サーマルヘッド制御装置
【課題】多値データに基づいてサーマルヘッドを駆動制御して穿孔径を制御するサーマルヘッド制御装置において、穿孔の不発やばらつきを抑制する。
【解決手段】孔版原紙に大穿孔を施す発熱体の発熱時間よりも大穿孔よりも小さい小穿孔を施す発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するとともに、大穿孔を施す発熱体の温度よりも小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御する。
【解決手段】孔版原紙に大穿孔を施す発熱体の発熱時間よりも大穿孔よりも小さい小穿孔を施す発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するとともに、大穿孔を施す発熱体の温度よりも小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版原紙に穿孔を施す発熱体が多数配列されたサーマルヘッドを駆動制御するサーマルヘッド制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スキャナやコンピュータなどから出力された画像データに基づいて多数の発熱体を発熱させることによって孔版原紙に穿孔を施し、製版を行なうサーマルヘッド装置が孔版印刷システムにおいて利用されている。
【0003】
そして、上記のような孔版印刷システムとしては、たとえば、二値データに基づいて孔版原紙に対して穿孔を施すものが提案されている。
【0004】
しかしながら、二値データに基づいて穿孔を施して孔版印刷を行った場合、たとえば、ベタ画像を印刷した場合には、図19の左上図に示すように(多値化しない場合)、ドットゲインによって重なり部分が多くなるため仕上がった印刷物は指定された色よりも暗い色に仕上がってしまう。また、孤立点が埋まってしまうというベタ埋まりの問題もある。さらに、写真画像を印刷した場合には、図19の中央左図に示すように、ドットゲインによってドット同志が結合するため細い線や滑らかな線などの表現性が乏しくなるという問題がある。なお、図19の下段は、写真画像の二値データに基づいて穿孔を施した場合の穿孔例を示すものである。
【0005】
そこで、多値データを用いて画素毎に穿孔径を制御して階調表現を可能としたものが提案されている。多値データを用いて穿孔径を制御するようにすれば、図19の右上図および中央右図に示すようにドットゲインを抑制することができるので、ベタ埋まりを改善することができるとともに、階調性や文字の滑らかさを向上することができる。
【0006】
そして、たとえば特許文献1においては、上述したように孔版原紙の穿孔径を制御する方法として、サーマルヘッドを構成する発熱体に供給される制御信号のパルス幅(発熱時間)や印加エネルギーを画素毎に制御する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−90748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、図20に示すように、小穿孔を穿孔する際、印加エネルギーを小さくする、または発熱時間を短くしているので、発熱体と孔版原紙との接触時間が短いため穿孔サイズのばらつきが大きくなり、穿孔不発率も高くなるという問題がある。
【0009】
また、大穿孔を穿孔した場合には、発熱時間が長いために、いわゆる引きずり現象によって穿孔サイズのばらつきが大きくなるという問題がある。なお、引きずり現象とは、孔版原紙を移動させながらサーマルヘッドによって穿孔を施す際、孔版原紙の移動によって孔版原紙における感熱位置がずれて穿孔位置がずれることをいう。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、穿孔の不発やばらつきを抑制し、印写濃度がリニアな関係となるサーマルヘッド制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のサーマルヘッド制御装置は、孔版原紙に穿孔を施す発熱体が多数配列されたサーマルヘッドと、サーマルヘッドを駆動制御する駆動制御部とを備えたサーマルヘッド制御装置において、駆動制御部が、孔版原紙に大穿孔を施す発熱体の発熱時間よりも大穿孔よりも小さい小穿孔を施す発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するものであるとともに、大穿孔を施す発熱体の温度よりも小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御するものであることを特徴とする。
【0012】
また、上記本発明のサーマルヘッド制御装置においては、駆動制御部を、小穿孔を施す発熱体の温度が孔版原紙の融点よりも低くなるように制御するものとできる。
【0013】
また、駆動制御部を、大穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーよりも小穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーの方が大きくなるように制御する。
【0014】
また、駆動制御部を、発熱体を駆動制御する信号としてパルス信号を出力するものであるとともに、小穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比の方を大穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比よりも小さくするものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサーマルヘッド制御装置によれば、孔版原紙に大穿孔を施す発熱体の発熱時間よりも大穿孔よりも小さい小穿孔を施す発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するとともに、大穿孔を施す発熱体の温度よりも小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御するようにしたので、小穿孔を穿孔する際、発熱体と孔版原紙との接触時間を長くすることができ、穿孔サイズのばらつきを小さくすることができるとともに、穿孔不発率を低くすることができる。また、大穿孔を穿孔する際には、発熱時間を短くすることができるので、いわゆる引きずり現象による穿孔サイズのばらつきを抑制することができる。
【0016】
また、本発明のサーマルヘッド制御装置において、小穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比の方を大穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比よりも小さくするようにした場合には、より簡易な構成によって各発熱体への印加パワー(発熱温度)の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のサーマルヘッド制御装置の一実施形態を用いた孔版印刷システムの概略構成図
【図2】図1に示す孔版印刷システムにおける製版部の構成を示す図
【図3】8階調の製版データに応じた制御信号の一例を示す図
【図4】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(小穿孔)した場合の発熱温度の変化と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示す図
【図5】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(小穿孔)した場合の穿孔状態および印刷結果と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の穿孔状態および印刷結果とを示す図
【図6】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(小穿孔)した場合の孔版原紙の状態と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙の状態とを示す図
【図7】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(大穿孔)した場合の発熱温度の変化と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示す図
【図8】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(大穿孔)した場合の穿孔状態および印刷結果と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の穿孔状態および印刷結果とを示す図
【図9】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(大穿孔)した場合の孔版原紙の状態と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙の状態とを示す図
【図10】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の不発率およびS.N.と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の不発率およびS.N.とを示すグラフ
【図11】図10に示すグラフを取得する際の条件の詳細を示す表
【図12】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ1〜3)
【図13】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ4〜6)
【図14】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ7)
【図15】従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ1〜3)
【図16】従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ4〜6)
