内管のいずれの端部も、主塔の各側面に引き出されている。内管の内部には緊張されたマルチケーブルが挿通されている。このマルチケーブルのうち、内管を貫通する箇所には、部分的に一括被覆が除去されて被覆PC鋼撚り線の露出部が形成される。また、内管内にはグラウトが充填され、このグラウトが硬化することで、露出部の各被覆PC鋼撚り線と内管を一体に保持する。
【0006】
さらに、内管の端部には、スライドパイプが接続され、そのスライドパイプの端部にはゴムブーツが装着される。ゴムブーツは、スライドパイプの端部とマルチケーブルとの間を封止し、内管内に充填されるグラウトが硬化前にスライドパイプの端部から漏出することを防止する。
【0007】
そして、内管の外周にリングナットをネジ結合し、このリングナットを主塔の側面に固定された支圧板に定着する。これにより、主桁の振動等でマルチケーブルに作用する張力は、マルチケーブルからグラウト、内管、リングナット、支圧板を介して主塔に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-169675号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のサドル構造では、マルチケーブルにおける内管に収納された箇所において、一括被覆の端部での止水性にさらなる改善が求められている。
【0010】
前述したサドル構造では、内管端部にスライドパイプを接続し、さらにスライドパイプの端部にゴムブーツを装着することで、内管内に充填するグラウトが硬化前にスライドパイプの端部とマルチケーブルとの隙間から漏出することを防止している。ところが、内管内におけるマルチケーブルは、グラウトとケーブルとの付着性を高めるため、部分的に一括被覆を除去しており、一括被覆の端部が存在する。そのため、内管内に充填したグラウトが硬化する前では、一括被覆の端部から各被覆PC鋼撚り線同士の間や一括被覆と撚合体との間をグラウト或いはグラウト中の水分が伝って行く虞がある。その場合、被覆PC鋼撚り線の素線は防食被覆を有し、撚合体の外周は一括被覆で覆われているため、防食被覆が健全であれば、素線の防食性が直ちに影響を受けるわけではないが、一括被覆の内部に水分が存在する状態となるため、腐食の要因となる水分を取り除くことが好ましい。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、マルチケーブルを利用したサドル構造体において、内管内に収納されたマルチケーブルの一括被覆の端部における止水性を向上できるサドル構造体を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、前記サドル構造体の構築に好適な緊張用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のサドル構造体は、橋梁の主塔に対して固定される内管と、緊張用のケーブルで、その両端部が橋梁の主桁に固定され、中間部が前記内管の内部に貫通されるマルチケーブルと、前記内管内に充填され、前記マルチケーブルの内管貫通箇所を覆って、その貫通箇所を内管に固定させる充填剤とを備えるサドル構造体である。この構造体において、前記マルチケーブルは、複数の被覆PC鋼撚り線の撚合体と、この撚合体の外周に設けられた一括被覆とを有する。また、前記マルチケーブルの内管貫通箇所は、前記一括被覆が除去されて撚合体が露出された露出部と、この露出部に隣接して、前記一括被覆が撚合体を覆う被覆部と、前記充填剤に含まれる水分と接触することで膨張して前記被覆部の端部を止水するシーリング剤とを有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、水膨張性シーリング剤を有することで、露出部と被覆部との境界からの被覆部内にグラウトなどの充填剤が浸入することを防止することができる。また、充填剤に含まれる水分と接触することで膨張する水膨張性シーリング剤を用いることで、被覆部の端部に充填剤の水分が到達しても、前記シーリング剤の膨張により一括被覆と各被覆PC鋼撚り線との間や各被覆PC鋼撚り線同士の間の少なくとも一方の空隙を減少又は消失させることができ、被覆部内への充填剤の進展をより確実に抑制することができる。
【0015】
本発明サドル構造体の一形態として、前記被覆PC鋼撚り線は、撚り合わされた複数の鋼製の素線と、これら素線の撚り線の外周を被覆し、かつ各素線の間に充填される防食被覆とを備えることが挙げられる。
【0016】
