説明

サファイア単結晶製造用αアルミナおよびその製造方法

【課題】高い生産効率でサファイア単結晶を製造することができるサファイア単結晶製造用αアルミナおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】αアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)25〜235重量部と、を含み、αアルミナ(I)は、比表面積が0.1〜5m2/g、かさ密度が1.5g/cm3以上であり、αアルミナ(II)は、焼結体粒子からなり、比表面積が1m2/g以下、相対密度が85%以上、焼結体粒子の各々の体積が0.01cm3以上であるサファイア単結晶製造用αアルミナ、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶製造用αアルミナおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
αアルミナは、サファイア単結晶を製造するための原料として有用である。サファイア単結晶は、例えばαアルミナを金属モリブデン製のルツボ内に充填し、加熱して溶融し、溶融したアルミナから引き上げる方法により製造することができる(例えば、特許文献1参照)。αアルミナを高い容積効率でルツボに充填してサファイア単結晶を効率よく製造するため、さらに高い容積効率でルツボに充填することができるαアルミナが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−97569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高い生産効率でサファイア単結晶を製造することができるサファイア単結晶製造用αアルミナおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特性が異なる2種のαアルミナを所定割合で混合することで得られるサファイア単結晶製造用αアルミナは、かさ密度が極めて高いという知見を得、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)αアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)25〜235重量部と、を含み、αアルミナ(I)は、比表面積が0.1〜5m2/g、かさ密度が1.5g/cm3以上であり、αアルミナ(II)は、焼結体粒子からなり、比表面積が1m2/g以下、相対密度が85%以上、焼結体粒子の各々の体積が0.01cm3以上であることを特徴とするサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(2)αアルミナ(I)は、JIS K 0069(1992)の乾式篩い分け試験で求めた乾式篩い分け粒子径の重量基準の粒子径分布において、100μm以上850μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大を示す前記(1)記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(3)αアルミナ(I)は、JIS K 0069(1992)の乾式篩い分け試験で求めた乾式篩い分け粒子径の重量基準の粒子径分布において、850μm以上1mm未満の粒子径を有する粒子の含有量が10重量%以下であり、100μm以上850μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大(A)を示し、頻度極大(A)のうち最も小さな極大粒子径を示す頻度極大の極大粒子径をD1、極大値をM1とし、1mm以上の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大(B)を示し、頻度極大(B)のうち最も大きな極大粒子径を示す頻度極大の極大粒子径をD2、極大値をM2としたとき、D1およびD2が、式:2×D1≦D2≦20×D1を満足し、M1とM2との比(M1/M2)が、0.05以上である前記(1)または(2)記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(4)純度が99.99重量%以上であり、Si,Na,Ca,Fe,CuおよびMgの含有量がそれぞれ重量比で10ppm以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(5)αアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)25〜235重量部と、を混合する工程を含み、αアルミナ(I)は、比表面積が0.1〜5m2/g、かさ密度が1.5g/cm3以上であり、αアルミナ(II)は、焼結体粒子からなり、比表面積が1m2/g以下、相対密度が85%以上、焼結体粒子の各々の体積が0.01cm3以上であることを特徴とするサファイア単結晶製造用αアルミナの製造方法。