【図17】従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ7)
【図18】本発明のサーマルヘッド制御装置の制御信号のその他の実施形態を示す図
【図19】従来技術を説明するための図
【図20】従来技術の穿孔径の制御方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明のサーマルヘッド制御装置の一実施形態を用いた孔版印刷システムについて詳細に説明する。図1は、本孔版印刷システムの概略構成図である。
【0019】
本孔版印刷システムは、図1に示すように、片面印刷用または両面印刷用の画像データを出力するコンピュータ1と、コンピュータ1から出力された画像データに基づいて、製版および孔版印刷を行う孔版印刷装置2とを備えている。本孔版印刷システムは、孔版印刷装置2におけるサーマルヘッドの駆動制御方法に特徴を有するものであるが、まずは、孔版印刷装置2の全体構成について説明する。
【0020】
孔版印刷装置2は、図1に示すように、原稿の画像を読み取って画像データを出力する画像読取部10、コンピュータ1から出力された画像データまたは画像読取部10で読み取られた画像データに基づいて、孔版原紙Mに製版処理を施す製版部30、製版部30において製版された孔版原紙Mを用いて印刷用紙P1に印刷を施す第1および第2の印刷部40,50、第1の印刷部40に印刷用紙P1を給紙する給紙部20、第1の印刷部40において片面印刷された印刷用紙P2を一旦ストックし、その後、所定のタイミングで第2の印刷部50に給紙する中間ストック部46と、第2の印刷部50によって両面印刷された印刷用紙P3が排出される排紙部70と、操作者による所定の設定入力を受け付ける操作パネル80とを備えている。
【0021】
画像読取部10は、原稿の画像情報を光電的に読み取るラインイメージセンサを有し、ラインイメージセンサで原稿を走査することによって原稿を読み取り、画像データを出力するものである。
【0022】
製版部30は、孔版原紙ロールから繰り出された孔版原紙Mに対し、サーマルヘッド31を用いて製版処理を行うものである。図2に、製版部30のより具体的な構成を示す。
【0023】
製版部30は、図2に示すように、上述したサーマルヘッド31と、孔版原紙Mを搬送する搬送装置3と、製版データを生成する画像処理部35と、画像処理部35において生成された製版データに基づいてサーマルヘッド31を駆動制御するサーマルヘッド駆動制御部36とを備えている。また、製版部30は、図1おいて矢印で示すように、第1の印刷40と第2の印刷部50との間を往復移動するものであり、第1の印刷ドラム41に巻着される孔版原紙Mと第2の印刷ドラム51に巻着される孔版原紙Mとの両方に製版処理を施すものである。
【0024】
サーマルヘッド31は、孔版原紙Mを感熱穿孔する発熱体が主走査方向(図中Y方向)に多数配列されたものである。
【0025】
画像処理部35は、画像読取部10やコンピュータ1から出力された画像データを受け付け、その受け付けた画像データに基づいて、2階調または8階調(0を含む)の製版データを生成してサーマルヘッド駆動制御部36に出力するものである。なお、本実施形態の孔版印刷システムは、2階調での孔版印刷と8階調での孔版印刷との両方を行うことができるものであり、操作者による選択指示に応じてこれらの一方の孔版印刷が選択され、実行される。
【0026】
サーマルヘッド駆動制御部36は、入力された2階調または8階調の製版データに基づいて、サーマルヘッド31の各発熱体に駆動制御信号を出力するものであるが、その駆動制御方法については、後で詳述する。
【0027】
搬送装置3は、孔版原紙Mを1走査ライン毎に副走査方向(図中X方向)に移動させるものであり、孔版原紙Mを搬送するプラテンローラ32と、このプラテンローラ32を回転駆動させる駆動モータ34と、駆動モータ34の回転駆動をプラテンローラ32に伝達するギア33とを備えている。具体的には、駆動モータ34は、ステッピングモータであり、ギア33は、1ステップ毎に1走査ライン分、孔版原紙Mを副走査方向に移動させるように、ギア比が設定されている。
【0028】
第1の印刷部40は、多孔金属板、メッシュ構造体などのインク通過性の円筒状の印刷ドラム41と、印刷用紙P1を所定のプレス圧で第1の印刷ドラム41に圧接させる第1のプレスローラ42と、第1の印刷ドラム41から片面印刷済印刷用紙P2を剥ぎ取る第1の剥取爪43とを備えている。
【0029】
第2の印刷部50は、第1の印刷部40と同様に、円筒状の第2の印刷ドラム51と、印刷用紙P2を所定のプレス圧で第2の印刷ドラム51に圧接させる第2のプレスローラ52と、第2の印刷ドラム51から両面印刷済印刷用紙P3を剥ぎ取る第2の剥取爪53とを備えている。
【0030】
給紙部20は、印刷用紙P1が載置される給紙台21と、給紙台21より印刷用紙P1を一枚ずつ取り出して2次給紙ローラ23に向けて送り出す1次給紙ローラ22と、1次給紙ローラ22の搬送方向下流側に配置され、1次給紙ローラ22により搬送された印刷用紙P1の先端を一旦停止させ、所定のタイミングで印刷用紙P1を第1の印刷ドラム41と第1のプレスローラ42との間に送り出す2次給紙ローラ23とを備えている。
【0031】
排紙部70は、両面印刷済印刷用紙P3を排紙台71まで搬送する排紙送りベルト部72と、排紙送りベルト部72により搬送された両面印刷済印刷用紙P3が積載される排紙台71とを備えている。
【0032】
また、第1の印刷部40と中間ストック部46との間には、湾曲搬送部44が設置されている。湾曲搬送部44は、図1に示すように、搬送経路に沿った湾曲表面を有するガイド板を備えている。ガイド板の湾曲表面には、第1の印刷部40から送り出された印刷用紙P1を吸引する吸引口が設けられた搬送ベルトが設置されている。そして、この搬送ベルトを循環移動させるプーリー45が設けられている。湾曲搬送部44は、搬送ベルトの吸引口によって片面印刷済印刷用紙P2を吸引するとともに、プーリー45を回転させることによって搬送ベルトにより片面印刷済印刷用紙P2をガイド板の湾曲表面に沿って搬送するものである。
【0033】
また、中間ストック部46と第2の印刷部50との間には、中間ストック部46から搬出された片面印刷済印刷用紙P2をピックアップするピックアップローラ47と、ピックアップローラ47によってピックアップされた片面印刷済印刷用紙P2を順次所定のタイミングで第2の印刷ドラム51と第2のプレスローラ52との間に送り出すタイミングローラ48とを備えている。
【0034】
また、操作パネル80は、製版および印刷開始指示などの指示入力を受け付けたり、所定の印刷条件の入力設定を受け付けたりするものである。そして、2階調で孔版印刷を行うか、8階調で孔版印刷を行うかの選択指示の入力を受け付けるものである。
【0035】
次に、本孔版印刷システムの作用について説明する。
【0036】
まず、操作パネル80において、操作者によって両面印刷を行うか片面印刷を行うかが選択されるとともに、2階調印刷を行うか8階調印刷を行うかが選択される。ここでは、まず、両面印刷および8階調印刷が選択された場合の作用について説明する。
【0037】
そして、画像読取部10で読み取られた画像データもしくはコンピュータ1において編集された両面印刷用の画像データが画像処理部35に入力され、画像処理部35において、入力された画像データに基づいて、8階調の製版データが生成されてサーマルヘッド駆動制御部36に出力される。
【0038】
一方、搬送装置3のプラテンローラ32によって孔版原紙Mが搬送され、サーマルヘッド31の発熱体の下に配置される。そして、搬送装置3によって孔版原紙Mが搬送されるとともに、サーマルヘッド駆動制御部36によってサーマルヘッド31の各発熱体が駆動されて1走査ライン毎の穿孔処理が行われる。
【0039】
ここで、本実施形態のサーマルヘッド駆動制御部36によるサーマルヘッド31の駆動制御方法について詳細に説明する。
【0040】
まず、サーマルヘッド駆動制御部36には上述したように8階調の製版データが入力されるが、サーマルヘッド駆動制御部36は、その8階調の製版データに応じて、各発熱体に供給される制御信号を切り替える。図3に、8階調の製版データに応じた制御信号を示す。
【0041】
具体的には、図3には、0データを含む8階調の製版データに応じた穿孔サイズ1〜7を黒丸印で示しており、その穿孔サイズ1〜7の穿孔を施すために用いられる制御信号をそれぞれ穿孔サイズの右横に示している。なお、図3においては、0データは示していない。そして、図3に示す制御信号は、1つの発熱体が1つの孔を穿孔するために用いられるものであり、制御信号がオフのときに発熱体がオンして発熱し、制御信号がオンのときには発熱体がオフして発熱しないものとする。
【0042】
そして、制御信号は、図3に示すように、穿孔サイズが小さいほど発熱時間が長くなるように設定されるとともに、穿孔サイズが小さいほどデューティ比(a/b)が小さくなるように設定される。ここで、本実施形態において発熱時間とは、発熱体が1つの孔を穿孔するのに要する発熱時間であり、図3に示すように、発熱体がオフしている時間も含むものとする。また、デューティ比とは、制御信号のオンオフの一周期の時間bに対するオフの時間aの割合のことをいう。そして、穿孔サイズが小さいほどデューティ比(a/b)が小さくなるように設定しているのは、穿孔サイズが小さいほど発熱体の発熱温度を低くするためである。なお、穿孔サイズ1〜2に対応する制御信号については、発熱体の発熱温度が孔版原紙Mの融点よりも低くなるようにデューティ比を設定することが望ましい。
【0043】
ここで、上述した制御信号によってサーマルヘッド31の発熱体を駆動制御して穿孔サイズを制御したときの作用と、従来のように発熱時間を制御することによって穿孔サイズを制御したときの作用について以下に説明する。
【0044】
まず、たとえば、図3に示す穿孔サイズ1などの小穿孔サイズの穿孔を施した場合の作用について説明する。図4は、条件1として本実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の発熱温度の変化と、条件2として従来のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示している。
【0045】
