説明

サブマージアーク溶接方法

【課題】サブマージアーク溶接の溶接速度を増速するためには細径の溶接用ワイヤを使用せざるを得ず、入熱が集中してHAZの靭性が劣化するという問題があった。これに対して通常の太さの溶接用ワイヤを用いてアークを安定させ、増速を可能にする技術を提供する。
【解決手段】単一の、あるいは2本以上の電極で溶接を行なうサブマージアーク溶接方法の第1電極に、REMを0.01〜1質量%含有する溶接用ワイヤを用い、極性を直流正極性または交流とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の電極あるいは2本以上の電極を用いてサブマージアーク溶接を行なう方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は、溶融メタルがスラグによって保護されるので、アークが外気から遮断されて安定し、溶接電流を増大させて溶接速度を増速することが可能であるばかりでなく、溶接金属の品質が高く、低温靭性に優れるという効果を有する。さらに、美麗な外観の溶接金属が得られるという利点がある。そのため、様々な分野(たとえば造船,建築,橋梁等)で広く普及している。
【0003】
サブマージアーク溶接は、溶接電流を大きく設定して1パスで溶接を行なう大入熱溶接が可能であるから、施工能率に優れた溶接技術であるが、施工能率のさらなる向上を目的として、溶接速度を高める技術が検討されている。
たとえば特許文献1には、細径の溶接用ワイヤを用いて溶込み深さを増大する技術が開示されている。細径の溶接用ワイヤを使用すればアークが集中するので、溶接電流が同一であっても溶込み深さを増大することが可能であり、溶接速度を増速できる。しかし、入熱が集中することによってHAZの温度が過剰に上昇した後、急激に冷却されて、HAZの靭性が劣化する。
【0004】
しかも細径の溶接用ワイヤを用いる場合は、溶接用ワイヤを高速で供給しなければならない。そのため、特殊な溶接装置を使用する必要があり、サブマージアーク溶接の施工コストの上昇を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-272377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、溶接速度の増速を達成できるサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、通常の太さのワイヤ径を有する溶接用ワイヤを用いてサブマージアーク溶接を行ない、溶接速度を増速する技術について調査検討した。そして、溶接用ワイヤに希土類元素(以下、REMという)を添加すると、アークの集中度が向上して、溶接速度の増速が可能になることが分かった。
従来、REMはガスシールドアーク溶接におけるアークを安定させる、あるいは炭酸ガスアーク溶接におけるスパッタを低減させることを目的として溶接用ワイヤに添加されていた。しかし、サブマージアーク溶接で用いる溶接用ワイヤにREMを添加した場合の効果については解明されていなかった。サブマージアーク溶接は、アークがスラグの中で発生するので、スパッタの発生が問題にならない。そのため、溶接用ワイヤにREMを添加する必要性がなかった。
【0008】
そこで発明者らは、サブマージアーク溶接におけるREMの挙動について詳細に研究した。その結果、溶接用ワイヤに添加されたREMが酸化物となって液滴表面に存在し、そのREMから電子が優先的に放出されて、アークの分散を抑制することが判明した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、単一の、または2本以上の電極で溶接を行なうサブマージアーク溶接方法において、REMを0.01〜1質量%含有する溶接用ワイヤを第1電極で用いるサブマージアーク溶接方法である。
【0009】
本発明のサブマージアーク溶接方においては、CaOを30質量%以下含有するフラックスを使用することが好ましい。さらに、第1電極の溶接電流をI1(A)とし、第2電極の溶接電流をI2(A)として、電流比I2/I1を0.65以上とすることが好ましい。
なお、第1電極は、単一の電極を用いる場合はその電極を指し、複数の電極を用いる場合は進行方向の先頭に配置される電極を指す。第2電極は、進行方向の2番目に配置される電極を指す。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サブマージアーク溶接の溶接速度の増速を達成できる。しかも通常の太さのワイヤ径を有する溶接用ワイヤに本発明を適用できるので、従来の溶接装置で施工でき、施工コストの低減に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、REMを含有する溶接用ワイヤを使用する。その溶接用ワイヤは、単一の電極でサブマージアーク溶接を行なう場合には、その電極で使用し、2本以上の電極でサブマージアーク溶接を行なう場合には、第1電極(すなわち進行方向の先頭に配置される電極)で使用する。溶接用ワイヤのREM含有量が0.01質量%未満では、十分な溶込み深さが得られない。一方、1質量%を超えると、素材の溶製工程でREMを均一に混合することが困難になるばかりでなく、溶接用ワイヤの加工工程で割れが生じる。したがって、溶接用ワイヤのREM含有量は0.01〜1質量%の範囲内とする。
【0012】
その溶接用ワイヤを使用する電極は、直流正極性(すなわち電極を陰極)とすることが好ましい。その理由は、溶込み深さが増大するからである。交流とした場合でも、直流正極性ほどの効果は得られないものの、溶込み深さは増大する。
さらに、適用するフラックスについては、CaOの含有量が30質量%以下であることが好ましい。フラックスのCaO含有量が30質量%を超えると、溶込み深さを増大する効果が得られない。一方、CaO含有量が5質量%未満では、スラグの塩基度が低下し、溶接金属の靭性が劣化する。そのため、フラックスのCaO含有量は5〜30質量%がより好ましい。
【0013】
また、2本以上の電極でサブマージアーク溶接を行なう場合には、進行方向の先頭に配置される電極(すなわち第1電極)と2番目に配置される電極(すなわち第2電極)の電流比を適正に維持することが好ましい。電流比は、第1電極の電流をI1(A)とし、第2電極の溶接電流をI2(A)として、I2/I1で算出される値である。電流比が0.65未満では、溶込みの先端部にスラグが巻き込まれ易くなる。したがって、電流比は0.65以上が好ましい。ただし電流比が0.8を超えると、溶接欠陥が発生し易くなる。そのため、電流比は0.65〜0.8がより好ましい。
【0014】
単一の電極でサブマージアーク溶接を行なう場合には、電流比を規定する必要はない。
【実施例】
【0015】
<実施例1>
厚さ12mmのSM490B鋼板に単一の電極でサブマージアーク溶接を行なった。開先はI形開先とし、裏面側と表面側から両面1層溶接を行なった。サブマージアーク溶接の溶接電流,溶接電圧,溶接速度および極性は表3に示す通りである。表3中のワイヤ記号A,Bとフラックス記号a,dは、それぞれ表1,2に対応する。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
表3に示す比較例(すなわち溶接番号4)は、REMを含有しない溶接用ワイヤを用いた例である。これに対して、REMを含有する溶接用ワイヤを用いた発明例(すなわち溶接番号1,3,6,7)では、十分な溶込み深さが得られるので、溶接速度を増速できた。溶接番号2は、逆極性でサブマージアーク溶接を行なったので、溶接速度が溶接番号1,3に比べて遅かった。フラックスのCaOが32質量%でかつ逆極性の溶接番号5も、溶込み深さが浅いため、溶接速度が遅かった。溶接番号6は、フラックスのCaOがやや多いが、REMを含有する溶接用ワイヤを用いて正極性で溶接することによって、溶接番号5に比べて溶接速度の増速効果が得られた。
<実施例2>
厚さ28mmのSM490C鋼板に2本の電極でサブマージアーク溶接を行なった。開先角度を40°とし、ルートフェースを2〜6mmとして角継手を作製し、片面1層溶接を行なった。サブマージアーク溶接の溶接電流,溶接電圧,溶接速度,極性および開先形状は表4に示す通りである。表4中のワイヤ記号C,D,Eとフラックス記号bは、それぞれ表1,2に対応する。使用したフラックスbはCaCO3を19質量%含有しているが、溶接時にCaCO3がCaOとCO2に分解するので、CaOは7質量%+19質量%×0.56=17.6質量%含有するものとした。
【0020】
【表4】