なお、本発明における前記「乾式篩い分け粒子径」は、JIS Z 8801(1987)で規定する標準篩で篩い分けしたとき、αアルミナ(I)が通過しなかった標準篩の目開きの最大値である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い容積効率でルツボに充填することができるので、高い生産効率でサファイア単結晶を製造することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0007】
〔サファイア単結晶製造用αアルミナ〕
本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナ(以下、「単結晶製造用αアルミナ」と言う。)は、特定のαアルミナ(I)100重量部と、特定のαアルミナ(II)25〜235重量部、好ましくは50〜150重量部、より好ましくは100重量部と、を含むものである。この割合で異なる特性を有する2種のαアルミナ(αアルミナ(I)およびαアルミナ(II))を含むと、単結晶製造用αアルミナのかさ密度を高くすることができるので、単結晶製造用αアルミナを高い容積効率でルツボに充填することができる。
【0008】
すなわち、αアルミナ(II)は、比表面積、相対密度および体積が、各々後述する範囲内であるので、比較的大きな体積と高い相対密度を両立でき、形状の整った焼結体粒子であることから焼結体粒子の各々のかさ密度が高いという特徴を有する。
一方、αアルミナ(I)は、比表面積およびかさ密度が、各々後述する範囲内であるので、比較的高いかさ密度と高い流動性とを両立でき、さらには閉気孔率を充分に低くできる。
そして、本発明においては、前記のような形態を有するαアルミナ(II)の焼結体粒子の間に、充分なかさ密度と流動性を有するαアルミナ(I)が上述の重量比で存在することにより、極めて高いかさ密度を有することが可能となる。
以下に、αアルミナ(I)およびαアルミナ(II)について詳述する。
【0009】
<αアルミナ(I)>
αアルミナ(I)は、通常、粉末である。αアルミナ(I)の純度は、99.99重量%以上が好ましい。αアルミナ(I)は、Si,Na,Ca,Fe,CuおよびMgの含有量がそれぞれ重量比で10ppm以下であるのが好ましい。
【0010】
αアルミナ(I)の比表面積は、0.1〜5m2/g、好ましくは0.2〜1m2/gである。αアルミナ(I)のかさ密度は、1.5g/cm3以上、好ましくは2.0g/cm3以上、より好ましくは2.0〜2.6g/cm3である。αアルミナ(I)の比表面積があまり大きく、かさ密度があまり小さいと、αアルミナ(I)の流動性が低下し、取り扱い性が低下するおそれがある。また、αアルミナ(I)の比表面積があまり小さいと、閉気孔率が高まるおそれがあり、閉気孔に取り込まれた水分等によりルツボを酸化させるおそれがある。
【0011】
高いかさ密度で単結晶製造用αアルミナをルツボへ充填する上で、αアルミナ(I)は、相対密度が55〜90%、閉気孔率が0〜10%、吸着水分量が0〜1重量%であるのが好ましい。相対密度が上記範囲内であると、本発明で規定する比表面積およびかさ密度のαアルミナ(I)が得られやすい。閉気孔率が上記範囲を超えて高くなると、閉気孔に取り込まれた水分等によりルツボを酸化させるおそれがあり、また、吸着水分量が上記範囲を超えて高くなると、吸着水分によりルツボを酸化させるおそれがある。
【0012】
αアルミナ(I)は、2.8mmを超える粒子径(直径)を有する粒子の含有量が15重量%以下であるのが好ましく、10重量%以下であるのがより好ましい。特に、αアルミナ(I)は、2.8mmを超える粒子径(直径)を有する粒子を実質的に含まない(例えば、含有量が約0.1重量%以下)のが好ましい。2.8mmを超える粒子径(直径)を有する粒子の含有量が上記範囲を超えると、本発明で規定するかさ密度のαアルミナ(I)が得られにくくなる。