図4に示すように、条件1の場合には、発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇するが、最も高くなる温度が条件2の場合よりも低く、かつガラス転移温度よりも高くなるように発熱時間とデューティ比が設定される。これに対し、条件2の場合には、条件1よりも短い発熱時間に設定されており、発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇するが、最も高くなる温度が孔版原紙Mの融点になるように設定される。
【0046】
そして、条件1によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果と、条件2によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果とを図5に示す。
【0047】
図5の左上図は、条件1において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻Iの穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻IIの穿孔状態とを示している。なお、図5における上側が孔版原紙Mの移動方向であるとする。一方、図5の右上図は、条件2において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻I’の穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻II’の穿孔状態とを示している。
【0048】
ここで、図4と図5とを分析すると、条件2の場合には、発熱時間で穿孔サイズを制御しているため、短い発熱時間で孔版原紙の融点まで発熱体の温度を上げる必要があり、そのため結果として条件1よりも穿孔サイズが大きくなってしまう。具体的には、たとえば、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20ms、発熱時間を1msとすると、約2.1μmの引きずりを発生することになり、この引きずりの分だけ穿孔サイズが大きくなってしまう。なお、引きずりとは、孔版原紙の移動によって孔版原紙における感熱位置がずれて穿孔位置がずれることをいう。
【0049】
さらに、時刻I’から時刻II’までの時間の温度差が大きいため、すなわち穿孔が開くか開かないかの温度領域を短時間で制御するようにしているため発熱体の温度のばらつきによって、不発または穿孔サイズのばらつきが大きくなってしまう。そして、たとえ最も高くなる温度を低くしたとしても不発が増え、最も高くなる温度を高くしたとしても穿孔サイズのばらつきが大きくなってしまう。
【0050】
これに対し、条件1によれば、条件2の場合よりも低い温度で長い発熱時間で穿孔サイズを制御しているので、穿孔サイズを小さくすることができる。そして、たとえば、上述した条件2と同様に、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20msとし、発熱時間を3msとした場合、条件2の場合よりも大きい約6.3μmの引きずりを発生することになるが、上述したように穿孔サイズを小さくすることができるので引きずりによる影響を受けることがない。さらに、時刻Iから時刻IIまでの時間の温度差が小さいため、穿孔サイズのばらつきを小さくすることができる。また、発熱時間が長いため、短時間では開かない孔も開く可能性を高くすることができ、不発率を下げることができる。
【0051】
図6の左図は、条件1によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものであり、図6の右図は、条件2によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものである。図6の丸印で示すように、条件1の方が条件2よりも不発率が低くなっているのがわかる。なお、条件1の発熱時間は3.4msで発熱体への印加電圧は10.4V、条件2の発熱時間は0.94msで発熱体への印加電圧は12.25Vである。
【0052】
次に、たとえば、図3に示す穿孔サイズ7などの大穿孔サイズの穿孔を施した場合の作用について説明する。図7は、条件1として本実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の発熱温度の変化と、条件2として従来のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示している。
【0053】
図7に示すように、条件1の場合には、発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇し、最も高くなる温度が孔版原紙Mの融点よりも高くなるように設定されるが、発熱時間は従来よりも短くなるように設定されている。
【0054】
これに対し、条件2の場合には、条件1と同様に発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇し、最も高くなる温度が孔版原紙Mの融点よりも高くなるように設定されるが、発熱時間は条件1よりも長くなるように設定されている。
【0055】
そして、条件1によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果と、条件2によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果とを図8に示す。
【0056】
図8の左上図は、条件1において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻Iの穿孔状態と発熱体の温度が孔版原紙の融点に達したときの時刻IIの穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻IIIの穿孔状態とを示している。なお、図8における上側が孔版原紙Mの移動方向であるとする。
【0057】
一方、図8の右上図は、条件2において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻I’の穿孔状態と発熱体の温度が孔版原紙の融点に達したときの時刻II’の穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻III’の穿孔状態とを示している。
【0058】
ここで、図7と図8とを分析すると、条件2の場合には、発熱時間で穿孔サイズを制御しているため、長い発熱時間で穿孔を施すことになり、上述した引きずりの影響が大きくなり、穿孔サイズのばらつきが大きくなってしまう。具体的には、たとえば、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20ms、発熱時間を3msとすると、約6.3μmの引きずりを発生することになり、この引きずりの分だけ穿孔サイズが大きくなってしまう。
【0059】
これに対し、条件1によれば、条件2よりも発熱時間が短いので、引きずりによる影響を小さくすることができる。たとえば、上述した条件2と同様に、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20msとし、発熱時間を1msとした場合、引きずりは約2.1μmとなり、条件2よりも引きずりの影響を小さくすることができ、穿孔サイズのばらつきを小さくすることができる。
【0060】
図9の左図は、条件1によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものであり、図9の右図は、条件2によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものである。図9の丸印で示すように、条件1においては、ばらつきなく適切な穿孔サイズで穿孔が施されているが、条件2においては、引きずりによって穿孔サイズのばらつきが大きくなっているのがわかる。なお、条件1の発熱時間は1.12msで発熱体への印加電圧は15.45V、条件2の発熱時間は3msで発熱体への印加電圧は12.25Vである。
【0061】
また、図10は、条件1によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の不発率およびS.N.と、条件2によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の不発率およびS.N.とを示している。なお、S.N.とは穿孔サイズのばらつきを示す指標であり、S.N.が大きいほど穿孔サイズのばらつきが小さいことを意味する。
【0062】
図10に示すように、従来の条件2の場合には、小穿孔時において不発率が条件1の場合よりも大きくなっているのがわかる。また、条件2よりも条件1の方が各穿孔サイズにおいてS.N.が大きく、穿孔サイズのばらつきが小さいことがわかる。
【0063】
なお、図10に示すグラフを取得する際の条件1の詳細を図11に示す。図11には、各穿孔サイズを施す際の発熱時間、デューティ比および印加エネルギー(発熱エネルギー)を示している。印加エネルギー(発熱エネルギー)[mJ]とは、印加パワー[W/dot]×発熱時間[ms](オフ時間含まない)であり、印加パワーは0.55W/dot(電圧15.45V、発熱体の抵抗値4371Ω)とした。条件2については、印加パワーは0.0687W/dotとし、発熱時間は0.18ms〜0.38msとした。
【0064】
また、条件1によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の孔版原紙における穿孔状態を図12から図14に、条件2によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の孔版原紙における穿孔状態を図15から図17に示す。なお、図12から図14の右図は、左図の一部拡大図である。
【0065】
図12から図17に示すように、条件1の方が条件2よりも不発率および穿孔サイズのばらつきが小さく、かつ小穿孔でも安定した穿孔サイズで穿孔できていることがわかる。
【0066】