この構成によれば、被覆PC鋼撚り線は、素線の外周のみならず、各素線間にも防食被覆が形成されているため、高い耐食性を有するサドル構造体とすることができる。
【0017】
本発明サドル構造体の一形態として、前記被覆PC鋼撚り線が前記防食被覆を有する場合に、この防食被覆は、その外周面に付着される多数の固体粒子を有することが挙げられる。
【0018】
この構成によれば、多数の固体粒子により防食被覆表面の摩擦抵抗を高めることができ、内管内の露出部において、各被覆PC鋼撚り線と充填剤との付着性を一層高めることができる。
【0019】
一方、本発明の緊張用ケーブルは、両端部が橋梁の主桁に固定され、中間部が橋梁の主塔に対して固定される内管内に貫通されて、この内管内に充填される充填剤により内管と一体化される緊張用ケーブルである。このケーブルは、複数の被覆PC鋼撚り線の撚合体と、この撚合体の外周に設けられた一括被覆と、各被覆PC鋼撚り線と一括被覆との間に局部的に配されるシーリング剤とを有する。そして、そのシーリング剤は、緊張用ケーブルの内管貫通箇所のうち、前記一括被覆を除去して撚合体を露出した際、一括被覆の端部となる箇所に配され、前記充填剤に含まれる水分と接触することで膨張する水膨張性シーリング剤であることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、緊張用ケーブルのうち、サドル構造体の構成部材として用いた場合に内管内で一括被覆の端部となる箇所に予めシーリング剤を配置しておくことで、サドル構造体を構築する現場では、一括被覆の端部付近に止水構造を施工する必要がない。また、このシーリング剤は、ケーブルの製造過程で一括被覆の内側に配しておくことで、一括被覆と各PC鋼撚り線との間のみならず、各PC鋼撚り線同士の間にも確実かつ容易に充填することができる。
【0021】
本発明緊張用ケーブルの一形態として、前記被覆PC鋼撚り線は、撚り合わされた複数の鋼製の素線と、これら素線の撚り線の外周を被覆し、かつ各素線の間に充填される防食被覆とを備えることが挙げられる。
【0022】
この構成によれば、被覆PC鋼撚り線は、素線の外周のみならず、各素線間にも防食被覆が形成されているため、このケーブルを用いることで、高い耐食性を有するサドル構造体を構築できる。
【0023】
本発明緊張用ケーブルの一形態として、前記被覆PC鋼撚り線が前記防食被覆を有する場合に、この防食被覆は、その外周面に付着される多数の固体粒子を有することが挙げられる。
【0024】
この構成によれば、多数の固体粒子により防食被覆表面の摩擦抵抗を高めることができ、内管内の露出部において、各被覆PC鋼撚り線と充填剤との付着性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のサドル構造体によれば、内管内に収納されたマルチケーブルの一括被覆の端部における止水性を向上することができる。
【0026】
本発明の緊張用ケーブルによれば、作業負荷を伴うことなく、内管内に収納されたマルチケーブルの一括被覆の端部における止水性が向上されたサドル構造体を容易に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)は実施形態に係る本発明サドル構造体の全体構成図、(B)はそのサドル構造体の出口部分の部分拡大図である。
【図2】(A)は図1のサドル構造体に用いられるマルチケーブルの断面図、(B)はマルチケーブルを構成する被覆PC鋼撚り線の断面図である。
【図3】図1のサドル構造体に用いられるマルチケーブルの水膨張性シーリング剤の配置箇所を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。ここでは、本発明サドル構造体を斜張橋やエクストラドーズド橋などの橋梁の主塔に適用した場合を例として説明を行なう。これらの橋梁は、地面にほぼ平行に延びる主桁と、主桁にほぼ垂直に延びる主塔と、主塔から主桁に伸びる斜ケーブル(緊張用ケーブル)により構成される。このサドル構造体に使用するケーブルは、複数の被覆PC鋼撚り線の撚合体を一括被覆で覆ったマルチケーブルである。以下の説明では、まずサドル構造体の全体構成を、次いで、各構成部材を説明する。
【0029】
(全体構成の概要)
サドル構造体1は、橋梁の主塔200に埋設した外管20と、外管20の内部に配置された内管10とを主たる構成要素とし、内管10の内部に挿通したマルチケーブル30で橋梁の主桁(図示略)を吊り下げるように構成している(図1(A))。
【0030】