なお、粒子径とは、後述する乾式篩い分け粒子径である。
【0013】
αアルミナ(I)は、粒子径分布において、100μm以上850μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大を示すのが好ましく、100μm以上500μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大を示すのがより好ましい。αアルミナ(I)は、単一粒子径の粒子を含むものでもよい。頻度極大が上記粒子径範囲内に1つ以上あると、本発明で規定するかさ密度のαアルミナ(I)が得られやすい。
【0014】
αアルミナ(I)は、粒子径分布において、850μm以上1mm未満の粒子径を有する粒子の含有量が10重量%以下であり、100μm以上850μm未満、好ましくは100μm以上500μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大(A)を示し、頻度極大(A)のうち最も小さな極大粒子径を示す頻度極大の極大粒子径をD1、極大値をM1とし、1mm以上、好ましくは1mm以上2mm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大(B)を示し、頻度極大(B)のうち最も大きな極大粒子径を示す頻度極大の極大粒子径をD2、極大値をM2としたとき、D1およびD2が、式:2×D1≦D2≦20×D1を満足し、M1とM2との比(M1/M2)が、0.05以上であるのが好ましい。これにより、より高いかさ密度で単結晶製造用αアルミナをルツボへ充填することができる。
【0015】
特に、D1およびD2が、式:5×D1≦D2≦15×D1を満足するのが好ましく、M1とM2との比(M1/M2)が、0.1以上であるのが好ましく、1以上であるのがより好ましく、1〜5であるのがさらに好ましい。
【0016】
本明細書において、粒子径は、JIS Z 8801(1987)に規定される目開き75μm,100μm,212μm,300μm,425μm,500μm,600μm,710μm,850μm,1mm,2mmおよび2.8mmの標準篩を用いて、粒子が通過し得なかった目開きの最大値として測定される乾式篩い分け粒子径である。粒子径分布は、標準篩を用いてJIS K 0069(1992)の乾式篩い分け試験に従い測定される乾式篩い分け粒子径による重量基準の粒子径分布である。
【0017】
αアルミナ(I)は、例えば以下の(I−1)〜(I−3)の工程を含む方法により調製することができる。
(I−1)αアルミナ前駆体とαアルミナ種粒子とを混合して混合物を得る工程。
(I−2)混合物を焼成して粗粉末を得る工程。
(I−3)粗粉末を分級する工程。
【0018】
(αアルミナ前駆体)
αアルミナ前駆体は、焼成によりαアルミナに転移し得る化合物であって、例えば水酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、γアルミナ、δアルミナ、θアルミナ等の遷移アルミナ等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよく、特に水酸化アルミニウムが好ましく、純度99.99重量%以上の高純度水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0019】
水酸化アルミニウムは、例えば加水分解性アルミニウム化合物を加水分解することにより得られる。加水分解性アルミニウム化合物としては、例えばアルミニウムアルコキシド、塩化アルミニウム等が挙げられるが、純度の点でアルミニウムアルコキシドが好ましい。水酸化アルミニウムは、結晶型が不定形(アモルファス)、ギブサイト、ベーマイトであり、好ましくはベーマイトである。
【0020】
(αアルミナ種粒子)
αアルミナ種粒子は、例えば純度99.99重量%以上の高純度αアルミナ粒子を粉砕して得られる。αアルミナ種粒子は、中心粒子径が0.1〜1μmであるのが好ましく、0.1〜0.4μmであるのがより好ましい。中心粒子径があまり小さいαアルミナ種粒子は工業的に製造が困難であり、αアルミナ種粒子の中心粒子径があまり大きいと、αアルミナ(I)の比表面積およびかさ密度が特定の値を外れるおそれがあるので好ましくない。