なお、上記実施形態の説明においては、制御信号のデューティ比を制御するとによって、各穿孔サイズにおける発熱温度を制御するようにしたが、これに限らず、各発熱体の印加パワーを制御して発熱温度を制御するようにしてもよい。その場合の各穿孔サイズにおける印加パワー、発熱時間および制御信号を図18に示す。図18に示すように、この場合も上記実施形態と同様に、穿孔サイズが小さいほど発熱時間(制御信号のオフ時間)が長くなるように設定され、穿孔サイズが小さいほど印加パワーが小さくなるように設定される。なお、図18に示す場合においても、印加エネルギーは、穿孔サイズが小さいほど大きくなるように設定される。
【0067】
そして、表面用の製版データと裏面用の製版データとに基づいて、上述したようにサーマルヘッド駆動制御部36によってサーマルヘッド31が駆動制御されて製版処理が行われ、表面用の版と裏面用の版とが形成され、表面用の版は第1の印刷ドラム41に巻着され、裏面用の版は第2の印刷ドラム51に巻着され、印刷動作が実行される。
【0068】
具体的には、インク供給ポンプ(図示省略)により第1および第2の印刷ドラム41,51の内側にインクが供給され、第1および第2の印刷ドラム41,51が回転駆動される。そして、第1および第2の印刷ドラム41,51の回転に同期して所定のタイミングにて印刷用紙P1が1次給紙ローラ22によって給紙台21から繰り出され、一旦2次給紙ローラ23に当接してたるみを形成した後、所定のタイミングで2次給紙ローラ23により図1における左から右へ搬送され、第1の印刷ドラム41と第1のプレスローラ42との間に供給される。そして、第1の印刷ドラム41の外周面に巻き付けられている製版済孔版原紙Mに対し、印刷用紙P1が第1のプレスローラ42によって圧接されることにより印刷用紙P1に対して片面の孔版印刷が行われる。
【0069】
そして、第1の印刷ドラム41が所定の角度だけ回転して印刷用紙P1への片面の孔版印刷が終了すると、その片面印刷済印刷用紙P2は剥取爪43により第1の印刷ドラム41から剥ぎ取られ、その剥ぎ取られた片面印刷済印刷用紙P2は、湾曲搬送部44によって中間ストック部46に搬送される。
【0070】
片面印刷済印刷用紙P2は、中間ストック部46に一旦ストックされた後、印刷面が下側に向けられた状態(印刷されていない面が上側)で中間ストック部46から排出され、ピックアップローラ47によってピックアップされ、一旦タイミングローラ48に当接してたるみを形成した後、所定のタイミングでタイミングローラ48によって第2の印刷ドラム51と第2のプレスローラ52との間に供給される。
【0071】
そして、第2の印刷ドラム51の外周面に巻き付けられている製版済孔版原紙Mに対し、片面印刷済印刷用紙P2の未印刷面が第2のプレスローラ52によって圧接されることにより片面印刷済印刷用紙P2の未印刷面に対して孔版印刷が行われる。
【0072】
そして、第2の印刷ドラム51が所定の角度だけ回転して片面印刷済印刷用紙P2の未印刷面への孔版印刷が終了すると、その両面印刷済印刷用紙P3は剥取爪53により第2の印刷ドラム51から剥ぎ取られ、その剥ぎ取られた両面印刷済印刷用紙P3は、排紙送りベルト部72により排紙台71まで搬送され、排紙台71に積載される。
【0073】
そして、再び給紙台21から印刷用紙P1が繰り出され、上記と同様にして印刷用紙P1に対して両面孔版印刷が行われる。
【0074】
以上、ここまで両面印刷および8階調印刷を行う際の作用について説明したが、次に、両面印刷および2階調印刷を行う場合の作用について説明する。
【0075】
両面印刷および2階調印刷を行う場合には、操作パネル80において、操作者によって両面印刷および2階調印刷が選択される。
【0076】
そして、画像読取部10で読み取られた画像データもしくはコンピュータ1において編集された両面印刷用の画像データが画像処理部35に入力され、画像処理部35において、入力された画像データに基づいて、2階調の製版データが生成されてサーマルヘッド駆動制御部36に出力される。
【0077】
一方、搬送装置3によって孔版原紙Mが搬送されるとともに、サーマルヘッド駆動制御部36によってサーマルヘッド31の各発熱体が駆動されて1走査ライン毎の穿孔処理が行われる。
【0078】
サーマルヘッド駆動制御部36には2階調の製版データが入力され、サーマルヘッド駆動制御部36は、その2階調の製版データに応じて、各発熱体に供給される制御信号を切り替える。
【0079】
ここで、2階調の製版データに対応する制御信号は、0データに対応するオンデータと1データに対応するオフデータのみとなるが、このオフデータとしては、上述した8階調の印刷の場合における穿孔サイズ7に対応する制御信号が用いられる。
【0080】
そして、その制御信号に基づいて1走査ライン毎に穿孔処理が施されるが、2階調印刷の場合は印字周期(所定の走査ラインの発熱開始から次の走査ラインの発熱開始までの時間)が8階調印刷の印字周期よりも短くなるように設定される。たとえば、8階調印刷の印字周期を20msとすると2階調の印字周期は2msに設定される。
【0081】
そして、8階調印刷の場合と同様に、表面用の版と裏面の版とがそれぞれ形成され、第1の印刷ドラム41と第2の印刷ドラム51とにそれぞれ巻着された後、両面の孔版印刷が開始される。両面の孔版印刷の作用については、上述した8階調印刷の場合と同様である。
【0082】
以上、8階調および2階調の両面印刷について説明したが、8階調および2階調の片面印刷は、操作パネル80において、操作者によって片面印刷が選択されることによって行われるが、その製版処理については片面のみ行うこと以外は両面印刷の場合と同様である。そして、片面印刷については、第1の印刷ドラム41または第2の印刷ドラム51を用いて行われることになる。
【0083】
また、上記実施形態の孔版印刷システムにおいては、両面印刷における製版処理と片面印刷における製版処理とを同様に行うようにしたが、これに限らず、たとえば、両面印刷の場合の方が片面印刷の場合よりも穿孔面積が小さくなるようにしてもよい。すなわち、両面印刷において穿孔を形成するための発熱時間の方が、片面印刷において穿孔を形成するための発熱時間よりも長くするとともに、両面印刷において穿孔を形成するための印加パワーの方が、片面印刷において穿孔を形成するための印加パワーよりも小さくするようにしてもよい。これは両面印刷においてはインクの裏抜けなどが生じるためである。
【0084】
また、操作パネル80において、通常インキモードと省インキモードとを選択可能にしてもよい。そして、操作パネル80において省インキモードが選択された場合には、通常インキモードの場合よりも同じ製版データに対する穿孔面積が小さくなるようにしてもよい。
【0085】
また、環境温度を検出する温度センサなどをさらに設け、その温度センサによって検出された環境温度に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。具体的には、環境温度が高いほど発熱時間を短くするようにしてもよい。
【0086】
また、画像処理部35において受け付けられた画像データまたはその画像データに基づいて生成された製版データに基づいて印字率を算出し、その印字率に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。具体的には、印字率が高い方が発熱時間を短くするようにしてもよい。
【0087】
また、画像処理部35において受け付けられた画像データまたはその画像データに基づいて生成された製版データに基づいて、サーマルヘッド31の各発熱体の制御信号に対して熱履歴制御をさらに加えるようにしてもよい。
【0088】
また、孔版原紙ロールの孔版原紙の残量を取得し、その残量に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。具体的には、孔版原紙ロールの孔版原紙の残量が少ないほど発熱時間を長くするようにしてもよい。
【0089】
また、孔版原紙ロールの孔版原紙の種類を検出し、その孔版原紙の種類に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。なお、孔版原紙ロールの種類情報については、たとえば、操作パネル80やコンピュータ1において入力された種類情報を受け付けるようにしてもよいし、孔版原紙ロールに設けられたタグなどの記憶手段に記憶された種類情報を読み出すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 コンピュータ
2 孔版印刷装置
30 製版部
31 サーマルヘッド
32 プラテンローラ
35 画像処理部
36 サーマルヘッド駆動制御部
41 第1の印刷ドラム
51 第2の印刷ドラム
80 操作パネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版原紙に穿孔を施す発熱体が多数配列されたサーマルヘッドを駆動制御するサーマルヘッド制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スキャナやコンピュータなどから出力された画像データに基づいて多数の発熱体を発熱させることによって孔版原紙に穿孔を施し、製版を行なうサーマルヘッド装置が孔版印刷システムにおいて利用されている。
【0003】
そして、上記のような孔版印刷システムとしては、たとえば、二値データに基づいて孔版原紙に対して穿孔を施すものが提案されている。
【0004】
しかしながら、二値データに基づいて穿孔を施して孔版印刷を行った場合、たとえば、ベタ画像を印刷した場合には、図19の左上図に示すように(多値化しない場合)、ドットゲインによって重なり部分が多くなるため仕上がった印刷物は指定された色よりも暗い色に仕上がってしまう。また、孤立点が埋まってしまうというベタ埋まりの問題もある。さらに、写真画像を印刷した場合には、図19の中央左図に示すように、ドットゲインによってドット同志が結合するため細い線や滑らかな線などの表現性が乏しくなるという問題がある。なお、図19の下段は、写真画像の二値データに基づいて穿孔を施した場合の穿孔例を示すものである。
【0005】
そこで、多値データを用いて画素毎に穿孔径を制御して階調表現を可能としたものが提案されている。多値データを用いて穿孔径を制御するようにすれば、図19の右上図および中央右図に示すようにドットゲインを抑制することができるので、ベタ埋まりを改善することができるとともに、階調性や文字の滑らかさを向上することができる。