【0021】
表4に示す比較例(すなわち溶接番号10)は、REMを含有しない溶接用ワイヤを第1電極で用いた例である。これに対して、REMを含有する溶接用ワイヤを第1電極で用いた発明例(すなわち溶接番号8)では、十分な溶込み深さが得られるので、溶接速度を増速できた。
なお、比較例である溶接番号9では、使用した溶接用ワイヤのREM含有量が本発明の範囲を外れるので、溶接速度を増速できなかった。
<実施例3>
厚さ25.4mmのAPIX65鋼板に4本の電極でサブマージアーク溶接を行なった。開先はX開先とし、裏面側と表面側から両面1層溶接を行なった。サブマージアーク溶接の溶接電流,溶接電圧,溶接速度,極性,電流比および開先形状は表5,6に示す通りである。表5中のワイヤ記号F,Gとフラックス記号cは、それぞれ表1,2に対応する。
【0022】
【表5】

【0023】
【表6】

【0024】
表6に示す比較例(すなわち溶接番号13)は、REMを含有しない溶接用ワイヤを第1電極で用いた例である。これに対して、REMを含有する溶接用ワイヤを第1電極で用いた発明例(すなわち溶接番号11,12)では、十分な溶込み深さが得られるので、溶接速度を増速できた。ただし溶接番号12は、第1電極と第2電極の電流比が0.65未満であるので、スラグ巻込みの溶接欠陥が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
サブマージアーク溶接の溶接速度の増速を達成でき、施工コストの低減に寄与するので、産業上格段の効果を奏する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の、または2本以上の電極で溶接を行なうサブマージアーク溶接方法において、希土類元素を0.01〜1質量%含有する溶接用ワイヤを第1電極で用い、前記電極の極性を直流正極性または交流とすることを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
前記溶接にて、CaOを30質量%以下含有するフラックスを使用することを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項3】
前記第1電極の溶接電流をI1(A)とし、第2電極の溶接電流をI2(A)として、電流比I2/I1を0.65以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接方法。


【公開番号】特開2010−221296(P2010−221296A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38235(P2010−38235)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】