サドル構造体1の外管20は、その両端部が主塔200の対向する側壁に開口するように鉄筋コンクリート製の主塔200に埋設される。外管20の外周には、外管20の長手方向に沿って主塔200を補強する補強筋70が配置される。また、主塔200の側壁のうち、外管20の開口端部近傍には支圧板81が配置されている(図1(B))。
【0031】
内管10は、外管20の内部に配置され、その両端部が外管20から突出するように主塔の対向する側壁に開口している。また、内管10は、内管スペーサ50により外管20の内部に固定される。このとき、内管10と外管20との間には隙間が形成され、この隙間にグラウト排出ホース63が挿入されている。さらに、内管10の端部に形成される直管部12の外周面にはリングナット80がネジ嵌合されており、このリングナット80は圧力調節板85を介して上述した支圧板81を押圧している。
【0032】
マルチケーブル30は、内管10内に挿通され、両端部が図示しない主桁に固定されている。マルチケーブル30と内管10との間にはグラウト40(充填剤)が充填され、マルチケーブル30と内管10とがグラウト40を介して一体となっている。また、内管端部(内管直管部12)において、マルチケーブル30と内管10との隙間からグラウト40が漏れないように、直管部12の端部にスライドパイプ95がネジ嵌合され、さらにスライドパイプ95の端部にゴムブーツ96が装着されている。
【0033】
以下、各構成部材を説明する。
【0034】
(ケーブル)
<構成>
マルチケーブル30は、図2(A)に示すように、複数の被覆PC鋼撚り線30wの撚合体を一括被覆30cで覆って一本にまとめたものである。本実施形態では、複数の素線32を撚り合わせた撚り線と、その撚り線を覆う防食被覆34とを備える被覆PC鋼撚り線を用いている(図2(B))。より具体的には、各素線32は鋼製で、代表的には7本で撚り線を構成する。防食被覆34は、例えばエポキシ樹脂からなり、撚り線の外周を覆うと共に、各素線32間の間にも前記樹脂が充填された構成である。また、防食被覆34の外表面には、素線32間の撚り溝が表れており、かつ多数の固体粒子36が付着されている。固体粒子36は被覆PC鋼撚り線30wとグラウト40との付着性を高めるためのもので、例えば珪砂などが好適に利用できる。
【0035】
このような被覆PC鋼撚り線30wは複数本を撚り合わせて撚合体が形成される。撚合体を構成する被覆PC鋼撚り線30wの本数は、例えば、12本、19本、27本、37本、48本などが挙げられる。図1では、説明の便宜上、一部の被覆PC鋼撚り線30wしか示していない。その他、撚合体の断面外形をより円形に近づけるため、主として被覆PC鋼撚り線30wの外側に介在紐30iも併せて撚り合わせることが好ましい。介在紐30iの材質例としては、ポリプロピレンが挙げられる。
【0036】
このような撚合体の外周には、被覆PC鋼撚り線30wや介在紐30iのばらけを抑制するテープ巻き層(図示略)が形成され、さらにそのテープ巻き層の外側に一括被覆30cが形成される。本例では、一括被覆30cの材料として、高密度ポリエチレンを用いている。
【0037】
そして、図3に示すように、このマルチケーブル30には、その長手方向の一部に水膨張性シーリング剤30sが配されている。本例では、このシーリング剤30sは、マルチケーブル30でサドル構造体1を構築した場合に、内管10内において一括被覆30cの端部となる箇所に予め配されている(図1)。マルチケーブル30の内管貫通箇所は、部分的に一括被覆30cを除去して被覆PC鋼撚り線30wが露出された露出部30eが形成され、その露出部30eの両側に一括被覆30cが残された被覆部30jが形成される。この被覆部30jの端部、すなわち一括被覆30cの端部となる箇所にシーリング剤30sを配置する。より具体的には、マルチケーブル30における一括被覆30cの端部に相当する位置において、テープ巻き層と各被覆PC鋼撚り線30wの間及び各被覆PC鋼撚り線30w同士の間にシーリング剤30sが充填されている。このシーリング剤30sは、内管10内に充填されるグラウト40の水分と接触することで膨張し、テープ巻き層と各被覆PC鋼撚り線30wの相互部材間の隙間を減少又は消失させ、さらに硬化することで被覆部30jの端部における十分な止水性を実現する。このような水膨張性シーリング剤30sは、市販のものが利用できる。
【0038】
<ケーブルの製造方法>
このようなマルチケーブルは、例えば次のようにして製造する。
【0039】