【0006】
そして、たとえば特許文献1においては、上述したように孔版原紙の穿孔径を制御する方法として、サーマルヘッドを構成する発熱体に供給される制御信号のパルス幅(発熱時間)や印加エネルギーを画素毎に制御する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−90748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、図20に示すように、小穿孔を穿孔する際、印加エネルギーを小さくする、または発熱時間を短くしているので、発熱体と孔版原紙との接触時間が短いため穿孔サイズのばらつきが大きくなり、穿孔不発率も高くなるという問題がある。
【0009】
また、大穿孔を穿孔した場合には、発熱時間が長いために、いわゆる引きずり現象によって穿孔サイズのばらつきが大きくなるという問題がある。なお、引きずり現象とは、孔版原紙を移動させながらサーマルヘッドによって穿孔を施す際、孔版原紙の移動によって孔版原紙における感熱位置がずれて穿孔位置がずれることをいう。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、穿孔の不発やばらつきを抑制し、印写濃度がリニアな関係となるサーマルヘッド制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のサーマルヘッド制御装置は、孔版原紙に穿孔を施す発熱体が多数配列されたサーマルヘッドと、サーマルヘッドを駆動制御する駆動制御部とを備えたサーマルヘッド制御装置において、駆動制御部が、孔版原紙に大穿孔を施す発熱体の発熱時間よりも大穿孔よりも小さい小穿孔を施す発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するものであるとともに、大穿孔を施す発熱体の温度よりも小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御するものであることを特徴とする。
【0012】
また、上記本発明のサーマルヘッド制御装置においては、駆動制御部を、小穿孔を施す発熱体の温度が孔版原紙の融点よりも低くなるように制御するものとできる。
【0013】
また、駆動制御部を、大穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーよりも小穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーの方が大きくなるように制御する。
【0014】
また、駆動制御部を、発熱体を駆動制御する信号としてパルス信号を出力するものであるとともに、小穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比の方を大穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比よりも小さくするものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサーマルヘッド制御装置によれば、孔版原紙に大穿孔を施す発熱体の発熱時間よりも大穿孔よりも小さい小穿孔を施す発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するとともに、大穿孔を施す発熱体の温度よりも小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御するようにしたので、小穿孔を穿孔する際、発熱体と孔版原紙との接触時間を長くすることができ、穿孔サイズのばらつきを小さくすることができるとともに、穿孔不発率を低くすることができる。また、大穿孔を穿孔する際には、発熱時間を短くすることができるので、いわゆる引きずり現象による穿孔サイズのばらつきを抑制することができる。
【0016】
また、本発明のサーマルヘッド制御装置において、小穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比の方を大穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比よりも小さくするようにした場合には、より簡易な構成によって各発熱体への印加パワー(発熱温度)の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のサーマルヘッド制御装置の一実施形態を用いた孔版印刷システムの概略構成図
【図2】図1に示す孔版印刷システムにおける製版部の構成を示す図
【図3】8階調の製版データに応じた制御信号の一例を示す図
【図4】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(小穿孔)した場合の発熱温度の変化と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示す図
【図5】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(小穿孔)した場合の穿孔状態および印刷結果と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の穿孔状態および印刷結果とを示す図
【図6】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(小穿孔)した場合の孔版原紙の状態と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙の状態とを示す図
【図7】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(大穿孔)した場合の発熱温度の変化と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示す図
【図8】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(大穿孔)した場合の穿孔状態および印刷結果と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の穿孔状態および印刷結果とを示す図
【図9】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御(大穿孔)した場合の孔版原紙の状態と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙の状態とを示す図
【図10】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の不発率およびS.N.と、従来技術のように発熱時間を制御した場合の不発率およびS.N.とを示すグラフ
【図11】図10に示すグラフを取得する際の条件の詳細を示す表
【図12】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ1〜3)
【図13】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ4〜6)
【図14】本発明の一実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ7)
【図15】従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ1〜3)
【図16】従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ4〜6)
【図17】従来技術のように発熱時間を制御した場合の孔版原紙における穿孔状態(穿孔サイズ7)
【図18】本発明のサーマルヘッド制御装置の制御信号のその他の実施形態を示す図
【図19】従来技術を説明するための図
【図20】従来技術の穿孔径の制御方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明のサーマルヘッド制御装置の一実施形態を用いた孔版印刷システムについて詳細に説明する。図1は、本孔版印刷システムの概略構成図である。
【0019】
本孔版印刷システムは、図1に示すように、片面印刷用または両面印刷用の画像データを出力するコンピュータ1と、コンピュータ1から出力された画像データに基づいて、製版および孔版印刷を行う孔版印刷装置2とを備えている。本孔版印刷システムは、孔版印刷装置2におけるサーマルヘッドの駆動制御方法に特徴を有するものであるが、まずは、孔版印刷装置2の全体構成について説明する。
【0020】
孔版印刷装置2は、図1に示すように、原稿の画像を読み取って画像データを出力する画像読取部10、コンピュータ1から出力された画像データまたは画像読取部10で読み取られた画像データに基づいて、孔版原紙Mに製版処理を施す製版部30、製版部30において製版された孔版原紙Mを用いて印刷用紙P1に印刷を施す第1および第2の印刷部40,50、第1の印刷部40に印刷用紙P1を給紙する給紙部20、第1の印刷部40において片面印刷された印刷用紙P2を一旦ストックし、その後、所定のタイミングで第2の印刷部50に給紙する中間ストック部46と、第2の印刷部50によって両面印刷された印刷用紙P3が排出される排紙部70と、操作者による所定の設定入力を受け付ける操作パネル80とを備えている。
【0021】
画像読取部10は、原稿の画像情報を光電的に読み取るラインイメージセンサを有し、ラインイメージセンサで原稿を走査することによって原稿を読み取り、画像データを出力するものである。
【0022】
製版部30は、孔版原紙ロールから繰り出された孔版原紙Mに対し、サーマルヘッド31を用いて製版処理を行うものである。図2に、製版部30のより具体的な構成を示す。
【0023】
製版部30は、図2に示すように、上述したサーマルヘッド31と、孔版原紙Mを搬送する搬送装置3と、製版データを生成する画像処理部35と、画像処理部35において生成された製版データに基づいてサーマルヘッド31を駆動制御するサーマルヘッド駆動制御部36とを備えている。また、製版部30は、図1おいて矢印で示すように、第1の印刷40と第2の印刷部50との間を往復移動するものであり、第1の印刷ドラム41に巻着される孔版原紙Mと第2の印刷ドラム51に巻着される孔版原紙Mとの両方に製版処理を施すものである。