【0021】
高純度αアルミナ粒子の粉砕は、例えば乾燥状態で粉砕する方法(乾式粉砕)、溶媒を加えてスラリー状態で粉砕する方法(湿式粉砕)等が挙げられ、湿式粉砕が好ましい。
【0022】
湿式粉砕では、例えばボールミル、媒体撹拌ミル等の粉砕装置などが用いられる。溶媒は、通常、水である。湿式粉砕では、分散性を向上させるため、分散剤を添加することができる。分散剤としては、αアルミナ(I)の不純物を低減するため、例えばポリアクリル酸アンモニウム塩等の高分子系分散剤のように焼成により分解して揮発する材料が好ましい。
【0023】
αアルミナ種粒子の汚染を低減するため、粉砕装置の部材のうちアルミナと接する面が高純度のαアルミナであるか、あるいは樹脂ライニングされていることが好ましい。媒体撹拌ミル等を用いる場合には、媒体も高純度のαアルミナであることが好ましい。
【0024】
αアルミナ種粒子の量は、焼成後のαアルミナ粒子の重量を100重量部としたとき、通常、0.1〜10重量部であり、好ましくは0.3〜7重量部である。αアルミナ種粒子の量があまり少ないと、αアルミナ(I)の比表面積およびかさ密度が上述した特定の値を外れるおそれがあり、あまり多くても得られるαアルミナ(I)の物性は変わらず不必要に使用量が増大するので好ましくない。
【0025】
αアルミナ種粒子は、通常、湿式粉砕後のスラリーの状態で水酸化アルミニウムと混合される。スラリーの量は、通常、スラリー中の水分量として、水酸化アルミニウム100重量部に対して100〜220重量部であり、好ましくは120〜200重量部である。水分量があまり多いと、混合物がスラリー化し、乾燥に多大なエネルギーを要するので好ましくない。水分量があまり少ないと、混合物の流動性が乏しく、αアルミナ種粒子と水酸化アルミニウムとの混合が不十分となるおそれがある。
【0026】
(混合)
混合は、例えばボールミルやミキサー等を用いて行うか、または超音波照射等により行うことができる。これらの方法により、分散性よくαアルミナ前駆体とαアルミナ種粒子とを混合することができる。αアルミナ前駆体とαアルミナ種粒子とをより均一に混合する上で、せん断力をかけながら混合することができるブレード型混合機が好ましい。
【0027】
αアルミナ前駆体とαアルミナ種粒子との混合物は、通常、乾燥され水分が除去される。乾燥温度は、通常、80〜180℃である。乾燥品の軽装かさ密度を向上させるため、乾燥は流動層乾燥機を用いて行うことが望ましい。
【0028】
(焼成)
焼成は、例えば管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉等の通常の焼成炉を用いることができる。焼成は、回分式、連続式いずれでも行うことができる。焼成炉は、静止式や流動式いずれでもよい。
【0029】
焼成温度は、特定の純度、比表面積、相対密度、閉気孔率およびかさ密度を有するαアルミナ(I)が容易に得られる点で、通常、1200〜1450℃、好ましくは1250〜1400℃である。焼成温度があまり高いと、焼成が過度に進行し比表面積が下がることや、閉気孔率が高まることや、焼成炉からの不純物汚染等が起こり易い。焼成温度があまり低いと、水酸化アルミニウムのα化が不十分であったり、比表面積が高くなることがある。
【0030】
焼成温度までの昇温速度は、例えば30〜500℃/時間である。焼成時間は、水酸化アルミニウムが十分にα化するのに十分な時間であり、水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子との量比、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気等により異なり、例えば30分〜24時間、好ましくは1時間〜10時間である。
【0031】
焼成雰囲気としては、大気か、または窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。焼成雰囲気は、湿潤雰囲気であってもよい。
【0032】
(分級)
分級は、例えば篩い分け等により行うことができる。
【0033】
<αアルミナ(II)>
αアルミナ(II)は、焼結体粒子からなる。本発明におけるαアルミナ(II)は、例えば、水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子の混合物を成形して成形体を得、得られた成形体を焼結することで得ることができる。