複数の素線32を用意し、この素線32を撚り合わせて撚り線を構成する(図2)。その撚り線を形成する際、目板を用いて各素線32間を開き、その状態でエポキシ樹脂を粉体塗装して防食被覆34を形成する。そして、エポキシ樹脂が硬化する前に、防食被覆34の表面に固体粒子36を吹きつけ、固体粒子36の一部が防食被覆34の表面から突出し、残部が防食被覆34に埋設された状態となるようにする。
【0040】
得られた被覆PC鋼撚り線30wを複数本撚り合わせて撚合体を形成する。その際、マルチケーブル30の長さは主桁に定着される一端から主塔のサドル構造体1を介して主桁に至る他端までの長さが設計長として既知であるため、その設計長からサドル構造体1を構築した際に、マルチケーブル長手方向のどの箇所が内管10内における被覆部30jの端部になるかが求められる。従って、撚合体を形成する際、図1、図3に示すように、その被覆部30jの端部となる箇所における各被覆PC鋼撚り線30wの間及び外周に所定幅で水膨張性シーリング剤30sを塗布しておけばよい。より具体的には、各被覆PC鋼撚り線30wの撚り解いた状態として、各被覆PC鋼撚り線30wに前記シーリング剤30sを塗布すればよい。水膨張性シーリング剤30sを配する幅は、被覆部30jの端部となる実際の位置が設計寸法より若干ずれた場合を想定して、ケーブル長手方向における20〜50cm程度の間とすればよい。本例では、この幅を30cmとしている。
【0041】
その後、撚合体の外周にテープ巻き層を形成し、さらにその上に押出にて一括被覆層30cを形成することでマルチケーブル30が得られる。
【0042】
(外管)
外管20は、所定の強度を有し、コンクリートとの付着性能が良いものであれば特に限定されない。本例では高密度ポリエチレン製の曲管を使用した。外管20の曲率は、次述する内管10の曲管部11の曲率にほぼ一致する。
【0043】
(内管)
内管10は、緩やかな曲率半径を有する曲管部11と、この曲管部11の両端部に形成される直管部12からなる。直管部12と曲管部11は、連続した一つの部材でも良いし、別部材として溶接などにより接合しても良い。また、内管10の材質は、所定の強度を有し、グラウト40との付着性能が良いものであれば特に限定されない。本例では、鋼製の曲管と直管とを溶接して内管10を作製した。
【0044】
内管10の曲管部11は、その内部に配置されるケーブル30が折れ曲がって、ケーブル30に過度の側圧が局所的に作用する事のないように、曲管部11の全長に亘って一定の曲率を有する。また、曲管部11の曲率は、ケーブル30が許容最小曲げ半径以下に屈曲されてサドル構造体1の安全性を損なわないように決定する。
【0045】
内管10の直管部12は、曲管部11の両端部から真直ぐに形成される。従って、直管部12の水平線に対する角度は、曲管部11の曲率により決定される。また、本例では、この直管部12内に露出部30eと被覆部30jとの境界が存在している。つまり、直管部12のスライドパイプ側端部におけるマルチケーブル30は、一括被覆30cが存在する被覆部30jとなっている。サドル構造の施工後、直管部12のスライドパイプ側端部におけるマルチケーブル30には折れ曲がりが作用しやすいが、その端部に位置するマルチケーブル30には一括被覆30cが残された被覆部30jとなっていることで、ケーブル30の耐疲労特性の改善を図ることができる。
【0046】
(グラウトおよびグラウト注入口、グラウト排出ホース)
グラウト40は、内管10の内部に充填されて硬化することにより、内管10とケーブル40とを一体にするためのものである。グラウト40は、市販のものを使用すれば良い。また、内管10の内部にグラウト40を充填するためのグラウト注入口62は、サドル構造体1の出口部においてスライドパイプに95に接続され、グラウト排出ホース63は、内管10の曲管部11のほぼ中央部に接続され(図1(A))、その接続箇所から内管10と外管20の間を通ってサドル構造体1の出口側に引き出されている(図1(B))。内管10内へのグラウト40の充填は、注入口62からグラウト40を注入し、排出ホース63からグラウト40が排出された時点で終了とする。
【0047】
(スライドパイプおよびゴムブーツ)
内管直管部12の両端部に設けたスライドパイプ95およびゴムブーツ96は、グラウト40が硬化するまでグラウト40を内管10内に保持して、内管10の外側に漏れることを防止するものである。スライドパイプ95は所定の強度を有していれば良く、ここでは鋼製の管(亜鉛めっき鋼管)を使用した。スライドパイプ95は、内管10の直管部12の端部にネジ嵌合され、このネジ嵌合部からもグラウト40が漏れないようにしている。