【0024】
サーマルヘッド31は、孔版原紙Mを感熱穿孔する発熱体が主走査方向(図中Y方向)に多数配列されたものである。
【0025】
画像処理部35は、画像読取部10やコンピュータ1から出力された画像データを受け付け、その受け付けた画像データに基づいて、2階調または8階調(0を含む)の製版データを生成してサーマルヘッド駆動制御部36に出力するものである。なお、本実施形態の孔版印刷システムは、2階調での孔版印刷と8階調での孔版印刷との両方を行うことができるものであり、操作者による選択指示に応じてこれらの一方の孔版印刷が選択され、実行される。
【0026】
サーマルヘッド駆動制御部36は、入力された2階調または8階調の製版データに基づいて、サーマルヘッド31の各発熱体に駆動制御信号を出力するものであるが、その駆動制御方法については、後で詳述する。
【0027】
搬送装置3は、孔版原紙Mを1走査ライン毎に副走査方向(図中X方向)に移動させるものであり、孔版原紙Mを搬送するプラテンローラ32と、このプラテンローラ32を回転駆動させる駆動モータ34と、駆動モータ34の回転駆動をプラテンローラ32に伝達するギア33とを備えている。具体的には、駆動モータ34は、ステッピングモータであり、ギア33は、1ステップ毎に1走査ライン分、孔版原紙Mを副走査方向に移動させるように、ギア比が設定されている。
【0028】
第1の印刷部40は、多孔金属板、メッシュ構造体などのインク通過性の円筒状の印刷ドラム41と、印刷用紙P1を所定のプレス圧で第1の印刷ドラム41に圧接させる第1のプレスローラ42と、第1の印刷ドラム41から片面印刷済印刷用紙P2を剥ぎ取る第1の剥取爪43とを備えている。
【0029】
第2の印刷部50は、第1の印刷部40と同様に、円筒状の第2の印刷ドラム51と、印刷用紙P2を所定のプレス圧で第2の印刷ドラム51に圧接させる第2のプレスローラ52と、第2の印刷ドラム51から両面印刷済印刷用紙P3を剥ぎ取る第2の剥取爪53とを備えている。
【0030】
給紙部20は、印刷用紙P1が載置される給紙台21と、給紙台21より印刷用紙P1を一枚ずつ取り出して2次給紙ローラ23に向けて送り出す1次給紙ローラ22と、1次給紙ローラ22の搬送方向下流側に配置され、1次給紙ローラ22により搬送された印刷用紙P1の先端を一旦停止させ、所定のタイミングで印刷用紙P1を第1の印刷ドラム41と第1のプレスローラ42との間に送り出す2次給紙ローラ23とを備えている。
【0031】
排紙部70は、両面印刷済印刷用紙P3を排紙台71まで搬送する排紙送りベルト部72と、排紙送りベルト部72により搬送された両面印刷済印刷用紙P3が積載される排紙台71とを備えている。
【0032】
また、第1の印刷部40と中間ストック部46との間には、湾曲搬送部44が設置されている。湾曲搬送部44は、図1に示すように、搬送経路に沿った湾曲表面を有するガイド板を備えている。ガイド板の湾曲表面には、第1の印刷部40から送り出された印刷用紙P1を吸引する吸引口が設けられた搬送ベルトが設置されている。そして、この搬送ベルトを循環移動させるプーリー45が設けられている。湾曲搬送部44は、搬送ベルトの吸引口によって片面印刷済印刷用紙P2を吸引するとともに、プーリー45を回転させることによって搬送ベルトにより片面印刷済印刷用紙P2をガイド板の湾曲表面に沿って搬送するものである。
【0033】
また、中間ストック部46と第2の印刷部50との間には、中間ストック部46から搬出された片面印刷済印刷用紙P2をピックアップするピックアップローラ47と、ピックアップローラ47によってピックアップされた片面印刷済印刷用紙P2を順次所定のタイミングで第2の印刷ドラム51と第2のプレスローラ52との間に送り出すタイミングローラ48とを備えている。
【0034】
また、操作パネル80は、製版および印刷開始指示などの指示入力を受け付けたり、所定の印刷条件の入力設定を受け付けたりするものである。そして、2階調で孔版印刷を行うか、8階調で孔版印刷を行うかの選択指示の入力を受け付けるものである。
【0035】
次に、本孔版印刷システムの作用について説明する。
【0036】
まず、操作パネル80において、操作者によって両面印刷を行うか片面印刷を行うかが選択されるとともに、2階調印刷を行うか8階調印刷を行うかが選択される。ここでは、まず、両面印刷および8階調印刷が選択された場合の作用について説明する。
【0037】
そして、画像読取部10で読み取られた画像データもしくはコンピュータ1において編集された両面印刷用の画像データが画像処理部35に入力され、画像処理部35において、入力された画像データに基づいて、8階調の製版データが生成されてサーマルヘッド駆動制御部36に出力される。
【0038】
一方、搬送装置3のプラテンローラ32によって孔版原紙Mが搬送され、サーマルヘッド31の発熱体の下に配置される。そして、搬送装置3によって孔版原紙Mが搬送されるとともに、サーマルヘッド駆動制御部36によってサーマルヘッド31の各発熱体が駆動されて1走査ライン毎の穿孔処理が行われる。
【0039】
ここで、本実施形態のサーマルヘッド駆動制御部36によるサーマルヘッド31の駆動制御方法について詳細に説明する。
【0040】
まず、サーマルヘッド駆動制御部36には上述したように8階調の製版データが入力されるが、サーマルヘッド駆動制御部36は、その8階調の製版データに応じて、各発熱体に供給される制御信号を切り替える。図3に、8階調の製版データに応じた制御信号を示す。
【0041】
具体的には、図3には、0データを含む8階調の製版データに応じた穿孔サイズ1〜7を黒丸印で示しており、その穿孔サイズ1〜7の穿孔を施すために用いられる制御信号をそれぞれ穿孔サイズの右横に示している。なお、図3においては、0データは示していない。そして、図3に示す制御信号は、1つの発熱体が1つの孔を穿孔するために用いられるものであり、制御信号がオフのときに発熱体がオンして発熱し、制御信号がオンのときには発熱体がオフして発熱しないものとする。
【0042】
そして、制御信号は、図3に示すように、穿孔サイズが小さいほど発熱時間が長くなるように設定されるとともに、穿孔サイズが小さいほどデューティ比(a/b)が小さくなるように設定される。ここで、本実施形態において発熱時間とは、発熱体が1つの孔を穿孔するのに要する発熱時間であり、図3に示すように、発熱体がオフしている時間も含むものとする。また、デューティ比とは、制御信号のオンオフの一周期の時間bに対するオフの時間aの割合のことをいう。そして、穿孔サイズが小さいほどデューティ比(a/b)が小さくなるように設定しているのは、穿孔サイズが小さいほど発熱体の発熱温度を低くするためである。なお、穿孔サイズ1〜2に対応する制御信号については、発熱体の発熱温度が孔版原紙Mの融点よりも低くなるようにデューティ比を設定することが望ましい。
【0043】
ここで、上述した制御信号によってサーマルヘッド31の発熱体を駆動制御して穿孔サイズを制御したときの作用と、従来のように発熱時間を制御することによって穿孔サイズを制御したときの作用について以下に説明する。
【0044】
まず、たとえば、図3に示す穿孔サイズ1などの小穿孔サイズの穿孔を施した場合の作用について説明する。図4は、条件1として本実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の発熱温度の変化と、条件2として従来のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示している。
【0045】
図4に示すように、条件1の場合には、発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇するが、最も高くなる温度が条件2の場合よりも低く、かつガラス転移温度よりも高くなるように発熱時間とデューティ比が設定される。これに対し、条件2の場合には、条件1よりも短い発熱時間に設定されており、発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇するが、最も高くなる温度が孔版原紙Mの融点になるように設定される。
【0046】
そして、条件1によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果と、条件2によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果とを図5に示す。
【0047】
図5の左上図は、条件1において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻Iの穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻IIの穿孔状態とを示している。なお、図5における上側が孔版原紙Mの移動方向であるとする。一方、図5の右上図は、条件2において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻I’の穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻II’の穿孔状態とを示している。
【0048】
ここで、図4と図5とを分析すると、条件2の場合には、発熱時間で穿孔サイズを制御しているため、短い発熱時間で孔版原紙の融点まで発熱体の温度を上げる必要があり、そのため結果として条件1よりも穿孔サイズが大きくなってしまう。具体的には、たとえば、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20ms、発熱時間を1msとすると、約2.1μmの引きずりを発生することになり、この引きずりの分だけ穿孔サイズが大きくなってしまう。なお、引きずりとは、孔版原紙の移動によって孔版原紙における感熱位置がずれて穿孔位置がずれることをいう。
【0049】
さらに、時刻I’から時刻II’までの時間の温度差が大きいため、すなわち穿孔が開くか開かないかの温度領域を短時間で制御するようにしているため発熱体の温度のばらつきによって、不発または穿孔サイズのばらつきが大きくなってしまう。そして、たとえ最も高くなる温度を低くしたとしても不発が増え、最も高くなる温度を高くしたとしても穿孔サイズのばらつきが大きくなってしまう。