αアルミナ(II)の比表面積は、1m2/g以下、好ましくは0.1m2/g以下である。αアルミナ(II)の相対密度は、85%以上である。焼結体粒子の各々の体積は、0.01cm3以上、好ましくは0.10cm3以上、より好ましくは0.10〜10cm3である。αアルミナ(II)の比表面積があまり大きいか、またはαアルミナ(II)の相対密度があまり小さいと、単結晶製造用αアルミナのかさ密度が低くなるおそれがある。
【0034】
高いかさ密度で単結晶製造用αアルミナをルツボへ充填する上で、αアルミナ(II)は、焼結体粒子の集合体のかさ密度が1〜3g/cm3、閉気孔率が0〜10%であるのが好ましい。また、αアルミナ(II)の純度は、99.99重量%以上が好ましい。αアルミナ(II)は、Si,Na,Ca,Fe,CuおよびMgの含有量がそれぞれ10ppm以下であるのが好ましい。
【0035】
αアルミナ(II)は、例えば以下の(II−1)〜(II−3)の工程を含む方法により調製することができる。
(II−1)水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子とを混合して混合物を得る工程。
(II−2)混合物を成形して成形体を得る工程。
(II−3)成形体を焼結する工程。
【0036】
(水酸化アルミニウム)
水酸化アルミニウムは、例えば加水分解性アルミニウム化合物を加水分解することにより得られる。加水分解性アルミニウム化合物としては、例えばアルミニウムアルコキシド、塩化アルミニウム等が挙げられ、純度の点でアルミニウムアルコキシドが好ましい。水酸化アルミニウムは、純度99.99重量%以上の高純度水酸化アルミニウムが好ましい。水酸化アルミニウムは、結晶型が不定形(アモルファス)、ギブサイト、ベーマイトであり、好ましくはベーマイトである。
【0037】
(αアルミナ種粒子)
αアルミナ種粒子としては、αアルミナ(I)のαアルミナ種粒子で例示したのと同じαアルミナ種粒子が挙げられる。
【0038】
(混合)
αアルミナ種粒子は、通常、湿式粉砕後のスラリーの状態で水酸化アルミニウムと混合される。スラリーの量は、通常、スラリー中の水分量として、水酸化アルミニウム100重量部に対して100〜220重量部であり、好ましくは120〜200重量部である。水分量があまり多いと、混合物がスラリー化し、乾燥に多大なエネルギーを要するので好ましくない。水分量があまり少ないと、混合物の流動性が乏しく、αアルミナ種粒子と水酸化アルミニウムとの混合が不十分となるおそれがある。混合は、例えばボールミルやミキサー等を用いて行うか、または超音波照射等により行うことができる。これらの方法により、分散性よく水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子とを混合することができる。水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子とをより均一に混合する上で、せん断力をかけながら混合することができるブレード型混合機が好ましい。
【0039】
(成形)
次いで、上記のようにして得られた混合物を成形する。なお、混合物は、成形に適した水分量に調整してもよく、例えば、水酸化アルミニウム100重量部に対して、水分量として、100〜220重量部、好ましくは、140〜200重量部である。
成形は、例えばプレス成形、打錠成形、押出成形、マルメライザーまたは皿型転動機等により行うことができる。成形体は、通常、円柱状、俵状または球状である。成形体は、乾燥させて水分を除去してもよいし、乾燥させなくてもよい。乾燥は、例えばオーブン、高周波乾燥機等により行うことができる。乾燥温度は、通常、60〜180℃である。
【0040】
(焼結)
焼結は、例えば管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉等の通常の焼結炉を用いることができる。焼結は、回分式、連続式いずれでも行うことができる。焼結炉は、静止式、流動式いずれでもよい。
【0041】
焼結温度は、特定の純度、比表面積、相対密度および閉気孔率を有するαアルミナ(II)が容易に得られる点で、通常、1200〜1450℃、好ましくは1250〜1400℃である。焼結温度があまり高いと、焼結が過度に進行し比表面積が下がることや、閉気孔率が高まることや、焼結炉からの不純物汚染等が起こり易い。焼結温度があまり低いと、水酸化アルミニウムのα化が不十分であったり、比表面積が高くなることがある。