【0048】
一方、ゴムブーツ96は公知のものを使用すれば良い。ゴムブーツ96は、細径部と太径部とからなり、太径部はスライドパイプ95の端部を覆うようにし、細径部はマルチケーブル30の一括被覆30cを覆うようにする。装着前のゴムブーツ96の太径部の内径は、スライドパイプ95の外径よりも小さく、細径部の内径は、一括被覆30cの外径よりも小さい。従って、スライドパイプ95の端部におけるスライドパイプ95とマルチケーブル30との隙間を、このゴムブーツ96により封止することができ、内管10の両端部からグラウト40が漏れることを防止することができる。
【0049】
(リングナット、支圧板)
リングナット80は、内管直管部12の外周にネジ嵌合されて、ケーブル30に作用する張力を主塔の側壁に伝達する部材である。また、支圧板81は、主塔200の側壁に表面が露出するように埋設されて、ケーブル30に作用する張力をリングナット80を介して受ける板状の部材である。
【0050】
(圧力調節板)
圧力調節板85は、上記リングナット80を直管部12にネジ嵌合したときに、リングナット80と支圧板81との間に形成される隙間を埋めるための部材である。圧力調節板85の中心には、内管直管部12を挿通できる貫通孔が設けられている。本例では、2枚のテーパープレートを重ね合わせて圧力調節板85とした。テーパープレートは、一方の面は平らで、他方の面は傾斜面となっている鋼製の薄板である。即ち、テーパープレートを側方から見たときに、一方の端部が厚く、他方の端部が薄いテーパー状である。本例では、2枚のテーパープレートの傾斜面を対向するように重ね合わせ、円板を回転させることにより厚さを変更できるようにした。テーパープレートの表面はテフロン(登録商標)加工などを施し、傾斜面が滑りやすいようにすることが好ましい。
【0051】
テーパープレートの周縁部には、ネジ(例えば、六角穴付止めネジ)を取り付けることができるネジ穴85sが形成されている。このネジ穴にネジを取り付けることで、このネジをテーパープレートの径方向外方に突出させることができる。テーパープレートの径方向外方に突出するネジを操作することにより、リングナット80と支圧板81とに挟まれたテーパープレートを容易に回転させることができる。また、ネジ穴85sの位置を確認することにより、2枚のテーパープレートの相対的な回転度合いを容易に確認することができる。
【0052】
(補強筋)
補強筋70は、主塔200の強度を増強させるために使用する部材である。補強筋70は、市販のものを使用した。本例のサドル構造体1では、外管20の全長を取り囲むらせん状に補強筋70を配置した。
【0053】
(サドル構造体の形成方法)
上記のようなサドル構造体1を形成するには、工場で外管20の内部に内管10を配置して、工事現場で内管10の両端部が主塔200の対向する側壁に開口するようにする。
【0054】
次に、マルチケーブル30のうち、内管10内に貫通される箇所の一括被覆30cを部分的に除去し、被覆PC鋼撚り線30wが露出された露出部30eを形成する(図1(B))。この一括被覆30cの除去を行うだけで、予め被覆部30jの端部となる位置に水膨張性シーリング剤30sが配されているため、このシーリング剤30sの塗布を現場作業として行う必要がない。
【0055】
続いて、予めスライドパイプ95とゴムブーツ96を外嵌したマルチケーブル30を内管10内に挿通して緊張し、このケーブル30の両端部を図示しない主桁の所定位置に定着する。
【0056】
さらに、内管10の端部にスライドパイプ95をネジ嵌合するとともに、スライドパイプ95の端部にゴムブーツ96を装着して内管10を封止する。
【0057】
次いで、ケーブル30を緊張した後、スライドパイプ95のグラウト注入口62および内管10に連通したグラウト排出ホース63を用いて内管10内にグラウト40を注入し、ケーブル30と内管10とが一体となるようにする。このグラウト40の注入により、被覆部30jの端部にグラウト40の水分が達して水膨張性シーリング剤30sに接触すると、このシーリング剤30sは膨張・硬化して被覆部端部の止水を行う。
【0058】
そして、内管10の直管部12の外周面にリングナット80を螺合して、このリングナット80を圧力調節板85を介して支圧板81に当て止めする。
【0059】
(作用効果)