【0050】
これに対し、条件1によれば、条件2の場合よりも低い温度で長い発熱時間で穿孔サイズを制御しているので、穿孔サイズを小さくすることができる。そして、たとえば、上述した条件2と同様に、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20msとし、発熱時間を3msとした場合、条件2の場合よりも大きい約6.3μmの引きずりを発生することになるが、上述したように穿孔サイズを小さくすることができるので引きずりによる影響を受けることがない。さらに、時刻Iから時刻IIまでの時間の温度差が小さいため、穿孔サイズのばらつきを小さくすることができる。また、発熱時間が長いため、短時間では開かない孔も開く可能性を高くすることができ、不発率を下げることができる。
【0051】
図6の左図は、条件1によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものであり、図6の右図は、条件2によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものである。図6の丸印で示すように、条件1の方が条件2よりも不発率が低くなっているのがわかる。なお、条件1の発熱時間は3.4msで発熱体への印加電圧は10.4V、条件2の発熱時間は0.94msで発熱体への印加電圧は12.25Vである。
【0052】
次に、たとえば、図3に示す穿孔サイズ7などの大穿孔サイズの穿孔を施した場合の作用について説明する。図7は、条件1として本実施形態の制御信号によって発熱体を駆動制御した場合の発熱温度の変化と、条件2として従来のように発熱時間を制御した場合の発熱温度の変化とを示している。
【0053】
図7に示すように、条件1の場合には、発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇し、最も高くなる温度が孔版原紙Mの融点よりも高くなるように設定されるが、発熱時間は従来よりも短くなるように設定されている。
【0054】
これに対し、条件2の場合には、条件1と同様に発熱体の温度は時間とともに徐々に上昇し、最も高くなる温度が孔版原紙Mの融点よりも高くなるように設定されるが、発熱時間は条件1よりも長くなるように設定されている。
【0055】
そして、条件1によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果と、条件2によって発熱体が温度変化したときの孔版原紙における穿孔過程およびその穿孔による印刷結果とを図8に示す。
【0056】
図8の左上図は、条件1において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻Iの穿孔状態と発熱体の温度が孔版原紙の融点に達したときの時刻IIの穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻IIIの穿孔状態とを示している。なお、図8における上側が孔版原紙Mの移動方向であるとする。
【0057】
一方、図8の右上図は、条件2において発熱体の温度がガラス転移点に達したときの時刻I’の穿孔状態と発熱体の温度が孔版原紙の融点に達したときの時刻II’の穿孔状態と発熱体の温度が最も高くなったときの時刻III’の穿孔状態とを示している。
【0058】
ここで、図7と図8とを分析すると、条件2の場合には、発熱時間で穿孔サイズを制御しているため、長い発熱時間で穿孔を施すことになり、上述した引きずりの影響が大きくなり、穿孔サイズのばらつきが大きくなってしまう。具体的には、たとえば、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20ms、発熱時間を3msとすると、約6.3μmの引きずりを発生することになり、この引きずりの分だけ穿孔サイズが大きくなってしまう。
【0059】
これに対し、条件1によれば、条件2よりも発熱時間が短いので、引きずりによる影響を小さくすることができる。たとえば、上述した条件2と同様に、印字間隔を600dpi(42.3μm)、印字周期を20msとし、発熱時間を1msとした場合、引きずりは約2.1μmとなり、条件2よりも引きずりの影響を小さくすることができ、穿孔サイズのばらつきを小さくすることができる。
【0060】
図9の左図は、条件1によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものであり、図9の右図は、条件2によって穿孔を施した場合の孔版原紙の状態を示すものである。図9の丸印で示すように、条件1においては、ばらつきなく適切な穿孔サイズで穿孔が施されているが、条件2においては、引きずりによって穿孔サイズのばらつきが大きくなっているのがわかる。なお、条件1の発熱時間は1.12msで発熱体への印加電圧は15.45V、条件2の発熱時間は3msで発熱体への印加電圧は12.25Vである。
【0061】
また、図10は、条件1によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の不発率およびS.N.と、条件2によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の不発率およびS.N.とを示している。なお、S.N.とは穿孔サイズのばらつきを示す指標であり、S.N.が大きいほど穿孔サイズのばらつきが小さいことを意味する。
【0062】
図10に示すように、従来の条件2の場合には、小穿孔時において不発率が条件1の場合よりも大きくなっているのがわかる。また、条件2よりも条件1の方が各穿孔サイズにおいてS.N.が大きく、穿孔サイズのばらつきが小さいことがわかる。
【0063】
なお、図10に示すグラフを取得する際の条件1の詳細を図11に示す。図11には、各穿孔サイズを施す際の発熱時間、デューティ比および印加エネルギー(発熱エネルギー)を示している。印加エネルギー(発熱エネルギー)[mJ]とは、印加パワー[W/dot]×発熱時間[ms](オフ時間含まない)であり、印加パワーは0.55W/dot(電圧15.45V、発熱体の抵抗値4371Ω)とした。条件2については、印加パワーは0.0687W/dotとし、発熱時間は0.18ms〜0.38msとした。
【0064】
また、条件1によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の孔版原紙における穿孔状態を図12から図14に、条件2によって穿孔サイズ1〜7の穿孔を施した場合の孔版原紙における穿孔状態を図15から図17に示す。なお、図12から図14の右図は、左図の一部拡大図である。
【0065】
図12から図17に示すように、条件1の方が条件2よりも不発率および穿孔サイズのばらつきが小さく、かつ小穿孔でも安定した穿孔サイズで穿孔できていることがわかる。
【0066】
なお、上記実施形態の説明においては、制御信号のデューティ比を制御するとによって、各穿孔サイズにおける発熱温度を制御するようにしたが、これに限らず、各発熱体の印加パワーを制御して発熱温度を制御するようにしてもよい。その場合の各穿孔サイズにおける印加パワー、発熱時間および制御信号を図18に示す。図18に示すように、この場合も上記実施形態と同様に、穿孔サイズが小さいほど発熱時間(制御信号のオフ時間)が長くなるように設定され、穿孔サイズが小さいほど印加パワーが小さくなるように設定される。なお、図18に示す場合においても、印加エネルギーは、穿孔サイズが小さいほど大きくなるように設定される。
【0067】
そして、表面用の製版データと裏面用の製版データとに基づいて、上述したようにサーマルヘッド駆動制御部36によってサーマルヘッド31が駆動制御されて製版処理が行われ、表面用の版と裏面用の版とが形成され、表面用の版は第1の印刷ドラム41に巻着され、裏面用の版は第2の印刷ドラム51に巻着され、印刷動作が実行される。
【0068】
具体的には、インク供給ポンプ(図示省略)により第1および第2の印刷ドラム41,51の内側にインクが供給され、第1および第2の印刷ドラム41,51が回転駆動される。そして、第1および第2の印刷ドラム41,51の回転に同期して所定のタイミングにて印刷用紙P1が1次給紙ローラ22によって給紙台21から繰り出され、一旦2次給紙ローラ23に当接してたるみを形成した後、所定のタイミングで2次給紙ローラ23により図1における左から右へ搬送され、第1の印刷ドラム41と第1のプレスローラ42との間に供給される。そして、第1の印刷ドラム41の外周面に巻き付けられている製版済孔版原紙Mに対し、印刷用紙P1が第1のプレスローラ42によって圧接されることにより印刷用紙P1に対して片面の孔版印刷が行われる。
【0069】
そして、第1の印刷ドラム41が所定の角度だけ回転して印刷用紙P1への片面の孔版印刷が終了すると、その片面印刷済印刷用紙P2は剥取爪43により第1の印刷ドラム41から剥ぎ取られ、その剥ぎ取られた片面印刷済印刷用紙P2は、湾曲搬送部44によって中間ストック部46に搬送される。
【0070】
片面印刷済印刷用紙P2は、中間ストック部46に一旦ストックされた後、印刷面が下側に向けられた状態(印刷されていない面が上側)で中間ストック部46から排出され、ピックアップローラ47によってピックアップされ、一旦タイミングローラ48に当接してたるみを形成した後、所定のタイミングでタイミングローラ48によって第2の印刷ドラム51と第2のプレスローラ52との間に供給される。
【0071】
そして、第2の印刷ドラム51の外周面に巻き付けられている製版済孔版原紙Mに対し、片面印刷済印刷用紙P2の未印刷面が第2のプレスローラ52によって圧接されることにより片面印刷済印刷用紙P2の未印刷面に対して孔版印刷が行われる。
【0072】
そして、第2の印刷ドラム51が所定の角度だけ回転して片面印刷済印刷用紙P2の未印刷面への孔版印刷が終了すると、その両面印刷済印刷用紙P3は剥取爪53により第2の印刷ドラム51から剥ぎ取られ、その剥ぎ取られた両面印刷済印刷用紙P3は、排紙送りベルト部72により排紙台71まで搬送され、排紙台71に積載される。
【0073】
そして、再び給紙台21から印刷用紙P1が繰り出され、上記と同様にして印刷用紙P1に対して両面孔版印刷が行われる。
【0074】