【0042】
焼結温度までの昇温速度は、例えば30〜500℃/時間である。焼結時間は、水酸化アルミニウムが十分にα化するのに十分な時間であり、水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子との量比、焼結炉の形式、焼結温度、焼結雰囲気等により異なり、例えば30分〜24時間、好ましくは1時間〜10時間である。
【0043】
焼結雰囲気としては、大気か、または窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。焼結雰囲気は、湿潤雰囲気であってもよい。
【0044】
〔単結晶製造用αアルミナの製造方法〕
単結晶製造用αアルミナの製造方法は、αアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)25〜235重量部、好ましくは50〜150重量部、より好ましくは100重量部と、を混合する工程を含む。
【0045】
(混合)
混合は、αアルミナの汚染を抑制するため、αアルミナ(I)またはαアルミナ(II)と接触する部材が、高純度αアルミナであるか、または樹脂ライニングされている装置を使用して行うことが好ましい。
【0046】
このようにして得られた単結晶製造用αアルミナは、通常、比表面積が0.1〜5m2/g、好ましくは0.2〜1.0m2/gである。これにより、大気中から表面に付着する水分が少なく、加熱溶融させたときに、これらの水分によりルツボを酸化させるおそれがなく、さらにサファイア単結晶に形成されるボイドも少なくなる。
【0047】
単結晶製造用αアルミナは、純度が99.99重量%以上であり、Si,Na,Ca,Fe,CuおよびMgの含有量がそれぞれ10ppm以下であることが好ましい。このような単結晶製造用αアルミナを単結晶製造用アルミナ原料として用いることで、着色やクラック等の少ない良質なサファイア単結晶が得られる。
【0048】
単結晶製造用αアルミナは、かさ密度が、通常、2.6g/cm3以上、好ましくは2.6〜3.5g/cm3である。このような単結晶製造用αアルミナを加熱溶融した後、冷却することにより容易に単結晶化させてサファイア単結晶を得ることができる。
【0049】
単結晶製造用αアルミナは、例えばEFG法、チョクラルスキー法、カイロポーラス法等のサファイア単結晶成長方法の原料として使用することができ、好ましくは高い容積効率でルツボに充填する必要があるチョクラルスキー法、カイロポーラス法等に用いられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、各物性の評価方法は、次の通りである。
【0051】
(相対密度)
アルキメデス法で焼結密度を測定し、式:相対密度(%)=焼結密度〔g/cm3〕/3.98〔g/cm3;αアルミナ理論焼結密度〕×100に当てはめて算出した。
【0052】
(体積)
アルキメデス法で測定した焼結体の密度と単結晶製造用αアルミナ1個あたりの重量とを、式:体積(cm3/個)=重量〔g/個〕/焼結密度〔g/cm3〕に当てはめて算出した。
【0053】
(閉気孔率)
式:閉気孔率(%)=〔(閉気孔体積)/{(1/3.98)+細孔容積+閉気孔体積}〕×100から算出した。
閉気孔体積は、式:閉気孔体積(cm3/g)=(1/粒子密度)−(1/3.98)から算出した。粒子密度は、JIS R 7222(1997)の真比重測定方法に基づき算出した。細孔容積は、試料を120℃で4時間乾燥後、MICROMERITICS社製のオートポアIII9420装置を用いて水銀圧入法により細孔半径1μm以下の範囲の細孔容積として求めた。
【0054】
(不純物濃度と純度)
Si,Na,Mg,Cu,Fe,Caの含有量は、固体発光分光法にて測定した。純度は、単結晶製造用αアルミナ中に含まれるSiO2,Na2O,MgO,CuO,Fe23,CaOの重量の総和(%)を上記から算出し、これを100から差し引いた。
すなわち、式:純度(%)=100−不純物の重量の総和(%)から算出した。
【0055】
(かさ密度)
試料を内径80mm、高さ150mmの容器に充填した後、試料重量を測定容器の容積で除して算出した。
【0056】
(比表面積)