内管10内に貫通されているマルチケーブル30のうち、被覆部30jの端部には、水膨張性シーリング剤30sが配されているため、一括被覆30cと被覆PC鋼撚り線30wとの間や各被覆PC鋼撚り線30w同士の間を十分に止水することができる。また、このシーリング剤30sはグラウト40に含まれた水分と接触することで膨張するため、万一、グラウト充填前に同シーリング剤30sの塗布箇所に隙間が存在しても、水との接触により膨張することで、その隙間を埋めることができ、高い止水性能を得ることができる。
【0060】
各被覆PC鋼撚り線30wは、複数の素線32からなる撚り線の外周のみならず、各素線32の間にまで樹脂が充填された防食被覆34を有するため、高い耐食性を有するサドル構造体とすることができる。
【0061】
さらに、この防食被覆34の表面には、素線32の撚り溝が現れていることに加え、多数の固体粒子36が付着されているため、グラウト40と被覆PC鋼撚り線30wの付着性を高めることができる。
【0062】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のサドル構造体及び緊張用ケーブルは、斜張橋やエクストラドーズド橋などに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 サドル構造体
10 内管 11 曲管部 12 直管部
20 外管
30 マルチケーブル
30w 被覆PC鋼撚り線
32 素線 34 防食被覆 36 固体粒子
30c 一括被覆
30i 介在紐
30s 水膨張性シーリング剤
30e 露出部 30j 被覆部
40 グラウト 50 内管スペーサ
62 グラウト注入口 63グラウト排出ホース
70 補強筋 80 リングナット 81 支圧板 85 圧力調節板
85s ネジ穴 95 スライドパイプ 96 ゴムブーツ
200 主塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の主塔に対して固定される内管と、
緊張用のケーブルで、その両端部が橋梁の主桁に固定され、中間部が前記内管の内部に貫通されるマルチケーブルと、
前記内管内に充填され、前記マルチケーブルの内管貫通箇所を覆って、その貫通箇所を内管に固定させる充填剤とを備えるサドル構造体であって、
前記マルチケーブルは、
複数の被覆PC鋼撚り線の撚合体と、
この撚合体の外周に設けられた一括被覆とを有し、
前記マルチケーブルの内管貫通箇所は、
前記一括被覆が除去されて撚合体が露出された露出部と、
この露出部に隣接して、前記一括被覆が撚合体を覆う被覆部と、
前記充填剤に含まれる水分と接触することで膨張して前記被覆部の端部を止水する水膨張性シーリング剤とを有することを特徴とするサドル構造体。
【請求項2】
前記被覆PC鋼撚り線は、
撚り合わされた複数の鋼製の素線と、
これら素線の撚り線の外周を被覆し、かつ各素線の間に充填される防食被覆とを備えることを特徴とする請求項1に記載のサドル構造体。
【請求項3】
前記被覆PC鋼撚り線の防食被覆は、その外周面に付着される多数の固体粒子を有することを特徴とする請求項2に記載のサドル構造体。
【請求項4】
両端部が橋梁の主桁に固定され、中間部が橋梁の主塔に対して固定される内管内に貫通されて、この内管内に充填される充填剤により内管と一体化される緊張用ケーブルであって、
複数の被覆PC鋼撚り線の撚合体と、
この撚合体の外周に設けられた一括被覆と、
各被覆PC鋼撚り線と一括被覆との間に局部的に配されるシーリング剤とを有し、
前記シーリング剤は、
緊張用ケーブルの内管貫通箇所のうち、前記一括被覆を除去して撚合体を露出した際、一括被覆の端部となる箇所に配され、
前記充填剤に含まれる水分と接触することで膨張する水膨張性シーリング剤であることを特徴とする緊張用ケーブル。
【請求項5】
前記被覆PC鋼撚り線は、
撚り合わされた複数の鋼製の素線と、
これら素線の撚り線の外周を被覆し、かつ各素線の間に充填される防食被覆とを備えることを特徴とする請求項4に記載の緊張用ケーブル。
【請求項6】
前記被覆PC鋼撚り線の防食被覆は、その外周面に付着される多数の固体粒子を有することを特徴とする請求項5に記載の緊張用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162942(P2011−162942A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23523(P2010−23523)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】