以上、ここまで両面印刷および8階調印刷を行う際の作用について説明したが、次に、両面印刷および2階調印刷を行う場合の作用について説明する。
【0075】
両面印刷および2階調印刷を行う場合には、操作パネル80において、操作者によって両面印刷および2階調印刷が選択される。
【0076】
そして、画像読取部10で読み取られた画像データもしくはコンピュータ1において編集された両面印刷用の画像データが画像処理部35に入力され、画像処理部35において、入力された画像データに基づいて、2階調の製版データが生成されてサーマルヘッド駆動制御部36に出力される。
【0077】
一方、搬送装置3によって孔版原紙Mが搬送されるとともに、サーマルヘッド駆動制御部36によってサーマルヘッド31の各発熱体が駆動されて1走査ライン毎の穿孔処理が行われる。
【0078】
サーマルヘッド駆動制御部36には2階調の製版データが入力され、サーマルヘッド駆動制御部36は、その2階調の製版データに応じて、各発熱体に供給される制御信号を切り替える。
【0079】
ここで、2階調の製版データに対応する制御信号は、0データに対応するオンデータと1データに対応するオフデータのみとなるが、このオフデータとしては、上述した8階調の印刷の場合における穿孔サイズ7に対応する制御信号が用いられる。
【0080】
そして、その制御信号に基づいて1走査ライン毎に穿孔処理が施されるが、2階調印刷の場合は印字周期(所定の走査ラインの発熱開始から次の走査ラインの発熱開始までの時間)が8階調印刷の印字周期よりも短くなるように設定される。たとえば、8階調印刷の印字周期を20msとすると2階調の印字周期は2msに設定される。
【0081】
そして、8階調印刷の場合と同様に、表面用の版と裏面の版とがそれぞれ形成され、第1の印刷ドラム41と第2の印刷ドラム51とにそれぞれ巻着された後、両面の孔版印刷が開始される。両面の孔版印刷の作用については、上述した8階調印刷の場合と同様である。
【0082】
以上、8階調および2階調の両面印刷について説明したが、8階調および2階調の片面印刷は、操作パネル80において、操作者によって片面印刷が選択されることによって行われるが、その製版処理については片面のみ行うこと以外は両面印刷の場合と同様である。そして、片面印刷については、第1の印刷ドラム41または第2の印刷ドラム51を用いて行われることになる。
【0083】
また、上記実施形態の孔版印刷システムにおいては、両面印刷における製版処理と片面印刷における製版処理とを同様に行うようにしたが、これに限らず、たとえば、両面印刷の場合の方が片面印刷の場合よりも穿孔面積が小さくなるようにしてもよい。すなわち、両面印刷において穿孔を形成するための発熱時間の方が、片面印刷において穿孔を形成するための発熱時間よりも長くするとともに、両面印刷において穿孔を形成するための印加パワーの方が、片面印刷において穿孔を形成するための印加パワーよりも小さくするようにしてもよい。これは両面印刷においてはインクの裏抜けなどが生じるためである。
【0084】
また、操作パネル80において、通常インキモードと省インキモードとを選択可能にしてもよい。そして、操作パネル80において省インキモードが選択された場合には、通常インキモードの場合よりも同じ製版データに対する穿孔面積が小さくなるようにしてもよい。
【0085】
また、環境温度を検出する温度センサなどをさらに設け、その温度センサによって検出された環境温度に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。具体的には、環境温度が高いほど発熱時間を短くするようにしてもよい。
【0086】
また、画像処理部35において受け付けられた画像データまたはその画像データに基づいて生成された製版データに基づいて印字率を算出し、その印字率に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。具体的には、印字率が高い方が発熱時間を短くするようにしてもよい。
【0087】
また、画像処理部35において受け付けられた画像データまたはその画像データに基づいて生成された製版データに基づいて、サーマルヘッド31の各発熱体の制御信号に対して熱履歴制御をさらに加えるようにしてもよい。
【0088】
また、孔版原紙ロールの孔版原紙の残量を取得し、その残量に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。具体的には、孔版原紙ロールの孔版原紙の残量が少ないほど発熱時間を長くするようにしてもよい。
【0089】
また、孔版原紙ロールの孔版原紙の種類を検出し、その孔版原紙の種類に基づいて発熱時間を制御するようにしてもよい。なお、孔版原紙ロールの種類情報については、たとえば、操作パネル80やコンピュータ1において入力された種類情報を受け付けるようにしてもよいし、孔版原紙ロールに設けられたタグなどの記憶手段に記憶された種類情報を読み出すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 コンピュータ
2 孔版印刷装置
30 製版部
31 サーマルヘッド
32 プラテンローラ
35 画像処理部
36 サーマルヘッド駆動制御部
41 第1の印刷ドラム
51 第2の印刷ドラム
80 操作パネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔版原紙に穿孔を施す発熱体が多数配列されたサーマルヘッドと、該サーマルヘッドを駆動制御する駆動制御部とを備えたサーマルヘッド制御装置において、
前記駆動制御部が、前記孔版原紙に大穿孔を施す前記発熱体の発熱時間よりも前記大穿孔よりも小さい小穿孔を施す前記発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するものであるとともに、
前記大穿孔を施す発熱体の温度よりも前記小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御するものであることを特徴とするサーマルヘッド制御装置。
【請求項2】
前記駆動制御部が、前記小穿孔を施す発熱体の温度が前記孔版原紙の融点よりも低くなるように制御するものであることを特徴とする請求項1記載のサーマルヘッド制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御部が、前記大穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーよりも前記小穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーの方が大きくなるように制御するものであることを特徴とする請求項1または2記載のサーマルヘッド制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御部が、前記発熱体を駆動制御する信号としてパルス信号を出力するものであるとともに、
前記小穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比の方を前記大穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比よりも小さくするものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のサーマルヘッド制御装置。
【請求項1】
孔版原紙に穿孔を施す発熱体が多数配列されたサーマルヘッドと、該サーマルヘッドを駆動制御する駆動制御部とを備えたサーマルヘッド制御装置において、
前記駆動制御部が、前記孔版原紙に大穿孔を施す前記発熱体の発熱時間よりも前記大穿孔よりも小さい小穿孔を施す前記発熱体の発熱時間の方が長くなるように制御するものであるとともに、
前記大穿孔を施す発熱体の温度よりも前記小穿孔を施す発熱体の温度の方が低くなるように制御するものであることを特徴とするサーマルヘッド制御装置。
【請求項2】
前記駆動制御部が、前記小穿孔を施す発熱体の温度が前記孔版原紙の融点よりも低くなるように制御するものであることを特徴とする請求項1記載のサーマルヘッド制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御部が、前記大穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーよりも前記小穿孔を施す発熱体の発熱エネルギーの方が大きくなるように制御するものであることを特徴とする請求項1または2記載のサーマルヘッド制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御部が、前記発熱体を駆動制御する信号としてパルス信号を出力するものであるとともに、
前記小穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比の方を前記大穿孔を施す発熱体に供給されるパルス信号のデューティ比よりも小さくするものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のサーマルヘッド制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図18】
【図20】
【図6】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図18】
【図20】
【図6】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【公開番号】特開2011−110729(P2011−110729A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266928(P2009−266928)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【復代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【復代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
【Fターム(参考)】
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