(株)島津製作所製のBET比表面積測定装置「2300−PC−1A」を用いて窒素吸着法により測定した。なお、測定容器に入らない大きさの試料は、容器に入る大きさに粉砕の上、測定した。
【0057】
(粒子径分布)
JIS K 0069(1992)の乾式篩い分け試験法に基づき、JIS Z 8801(1987)に指定された標準篩のうち、網目の目開きが、75μm,100μm,212μm,300μm,425μm,500μm,600μm,710μm,850μm,1mm,2mm,2.8mmの篩を用いて算出した。
【0058】
(水分量)
吸着水分量は、JIS H 1901(1997)に基づき、試料を110℃で乾燥した後、その減量として測定した。
【0059】
<αアルミナ(I)の調製>
αアルミナ種粒子として、純度99.99重量%の高純度αアルミナ(住友化学株式会社製の商品名「AKP−53」)を用いた。高純度αアルミナに水を加えて混合物を得、混合物を湿式ボールミル粉砕し、アルミナ種粒子が25重量%含まれたスラリーを作製した。αアルミナ種粒子の中心粒子径は0.25μmであった。
【0060】
αアルミナ前駆体として、アルミニウムアルコキシドの加水分解法により得られた純度99.99重量%の高純度水酸化アルミニウムを用いた。高純度水酸化アルミニウムの結晶型は、ベーマイトである。
【0061】
スラリーと高純度水酸化アルミニウムとを、高速回転する多段十字型分解構造を有する撹拌羽を内面に有するブレード型混合機で混合した。スラリー中のαアルミナ種粒子の量は、焼成して得られるαアルミナ粗粉末を100重量部としたとき、1.7重量部であった。水の量は、高純度水酸化アルミニウム100重量部に対して、149重量部であった。
【0062】
混合後、流動層乾燥機を用い、200℃で乾燥して水分を除去した後、昇温速度100℃/時間、焼成温度1335℃で4時間焼成した。焼成雰囲気は、大気中とした。得られた粗粉末を篩い分けして分級し、αアルミナ(I)を得た。
【0063】
得られたαアルミナ(I)は、粉末であり、Si含有量が6ppm、Na含有量が5ppm以下、Mg含有量が1ppm以下、Cu含有量が1ppm以下、Fe含有量が6ppm、Ca含有量が1ppm以下であり、アルミナ純度は99.99重量%であった。
【0064】
また、αアルミナ(I)は、相対密度が87%、閉気孔率が2.4%、比表面積が0.4m2/g、かさ密度が2.5g/cm3、吸着水分量が0.02重量%であり、吸着水分が少なく低閉気孔率かつかさ密度が高いαアルミナ粉末であった。
【0065】
αアルミナ(I)は、重量基準の粒子径分布において、75μm未満の粒子径を有する粒子の含有量が2.0重量%、2.8mmを超える粒子径を有する粒子の含有量が4.6重量%であり、100μm以上212μm未満の粒子径範囲に1つの頻度極大(A)を示し、850μm以上1mm未満の粒子径を有する粒子の含有量が3.4重量%であり、1mm以上2mm未満の粒子径範囲に1つの頻度極大(B)を示し、D2はD1の10倍であり、M1/M2比が1.19であった。
【0066】
<αアルミナ(II)の調製>
αアルミナ種粒子として、純度99.99重量%の高純度αアルミナ(住友化学株式会社製の商品名「AKP−53」)を用いた。高純度αアルミナに水を加えて混合物を得、混合物を湿式ボールミル粉砕し、アルミナ種粒子が25重量%含まれたスラリーを作製した。αアルミナ種粒子の中心粒子径は0.25μmであった。
【0067】
水酸化アルミニウムとして、アルミニウムアルコキシドの加水分解法により得られた純度99.99重量%の高純度水酸化アルミニウムを用いた。高純度水酸化アルミニウムの結晶型は、ベーマイトである。
【0068】
スラリーと高純度水酸化アルミニウムとを、高速回転する多段十字型分解構造を有する撹拌羽を内面に有するブレード型混合機で混合した。スラリー中のαアルミナ種粒子の量は、焼成して得られるαアルミナを100重量部としたとき、1.7重量部であり、水の量は、水酸化アルミニウム100重量部に対して、149重量部であった。
【0069】
水の量を、水酸化アルミニウム100重量部に対して、192重量部になるよう調整した後、直径20mm、長さ40mmの円柱状に押出し成形した。成形体を、オーブン中60℃で乾燥して水分を除去した後に、昇温速度100℃/時間、焼結温度1350℃で4時間焼結して、αアルミナ(II)を得た。なお、焼結雰囲気は、大気中とした。
【0070】
得られたαアルミナ(II)は、焼結体粒子からなり、比表面積が0.1m2/g以下、相対密度が94%、焼結体粒子の各々の体積が1.1cm3、かさ密度が1.8g/cm3、閉気孔率が6%、Si含有量が4ppm、Na含有量が5ppm以下、Mg含有量が1ppm以下、Cu含有量が1ppm以下、Fe含有量が5ppm、Ca含有量が1ppm以下であり、アルミナ純度は99.99重量%であった。
【0071】
<αアルミナ(I)とαアルミナ(II)との混合>
得られたαアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)100重量部とを混合して、単結晶製造用αアルミナを得た。得られた単結晶製造用αアルミナは、かさ密度が3.0g/cm3であり、かさ密度が高かった。したがって、得られた単結晶製造用αアルミナによれば、高い容積効率でルツボに充填することができ、高い生産効率でサファイア単結晶を製造できることがわかる。
【0072】
また、得られた単結晶製造用αアルミナは、比表面積が0.2m2/g、Si含有量が6ppm、Na含有量が5ppm以下、Mg含有量が1ppm以下、Cu含有量が1ppm以下、Fe含有量が6ppm、Ca含有量が1ppm以下であり、アルミナ純度は99.99重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
αアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)25〜235重量部と、を含み、
αアルミナ(I)は、比表面積が0.1〜5m2/g、かさ密度が1.5g/cm3以上であり、
αアルミナ(II)は、焼結体粒子からなり、比表面積が1m2/g以下、相対密度が85%以上、焼結体粒子の各々の体積が0.01cm3以上であることを特徴とするサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項2】
αアルミナ(I)は、JIS K 0069(1992)の乾式篩い分け試験で求めた乾式篩い分け粒子径の重量基準の粒子径分布において、100μm以上850μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大を示す請求項1記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項3】
αアルミナ(I)は、
JIS K 0069(1992)の乾式篩い分け試験で求めた乾式篩い分け粒子径の重量基準の粒子径分布において、850μm以上1mm未満の粒子径を有する粒子の含有量が10重量%以下であり、
100μm以上850μm未満の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大(A)を示し、頻度極大(A)のうち最も小さな極大粒子径を示す頻度極大の極大粒子径をD1、極大値をM1とし、
1mm以上の粒子径範囲に1つ以上の頻度極大(B)を示し、頻度極大(B)のうち最も大きな極大粒子径を示す頻度極大の極大粒子径をD2、極大値をM2としたとき、
D1およびD2が、式:2×D1≦D2≦20×D1を満足し、
M1とM2との比(M1/M2)が、0.05以上である請求項1または2記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項4】
純度が99.99重量%以上であり、Si,Na,Ca,Fe,CuおよびMgの含有量がそれぞれ重量比で10ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項5】
αアルミナ(I)100重量部と、αアルミナ(II)25〜235重量部と、を混合する工程を含み、
αアルミナ(I)は、比表面積が0.1〜5m2/g、かさ密度が1.5g/cm3以上であり、
αアルミナ(II)は、焼結体粒子からなり、比表面積が1m2/g以下、相対密度が85%以上、焼結体粒子の各々の体積が0.01cm3以上であることを特徴とするサファイア単結晶製造用αアルミナの製造方法。

【公開番号】特開2011−207743(P2011−207743A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47092(P2011−47092)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】